説明

シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物

【課題】本発明の目的は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油により引き起こされるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変形を抑制できるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を提供することである。
【解決手段】(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有するシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、更に(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油により生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変形を抑制することができる、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に関する。また本発明は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油により生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変形を抑制する方法に関する。また本発明は、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのクロルヘキシジン類及び/又はシクロデキストリン類の吸着を抑制する方法、並びに、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油により増大されるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンタクトレンズ(CL)の装用者が増えており、中でもソフトコンタクトレンズ(SCL)の装用者が増えている。一般的に、ソフトコンタクトレンズを装用した場合には、大気からの酸素供給量が低下し、その結果として角膜上皮細胞の分裂抑制や角膜肥厚につながる場合があることが指摘されている。そのため、より高い酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズの開発が進められてきた。
【0003】
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、そのような背景の下、高酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズとして近年開発されてきたものである。シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、ハイドロゲルにシリコーンを配合することにより、従来のハイドロゲルコンタクトレンズの数倍の酸素透過性を実現する。そのため、ソフトコンタクトレンズの弱点である酸素供給不足を改善することができ、酸素不足に伴う角膜に対する悪影響を大幅に抑制できるものとして、大きく期待されている。
【0004】
一般に、コンタクトレンズに使用される眼科組成物については、コンタクトレンズの種類に応じて、安全性等の影響を十分に考慮して設計することが不可欠である。特に、ソフトコンタクトレンズは、素材によってイオン性の有無や含水率の高低等が種々異なるため、ソフトコンタクトレンズに使用される眼科組成物は、対象となるソフトコンタクトレンズの特性に応じて製剤設計を行うことが肝要である。
【0005】
また、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの表面には、通常のハイドロゲルコンタクトレンズの表面には見られない顕著な凹凸が存在することが近年報告されている(非特許文献1)。このような顕著な凹凸は、滑らかな表面を有するものに比べて生体由来物質や汚れ等を付着させ易いだけでなく、摩擦の増大を生じさせることも予想され、とりわけ過敏な眼組織では、装用中に異物感や乾燥感などの不快感を引き起こすことも十分に考えられる。
【0006】
一方、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、難溶性薬物を溶解させるための溶解補助剤等として、これまでにも眼科組成物に使用されている(特許文献1〜2参照)。しかしながら、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油がシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに与える影響についてはこれまで一切報告されていない。
【0007】
また、クロルヘキシジン類は、使用中の微生物汚染を防止するための防腐剤として、これまでにも眼科組成物に使用されている(特許文献3)。また、シクロデキストリン類も、溶解補助剤等としてこれまで眼科組成物に使用されている(特許文献4)。しかしながら、これまでにクロルヘキシジン類又はシクロデキストリン類とポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを併用した場合の影響については一切知られておらず、ましてや、それらの併用がシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対して及ぼす影響については全く推認すらできないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−35489号公報
【特許文献2】特開2004−359629号公報
【特許文献3】特開平10−203960号公報
【特許文献4】特開昭62−190121号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】針谷明美等、第51回日本コンタクトレンズ学会総会プログラム講演抄録集、110頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者等は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有する眼科組成物について種々の検討を行っていたところ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有した眼科組成物を、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(以下、SHCLと略記することもある)と接触させた場合には、非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと接触させた場合には認められないレンズの著しい膨張が生じ、レンズを大きく変形させてしまうという全く新しい知見を得た。このようにレンズが膨張して変形すると、該レンズを眼に装着した場合に使用感の悪化を生じさせる原因となり得る。とりわけ、SHCLは、他のソフトコンタクトレンズに比べて材質が硬いため、レンズの変形による使用感の悪化を感じさせ易い傾向がある。また、コンタクトレンズの形状の変化は、該コンタクトレンズの視力矯正力にも悪影響を及ぼすことが懸念される。
【0011】
そこで、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油により引き起こされるSHCLの変形を効果的に抑制する手法の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有するSHCL用眼科組成物に、更に(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種を配合することにより、上記(A)成分と接触することによって引き起こされるSHCLの変形を効果的に抑制することができることを見出した。更に、本発明者等は検討を進め、SHCLには上記(B)成分(特に、クロルヘキシジン類)が吸着し易いものの、上記(A)成分を併用することによって、この吸着を効果的に抑制できることをも見出した。また、本発明者等は、上記(A)成分と共に、上記(B)成分(特に、クロルヘキシジン類)とを組み合わせて用いることにより、上記(A)成分の接触により引き起こされるSHCL表面の摩擦増大を効果的に抑制できることをも見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記に掲げる、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を提供する。
項1-1.(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-2.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが非イオン性である、項1-1に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-3.(B)成分として、クロルヘキシジン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1又は1-2に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-4.(B)成分として、グルコン酸クロルヘキシジンを含む、項1-1乃至1-3のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-5.(B)成分として、シクロデキストリン、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1乃至1-4のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-6.(B)成分として、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、及びγ−シクロデキストリンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1乃至1-5のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-7.(A)成分として、酸化エチレンの平均付加モル数が5〜100であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含む、項1-1乃至1-6のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-8.(A)成分の配合割合が、組成物の総量に対して、0.001w/v%以上である、項1-1乃至1-7のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-9.(B)成分の配合割合が、組成物の総量に対して、0.0001w/v%以上である、項1-1乃至1-8のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-10.更に(C)等張化剤を含有する、項1-1乃至1-9のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-11.(C)成分として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-10に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-12.更に(D)緩衝剤を含有する、項1-1乃至1-11のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【0014】
また、本発明は、下記に掲げる、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油によるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変形を抑制する方法を提供する。
項2-1. (A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種とを併用することを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変形を抑制する方法。
項2-2. (A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種とを含む眼科組成物に、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを接触させることを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変形を抑制する方法。
【0015】
また、本発明は、下記に掲げる、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変形を抑制する作用を眼科組成物に付与する方法を提供する。
項3. (A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有するシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変形を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法。
【0016】
また、本発明は、下記に掲げる、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油によるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変形を抑制するための剤を提供する。
項4. (B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を接触させることにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変形を抑制するための剤。
【0017】
また、本発明は、下記に掲げる、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのクロルヘキシジン類及び/又はシクロデキストリン類の吸着を抑制する方法を提供する。
項5-1. (B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種と、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを併用することを特徴とする、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの該(B)成分の吸着を抑制する方法。
項5-2. (A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種とを含む眼科組成物に、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを接触させることを特徴とする、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの該(B)成分の吸着を抑制する方法。
【0018】
また、本発明は、下記に掲げる、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのクロルヘキシジン類及び/又はシクロデキストリン類の吸着を抑制する作用を眼科組成物に付与する方法を提供する。
項6. (B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種を含有するシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を配合することを特徴とする、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの該(B)成分の吸着を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法。
【0019】
また、本発明は、下記に掲げる、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのクロルヘキシジン類及び/又はシクロデキストリン類の吸着を抑制するための剤を提供する。
項7. (A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有する、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種の吸着を抑制するための剤。
【0020】
