説明

シリンダ装置用ピストンロッド

【課題】 シリンダ装置用ピストンロッドにおいて、ロッドとピストンを簡易に固定すること。
【解決手段】 シリンダ装置用ピストンロッド42において、ロッド42の先端面に凹部42Aを設けるとともに、ピストン44には、ロッド42の先端部が圧入される有底状の孔部45を設け、孔部45の底面に突起部45Aを設けるとともに、孔部45の内周の底面に交差する部分に溝部を設け、ロッド42の先端部がピストン44の孔部45に圧入された圧入端で、ピストン44の孔部45の底面に設けてある突起部45Aにより、ロッド42の先端面の凹部42Aが押し広げられ、該ロッド42の先端面まわりの外周が拡径された膨出部42Dとされ、このロッド42の膨出部42Dがピストン44の孔部45の溝部に押し込まれて加締め止めされるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶推進機等に用いられて好適なシリンダ装置用ピストンロッドに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶推進機等では特許文献1に記載の如く、チルトシリンダ装置又はチルト・トリムシリンダ装置においてピストンロッドが用いられている。従来のピストンロッドは、ロッドの先端部にピストンを固定する構造として、ストッパリングを用いている。即ち、ロッドの先端部の外周に環状溝部を設けるとともに、ピストンにはロッドの先端部が圧入される有底状の孔部を設け、この孔部の内周に環状溝部を設ける。そして、ロッドの先端部の環状溝部にストッパリングの外径まで含む全体を押し込み格納した状態で、該ロッドの先端部をピストンの孔部に圧入した圧入端で両者の環状溝部を合致させ、ロッドの先端部の環状溝部に格納してあったストッパリングをピストンの孔部の環状溝部に向けて拡開させ、ストッパリングの外径の側をピストンの孔部の環状溝部に係止させる。ストッパリングの内径と外径を、ロッドとピストンのそれぞれに係止させ、ロッドとピストンを圧入及びストッパリングにて固定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-238483
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のシリンダ装置用ピストンロッドでは、ストッパリングを用いるために部品点数が多いし、ロッドの先端部とピストンの孔部のそれぞれに設ける環状溝部の位置合せが必要で加工工数も多く、コスト高になる。
【0005】
本発明の課題は、シリンダ装置用ピストンロッドにおいて、ロッドとピストンを簡易に固定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、ロッドの先端部にピストンを固定してなるシリンダ装置用ピストンロッドにおいて、ロッドの先端面に凹部を設けるとともに、ピストンには、ロッドの先端部が圧入される有底状の孔部を設け、孔部の底面に突起部を設けるとともに、孔部の内周の底面に交差する部分に溝部を設け、ロッドの先端部がピストンの孔部に圧入された圧入端で、ピストンの孔部の底面に設けてある突起部により、ロッドの先端面の凹部が押し広げられ、該ロッドの先端面まわりの外周が拡径された膨出部とされ、このロッドの膨出部がピストンの孔部の溝部に押し込まれて加締め止めされるようにしたものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記ロッドに、凹部から軸内に延びる切込部が予め設けられてなるようにしたものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明において更に、前記ロッドに設けられる切込部が、該ロッドの中心軸まわりに設けられ、その中心軸を含んで延びるスリットからなるようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
(請求項1)
(a)ロッドの先端部がピストンの孔部に圧入された圧入端で、ピストンの孔部の底面に設けてある突起部により、ロッドの先端面の凹部が押し広げられ、該ロッドの先端面まわりの外周が拡径された膨出部とされ、このロッドの膨出部がピストンの孔部の溝部に押し込まれて加締め止めされる。
【0010】
従って、ロッドとピストン以外の他の部品を用いることなく両者を固定でき、部品点数を削減できる。
【0011】
