説明

シンチレータパネルの製造方法、シンチレータパネルおよびフラットパネルディテクタ

【課題】本発明の目的は、効率的かつ低コストで、多様なサイズのシンチレータパネルを製造することができるシンチレータパネルの製造を提供することであ。
【解決手段】第一の支持体上に蛍光体層を有し、該蛍光体層上に保護層を有するシンチレータパネルの製造方法であって、(1)該第一の支持体上に該蛍光体層を有する第一のシンチレータパネルを複数の第二のシンチレータパネルに分割する分割工程、(2)該分割工程で分割された該複数の第二のシンチレータパネルの各々の、該第一の支持体側の面と、第二の支持体の一方の面との間に吸着部材を設け、該複数の第二のシンチレータパネルの各々と、該第二の支持体とを吸着させる吸着工程、(3)該複数の第二のシンチレータパネルの各々の、該吸着部材が接触していない部分の全面にわたり該保護層を形成する保護層形成工程、を有することを特徴とするシンチレータパネルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線画像検出器に用いられるシンチレータパネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルの放射線画像が直接得られるデジタル放射線画像技術として開発されてきているフラットパネル型放射線ディテクタ(FPD)には、GdSやCsIなどの蛍光体によって放射線を可視光に変換後フォトダイオードにより電荷へ変換するシンチレータ方式と、Seを代表とするX線検出素子によりX線を直接電荷へ変換する方式がある。
【0003】
シンチレータ方式のフラットパネルディテクタとしては、例えば、特開2005−114456号公報に記載のような、蛍光体層を有するシンチレータパネルと、薄膜トランジスタ(TFT)および電荷結合素子(CCD)による光電変換素子とを組み合わせたFPDなどが知られている。
【0004】
このような、蛍光体層有するシンチレータパネルを用いたFPDは、近年工業用の非破壊検査や口腔内に挿入して静止画像を収集する歯科用等の用途広くに用いられるようになってきている。
【0005】
これらの用途においては、例えば歯科診断用途などにおいて、口腔内用の小さなデバイスが要求される、パノラマ撮影、セファロ撮影など多様な形状のものが要求されるといった、デバイスの大きさ、形状の多様化が求められている。
【0006】
そして、小さなデバイスのためには、より有効画像領域が大きなものが必要であり、また形状の多様化のためには、製造段階において比較的小サイズで、多様なサイズのシンチレータパネルを効率的に製造することが必要とされている。
【0007】
一方、蛍光体層を有するシンチレータパネルに用いられる蛍光体層に使用される蛍光体としては、例えば、X線から可視光への変換効率など面からヨウ化セシウム(CsI)を母体として賦活剤を含有させた蛍光体が有利に用いられている。
【0008】
ヨウ化セシウム(CsI)を母体として賦活剤を含有させた蛍光体などを用いた蛍光体層は、潮解性があること、比較的傷がつきやすいことなどから、経時で特性が劣化しやすいために、通常蛍光体層の上に保護層を設けて用いられる。
【0009】
保護層を設けて用いる方法としては、例えば、特開2004−105518号公報に記載のポリパラキシリレン樹脂により蛍光体層の上部、側面および支持体外周部を覆う方法、水分透過率1.2g/m・日未満の透明樹脂フィルムでシンチレータパネルの少なくとも支持体に対向する側の反対側と、側面とを覆う方法などが知られている。
【0010】
さらに、特開2002−116258号公報に記載の、支持体全面をシンチレータごとポリパラキシリレンで覆う技術や、特開2005−338067号公報に記載の、支持体に凹凸を付与しポリパラキシリレンの剥離防止をはかる技術、特開2008−139291号公報に記載の、基板が透明樹脂フィルムの場合に蛍光体端部がフィルム内部を傷付けないよう蛍光体端部を溶融させる技術等が知られている。
【0011】
また、保護性能を高めるために、シンチレータ層が形成された基板を3点以上の微少な点で支持した状態で、蛍光体層の材料を蒸着する方法(特許文献1参照)などが知られている。
【0012】
しかしながら、上記のような従来の方法では、小型化されたデバイスに対応し、かつ比較的小サイズで多様なサイズを製造する場合には、光学有効領域が不充分である、製造効率が低いなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−38870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、効率的かつ低コストで、多様なサイズのシンチレータパネルを製造することができるシンチレータパネルの製造を提供することであり、さらに効率的かつ低コストで、多様なサイズでかつ画像有効面積が大きなシンチレータパネルを製造することができるシンチレータパネルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る上記課題は、下記の手段により解決される。
【0016】
1.第一の支持体上に蛍光体層を有し、該蛍光体層上に保護層を有するシンチレータパネルの製造方法であって、
(1)該第一の支持体上に該蛍光体層を有する第一のシンチレータパネルを複数の第二のシンチレータパネルに分割する分割工程、
(2)該分割工程で分割された該複数の第二のシンチレータパネルの各々の、該第一の支持体側の面と、第二の支持体の一方の面との間に吸着部材を設け、該複数の第二のシンチレータパネルの各々と、該第二の支持体とを吸着させる吸着工程、
(3)該複数の第二のシンチレータパネルの各々の、該吸着部材が接触していない部分の全面にわたり該保護層を形成する保護層形成工程、
を有することを特徴とするシンチレータパネルの製造方法。
【0017】