また、本発明は、下記に掲げるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油により増大されるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減する方法を提供する。
項8-1. (A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種とを併用することを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより増大されるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させる方法。
項8-2. (A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種とを含む眼科組成物に、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを接触させることを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより増大されるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させる方法。
【0021】
また、本発明は、下記に掲げるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦低減作用を眼科組成物に付与する方法を提供する。
項9. (A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有するシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより増大されるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減する作用を該眼科組成物に付与する方法。
【0022】
また、本発明は、下記に掲げるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を接触させることにより増大されるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させるための剤を提供する。
項10.(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を接触させることにより増大されるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させるための剤。
【0023】
更に、本発明は、下記に掲げる使用をも提供する。
項11-1. (A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油並びに(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種の、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物の製造のための使用。
項11-2. (A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する組成物の、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物の製造のための使用。
項11-3. (B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種の、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を接触させることにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変形を抑制するための剤の製造のための使用。
項11-4. (A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種の吸着を抑制するための剤の製造のための使用。
項11-5.(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種の、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を接触させることにより増大されるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させるための剤の製造のための使用。
【発明の効果】
【0024】
SHCLは、材質が比較的硬く、ごく僅かなレンズの変形であっても使用感が悪化し易い傾向がある。これに対して、本発明のSHCL用眼科組成物によれば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が配合されているにもかかわらず、該ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油によって引き起こされるSHCLの変形を効果的に抑制できるので、使用感を損ねることなくSHCLを装用することが可能になる。
【0025】
また、SHCLの装用時には眼粘膜は障害が起きても自覚し難いことが知られているため、変形した状態のSHCLを長期間装用すると、重症になるまで放置してしまう恐れがある。これに対して、本発明のSHCL用眼科組成物によれば、SHCLの変形を抑制できるので、高い安全性をもってSHCLを長期間装用すること(例えば、長期間連続装用すること)が可能になる。更に、本発明によれば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が配合されたSHCL用眼科組成物でありながら、SHCLの変形を抑制できるので、該レンズ本来の視力矯正力を維持した状態でSHCLを使用することを可能にする。
【0026】
また本発明によれば、クロルヘキシジン類及び/又はシクロデキストリン類がSHCLに吸着するのを効果的に抑制することができる。コンタクトレンズに対して眼科組成物に配合された成分が多量に吸着すると、吸着した成分がレンズに留まることによる影響が懸念されるほか、コンタクトレンズの濡れ性低下や変色、光透過率の減少等を生じさせる惧れがある。然るに、本発明によれば、SHCLへの前記成分の吸着が効果的に抑制できるので、これらの成分を含んでいながらコンタクトレンズの濡れ性低下や変色等の惧れも無く、より快適に使用され得るSHCL用眼科組成物を提供することが可能になる。
【0027】
更に、本発明者等は、各種ソフトコンタクトレンズの表面の摩擦について評価を行ったところ、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、通常のハイドロゲルコンタクトレンズに比べて著しく摩擦が大きいことを確認した。更に、SHCLに対してポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を適用すると、摩擦が更に増大してしまうことも見出した。こうした摩擦の増大は、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用時に不快感(異物感や乾燥感など)や目の疲れ等を引き起こす原因となり得る。さらに、摩擦の大きなコンタクトレンズは、眼瞼の裏側の粘膜とコンタクトレンズ表面とが擦れあう際に、又は眼球表面上でコンタクトレンズが動くたびに、角結膜に上皮障害を引き起こす惧れもある。これに対して、本発明によれば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、クロルヘキシジン類及び/又はシクロデキストリン類を併用することによって、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含んでいながら、該ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油により引き起こされるSHCL表面の摩擦増大が顕著に抑制されたSHCL用眼科組成物を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】参考試験例1において、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油により生じる各種ソフトコンタクトレンズのサイズ変化量を測定した結果を示す図である。
【図2】試験例1において、処方液(実施例1及び比較例1−3)によるSHCLのサイズ変化量を測定した結果を示す図である。
【図3】試験例2において、処方液(実施例2−3及び比較例6−7)によるSHCLのサイズ変化量を測定した結果を示す図である。
【図4】試験例3において、処方液(実施例4及び比較例8)によるSHCLのサイズ変化量を測定した結果を示す図である。
【図5】試験例5において、処方液(実施例7−9及び比較例11−13)によるSHCLのサイズ変化量を測定した結果を示す図である。
【図6】試験例6において、処方液(実施例10−12及び比較例14−16)によるSHCLのサイズ変化量を測定した結果を示す図である。
【図7】試験例7において、処方液(実施例13−14及び比較例17−18)によるSHCLのサイズ変化量を測定した結果を示す図である。
【図8】試験例8において、処方液(実施例15及び比較例19)によるSHCLのサイズ変化量を測定した結果を示す図である。
【図9】試験例9において、処方液(実施例16及び比較例20)によるSHCLのサイズ変化量を測定した結果を示す図である。
【図10】試験例10において、処方液(実施例17及び比較例21)によるSHCLのサイズ変化量を測定した結果を示す図である。
【図11】試験例11において、処方液(実施例18及び比較例22)を用いた場合における、SHCLへのグルコン酸クロルヘキシジンの吸着量を測定した結果を示す図である。
【図12】参考試験例2において、各種ソフトコンタクトレンズの摩擦(剛体振り子物性試験により測定される対数減衰率)を評価した結果を示す図である。
【図13】試験例12において、処方液(実施例19及び比較例23−25)がSHCLに及ぼす摩擦の軽減効果を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書において、配合成分の配合割合の単位「w/v%」は、g/100mLを意味する。
1.SHCL用眼科組成物
本発明のSHCL用眼科組成物は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(以下、単に(A)成分と表記することもある)を含有する。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、ヒマシ油の二重結合に水素を添加した硬化ヒマシ油に酸化エチレンを付加重合して得られる化合物である。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、溶解補助剤や可溶化剤等として公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく、市販品として入手することもできる。
【0030】
本発明で使用されるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されず、酸化エチレンの平均付加モル数も特に制限されない。しかし一般的には、本発明に使用されるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の酸化エチレンの平均付加モル数は5〜100であり、好ましくは20〜100であり、より好ましくは40〜80である。本発明に用いられ得るポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、特に制限されるものではないが、例えば、POE(5)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油5ともいう)、POE(10)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10ともいう)、POE(20)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20ともいう)、POE(30)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油30ともいう)、POE(40)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40ともいう)、POE(50)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50ともいう)、POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60ともいう)、POE(80)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油80ともいう)、POE(100)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油100ともいう)等が挙げられる。これらの中でも、より確実に本発明の所望の効果を高く獲得するという観点から、POE(60)硬化ヒマシ油及びPOE(40)硬化ヒマシ油、特にPOE(60)硬化ヒマシ油が好適なものとして例示される。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、及び括弧内の数字は平均付加モル数を示す。
【0031】
本発明のSHCL用眼科組成物における上記(A)成分の配合割合は、該SHCL用眼科組成物の用途や製剤形態等に応じて適宜設定されるが、通常、該SHCL用眼科組成物の総量に対して、(A)成分が総量で、0.001w/v%以上、好ましくは0.005〜2w/v%、更に好ましくは0.01〜1w/v%、特に好ましくは0.01〜0.5w/v%、最も好ましくは0.01〜0.3w/v%が例示される。
【0032】
更に、本発明のSHCL用眼科組成物は、クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に(B)成分と表記することもある)を含有する。このように(B)成分を含むことによって、前記(A)成分により引き起こされるSHCLの変形を抑制でき、安全性が高くレンズの視力矯正力にも悪影響を及ぼさないSHCL用眼科組成物を提供することが可能になる。
【0033】
上記(B)成分として使用されるクロルヘキシジン類には、クロルヘキシジン及びその塩が含まれる。クロルヘキシジンは、1,1’−ヘキサメチレンビス[5−(4−クロロフェニル)ビグアニド]とも称される化合物である。クロルヘキシジン及びその塩は、防腐剤として公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく、市販品として入手することもできる。
【0034】
本発明で使用される上記クロルヘキシジン類の内、クロルヘキシジンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(グルコン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)等]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは有機酸塩及び/又は無機酸塩、より好ましくはオキシカルボン酸塩、モノカルボン酸塩及び/又は無機酸塩、更に好ましくはグルコン酸塩、酢酸塩及び/又は塩酸塩、特に好ましくはグルコン酸塩が挙げられる。これらのクロルヘキシジンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0035】
本発明のSHCL用眼科組成物において、(B)成分としてクロルヘキシジン類を用いる場合には、クロルヘキシジン及びその塩の中から、1種を選択し単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのクロルヘキシジン類の中でも、(A)成分により引き起こされるSHCLの変形をより効果的に抑制するという観点から、好ましくはクロルヘキシジンの塩、より好ましくはクロルヘキシジンの有機酸塩及び/又は無機酸塩、更に好ましくはクロルヘキシジンのオキシカルボン酸塩、モノカルボン酸塩及び/又は無機酸塩、より更に好ましくはクロルヘキシジンのグルコン酸塩、酢酸塩及び/又は塩酸塩、特に好ましくはクロルヘキシジンのグルコン酸塩が例示される。ここで例示するクロルヘキシジン類は、(A)成分によるSHCL吸着抑制効果をより一層有効に獲得できる、或いは(A)成分を接触させることにより増大されるSHCLの摩擦をより一層有効に低減できるという観点からも好適である。
【0036】
