説明

シロリムス誘導体を有効成分として含有する網脈絡膜疾患の治療剤

【課題】網脈絡膜疾患の新たな予防又は治療剤を提供すること。
【解決手段】シロリムス誘導体であるテムシロリムス、エベロリムス等は、網脈絡膜において、優れた血管新生阻害作用を発揮するので、加齢黄斑変性などの網脈絡膜疾患の治療剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロリムス誘導体を有効成分として含有する網脈絡膜疾患の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢黄斑変性は、加齢に伴い黄斑部の網膜組織に障害が生じ、視力障害を来たすことを特徴とする疾患であり、失明にいたることもある、高齢者の視力障害の原因の一つである。中でも、滲出型加齢黄斑変性は、黄斑部の網膜下に脈絡膜由来の新生血管が発育し、出血や細胞の滲出を来す疾患である。
【0003】
滲出型加齢黄斑変性の治療法についてさまざまな検討が行われており、新生血管が中心窩に達していない比較的早期の場合にはレーザー光を照射して新生血管を凝固させる光凝固術によって治療が選択されることもある。新生血管が中心窩に達している場合には、光線感受性の薬剤を投与しておき、弱いレーザー光を照射して薬剤を励起させ治療に用いる、いわゆる光力学的療法(PDT)が行われるが、PDTの効果は視力の低下を抑制するに留まり、完治が期待できるような臨床上有効な治療法は未だ見出されていない。
【0004】
近年、新たな滲出型加齢黄斑変性の治療剤として、ペガプタニブナトリウムが開発された。ペガプタニブナトリウムは硝子体内に直接投与する新しいタイプの治療剤であり、その指定用法は、6週間に1回硝子体内に投与することとされている。
【0005】
シロリムスは加齢黄斑変性などの網膜疾患に用いられることが、特許文献1に記載されている。一方、テムシロリムスおよびエベロリムスはいずれもシロリムスの誘導体であり、免疫抑制作用、腫瘍の治療作用などを具備することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0187111号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
加齢黄斑変性のような網脈絡膜疾患を治療するには、有効成分を眼球の最奥部に存在する患部に到達させる必要がある。有効成分の患部への送達にはドラッグデリバリーシステム(以下、DDSともいう)など投与方法の改良が検討されることが多い。しかしながら、DDSを用いて患部へ有効成分を送達するには解決しなければならない種々の困難がある。このため、患部近傍に薬剤を直接注入することができる硝子体内投与は、患者への肉体的負担及び精神的負担が大きいという問題点があるにも拘わらず、なお有望な投与方法の1つと考えられる。
【0008】
薬剤の硝子体内投与によって加齢黄斑変性などの網脈絡膜疾患の治療を行うにあたり、患者への肉体的および精神的な負担を減少させるため、薬剤の硝子体内投与の頻度を減らすこと、すなわち、治療効果の持続期間が長い化合物を見出すことは、きわめて重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、加齢黄斑変性への治療効果が報告されているシロリムスの誘導体に着目した。
【0010】
すなわち、本発明は、シロリムス誘導体(以下、本化合物とも言う)を有効成分として含有する、加齢黄斑変性、ポリープ状脈絡膜血管症、網膜血管腫状増殖、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症または未熟児網膜症等の網脈絡膜疾患の治療剤に関する。
【0011】
本明細書において塩とは、医薬として許容される塩であれば特に制限はないが、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属元素との塩、又は、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等との四級アンモニウム塩が例示される。
【0012】
本化合物に幾何異性体又は光学異性体が存在する場合は、それらの異性体も本発明の範囲に含まれる。また、本化合物は水和物又は溶媒和物の形態をとっていてもよい。
【0013】
本化合物におけるシロリムス誘導体とは、好ましくは、シロリムスの42位の水酸基が化学的に変換された誘導体を言う。
【0014】
本化合物における好ましい例として、テムシロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス又はデフォロリムスが挙げられる。
【0015】
本化合物におけるより好ましい例として、下記式(1)で示されるテムシロリムス、下記式(2)で示されるエベロリムスが挙げられる。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
