説明

シンチレータ部材及びその製造方法並びに放射線測定装置

【課題】シンチレータ部材の強度を向上させる技術を提供する。
【解決手段】遮光膜20は、転写処理によりシンチレータ10の表面に貼り付けられる。遮光膜20は、外部からシンチレータ10へ向かって進む放射線を透過させる機能と外部からの光を遮断する機能とを有する。金属層30は、遮光膜20の表面に形成され、シンチレータ10を構造的に補強する。遮光膜20の厚さが数μmであるのに対し、金属層30は、その100倍程度の厚さに形成されることが望ましい。金属層30は、遮光膜20の表面上において、メッシュ状につまり網目状に形成される。金属層30は、メッキ処理により遮光膜20の表面に形成されるため、シンチレータ10が板状や円柱状などの様々な形状であっても、その形状に応じた金属層30が比較的容易に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータ部材及びその製造方法並びに放射線測定装置に関し、特に、シンチレータ部材の強度を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シンチレータ部材は、表面汚染測定器、体表面モニタなどの様々な放射線測定装置に用いられており、また、シンチレータ部材に関する様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば、シンチレータ部材に放射線が入射すると、そこで生じた光が光電子増倍管(PMT)などの光検出器によって検出される。シンチレータ部材で生じた光は極めて微弱であるため、シンチレータ部材で生じた光を高感度で検出するための様々な遮光技術が存在する。
【0004】
特に、本願の出願人は、シンチレータ部材の放射線入射面側における遮光に関する画期的な技術を提案している(特許文献1参照)。その技術によれば、転写技術を用いて極めて簡便に、シンチレータの放射線入射面に直接的に皮膜を形成することができる。その皮膜は、シンチレータの外部から進入する放射線を透過させ且つ外部からの光の進入を遮断する。
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0151706号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、特許文献1には、シンチレータ部材の遮光に関する画期的な技術が提案されている。その一方において、本願の発明者らは、シンチレータ部材の構造的な強化にも注目して研究開発を重ねてきた。
【0007】
本発明は、その研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、シンチレータ部材の強度を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の好適な態様であるシンチレータ部材は、放射線の入射により発光するシンチレータと、シンチレータの表面に形成されて放射線を透過させ且つ光の透過を阻止する遮光膜と、遮光膜の表面に形成されてシンチレータを構造的に補強するメッシュ状の硬質層と、を有し、前記遮光膜は、当該遮光膜の表面に硬質層を形成するための導電性材料を含み、前記硬質層は、メッキ処理により遮光膜の表面に形成されることを特徴とする。
【0009】
上記態様において、硬質層は、例えば金属性の層でありメッキ処理により遮光膜の表面に固着される。硬質層は、メッシュ状(網目状)に形成され、その網目の部分において遮光膜が露出され、主にその露出部分からシンチレータに放射線が入射する。メッシュ状に形成される硬質層の網目の形状は、例えば、矩形、その他の多角形、円形、楕円形などである。また、硬質層の全域において、網目の密度を均一にしてもよいし、密度を異なるように形成してもよい。例えば、光検出器に近い部分よりも光検出器から遠い部分において硬質層の網目の密度を大きく、つまり遮光膜が露出される面積を大きくして、光検出器から遠い部分における放射線検出の感度を高めることにより、シンチレータの全域に亘って放射線検出の感度が均一となるように設計することも可能である。
【0010】
上記態様では、例えば、硬質層によりシンチレータ部材自身が構造的に強化され、また、硬質層によりシンチレータ部材が外力から保護される。硬質層は、メッキ処理により比較的容易に形成することができる。例えば、シンチレータが板状や棒状などの様々な形状であっても、メッキ処理によりその形状に応じた硬質層が比較的容易に形成される。特に、例えば硬質層を金属性として、比較的厚め、例えば遮光膜の厚さの100倍程度の厚さとすることにより、硬質層による補強の効果がいっそう高められる。ちなみに、硬質層を金属性とすることにより、硬質層が電磁シールドとして機能する効果も期待できる。
【0011】