また、上記(B)成分として使用されるシクロデキストリン類には、シクロデキストリン、その誘導体、及びそれらの塩が含まれる。シクロデキストリンは、D−グルコースがα1→4結合で環状構造を形成したものであり、α−シクロデキストリン(重合度6)、β−シクロデキストリン(重合度7)、γ−シクロデキストリン(重合度8)等が知られている。シクロデキストリンの誘導体としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、例えば、シクロデキストリンの水酸基の水素原子が、ヒドロキシル基で置換されていてもよいアルキル基(好ましくは炭素数1〜3)、又はマルトシル基等で置換された化合物が挙げられる。より具体的には、シクロデキストリンの誘導体として、メチル化シクロデキストリン(ジメチル−α−シクロデキストリン、トリメチル−α−シクロデキストリン、ジメチル−β−シクロデキストリン、トリメチル−β−シクロデキストリン等)、ヒドロキシエチル化シクロデキストリン(2−ヒドロキシエチル−α−シクロデキストリン、2−ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン等)、ヒドロキシプロピル化シクロデキストリン(2−ヒドロキシプロピル−α−シクロデキストリン、3−ヒドロキシプロピル−α−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、3−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン等)、マルトシル化シクロデキストリン(マルトシル−α−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリン等)等が例示される。シクロデキストリン及びその誘導体は、溶解補助剤等として公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく、市販品として入手することもできる。これらのシクロデキストリン及びその誘導体は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0037】
シクロデキストリン及びその誘導体の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(グルコン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)等]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらのシクロデキストリン及びその誘導体の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0038】
本発明のSHCL用眼科組成物において、(B)成分としてシクロデキストリン類を用いる場合には、シクロデキストリン、その誘導体、及びそれらの塩の中から、1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。これらのシクロデキストリン類の中でも、(A)成分により引き起こされるSHCLの変形をより効果的に抑制するという観点から、好ましくはシクロデキストリン、更に好ましくは、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、特に好ましくはα−シクロデキストリンが例示される。ここで例示するシクロデキストリン類は、(A)成分によるSHCL吸着抑制効果をより一層有効に獲得できる、或いは(A)成分を接触させることにより増大されるSHCLの摩擦をより一層有効に低減できるという観点からも好適である。
【0039】
本発明のSHCL用眼科組成物において、上記(B)成分は、クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類の中から、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
本発明のSHCL用眼科組成物における上記(B)成分の配合割合は、(B)成分の種類、該SHCL用眼科組成物の用途や製剤形態等に応じて適宜設定されるが、通常、該SHCL用眼科組成物の総量に対して、(B)成分が総量で、0.0001w/v%以上、好ましくは0.0001〜1w/v%、更に好ましくは0.0005〜0.5w/v%が例示される。また、(A)成分により引き起こされるSHCLの変形に対する抑制効果を格段顕著に奏させるとの観点から、上記(B)成分の種類毎の配合割合として、以下の範囲が例示される。
(B)成分がクロルヘキシジン類の場合:好ましくは0.0001〜0.1w/v%、より好ましくは0.0005〜0.01w/v%。
(B)成分がシクロデキストリン類の場合:好ましくは0.0001〜1w/v%、より好ましくは0.001〜0.5w/v%。
【0041】
上記(B)成分の配合割合が、このような範囲を充足することによって、(A)成分により引き起こされるSHCLの変形を一層有効に抑制することが可能になる。ここで例示する(B)成分の配合割合は、(A)成分によるSHCL吸着抑制効果をより一層有効に獲得できる、或いは(A)成分を接触させることにより増大されるSHCLの摩擦をより一層有効に低減できるという観点からも好適である。
【0042】
本発明のSHCL用眼科組成物における上記(A)成分及び(B)成分の比率は、これら両成分の各配合割合に応じて適宜設定されるが、上記(A)成分の総量100重量部に対して、上記(B)成分が総量で0.005〜20000重量部、好ましくは0.05〜5000重量部、更に好ましくは0.1〜2000重量部となる比率が例示される。また、(A)成分により引き起こされるSHCLの変形に対する抑制効果を格段顕著に奏させるとの観点から、上記(B)成分の種類毎の配合比率として、以下の範囲が例示される。
(B)成分がクロルヘキシジン類の場合:上記(A)成分の総量100重量部に対して、該(B)成分が総量で、好ましくは0.005〜2000重量部、より好ましくは0.05〜100重量部、更に好ましくは0.1〜50重量部。
【0043】
(B)成分がシクロデキストリン類の場合:上記(A)成分の総量100重量部に対して、該(B)成分が総量で、好ましくは0.005〜20000重量部、より好ましくは0.1〜5000重量部、更に好ましくは1〜2000重量部。
【0044】
本発明のSHCL用眼科組成物は、更に等張化剤を含有していてもよい。本発明のSHCL用眼科組成物に配合できる等張化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる等張化剤の具体例として、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。これらの等張化剤の中でも、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、及びプロピレングリコールは好適であり、塩化カリウム、塩化ナトリウム、及びプロピレングリコールは特に好適である。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0045】
本発明のSHCL用眼科組成物に等張化剤を配合する場合、該等張化剤の配合割合については、使用する等張化剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該SHCL用眼科組成物の総量に対して、該等張化剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜2w/v%となる割合が例示される。
【0046】
本発明のSHCL用眼科組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明のSHCL用眼科組成物のpHの一例として、4.0〜9.5、好ましくは5.0〜8.5、より好ましくは、5.5〜8.0、更に好ましくは6.0〜8.0となる範囲が挙げられる。
【0047】
本発明のSHCL用眼科組成物は、更に緩衝剤を含有することが好ましい。本発明のSHCL用眼科組成物に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤であり、より好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤及びリン酸緩衝剤である。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸、ホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸、リン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸、炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸、クエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上 を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0048】
上記緩衝剤の中でも、とりわけホウ酸緩衝剤は好適である。ホウ酸緩衝剤の好適な具体例として、ホウ酸とその塩の組み合わせ;好ましくはホウ酸と、ホウ酸のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の組み合わせ;更に好ましくはホウ酸と、ホウ酸のアルカリ金属塩の組み合わせ;特に好ましくはホウ酸とホウ砂の組み合わせが例示される。
【0049】
また、本発明ではリン酸緩衝剤も好適に用いることができる。リン酸緩衝剤の好適な具体例として、第一リン酸塩と第二リン酸塩の組合せ;好ましくは第一リン酸のアルカリ金属塩と第二リン酸のアルカリ金属塩の組合せ;更に好ましくはリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムの組合せが例示される。
【0050】
本発明のSHCL用眼科組成物に緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や量、該SHCL用眼科組成物の用途等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該SHCL用眼科組成物の総量に対して、該緩衝剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.1〜5w/v%、更に好ましくは0.2〜3w/v%となる割合が例示される。
【0051】
本発明のSHCL用眼科組成物は、更に、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油以外の他の界面活性剤を含有してもよい。本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な他の界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0052】
本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。また、本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン等が例示される。また、本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、α−オレフィンスルホン酸等が例示される。本発明のSHCL用眼科組成物において、上記のような他の界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
本発明のSHCL用眼科組成物に上記のように他の界面活性剤を配合する場合、該界面活性剤の配合割合については、該界面活性剤の種類、他の配合成分の種類や量、該SHCL用眼科組成物の用途等に応じて適宜設定できる。上記のような他の界面活性剤の配合割合の一例として、SHCL用眼科組成物の総量に対して、該界面活性剤が総量で、0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.005〜0.5w/v%、更に好ましくは0.01〜0.3w/v%が例示される。
【0054】
本発明のSHCL用眼科組成物は、必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧比に調節することができる。適切な浸透圧比は適用部位、剤型等により異なるが、通常0.7〜5.0、更に好ましくは0.9〜3.0、特に好ましくは1.0〜2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき、286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧)に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0055】
本発明のSHCL用眼科組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。具体的には、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、フマル酸ケトチフェン等。
充血除去剤:テトラヒドロゾリン、ナファゾリン、エピネフリン、エフェドリン、メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、アクリノール、セチルピリジニウム、ベンザルコニウム、ベンゼトニウム、ポリヘキサメチレンビグアニド等。
ビタミン類:フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、酢酸トコフェロール等。
アミノ酸類:アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸等。
消炎剤:例えば、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、プラノプロフェン、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、アラントイン、トラネキサム酸、ε−アミノカプロン酸、ベルベリン、リゾチーム、甘草、アズレンスルホン酸等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、クロモグリク酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、インドメタシン、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、ブフェキサマク、フルフェナム酸ブチル、ベンダザック、ピロキシカム、ケトプロフェン、フェルビナク、紫根、セイヨウトチノキ、及びこれらの塩等。
【0056】
また、本発明のSHCL用眼科組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
増粘剤:例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、コンドロイチン硫酸ナトリウム等。
糖類:例えば、グルコース等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
キレート剤:アスコルビン酸、エデト酸四ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸等。
香料又は清涼化剤:メントール、アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、リモネン、リュウノウ等。これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよく、また精油(ハッカ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油等)として配合してもよい。
【0057】
本発明のSHCL用眼科組成物は、所望量の上記(A)成分及び(B)成分、必要に応じて他の配合成分を所望の濃度となるように添加することにより調製される。
【0058】
本発明のSHCL用眼科組成物は、目的に応じて種々の製剤形態をとることができる。例えば、本発明のSHCL用眼科組成物の形態として、液剤、半固形剤(軟膏等)等が挙げられる。好ましくは液剤であり、より好ましくは水性液剤である。ここで水性液剤とは、水を含有する液剤を意味し、通常は、組成物中に水を1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上含有するものを意味する。水性液剤に含有される水は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであればよい。例えば、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等を使用できる。これらの定義は第一五改正日本薬局方に基づく。
【0059】
