説明

シリンジ用容器、プレフィルドシリンジおよびその製造方法

【課題】注射器の内部に夾雑物が入り込むことがないシリンジ用容器を提供する。
【解決手段】 本発明のシリンジ用容器は、先端に薬液出口を有する外筒と、前記薬液出口を封止する薬液出口封止部材と、前記外筒内の先端側に設けられる第1室と、前記外筒の基端側に設けられる第2室と、開口部を有し前記第1室と前記第2室を仕切る隔壁部と、前記開口部に挿通されたプランジャと、前記プランジャの先端部に設けられた開口封止部材とを有し、前記開口封止部材は、前記プランジャの基端方向への移動にともない、前記開口部を前記隔壁部よりも先端側から液密に封止することを特徴とするシリンジ用容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンジ用容器、プレフィルドシリンジおよびその製造方法に関する。具体的には、凍結乾燥した薬剤と、この薬剤を溶解するため溶媒とを分離収容し、使用時に薬剤を溶媒により溶解した後投与することができるシリンジ用容器、プレフィルドシリンジおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
注射液を収容するシリンジ内を2室に分け、所定成分とその溶解液や分散液等とを分離させた状態で収容し、該所定成分を乾燥状態に維持することにより貯蔵寿命を確保し、保管を容易にした2室型プレフィルドシリンジが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の二室注射器の注射器シリンダにおいては、内部が栓によって前室及び後室が区分けされ、注射器ピストンの押圧により後室の溶剤及び栓を前室に向けて移動させ、該溶剤を前室の薬剤と混合することが記載されている。
【0004】
薬剤としての医薬物質を高安定性、高信頼性に収容するために、薬液から水等の揮発性物質を取り除く処理である凍結乾燥が好適に用いられる。シリンジ自体を凍結乾燥の容器として使用すれば、凍結乾燥した薬剤を移し替える必要がなく好都合であることが知られている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0005】
特許文献2に記載のシリンジシステムにおいては、収容した薬剤溶液を凍結乾燥する目的で、薬剤室から薬剤溶液の蒸気を出すための排出通路を設け、凍結乾燥後に該排出通路を閉塞チップにより密閉することが記載されている。
【0006】
特許文献3に記載の二室式容器兼用注射器においては、容器としての封止状態を維持することを目的として、中間ストッパーを挿入穴に挿通して嵌合させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−322662号公報
【特許文献2】特表2003−535624号公報
【特許文献3】特開2008−67982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述のような2室型プレフィルドシリンジでは、乾燥状態の薬剤を二室の一方に収容して封止した後に、二室の他方に溶解液等を別途導入する工程を要している。特許文献2又は3に記載の注射器等は、薬液を収容した後に該薬液を凍結乾燥することが可能であるが、凍結乾燥の過程において薬液の溶媒成分(典型的には水)は昇華して周囲環境に拡散するため、凍結乾燥後に注射器の外部から溶解液等を導入する工程が必要となる。すなわち、従来技術の2室型プレフィルドシリンジにおいては、外部配管等による溶解液導入の工程を要し、外部からの溶解液等の導入に付随して注射器の内部に夾雑物を持ち込む可能性があった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、注射器の内部に夾雑物が入り込むことがないシリンジ用容器、プレフィルドシリンジおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記(1)〜(8)の本発明により達成される。
【0011】
(1)先端に薬液出口を有する外筒と、前記薬液出口を封止する薬液出口封止部材と、前記外筒内の先端側に設けられる第1室と、前記外筒の基端側に設けられる第2室と、開口部を有し前記第1室と前記第2室を仕切る隔壁部と、前記開口部に挿通されたプランジャと、前記プランジャの先端部に設けられた開口封止部材とを有し、前記開口封止部材は、前記プランジャの基端方向への移動にともない、前記開口部を前記隔壁部よりも先端側から液密に封止することを特徴とするシリンジ用容器。
【0012】
