説明

シロキサン化合物及びフェノール化合物を含有してなる組成物

【課題】 安定性に優れ、薄膜製造用原料として有用なシロキサン化合物含有組成物を提供すること。
【解決手段】 −HSiRO−(Rは、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8のアルコキシ基又はフェノキシ基を表す)を有するシロキサン化合物100質量部に対し、下記一般式(1)又は(2)で表されるフェノール化合物の少なくとも1種類を安定剤成分として0.0001〜1質量部含有してなる組成物。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、−HSiRO−(Rは、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8のアルコキシ基又はフェノキシ基を表す)を有するシロキサン化合物に特定のフェノール化合物を安定剤として加えた組成物に関する。該組成物は、薄膜製造用原料として有用なものである。
【背景技術】
【0002】
−HSiRO−(Rは、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8のアルコキシ基又はフェノキシ基を表す)を有するシロキサン化合物は、酸化ケイ素系薄膜のプレカーサとして使用されており、該酸化ケイ素系薄膜は、その電気的特性及び光学特性から、半導体の多層配線間の低誘電率絶縁膜、マイクロレンズ等の光学部品として応用されている。
【0003】
しかし、上記シロキサン化合物は、使用に際し、高分子化による変質が問題となっている。例えば、ゾルゲル法を含む湿式塗布法においては、塗布液の粘度増加やゲル化により、安定した薄膜製造ができない問題があり、気化を伴う薄膜製造法においては、プレカーサを一定量安定に気化させることが困難であり、また、高分子化物による装置や薄膜の汚染、及びライン閉塞の問題がある。
【0004】
上記の問題に対し、特許文献1には、2,6−ジ第3ブチル−4−メチルフェノール等のフェノール化合物を、シロキサン化合物と共に使用することが報告されており、特許文献2には、4−メトキシフェノールに代表されるフェノール化合物を、シロキサン化合物と共に使用することが報告されている。
しかし、これらの従来のフェノール化合物は、安定化効果が不充分である。
【0005】
【特許文献1】特開2003−238578号公報
【特許文献2】国際公開第2004/27110号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、安定性に優れ、薄膜製造用原料として有用なシロキサン化合物含有組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、検討を重ねた結果、特定のフェノール化合物がシロキサン化合物に対して特異的に安定化効果を示すことを知見し、本発明に到達した。
【0008】
本発明は、−HSiRO−(Rは、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8のアルコキシ基又はフェノキシ基を表す)を有するシロキサン化合物100質量部に対し、下記一般式(1)又は(2)で表されるフェノール化合物の少なくとも1種類を安定剤成分として0.0001〜1質量部含有してなる組成物を提供するものである。
【0009】
【化1】

【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物は、安定性に優れ、薄膜製造用原料として有用なシロキサン化合物含有組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、本発明に係るシロキサン化合物について説明する。
本発明に係るシロキサン化合物は、その分子構造中に、−HSiRO−(Rは、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8のアルコキシ基又はフェノキシ基を表す)を少なくとも1つ有するものである。該シロキサン化合物は、シロキサン基の珪素原子に直接結合した水素を有している。尚、この部分が起因する高分子化により、該シロキサン化合物をプレカーサとして用いた従来の薄膜形成用原料においては、固形物生成やゲル化等の不具合が起こっていた。
【0012】
本発明に係るシロキサン化合物としては、例えば、下記一般式(I)で表される環状シロキサン化合物、下記一般式(II)で表される直鎖シロキサン化合物が挙げられる。該環状シロキサン化合物及び該直鎖シロキサン化合物は、CVD法やMOD法に用いられる薄膜製造用のプレカーサとして特に有用なものである。
【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
本発明に係るシロキサン化合物において、Rで表される炭素数1〜8の炭化水素基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第2ブチル、第3ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、第3アミル、ヘキシル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、2−シクロヘキシルエチル、ヘプチル、イソヘプチル、第三ヘプチル、オクチル、イソオクチル、第3オクチル、2−エチルヘキシル等のアルキル基;ビニル、1−メチルエテン−1−イル、プロペン−1−イル、プロペン−2−イル、プロペン−3−イル、ブテン−1−イル、ブテン−2−イル、2−メチルプロペン−3−イル、1,1−ジメチルエテン−2−イル、1,1−ジメチルプロペン−3−イル等のアルケニル基;フェニル、2−メチルフェニル、3−メチルフェニル、4−メチルフェニル、4−ビニルフェニル、2,3−ジメチルフェニル、2,4−ジメチルフェニル、2,5−ジメチルフェニル、2,6−ジメチルフェニル、3,4−ジメチルフェニル、3,5−ジメチルフェニル等のアリール基;ベンジル、2−メチルベンジル、3−メチルベンジル、4−メチルベンジル、スチリル等のアラルキル基等が挙げられ、Rで表される炭素数1〜8のアルコキシ基としては、メチルオキシ、エチルオキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブチルオキシ、第2ブチルオキシ、第3ブチルオキシ、イソブチルオキシ、アミルオキシ、イソアミルオキシ、第3アミルオキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、イソヘプチルオキシ、第3ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、イソオクチルオキシ、第3オクチルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ等が挙げられる。
【0016】
上記一般式(I)で表される環状シロキサン化合物の具体例としては、2,4,6−トリメチルシクロトリシロキサン、2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8,10−ペンタメチルシクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10,12−ヘキサメチルシクロヘキサシロキサン、2,4,6,8,10,12,14−ヘプタメチルシクロヘプタシロキサン、2,4,6,8,10,12,14,16−オクタメチルシクロオクタシロキサン、2,4,6−トリエチルシクロトリシロキサン、2,4,6,8−テトラエチルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8,10−ペンタエチルシクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10,12−ヘキサエチルシクロヘキサシロキサン、2,4,6−トリフェニルシクロトリシロキサン、2,4,6,8−テトラフェニルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8,10−ペンタフェニルシクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10,12−ヘキサフェニルシクロヘキサシロキサン等が挙げられる。
【0017】
上記一般式(II)で表される直鎖シロキサン化合物の具体例としては、1,3−ジメチルジシロキサン、1,1,3−トリメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,1,1,3,3−ペンタメチルジシロキサン、1,3−ジエチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラエチルジシロキサン、1,1,3−トリエチルジシロキサン、1,1,1,3,3−ペンタエチルジシロキサン、1,3−ジフェニルジシロキサン、1,1,3,3−テトラフェニルジシロキサン、1,1,3−トリフェニルジシロキサン、1,3−ジメチル−1,3−ジフェニルジシロキサン、1,3−ジエチル−1,3−ジフェニルジシロキサン、1,1,3,3,5,5,5−ヘプタメチルトリシロキサン、1,1,1,3,5,5,5−ヘプタメチルトリシロキサン、1,1,1,5,5,5−ヘキサメチル−3−エチルトリシロキサン、1,1,1,5,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、1,1,1,3,3,5−ヘキサメチルトリシロキサン、1,1,3,5,5−ペンタメチルトリシロキサン、1,1,3,3,5−ペンタメチルトリシロキサン、1,1,1,3,5−ペンタメチルトリシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルトリシロキサン、1,1,1,3−テトラメチルトリシロキサン、1,1,3,5−テトラメチルトリシロキサン、1,3,5−トリメチルトリシロキサン、1,1,5,5−テトラメチル−3−フェニルトリシロキサン、3−メチル−1,1,1,5,5,5−ヘキサフェニルトリシロキサン、1,1,1,3,5,7,7,7−オクタメチルテトラシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルテトラシロキサン等が挙げられる。
【0018】
本発明に係るシロキサン化合物の中でも、Rで表されるアルキル基がメチルであるものは、誘電率の小さいSiO系薄膜(Low−k薄膜)を与えることができる点で特に有用である。また、上記一般式(I)で表される環状シロキサン化合物も同様に、得られる薄膜の電気的特性が良好である点で特に有用である。とりわけ2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサンは、蒸気圧が大きく、得られる薄膜の特性も良好なので、ALD法を含むCVD法等のプレカーサの気化を伴う薄膜製造プロセス用途に用いる薄膜形成用原料として本発明の組成物を用いる場合に適している。
【0019】
次に、本発明に係るフェノール化合物について説明する。
本発明に係る前記一般式(1)又は(2)で表されるフェノール化合物は、−HSiRO−(Rは、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8のアルコキシ基又はフェノキシ基を表す)を有する本発明に係るシロキサン化合物の高分子量化に対する安定剤として機能するものである。
【0020】