本発明のSHCL用眼科組成物は、眼科分野で用いられるものであってSHCLに接触するように使用されるものであれば、その形態や用途については制限されない。例えば、SHCL用点眼剤(SHCLを装着したまま使用可能な点眼剤)、SHCL用洗眼剤(SHCLを装着したまま使用可能な洗眼剤)、SHCL装着液、SHCLケア用液剤(SHCL消毒液、SHCL保存液、SHCL洗浄液、及びSHCL洗浄保存液等)等を挙げることができる。これらの中でも、SHCL用点眼剤及びSHCLケア用液剤は、1日当たりの使用頻度が高い、或いは1回当たりのSHCLとの接触時間が長い製剤であり、上記(A)成分によるレンズの変形や摩擦増大を最も生じさせやすかったり、或いはSHCLへの上記(B)成分の吸着を最も生じさせやすい形態で使用される傾向がある。本発明のSHCL用眼科組成物によれば、このように使用頻度や接触時間の観点から上記(A)成分によるレンズの変形や摩擦増大、或いは上記(B)成分の吸着を生じさせやすい傾向があるSHCL用点眼剤やSHCLケア用液剤においても、(A)成分によるレンズの変形や摩擦増大を有効に抑制させることができ、或いはSHCLへの上記(B)成分の吸着を有効に抑制することができる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明のSHCL用眼科組成物の好適な一例として、SHCL用点眼剤及びSHCLケア用液剤が挙げられる。
【0060】
また、本発明のSHCL用眼科組成物の使用方法としては、該SHCL用眼科組成物をSHCLに接触させることとなる工程を有する公知の方法であれば、特に限定はない。例えば、SHCL用点眼剤の場合、SHCLの装着前(装着直前;例えばSHCL装着前10分以内等)又は装用中に、該点眼剤の適量を点眼すればよい。また、SHCL用洗眼剤の場合も、SHCLの装着前(装着直前)又は装用中(SHCLを装用したままで)、該洗眼剤の適量を洗眼に使用すればよい。なお、本発明のSHCL用眼科組成物がSHCL用点眼剤又はSHCL用洗眼剤である場合、SHCLを装用している時はもちろん、装用していない時でも点眼や洗眼の目的で使用することができる。また、SHCL装着液の場合、SHCLの装着時にSHCLと該装着液の適量を接触させることより使用される。更に、SHCLケア用液剤の場合であれば、適量の該ケア用液剤中にSHCLを浸漬したり、該ケア用液剤にSHCLを接触させて擦り洗いすること等によって使用される。
【0061】
本発明のSHCL用眼科組成物において、適用対象となるSHCLの種類については特に制限されず、現在市販されている、或いは将来市販される全てのSHCLを適用対象にできる。中でも非イオン性SHCLは、上記(A)成分との接触によって生じる変形の度合いが大きい傾向があり、また一旦変形すると、生理食塩水で処理しても(つまり、涙液等によって洗われても)元に戻り難い傾向が強いことが確認されている。このように変形の度合いが大きく、一旦変形すると、生理食塩水で処理しても元に戻り難い傾向が強くて特に問題が大きいSHCLに対しても、本発明のSHCL用眼科組成物によればレンズの変形を有効に抑制することができる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明のSHCL用眼科組成物の好適な適用対象の一例として、非イオン性SHCLが挙げられる。ここで非イオン性とは、当業者が通常理解するように、米国FDA(米国食品医薬品局)基準に則り、コンタクトレンズ素材中のイオン性成分含有率が1mol%未満であることをいう。また、非イオン性SHCLは、(A)成分による吸着抑制効果や、(B)成分による摩擦低減効果を一層有効に獲得することができ、かかる観点からも好適である。また、適用対象となるSHCLの含水率についても特に制限されず、例えば、90%以下、好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下が挙げられる。なお、SHCLはハイドロゲル素材を含むものであるため、少なくとも0%より多い水分を含む。
【0062】
また、非イオン性SHCLでは、含水率が高くなる程、上記(A)成分との接触によって生じる変形の度合いが比較的大きくなる傾向がある。本発明のSHCL用眼科組成物によれば、このように変形の度合いが大きくなり易い非イオン性SHCLに対しても有効に変形を抑制することができる。かかる本発明の効果に鑑みれば、適用対象となる非イオン性SHCLの含水率は、一例として20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは38%以上、更に好ましくは40%以上が挙げられる。上限値については特に制限されないが、好ましくは50%以下である。
【0063】
ここでSHCLの含水率とは、SHCL中の水の割合を示し、具体的には以下の計算式により求められる。
【0064】
含水率(%)=(含水した水の重量/含水状態のSHCLの重量)×100
かかる含水率は、ISO18369-4:2006の記載に従って重量測定方法により測定され得る。
【0065】
また、適用対象となるSHCLは、レンズの表面にプラズマ処理(酸素プラズマ処理等)を施されていないレンズの方が、当該表面処理を施されたレンズよりも、上記(A)成分との接触によって生じる悪影響を受け易く、大きく変形し易い傾向にある。本発明のSHCL用眼科組成物によれば、このように変形し易いSHCLに対しても、レンズの変形を有効に抑制することができる。かかる本発明の効果に鑑みれば、適用対象となるSHCLの好適な一例として、レンズ表面にプラズマ処理を施されていないSHCLが挙げられる。
【0066】
2.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油によるSHCLの変形を抑制する方法;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油によるSHCLの変形を抑制する作用を眼科組成物に付与する方法;及びSHCL用眼科組成物の製造のための使用
前述するように、SHCL用眼科組成物中で上記(A)成分と上記(B)成分を共存させることによって、上記(A)成分との接触が引き起こすSHCLの変形を抑制することができる。
【0067】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種とを併用することを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより生じるSHCLの変形を抑制する方法を提供する。また、本発明は、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種とを含む眼科組成物に、SHCLを接触させることを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより生じるSHCLの変形を抑制する方法をも提供する。更に、本発明は、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有するSHCL用眼科組成物に、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより生じるSHCLの変形を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法を提供する。
【0068】
また本発明は、更に別の観点から、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 並びに(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種の、SHCL用眼科組成物の製造のための使用をも提供する。
【0069】
これらの方法及び使用において、使用する(A)及び(B)成分の種類、これらのSHCL用眼科組成物中の配合割合、その他の配合成分の種類や濃度、SHCL用眼科組成物の製剤形態や適用対象となるSHCLの種類等については、前記「1.SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0070】
3.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油によるSHCLの変形を抑制するための剤;及び該剤の製造のための使用
前述するように、上記(A)成分の接触により生じるSHCLの変形を上記(B)成分によって抑制することができる。
【0071】
従って、本発明は、更に別の観点から、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を接触させることにより生じるSHCLの変形を抑制するための剤を提供する。また、本発明は、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種の、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を接触させることにより生じるSHCLの変形を抑制するための剤の製造のための使用をも提供する。
【0072】
この剤において、有効成分である(B)成分の種類、適用対象となるSHCL、SHCLを変形させる(A)成分の種類等については、前記「1.SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0073】
4.SHCLへのクロルヘキシジン類及び/又はシクロデキストリン類の吸着を抑制する方法;SHCLへのクロルヘキシジン類及び/又はシクロデキストリン類の吸着を抑制する作用を眼科組成物に付与する方法
前述するように、(A)成分と上記(B)成分を併用することによって、SHCLへの上記(B)成分の吸着を抑制することができる。
【0074】
従って、本発明は更に別の観点から、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種と、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを併用することを特徴とする、SHCLへの該(B)成分の吸着を抑制する方法を提供する。また、本発明は、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種とを含む眼科組成物に、SHCLを接触させることを特徴とする、SHCLへの該(B)成分の吸着を抑制する方法をも提供する。更に、本発明は、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種を含有するSHCL用眼科組成物に、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を配合することを特徴とする、SHCLへの該(B)成分の吸着を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法をも提供する。
【0075】
これらの方法において、使用する(A)及び(B)成分の種類、これらのSHCL用眼科組成物中の配合割合、その他の配合成分の種類や濃度、SHCL用眼科組成物の製剤形態や適用対象となるSHCLの種類等については、前記「1.SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0076】
5.SHCLへのクロルヘキシジン類及び/又はシクロデキストリン類の吸着を抑制するための剤;及び該剤の製造のための使用
前述するように、SHCLへの上記(B)成分の吸着を上記(A)成分によって抑制することができる。
【0077】
従って、本発明は更に別の観点から、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有する、SHCLへの(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種の吸着を抑制するための剤を提供する。また、本発明は、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の、SHCLへの(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種の吸着を抑制するための剤の製造のための使用をも提供する。
【0078】
この剤において、有効成分である(A)成分の種類、適用対象となるSHCL、SHCLに吸着する(B)成分の種類等については、前記「1.SHCL用眼科組成物」と同様である。なお、(B)成分の中でも、クロルヘキシジン類は特にSHCLに吸着し易い傾向がある。従って、本発明は、このようにSHCLに吸着し易いクロルヘキシジン類のSHCLへの吸着を抑制するために特に有益に用いられ得る。
【0079】
6.SHCLの摩擦低減方法;及びSHCLの摩擦を低減する作用を眼科組成物に付与する方法
前述するように、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、クロルヘキシジン類及び/又はシクロデキストリン類を併用することによって、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油によって増大されるSHCL表面の摩擦を低減することができる。
【0080】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種とを併用することを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより増大されるSHCLの摩擦を低減させる方法を提供する。また、本発明は、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種とを含む眼科組成物に、SHCLを接触させることを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより増大されるSHCLの摩擦を低減させる方法をも提供する。更に、本発明は、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有するSHCL用眼科組成物に、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を接触させることにより増大されるSHCLの摩擦を低減する作用を該眼科組成物に付与する方法をも提供する。
【0081】
なお、上記摩擦低減方法及び上記付与方法において、適用対象となるSHCLの種類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の種類、クロルヘキシジン類の種類、シクロデキストリン類の種類、これらの配合割合、SHCL用眼科組成物に配合される他の成分の種類と配合割合、SHCL用眼科組成物とSHCLとを接触させる手法等についても、前記「1.SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0082】
7.SHCLの摩擦を低減させるための剤;及び該剤の製造のための使用
前述するように、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を接触させることにより引き起こされるSHCLの摩擦増大を、クロルヘキシジン類及び/又はシクロデキストリン類によって抑制させることができる。
【0083】
従って、本発明は、更に別の観点から、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を接触させることにより増大されるSHCLの摩擦を低減させるための剤を提供する。また、本発明は、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種の、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を接触させることにより増大されるSHCLの摩擦を低減させるための剤の製造のための使用をも提供する。
【0084】
該剤において、クロルヘキシジン類やシクロデキストリン類の種類、適用対象となるSHCL、SHCLの摩擦増大を引き起こすポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の種類、これらの配合割合等については、前記「1.SHCL用眼科組成物」と同様である。なお、(B)成分の中でも、クロルヘキシジン類は特にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油により生じるSHCLの摩擦増大を効果的に抑制することができる。かかる観点に鑑みれば、本発明には、クロルヘキシジン類が特に有益に用いられ得る。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0086】
参考試験例1:ソフトコンタクトレンズサイズ変化の評価
表1に示す3種のソフトコンタクトレンズを用いて以下の試験を実施し、ソフトコンタクトレンズのサイズの変化量を評価した。
【0087】
【表1】