望ましい態様において、前記遮光膜は、当該遮光膜を前記シンチレータの表面に貼り付けるための接着層と、放射線を透過させ且つ光の透過を阻止する遮光層と、遮光層を保護するとともに前記導電性材料を含んだ保護層と、を備え、これら複数の層を備えた遮光膜は、転写シートからシンチレータの表面に転写されることを特徴とする。
【0012】
望ましい態様において、前記保護層は、前記導電性材料として、金属性のフィラーを含むことを特徴とする。望ましい態様において、前記保護層は、前記導電性材料として、メッシュ状の金属性パターンを含むことを特徴とする。
【0013】
望ましい態様において、前記硬質層は、転写された遮光膜の表面に電気メッキ処理により電着された金属層であることを特徴とする。
【0014】
望ましい態様において、前記シンチレータは、棒状に形成されたファイバシンチレータであり、前記遮光膜は、転写シートからファイバシンチレータの側面に転写され、前記硬質層は、遮光膜が転写されたファイバシンチレータの側面を取り囲んでファイバシンチレータを構造的に補強することを特徴とする。
【0015】
また上記目的を達成するために、本発明の好適な態様である製造方法は、放射線の入射により発光するシンチレータと、放射線を透過させ且つ光の透過を阻止する遮光膜と、シンチレータを構造的に補強するメッシュ状の硬質層と、を有するシンチレータ部材を製造する方法であって、前記遮光膜は、当該遮光膜の表面に硬質層を形成するための導電性材料を含んでおり、当該導電性材料を含んだ遮光膜を転写シートからシンチレータの表面に転写する転写工程と、転写された遮光膜の表面にメッキ処理により硬質層を形成するメッキ処理工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
望ましい態様において、前記遮光膜は、その表面にマスキング処理を施されており、前記メッキ処理工程では、マスキング処理を施されていない遮光膜の表面部分に硬質層が付着して遮光膜の表面にメッシュ状の硬質層が形成されることを特徴とする。
【0017】
望ましい態様において、前記遮光膜は、前記導電性材料として、メッシュ状の金属性パターンを含み、前記メッキ処理工程では、金属性パターンに対応した遮光膜の表面部分に硬質層が付着して遮光膜の表面にメッシュ状の硬質層が形成されることを特徴とする。
【0018】
また上記目的を達成するために、本発明の好適な態様である放射線測定装置は、放射線の入射により発光するシンチレータと、シンチレータの表面に形成されて放射線を透過させ且つ光の透過を阻止する遮光膜と、遮光膜の表面に形成されてシンチレータを構造的に補強するメッシュ状の硬質層と、シンチレータによる発光を検出する光検出器と、を有し、前記遮光膜は、当該遮光膜の表面に硬質層を形成するための導電性材料を含み、前記硬質層は、メッキ処理により遮光膜の表面に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、シンチレータ部材の強度を向上させる技術が提供される。例えば本発明の好適な態様では、硬質層によりシンチレータ部材自身が構造的に強化され、また、硬質層によりシンチレータ部材が外力から保護される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0021】
図1は、本発明に係るシンチレータ部材の好適な実施形態を説明するための図である。図1のシンチレータ部材40は、放射線測定装置において放射線検出器として用いられるものであり、シンチレータ10と遮光膜20と金属層30によって形成されている。
【0022】
シンチレータ10は、例えばプラスチックシンチレータ材料などによって、板状や円柱状に形成される。シンチレータ10に放射線が入射すると、それによって発光が生じ、生じた光が図示しない光電子増倍管などの光検出器によって検出される。放射線としては、X線(γ線)、β線、α線などをあげることができ、本実施形態に係るシンチレータ部材40は特にβ線の検出に好適なものである。
【0023】
遮光膜20は、シンチレータ10の表面に貼り付けられている。遮光膜20は、シンチレータ10の表面側から順に、接着層28と遮光層26と保護層24を積層させた構造の膜である。遮光膜20は、外部からシンチレータ10へ向かって進む放射線を透過させる機能と外部からの光を遮断する機能とを有する。
【0024】
金属層30は、遮光膜20の表面に形成され、シンチレータ10を構造的に補強する硬質層として機能する。遮光膜20の厚さが数μmであるのに対し、金属層30は、その100倍程度の厚さに、例えば500μm程度の厚さに形成されることが望ましい。金属層30は、遮光膜20の表面上において、メッシュ状につまり網目状に形成される。金属層30は、メッキ処理により遮光膜20の表面に形成されるため、シンチレータ10が板状や円柱状などの様々な形状であっても、その形状に応じた金属層30が比較的容易に形成される。