(2)前記開口封止部材は、可撓性材料により構成されるガスケットであることを特徴とする(1)記載のシリンジ用容器。
(3)前記プランジャ、または前記第2室の前記外筒内周面に複数の突起を備えることを特徴とする(1)または(2)に記載のシリンジ用容器。
【0013】
(4)前記隔壁部には、前記開口封止部材の封止状態を保持する保持部を備えることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載のシリンジ用容器。
(5)前記プランジャの基端側には、外筒封止部材と、押し子とが取り付け可能であり、前記押し子の摺動に応じて前記プランジャが摺動することを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
(6)前記開口封止部材は、前記第1室内に収容した薬液を凍結乾燥により溶媒を蒸散させ、前記第2室内で前記蒸散させた溶媒を所定の冷却手段によって冷却して凍結させる第1開放状態と、前記第2室内で前記凍結した溶媒を融解する封止状態と、前記第1室に収容された溶質と、前記第2室に収容された溶媒を混合する第2開放状態とを有することを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
【0014】
(7)外筒と、前記外筒内の先端側に設けられる第1室と、前記外筒の基端側に設けられる第2室と、開口部を有し前記第1室と前記第2室を仕切る隔壁部と、前記開口部を開封可能な開口封止部材を有するシリンジにおいて、前記開口封止部材の開口開放状態において、前記第1室内に収容した薬液を凍結する工程と、 前記開口封止部材の開口開放状態において、前記第1室内に収容した薬液の溶媒を蒸散させ、前記第2室に設けられた冷却手段によって前記蒸散した溶媒を冷却して前記第2室内で凍結する工程と、前記開口封止部材の開口封止状態において、前記第2室内で凍結した溶媒を融解する工程と、を有することを特徴とするプレフィルドシリンジの製造方法。
【0015】
(8)先端に薬液出口を有する外筒と、前記薬液出口を封止する薬液出口封止部材と、前記外筒内の先端側に設けられ凍結乾燥された溶質が収納された第1室と、前記外筒の基端側に設けられ溶媒が収納された第2室と、開口部を有し前記第1室と前記第2室を仕切る隔壁部と、前記開口部に挿通されたプランジャと、前記プランジャの先端部に設けられ前記開口部を前記隔壁部よりも先端側から液密に封止する開口封止部材と、前記外筒の基端側を封止する外筒封止部材とを有するプレフィルドシリンジにおいて、前記プランジャを前記外筒の先端方向に移動させることにより、前記開口封止部材による前記開口部への封止が解除され、前記第1室に収容された溶質と、前記第2室に収容された溶媒を混合することを特徴とするプレフィルドシリンジの使用方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、注射器の内部に夾雑物が入り込むことがないシリンジ用容器、プレフィルドシリンジおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジを示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジの製造過程を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジの使用状況を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジの製造過程における第1室の温度制御を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態に係る冷却手段を説明する図である。
【図6】本発明の他の実施形態を説明する図である。
【図7】本発明の実施形態に係る封止手段の保持構造を説明する図である。
【図8】本発明の実施形態に係る封止手段の保持構造の他の例を示す図である。
【図9】本発明の変形例を説明するための図である。
【図10】本発明の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の2室型プレフィルドシリンジを実施するための形態(以下、「実施形態」という。)に基づいて図面を参照して詳細に説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための物や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成材料の種類、構成条件等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジ1を示す断面図である。
【0020】
2室型プレフィルドシリンジ1は、全体として、外筒2、外筒封止部材であるガスケット9、押し子10、プランジャ13及び開口封止部材であるガスケット14からなる。これらの構成要素は、当技術分野に周知の材料により製造される。例えば、外筒2、押し子10及びプランジャ13は、射出成形可能な樹脂材料等で製造され、ガスケット9、14は、耐薬品性の可撓材料等で製造される。
【0021】
外筒2は、先端側に外筒2の内径および外径が段階的に縮径したテーバー部3と、このテーバー部3を介して外側に突き出る先端突出部4と、先端側の薬剤室(第1室)6及び基端側の溶媒室(第2室)7を仕切る隔壁部8と、基端側の開口部5とを有している。先端突出部4には、薬液封止部材であるキャップ等が取り付けられる。また、使用時には、刺穿用の注射針、配液チューブ又は封止キャップ等を取り付けることができる。
【0022】
隔壁部8は、中心付近にプランジャ13の外径よりも大きな貫通穴としての開口部8aを有している。また、外筒2内には、この開口部8aを覆うことのできる封止手段としてのガスケット14が配設される。図1に示す2室型プレフィルドシリンジ1においては、ガスケット14は、隔壁部8の開口部8aを封止する封止状態にあり、薬剤室6及び溶媒室7は互いに隔離されている。ガスケット14は、隔壁部8から離れることにより、この開口部8aを開放状態として、薬剤室6及び溶媒室7を連通させることが可能である。ガスケット14と隔壁部8の構造については、図6を示して説明する。
【0023】
薬剤室6は、溶質としての薬剤11を収容している。薬剤室6の内径は、隔壁部8の近傍では溶媒室7と略同一であるが、先端側ではガスケット14の外径と同一、もしくはわずかに小さくなっている。
【0024】
溶媒室7は、溶媒12を収容している。溶媒室7の内径は、ガスケット9と同一、もしくはわずかに小さく、基端側はガスケット9によって封止される。ガスケット9は、押し子10の操作により、溶媒室7の内部で摺動することができる。
【0025】
薬剤11は、所定薬液を凍結乾燥して溶媒を蒸散させた凍結乾燥薬剤とすることができる。溶媒12は、該凍結乾燥により該所定薬液から蒸散して凍結した後に融解した溶媒であり、典型的には水であるが、これに限定されない。
【0026】
プランジャ13は、基端側に押し子10と嵌合する凹部を有し、押し子10は、先端側にこの凹部に嵌入する凸部を有することが好ましい。このような構造により、プランジャ13及び押し子10は、一体化することが可能である。プランジャ13の凹部は、後述する冷却手段20b(図2、図5)の配設にも用いられる。
【0027】
ガスケット14は、溶媒室7の内径よりも小さく、かつ薬剤室6の先端側の縮径部6aの内径よりもわずかに大きな外径を有している。ガスケット14は、薬剤室6の先端側の縮径部6aの内部を摺動することができる。ガスケット14の先端側は、好適には、外筒2のテーパー部3の内壁に密着可能な形状を有する。ガスケット14は、プランジャ13に接続されており、押し子10、ガスケット9、プランジャ13及びガスケット14は、一体として、基端側から先端側への移動が可能である。例えば、押し子10を基端側から先端側に押圧することにより、押し子10、ガスケット9、プランジャ13及びガスケット14は、一体として、基端側から先端側に移動が可能である。
【0028】
図2は、本発明の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジ1の製造工程を示す図である。図1と共通する構成要素については説明を省略する。
【0029】
図2(a)は、外筒2の先端側の薬剤室6に薬液25を収容する工程を表す図である。具体的には、外筒2の開口部5は開放されており、ガスケット14はプランジャ13に接続されている。ガスケット14は、隔壁部8に密着していないため、隔壁部8の開口部8aは開放状態にある。したがって、液体状態の薬液25を基端側から投入すると、薬液25は、溶媒室7及び隔壁部8を通過し、先端側の薬剤室6に収容される。
【0030】
薬剤室6の外側にはヒータ21が配設される。溶媒室7の外側には冷却手段20aが配設され、プランジャ13の凹部には冷却手段20bが配設される。これらのヒータ21及び冷却手段20a、bは、後続する凍結乾燥工程において、薬剤室6からの溶媒の蒸散を制御すると共に、溶媒室7の内部に露出した壁面及びプランジャ13の表面の少なくとも一部の領域を、薬液25の溶媒の凝固点以下の温度に冷却するために用いられる。具体的には、冷却手段20a、bは、液体窒素等の所定の冷媒を必要な場合に接触させて冷却される金属板又は金属棒等を用いることができるが、限定されない。