【0088】
具体的には、以下の方法により評価した。まず、生理食塩水5mL中に表1の各ソフトコンタクトレンズを1枚ずつ浸漬して24時間放置し、レンズサイズを安定化させた。24時間後、生理食塩水を満たしたセルに各レンズを移し、該セルを万能投影機(製品名:PROFILE PROJECTOR V-12B、Nikon製)にセットして、各レンズのサイズ(スタート値)を測定した。次いで、各レンズを下記表2に記載の各処方液(比較例1又は比較例2)20mLに浸漬し、24時間室温にて保存した。24時間後、セルを各処方液で共洗いし、それらのセルに各処方液を満たしてレンズを浸漬した。次いで、セルを万能投影機にセットして、レンズのサイズ(保存後値)を測定した。測定されたレンズのサイズの保存後値からスタート値を差し引くことにより、各レンズのサイズ変化量を算出した。次いで、比較例2の処方液を使用した場合のレンズサイズ変化量から比較例1(コントロール)の処方液を使用した場合のレンズサイズ変化量を差し引くことにより、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油により生じるサイズ変化量を求めた。
【0089】
【表2】

【0090】
この結果を図1に示す。図1より明らかなように、非シリコーンハイドロゲルレンズであるレンズB及びCでは、比較例2の処方液で処理しても比較例1(コントロール)の処方液とレンズサイズは殆ど差が無いことが分かった。一方、SHCLであるレンズAでは、比較例2の処方液を用いた場合には、比較例1(コントロール)の処方液で処理した場合に比べて、0.20mmを超える非常に大きなレンズ直径の増大が認められることが明らかとなった。一般に、ソフトコンタクトレンズの日本での薬事上の承認基準では、レンズサイズの変化量の許容値は直径を測定するときに±0.20mmとされており、この点からも、レンズAで認められた大きなレンズサイズ変化は明らかに問題であるといえる。
【0091】
試験例1:SHCLのレンズサイズ変化の評価−1
参考試験例1においてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油によるレンズの膨潤乃至膨張が認められたレンズA(SHCL)を用いて、下記の表3に記載の各処方液(実施例1及び比較例1−5)についてレンズサイズ変化の評価を行った。なお、処方液の調製において、グルコン酸クロルヘキシジンは、グルコン酸クロルヘキシジン溶液(20w/v%)(和光純薬工業株式会社)を用いた。
【0092】
【表3】