また、ロッドの先端部をピストンの孔部に対して圧入端まで圧入するだけで両者を固定でき、固定構造は簡易で、固定作業性は良い。
【0012】
(請求項2)
(b)前記ロッドに、凹部から軸内に延びる切込部を予め設けることにより、ピストンの側の突起部によってロッドの先端面の凹部を簡易に押し広げ、ロッドの先端面まわりの外周に膨出部を形成し易く、固定作業性を向上できる。
【0013】
(請求項3)
(c)上述(b)のロッドの切込部が、ロッドの中心軸まわりに設けられ、その中心軸を含んで延びるスリットからなるものとすることにより、該切込部を簡易に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は船舶推進機を示す模式図である。
【図2】図2は傾動シリンダ装置を示す斜視図である。
【図3】図3は傾動シリンダ装置を示す側断面図である。
【図4】図4はピストンロッドを示す断面図である。
【図5】図5はロッドを示し、(A)は正面図、(B)は端面図、(C)は先端断面図、(D)は先端断面図である。
【図6】図6はピストンを示し、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【図7】図7は本発明の変形例に係るロッドを示し、(A)は正面図、(B)は端面図、(C)は先端断面図、(D)は先端断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
船舶推進機10(船外機、但し船内外機であっても良い)は、図1に示す如く、船舶11の船尾板11Aにスターンブラケット12を固定され、スターンブラケット12にはチルト軸13を介してスイベルブラケット14が略水平軸まわりに傾動可能に枢着されている。スイベルブラケット14には、図示されない略鉛直配置される転舵軸を介して、推進ユニット15が転舵軸まわりに回動可能に枢着されている。推進ユニット15の上部にはエンジンユニット16が搭載され、推進ユニット15の下部にはプロペラ17が備えられている。
【0016】
即ち、船舶推進機10は、船舶11に固定のスターンブラケット12に、チルト軸13、スイベルブラケット14を介して推進ユニット15を傾動自在に支持され、スターンブラケット12とスイベルブラケット14との間に傾動シリンダ装置20を介装し、作動油給排装置(不図示)によって作動油を傾動シリンダ装置20に供給もしくは排出制御することにより、傾動シリンダ装置20を伸縮させて推進ユニット15を傾動可能としている。
【0017】
(傾動シリンダ装置20)(図2、図3)
傾動シリンダ装置20は、図2、図3に示す如く、シリンダブロック21に、中央のチルトシリンダ30と左右一対のトリムシリンダ40を一体的に形成している。シリンダブロック21はスターンブラケット12への取付ピン挿着孔22Aを備え、スターンブラケット12とシリンダブロック21を取付ピン22により枢着している。
【0018】
傾動シリンダ装置20は、チルトシリンダ30の開口部に固定したロッドガイド31に摺動自在に支持されるチルトロッド32をチルトシリンダ30の内部の油室33(不図示)に挿入し、チルトロッド32のチルトシリンダ30への挿入端にピストン34(不図示)を固定している。チルトロッド32はスイベルブラケット14への取付ピン挿着孔35Aを備え、スイベルブラケット14とチルトロッド32を取付ピン35により枢着している。
【0019】
傾動シリンダ装置20は、トリムシリンダ40の開口部に固定したロッドガイド41に摺動自在に支持されるトリムロッド42をトリムシリンダ40の油室43に挿入し、トリムロッド42のトリムシリンダ40への挿入端にピストン44を固定している。トリムロッド42はスイベルブラケット14に対し相互に離隔可能な状態で当接可能にされている。
【0020】
尚、チルトロッド32、トリムロッド42は例えば鉄系材料(SUS304等)にCrメッキ処理が施されてなり、ピストン34、ピストン44も例えば鉄系材料から構成される。
【0021】
(作動油給排装置50)(図2、図3)
作動油給排装置50は、図2、図3に示す如く、モータ51とタンク52を有し、タンク52を形成するマニホールドをシリンダブロック21にボルト結合し、タンク52の内部にポンプ53(不図示)を内蔵している。また、シリンダブロック21にリザーバタンク54をボルト止めしている。モータ51により正逆転されるポンプ53がタンク52内から吸込んだ作動油を、傾動シリンダ装置20のチルトシリンダ30とトリムシリンダ40の各油室に圧送可能にしている。