【0031】
薬液25が薬剤室6に収容された後に、凍結乾燥における予備凍結工程が行われる。すなわち、外筒2の全体を冷凍(−50℃等)し、薬剤室6に収容された薬液25を凝固点以下の温度で凍結させる。
【0032】
図2(b)は、薬液25を凍結乾燥する工程を表す図である。薬液25が凍結した後に、冷却手段20a、bにより、溶媒室7の内部に露出した壁面及びプランジャ13の表面の少なくとも一部の領域を、薬液25の溶媒の凝固点以下の温度(−50℃等)に冷却し続けると共に、外筒2を真空下におき、薬液25から水等の溶媒を昇華させる。昇華した溶媒は、溶媒室7の内壁又はプランジャ13の表面で凍結し、固体状態の溶媒22として保持される。
【0033】
凍結乾燥中に、薬液25からの溶媒の蒸散を促進するために、ヒータ21により薬剤室6を加温することができる。例えば、−50℃で凍結乾燥を開始した後、所定期間にわたり薬剤室6を−10℃に昇温し、その後の所定期間にわたり5℃まで昇温し、さらに30℃まで昇温すること等が可能である。これらの期間中にも、冷却手段20a、bにより溶媒室7の内壁及びプランジャ13の表面は冷却されるので、溶媒室7の内部には凍結した溶媒を保持し続けることが可能である。
【0034】
図2(c)は、ガスケット14を封止状態とする工程を表す図である。ガスケット14はプランジャ13に接続されているので、プランジャ13を引き上げることによりガスケット14は隔壁部8に密着して、隔壁部8の開口部8aを封止状態とすることができる。これにより、薬剤室6及び溶媒室7は、互いに隔離される。次いで、外筒2を常温常圧下におき、冷却手段20a、bを外筒2から取り外すことにより、固体状態の溶媒22は融解して溶媒室7に収容される。このように封止することにより、薬剤室6は、大気圧よりも低圧に密栓された状態で、凍結乾燥した薬剤11を収容することができる。
【0035】
図2(d)は、ガスケット9及び押し子10を装着する工程を表す図である。ガスケット9は、外筒2の開口部5から溶媒室7に挿入されてプランジャ13の凹部に嵌合し、溶媒室7を封止すると共に溶媒室7の内部を摺動することができる。押し子10は、ガスケット9を操作可能に装着される。したがって、押し子10、ガスケット9及びプランジャ13は、プランジャ13に接続したガスケット14と共に、一体として外筒2の基端側から先端側に移動することができる。
【0036】
以上のようにして、薬剤室6に薬液を凍結乾燥した薬剤11を収容し、溶媒室7に該薬液の凍結乾燥により蒸散した溶媒を収容した、2室型プレフィルドシリンジ1を製造することができる。本実施形態において、ガスケット9は押し子10とともに摺動する例を示したが、押し子9とプランジャ13を連結させ、ガスケット9は押し子10の摺動に連動しない構成としても良い。
【0037】
図3は、本発明の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジ1の使用状況を示す図である。図3(a)は、押し子10を基端側から先端側に押すことを表す図である。押し子10を押圧することにより、ガスケット14は、隔壁部8から離隔して、隔壁部8との間に隙間を生じる。薬剤室6の内径は、隔壁部8の近傍では溶媒室7と略同一であるため、隔壁部8から離隔したガスケット14は、隔壁部8の近傍では薬剤室6を封止しない。このため、ガスケット14が隔壁部8から離隔し、かつ薬剤室6の先端側の内径に到達しない状況においては、ガスケット14は隔壁部8の開口部8aを封止しない開放状態にあり、薬剤室6及び溶媒室7は互いに連通することが可能である。
【0038】
押し子10、ガスケット9、プランジャ13及びガスケット14は、一体としての移動に限らず、一体として軸回りに回転可能であってもよく、ガスケット14の隔壁部8からの離間は、押し子10の回転によるものでもよい。
【0039】
薬剤室6及び溶媒室7が互いに連通すると、溶媒室7に収容された溶媒12は、薬剤室6に収容された薬剤11に到達してこれを溶解することができる。したがって、ガスケット14が封止状態から開放状態となることにより、薬剤室6の内部に、薬剤11を溶媒12によって溶解した薬液を生成することができる。
【0040】
