説明

シリンダヘッドガスケット

【課題】オープンデッキタイプのウォータージャケットを有するシリンダブロックシリンダヘッドとの間に介装されるシリンダヘッドガスケットにおいて、エンジン燃焼室近傍の冷却性能を高めることを可能にし、シリンダヘッドガスケットの外周にコーティングされている膜の剥離を防止する。
【解決手段】シリンダヘッドガスケット3を複数枚のプレート31,32,33の積層構造とし、シリンダヘッド側シールプレート32の、すくなくともシリンダボア11に対応する貫通孔の周囲領域100の上面に核沸騰促進部38を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オープンデッキタイプのウォータージャケットを有するシリンダブロックと前記ウォータージャケットと通じるウォータージャケットを有するシリンダヘッドとの間に介装されるシリンダヘッドガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンのシリンダブロックとシリンダヘッドとの間には、シリンダヘッドガスケットが挟み付けられている。このシリンダヘッドガスケットは、エンジンの燃焼室内での燃料の燃焼により発生する高温高圧の燃焼ガスが漏洩しないようにシールするものである。
【0003】
例えば、シリンダヘッドガスケットは、シリンダボアに対応する貫通孔を有するシリンダヘッド側シールプレートおよびシリンダブロック側シールプレートの間にシムプレートを挟んだ3層積層構造とされている。
【0004】
このシリンダヘッドガスケットには、シール性、耐熱性ならびに耐久性を高めるために、前記2つのシールプレートを鋼板として、シムプレートをアルミニウム合金などとしたタイプがある。なお、前記シリンダヘッド側シールプレートおよびシリンダブロック側シールプレートの外周には、それらの接触相手(シリンダブロックやシリンダヘッド)との密着性およびシール性を高めるために、ゴム材などの膜がコーティングされている。
【0005】
例えば特許文献1には、積層される上下すべてのシールプレートに、波打ったような凹凸状係合部を設けたものがある。この凹凸状係合部は、特許文献1の要約書および明細書の段落0012に記載されているように、複数のシールプレート相互の相対的なずれを抑制するとともに、シリンダヘッドとシリンダブロックを強固に連結するために設けられている。
【0006】
また、特許文献2には、シリンダシリンダブロック側ウォータージャケットのシリンダ側壁面に凹凸表面構造を設けることによって、核沸騰を助長させることにより、積極的な冷却を行うようにすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−65807号公報
【特許文献2】特開2010−196518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1,2に係る従来例では、エンジンの暖機中など、ウォーターポンプを停止させて冷却水を循環させないようにして、冷却水温度を上昇させることがあるが、その際、シリンダブロックのウォータージャケット内の冷却水が沸騰するようなことがあると、この沸騰によって発生する高温の気泡がシリンダヘッドガスケットのシールプレートのコーティング材を攻撃することによって、当該コーティング材が剥離してしまう可能性が高くなる。このような剥離が発生すると、シリンダヘッドガスケットのシール性が低下することになりかねない。
【0009】
このような事情に鑑み、本発明は、オープンデッキタイプのウォータージャケットを有するシリンダブロックと前記ウォータージャケットと通じるウォータージャケットを有するシリンダヘッドとの間に介装されるシリンダヘッドガスケットにおいて、エンジン燃焼室近傍の冷却性能を高めることを可能にし、例えばシリンダヘッドガスケットの外周に膜がコーティングされている場合にはこの膜の剥離を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、オープンデッキタイプのウォータージャケットを有するシリンダブロックと前記ウォータージャケットと通じるウォータージャケットを有するシリンダヘッドとの間に介装されるシリンダヘッドガスケットであって、その上面に核沸騰促進部が設けられている、ことを特徴としている。
【0011】
例えば前記両ウォータジャケットにおいてエンジンの燃焼室近傍で熱負荷が高くなるような場合には、そこの冷却水が沸騰しやすくなる。そのような場合には、シリンダヘッドガスケットの上面に設けている核沸騰促進部が発泡核として蒸気泡を優先的に発生するようになる。
【0012】
このような核沸騰(サブクール沸騰)が発生すると、気化潜熱でもってシリンダヘッドガスケットおよびその周辺が積極的に冷却されることになる。これに伴い、シリンダブロックおよびシリンダヘッドにおける燃焼室近傍が効率良く冷却されるようになる。
【0013】