2.前記保護層形成工程の後に、前記第一の支持体から前記吸着部材を剥離する剥離工程を有することを特徴とする前記1に記載のシンチレータパネルの製造方法。
【0018】
3.前記剥離工程が、吸着部材を加熱して剥離する、加熱剥離工程を有することを特徴とする前記2に記載のシンチレータパネルの製造方法。
【0019】
4.前記保護層が、少なくともポリパラキシリレンを含有することを特徴とする前記1から3のいずれか1項に記載のシンチレータパネルの製造方法。
【0020】
5.前記1から4のいずれか1項に記載のシンチレータパネルの製造方法により製造されたことを特徴とするシンチレータパネル。
【0021】
6.前記5に記載のシンチレータパネルを具備することを特徴とするフラットパネルディテクタ。
【発明の効果】
【0022】
本発明の上記手段により、効率的かつ低コストで、多様なサイズのシンチレータパネルを製造することができるシンチレータパネルの製造が提供でき、さらに効率的かつ低コストで、多様なサイズでかつ画像有効面積が大きなシンチレータパネルを製造することができるシンチレータパネルの製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】シンチレータパネルの、製造過程における模式断面図である。
【図2】分割に用いられるレーザ断裁装置の例を示す概略斜視図である。
【図3】蛍光体層の形成に用いられる蒸着装置の例を示す概略断面図である。
【図4】フラットパネルディテクタの構成を示す概略斜視図である。
【図5】吸着部材の配置の例を示す模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、第一の支持体上に蛍光体層を有し、蛍光体層上に保護層を有するシンチレータパネルの製造方法であって、(1)第一の支持体上に蛍光体層を有する第一のシンチレータパネルを複数の第二のシンチレータパネルに分割する分割工程、(2)分割工程で分割された複数の第二のシンチレータパネルの各々の、第一の支持体側の面と、第二の支持体の一方の面との間に吸着部材を設け、複数の第二のシンチレータパネルの各々と、第二の支持体とを吸着させる吸着工程、(3)該複数の第二のシンチレータパネルの各々の、該吸着部材が接触していない部分の全面にわたり該保護層を形成する保護層形成工程、を有することを特徴とする。
【0025】
本発明では特に、分割された複数のシンチレータを第二の支持体に吸着させ、吸着させた状態で、保護層を設け、さらに第二の支持体を剥離して意図するサイズのシンチレータパネルを製造することで、多様なサイズのシンチレータパネルを、効率的に低コストで、製造することができる。
【0026】
また、吸着させるための吸着部材として、加熱により剥離する材料を用いることで、多様なサイズのシンチレータパネルを、さらに効率的に低コストで、製造することができる。
【0027】
((1)第一の支持体上に蛍光体層を有する第一のシンチレータパネルを複数の第二のシンチレータパネルに分割する分割工程)
分割工程では、第一の支持体上に蛍光体層を有する第一のシンチレータパネルを複数の第二のシンチレータパネルに分割する。
【0028】
(第一のシンチレータパネル)
第一のシンチレータパネルは、第一の支持体上に蛍光体層を有する構成であるが、第一の支持体と蛍光体層の間に下引層を有する態様がより好ましい。
【0029】
図1は、シンチレータパネルの、製造過程における模式断面図であり、図1の(a)は、分割工程の前の段階で、第一の支持体1上に蛍光体層2を有する第一のシンチレータパネルを、基台Dの上に、蛍光体層2を基台側にして設置している状態を示す。
【0030】
第一のシンチレータパネルは、第一の支持体上に反射層を設け、反射層、下引層、蛍光体層の順に有する構成であってもよい。以下、各構成層および構成要素等について説明する。
【0031】
(第一の支持体)
本発明に係る第一の支持体は、蛍光体層を担持可能な板状体であり、X線等の放射線を入射線量に対し10%以上を透過させることが可能なものが好ましく用いられる。
【0032】
第一の支持体としては、(1)炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)、(2)カーボンボード(木炭および紙を炭化処理して固めたもの)、(3)カーボン支持体(グラファイト支持体)、(4)プラスチック支持体、(5)ガラス支持体、(6)各種金属支持体、(7)上記(1)〜(6)の支持体を薄く形成し発泡樹脂でサンドイッチしたもの等、各種の材料を使用することができる。
【0033】
本発明に使用する、第一の支持体としては上記の各種の材料を使用することができ、その中には光電変換を行うフォトダイオードを2次元状に配置して受光領域である光感応部を形成しているSi基板や、基板上に複数の走査線と複数の信号線によって区画された領域に光電変換を行うフォトダイオード、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor。以下、TFTという。)が設けられ、TFTのソース電極、ゲート電極、ドレイン電極がフォトダイオード、走査線、信号線がそれぞれ接続されるように設計されたガラス基板も含まれる。
【0034】
本発明においては、プラスチック支持体を用いるのが好ましい。
【0035】
プラスチック支持体としては、セルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミド(PI)フィルム、トリアセテートフィルム、ポリカーボネートフィルム、炭素繊維強化樹脂シート等の樹脂フィルム(プラスチックフィルム)などの樹脂フィルムを用いることができる。
【0036】
これらの内でも特に、ポリイミド又はポリエチレンナフタレートを含有する樹脂フィルムが、ヨウ化セシウムを原材料として蛍光体層を形成する場合には好適に用いることができる。
【0037】