前述の製造過程における封止工程のように、凍結乾燥した薬剤11を収容した薬剤室6は、大気圧よりも低圧に密栓されている。このため、ガスケット14が開放状態となるときに、溶媒室7に収容された溶媒の少なくとも一部は、薬剤室6に吸引され得る。したがって、本実施形態の2室型プレフィルドシリンジ1において、溶媒室7に収容された溶媒は、単純に重力にしたがって薬剤室6に落下するだけでなく、薬剤室6に向かって吸引され得るので、凍結乾燥した薬剤11と速やかに接触してこれを溶解することが可能である。
【0041】
図3(b)は、ガスケット14によって薬液25を押し出すことを表す図である。押し子10の押圧によりプランジャ13が先端側に移動するにしたがい、ガスケット14は、薬剤室6の先端側に移動する。薬剤室6の先端側の内径は、ガスケット14よりもわずかに小さい。したがって、ガスケット14は、薬剤室6の先端側の内壁に接触して薬剤室6の先端側を封止する。
【0042】
さらに、押し子10を押圧すると、ガスケット14が薬剤室6の内部を摺動して先端側に移動し、薬液25を外筒2の先端突出部4に向かって押し出すことができる。
【0043】
図4は、本発明の実施形態に係る2室型プレフィルドシリンジ1の製造過程における薬剤室6の温度制御を示すグラフである。図4の横軸は時間の経過を表し、縦軸は薬剤室6の温度を表す。図4において、薬剤室6の予備凍結工程は、前述の2室型プレフィルドシリンジ1の製造過程における予備凍結工程に対応し、1次乾燥工程及び2次乾燥工程は、凍結乾燥工程に対応する。
【0044】
予備凍結工程において、薬剤室6には、当初、液体状態の薬液25が収容されている。所定期間にわたり外筒2の全体を冷凍(−50℃等)することにより、薬剤室6は冷凍され、薬液25は、薬剤室6の内部で全体として凍結する。
【0045】
1次乾燥工程において、薬剤室6は真空下にあり、薬液25から溶媒が昇華し始める。薬剤室6は、薬剤室6の周辺に配設されたヒータ21により加温され、予備凍結工程の冷凍温度よりも高い温度とすることが可能である。これにより、薬剤室6からの溶媒の蒸散を促進できる。例えば、薬剤室6は、1次乾燥工程の開始後の所定期間にわたり−10℃に維持され、その後の所定期間にわたり5℃に維持される。
【0046】
2次乾燥工程において、薬剤室6は、所定期間にわたり30℃に維持される。これにより、薬剤室6内の溶媒は、実質的に完全に蒸散する。
【0047】
前述のように、これらの1次乾燥工程及び2次乾燥工程に対応する凍結乾燥工程において、溶媒室7の内壁及びプランジャ13の表面は、冷却手段20a、bにより冷凍されている。したがって、薬剤室6から蒸散した溶媒は、溶媒室7の内壁及びプランジャ13の表面に凍結して保持される。
【0048】
図5は、本発明の実施形態に係る冷却手段を説明するための図である。冷却手段26は、例えば、液体窒素等の冷媒の通過により冷却される金属管及び該金属管から冷却手段20bに到達する金属棒等で構成することが可能である。これらにより、溶媒室7の内部に露出したプランジャ13の表面の少なくとも一部の領域を、薬液25の溶媒の凝固点以下の温度に冷却することができる。
【0049】
図6は、本発明の他の実施形態を説明する図である。図6(a)は、溶媒室7の内部に露出した壁面及びプランジャ13の表面の少なくとも一部の領域が、凍結した溶媒を保持する複数の突起を備えることを表す図である。
【0050】
図6(a)において、ガスケット9は、外筒2の開口部5に装着されている。溶媒室7においては、内部の壁面のうち先端側の領域32に複数の突起34が設けられる。プランジャ13の表面においては、溶媒室7の内部の壁面のうち基端側の領域33に対向する部分に、複数の突起35が設けられる。突起34、35の形状及び配列は、特に限定されないが、外筒2を構成する樹脂材料等の特性、外筒2の製造方法等にしたがって設計することができる。
【0051】
これらの複数の突起34、35は、溶媒室7の内部の表面積を増加させるので、前述の凍結乾燥工程において薬剤室6から蒸散した溶媒は、冷却された溶媒室7の内部と熱交換しやすくなると共に、凍結した溶媒が突起34、35によって保持される。したがって、突起34、35を設けない場合と比較して、凍結した溶媒が溶媒室7に溜まりやすくなる。
【0052】
図6(b)は、プランジャ13が隔壁部8の開口部8aに対して開放状態となり、外筒2のテーパー部3に当接するまで先端側に移動したことを表す図である。
【0053】
