説明

シリンダヘッドガスケット

【課題】エンジン外部への潤滑油のにじみを低減することができるシリンダヘッドガスケットを提供する。
【解決手段】内燃機関のシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装されて使用される金属製のシリンダヘッドガスケット11には、シリンダヘッドへ供給される潤滑油の通路となる潤滑油孔14を囲繞する高圧ビード23が形成され、空間部25を囲む低圧ビード24が高圧ビード23も囲むように形成されている。低圧ビード24は、エンジンのタイミングトレイン系21が収容される空間22内の潤滑油シール用のビードである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダヘッドガスケットに係り、詳しくは内燃機関のシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装されて使用されるシリンダヘッドガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のシリンダヘッドガスケットは、内燃機関のシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に挟まれた状態でボルトにより締結され、燃焼ガス、オイル(潤滑油)、冷却水等の流体をシールする役割を果たす。そして、シリンダヘッドガスケットには燃焼ガス、オイル、冷却水、ボルト等が通る孔がそれぞれ所定の位置に形成されるとともに、各孔の周囲にはシール用の様々なビードが形成されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。ビードはシールすべき対象により、シリンダヘッドガスケットがボルトにより締め付けられた状態におけるシール圧が異なるように形成されている。例えば、高いシール圧が要求される高圧ビードとしてはシリンダブロックからシリンダヘッドへ潤滑油を供給する通路用の孔(潤滑油孔)をシールするためのビードが有り、高いシール圧が要求されない低圧ビードとしてはボルト孔の周囲をシールするためのビードが有る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−64776号公報
【特許文献2】特開2000−220740号公報
【特許文献3】特開平8−285080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、潤滑油孔を囲繞する高圧ビードが存在しても、ビードのヘタリや高圧油等の過酷使用環境下では、高圧ビードを潤滑油が乗り越える虞がある。そして、高圧ビードを乗り越えた潤滑油は、シリンダヘッドガスケットとシリンダヘッドとの隙間に沿って移動し、エンジン外部へにじみ出る虞がある。
【0005】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、エンジン外部への潤滑油のにじみを低減することができるシリンダヘッドガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、内燃機関のシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装されて使用されるシリンダヘッドガスケットであって、シリンダヘッドへ供給される潤滑油の通路となる潤滑油孔を囲繞する高圧ビードが形成され、使用状態においてエンジンの潤滑油貯留部に連通する空間部を囲む低圧ビードが前記高圧ビードも囲むように形成されている。ここで、高圧ビードと低圧ビードとの違いは、シリンダヘッドガスケットがシリンダブロックとシリンダヘッドの間に締め付け固定された状態におけるシール圧が高いか低いかで区別される。
【0007】
この発明では、シリンダヘッドガスケットがシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に締め付け固定されて使用された場合、潤滑油孔を囲繞する高圧ビードを潤滑油が乗り越えても、高圧ビードも囲むように形成された低圧ビードの存在により、高圧ビードを乗り越えた潤滑油がエンジン外部へにじみ出ることが低減される。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記低圧ビードは、エンジンのタイミングトレイン系が収容される空間内の潤滑油シール用のビードである。ここで、「タイミングトレイン系」とは、エンジンのバルブの動弁機構にクランクシャフトの回転を伝達する機能を果たす動力伝達系を意味し、動力伝達にタイミングチェーンやタイミングベルトを使用する巻き掛け伝動機構やタイミングギヤを使用する歯車伝動機構がある。