【0025】
図2は、板状に形成されたシンチレータ部材を示す図である。図2において、シンチレータ10は板状に形成されており、その上面側、つまり放射線が入射する入射面側に遮光膜20が貼り付けられている。さらに、その遮光膜20の表面に、格子状の金属層30が形成されている。金属層30の矩形状の網目部分において遮光膜20が露出されているため、主にその露出部分からシンチレータ10に放射線が入射する。格子状の金属層30によって全体的に覆われることにより、シンチレータ部材自身が構造的に強化され、また、シンチレータ部材が外力から保護される。
【0026】
なお、金属層30の形状は格子状に限定されない。例えば、金属層30の網目の形状は矩形に限定されず、矩形以外の多角形、円形、楕円形などであってもよい。例えば、構造強化の点を重視して、網目の形状を6角形としたハニカム構造状の金属層30を形成してもよい。
【0027】
また、金属層30の全域において、網目の密度を均一にしてもよいし密度を異なるように形成してもよい。例えば、光検出器に近い部分(板状のシンチレータ10の中央部分など)よりも光検出器から遠い部分(板状のシンチレータ10の周縁部分など)において網目の密度を大きく、つまり遮光膜20が露出される面積を大きくして、光検出器から遠い部分における放射線検出の感度を高めることにより、シンチレータ部材の全域に亘って放射線検出の感度が均一となるように設計してもよい。
【0028】
図3は、円柱状に形成されたシンチレータ部材を示す図である。図3において、シンチレータ10は、円柱状に形成されて軸方向に伸長されたファイバシンチレータである。そして、シンチレータ10の側面を覆うように遮光膜20が貼り付けられている。さらに、遮光膜20が貼り付けられたシンチレータ10の側面を取り囲むように格子状の金属層30が設けられることにより、シンチレータ部材自身が構造的に強化され、また、シンチレータ部材が外力から保護される。
【0029】
図3に示す円柱状のシンチレータ部材においても、側面に形成された金属層30の矩形状の網目部分において遮光膜20が露出されているため、主にその露出部分からシンチレータ10に放射線が入射する。また、金属層30の形状は格子状に限定されない。例えば、金属層30の網目の形状は、矩形以外の多角形、円形、楕円形などであってもよい。さらに、円柱状のシンチレータ部材の側面の全域において、金属層30の網目の密度を均一にしてもよいし密度を異なるように形成してもよい。
【0030】
次に、本発明に係るシンチレータ部材の製造方法について説明する。図4から図6には、その製造方法の好適な実施形態が示されている。つまり、図4から図6は、図1のシンチレータ部材40の製造方法を説明するための図である。
【0031】
図4は、シンチレータ部材の製造方法における転写工程を説明するための図である。本実施形態において、遮光膜20は、熱転写方式によって熱転写シート50から剥離されてシンチレータ10の表面に貼り付けられる。遮光膜20は、放射線の入射側から見て、保護層24、遮光層26及び接着層28を有している。各層はそれ全体として均一の厚みを有する。
【0032】
保護層24は透明な材料あるいは着色された材料からなるものであり、遮光層26の表面の全体を覆って遮光層26を物理的な作用から保護する機能を発揮する。保護層24は例えばアクリルエポキシ系の材料によって構成され、その厚みは例えば0.5〜3μmの範囲内に設定される。望ましくは保護層24は1.0μmの厚みを有する。保護層24は堅い材料によって薄く均一に形成されており、これによって上述したように遮光層26が物理的な作用から保護されている。保護層24を着色層として構成すれば、例えば黒色あるいは白色の層として構成すれば、それ自体に遮光性を持たせることができる。一般に、遮光層26を構成するアルミニウム材料などに比べて樹脂系の材料の方が放射線の減弱作用が弱いために、遮光層26よりも保護層24の方を厚くするのが望ましい。
【0033】
保護層24は、後述するベースフィルム52上に所定材料を塗布し、それを硬化することによって形成された塗膜(塗布層)である。塗布処理によれば、均一で薄い層を比較的に容易に形成できるという利点がある。また、保護層24は、後に説明するメッキ処理により金属層を保護層24の表面に定着させるための図示しない導電性材料を含んでいる。
【0034】
本実施形態では、熱転写前の状態では、遮光膜20が後述するベースフィルム52に一体化されてその強度が確保され、熱転写後の状態では遮光膜20がシンチレータ10に一体化されてその強度が確保される。遮光膜20を単体で存在させる必要がないので、その取扱いが極めて容易である。
【0035】