【0022】
以下、傾動シリンダ装置20のトリム作動とチルト作動について説明する。
(A)トリム作動
(トリムアップ)
モータ51によりポンプ53を逆転すると、ポンプ53の吐出油がチルトシリンダ30の下室に供給されてチルトロッド32を伸長させるとともに、ポンプ53の吐出油がトリムシリンダ40の下室に供給されてトリムロッド42をスイベルブラケット14に衝接させて伸長させ、スイベルブラケット14及び推進ユニット15がトリム域内でトリムアップされる。
【0023】
(トリムダウン)
推進ユニット15がトリム域内にあるときに、モータ51によりポンプ53を正転すると、ポンプ53の吐出油がチルトシリンダ30の上室に供給されてチルトロッド32を収縮させるとともに、ポンプ53の吐出油がトリムシリンダ40の上室に供給されてトリムロッド42をスイベルブラケット14に衝接させつつ収縮させ、スイベルブラケット14及び推進ユニット15がトリムダウンする。
【0024】
以上により推進ユニット15をトリム域内でトリムアップ/ダウンさせ、船舶11の航走姿勢を調整する。
【0025】
(B)チルト作動
(チルトアップ)
モータ51によりポンプ53を逆転する上述のトリム作動により推進ユニット15が最大トリムアップ位置を越えた後は、チルトシリンダ30のチルトロッド32だけがより早い速度で伸長し、トリムロッド42を最大伸長位置に残したまま、スイベルブラケット14及び推進ユニット15がトリム域を越えたチルト域内で最大チルトアップ位置までチルトアップする。
【0026】
(チルトダウン)
推進ユニット15がチルト域内にあるときに、モータ51によりポンプ53を正転すると、チルトシリンダ30のチルトロッド32が収縮し、スイベルブラケット14及び推進ユニット15がチルト域内でチルトダウンする。推進ユニット15のこのチルトダウンの過程で、スイベルブラケット14がトリムロッド42に衝合した後は、推進ユニット15がトリム域に入り、トリムロッド42もチルトロッド32とともに収縮せしめられ、スイベルブラケット14及び推進ユニット15がトリムダウンする。
【0027】
しかるに、船舶推進機10の傾動シリンダ装置20にあっては、トリムシリンダ40におけるトリムロッド42の先端部にピストン44を図4に示す如くに固定してある。尚、チルトロッド32とピストン34の固定構造も同様である。
【0028】
トリムロッド42は、図5に示す如く、先端面の中心部に凹部42Aを設けている。凹部42Aは例えばドリルにより加工される円錐形状をなし、その円錐頂角をドリルの刃先角の例えば118度とする。
【0029】
トリムロッド42は、図5に示す如く、凹部42Aから軸内に延びる切込部42Bを予め設けることができる。切込部42Bは、トリムロッド42の中心軸まわりに設けられ、その中心軸を含んで延びるスリット42Cからなるものとすることができる。スリット42Cは、トリムロッド42の中心軸まわりに十字状(図5(B))等の放射状をなすことができ、凹部42Aから中心軸に沿う深さ方向に沿うスリット面を三角形状(図5(C))又は矩形状(図5(D))とすることができる。
【0030】
ピストン44には、トリムロッド42の先端部が圧入される有底状の孔部45を設け、孔部45の底面の中心部に突起部45Aを設けるとともに、孔部45の内周の底面に交差する部分に環状溝部45Bを設けている。この溝部45Bは、孔部45の内周の全周に連続するものでなく、その周方向複数箇所に間欠的に設けられるものでも良い。
【0031】
ピストン44において、突起部45Aはトリムロッド42の凹部42Aに対応し、凹部42Aの直径、深さよりも大きな直径、高さを備える。凹部42Aが円錐形状をなすとき、突起部45Aも円錐形状をなす。
【0032】
従って、トリムロッド42とピストン44は、トリムロッド42の先端部をピストン44の孔部45に圧入することにより、以下の如くに固定化される。
【0033】
トリムロッド42の先端部がピストン44の孔部45に圧入される圧入端で、ピストン44の孔部45の底面に設けてある突起部45Aがトリムロッド42の先端面の凹部42A、切込部42B、スリット42Cを押し広げる。これにより、トリムロッド42の先端面まわりの外周が全周に渡って拡径されて外方の放射方向に張り出る膨出部42Dとされ、このトリムロッド42の膨出部42Dがピストン44の孔部45の溝部45Bに対し加圧される状態で押し込まれ、加締め止めされる。