領域32、33のそれぞれの高さ(軸方向)は、互いにほぼ等しくすることが好ましい。領域32、33は、部分的に重複してもよい。領域32の高さは、隔壁部8の基端側の面を基準とする、ガスケット9が装着された後に溶媒室7の内部に露出している溶媒室7の壁面の高さから、封止状態にあるガスケット14の先端から外筒2のテーパー部3の当接部位までの距離31を減算した高さ以下であることが好ましい。領域33の高さは、ガスケット9の先端側の面を基準とする、ガスケット9が装着された後に溶媒室7の内部に露出しているプランジャ13の表面の高さから、距離31を減算した高さ以下であることが好ましい。突起34、35は、部分的に対向していてもよい。このようにすることで、領域32にある溶媒室7の内壁の突起34は、ガスケット9の移動の妨げにならない。また、プランジャ13の表面にある複数の突起35は、隔壁部8と衝突することがない。したがって、プランジャ13は、ガスケット14をスムーズに押し込んでテーバー部3まで摺動させることが可能である。
【0054】
図7は、本発明の実施形態に係る封止手段の保持構造を説明する図である。図7(a)は、隔壁部8が、先端側にガスケット14の基端側の形状と嵌合する凹部8bを示す図である。図7(a)において、隔壁部8の開口8aは、開放状態である。
【0055】
図7(b)は、ガスケット14が隔壁部8の凹部8bに嵌合していることを表す図である。図7(b)において、隔壁部8の開口部8aは、封止状態である。
【0056】
このようにガスケット14を隔壁部8の凹部8bに嵌合させることにより、ガスケット14は、2室型プレフィルドシリンジ1における隔壁部8の封止手段として機能することができる。
【0057】
図8は、本発明の実施形態に係る封止手段の保持構造の他の例を示す図である。図8に示す封止部15は、プランジャ13と一体成形されており、隔壁部8と対向する基端側に、隔壁部8の先端側の面に設けられた溝15cと係合する係合部15aが設けられている。この構造は、隔壁部8の溝に係合する爪の形状等でもよく、プランジャ13の軸回転により隔壁部8にねじ込まれるねじの形状等でもよい。封止部15による隔壁部8の封止を確実にするため、封止部15と隔壁部8との接触領域に、ガスケット16を設けることができる。
【0058】
図9は、本発明の変形例を説明するための図である。図1に示した2室型プレフィルドシリンジ1におけるプランジャ13、ガスケット14及び隔壁部8は、それぞれこの順でプランジャ17、ガスケット19及び隔壁部18に置き換えられる。隔壁部18は、中央に貫通孔としての開口部18aを有し、この実施例において封止手段として機能すると共に、外筒2の内部を摺動することができる。
【0059】
図9(a)は、前述の凍結乾燥工程において、薬剤室6に凍結乾燥した薬剤11が収容され、溶媒室7の内壁に凍結した固体状態の溶媒22が保持されていることを表す図である。
【0060】
プランジャ17は、基端側及び先端側では、隔壁部18の開口部18aの内径と等しいかわずかに大きい外径を有し、中間部分では開口部18aよりも小さい内径を有している。したがって、プランジャ17は、この中間部分が隔壁部18の開口部18aにある状態で、ガスケット18を開放状態とすることができる。
【0061】
ガスケット19は、隔壁部18の開口部18aよりもわずかに大きな外径を有し、プランジャ17の先端側に接続される。ガスケット19が開口部18aにある状態では、隔壁部18は封止状態である。
【0062】
図9(b)は、図1に示した2室型プレフィルドシリンジ1と同様に、隔壁部18の開口部18aがガスケット19によって封止状態にあり、外筒2の開口部5にガスケット9及び押し子10が装着されていることを表す図である。この図は、凍結乾燥後の状況を表しており、溶媒室7に収容された溶媒22と、薬剤室6に収容された薬剤11とは、隔壁部18及びガスケット19によって、互いに隔離されている。
【0063】
図9(c)は、押し子10への押圧によりガスケット9、プランジャ17及びガスケット19が先端側に移動することを表す図である。ガスケット19が先端側に移動することにより、隔壁部18の開口部18aは開放状態となり、溶媒室7と薬剤室6とは連通され、溶媒室7から薬剤室6に溶媒が移動して薬剤11を溶解し、薬液25が生成される。
【0064】
図9(d)は、押し子10がさらに押圧されてガスケット9を先端側に摺動させたことを表す図である。薬液25は、外筒2の内部の空気圧によって押し出される。
【0065】
図10は、本発明の変形例を示す図である。係止板36は、予め押し子10に取り付けられる。係止板37は、中央に穴を有し、押し子10の上方からはめ込むことができる。
【0066】
図10(a)は、係止板36を予め取り付けた押し子10を表す側面図である。係止板36は、ガスケット9から離間して押し子10に固定される。この離間の間隔は、係止板36の厚さよりもわずかに広いことが好ましい。