しかも、核沸騰促進部をシリンダヘッドガスケットにおいてシリンダヘッド側ウォータージャケットに露呈する領域に設けている場合には、前記核沸騰によって発生する高温の気泡はシリンダヘッド側ウォータージャケット内で速やかに上昇することになるので、シリンダヘッドガスケットの上面近傍に前記高温の気泡が残留せずに済むようになる。そのために、例えばシリンダヘッドガスケットの外周に密着性およびシール性を高めるための膜をコーティングしている場合には、この膜が前記高温の気泡によって攻撃されなくなるので、この膜が剥離しにくくなる。
【0014】
好ましくは、前記核沸騰促進部は、少なくともシリンダボアに対応する貫通孔の周囲領域に設けられている。
【0015】
ここでは、核沸騰促進部を設ける領域について熱負荷の高い領域に特定している。この特定によってシリンダボアの冷却性能が向上するようになる。
【0016】
好ましくは、前記核沸騰促進部は、凹みあるいは凹凸とされている。ここでは、核沸騰促進部について凹みの内面の表面積を大きくするような形状に特定している。この特定によれば核沸騰の発生起点を明確にできるようになる。
【0017】
好ましくは、傾斜姿勢とされる前記シリンダブロックのウォータージャケットのシリンダヘッド側開口において鉛直方向最上領域に対応する領域には、気泡逃がし用の貫通孔が設けられている。
【0018】
この構成では、例えばシリンダブロック側ウォータージャケット内に露呈しているシリンダヘッドガスケットの下面から核沸騰によって高温の気泡が発生するような場合に、この高温の気泡がシリンダブロック側ウォータージャケット内において鉛直方向最上領域に集まるようになるが、この高温の気泡は前記最上領域に対応してシリンダヘッドガスケットに設けられている気泡逃がし用の貫通孔を通ってシリンダヘッド側ウォータージャケットに速やかに抜け出るようになる。
【0019】
これにより、シリンダブロック側ウォータージャケット内に発生した高温の気泡がシリンダヘッドガスケットの下面近傍に残留しなくなる。そのために、例えばシリンダヘッドガスケットの外周に密着性およびシール性を高めるための膜をコーティングしている場合には、この膜が前記高温の気泡によって攻撃されなくなるので、この膜が剥離しにくくなる。
【0020】
好ましくは、本発明のシリンダヘッドガスケットは、複数枚のプレートの積層構造とされ、そのうちのシリンダヘッド側シールプレートの上面に前記核沸騰促進部が設けられている。
【0021】
ここでは、シリンダヘッドガスケットの構成を積層構造に特定し、シリンダヘッドガスケットを構成する複数枚のシールプレートのうち、シリンダヘッド側ウォータージャケット内に露呈するシリンダヘッド側シールプレートを、核沸騰促進部の形成対象部材に特定している。
【0022】
好ましくは、前記シリンダヘッドガスケットは、シリンダボアに対応する貫通孔を有するシリンダヘッド側シールプレートおよびシリンダブロック側シールプレートの間にシムプレートを挟んだ3層積層構造とされ、前記両シールプレートの外周には接触相手との密着性およびシール性を高めるための膜がコーティングされている。
【0023】
ここでは、シリンダヘッドガスケットの構成を3層積層構造にさらに特定し、2つのシールプレートの外周に膜をコーティングすることを特定している。この特定によれば、シリンダブロックとシリンダヘッドとの結合面の密着性ならびにシール性が高められるようになる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、オープンデッキタイプのウォータージャケットを有するシリンダブロックと前記ウォータージャケットと通じるウォータージャケットを有するシリンダヘッドとの間に介装されるシリンダヘッドガスケットにおいて、エンジンの燃焼室近傍の冷却性能を高めることが可能になる。ひいてはシリンダヘッドガスケットの外周に膜がコーティングされている場合にはこの膜が剥離することを防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るシリンダヘッドガスケットの適用対象となる水冷式エンジンの一実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1のシリンダヘッドガスケットおよびその周辺部分を拡大して示す図である。
【図3】図2の二点鎖線で囲む領域を拡大して示す図である。
【図4】図1のシリンダブロックおよびシリンダヘッドガスケットを分離した状態を示す上面図である。
【図5】図1から図4のシリンダヘッドガスケットにおいて核沸騰促進部の形成領域の一例を説明するための上面図である。
【図6】図1のシリンダブロック側ウォータージャケットとシリンダヘッドガスケットの気泡逃がし用貫通孔との相対的な位置関係を説明するための斜視図である。
【図7】図1から図4のシリンダヘッドガスケットにおいて核沸騰促進部の形成領域の他例を説明するための上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
図1から図6に、本発明の一実施形態を示している。この実施形態では、直列4気筒型の水冷式エンジンを例に挙げている。図中、1はシリンダブロック1はシリンダヘッド、3はシリンダヘッドガスケットを示している。
【0028】