【0093】
具体的には、以下の方法により評価した。まず、生理食塩水5mL中に表1に示すレンズAを1枚ずつ浸漬して24時間放置し、レンズサイズを安定化させた。24時間後、生理食塩水を満たしたセルにレンズを移し、該セルを万能投影機(製品名:PROFILE PROJECTOR V-12B、Nikon製)にセットして、レンズのサイズ(スタート値)を測定した。次いで、レンズAを表3に記載の各処方液(実施例1及び比較例1−5)20mLに浸漬し、24時間室温にて保存した。24時間後、セルを各処方液で共洗いし、それらのセルに各処方液を満たしてレンズを浸漬した。次いで、セルを万能投影機にセットして、レンズのサイズ(保存後値)を測定した。そして、測定されたレンズのサイズの保存後値からスタート値を差し引くことにより、各レンズのサイズ変化量を算出した。
【0094】
この結果を図2に示す。図2に示されるように、比較例1(コントロール)の処方液を用いた場合にはレンズサイズ変化は殆ど認められなかった。しかし、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を更に配合した比較例2の処方液では、直径で0.20mmを超えるレンズサイズ変化が認められ、レンズが大きく変形していることが認められた。一方、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油に加えて更にグルコン酸クロルヘキシジンを配合した実施例1では、比較例2に比べてレンズサイズの変化量を著しく抑えられることが明らかとなった。
【0095】
また、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と同様に溶解補助剤として汎用されている非イオン性界面活性剤の一種のポロクサマー407を用いた場合(比較例3)では、SHCLの膨張は全く認められなかった。更に、同じく溶解補助剤として眼科組成物で汎用されている非イオン性界面活性剤の一種であるポリソルベート80を用いた場合には、グルコン酸クロルヘキシジンを含まない比較例4の処方液と比較して、グルコン酸クロルヘキシジンを含む比較例5の処方液を用いた場合のレンズサイズ変化量は反ってやや大きくなることが認められた。即ち、グルコン酸クロルヘキシジンによるSHCL膨張抑制効果は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油により生じるSHCLサイズの変化に対して特異的に有効であることが明らかとなった。
【0096】
試験例2:SHCLのレンズサイズ変化の評価−2
下記表4に記載の各処方液(実施例2−3及び比較例6−7)を用いて、表1に示すレンズA(SHCL)のサイズ変化に与える影響について、上記試験例1と同様の方法で評価を行った。
【0097】
【表4】

【0098】
得られた結果を図3に示す。この結果から、pHを6.5程度に変化させた場合でも、試験例1と同様に、グルコン酸クロルヘキシジンを併用することにより、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60により生じるSHCLの膨張を効果的に抑制できることが確認された。
【0099】
試験例3:SHCLのレンズサイズ変化の評価−3
下記表5に記載の各処方液(実施例4及び比較例8)を用いて、表1に示すレンズA(SHCL)のサイズ変化に与える影響について、以下のようにして評価を行った。
【0100】
【表5】