この発明では、潤滑油孔を囲繞する高圧ビードを乗り越えた潤滑油は、タイミングトレイン系が収容されている空間を経由して潤滑油貯留部としてのオイルパンに戻され、オイル損失が抑制される。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記低圧ビードと前記高圧ビードとの間に平坦部が存在する。低圧ビードと高圧ビードとの間に平坦部を設けずに両ビードの山が連続する状態に形成することも可能であるが、形成が難しい。この発明では、低圧ビードと高圧ビードとの間に平坦部が存在するため、低圧ビード及び高圧ビードを所望の高さに形成することが容易になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エンジン外部への潤滑油のにじみを低減することができるシリンダヘッドガスケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)はシリンダヘッドガスケットの部分平面図、(b)は(a)の部分拡大図。
【図2】図1(a)のA−A線における拡大模式断面図。
【図3】低圧ビード及び高圧ビードの違いを説明する模式断面図。
【図4】高圧ビードを乗り越えたオイルの流れを示す模式図であり、(a)は低圧ビードがチャンバーに沿って形成された場合を示し、(b)は低圧ビードが高圧ビードを囲むように形成された場合を示す。
【図5】別の実施形態の低圧ビード及び高圧ビードの違いを説明する模式断面図。
【図6】別の実施形態のシリンダヘッドガスケットの部分平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図4にしたがって説明する。
図1に示すように、シリンダヘッドガスケット11は、長手方向に沿って複数のシリンダボア用孔12が所定の間隔で形成されている。また、シリンダヘッドガスケット11には、シリンダボア用孔12の他に、ボルト孔13、潤滑油孔14、オイル戻し孔15、冷却水孔16が形成されている。ボルト孔13は、シリンダヘッドガスケット11がシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に配置された状態でシリンダブロックとシリンダヘッドとを締結する締結ボルトが貫通される孔であり、潤滑油孔14は、シリンダブロックからシリンダヘッドへ供給される潤滑油(エンジンオイル)の通路となる孔である。オイル戻し孔15は、潤滑油を潤滑油貯留部としてのオイルパンへ戻す通路となる孔であり、冷却水孔16は、エンジン冷却水をシリンダブロックからシリンダヘッドへ循環させる通路となる孔である。潤滑油孔14は1個形成され、オイル戻し孔15及び冷却水孔16はそれぞれ複数形成されている。
【0013】
図2に示すように、シリンダヘッドガスケット11は、2枚の基板11aと、両基板11aに挟まれた1枚の副板11bとにより3層構成になっている。基板11a及び副板11bは、弾性金属薄板、例えばステンレスばね鋼板で形成されている。そして、副板11bにビードが形成されている。
【0014】
各シリンダボア用孔12の周囲には燃焼ガスシール用のビード17が円形状に形成されている。オイル戻し孔15の周囲にはオイルシール用のビード18が、冷却水孔16の周囲には水シール用のビード19がそれぞれ形成されている。また、ボルト孔13の周囲にもシール用のビード20がそれぞれ形成されている。各ビード17〜20はフルビードで構成されている。なお、図1(a),(b)において各ビード17〜20は1点鎖線で示している。
【0015】
潤滑油孔14は、シリンダヘッドガスケット11の長手方向一端側、エンジンのタイミングトレイン系21が収容される空間22と対応する側の隅部に形成され、潤滑油孔14の周囲には潤滑油孔14を囲繞する高圧ビード23が形成されている。「タイミングトレイン系」とは、エンジンのバルブの動弁機構にクランクシャフトの回転を伝達する機能を果たす動力伝達系を意味し、動力伝達にタイミングチェーンやタイミングベルトを使用する巻き掛け伝動機構やタイミングギヤを使用する歯車伝動機構がある。
【0016】
また、シリンダヘッドガスケット11の長手方向一端側には、タイミングトレイン系21が収容される空間22内の潤滑油シール用の低圧ビード24が形成されている。低圧ビード24は、空間22に対応する空間部25を囲むとともに、高圧ビード23も囲むように形成されている。詳述すると、低圧ビード24は、潤滑油孔14と対応する箇所以外の部分は空間部(チャンバー)25に沿って延び、潤滑油孔14と対応する箇所では低圧ビード24と空間部25との間に高圧ビード23が位置するように湾曲する状態で形成されている。
【0017】