遮光層26はアルミニウム材料あるいはそれを含む混合材料によって構成され、その遮光層26は保護層24の裏面側に形成された蒸着層として形成されている。すなわち遮光層26は熱転写シート50の形成段階において蒸着によって形成されたものである。その厚みは、例えば0.01〜1.5μmの範囲内に設定され、望ましくは0.05μmである。熱転写シート50の形成段階において蒸着法以外を用いて遮光層26を形成するようにしてもよい。遮光層26は、測定対象となる放射線を通過させ、その一方において、外来光がシンチレータ10へ到達することを防止する遮光機能、及び、シンチレータ10側からの光を反射する反射機能、を有する。なお、蒸着層をアルミニウム材料以外の材料で構成することも可能である。
【0036】
接着層28は、本実施形態において、熱可塑性接着材によって構成され、例えばオレフィン系の材料(PP系接着材、アクリル系接着材、等)によって構成される。接着層28は、遮光膜20をシンチレータ10上に接着するためのものである。その厚みは例えば2〜3μm程度である。接着層28を構成する材料としては加熱後に硬化する材料を用いるのが望ましい。もちろん、それ以外にも様々な接着材料を利用することが可能である。但し、あまり接着層28の厚さを厚くするとそこでの放射線の減弱が無視できなくなるため、そのような放射線の減弱を考慮しつつできる限り薄い接着層28を形成するのが望ましい。複数の接着層を形成するようにしてもよい。本実施形態において、接着層28には、白色を呈する酸化チタンの粉末が添加されている。その粉末は、シンチレータ10側から進入した光を反射(乱反射)する反射材として機能する。酸化チタンに代えて他の材料を用いることもできる。
【0037】
次に、熱転写シート50について詳述する。熱転写シート50は、ベースフィルム52と、そのベースフィルム52に対して離型層54を介して設けられた上記の遮光膜20と、を有している。すなわち、熱転写時において、熱転写シート50に対して加熱が行われると、離型層54の作用により、ベースフィルム52から遮光膜20が剥がれることになる。それと同時に、遮光膜20は上記の接着層28の作用によってシンチレータ10上に接着される。ベースフィルム52は、例えばポリエステル樹脂によって構成され、具体的にはポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムによって構成される。その厚みは例えば10〜20μmの範囲内に設定され、望ましくは16μmの厚みを有する。離型層54は例えばワックス系あるいはアクリル系の材料によって構成され、その厚みは例えば0.3〜0.8μmの範囲内に設定され、望ましくは0.5μmである。上記の離型層54を有しない熱転写シート50を用いることもできる。
【0038】
なお、上記で掲げた各数値は一例であって、諸条件に応じて各種の数値を採用し得る。例えば、遮光層26の厚みを遮光性が十分担保される限りにおいてより薄くしつつ、その一方において保護層24の厚みをより厚くするようにしてもよい。また薄い遮光層26と薄い保護層24とで遮光膜20を構成し、そのような遮光膜20を複数積層することによって、全体として厚い遮光層及び厚い保護層を構成するようにしてもよい。いずれの場合においても、放射線に応じてそれを十分な感度をもって検出できるように、しかも物理的な保護が十分に図られるように、各材料の厚みを適宜設定するのが望ましい。
【0039】
上述のように、遮光膜20は、熱転写方式によって熱転写シート50から剥離されてシンチレータ10の表面に貼り付けられる。つまり、シンチレータ10の表面に熱転写シート50が重ねられ、図示しない熱転写ローラなどによって、重ねられた状態のシンチレータ10と熱転写シート50に局所的に加熱が行われ、その後、ガイドローラ44によって熱転写シート50のベースフィルム52が巻き取られる。こうして、熱転写シート50のベースフィルム52上から遮光膜20が剥離して、遮光膜20がシンチレータ部材40側に残存することになる。
【0040】
図5は、シンチレータ部材の製造方法におけるメッキ処理工程の第1態様を説明するための図である。この第1態様において、遮光膜20内の保護層24は、金属性のフィラーを含んで形成されている。
【0041】
つまり、図5において、保護層24は、例えば粉末状の金属を含んでいる。なお、保護層24がカーボンを含んでいる場合には、そのカーボンに換えてあるいはカーボンと共に粉末状の金属が混入されてもよい。
【0042】
また、遮光膜20の表面つまり保護層24の表面には、印刷技術などを利用したマスキング処理が施されてマスキング層58が形成されている。マスキング層58は、例えば非導電性の材料で形成され、そして、遮光膜20の表面に金属層30を定着させない部分に形成される。つまり、マスキング層58は、後にメッシュ状に形成される金属層30の網目の部分に対応した形状となっている。なお、マスキング層58は、転写工程の前に形成されてもよい。すなわち、遮光膜20の表面にマスキング層58が形成された状態で熱転写シート(図4の符号50)が形成されてもよい。また、マスキング層58は、転写工程の後に形成されてもよい。