【0101】
まず、生理食塩水5mL中に表1に示すレンズAを1枚ずつ浸漬して24時間放置し、レンズサイズを安定化させた。24時間後、生理食塩水を満たしたセルにレンズを移し、該セルを万能投影機(製品名:PROFILE PROJECTOR V-12B、Nikon製)にセットして、レンズのサイズ(スタート値)を測定した。次いで、レンズAを表5に記載の各処方液(実施例4及び比較例8)20mLに浸漬し、24時間室温にて保存した。24時間後、それぞれ新しい処方液に入れ替えて更に24時間保存した。保存処理後、セルを各処方液で共洗いし、それらのセルに各処方液を満たしてレンズを浸漬した。次いで、セルを万能投影機にセットして、レンズのサイズ(保存後値)を測定した。そして、測定されたレンズのサイズの保存後値からスタート値を差し引くことにより、各レンズのサイズ変化量を算出した。
【0102】
得られた結果を図4に示す。この結果から、緩衝剤としてリン酸緩衝剤を用いた場合にも、ホウ酸緩衝剤を使用した試験例1−2と同様に、グルコン酸クロルヘキシジンを併用することにより、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60により生じるSHCLの膨張を効果的に抑制できることが確認された。
【0103】
試験例4:SHCLのレンズサイズ変化の評価−4
下記表6に記載の各処方液(実施例5−6及び比較例9−10)を用いて、表1に示すレンズA(SHCL)のサイズ変化に与える影響について、以下のようにして評価を行った。
【0104】
【表6】

【0105】
まず、生理食塩水5mL中に表1に示すレンズAを1枚ずつ浸漬して24時間放置し、レンズサイズを安定化させた。24時間後、生理食塩水を満たしたセルにレンズを移し、該セルを万能投影機(製品名:PROFILE PROJECTOR V-12B、Nikon製)にセットして、レンズのサイズ(スタート値)を測定した。次いで、レンズAを表6に記載の各処方液(実施例5−6及び比較例9−10)20mLに浸漬し、24時間室温にて保存した。24時間後、セルを各処方液で共洗いし、それらのセルに各処方液を満たしてレンズを浸漬した。次いで、セルを万能投影機にセットして、レンズのサイズ(保存後値)を測定した。そして、測定されたレンズのサイズの保存後値からスタート値を差し引くことにより、各レンズのサイズ変化量を算出した。次いで、下式Iに従い、それぞれ等量のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を含有する比較例に対する抑制率(%)を求めた。
【0106】
【数1】

【0107】
この結果を、上記表6の最下段に示す。表6に示される結果から明らかなように、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60の濃度を変えた場合にも、グルコン酸クロルヘキシジンを併用することによりSHCLの膨張を効果的に抑制できることが確認された。
【0108】
試験例5:SHCLのレンズサイズ変化の評価−5
下記表7に記載の各処方液(実施例7−9及び比較例11−13)を用いて、表1に示すレンズA(SHCL)のサイズ変化に与える影響について評価を行った。
【0109】
【表7】

【0110】
具体的には、以下の方法により評価した。まず、生理食塩水5mL中にレンズAを1枚ずつ浸漬して24時間放置し、レンズサイズを安定化させた。24時間後、生理食塩水を満たしたセルにレンズを移し、該セルを万能投影機(製品名:PROFILE PROJECTOR V-12B、Nikon製)にセットして、レンズのサイズ(スタート値)を測定した。次いで、レンズAを表7に記載の各処方液20mLに浸漬し、48時間室温にて保存した。48時間後、セルを各処方液で共洗いし、それらのセルに各処方液を満たしてレンズを浸漬した。次いで、セルを万能投影機にセットして、レンズのサイズ(保存後値)を測定した。そして、上記試験例1と同様の算出方法で、各レンズのサイズ変化量を求めた。
【0111】
この結果を図5に示す。図5に示されるように、α−シクロデキストリンを配合した実施例7−9の処方液では、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60によるSHCLの膨張を著しく抑制できることが明らかとなった。また、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60に替えて同濃度のポリソルベート80を用いて同様の実験を行ったところ、上記試験例1と同じく、α−シクロデキストリンを含まない場合と比較して、α−シクロデキストリンを含有する場合には反ってSHCLがやや膨張する傾向も認められ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を用いた場合のような膨張抑制効果は認められなかった。
【0112】
試験例6:SHCLのレンズサイズ変化の評価−6
下記表8に記載の各処方液(実施例10−12及び比較例14−16)を用いて、表1に示すレンズA(SHCL)のサイズ変化に与える影響について、上記試験例5と同様の方法で評価を行った。
【0113】
【表8】

【0114】
得られた結果を図6に示す。この結果から、pHがやや酸性(pH6.0)になった場合でも、試験例5と同様に、α−シクロデキストリンを併用することにより、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60により生じるSHCLの膨張を著しく抑制できることが明らかとなった。
【0115】
試験例7:SHCLのレンズサイズ変化の評価−7
下記表9に記載の各処方液(実施例13−14及び比較例17−18)を用いて、表1に示すレンズA(SHCL)のサイズ変化に与える影響について評価を行った。
【0116】
【表9】

【0117】
具体的には、以下の方法により評価した。まず、生理食塩水4mL中に表1に示すレンズAを1枚ずつ浸漬して24時間放置し、レンズサイズを安定化させた。24時間後、生理食塩水を満たしたセルにレンズを移し、該セルを万能投影機(製品名:PROFILE PROJECTOR V-12B、Nikon製)にセットして、レンズのサイズ(スタート値)を測定した。次いで、レンズAを表9に記載の各処方液(実施例13−14及び比較例17−18)20mLに浸漬し、24時間室温にて保存した。24時間後、セルを各処方液で共洗いし、それらのセルに各処方液を満たしてレンズを浸漬した。次いで、セルを万能投影機にセットして、レンズのサイズ(保存後値)を測定した。そして、上記試験例1と同様の算出方法で、各レンズのサイズ変化量を求めた。
【0118】
この結果を図7に示す。図7に示されるように、pHやポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60の濃度を変えても、試験例5−6と同様、α−シクロデキストリンを併用することにより、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60により生じるSHCLの膨張を著しく抑制できることが明らかとなった。
【0119】
試験例8:SHCLのレンズサイズ変化の評価−8
下記表10に記載の各処方液(実施例15及び比較例19)を用いて、表1に示すレンズA(SHCL)のサイズ変化に与える影響について、上記試験例5と同様の方法で評価を行った。
【0120】
【表10】

【0121】
得られた結果を図8に示す。この結果から、α−シクロデキストリンの配合割合を0.05w/v%にした場合であっても、上記試験例5−7と同様に、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60により生じるSHCLのレンズの直径の増大を著しく抑制できることが明らかとなった。
【0122】
試験例9:SHCLのレンズサイズ変化の評価−9
下記表11に記載の各処方液(実施例16及び比較例20)を用いて、表1に示すレンズA(SHCL)のサイズ変化に与える影響について、上記試験例5と同様の方法で評価を行った。
【0123】
【表11】