本発明において網脈絡膜疾患とは、網膜又は脈絡膜における疾患をいい、例えば、加齢黄斑変性(初期加齢黄斑変性におけるドルーゼン形成、萎縮型加齢黄斑変性、滲出型加齢黄斑変性)、ポリープ状脈絡膜血管症、網膜血管腫状増殖、糖尿病網膜症(単純糖尿病網膜症、増殖前糖尿病網膜症、増殖糖尿病網膜症)、糖尿病黄斑浮腫、増殖性硝子体網膜症、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、未熟児網膜症、といった網脈絡膜疾患が挙げられ、好ましくは、加齢黄斑変性、ポリープ状脈絡膜血管症、網膜血管腫状増殖、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫といった網脈絡膜疾患が挙げられる。
【0019】
本化合物は、必要に応じて、医薬として許容される添加剤を加え、単独製剤又は配合製剤として汎用されている技術を用いて製剤化することができる。
【0020】
本化合物は、前述の眼疾患の治療に使用する場合、患者に対して経口的又は非経口的に投与することができ、投与形態としては、経口投与、眼への局所投与(点眼投与、結膜嚢内投与、硝子体内投与、結膜下投与、テノン嚢下投与等)、静脈内投与、経皮投与等が挙げられる。本化合物を眼に局所投与する際に用いられる好ましい剤型としては、点眼剤若しくは眼軟膏剤が用いられ、又は、注射剤、特に、結膜下投与剤、テノン嚢投与剤又は硝子体内投与剤が用いられる。本化合物を有効成分として含有する製剤は、必要に応じて、製薬学的に許容され得る添加剤と共に、投与に適した剤型に製剤化される。経口投与に適した剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等が挙げられ、非経口投与に適した剤型としては、例えば、注射剤、点眼剤、眼軟膏、貼布剤、ゲル、挿入剤等が挙げられる。これらは当該分野で汎用されている通常の技術を用いて調製することができる。また、本化合物は優れた治療効果の持続作用を具備するため、通常DDS化された製剤とする必要はないが、さらに本発明の治療効果の持続作用をより有効に生かすために、眼内インプラント用製剤やマイクロスフェアー等のDDS化された製剤としてもよい。
【0021】
例えば、錠剤は、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、無水リン酸水素カルシウム、デンプン、ショ糖等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、デンプン、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、デンプン、部分アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、含水二酸化ケイ素、硬化油等の滑沢剤;精製白糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン等のコーティング剤;クエン酸、アスパルテーム、アスコルビン酸、メントール等の矯味剤などを適宜選択して用い、調製することができる。
【0022】
注射剤は、塩化ナトリウム等の等張化剤;リン酸ナトリウム等の緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等の界面活性剤;メチルセルロース等の増粘剤等を必要に応じて選択して用い、調製することができる。
【0023】
点眼剤は、塩化ナトリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム等の安定化剤;塩化ベンザルコニウム、パラベン等の防腐剤等から必要に応じて選択して用い、調製することができ、pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4〜8の範囲内が好ましい。また、眼軟膏は、白色ワセリン、流動パラフィン等の汎用される基剤を用い、調製することができる。
【0024】
挿入剤は、生体分解性ポリマー、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸等の生体分解性ポリマーを本化合物とともに粉砕混合し、この粉末を圧縮成型することにより、調製することができ、必要に応じて、賦形剤、結合剤、安定化剤、pH調整剤を用いることができる。
【0025】
眼内インプラント用製剤は、生体分解性ポリマー、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース等の生体分解性ポリマーを用い、調製することができる。
【0026】
本化合物の投与量は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年令、体重、眼球容積、医師の判断等に応じて適宜変えるこができる。
【0027】