高圧ビード23及び低圧ビード24も一点鎖線で示され、いずれもハーフビードで構成されている。ハーフビードは副板11bに傾斜(斜面)を設けることにより構成されている。高圧ビード23と低圧ビード24との違いは、シリンダヘッドガスケット11がシリンダブロックとシリンダヘッドの間に締め付け固定された状態におけるシール圧が高いか低いかで区別される。シール圧の大きさは、図3に示すように、シリンダヘッドガスケット11がシリンダブロックから取り外された状態におけるハーフビードの傾斜の傾きで異なり、高圧ビード23は低圧ビード24に比べて傾斜の傾きが大きい。傾斜の傾きは、所望の面圧となるように設定されている。
【0018】
次に前記のように構成されたシリンダヘッドガスケット11の作用を説明する。シリンダヘッドガスケット11は、内燃機関のシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に挟まれた状態でボルトにより締結されて使用される。シリンダヘッドガスケット11はボルトにより締結されると、各ビード17〜19、高圧ビード23、低圧ビード24のシリンダヘッドに対する面圧が高くなり所望のシール性が確保される。
【0019】
シリンダヘッドガスケット11の経時変化や過酷使用環境下においては、潤滑油孔14を通過する高圧の潤滑油の一部が高圧ビード23を乗り越える事態になる場合がある。この場合、図4(a)に示すように、低圧ビード24が空間部25に沿って形成されたシリンダヘッドガスケット11では、高圧ビード23を乗り越えた潤滑油はシリンダヘッドガスケット11の上面に沿って、矢印で示すように移動し、エンジン外部へにじみ出る。しかし、この実施形態では、低圧ビード24が空間部25に加えて高圧ビード23を囲むように形成されているため、高圧ビード23を乗り越えた潤滑油はシリンダヘッドガスケット11の上面に沿って移動してエンジン外部へにじみ出ることが抑制される。そして、図4(b)に示すように、高圧ビード23を乗り越えた潤滑油はシリンダヘッドガスケット11の上面に沿って矢印で示すように空間部25側へ向かって移動し、シリンダヘッドガスケット11の端部からタイミングトレイン系21が収容される空間22を経由してオイルパンへ戻される。
【0020】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)シリンダヘッドガスケット11は、シリンダヘッドへ供給される潤滑油の通路となる潤滑油孔14を囲繞する高圧ビード23が形成され、空間部25を囲む低圧ビード24が高圧ビード23も囲むように形成されている。したがって、シリンダヘッドガスケット11がシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に締め付け固定されて使用された場合、潤滑油孔14を囲繞する高圧ビード23を潤滑油が乗り越えても、高圧ビード23も囲むように形成された低圧ビード24の存在により、高圧ビード23を乗り越えた潤滑油がエンジン外部へにじみ出ることが低減される。
【0021】
(2)低圧ビード24は、エンジンのタイミングトレイン系21が収容される空間22内の潤滑油シール用のビードである。したがって、潤滑油孔14を囲繞する高圧ビード23を乗り越えた潤滑油は、タイミングトレイン系21が収容されている空間22を経由してオイルパンに戻され、オイル損失が抑制される。
【0022】
(3)潤滑油孔14はシリンダヘッドガスケット11の長手方向一端側で、エンジンのタイミングトレイン系21が収容される空間22と対応する側の隅部に形成されている。したがって、高圧ビード23を囲むように形成される低圧ビード24の湾曲部から空間部25までの距離は、潤滑油孔14がシリンダヘッドガスケット11の長手方向の中間部に形成された場合に比較して短くなり、高圧ビード23を乗り越えた潤滑油が空間22を経てオイルパンに戻りやすい。
【0023】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 図5に示すように、低圧ビード24及び高圧ビード23をフルビードで構成してもよい。フルビードにおけるシール圧の大きさは、シリンダヘッドガスケット11がシリンダブロックから取り外された状態におけるビードの山の高さで異なり、高圧ビード23は低圧ビード24に比べて山が高い。ビードの山の高さは、所望の面圧となるように設定されている。低圧ビード24は、高圧ビード23の近くを通る箇所においても高圧ビード23との間に平坦部26が存在する状態に形成されている。この場合も前記実施形態と同様な効果が得られる。なお、低圧ビード24が高圧ビード23の近くを通る箇所において、高圧ビード23との間に平坦部26を設けずに、低圧ビード24と高圧ビード23の山が連続する状態に形成することも可能であるが、形成が難しい。しかし、低圧ビード24と高圧ビード23との間に平坦部26が存在する場合は、低圧ビード24及び高圧ビード23を所望の高さに形成することが容易になる。
