説明

シリンダ錠

【課題】簡単な構造でプラグへの回転操作力を直接施解錠対象に伝達することのできるシリンダ錠を提供することを目的とする。
【解決手段】シリンダケース1内に回転自在に挿入されるプラグ2と、
プラグ2の後端に連結される連結杆3とを有し、
前記プラグ2の後端には、連結杆3に形成された連結凹部4に嵌合する連結突部5が突設されるとともに、プラグ2と連結杆3とは、連結杆3に設けられた装着スリット6に挿入され、前記連結突部5の基端に傾動自在に係止する止め輪7により歳差移動自在に連結され、
かつ、連結突部5の外表面と連結凹部4の内周壁面には、可変交差角の範囲内で少なくとも一部が噛合状態を維持可能な凹凸が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ錠に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリンダ錠への回転操作力をレバー等による並進移動に変換することなく、直接施解錠対象に伝達するようにしたシリンダ錠としては、特許文献1の図6以下に記載のものが知られている。この従来例において、シリンダ錠は、ケースと、ケース内に挿入されるプラグと、プラグの後端に連結される連結杆とを有して形成される。
【0003】
連結杆には突状の第1結合装置が形成され、プラグの後端に形成される凹状の第2結合装置に嵌合されてカルダン自在継手が構成される。相互に相対移動自在なプラグと連結杆とを連結するためには、連結杆の抜去方向への移動を規制する規制壁が必須となり、ピンを使用しない場合、規制壁は組み立て時の障害壁となる。
【0004】
これを避けるために、上記従来例は、ケースを半円筒形部品の連結体として形成し、半円筒形部品により連結杆の突状部を挟み付けることにより連結状態を維持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009-522468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来例において、ケースを分割することは、組立工数の増加等、コスト上昇要因となるという欠点がある。
【0007】
本発明は、以上の欠点を解消すべくなされたものであって、簡単な構造でプラグへの回転操作力を直接施解錠対象に伝達することのできるシリンダ錠を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明の他の目的は、上記シリンダ錠を使用した車両のドアハンドル装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
シリンダ錠は、シリンダケース1内に回転自在に挿入されるプラグ2と、プラグ2の後端に連結される連結杆3とを有して構成される。プラグ2と連結杆3とを歳差移動自在に連結するために、プラグ2の後端には、連結杆3に形成された連結凹部4に嵌合する連結突部5が突設される。これらプラグ2と連結杆3とは、連結杆3に設けられた装着スリット6に止め輪7を挿入することにより行われ、止め輪7は、前記連結突部5の基端部に係止して双方の離脱を防止する。
【0010】
連結突部5と連結杆3とは、連結突部5の外表面と連結凹部4の内周壁面のいずれか一方が凸とされて他方の凹に可変交差角の範囲内で噛合可能な凹凸を介して連結され、プラグ2への回転操作力が連結杆3に伝達される。
【0011】
したがって、本発明において、連結杆3は、プラグ2の後端を連結凹部4に嵌合した後、止め輪7を装着するだけで連結することができるために、構造が簡単で、かつ、組立作業性も向上する。すなわち、プラグ2の回転軸に対して歳差方向に完全な自由度を有する自在継手機構を構成しようとすると、双方の幾何学的関係の保持等の要件充足の必要から、例えば、上述した従来例のように、ケース分割が必要となるように構造の複雑化要因となる。
【0012】
これに対し、プラグ2側に形成される連結突部5の基端部に止め輪7を係止するだけでプラグ2と連結杆3を連結する本発明においては、構造が不必要に複雑になることもなく、組立効率も向上する。
【0013】
また、プラグ2と連結杆3とをプラグ2の回転軸を含む予め設定された平面内で揺動自在にピン結合した簡易な連結方法も可能であるが、この場合、プラグ2に対して任意の歳差方向に変位させるためには、プラグ2を回転させる必要があり、施錠状態において回転操作が禁止されるシリンダ錠に適用した場合、調整自由度が小さくなるという問題が発生する。
【0014】
この点、本発明は、プラグ2側の連結突部5を連結凹部4に遊嵌させ、かつ、一般に、軸に対して相対移動不能に装着される止め輪7を軸、すなわち連結突部5の基端に傾動自在に係止させることによって、歳差自由度を確保するとともに、回転変位の伝達を、傾動時の少なくとも一部の噛合が可能な凹凸により実現し、構造の簡素化と動作信頼性の向上を図るものである。