本化合物を眼球内投与、特に硝子体内投与によって投与する場合、1回あたり0.1μg〜2000μgを投与することができる。この場合の好ましい投与量は、後述の薬理試験において有効であった用量を元に、ヒトと当該病態モデル動物の硝子体容積比を基に算出することができる。硝子体内に投与した物質は、最初に硝子体に分散することから、当該物質の患部付近の組織内濃度は投与量を硝子体容積で除することにより近似的に求めることができる。また、硝子体容積は眼球容積で近似できる。ヒトの硝子体容積は約4.5mLであり、ラットの硝子体容積は約50μLとされている (Oyster C;The Human Eye, 1999年,、Berkwitz BAら;Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 39巻 391ページ、1998年)。すなわち、ヒトの推定臨床用量は、ラットにおける用量を約90倍することにより換算することができる。ヒトにおいては人種、年齢、性別等によって、ラットにおいては系統、週齢、性別等によって平均的な硝子体容積には前述の容積値との差が生じることがあるが、理想的な投与量は臨床試験を行うことによって確認することができる。このような考え方に基づく、本化合物の眼球内投与、特に、硝子体内投与の際の好ましい投与量は1回当たり90μg〜900μgであり、より好ましくは、1回あたり90μg〜500μgである。
【0028】
経口投与の場合、一般には、成人に対し1回あたり0.01〜5000mg、好ましくは0.1〜2500mg、より好ましくは0.5〜1000mgを投与することができ、注射剤の場合、一般には、成人に対し1回あたり0.0001〜2000mgを投与することができる。また、点眼剤又は挿入剤の場合には、1回あたり0.000001〜10%(w/v)、好ましくは0.00001〜1%(w/v)、より好ましくは0.0001〜0.1%(w/v)の有効成分濃度のものを投与することができる。さらに、貼布剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mgを含有する貼布剤を貼布することができ、眼内インプラント用製剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mg含有する眼内インプラント用製剤を眼内にインプラントすることができる。
【0029】
本化合物は後述のように優れた持続性を有するので、治療効果が持続する間は投与する必要はなく、治療効果が減弱した場合に再度投与すればよい。眼球内投与、特に硝子体内投与で投与する場合の本化合物の投与間隔は、少なくとも12週間とすることができる。
【発明の効果】
【0030】
後述の試験を実施したところ、薬理試験において、本化合物であるテムシロリムス(以下、「化合物A」ともいう)及びエベロリムス(以下、「化合物B」ともいう)が、レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルにおいて脈絡膜血管新生を有意に阻害することが示された。また、意外なことに、単回投与後に治療効果の評価を長期間を継続する薬理試験において、化合物Aなどの本化合物は処置後12週においても脈絡膜血管新生抑制効果を有意に維持することが示された。
【0031】
すなわち、化合物A等に代表される本化合物は、加齢黄斑変性、特に、浸出型加齢黄斑変性、ポリープ状脈絡膜血管症、網膜血管腫状増殖などの血管新生を伴う網脈絡膜疾患の治療剤として有用であり、1回の投与で長期間治療効果が持続するこれらの疾患の治療剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】化合物Aおよび化合物Bの用量と脈絡膜血管新生発生率の関係を示すグラフである。
【図2】時間と脈絡膜血管新生発生率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、薬理試験及び製剤例の結果を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0034】
[薬理試験1]
レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデル(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 40(2), 459-466 (1999))を用いて、本化合物の有用性を評価した。
【0035】
(クリプトンレーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデル動物の作製方法)
ラットに5%(W/V)塩酸ケタミン注射液および2%塩酸キシラジン注射液の混合液(7:1)1ml/kgを筋肉内投与して全身麻酔し、0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、クリプトンレーザー光凝固装置により光凝固を行った。光凝固は、眼底後局部において、太い網膜血管を避け、焦点を網膜深層に合わせて1眼につき8ヶ所散在状に実施した(凝固条件:スポットサイズ100μm、出力100Wm、凝固時間0.1秒)。光凝固後、眼底撮影を行い、レーザー照射部位を確認した。
【0036】
(薬物投与方法)
テムシロリムス(以下、「化合物A」ともいう)又はエベロリムス(以下、「化合物B」ともいう)を0.4%Polysorbate 80(W/V)/2.6%Glycerin(W/V)溶液に0.2mg/ml又は2mg/mlになるように懸濁させ、それぞれ1回あたり1μg/眼又は10μg/眼の用量で、光凝固処置日に1回硝子体内投与した。
