説明

シリンダライナの潤滑構造

【課題】ピストンのスカートとシリンダライナとの間の流体潤滑状態下での摩擦係数を低減し得、燃費向上を図り得るシリンダライナの潤滑構造を提供する。
【解決手段】ピストン2下死点位置のオイルリング溝10a下面より下側におけるシリンダライナ1a下部内面に、潤滑面積を低減するための凹溝11を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダライナの潤滑構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等におけるエンジンにおいては、図9に示される如く、シリンダ1内に収容されたピストン2がピストンピン3を介しコンロッド4の小端部4aにより揺動自在に支持されており、該コンロッド4の大端部4bがクランクピン5を介しクランクシャフト6と連結されている。
【0003】
前記クランクピン5はクランクアーム6aによりクランクシャフト6の中心からずらした位置に支持されており、該クランクピン5がクランクシャフト6の中心回りに円軌道(図9中の一点鎖線を参照)を描いて移動するようになっているので、コンロッド4がピストンピン3を中心に揺動しつつピストン2がシリンダ1内を昇降することになる。
【0004】
ここで、前記ピストン2は、潤滑油を介してシリンダライナ1a内面を潤滑しながら摺動し、ピストン2のスカート7(ピストン2のオイルリング装着部より下の部分)は、爆発上死点付近を除いて、油膜を挟んで摩擦面同士が離れて滑るいわゆる流体潤滑状態下で潤滑が行われている。
【0005】
尚、エンジンのシリンダに関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【特許文献1】特開平8−200145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述の如き従来のシリンダライナ1aにおいては、ピストン2のスカート7との潤滑状態に関して何ら考慮がなされておらず、シリンダライナ1aの内面は、全て一様な表面粗さで製造されており、ピストン2のスカート7とシリンダライナ1aとの間の流体潤滑状態下での摩擦係数を低減することは困難となっており、燃費に関しても改善の余地が残されていた。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、ピストンのスカートとシリンダライナとの間の流体潤滑状態下での摩擦係数を低減し得、燃費向上を図り得るシリンダライナの潤滑構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、オイルリング溝にオイルリングを嵌装したピストンが軸線方向へ摺動自在に嵌入されるシリンダライナの潤滑構造であって、
ピストン下死点位置のオイルリング溝下面より下側におけるシリンダライナ下部内面に、潤滑面積を低減するための凹溝を形成したことを特徴とするシリンダライナの潤滑構造にかかるものである。
【0009】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0010】
前述の如く、ピストン下死点位置のオイルリング溝下面より下側におけるシリンダライナ下部内面に、潤滑面積を低減するための凹溝を形成すると、シリンダライナに形成した凹溝の深さ分の段差が生じ、実質的なピストンのスカート側との潤滑面が凹溝の存在しない領域だけに限定され、これによりピストンのスカートにおける潤滑面積が低減されて摩擦力が大幅に減少することになる。
【0011】
しかも、前記ピストンのスカートとシリンダライナの凹溝が存在しない領域との間は、油膜を介し摩擦面同士が離れて滑っている流体潤滑の状態となるが、凹溝が存在しない領域では、ピストンクリアランスが詰まってピストンの摺動時における油膜厚さが薄くなり、これにより摩擦係数が小さく抑えられて摩擦力が更に減少し、燃費を向上させることが可能となる。
【0012】
尚、ピストン下死点位置のオイルリング溝下面より下側におけるシリンダライナ下部内面に対しては、オイルリングは全く接触しないため、該オイルリング及びその上部に嵌入されている各ピストンリングによる潤滑やガス及び油のシール性に影響を及ぼす心配はない。
【0013】
前記シリンダライナの潤滑構造においては、前記凹溝を、シリンダライナの軸線方向へ延びるようシリンダライナの周方向に多数配列することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のシリンダライナの潤滑構造によれば、ピストンのスカートとシリンダライナとの間の流体潤滑状態下での摩擦係数を低減し得、燃費向上を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0016】
図1〜図4は本発明を実施する形態の一例であって、図中、図9と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図9に示す従来のものと同様であるが、本図示例の特徴とするところは、図1〜図4に示す如く、ピストン2下死点位置のオイルリング溝10a下面より下側におけるシリンダライナ1a下部内面に、潤滑面積を低減するための凹溝11を形成した点にある。
【0017】
尚、図1に示すピストン2の外周面には、上から順に、トップリング溝8a、セカンドリング溝9a、オイルリング溝10aを凹設し、該トップリング溝8a、セカンドリング溝9a、オイルリング溝10aにそれぞれ、トップリング8、セカンドリング9、オイルリング10を嵌装してある。
【0018】
本図示例の場合、前記潤滑面積を低減するための凹溝11は、図2に示す如く、シリンダライナ1aの軸線方向(ピストン2の摺動方向)へ延びるよう、シリンダライナ1aの周方向に多数配列し、図3に示す前記凹溝11の深さdは、およそ30[μm]以下となるようにしてある。
【0019】
次に、上記図示例の作用を説明する。
【0020】
前述の如く、ピストン2下死点位置のオイルリング溝10a下面より下側におけるシリンダライナ1a下部内面に、潤滑面積を低減するための凹溝11を形成すると、シリンダライナ1aに形成した凹溝11の深さ分の段差が生じ、実質的なピストン2のスカート7側との潤滑面が凹溝11の存在しない領域だけに限定され、これによりピストン2のスカート7における潤滑面積が低減されて摩擦力が大幅に減少することになる。
【0021】
しかも、前記ピストン2のスカート7とシリンダライナ1aの凹溝11が存在しない領域との間は、油膜を介し摩擦面同士が離れて滑っている流体潤滑の状態となるが、一般に、図4のストライベック線図で示すように、流体潤滑の領域では、油膜厚さが薄くなるほど摩擦係数が小さくなるため、凹溝11が存在しない領域では、ピストンクリアランスが詰まってピストン2の摺動時における油膜厚さが薄くなり、これにより摩擦係数が小さく抑えられて摩擦力が更に減少し、燃費を向上させることが可能となる。
【0022】
尚、ピストン2下死点位置のオイルリング溝10a下面より下側におけるシリンダライナ1a下部内面に対しては、トップリング8並びにセカンドリング9は勿論のこと、オイルリング10は全く接触しないため、該トップリング8並びにセカンドリング9とオイルリング10による潤滑やシール性に影響を及ぼす心配はない。
【0023】
こうして、ピストン2のスカート7とシリンダライナ1aとの間の流体潤滑状態下での摩擦係数を低減し得、燃費向上を図り得る。
【0024】
図5は本発明を実施する形態の一例における凹溝11の変形パターン参考例を示す図であって、四角形状の凹溝11をシリンダライナ1aの軸線方向並びに周方向へ多数千鳥状に配列したものである。
【0025】
図5に示す如く、四角形状の凹溝11をシリンダライナ1aの軸線方向並びに周方向へ多数千鳥状に配列しても、図1〜図4に示す例の場合と同様、ピストン2のスカート7とシリンダライナ1aとの間の流体潤滑状態下での摩擦係数を低減し得、燃費向上を図り得る。
【0026】
図6は本発明を実施する形態の一例における凹溝11の変形パターン参考例を示す図であって、円形状の凹溝11をシリンダライナ1aの軸線方向並びに周方向へ多数千鳥状に配列したものである。
【0027】
図6に示す如く、円形状の凹溝11をシリンダライナ1aの軸線方向並びに周方向へ多数千鳥状に配列しても、図1〜図4に示す例の場合と同様、ピストン2のスカート7とシリンダライナ1aとの間の流体潤滑状態下での摩擦係数を低減し得、燃費向上を図り得る。
【0028】
図7は本発明を実施する形態の一例における凹溝11の変形パターン参考例を示す図であって、菱形状の凹溝11をシリンダライナ1aの軸線方向並びに周方向へ多数千鳥状に配列したものである。
【0029】
図7に示す如く、菱形状の凹溝11をシリンダライナ1aの軸線方向並びに周方向へ多数千鳥状に配列しても、図1〜図4に示す例の場合と同様、ピストン2のスカート7とシリンダライナ1aとの間の流体潤滑状態下での摩擦係数を低減し得、燃費向上を図り得る。
【0030】
図8は本発明を実施する形態の一例における凹溝11の変形パターン参考例を示す図であって、シリンダライナ1aの軸線方向に対し所要の傾斜角度で斜めに延びる凹溝11をシリンダライナ1aの周方向に多数配列したものである。
【0031】
図8に示す如く、シリンダライナ1aの軸線方向に対し所要の傾斜角度で斜めに延びる凹溝11をシリンダライナ1aの周方向に多数配列しても、図1〜図4に示す例の場合と同様、ピストン2のスカート7とシリンダライナ1aとの間の流体潤滑状態下での摩擦係数を低減し得、燃費向上を図り得る。
【0032】
尚、本発明のシリンダライナの潤滑構造は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す側断面図である。
【図2】本発明を実施する形態の一例におけるシリンダライナの内面を示す図であって、シリンダライナの軸線方向へ延びる凹溝をシリンダライナの周方向に多数配列した例を示す図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】油膜厚さと摩擦係数との関係を示すストライベック線図である。
【図5】本発明を実施する形態の一例における凹溝の変形パターン参考例を示す図であって、四角形状の凹溝をシリンダライナの軸線方向並びに周方向へ多数千鳥状に配列した参考例を示す図である。
【図6】本発明を実施する形態の一例における凹溝の変形パターン参考例を示す図であって、円形状の凹溝をシリンダライナの軸線方向並びに周方向へ多数千鳥状に配列した参考例を示す図である。
【図7】本発明を実施する形態の一例における凹溝の変形パターン参考例を示す図であって、菱形状の凹溝をシリンダライナの軸線方向並びに周方向へ多数千鳥状に配列した参考例を示す図である。
【図8】本発明を実施する形態の一例における凹溝の変形パターン参考例を示す図であって、シリンダライナの軸線方向に対し所要の傾斜角度で斜めに延びる凹溝をシリンダライナの周方向に多数配列した参考例を示す図である。
【図9】一般的なエンジンを示す概略図である。
【符号の説明】
【0034】
1a シリンダライナ
2 ピストン
3 ピストンピン
4 コンロッド
7 スカート
10 オイルリング
10a オイルリング溝
11 凹溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルリング溝にオイルリングを嵌装したピストンが軸線方向へ摺動自在に嵌入されるシリンダライナの潤滑構造であって、
ピストン下死点位置のオイルリング溝下面より下側におけるシリンダライナ下部内面に、潤滑面積を低減するための凹溝を形成したことを特徴とするシリンダライナの潤滑構造。
【請求項2】
前記凹溝を、シリンダライナの軸線方向へ延びるようシリンダライナの周方向に多数配列した請求項1記載のシリンダライナの潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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