【0015】
凹凸は、交差角が変わった場合、一部の噛合が確保されていれば、他の噛合が解除されることは許容され、かかる条件を充たせば、種々の凹凸形状の使用が可能であり、例えば、凹形状が、ヘクサロビュラ穴により形成され、凸形状をこれに噛合する星形形状(ヘクサロビュラ形状)にすることができる。
【0016】
また、シリンダ錠が、プラグ2をシリンダケース1の前端側、すなわち、解錠キーの挿入口が開けられる正面側から挿入して組み立てられる場合、止め輪7をプラグ2の径に比して大径に形成すると、止め輪7がプラグ2を引き抜こうとした際のストッパとなるので、不正なプラグ2の引き抜き操作に対する耐性を高めることができる。
【0017】
以上のシリンダ錠は、シリンダ錠への回転操作を直接回転変位として車両側のドアロック側に伝達するドアハンドル装置に適用することが可能であり、かかるドアハンドル装置は、
車両のドア8に固定され、操作ハンドル9を回転自在に支持するハンドルベース10と、
シリンダケース1にプラグ2を挿入してハンドルベース10に保持されるシリンダ錠Aと、
シリンダ錠Aのプラグ2の後端に連結される連結杆3とを有し、
プラグ2への回転力を連結杆3を介してドアロック装置11に直接伝達する車両用ドアハンドル装置であって、
前記プラグ2と連結杆3とは、プラグ2の後端に形成される連結突部5を連結杆3に形成される連結凹部4に嵌合させるとともに、連結突部5基端に係止する止め輪7により歳差移動自在に連結され、
かつ、連結突部5の外表面と連結凹部4の内周壁面には、可変交差角の範囲内で少なくとも一部が噛合状態を維持可能な凹凸を形成して構成することができる。
【0018】
この発明によれば、ハンドル装置のドア8上への固定位置に誤差が発生してプラグ2の回転中心がドアロック装置11の被操作部11aへの挿入線からずれた場合であっても、確実に連結杆3を被操作部11aに連結することが可能になり、かつ、プラグ2への回転操作力もドアロック装置11に伝達することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡単な構造でプラグへの回転操作力を直接施解錠対象に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ドアハンドル装置を示す図で、(a)は正面図、(b)は(a)の1B方向矢視図である。
【図2】シリンダ錠を示す図で、(a)は正面図、(b)は(a)の2B方向矢視図、(c)は(b)の2C方向矢視図である。
【図3】シリンダ錠の分解斜視図である。
【図4】プラグと連結杆との連結部を示す図で、(a)は断面図、(b)は(a)の4B-4B線断面図である。
【図5】図4の動作を示す図で、(a)は連結凹部を示す図、(b)は(a)の5B-5B線断面図、(c)は連結杆が歳差方向に移動した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に車両のドアハンドル装置を示す。ハンドル装置は、ドアパネル(ドア8)に固定されるハンドルベース10に操作ハンドル9を水平回転自在に連結して形成される。
【0022】
操作ハンドル9の端部には、ドアパネル8への装着状態においてドア8内部に挿入される操作突部9aが突設されており、ドアパネル8への装着状態において操作ハンドル9を回転操作すると、操作突部9aによりレバー12が駆動されてドア8内に配置されたドアロック装置11が駆動される。
【0023】
シリンダ錠Aは、シリンダケース1内にプラグ2を回転操作自在に挿入して形成され、上記ハンドルベース10に開設されたシリンダ装着開口10aにドアパネル8表面側から挿入された後、シリンダケース1にボルト13を締結して固定される。
【0024】
この実施の形態において、ハンドルベース10はドアパネル8表面への露出を避けるために、ドアパネル8裏面に沿わせるように配置され、シリンダ錠Aを固定することによってシリンダ錠Aのシリンダケース1とハンドルベース10とがドアパネル8を強く挟み付け、結果、ハンドルベース10がドアパネル8に固定される。また、プラグ2の前端部(以下、本明細書において、プラグ2への解錠キーの挿入端側を前方とする。)は、キャップ2bにより覆われ、さらに、シリンダ錠Aの前端部には、飾り座金14が装着される。
【0025】
シリンダ錠Aは、ドアロック装置11の被操作部11aを操作することによってドアロック装置11の施解錠状態を遷移させ、ドアロック装置11が施錠状態のとき、操作ハンドル9によるドアロック装置11へのロック解除操作をキャンセルする。
【0026】