【0034】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)トリムロッド42の先端部がピストン44の孔部45に圧入された圧入端で、ピストン44の孔部45の底面に設けてある突起部45Aにより、トリムロッド42の先端面の凹部42Aが押し広げられ、該トリムロッド42の先端面まわりの外周が拡径された膨出部42Dとされ、このトリムロッド42の膨出部42Dがピストン44の孔部45の溝部45Bに押し込まれて加締め止めされる。
【0035】
従って、トリムロッド42とピストン44以外の他の部品を用いることなく両者を固定でき、部品点数を削減できる。
【0036】
また、トリムロッド42の先端部をピストン44の孔部45に対して圧入端まで圧入するだけで両者を固定でき、固定構造は簡易で、固定作業性は良い。
【0037】
(b)前記トリムロッド42に、凹部42Aから軸内に延びる切込部42Bを予め設けることにより、ピストン44の側の突起部45Aによってトリムロッド42の先端面の凹部42Aを簡易に押し広げ、トリムロッド42の先端面まわりの外周に膨出部42Dを形成し易く、固定作業性を向上できる。
【0038】
(c)上述(b)のトリムロッド42の切込部42Bが、トリムロッド42の中心軸まわりに設けられ、その中心軸を含んで延びるスリット42Cからなるものとすることにより、該切込部42Bを簡易に形成できる。
【0039】
図7に示した変形例が図5に示した実施例と異なる点は、切込部42Bを形成する十字状等のスリット42Cがトリムロッド42の中心軸まわりの直径方向で、凹部42Aの中心軸を通って該ロッド42の直径上の全域に延在され、該ロッド42の外周にまで渡るようにしたことにある。ピストン44の側の突起部45により、該ロッド42の先端面の凹部42Aを大きく押し広げ、該ロッド42の先端面まわりの外周に大きな膨出部42Dを形成できる。
【0040】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、ロッドの先端部にピストンを固定してなるシリンダ装置用ピストンロッドにおいて、ロッドの先端面に凹部を設けるとともに、ピストンには、ロッドの先端部が圧入される有底状の孔部を設け、孔部の底面に突起部を設けるとともに、孔部の内周の底面に交差する部分に溝部を設け、ロッドの先端部がピストンの孔部に圧入された圧入端で、ピストンの孔部の底面に設けてある突起部により、ロッドの先端面の凹部が押し広げられ、該ロッドの先端面まわりの外周が拡径された膨出部とされ、このロッドの膨出部がピストンの孔部の溝部に押し込まれて加締め止めされる。これにより、シリンダ装置用ピストンロッドにおいて、ロッドとピストンを簡易に固定することができる。
【符号の説明】
【0042】
20 傾動シリンダ装置(シリンダ装置)
40 トリムシリンダ
42 トリムロッド(ロッド)
42A 凹部
42B 切込部
42C スリット
42D 膨出部
44 ピストン
45 孔部
45A 突起部
45B 溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッドの先端部にピストンを固定してなるシリンダ装置用ピストンロッドにおいて、
ロッドの先端面に凹部を設けるとともに、
ピストンには、ロッドの先端部が圧入される有底状の孔部を設け、孔部の底面に突起部を設けるとともに、孔部の内周の底面に交差する部分に溝部を設け、
ロッドの先端部がピストンの孔部に圧入された圧入端で、ピストンの孔部の底面に設けてある突起部により、ロッドの先端面の凹部が押し広げられ、該ロッドの先端面まわりの外周が拡径された膨出部とされ、このロッドの膨出部がピストンの孔部の溝部に押し込まれて加締め止めされることを特徴とするシリンダ装置用ピストンロッド。
【請求項2】
前記ロッドに、凹部から軸内に延びる切込部が予め設けられてなる請求項1に記載のシリンダ装置用ピストンロッド。
【請求項3】
前記ロッドに設けられる切込部が、該ロッドの中心軸まわりに設けられ、その中心軸を含んで延びるスリットからなる請求項2に記載のシリンダ装置用ピストンロッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−177437(P2012−177437A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40879(P2011−40879)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】