【0024】
○ 図6に示すように、シリンダヘッドガスケット11の低圧ビード24で囲まれる部分に面圧調整用ビード27を形成してもよい。面圧調整用ビード27は、低圧ビード24と同じ断面形状に形成される。低圧ビード24は閉ループではなく空間部25側が開放された状態に形成されているため、低圧ビード24の形状や面積によっては、シリンダヘッドガスケット11が締結固定された際に低圧ビード24や高圧ビード23に作用する面圧が不均一に場合がある。しかし、面圧調整用ビード27を設けることにより、低圧ビード24や高圧ビード23に作用する面圧を支障のない状態に調整することができる。
【0025】
○ 潤滑油孔14用の高圧ビード23を囲む低圧ビード24は、タイミングトレイン系21が収容される空間22の潤滑油シール用の低圧ビード24に限らず、シリンダヘッドガスケット11の使用状態においてエンジンの潤滑油貯留部に連通する空間部を囲むビードであればよい。例えば、オイル戻し孔15を囲むビード18がオイル戻し孔15及び高圧ビード23を囲むように形成してよい。この場合、シリンダヘッドガスケット11の使用時に、潤滑油孔14を囲繞する高圧ビード23を乗り越えた潤滑油はエンジン外部へにじみ出ることが抑制されてオイル戻し孔15からオイルパンへ戻される。
【0026】
○ 潤滑油孔14をシリンダヘッドガスケット11の長手方向一端側で、エンジンのタイミングトレイン系21が収容される空間22と対応する側の隅部に形成せずに、長手方向の中間部に形成してもよい。
【0027】
○ ボルト孔13用のビード20や、冷却水孔16用のビード19はフルビードではなくハーフビード(斜面)であってもよい。また、ボルト孔13用のビード20を省略してもよい。
【0028】
○ シリンダヘッドガスケット11は、3枚の弾性金属薄板で形成されたものに限られない。例えば、1枚の弾性金属薄板で形成してもよい。また、シリンダヘッドガスケット11を、各シリンダボア用孔12の周縁部分を適当な幅で囲繞する金属板と、シリンダボア用孔12の周縁部分を除くガスケット残部を、シリンダボア用孔12の周縁部分より厚さが薄く、かつ硬度の高い金属板を素材として形成し、両金属板をレーザー溶接してシリンダヘッドガスケットを構成してもよい。
【0029】
○ シリンダヘッドガスケット11は、シリンダボア用孔12、潤滑油孔14、オイル戻し孔15、冷却水孔16等の孔が形成された金属製の基板と、この基板の表面を覆って設けられた発泡ゴムからなるゴム層とを備え、ゴム層における各孔の周縁部は、その内部の気泡が潰された気泡圧潰部として形成されているものであってもよい。
【0030】
○ オープンデッキタイプのシリンダブロックに限らず、クローズドデッキタイプのシリンダブロックに適用してもよい。
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
【0031】
(1)請求項2又は請求項3に記載の発明において、前記潤滑油孔は、シリンダヘッドガスケットの使用時に、エンジンのタイミングトレイン系が収容される空間と対応する側の隅部に形成されている。
【符号の説明】
【0032】
11…シリンダヘッドガスケット、14…潤滑油孔、21…タイミングトレイン系、22…空間、23…高圧ビード、24…低圧ビード、25…空間部、26…平坦部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装されて使用されるシリンダヘッドガスケットであって、シリンダヘッドへ供給される潤滑油の通路となる潤滑油孔を囲繞する高圧ビードが形成され、使用状態においてエンジンの潤滑油貯留部に連通する空間部を囲む低圧ビードが前記高圧ビードも囲むように形成されていることを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【請求項2】
前記低圧ビードは、エンジンのタイミングトレイン系が収容される空間内の潤滑油シール用のビードである請求項1に記載のシリンダヘッドガスケット。
【請求項3】
前記低圧ビードと前記高圧ビードとの間に平坦部が存在する請求項1又は請求項2に記載のシリンダヘッドガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−140913(P2011−140913A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2252(P2010−2252)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000198237)石川ガスケット株式会社 (57)
【Fターム(参考)】