シリンダブロック1には、複数(この実施形態では4つ)のシリンダボア11・・・が設けられている。このシリンダブロック1において各シリンダボア11を囲むようにウォータジャケット12が設けられている。
【0029】
このシリンダブロック側ウォータジャケット12は、例えばサイアミーズ形式とされて4つのシリンダボア11の周囲を囲むような形状とされており、シリンダブロック1において一般に熱負荷が高くなる上側に設けられている。そして、シリンダブロック側ウォータジャケット12はシリンダブロック1の上面で開口されている。このようなシリンダブロック1が、いわゆるオープンデッキ構造と呼ばれる。
【0030】
シリンダヘッド2には、複数(この実施形態では4つ)の燃焼室を作るための凹部21・・・が設けられているとともに、吸気ポート22および排気ポート23が設けられている。このシリンダヘッド2には、ウォータジャケット24が設けられている。このシリンダヘッド側ウォータジャケット24は、基本的に燃焼室を作るための凹部21と排気ポート23の周辺に設けられており、下側つまりシリンダブロック1側へ向けて開口されている。
【0031】
シリンダヘッドガスケット3は、シリンダブロック1とシリンダヘッド2との間に介装されている。このシリンダヘッドガスケット3は、シリンダブロック側シールプレート31およびシリンダヘッド側シールプレート32の間にシムプレート33を挟んだ3層積層構造とされている。
【0032】
前記2つのシールプレート31,32は鋼板とされ、シムプレート33はアルミニウム合金などとされることによって、シール性、耐熱性ならびに耐久性が高められている。また、両シールプレート31,32の外周には、それらの接触相手(シリンダブロック1やシリンダヘッド2)との密着性およびシール性を高めるために、膜34が被覆形成されている。この膜34の素材としては、例えばフッ素系ゴム、ニトリル系ゴムあるいはエラストマーなどとすることができる。
【0033】
そして、シリンダヘッドガスケット3は、その外縁形状がシリンダブロック1の上面の外縁形状に近似するように形成されており、このシリンダヘッドガスケット3には、4つのシリンダボア11・・・に対応する貫通孔35・・・と、シリンダブロック側ウォータジャケット12とシリンダヘッド側ウォータジャケット24との間で冷却水の流通を可能とするための通水孔36・・・と、シリンダブロック1とシリンダヘッド2とを連結するためのボルト(図示省略)が挿通されるボルト孔37・・・が設けられている。なお、通水孔36は、吸気ポート22側よりも排気ポート23側に多く設けられている。
【0034】
さらに、シリンダヘッドガスケット3のシリンダブロック側シールプレート31およびシリンダヘッド側シールプレート32とには、それぞれ相手側へ向けて突出するビード31a,32aが設けられている。このビード31a,32aは、例えばプレス加工によって形成されるが、シリンダブロック1とシリンダヘッド2との連結に伴う圧接力によって弾性変形させられることによってシール性を高めるために設けられている。
【0035】
この実施形態では、図2から図5に示すように、シリンダヘッド側シールプレート32の上面において貫通孔35の周囲領域に、多数の微細な核沸騰促進部38が設けられている。詳しくは、核沸騰促進部38は、図5のクロスハッチングで示すように、シリンダヘッド側シールプレート32の上面においてシリンダヘッド側ウォータージャケット24に露呈する領域100に設けられている。
【0036】
この核沸騰促進部38は、断面略V字形またはU字形の凹みとされており、その開口幅は例えばμm単位あるいはnm単位に設定される。なお、この核沸騰促進部38は、凹みとせずに、凹みと凸部とが混在したものとすることが可能である。
【0037】
この凹みからなる核沸騰促進部38は、例えばシリンダヘッド側シールプレート32に膜34を被覆形成した後で適宜の工具を用いて、線状に引っ掻いたり、あるいはドット状に凹ませたりすることにより作ることが可能であり、その他には、例えばプレス加工等による型の転写で作ることが可能である。さらに、核沸騰促進部38を凹凸とする場合には、例えばシリンダヘッド側シールプレート32の上面および膜34を腐食させることにより、多数の微細な凹凸を作ることが可能である。
【0038】
このような核沸騰促進部38を設けている場合には、シリンダヘッド側シールプレート32の上面における局部の表面積が拡大されるから、シリンダヘッド側ウォータージャケット24内の冷却水の温度上昇に伴いシリンダヘッド側シールプレート32の全体が昇温すると、核沸騰促進部38の存在領域が発泡核として蒸気泡を発生するようになる。つまり、核沸騰促進部38で優先的に核沸騰(サブクール沸騰)が発生することになって高温の気泡が発生するようになる。この核沸騰が発生すると、気化潜熱でもってシリンダヘッドガスケット3のシリンダヘッド側シールプレート32およびその周辺が積極的に冷却されることになる。
【0039】
さらに、図2および図6に示すように、傾斜姿勢とされるシリンダブロック1のウォータージャケット12のシリンダヘッド側開口において鉛直方向最上領域(図6の200,201)に対応する領域には、気泡逃がし用貫通孔39が設けられている。