【0037】
(評価方法)
光凝固処置後2週間が経過した翌日(すなわち、光凝固処置日をday 0としてday 15)に、ラットに5%(W/V)ペントバルビタール1ml/kgを腹腔内投与して全身麻酔し、0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、10%フルオレセイン溶液0.1mlを陰茎静脈から注入して、蛍光眼底造影を行った。蛍光眼底造影で、蛍光漏出が認められなかったスポットを陰性(血管新生なし)、蛍光漏出が認められたスポットを陽性(血管新生あり)と判断した。また、若干の蛍光漏出が認められる光凝固部位は、それが2箇所存在した時に陽性と判定した。その後、式1に従い、レーザー照射8ヶ所のスポットに対する陽性スポット数から脈絡膜血管新生発生率(%)を算出した。統計解析はダネットの多重比較により、基剤投与群に対する各化合物投与群の平均値の差を有意水準5%又は1%で検討した。化合物A及びBの評価結果(発症率)を図1に示す。なお、アスタリスク1個を付したシンボルは上述の統計解析の結果有意水準5%以下であることを、アスタリスク2個を付したシンボルは有意水準1%以下であることを示す。また、各投与群の例数は7〜8である。
【0038】
[式1]
脈絡膜血管新生発生率(%)=(陽性スポット数/全光凝固部位数)×100
【0039】
(結果)
図1から明らかなように、化合物A及び化合物Bのいずれも、硝子体内投与により、レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルにおける光凝固抑制効果を備えることが示された。両化合物においてその効果は用量依存的であり、1μg/眼、及び10μg/眼の両方の用量で統計学的に有意であった。
【0040】
[薬理試験2]
(クリプトンレーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルにおける血管新生阻害作用の持続性の検討)
薬理試験1と同様にクリプトンレーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデル動物を作製し、化合物Aのクリプトンレーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデル動物における血管新生阻害作用の持続性を検討した。被験薬として化合物Aを用いた。化合物Aは実施例1と同様に0.4mg/mlになるように懸濁させ、2μg/眼の用量で光凝固手術日に1回硝子体内投与した。光凝固処置後1,2,4,6,8, 10及び12週間が経過した日またはその翌日(すなわち、光凝固処置日をday 0として、day 7,14,28,42,56,70及び85)に、実施例1と同様に脈絡膜血管新生の発生率を算出した。統計解析はスチューデントのt検定又はアスピン−ウェルチのt検定を用い、基剤投与群に対する平均値の差を有意水準1%で検討した。さらに、式2に従い、評価薬物の抑制率(%)を算出した。図2に化合物Aの脈絡膜血管新生阻害作用の経時変化を抑制率で示す。なお、アスタリスク2個を付したシンボルは上述の統計解析の結果有意水準1%以下であることを示す。また、各投与群の例数は8である。
【0041】
[式2]
抑制率(%)=(A−A)/A×100
:基剤投与群の脈絡膜血管新生発生率
:薬物投与群の脈絡膜血管新生発生率
【0042】
(結果)
レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルにおいて、化合物Aの硝子体内投与により、光凝固処置後12週間が経過するまで持続的に脈絡膜血管新生を阻害した。化合物Aの脈絡膜血管新生阻害作用は投与期間を通じて統計学的に有意であった。このことから、化合物Aの脈絡膜血管新生阻害作用は少なくとも12週間持続することが示された。
【0043】
(考察)
上述のように、本化合物、特に化合物Aの脈絡膜血管新生抑制作用は強く、特に優れた持続性を示すという意外な効果が得られた。化合物Aに代表される本化合物は治療効果が長期間持続する血管新生を伴う脈絡膜疾患の治療剤、特に、少なくとも12週間効果が持続する治療剤として好適に使用可能である。
【0044】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0045】
処方例1 点眼剤
100ml中
化合物A 10mg
塩化ナトリウム 900mg
ポリソルベート80 適量
リン酸水素二ナトリウム 適量
リン酸二水素ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
【0046】
滅菌精製水に化合物A及びそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合して点眼液を調製する。化合物Aの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.5%(w/v)、1%(w/v)の点眼剤を調製できる。
【0047】
処方例2 点眼剤