前記一般式(1)及び(2)において、R1〜R4で表される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第2ブチル、第3ブチルが挙げられる。また、X1及びX2で表される炭素数1〜4のアルキル基としては、上記R1〜R4として例示の基が挙げられ、炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メチルオキシ、エチルオキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブチルオキシ、第2ブチルオキシ、第3ブチルオキシが挙げられ、ハロゲン基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。また、Yで表される炭素数1〜4のアルカンジイル基としては、メタンジイル、エタン−1,2−ジイル、エタン−1,1−ジイル、プロパン−1,3−ジイル、プロパン−1,2−ジイル、プロパン−1,1−ジイル、ブタン−1,4−ジイル、ブタン−1,3−ジイル、ブタン−1,2−ジイル、ブタン−1,1−ジイル、2−メチルプロパン−1,1−ジイル、2−メチルプロパン−1,2−ジイル、2−メチルプロパン−1,3−ジイル等が挙げられる。
【0021】
本発明に係るフェノール化合物の具体例としては、下記に示す化合物No.1〜No.36が挙げられる。尚、化合物No.1〜20が、前記一般式(1)で表されるフェノール化合物であり、化合物No.21〜36が、前記一般式(2)で表されるフェノール化合物である。
【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
上記の本発明に係るフェノール化合物の中でも、フェノールのオルト位に、置換基「−Y−O−R1」又は「−(O)m−SiR24−R3」を有するもの、即ち下記一般式(3)又は(4)で表される化合物が、−HSiRO−(Rは、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8のアルコキシ基又はフェノキシ基を表す)を有する本発明に係るシロキサン化合物に対して特に優れた安定化効果を示すので好ましい。
【0027】
【化8】

【0028】
本発明の組成物は、分子構造中に−HSiRO−(Rは、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8のアルコキシ基又はフェノキシ基を表す)を少なくとも1つ有する前記シロキサン化合物、及び前記一般式(1)又は(2)で表されるフェノール化合物の少なくとも1種類からなる安定剤成分を含有する組成物である。安定剤成分である該フェノール化合物の含有量は、該シロキサン化合物100質量部に対して、0.0001質量部より少ないと必要な使用効果が得られず、1質量部を超えると使用効果の向上がみられないばかりか、製造された薄膜特性に影響を及ぼす場合があるので、0.0001〜1質量部であり、0.001〜0.1質量部が好ましく、0.002〜0.05質量部がより好ましい。
【0029】
次に、本発明の組成物の用途について説明する。
本発明の組成物は、珪素原子を含有する薄膜製造用原料として有用であり、ALD法を含む化学気相成長(CVD)法等の気化工程を伴う酸化ケイ素系薄膜製造用の原料として特に有用である。また、本発明の組成物は、CVD法の他に、湿式塗布法等による薄膜製造用の原料として用いることもできる。
【0030】
本発明の組成物からなる薄膜形成用原料が化学気相成長(CVD)用原料である場合、その形態は、使用されるCVD法の輸送供給方法等の手法により適宜選択されるものである。
【0031】
上記の輸送供給方法としては、CVD用原料を原料容器中で加熱及び/又は減圧することにより気化させ、必要に応じて用いられるアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に堆積反応部へと導入する気体輸送法、CVD用原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて、堆積反応部へと導入する液体輸送法がある。気体輸送法の場合は、前記のシロキサン化合物及びフェノール化合物からなる本発明の組成物そのものがCVD用原料となり、液体輸送法の場合は、前記のシロキサン化合物及びフェノール化合物からなる本発明の組成物、又は前記のシロキサン化合物及びフェノール化合物を有機溶剤に溶かした溶液である本発明の組成物がCVD用原料となる。
【0032】
また、多成分系薄膜を製造する場合の多成分系CVD法における輸送供給方法としては、さらに、CVD用原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、シングルソース法と記載することもある)と、多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、カクテルソース法と記載することもある)がある。
【0033】
本発明の組成物に使用する上記有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤を用いることが出来る。該有機溶剤としては、例えば;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、モルホリン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジンが挙げられ、これらは、溶質の溶解性、使用温度と沸点及び引火点との関係等により、単独で又は二種類以上の混合溶媒として用いられる。これらの有機溶剤を使用する場合、該有機溶剤中におけるシロキサン化合物成分及び後述の必要に応じて用いられる他のプレカーサの合計量は、0.01〜2.0モル/リットル、特に0.05〜1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。
【0034】