【0040】
このような気泡逃がし用貫通孔39を設けている場合には、次のような点で有利になる。仮にシリンダブロック側ウォータージャケット12内に露呈しているシリンダヘッドガスケット3のシリンダブロック側シールプレート31の下面から核沸騰によって高温の気泡が発生するような場合に、この高温の気泡がシリンダブロック側ウォータージャケット12の上側開口において鉛直方向最上領域(図6の200,201)に上昇して集まるようになる。そのため、この最上領域(図6の200,201)に集まった高温の気泡が、シリンダヘッドガスケット3の貫通孔39を通ってシリンダヘッド側ウォータージャケット24へ抜け出るようになる。
【0041】
ところで、図示していないが、水冷式エンジンには例えば電動式ウォータポンプが設置されており、このウォーターポンプを作動させると、冷却水がシリンダブロック側ウォータジャケット12に導入されてからシリンダヘッドガスケット3の通水孔36を通じてシリンダヘッド側ウォータージャケット24に流れるようになる。この冷却水の循環によりシリンダブロック1のシリンダボア11における燃焼室寄り領域が冷却されるとともに、シリンダヘッド2において燃焼室(凹み21)の周囲や排気ポート23の周囲が冷却されるようになる。
【0042】
エンジンの暖機運転中は、前記ウォーターポンプを非作動とすることにより冷却水を循環させないようにして、シリンダブロック側ウォータジャケット12やシリンダヘッド側ウォータージャケット24内の冷却水の昇温を促進させるようにする。
【0043】
このような暖機運転中、あるいはエンジンが高負荷になっている状況では、両ウォータージャケット12,24の燃焼室近傍の熱負荷が高くなり、その領域で冷却水が沸騰しやすくなる。そのような場合には、シリンダヘッドガスケット3のシリンダヘッド側シールプレート32の上面に設けている核沸騰促進部38が発泡核として蒸気泡を発生するようになる。このような核沸騰が発生すると、気化潜熱でもってシリンダヘッドガスケット3のシリンダヘッド側シールプレート32およびその周辺が積極的に冷却されることになる。これにより、シリンダブロック1およびシリンダヘッド2における燃焼室近傍が効率良く冷却されるようになる。
【0044】
しかも、核沸騰促進部38がシリンダヘッド側ウォータージャケット24内に露呈しているから、前記核沸騰によって発生する高温の気泡はシリンダヘッド側ウォータージャケット24内で速やかに上昇することになるので、シリンダヘッドガスケット3のシリンダヘッド側シールプレート32の近傍に高温の気泡が残留せずに済むようになる。そのために、このシリンダヘッド側シールプレート32の外周にコーティングされている膜34が前記高温の気泡によって攻撃されなくなるので、この膜34が剥離しにくくなる。
【0045】
ところで、シリンダブロック側ウォータージャケット12内に露呈しているシリンダブロック側シールプレート31の下面から核沸騰によって高温の気泡が発生した場合には、この高温の気泡がシリンダブロック側ウォータージャケット12内において鉛直方向最上領域(図6の符号200,201参照)に集まるようになるが、この高温の気泡は前記最上領域に対応してシリンダヘッドガスケット3に設けられている気泡逃がし用の貫通孔39を通ってシリンダヘッド側ウォータージャケット24に速やかに抜け出るようになる。
【0046】
これにより、シリンダブロック側ウォータージャケット12内に発生した高温の気泡が、シリンダヘッドガスケット3のシリンダブロック側シールプレート31の下面近傍に残留しなくなる。そのために、このシリンダブロック側シールプレート31の外周にコーティングされている膜34が前記高温の気泡によって攻撃されなくなるので、この膜34が剥離することも防止されるようになる。
【0047】
そして、前記のようにシリンダヘッド側ウォータジャケット24内で上昇した気泡は、図示していないエンジン外部の冷却水循環路に移動し、当該循環路内に存在する比較的低温の冷却水により消失されることになる。
【0048】
以上説明したように本発明を適用した実施形態では、シリンダヘッドガスケット3のシリンダヘッド側シールプレート32の上面に核沸騰促進部38を設けることによって、シリンダブロック1とシリンダヘッド2とにおける燃焼室近傍を効率良く冷却することが可能になる。
【0049】
しかも、シリンダヘッド側ウォータージャケット24内に露呈している核沸騰促進部38を起点として発生する高温の気泡がシリンダヘッド側ウォータージャケット24内を速やかに上昇するようになるから、前記高温の気泡がシリンダヘッド側シールプレート32の上面近傍に残留しにくくなり、当該シリンダヘッド側シールプレート32の外周にコーティングされる膜34が剥離しにくくなる。したがって、本発明によれば、シリンダヘッドガスケット3によるシール性を長期にわたって確保することが可能になる。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲内で適宜に変更することが可能である。
【0051】