第一の支持体は、その厚さは、50〜250μmであることが好ましく、また、可とう性を有する支持体であることが好ましい。
【0038】
ここで、「可とう性を有する支持体」とは、120℃での弾性率(E120)が1000〜6000N/mmである支持体をいい、かかる支持体としてポリイミド又はポリエチレンナフタレートを含有する樹脂フィルムが好ましい。
【0039】
第一の支持体は、120℃での弾性率(E120)が1000〜6000N/mmであることが好ましく、より好ましくは1200〜5000N/mmである。
【0040】
具体的には、ポリエチレンナフタレート(E120=4100N/mm)、ポリエチレンテレフタレート(E120=1500N/mm)、ポリブチレンナフタレート(E120=1600N/mm)、ポリカーボネート(E120=1700N/mm)、シンジオタクチックポリスチレン(E120=2200N/mm)、ポリエーテルイミド(E120=1900N/mm)、ポリアリレート(E120=1700N/mm)、ポリスルホン(E120=1800N/mm)、ポリエーテルスルホン(E120=1700N/mm)等からなる樹脂フィルムが挙げられる。
【0041】
上記「弾性率」は、引張試験機を用い、JIS C 2318に準拠したサンプルの標線が示すひずみと、それに対応する応力が直線的な関係を示す領域において、ひずみ量に対する応力の傾きを求めたものである。これがヤング率と呼ばれる値であり、上記弾性率は、かかるヤング率である。
【0042】
上記した、第一の支持体の例は、これら単独で用いてもよく積層あるいは混合して用いてもよい。
【0043】
(蛍光体層)
本発明に係る蛍光体層に用いられる蛍光体とは、X線等の入射された放射線のエネルギーを吸収して、波長が300nmから800nmの電磁波、即ち可視光線を中心に紫外光から赤外光に亘る電磁波(光)を発光する蛍光体をいう。
【0044】
蛍光体の材料としては、種々の公知の蛍光体材料を使用することができる。蛍光体材料とバインダー樹脂から成る粒子状蛍光体層を用い、蛍光体材料としては、GdS:Tb、GdS:Euなどの粒子を用いても良いが、公知の蛍光体材料の中でも、X線から可視光に対する変更率が比較的高く、蒸着によって容易に蛍光体を柱状結晶構造に形成できるため、光ガイド効果により結晶内での発光光の散乱が抑えられ、蛍光体層の厚さを厚くすることが可能であることから、ヨウ化セシウム(CsI)が好ましく用いられる。
【0045】
但し、CsIのみでは発光効率が低いために、各種の賦活剤が添加される。例えば、特公昭54−35060号公報の如く、CsIとヨウ化ナトリウム(NaI)を任意のモル比で混合したものが挙げられる。また、例えば特開2001−59899号公報に開示されているようなCsIを蒸着で、タリウム(Tl)、ユウロピウム(Eu)、インジウム(In)、リチウム(Li)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、ナトリウム(Na)などの賦活物質を含有するCsIが好ましい。本発明においては、特に、ナトリウム(Na)、タリウム(Tl)、ユウロピウム(Eu)が好ましい。更に、タリウム(Tl)が好ましい。
【0046】
特に、1種類以上のタリウム化合物を含む添加剤とヨウ化セシウムとを原材料とすることが好ましい。すなわち、タリウム賦活ヨウ化セシウム(CsI:Tl)は400nmから750nmまでの広い発光波長をもつことから好ましい。
【0047】
好ましいタリウム化合物は、ヨウ化タリウム(TlI)、臭化タリウム(TlBr)、塩化タリウム(TlCl)、又はフッ化タリウム(TlF,TlF)等である。
【0048】
また、本発明に係るタリウム化合物の融点は、400〜700℃の範囲内にあることが好ましい。
【0049】
蛍光体層の厚さは、50〜600μmであることが好ましく、支持体として樹脂フィルムを使用した場合は、分割工程における、断裁時のダメージの点から50〜500μmであることが好ましい。また輝度と鮮鋭性の特性のバランスから医療用としては、120〜400μmであることがより好ましい。
【0050】
(反射層)
反射層は、蛍光体層から発した光を反射して、光の取り出し効率を高めるためのものである。反射層は、蛍光体層から発した光のうち、光電変換素子に入射しない方向に向かった光を反射することにより、光電変換素子に向かわせる位置に設ける事が好ましく、蛍光体層の放射線入射側に設ける事が一般的であり、蛍光体層の放射線入射側に、反射層を設けた部材を貼りつけたり、直接、塗布、スパッタ、充填等により設けられても良い。また、蛍光体層を形成する支持体上に設けられても良く、本発明では蛍光体層と第一の支持体との間、または下述する下引層と第一の支持体との間にあることが好ましい。
【0051】
当該反射層は、Al,Ag,Cr,Cu,Ni,Ti,Mg,Rh,PtおよびAuからなる元素群の中から選ばれるいずれかの元素を含む材料により形成されることが好ましい。特に、上記の元素を主成分とする薄膜、例えば、Ag膜、Al膜を用いることが好ましい。また、このような薄膜を2層以上形成するようにしても良い。なお、反射層の厚さは、0.005〜0.3μm、より好ましくは0.01〜0.2μmであることが、発光光取り出し効率の観点から好ましい。
【0052】
さらには反射層としてTiO(アナターゼ型、ルチル型)、MgO、PbCO・Pb(OH)、BaSO、Al、M(II)FX(但し、M(II)はBa、SrおよびCaの各原子から選ばれる少なくとも一種の原子であり、XはCl原子又はBr原子である。)、CaCO、ZnO、Sb、SiO、ZrO、リトポン(BaSO・ZnS)、珪酸マグネシウム、塩基性珪硫酸塩、塩基性燐酸鉛、珪酸アルミニウムなどからなる白色顔料を主成分として用いる事も可能である。
【0053】
(下引層)