また、シングルソース法又はカクテルソース法を用いた多成分系のCVD用原料として本発明の組成物を用いる場合、本発明の組成物において前記の本発明に係るシロキサン化合物と共に用いられる他のプレカーサとしては、特に制限を受けず、CVD用原料に用い得る周知一般のプレカーサを用いることができる。
【0035】
上記の他のプレカーサとしては、揮発性の金属又は無機元素の化合物が挙げられる。これらのプレカーサの元素種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の1族元素、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の2族元素、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド元素(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム)、アクチノイド元素等の3族元素、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウムの4族元素、バナジウム、ニオブ、タンタルの5族元素、クロム、モリブデン、タングステンの6族元素、マンガン、テクネチウム、レニウムの7族元素、鉄、ルテニウム、オスミウムの8族元素、コバルト、ロジウム、イリジウムの9族元素、ニッケル、パラジウム、白金の10族元素、銅、銀、金の11族元素、亜鉛、カドミウム、水銀の12族元素、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムの13族元素、ゲルマニウム、錫、鉛の14族元素、リン、砒素、アンチモン、ビスマスの15族元素、セレン、テルル、ポロニウムの16族元素が挙げられる。
【0036】
また、本発明の組成物には、必要に応じて、本発明に係るシロキサン化合物及び必要に応じて使用される他のプレカーサに安定性を付与するため、フェノール化合物以外の求核性試薬を含有させてもよい。該求核性試薬としては、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、ジベンゾ−24−クラウン−8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−2−メトキシエチル等のβ−ケトエステル類又はアセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、3,5−ヘプタンジオン、ジピバロイルメタン等のβ−ジケトン類等が挙げられ、安定剤としてのこれらの求核性試薬の使用量は、プレカーサ1モルに対して好ましくは0.1モル〜10モル、さらに好ましくは1〜4モルである。
【0037】
本発明の組成物には、これを構成する成分以外の不純物金属元素分、不純物塩素等の不純物ハロゲン分、及び不純物有機分が極力含まれないようにする。不純物金属元素分は、元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましく、総量では1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。不純物ハロゲン分は、100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下が更に好ましい。不純物有機分は、総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下が更に好ましい。また、水分は薄膜製造用原料中でのパーティクル発生やCVD法によるパーティクル発生の原因となるので、プレカーサ、有機溶剤及び求核性試薬については、それぞれの水分の低減のために、使用の際に予めできる限り水分を取り除いたほうがよい。プレカーサ、有機溶剤及び求核性試薬それぞれの水分量は、10ppm以下が好ましい。
【0038】
また、本発明の組成物は、製造される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に1000個以下であることがより好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが更に好ましい。
【0039】
本発明の組成物は、薄膜形成用原料の中でも、特にCVD用原料として好適なものであり、本発明の組成物をCVD用原料として用いたCVD法による薄膜製造おいて、原料の輸送供給方法、堆積方法、製造条件、製造装置等については、特に制限を受けるものではなく、周知一般の条件、方法等を用いることができる。
【0040】
本発明の組成物をCVD用原料として用いたCVD法による薄膜製造において、本発明に係るシロキサン化合物及び必要に応じて用いられる他のプレカーサを分解及び/又は反応させる際には、必要に応じて反応性ガスを併用することができる。必要に応じて用いられる該反応性ガスとしては、例えば、酸化性のものとしては酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等が挙げられ、還元性のものとしては水素が挙げられ、また、窒化物を製造するものとしては、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア、窒素等が挙げられる。
【0041】
また、上記の輸送供給方法としては、前記の気体輸送法、液体輸送法、シングルソース法、カクテルソース法等が挙げられる。
【0042】
また、上記の堆積方法としては、原料ガス、又は原料ガス及び反応性ガスを熱のみにより反応させ薄膜を堆積させる熱CVD、熱及びプラズマを使用するプラズマCVD、熱及び光を使用する光CVD、熱、光及びプラズマを使用する光プラズマCVD、CVDの堆積反応を素過程に分け、分子レベルで段階的に堆積を行うALD(Atomic Layer Deposition)が挙げられる。
【0043】