(1)上記実施形態では、本発明のシリンダヘッドガスケット3の適用対象として直列4気筒型エンジンを例に挙げているが、本発明の適用対象となるエンジンの型式や気筒数は特に限定されるものではない。
【0052】
(2)上記実施形態では、核沸騰促進部38をシリンダヘッド側シールプレート32の上面のみに設けるようにした例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばシリンダブロック側シールプレート31の下面にも核沸騰促進部38を設けるようにしてもよい。
【0053】
(3)上記実施形態では、核沸騰促進部38をシリンダヘッド側シールプレート32の上面においてシリンダヘッド側ウォータージャケット24に対応する領域(図5の符号100)に設けるようにした例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、核沸騰促進部38の形成領域としては、シリンダヘッド側シールプレート32の上面において図7のクロスハッチングで示す領域101とすることが可能である。詳しくは、前記領域101は、シリンダヘッド側シールプレート32の上面において、シリンダヘッド側ウォータージャケット24の内側内壁面(凹部21寄り内壁面)を中心として、シリンダヘッド側ウォータージャケット24内にはみ出す位置から前記内側内壁面にはみ出す位置までの領域とすることができる。
【0054】
(4)上記実施形態では、気泡逃がし用の貫通孔39を設けるようにした例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば前記貫通孔39を設けていない形態とすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、オープンデッキタイプのウォータージャケットを有するシリンダブロックと前記ウォータージャケットと通じるウォータージャケットを有するシリンダヘッドとの間に介装されるシリンダヘッドガスケットに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 シリンダブロック
11 シリンダボア
12 シリンダブロック側ウォータージャケット
2 シリンダヘッド
21 燃焼室形成用の凹部
23 排気ポート
24 シリンダヘッド側ウォータージャケット
3 シリンダヘッドガスケット
31 シリンダブロック側シールプレート
32 シリンダヘッド側シールプレート
33 シムプレート
34 膜
35 シリンダボアに対応する貫通孔
36 通水孔
38 核沸騰促進部
39 気泡逃がし用の貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オープンデッキタイプのウォータージャケットを有するシリンダブロックと前記ウォータージャケットと通じるウォータージャケットを有するシリンダヘッドとの間に介装されるシリンダヘッドガスケットであって、
その上面に核沸騰促進部が設けられている、ことを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【請求項2】
請求項1に記載のシリンダヘッドガスケットにおいて、
前記核沸騰促進部は、少なくともシリンダボアに対応する貫通孔の周囲領域に設けられている、ことを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシリンダヘッドガスケットにおいて、
前記核沸騰促進部は、凹みあるいは凹凸とされている、ことを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のシリンダヘッドガスケットにおいて、
傾斜姿勢とされる前記シリンダブロックのウォータージャケットのシリンダヘッド側開口において鉛直方向最上領域に対応する領域には、気泡逃がし用の貫通孔が設けられている、ことを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のシリンダヘッドガスケットは、複数枚のプレートの積層構造とされ、そのうちのシリンダヘッド側シールプレートの上面に前記核沸騰促進部が設けられている、ことを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【請求項6】
請求項5に記載のシリンダヘッドガスケットは、
シリンダボアに対応する貫通孔を有するシリンダヘッド側シールプレートおよびシリンダブロック側シールプレートの間にシムプレートを挟んだ3層積層構造とされ、前記両シールプレートの外周には接触相手との密着性およびシール性を高めるための膜がコーティングされている、ことを特徴とするシリンダヘッドガスケット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−107582(P2012−107582A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257803(P2010−257803)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】