【0043】
そして、遮光膜20の表面つまり保護層24の表面にマスキング層58が形成された状態で、遮光膜20の表面に電気メッキ処理により金属層30が形成される。つまり、例えば、電解質溶液内において、メッキ用の金属イオンが、保護層24に含まれる金属性のフィラーに電気的に引き寄せられ、金属イオンが保護層24の表面に定着して金属層30が形成される。
【0044】
その電気メッキ処理において、マスキング層58によって覆われた部分には金属イオンが定着しない。つまり、網目に対応したマスキング層58を避けて遮光膜20の表面に金属イオンが定着し、これにより、網目の部分が刳り貫かれたメッシュ状の金属層30が形成される。
【0045】
なお、メッキ処理により金属層30を形成した後に、マスキング層58は除去されてもよい。また、遮光膜20の表面にマスキング層58を形成せずに、遮光膜20の表面の全域に金属層30を形成し、その後、網目の部分をエッチング処理などによって除去して、メッシュ状の金属層30を形成してもよい。
【0046】
図6は、シンチレータ部材の製造方法におけるメッキ処理工程の第2態様を説明するための図である。この第2態様において、遮光膜20内の保護層24は、メッシュ状の金属性パターン22を含んで形成されている。つまり、図6において、保護層24は、後に形成される金属層30のメッシュ形状に対応した形状の金属性パターン22を含んでいる。例えば、印刷技術などが利用され、保護層24の表面にメッシュ状の金属性パターン22が形成される。
【0047】
そして、遮光膜20の表面つまり保護層24の表面に、電気メッキ処理により金属層30が形成される。例えば、電解質溶液内において、メッキ用の金属イオンが、保護層24に含まれる金属性パターン22に電気的に引き寄せられ、金属イオンが保護層24の表面に定着して金属層30が形成される。
【0048】
その電気メッキ処理において、金属イオンは、金属性パターン22に対応した部分に定着される。つまり、メッシュ状の金属性パターン22に引き寄せられた金属イオンが、遮光膜20の表面上においてメッシュ状に定着し、これにより、金属性パターン22とほぼ同じ形状のメッシュ状の金属層30が形成される。
【0049】
図6に示すメッキ処理工程の第2態様によれば、印刷技術などを利用して所望の形状の金属性パターン22を保護層24に設けておくことにより、比較的容易に所望の形状の金属層30を形成することができる。
【0050】
図7は、本発明に係る放射線測定装置の好適な実施形態を説明するための図であり、図7には、円柱状のシンチレータ部材40を利用した放射線測定装置が示されている。シンチレータ部材40は、円柱状のシンチレータ(ファイバシンチレータ)の側面に遮光膜を貼り付けて形成され、さらに金属層によって構造的に補強されている(図3参照)。
【0051】
放射線測定装置内において、シンチレータ部材40は、その軸方向が鉛直方向となるように立てられており、シンチレータ部材40の軸方向の一端(上端)には、光電子増倍管60が設けられている。つまり、シンチレータ部材40の外部から放射線が飛来すると、その放射線がシンチレータ部材40の遮光膜を通ってファイバシンチレータに到達し、そこで生じた発光が光電子増倍管60によって検出されることになる。シンチレータ部材40には物理的な保護が図られた遮光膜が形成されているため、その遮光機能によって外部からの光の進入は効果的に防止される。
【0052】
また、シンチレータ部材40の軸方向の他端(下端)には、反射部材80が設けられており、シンチレータ部材40内に発生して反射部材80側へ向かう光が、反射部材80によって光電子増倍管60側へ反射される。これにより、シンチレータ部材40内で発生した光の殆ど全てを、望ましくは全ての光を、光電子増倍管60で検出することができる。なお、反射部材80に換えて、他端側にもう一つの光電子増倍管60を設けてもよい。
【0053】
図7に示す放射線測定装置は、配管(パイプ)70内の放射線を測定するのに適している。例えば軸方向の長さが70cm程度の配管70の筒状の内部にシンチレータ部材40が挿入され、配管70の内部で発生する放射線がシンチレータ部材40に入射し、放射線の入射に伴う発光が光電子増倍管60によって検出される。このように、図7に示す放射線測定装置では、配管70を円筒形の状態で測定することができる。したがって、例えば、円筒状の配管70を切り開く作業などを必要としない。
【0054】
なお、図7には、放射線を検出するための主要部分である光電子増倍管60、シンチレータ部材40、反射部材80と、測定対象である配管70のみを図示しているが、これら図示された構成は、例えばアルミニウムや鉛などによって形成された放射線測定装置の外壁で覆われる。