また、上記の製造条件としては、反応温度(基板温度)、反応圧力、堆積速度等が挙げられる。反応温度については、本発明に係る前記シロキサン化合物が充分に反応する温度である160℃以上が好ましく、250〜800℃がより好ましい。また、反応圧力は、大気圧〜100Paが好ましい。また、堆積速度は、原料の供給条件(気化温度、気化圧力)、反応温度、反応圧力によりコントロールすることが出来る。堆積速度は、大きいと得られる薄膜の特性が悪化する場合があり、小さいと生産性に問題を生じる場合があるので、0.5〜5000nm/分が好ましく、1〜1000nm/分がより好ましい。また、ALDの場合、膜厚は、所望の膜厚が得られるようにサイクルの回数でコントロールされる。
【0044】
また、薄膜の製造方法においては、薄膜堆積の後に、より良好な電気特性を得るために不活性雰囲気下、酸化性雰囲気下又は還元性雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、通常400〜1200℃であり、500〜800℃が好ましい。
【0045】
本発明の組成物からなる薄膜製造用原料により製造された薄膜の用途としては、銅配線を使用した場合の銅拡散防止用バリア絶縁膜、高集積化されたLSIの層間絶縁膜等が挙げられる。また、本発明の薄膜形成用原料により形成される薄膜の厚みは、薄膜の用途により適宜選択されるが、好ましくは1〜1000nmから選択する。
【0046】
また、本発明の組成物は、薄膜製造用原料の他に、樹脂用改質剤、ガラス用改質剤、セラミックス用改質剤等の用途に使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
【0048】
[実施例1〜6及び比較例1〜3]
乾燥アルゴン置換した100mlフラスコに、2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサン(以下TMCTSと記載することもある)20g、及び表1に記載したフェノール化合物4mgを仕込んだ。尚、フェノール化合物を加える前の2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサンについて、FID検出器を備えたガスクロマトグラフ(カラム: 007-1-25W-5.0F; QUADREX社製)により分析を行った。
次いで、2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサン及びフェノール化合物を仕込んだフラスコを120℃に保温し、酸素ガスを流量1.20リットル/時間で吹き込みながら攪拌し、24時間後に、FID検出器を備えたガスクロマトグラフ(カラム: 007-1-25W-5.0F; QUADREX社製)により分析を行った。
これらの分析で検出されたピークは、2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサン、及び複数の2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサンが高分子化した高分子化合物のものであった。2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサンと上記高分子化合物とのピーク面積の和を100とした場合の2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサンのピーク比を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
上記表1の結果より、特定のフェノール化合物を含有する本発明の組成物は、特異的にシロキサン化合物の高分子量化に対する安定化効果が大きいことが確認できた。従って、本発明の組成物は薄膜製造用原料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−HSiRO−(Rは、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8のアルコキシ基又はフェノキシ基を表す)を有するシロキサン化合物100質量部に対し、下記一般式(1)又は(2)で表されるフェノール化合物の少なくとも1種類を安定剤成分として0.0001〜1質量部含有してなる組成物。
【化1】

【請求項2】
−HSiRO−(Rは、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8のアルコキシ基又はフェノキシ基を表す)を有するシロキサン化合物100質量部に対し、下記一般式(3)又は(4)で表されるフェノール化合物の少なくとも1種類を安定剤成分として0.0001〜1質量部含有してなる組成物。
【化2】

【請求項3】
上記シロキサン化合物が、下記一般式(I)で表される環状シロキサン化合物である請求項1又は2記載の組成物。
【化3】

【請求項4】
上記シロキサン化合物が、2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサンである請求項1又は2記載の組成物。
【請求項5】
薄膜製造用原料として用いられる請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。

【公開番号】特開2006−199593(P2006−199593A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9798(P2005−9798)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【特許番号】特許第3788624号(P3788624)
【特許公報発行日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】