【0067】
図10(b)は、図10(a)の上方視である。係止板36は、ガスケット9の外径よりも小さな長径(図中a)及び短径(図中b)を有する略楕円状の外径を有することが好ましい。
【0068】
図10(c)は、係止板37の上方視である。係止板37の穴は、係止板36の長径aよりも大きな長径(図中A)と、係止板36の短径bよりも大きくかつ係止板36の長径aよりも小さな短径(図中B)とを有する略楕円形が好ましい。係止板37の形状は、外筒2の開口部5よりも大きければよく、部分的にガスケット9の外径よりも大きな略楕円状とすることが好ましい。
【0069】
図10(d)は、押し子10の上方から係止板37をはめ込んだ状況を表す側面図である。係止板37は、係止板37の穴の長径Aの方向が左右に投影されているので、ガスケット9よりも左右に大きく広がって図示されている。係止板37の穴の長径Aは、係止板36の長径aよりも大きく、係止板37の穴の短径Bは係止板36の短径bよりも大きいため、係止板37の穴は、係止板36を通過させることが可能である。したがって、係止板37は、係止板36とガスケット9との間に配設することができる。
【0070】
図10(e)は、図10(d)の上方視である。この状況では、係止板36は係止板37の穴を通過できるため、押し子10、ガスケット9及び係止板36は、押し子10への押圧により、外筒2の先端側に移動することが可能である。
【0071】
図10(f)は、係止板37を面内に約90度回転した状況を表す側面図である。係止板37は、その穴の短径Bの方向が左右に投影され、ガスケット9とほぼ等しく左右に広がって図示されている。
【0072】
図10(g)は、図10(f)の上方視である。この状況では、係止板37の穴の短径Bが係止板36の長径aよりも小さいため、係止板36は、この向きで係止板37の穴を通過することができない。したがって、押し子10を先端側へ移動しようとしても、係止板36が係止板37によって係止され、押し子10、ガスケット9及び係止板36は、外筒2の先端側に移動できない。
【0073】
このようにすることで、係止板36及び37からなるストッパにおいて、係止板36が係止板37を通過可能な状態(図10(d)及び(e))と、通過不可能な状態(図10(f)及び(g))とを構成することができる。これら2つの状態は、係止板37を約90度回転させることにより、可逆的に切り換えることができる。したがって、本発明の2室型プレフィルドシリンジ1において、使用直前までストッパにより押し子10の移動を制限しておき、使用時にストッパを解除して押し子10を押し込めるようにすることができる。
【0074】
押し子10は、プランジャ13(図1)又はプランジャ17(図9)を一体として先端側に移動できるため、係止板36及び37からなるストッパにより、プランジャ13又は17の移動も制限することができる。したがって、本発明に係る2室型プレフィルドシリンジ1において、薬剤室6が大気圧よりも低い圧力にあるときに、プランジャ13又は17に対して先端側への吸引力が作用しても、上述のようなストッパによりプランジャ13又は17の移動を制限できる。これにより、2室型プレフィルドシリンジ1における隔壁部8又はガスケット18の封止状態を、意図しないで開放状態とすることが避けられる。
【0075】
図10においては、係止板36及び37からなるストッパがプランジャ13又は17の移動を制限できることを示したが、ストッパの態様はこれに限定されない。ストッパは、隔壁部8の封止状態がプランジャ13の回転により開放状態となる場合に、プランジャ13の回転を制限することにより、隔壁部8を開放状態とすることを制限するものでもよい。
【0076】
以上、本発明の2室型プレフィルドシリンジを実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、本発明の2室型プレフィルドシリンジを構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0077】
また、本発明の2室型プレフィルドシリンジは、医用薬剤に適用するものに限らず、生理活性物質を用いる理化学実験装置等にも適用することができる。尚、上記実施形態において、シリンジ用容器は、外筒2、薬品出口封止部材、薬剤質6、溶媒室7、隔壁部8、プランジャ13、ガスケット14により構成される。