本発明においては、第一の支持体と蛍光体層の間、又は反射層と蛍光体層の間に下引き層を設けることが好ましい。当該下引層は、CVD法(気相化学成長法)によりポリパラキシリレン膜を成膜する方法や高分子結合材(バインダー)による方法があるが、膜付の観点から高分子結合材(バインダー)による方法がより好ましい。また下引層の厚さは、0.5〜4μmが好ましい。4μm以下とすることで下引層内での光散乱が大きくなり鮮鋭性が悪化するのを防止できる点で好ましい。以下、下引層の構成要素について説明する。
【0054】
〈高分子結合材〉
下引層は、溶剤に溶解又は分散した高分子結合材(以下「バインダー」ともいう。)を塗布、乾燥して形成することが好ましい。高分子結合材としては、具体的には、ポリウレタン、塩化ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、ポリエステル、セルロース誘導体(ニトロセルロース等)、スチレン−ブタジエン共重合体、各種の合成ゴム系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、アクリル系樹脂、尿素ホルムアミド樹脂等が挙げられる。なかでもアクリル系樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、塩化ビニル系共重合体、ポリビニルブチラール、ニトロセルロースを使用することが好ましい。
【0055】
高分子結合材としては、特に蛍光体層との密着の点でポリウレタン、ポリエステル、塩化ビニル系共重合体、ポリビニルブチラール、ニトロセルロースなどが好ましい。また、ガラス転移温度(Tg)が30〜100℃のポリマーであることが、蒸着結晶と支持体との膜付の点で好ましい。この観点からは、特にアクリル系樹脂、ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0056】
下引層の調製に用いることができる溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールなどの低級アルコール、メチレンクロライド、エチレンクロライドなどの塩素原子含有炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、キシレンなどの芳香族化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの低級脂肪酸と低級アルコールとのエステル、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエステル、エチレングリコールモノメチルエステルなどのエーテルおよびそれらの混合物を挙げることができる。
【0057】
下引層には、蛍光体(シンチレータ)が発光する光の散乱を防止し、鮮鋭性等を向上させるために顔料や染料を含有させても良い。
【0058】
(複数の第二のシンチレータパネルに分割する方法)
分割工程では、上記第一のシンチレータパネルを複数の第二のシンチレータパネルに分割する。
【0059】
分割する方法としては、レーザによる断裁、ブレードによる断裁などが挙げられ、従来公知のレーザ断裁装置、ブレードダイシング装置などを用いることができる。支持体がガラスの場合は、レーザダイシングも使用可能である。レーザダイシングとはレーザ光の焦点を加工対象物の内側に合わせ多光子吸収と呼ばれるレーザ光の強度を非常に高くした場合に発生する光学的損傷現象を利用する断裁方法であり、ガラス内部に改質層を形成し、そこを起点として分割する。レーザダイシングは近年シリコンウエハーの断裁に利用されはじめている。
【0060】
これらの方法で、第一のシンチレータパネルを分割して、複数の第二のシンチレータパネルにする方法としては、支持体側から断裁してもよいし、蛍光体層側から断裁してもよいが、蛍光体層の耐傷性の面から支持体側から断裁する方法が好ましい。
【0061】
本発明では、特にレーザを用い、支持体側から断裁して、複数の第二のシンチレータパネルを作製する方法が好ましく適当できる。
【0062】
下記に、レーザを用いて断裁する方法を例にして、第一のシンチレータパネルを複数の第二のシンチレータパネルに分割する分割工程を説明する。
【0063】
図2は、レーザ断裁に用いられる装置の概略斜視図であり、第一のシンチレータパネル10を断裁するレーザ断裁の例を示す。
【0064】
レーザ断裁装置30は、箱型に形成されたパージ室33を備えている。パージ室33は、外部の空間中に浮遊する塵等が内部に侵入しないように、内部がほぼ密閉された空間となっている。なお、パージ室33内は、低湿環境であることが好ましい。また、パージ室33の上面には、レーザ光を透過させる透光窓35が設けられている。また塵等の浮遊物をパージ室33の外に導く排出管34が設けられている。
【0065】
レーザ断裁装置3の基台D上に第一のシンチレータパネル10の蛍光体層側を下面として載置して、基台D上に第一のシンチレータパネル10を保持する。
【0066】
基台上に載置された第一のシンチレータパネル10は、支持台移動手段(図示しない)によってレーザ発生装置31のレーザ照射部直下に位置付けられる。レーザ発生装置31から出射し、レーザ光を第一のシンチレータパネル10に対して照射する。
【0067】
支持台移動手段(図示しない)によって、第一のシンチレータパネル10を、X方向およびY方向に移動することで断裁する。
【0068】
レーザによる断裁に用いられるレーザとしては、例えば、Nd:YAG,半導体,Nd:ガラス,Nd:YLF,Nd:BEL,Nd:YVO,LNP,Ti:サファイヤ,アレキサンドライト,Co−MgF,Cr−GSGG,エメラルド,プロフスカイト,Er−YLF,Er−ガラス等の赤外線レーザ、ルビー,He−Ne,CO,Arイオン,He−Cd,Cu,Au,Sr,Krイオン,Neイオン,Xeイオン,CO,ハロゲン化水素,O−I,Dye、Nd:YAGの第二次高調波および第三次高調波等の可視光レーザ、ArFエキシマ,KrFエキシマ,XeFエキシマ,ArClエキシマ,KrClエキシマ,XeClエキシマ,N,Au、Nd:YAGの第四次高調波等の紫外線レーザ等を用いることが出来る。