100ml中
化合物B 10mg
塩化ナトリウム 900mg
ポリソルベート80 適量
リン酸水素二ナトリウム 適量
リン酸二水素ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水に化合物B及びそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合して点眼液を調製する。化合物Bの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.5%(w/v)、1%(w/v)の点眼剤を調製できる。
【0048】
処方例2 眼軟膏
100g中
化合物B 0.3g
流動パラフィン 10.0g
白色ワセリン 適量
均一に溶融した白色ワセリン及び流動パラフィンに、化合物Bを加え、これらを十分に混合した後に徐々に冷却することで眼軟膏を調製する。化合物Bの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.5%(w/v)、1%(w/w)の眼軟膏を調製できる。
【0049】
処方例3 錠剤
100mg中
化合物A 1mg
乳糖 66.4mg
トウモロコシデンプン 20mg
カルボキシメチルセルロースカルシウム 6mg
ヒドロキシプロピルセルロース 6mg
ステアリン酸マグネシウム 0.6mg
化合物A、乳糖を混合機中で混合し、その混合物にカルボキシメチルセルロースカルシウム及びヒドロキシプロピルセルロースを加えて造粒し、得られた顆粒を乾燥後整粒し、その整粒顆粒にステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、打錠機で打錠する。また、化合物Aの添加量を変えることにより、100mg中の含有量が0.1mg、10mg、50mgの錠剤を調製できる。
【0050】
処方例4 注射剤又は硝子体内投与剤
10ml中
化合物A 10mg
塩化ナトリウム 90mg
ポリソルベート80 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水に化合物A及びそれ以外の上記成分を加え、充分に混合して溶解又は懸濁し注射剤を調製する。化合物Aの添加量を変えることにより、10ml中の含有量が2mg、10mg、50mg、200mgの注射剤を調製できる。このようにして調製した注射剤は眼内投与のための注射剤、例えば硝子体内投与剤として投与することができる。
【0051】
処方例5 注射剤又は硝子体内投与剤
10ml中
化合物B 10mg
グリセロール 260mg
ポリソルベート80 適量
滅菌精製水 適量
化合物B及びそれ以外の上記成分を滅菌精製水に加え、充分に混合して溶解又は懸濁し注射剤を調製する。化合物Bの添加量を変えることにより、10ml中の含有量が2mg、10mg、50mg、200mgの注射剤を調製できる。このようにして調製した注射剤は眼内投与のための注射剤、例えば硝子体内投与剤として投与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テムシロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、デフォロリムス及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を有効成分として含有する網脈絡膜疾患の治療剤。
【請求項2】
網脈絡膜疾患が血管新生を伴う網脈絡膜疾患である請求項1記載の治療剤。
【請求項3】
網脈絡膜疾患が加齢黄斑変性、ポリープ状脈絡膜血管症、網膜血管腫状増殖、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、増殖性硝子体網膜症、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、未熟児網膜症または未熟児網膜症である、請求項2記載の治療剤。
【請求項4】
化合物がテムシロリムス、エベロリムス及びこれらの塩からなる群から選択される、請求項1〜3いずれか記載の治療剤。
【請求項5】
治療効果が長期間持続することを特徴とする、請求項1〜4いずれか記載の治療剤。
【請求項6】
治療効果が少なくとも12週間持続することを特徴とする、請求項5記載の治療剤。
【請求項7】
剤型が点眼剤又は眼軟膏剤である、請求項1〜6いずれか記載の治療剤
【請求項8】
剤型が結膜下投与剤、テノン嚢投与剤又は硝子体内投与剤である請求項1〜6いずれか記載の治療剤。
【請求項9】
剤型が硝子体内投与剤である請求8記載の治療剤。
【請求項10】
1回あたりの投与量が90μg〜900μgである、請求項9記載の治療剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−260857(P2010−260857A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91017(P2010−91017)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】