【0055】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係るシンチレータ部材の好適な実施形態の説明図である。
【図2】板状に形成されたシンチレータ部材を示す図である。
【図3】円柱状に形成されたシンチレータ部材を示す図である。
【図4】転写工程を説明するための図である。
【図5】メッキ処理工程の第1態様を説明するための図である。
【図6】メッキ処理工程の第2態様を説明するための図である。
【図7】本発明に係る放射線測定装置の好適な実施形態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0057】
10 シンチレータ、20 遮光膜、30 金属層、50 熱転写シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の入射により発光するシンチレータと、
シンチレータの表面に形成されて放射線を透過させ且つ光の透過を阻止する遮光膜と、
遮光膜の表面に形成されてシンチレータを構造的に補強するメッシュ状の硬質層と、
を有し、
前記遮光膜は、当該遮光膜の表面に硬質層を形成するための導電性材料を含み、
前記硬質層は、メッキ処理により遮光膜の表面に形成される、
ことを特徴とするシンチレータ部材。
【請求項2】
請求項1に記載のシンチレータ部材において、
前記遮光膜は、
当該遮光膜を前記シンチレータの表面に貼り付けるための接着層と、
放射線を透過させ且つ光の透過を阻止する遮光層と、
遮光層を保護するとともに前記導電性材料を含んだ保護層と、
を備え、
これら複数の層を備えた遮光膜は、転写シートからシンチレータの表面に転写される、
ことを特徴とするシンチレータ部材。
【請求項3】
請求項2に記載のシンチレータ部材において、
前記保護層は、前記導電性材料として、金属性のフィラーを含む、
ことを特徴とするシンチレータ部材。
【請求項4】
請求項2に記載のシンチレータ部材において、
前記保護層は、前記導電性材料として、メッシュ状の金属性パターンを含む、
ことを特徴とするシンチレータ部材。
【請求項5】
請求項3または4に記載のシンチレータ部材において、
前記硬質層は、転写された遮光膜の表面に電気メッキ処理により電着された金属層である、
ことを特徴とするシンチレータ部材。
【請求項6】
請求項1に記載のシンチレータ部材において、
前記シンチレータは、棒状に形成されたファイバシンチレータであり、
前記遮光膜は、転写シートからファイバシンチレータの側面に転写され、
前記硬質層は、遮光膜が転写されたファイバシンチレータの側面を取り囲んでファイバシンチレータを構造的に補強する、
ことを特徴とするシンチレータ部材。
【請求項7】
放射線の入射により発光するシンチレータと、
放射線を透過させ且つ光の透過を阻止する遮光膜と、
シンチレータを構造的に補強するメッシュ状の硬質層と、
を有するシンチレータ部材を製造する方法であって、
前記遮光膜は、当該遮光膜の表面に硬質層を形成するための導電性材料を含んでおり、
当該導電性材料を含んだ遮光膜を転写シートからシンチレータの表面に転写する転写工程と、
転写された遮光膜の表面にメッキ処理により硬質層を形成するメッキ処理工程と、
を含む、
ことを特徴とするシンチレータ部材の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法において、
前記遮光膜は、その表面にマスキング処理を施されており、
前記メッキ処理工程では、マスキング処理を施されていない遮光膜の表面部分に硬質層が付着して遮光膜の表面にメッシュ状の硬質層が形成される、
ことを特徴とするシンチレータ部材の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の製造方法において、
前記遮光膜は、前記導電性材料として、メッシュ状の金属性パターンを含み、
前記メッキ処理工程では、金属性パターンに対応した遮光膜の表面部分に硬質層が付着して遮光膜の表面にメッシュ状の硬質層が形成される、
ことを特徴とするシンチレータ部材の製造方法。
【請求項10】
放射線の入射により発光するシンチレータと、
シンチレータの表面に形成されて放射線を透過させ且つ光の透過を阻止する遮光膜と、
遮光膜の表面に形成されてシンチレータを構造的に補強するメッシュ状の硬質層と、
シンチレータによる発光を検出する光検出器と、
を有し、
前記遮光膜は、当該遮光膜の表面に硬質層を形成するための導電性材料を含み、
前記硬質層は、メッキ処理により遮光膜の表面に形成される、
ことを特徴とする放射線測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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