【0069】
これらの中でも、使用されるレーザは波長266nm程度の紫外レーザ光が望ましい。波長266nm程度のレーザでは、熱作用により加工対象物を加工すると同時に有機材料でC−H結合やC−C結合等の分子結合を解離させることが可能である。
【0070】
照射条件の具体例としては、YAG−UV(イットリウム・アルミニウム・ガーネット結晶:波長266nm)、周波数5000Hzでビーム径20μmのパルスレーザ光、出力300mWである条件が挙げられる。
【0071】
((2)吸着工程)
吸着工程では、上記分割工程で分割された複数の第二のシンチレータパネルの各々の、第一の支持体側の面と、第二の支持体の一方の面との間に吸着部材を設け、複数の第二のシンチレータパネルの各々と、第二の支持体とを吸着させる。
【0072】
(吸着部材)
吸着部材は、第二の支持体と第一の支持体との間に設置され第二の支持体とを吸着する。吸着部材の、第二の支持体側に吸着する部分と第一の支持体側に吸着する部分が同一の材料で構成されていてもよいし、異なる部材で構成されていてもよい。
【0073】
また、吸着部材としては、例えば第二の支持体と一体となった構成を有し、空気を吸引して、吸引力により吸着する、吸引構造を有する部材からなるものでもよい。
【0074】
吸着部材の第一の支持体側に吸着する部分と、第二の支持体側に吸着する部分の素材は、同じであってもよいし、異なってもよい。
【0075】
第一の支持体と、第二の支持体との間に吸着部材を設ける方法としては、第二のシンチレータパネルの大きさに応じて、予め第二の支持体に複数の吸着部材を設置しておき、第二のシンチレータパネルの第一の支持体に各々の吸着部材を吸着させてもよいし、予め第二のシンチレータパネルの第一の支持上に吸着部材を設置しておき、その後第二の支持体に吸着部材を吸着させてもよい。
【0076】
本発明においては、図1の(b)および(c)に示すように、予め第二の支持体3に吸着部材4を設置しておき、その後図1の(b)の矢印方向に移動させ第一の支持体1に吸着部材4を吸着させる方法が好ましく用いられる。
【0077】
吸着部材に用いられる材料としては、各種粘着剤を用いる事が可能である。粘着剤とはゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、ウレタン系粘着剤、フッ素系粘着剤、スチレン−ジエンブロック共重合体系粘着剤、これらの粘着剤に融点が約200℃以下の熱溶融性樹脂を配合したクリープ特性改良型粘着剤などの公知の粘着剤の中から単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。これらの中でも、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤を好ましく、特にアクリル系粘着剤が好ましい。
【0078】
これら吸着部材は第二のシンチレータパネルに圧力によって吸着後、保護層形成過程や、光学検査、目視検査といった製品検査過程を経て剥離される事が好ましいが、この剥離は相応の力、熱、UV光照射、冷却によって剥離される。また、これらの中でも特に、吸着部材を第二の支持体から、剥離する際の剥離のし易さなどから、特に吸着部材を加熱して剥離が可能な部材が好ましく用いられる。
【0079】
加熱により剥離が可能な部材に用いられる材料としては、例えば、粘着剤に発泡剤(熱膨張性微小球など)と、必要に応じて溶媒やその他の添加剤などとを混合して、シート状の層に形成する慣用の方法により形成することができる。
【0080】
加熱により剥離が可能な吸着部材としては、例えば日東電工株式会社製、熱剥離シート・リバアルファ(商標)、ソマール株式会社製熱発泡剥離シート・ソマタック(商標)などとして市販品として入手することができる。
【0081】
加熱により、剥離する際の温度としては、90℃から160℃が好ましい。
【0082】
また、UV、冷却、力による剥離としては、半導体分野で使用されるダイシングテープ等の市販品を入手し好適に用いる事が出来る。
【0083】
これら吸着部材は第一の支持体が検出器基板である場合には、マスクを兼ねる事も可能である。
【0084】
吸着部材の第二のシンチレータパネルに対する大きさとしては、第二のシンチレータパネルに対し、吸着部材が接触している面が1面である場合は、吸着部材が接触している面積が、吸着部材が接触している面の全面の面積の10%〜100%であることが好ましいいが、吸着部材の材料費を考慮し、2面以上で吸着することも可能であり、この場合は10%以下の接触面でもかまわない。2面以上で吸着する例として、図5の(c)、(d)に示したものを挙げることができるが、安定に設置できればこの限りではない。
【0085】
図5は、吸着部材の配置の例を示す模式平面図であり、例えば図1の(d)において、基台D側からみた模式平面図である。
【0086】
また、吸着部材と第二のシンチレータパネルが接する面は上部が平坦な吸着部材により一面全てが接していても良いし、吸着部材が凸曲面型、凹曲面型の断面形状をとることで、第二シンチレータと接する面が少なくなっていても良い。吸着部材が凸曲面型の断面形状をとる事で、その後の保護層形成過程において、保護層膜厚が吸着部材の中央に向けて次第に薄くなるように形成されるため、吸着部材の剥離時の保護層へのダメージが少なくなる。
【0087】
本発明に係る吸着工程において、特に蛍光体層が柱状結晶の場合、吸着時の蛍光体層の傷付きにくさなどの面から、吸着させるための吸着部材にかける圧力としては、0.01〜1MPa、より好ましくは0.01〜0.1MPaさらに好ましくは0.01〜0.05MPaの範囲の圧力が好ましい。
【0088】