【0078】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る2室型プレフィルドシリンジを用いると、凍結乾燥した薬剤の溶解液導入に係る夾雑物の混入を防止することができると共に、使用現場においては、単純な押圧操作により速やかに薬液を生成して注入準備ができるので、臨床医療現場での利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0080】
1 2室型プレフィルドシリンジ
2 外筒
3 テーパー部
4 先端突出部
5 開口部
6 薬剤室(第1室)
6a 縮径部
7 溶媒室(第2室)
8 隔壁部
9、14 ガスケット
10 押し子
11 薬剤
12 溶媒
13 プランジャ
20a、20b、26 冷却手段
21 ヒータ
25 薬液
34、35 突起
36、37 係止板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に薬液出口を有する外筒と、前記薬液出口を封止する薬液出口封止部材と、前記外筒内の先端側に設けられる第1室と、前記外筒の基端側に設けられる第2室と、開口部を有し前記第1室と前記第2室を仕切る隔壁部と、前記開口部に挿通されたプランジャと、前記プランジャの先端部に設けられた開口封止部材とを有し、
前記開口封止部材は、前記プランジャの基端方向への移動にともない、前記開口部を前記隔壁部よりも先端側から液密に封止することを特徴とするシリンジ用容器。
【請求項2】
前記開口封止部材は、可撓性材料により構成されるガスケットであることを特徴とする請求項1記載のシリンジ用容器。
【請求項3】
前記プランジャ、または前記第2室の前記外筒内周面に複数の突起を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリンジ用容器。
【請求項4】
前記隔壁部には、前記開口封止部材の封止状態を保持する保持部を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のシリンジ用容器。
【請求項5】
前記プランジャの基端側には、外筒封止部材と、押し子とが取り付け可能であり、前記押し子の摺動に応じて前記プランジャが摺動することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項6】
前記開口封止部材は、
前記第1室内に収容した薬液を凍結乾燥により溶媒を蒸散させ、前記第2室内で前記蒸散させた溶媒を所定の冷却手段によって冷却して凍結させる第1開放状態と、
前記第2室内で前記凍結した溶媒を融解する封止状態と、
前記第1室に収容された溶質と、前記第2室に収容された溶媒を混合する第2開放状態とを有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項7】
外筒と、前記外筒内の先端側に設けられる第1室と、前記外筒の基端側に設けられる第2室と、開口部を有し前記第1室と前記第2室を仕切る隔壁部と、前記開口部を開封可能な開口封止部材を有するシリンジにおいて、
前記開口封止部材の開口開放状態において、前記第1室内に収容した薬液を凍結する工程と、
前記開口封止部材の開口開放状態において、前記第1室内に収容した薬液の溶媒を蒸散させ、前記第2室に設けられた冷却手段によって前記蒸散した溶媒を冷却して前記第2室内で凍結する工程と、
前記開口封止部材の開口封止状態において、前記第2室内で凍結した溶媒を融解する工程と、を有することを特徴とするプレフィルドシリンジの製造方法。
【請求項8】
先端に薬液出口を有する外筒と、前記薬液出口を封止する薬液出口封止部材と、前記外筒内の先端側に設けられ凍結乾燥された溶質が収納された第1室と、前記外筒の基端側に設けられ溶媒が収納された第2室と、開口部を有し前記第1室と前記第2室を仕切る隔壁部と、前記開口部に挿通されたプランジャと、前記プランジャの先端部に設けられ前記開口部を前記隔壁部よりも先端側から液密に封止する開口封止部材と、前記外筒の基端側を封止する外筒封止部材とを有するプレフィルドシリンジにおいて、
前記プランジャを前記外筒の先端方向に移動させることにより、前記開口封止部材による前記開口部への封止が解除され、前記第1室に収容された溶質と、前記第2室に収容された溶媒を混合することを特徴とするプレフィルドシリンジの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−42825(P2013−42825A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181087(P2011−181087)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】