【0124】
この結果を図9に示す。図9に示されるように、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40により引き起こされるSHCLの膨張についても、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を用いた試験例5−8と同様に、α−シクロデキストリンにより効果的に抑制できることが明らかとなった。
【0125】
試験例10:SHCLのレンズサイズ変化の評価−10
下記表13に示す各処方液(実施例17及び比較例21)を用いて、下記の表12に示すレンズD(SHCL)のサイズ変化に与える影響について評価を行った。
【0126】
【表12】

【0127】
【表13】

【0128】
具体的には、以下の方法により、サイズ変化に与える影響について評価を行った。まず、生理食塩水4mL中にレンズD(SHCL)を1枚ずつ浸漬して24時間放置し、レンズサイズを安定化させた。24時間後、生理食塩水を満たしたセルにレンズを移し、該セルを万能投影機(製品名:PROFILE PROJECTOR V-12B、Nikon製)にセットして、レンズのサイズ(スタート値)を測定した。次いで、レンズDを表13に記載の各処方液5mLに浸漬し、4時間以上室温にて保存した。次いで、それぞれ新しい各処方液5mLが充填されたバイアルに各レンズを移し変え、更に4時間以上室温にて浸漬処理を行った。この浸漬操作を13回繰り返した。浸漬処理後、セルを各処方液で共洗いし、それらのセルに各処方液を満たしてレンズを浸漬した。次いで、セルを万能投影機にセットして、レンズのサイズ(保存後値)を測定した。そして測定されたレンズサイズの保存後値からスタート値を差し引くことにより、各レンズの変化量を算出した。
【0129】
この結果を図10に示す。図10に示されるように、レンズA(SHCL)を用いた試験例5−9と同様に、レンズAとは材質が異なる非イオン性SHCLを使用した場合でも、α−シクロデキストリンを併用することにより、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60により生じるSHCLの膨張を著しく抑制できることが明らかとなった。
【0130】
試験例11:SHCLに対するグルコン酸クロルヘキシジンの吸着抑制評価
下記表14に記載の各処方液(実施例18及び比較例22)を用いて、表1に示すレンズA(SHCL)へのグルコン酸クロルヘキシジンの吸着量について評価を行った。
【0131】
【表14】

【0132】
まず、表1に示すレンズAを4mLの生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)中に1枚ずつ浸漬し、24時間静置した(レンズの前処理)。上記表14に従って処方液(実施例18及び比較例22)を調製し、各処方液を密閉性の高い10mL容量ヘッドスペースバイアルに2mLずつ充填した。これらの処方液に、前処理を終えたレンズAを浸漬し、34℃で120回/minにて24時間振とう処理を行った(サンプル群;1回目の処理)。次いで、各バイアルからレンズAを取り出し、新たに各処方液を2mLずつ充填した10mL容量ヘッドスペースバイアルに浸漬させ、再度、34℃で120回/minにて24時間振とう処理を行った(サンプル群;2回目の処理)。また、ブランク群としてSHCLを浸漬しない各処方液のバイアルを設け、サンプル群と同様に、2回に分けて振とう処理を行った。2回目の処理を終えた各サンプル群のバイアルからレンズAを引き上げた後、1回目及び2回目のサンプル群及びブランク群の各処方液中のグルコン酸クロルヘキシジン量を、常法に従い液体クロマトグラフィーを用いて定量した。各処理回数ごとに、ブランク群のグルコン酸クロルヘキシジン量からサンプル群のグルコン酸クロルヘキシジン量を差し引き、1回目の差分と2回目の差分の量を合算することにより、各処方液におけるレンズAへのグルコン酸クロルヘキシジン吸着量(総和量)を算出した。
【0133】
この結果を図11に示す。図11に示されるように、グルコン酸クロルヘキシジンはSHCLであるレンズAに対して多量に吸着することが確認された。一方、グルコン酸クロルヘキシジンと共にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を組み合わせて用いた場合には、SHCLへのグルコン酸クロルヘキシジンの吸着を著しく抑制できることが明らかとなった。従って、本発明により、グルコン酸クロルヘキシジンを含有していながら、SHCLに対して適用してもレンズへの吸着が抑制され、コンタクトレンズの濡れ性低下や変色等の惧れも無く眼に対して安全且つ快適に用いられ得る眼科組成物とすることができることが明らかとなった。
【0134】
参考試験例2:SCL表面の摩擦の評価
SCL表面の物性を測定するために、粘着性、粘弾性、乾燥性などの様々な表面物性変化を摩擦の増減の面から評価することが知られている剛体振り子物性試験器RPT−3000W((株)エー・アンド・デイ製)を用いて、各ソフトコンタクトレンズ(SCL)表面の摩擦力の評価を行った。試験に使用したSCLは、具体的には、以下の表15に示す6つのレンズである。
【0135】
【表15】

【0136】
これらのSCLを生理食塩水中に一晩浸漬させたものを試験サンプルとして用いた。測定は、温度25℃、相対湿度60%条件の下、振り子重量200g、センサー径4mmの条件で実施し、測定開始から5分後の対数減衰率を以て、各SCL間で比較を行った。
【0137】
この結果を図12に示す。ここで測定される対数減衰率はレンズ表面の摩擦の大小を示し、対数減衰率が高いほど摩擦が大きいことを示す。図12より明らかなように、SHCL(レンズI〜III)は非シリコーンハイドロゲルレンズ(レンズIV〜VI)に比べて著しく対数減衰率が高く、摩擦が非常に大きいことが認められた。
【0138】
試験例12:SHCL表面の摩擦に対する低減効果の評価
SHCLとして上記参考試験例2で使用したレンズIを用い、レンズ表面の摩擦低減効果について以下の方法により評価を行った。
【0139】
先ず、表16に示される各処方液(比較例23−25及び実施例19)を調製した。SHCL(レンズI)の表面を生理食塩水で十分にすすいだ後、20mLの各処方液中に3枚づつ浸漬させ、一晩静置した。翌日、レンズ表面の水分をリントフリーで軽く一度指で押さえる程度にふき取り、25℃、相対湿度60%条件の下、振り子重量200g、センサー径4mmの条件で、対数減衰率を10秒毎に計3分間測定した。
【0140】
【表16】

【0141】
この結果を図13に示す。図13に示されるように、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を配合した場合(比較例24)では、コントロール(比較例23)に比べてSHCL表面の摩擦が更に大きくなってしまうことが明らかとなった。一方、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60と共にグルコン酸クロルヘキシジンを組み合わせて配合した場合(実施例19)では、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60により増大されるSHCL表面の摩擦を抑制できることが明らかになった。この結果は、グルコン酸クロルヘキシジンのみを用いた場合には、コントロールよりも反って摩擦が増大されたことを考慮すると(比較例25)、全く予想外の結果であった。
製造例
表17及び18に記載の処方で、SHCL用点眼剤(実施例20−30及び32−41)並びにSHCLケア用液剤(実施例31及び42−43)が調製される。
【0142】
【表17】

【0143】
【表18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項2】
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが非イオン性である、請求項1に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項3】
(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種とを併用することを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変形を抑制する方法。
【請求項4】
(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種と、(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを併用することを特徴とする、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの該(B)成分の吸着を抑制する方法。
【請求項5】
(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)クロルヘキシジン類及びシクロデキストリン類からなる群より選択される少なくとも1種とを併用することを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより増大されるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−51982(P2011−51982A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177863(P2010−177863)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】