第一の支持体と第二の支持体を吸着させた後、例えば、図1の(d)に示すように、基台Dを使用していた場合には、基台Dまたは第二の支持体を移動させ、第二の支持体上に吸着部材4を介して、第二のシンチレータパネルが設置されている状態とし、次工程である、保護層形成工程に供される。
【0089】
(保護層形成工程)
保護層形成工程では、上記吸着工程で得られた、複数の第二のシンチレータパネルを有する第二の支持体上を用い、複数の第二のシンチレータパネルの各々の、吸着部材が接触していない部分の全面にわたり保護層を形成する。
【0090】
図1の(e)は、保護層5を設けた後の状態を示している。図1の(e)においては、保護層が、複数の第二のシンチレータパネルの各々の、吸着部材が接触していない部分の全面にわたり、保護層5が形成されており、さらに第二の支持体も含めた全面が保護層5で被覆されている状態を示している。
【0091】
保護層の形成工程では、少なくとも第二のシンチレータパネルの吸着していない部分全面に保護層が設けられることが必要であるが、第二の支持体まで、保護層を形成する必要はない。しかし、保護層を設ける際の保護層の形成のし易さなどの面から、第二の支持体を含めた全面を保護層で被覆してもよい。
【0092】
(保護層の形成)
保護層は、有機、無機の公知の種々の材料を用いて、スパッタ、CVD等の蒸着や、スピンコートやディップコートによって形成されるが、これらの中でも、ポリパラキシリレンの膜をCVD法によって形成する事が特に好ましく用いられる。
【0093】
CVDを用いたポリパラキシリレン蒸着はコンフォーマルコーティングであり、本発明の様な第二シンチレータパネルが分断されているような複雑な形状でも回り込んで所定の膜厚を形成する事が可能である。CVD蒸着は、ポリパラキシリレンの原料であるジパラキシリレンを挿入し気化させる工程、気化したジパラキシリレンを加熱昇温してラジカル化する熱分解工程、ラジカル化された状態のジパラキシリレンをシンチレータパネルに蒸着させる蒸着工程によって形成されている。蒸着室のターンテーブル上に吸着部材および第二シンチレータパネルの蛍光体層を上向きにして設置する。
【0094】
次に、気化室において175℃に加熱して気化させ、熱分解室において690℃に加熱昇温してラジカル化したジパラキシリレンを、導入口から蒸着室に導入して、保護層(ポリパラキシリレン膜)を10μmの厚さで蒸着する、この場合に、蒸着室内は真空度13Paに維持されている。又、ターンテーブルは、4rpmの速度で回転させている。また、余分なポリパラキシリレンは、排出口から排出される。
【0095】
ポリパラキシリレン膜の厚さは2μm以上20μm以下が好ましく、平面受光素子と接着する場合の接着剤層の厚みは10μm以上28μm以下が好ましい。
【0096】
また、別の態様の保護層として、蛍光体層上にホットメルト樹脂も使用できる。ホットメルト樹脂はシンチレータパネルと平面受光素子面との接着も兼ねることができる。ホットメルト樹脂はポリオレフィン系、ポリエステル系又はポリアミド系樹脂を主成分ものが好適であるがこれに限定されない。ホットメルト樹脂の厚みは30μm以下が好ましい。
【0097】
(剥離工程)
剥離工程では、保護層が形成された後、保護層が設けられた第二のシンチレータパネルは、基台と、第二の支持体を相対的に移動させることで、第一の支持体から吸着部材を剥離することができる。
【0098】
剥離工程においては、吸着部材の材質、構成にもよるが、吸着部材に前記した加熱により吸着性が低下する材料を用い、剥離工程において加熱して剥離する態様が好ましい態様である。
【0099】
(蛍光体層形成工程)
上記分割工程の前には、第一の支持体上に蛍光体層を設け、第一のシンチレータパネルを形成する工程を有することが好ましい。
【0100】
支持体上に、蛍光体層を設ける方法は、公知の方法のいずれを用いてもよい。蛍光体層の形成方法の一例を下記に示す。
【0101】
蛍光体層は、通常柱状結晶からなるが、柱状結晶は蒸着方法などの気相堆積法で形成することができる。以下に、蒸着方法の典型例について説明する。
【0102】
〈蒸着装置〉
図3に示す通り、蒸着装置961は箱状の真空容器962を有しており、真空容器962の内部には真空蒸着用のボート963が配されている。ボート963は蒸着源の被充填部材であり、当該ボート963には電極が接続されている。当該電極を通じてボート963に電流が流れると、ボート963がジュール熱で発熱するようになっている。放射線用シンチレータパネルの製造時においては、ヨウ化セシウムと賦活剤化合物とを含む混合物がボート963に充填され、そのボート963に電流が流れることで、上記混合物を加熱・蒸発させることができるようになっている。
【0103】
なお、被充填部材として、ヒータを巻回したアルミナ製のるつぼを適用してもよいし、高融点金属製のヒータを適用してもよい。
【0104】
真空容器962の内部であってボート963の直上には第一の支持体1を保持するホルダ964が配されている。ホルダ964にはヒータ(図示略)が配されており、当該ヒータを作動させることでホルダ964に装着した支持体121を加熱することができるようになっている。第一の支持体1を加熱した場合には、第一の支持体1の表面の吸着物を離脱・除去したり、第一の支持体1とその表面に形成される蛍光体層122との間に不純物層が形成されるのを防止したり、第一の支持体1とその表面に形成される蛍光体層122との密着性を強化したり、第一の支持体1の表面に形成される蛍光体層2の膜質の調整を行ったりすることができるようになっている。
【0105】
ホルダ964には当該ホルダ964を回転させる回転機構965が配されている。回転機構965は、ホルダ64に接続された回転軸65aとその駆動源となるモータ(図示略)から構成されたもので、当該モータを駆動させると、回転軸965aが回転してホルダ964をボート963に対向させた状態で回転させることができるようになっている。