図2以下に示すように、上記シリンダケース1内に収容されるプラグ2には適数のタンブラ2aが装着され、適正な解錠キー(図示せず)を挿入した場合にのみ回転操作することができる。また、上記プラグ2とシリンダケース1との間には、トーションスプリング15が介装され、プラグ2を初期回転位置側に付勢する。
【0027】
上記プラグ2の後端には連結杆3が連結される。連結軒3の後端には、ドアロック装置11の被操作部11aへの歳差姿勢での挿入が可能なように球状の連結部3bが形成されるとともに、連結部3bには、放射方向に回り止め突部3cが突設される。
【0028】
この連結杆3とプラグ2との連結のために、プラグ2の後端には球状の連結突部5が形成されるとともに、連結杆3の前端には連結ボックス3aが形成される。連結ボックス3aには、連結突部5側に開放される連結凹部4が開設される。
【0029】
プラグ2と連結杆3とは、連結ボックス3aに形成された装着スリット6に止め輪を装着して行なわれ、装着状態において止め輪7は、プラグ2の連結突部5の基端部近傍に係止して連結杆3のプラグ2からの脱離と、止め輪7自体のプラグ2、および連結杆3からの脱離が規制される。
【0030】
この実施の形態において止め輪7にはU形止め輪が使用され、図4(b)に示すように、D寸法がプラグ2の径寸法に比して大径のものが使用される。
【0031】
止め輪7とプラグ2との係止は、プラグ2からの脱離の規制が可能で、かつ、プラグ2に対する傾動の自由度が確保されるようにおこなわれる。
【0032】
また、上記連結突部5の外周壁と連結凹部4の内壁には凹凸が形成される。この実施の形態において、連結凹部4にはヘクサロビュラ穴(JIS B 1015:2008)が形成されるとともに、連結突部5側にはヘックスローブ(ヘクサロビュラ)ドライバの先端形状が形成される。連結突部5側をボールポイントレンチ形状にすると、より傾動自由度を高めることができる。
【0033】
したがって、この実施の形態において、連結杆3は、図5(c)に示すように、止め輪7の内周壁面を連結突部の球面に摺接させながらプラグ2に対して歳差移動可能であり、プラグ2の回転中心に対してドアロック装置11のずれを吸収することができる。軸間が交差した状態で、プラグ2の回転は凹凸の噛合によって連結杆3に伝達され、設定範囲内であれば、交差角(θ)が大きくなって一部の凹凸の噛合状態が解除された場合でも、残余の凹凸の噛合が確保されるために、プラグ2の回転を連結杆3に伝達することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 シリンダケース
2 プラグ
3 連結杆
4 連結凹部
5 連結突部
6 装着スリット
7 止め輪
8 ドア
9 操作ハンドル
10 ハンドルベース
11 ドアロック装置
A シリンダ錠


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダケース内に回転自在に挿入されるプラグと、
プラグの後端に連結される連結杆とを有し、
前記プラグの後端には、連結杆に形成された連結凹部に嵌合する連結突部が突設されるとともに、プラグと連結杆とは、連結杆に設けられた装着スリットに挿入され、前記連結突部の基端に傾動自在に係止する止め輪により歳差移動自在に連結され、
かつ、連結突部の外表面と連結凹部の内周壁面には、可変交差角の範囲内で少なくとも一部が噛合状態を維持可能な凹凸が形成されるシリンダ錠。
【請求項2】
前記連結突部の基端部が球面により形成される請求項1記載のシリンダ錠。
【請求項3】
前記連結凹部の凹凸が、ヘクサロビュラ穴により形成される請求項1または2記載のシリンダ錠。
【請求項4】
前記プラグはシリンダケースの前端側から挿入されて組み立てられるとともに、
前記止め輪はプラグの径に比して大径に形成されてプラグ引き抜き操作に対する規制部材として機能する請求項1、2または3記載のシリンダ錠。
【請求項5】
車両のドアに固定され、操作ハンドルを回転自在に支持するハンドルベースと、
シリンダケースにプラグを挿入してハンドルベースに保持されるシリンダ錠と、
シリンダ錠のプラグの後端に連結される連結杆とを有し、
プラグへの回転力を連結杆を介してドアロック装置に直接伝達する車両用ドアハンドル装置であって、
前記プラグと連結杆とは、プラグの後端に形成される連結突部を連結杆に形成される連結凹部に嵌合させるとともに、連結突部基端に係止する止め輪により歳差移動自在に連結され、
かつ、連結突部の外表面と連結凹部の内周壁面には、可変交差角の範囲内で少なくとも一部が噛合状態を維持可能な凹凸が形成される車両用ドアハンドル装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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