【0106】
蒸着装置961では、上記構成の他に、真空容器962に真空ポンプ966が配されている。真空ポンプ966は、真空容器962の内部の排気と真空容器962の内部へのガスの導入とを行うもので、当該真空ポンプ966を作動させることにより、真空容器962の内部を一定圧力のガス雰囲気下に維持することができるようになっている。
【0107】
さらに、ヨウ化セシウムとヨウ化タリウムを用いた場合の例を説明する。
【0108】
上記のように反射層と下引層を設けた第一の支持体1をホルダ964に取り付けるとともに、複数個(図示しない)のボート963にヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとを含む粉末状の混合物を充填する(準備工程)。この場合、ボート963と第一の支持体1との間隔を100〜1500mmに設定し、その設定値の範囲内のままで後述の蒸着工程の処理を行う。より好ましくはボート963と第一の支持体1との間隔を400mm以上、1500mm以下とし、複数個のボート963を同時に加熱し蒸着を行う。
【0109】
準備工程の処理を終えたら、真空ポンプ966を作動させて真空容器962の内部を排気し、真空容器962の内部を0.1Pa以下の真空雰囲気下にする(真空雰囲気形成工程)。ここでいう「真空雰囲気下」とは、100Pa以下の圧力雰囲気下のことを意味し、0.1Pa以下の圧力雰囲気下であるのが好適である。
【0110】
次にアルゴン等の不活性ガスを真空容器962の内部に導入し、当該真空容器962の内部を0.001〜5Pa、より好ましくは0.01〜2Paの真空雰囲気下に維持する。その後、ホルダ964のヒータと回転機構965のモータとを駆動させ、ホルダ964に取付け済みの第一の支持体1をボート963に対向させた状態で加熱しながら回転させる。蛍光体層が形成される支持体121の温度は、蒸着開始時は室温25〜50℃に設定することが好ましく、蒸着中は100〜300℃、より好ましくは150〜250℃に設定することが好ましい。
【0111】
この状態において、電極からボート963に電流を流し、ヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとを含む混合物を700℃程度で所定時間加熱してその混合物を蒸発させる。その結果、第一の支持体1の表面に無数の柱状結晶体が順次成長して所望の厚さの結晶が得られる。この後、ヨウ化セシウムが蒸着された支持体を取り出し、粘着ローラにより蛍光体表面をクリーニングする。
【0112】
(フラットパネルディテクタ)
フラットパネルディテクタは、本発明のシンチレータパネルの製造方法により製造されたシンチレータパネルと、受光素子を有し、受光素子面と、蛍光体層が対面するように構成される。シンチレータパネルの蛍光体層側の面と前記平面受光素子の受光面とを合わせて、一体化することをカップリングという。カップリング方法としては、クッション部材等の補助材を用いて両者を圧着する方法、接着剤で接着する方法、マッチングオイルにより張り合わせる方法などが挙げられる。
【0113】
シンチレータパネルと受光素子を接着剤で張り合わせる場合、接着剤が固化するまで10〜500g/cmの圧力で加圧する。加圧により接着剤層から気泡が除去される。
【0114】
接着剤としては、例えば、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系などの常温硬化型の接着剤が使用できる。特に弾力性を有する接着樹脂としてはゴム系の接着剤が使用しできる。
【0115】
ゴム系の接着剤の樹脂としては、スチレン−イソプレン−スチレン等のブロックコポリマー系や、ポリブタジエン、ポリブチレン等の合成ゴム系接着剤、および天然ゴム等を使用できる。市販されているゴム系接着剤の例としては一液型RTVゴムKE420(信越化学工業社製)などが好適に使用される。
【0116】
シリコーン接着剤としては、過酸化物架橋タイプや付加縮合タイプを単体または混合で使用してもよい。さらにアクリル系やゴム系粘着剤と混合して使用することもできるし、アクリル系接着剤のポリマー主鎖や側鎖にシリコーン成分をペンダントした接着剤を使用してもよい。
【0117】
接着剤としてアクリル系樹脂を用いる場合は、単量体成分として炭素数1〜14のアルキル側鎖を有するアクリル酸エステルを含有するラジカル重合性モノマーを反応させた樹脂を用いることが好ましい。また、単量体成分として、側鎖に水酸基、カルボキシル基、アミノ基等の極性基を有する、アクリル酸エステルやその他のビニル系単量体を添加するのが好ましい。
【0118】
またシンチレータパネルと受光素子には粘着性を有する光学グリース等も使用できる。透明性が高く粘着性があれば公知のいかなるものも使用できる。市販されている光学グリースの例としてはシリコンオイル KF96H(100万CS:信越化学工業社製)などが好適に使用される。
【0119】
図4は、フラットパネルディテクタの構成の例を示す模式断面図である。
【0120】
保護層5を有する保護層付シンチレータパネル25は接着層130でCMOS型の受光素子110に接着している。シンチレータパネルの側面の保護層は、図では省略している。
【0121】
第一の支持体1と蛍光体層2は同一のサイズとなっている。受光素子110の信号取り出し部111を除いた受光画素部全面と蛍光体層2の部分がカップリングされている。フラットパネルディテクタ100全体は透湿度の低い樹脂からなる筐体140で密閉されている。
【実施例】
【0122】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0123】
(下引層および反射層を有する第一の支持体の作製)
厚さ125μm、幅1m、長さ100mのポリイミドフィルム(宇部興産製ユーピレックスS)の上に70nm(700Å)になるように銀をスパッタリングして金属反射層を形成した。続いてグラビアコーターを用いてメチルエチルケトンに溶解したポリエステル樹脂(東洋紡製バイロン200)を塗布、乾燥することにより下引層3.0μm(乾燥膜厚)を設けた。その後、断裁することにより金属反射層および下引層が形成された支持体を作製した。
【0124】
(蛍光体層の形成)
第一の支持体表面に蛍光体(CsI:0.003Tl CsI1モルに対し、0.003モルのTl)を、蒸着装置を使用して蒸着させ、蛍光体層を形成した。すなわち、この蛍光体原料(CsIとTlI)を蒸着材料として抵抗加熱ルツボ(ボート)に充填し、また回転する基板ホルダの金属製の枠に第一の支持体を設置し、支持体と蒸発源との間隔を400mmに調節した。
【0125】
続いて、蒸着装置内を一旦排気し、Arガスを導入して0.5Paに真空度を調整した後、10rpmの速度で基板を回転しながら支持体温度を200℃に保持した。次いで、抵抗加熱ルツボ(ボート)を加熱して蛍光体を蒸着し、厚さが350μmとなったところで蒸着を終了させ、蛍光体層が形成された第一のシンチレータパネルを得た。
【0126】
(断裁および吸着)
第一のシンチレータパネルを図2に示したレーザ断裁装置(YAG−UV)の支持台上に第一の支持体を上にして設置し、24.7mm×49.3mmのサイズに断裁し、第二のシンチレータパネルを形成した。その後、吸着部材として感圧粘着熱剥離材料(熱剥離シート、日東電工株式会社製リバアルファ(商標))を積層する事で凸曲面型の吸着部材を第二のシンチレータパネルのサイズ以下のサイズ(15mm×40mm)に形成しポリカーボネートに配置したものを図1の(c)および図5の(a)のように付着させ、さらに第一の支持体上に圧着し、図1の(d)のようにして、第二のシンチレータパネルを持ち上げ、別の部屋にある保護層形成工程へと移動した。
【0127】
(保護膜の作製)
上記第二のシンチレータパネルを配置したポリカーボネートをCVD装置の蒸着室に入れ、ポリパラキシリレンの原料が昇華した蒸気中に露出させておくことにより、第二シンチレータパネルの吸着部材接触面以外、および第二の支持体が10μmの厚さのポリパラキシリレン膜で被服され、そのまま出荷検査工程を実施した。
【0128】
(剥離)
上記第二のシンチレータパネルおよび第二の支持体を100℃雰囲気化で10分置き、第二のシンチレータパネルを剥離冶具にて剥離した。
【0129】
(評価)
剥離して得られた、保護層付きシンチレータパネル50個について、目視にて傷の有無を確認したところ傷は確認されず、収率は100%であった。
【0130】
一方、比較の製造方法として、前記の断裁工程までは同様の製造方法で行い、その後、断裁された50個の第二のシンチレータパネルの一つ一つを手動で移動させ、各々、保護層を作製し、出荷検査まで実施したところ、40%のサンプルにおいて保護層の剥離や傷、蛍光体への傷が確認され、収率は60%であった。
【0131】
これにより、本発明の製造方法は、単に吸着部材を設置するという簡単な方法により効率的に低コストで可能であり、多様なサイズのシンチレータパネルを製造することができることが分かった。
【符号の説明】
【0132】
1 第一の支持体
2 蛍光体層
3 第二の支持体
4 吸着部材
5 保護層
10 第一のシンチレータパネル
20 第二のシンチレータパネル
25 保護層付シンチレータパネル
30 レーザ断裁装置
33 パージ室
34 排出管
35 透光窓
100 フラットパネルディテクタ
110 受光素子
111 信号取り出し部
130 接着層
140 筐体
961 蒸着装置
962 真空容器
963 ボート
964 ホルダ
965 回転機構
966 真空ポンプ
D 基台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の支持体上に蛍光体層を有し、該蛍光体層上に保護層を有するシンチレータパネルの製造方法であって、
(1)該第一の支持体上に該蛍光体層を有する第一のシンチレータパネルを複数の第二のシンチレータパネルに分割する分割工程、
(2)該分割工程で分割された該複数の第二のシンチレータパネルの各々の、該第一の支持体側の面と、第二の支持体の一方の面との間に吸着部材を設け、該複数の第二のシンチレータパネルの各々と、該第二の支持体とを吸着させる吸着工程、
(3)該複数の第二のシンチレータパネルの各々の、該吸着部材が接触していない部分の全面にわたり該保護層を形成する保護層形成工程、
を有することを特徴とするシンチレータパネルの製造方法。
【請求項2】
前記保護層形成工程の後に、前記第一の支持体から前記吸着部材を剥離する剥離工程を有することを特徴とする請求項1に記載のシンチレータパネルの製造方法。
【請求項3】
前記剥離工程が、吸着部材を加熱して剥離する、加熱剥離工程を有することを特徴とする請求項2に記載のシンチレータパネルの製造方法。
【請求項4】
前記保護層が、少なくともポリパラキシリレンを含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のシンチレータパネルの製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のシンチレータパネルの製造方法により製造されたことを特徴とするシンチレータパネル。
【請求項6】
請求項5に記載のシンチレータパネルを具備することを特徴とするフラットパネルディテクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−172972(P2012−172972A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31729(P2011−31729)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】