説明

シートベルト装置

【課題】乗員の拘束性能を保持しながらシートベルトの装着も容易なシートベルト装置を提供する。
【解決手段】シートベルト装置100は、車室側面上部から到来するウェビング110と、車室側面とシート150との間に配置され、車室下部に軸支される一端170Aの周りを回動する他端170Bにてウェビング110に接触してウェビングの位置を前後に変更するベルトリーチャ170と、ベルトリーチャを前方に回動するよう付勢するリターンスプリング182と、車体に固定され、ベルトリーチャと接触してベルトリーチャが所定の前傾姿勢から前方への回動するのを制限する第1ストッパ200と、車体に対して前後に移動するシートに固定され、前傾姿勢およびそれより後退した姿勢にあるベルトリーチャと接触してベルトリーチャの前方への回動を制限する第2ストッパ210と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ドアの開閉に応じてウェビングの位置を変更するベルトリーチャを有するシートベルト装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車両前席用シートベルト装置において、乗員を拘束するウェビングは、リトラクタから車室上部のスルーアンカに挿通されて下方に折り返され、ウェビング先端が車室下部のアンカプレートに固定されていた。シートベルト装着時には、スルーアンカとアンカプレートとの間のタングプレートを乗員が把持し、リトラクタによる巻き取る方向の力に逆らってウェビングを引き出す。乗員によってタングプレートは座席の反対側(車両中央側)へ移動してバックルに装着され、乗員の身体が拘束される。
【0003】
しかし、車室下部(床面)に固定されたアンカプレートにウェビング先端が固定されているため、乗員は、タングプレートを把持するとき、シートに着座した上半身をねじってシートバック後方に位置するタングプレートを把持する必要があった。この点でシートベルト装置の装着は煩雑なものであった。
【0004】
そこでアンカプレートに代わってウェビング先端を固定するベルトリーチャが提案されている(例えば特許文献1および特許文献2)。ベルトリーチャはシートとドアとの間に位置する棒状の部材であり、一端が回動自在に床面に固定されていて、他端にウェビングが固定される。ベルトリーチャは、ドア開時には乗降の邪魔とならないよう直立した格納位置に移動する。ドア閉時には回動して他端を前方に差し出し、ウェビングに取り付けられたタングプレートを乗員が把持しやすい位置まで移動させる。ベルトリーチャはバネ力によって常に前方(装着位置方向)に付勢されていて、ドア開時の格納位置に移動するときはベルトリーチャ他端に固定されたウェビングがリトラクタに巻き取られる。このようにベルトリーチャは、ドアの開閉に対応して格納位置または装着位置の2位置を移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−159161号公報
【特許文献2】特開2009−40323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、乗員は自己の体格や好みに応じてシートを前後に移動させて着座する。特許文献1および特許文献2に記載のようなベルトリーチャのドア閉時の位置は、不変の装着位置であり、乗員がシートを前後に移動させてもそこから動かない。そのため、乗員がシートを後方に移動させると、ウェビングの取出位置(ベルトリーチャ他端)が乗員の身体から前方に離隔しすぎ、シートベルト装着中、ウェビングと乗員の身体との間には、肩部および腰部ともに、間隙が生じる。かかる間隙により、ウェビングは緊急停止時に迅速に乗員を拘束することが困難になってしまう。
【0007】
一方、乗員がシートを前方に移動させると、シートベルト装着中にウェビングと乗員の身体との間に間隙は生じないものの、ウェビング取出位置であるベルトリーチャ他端はシート後方に位置することとなる。これにより、シートベルト装着時にタングを把持するときの煩雑さの問題が再現されてしまう。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、乗員の拘束性能を保持しながらシートベルトの装着も容易な、ベルトリーチャを備えたシートベルト装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかるシートベルト装置の代表的な構成は、車室側面上部から到来するウェビングと、車室側面とシートとの間に配置され、車室下部に軸支される一端の周りを回動する他端にてウェビングに接触してウェビングの位置を前後に変更するベルトリーチャと、ベルトリーチャを前方に回動するよう付勢する付勢部材と、車体に固定され、ベルトリーチャと接触してベルトリーチャが所定の前傾姿勢から前方へ回動するのを制限する第1ストッパと、車体に対して前後に移動するシートに固定され、前傾姿勢およびそれより後退した姿勢にあるベルトリーチャと接触してベルトリーチャの前方への回動を制限する第2ストッパと、を備えることを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、シートが後方へ移動すると、第1ストッパによって前傾姿勢に保たれていたベルトリーチャに第2ストッパが接触する。さらにシートを後方へ移動させるとベルトリーチャは第1ストッパから離脱し、シートとともに後方移動する第2ストッパによって、上記の前傾姿勢より後退した姿勢に保たれる。このように、乗員がシートを後方移動させても、これにベルトリーチャが追従して後退するため、ウェビングと乗員の身体との間には大きな間隙(ベルトスラック(belt slack;ベルトの弛み))が生じない。したがってシートが後方へ移動しても、本発明によるシートベルト装置は拘束性能を失わず、緊急時に迅速に乗員を拘束可能である。
【0011】
一方、シートが前方移動しても、第1ストッパによってベルトリーチャは前傾姿勢に保たれるため、ウェビングは取り出しやすく、装着が容易である。
【0012】
当該シートベルト装置は、車両のドアの開閉を検知するドア開閉検知部をさらに備え、ドア開閉検知部がドア閉を検知している間、第1ストッパまたは第2ストッパによって、ベルトリーチャは、シートのシートバックより前方でウェビングに接触するとよい。
【0013】
上記の構成によれば、乗員が車両に乗り込んでドアを閉めた場合など、シートベルトが締結される準備が整った状況では、シートを最前の位置まで移動させても、ウェビングの取り出しやすさは損なわれない。第1ストッパのみでベルトリーチャが制動されるときの前傾姿勢においても、ベルトリーチャは、常にシートバックより前方でウェビングと接触するからである。
【0014】
一方、シートが後方移動するときには、第2ストッパによってベルトリーチャがシートに追従するが、このときベルトリーチャはシートバックを追い抜いてそれより後退することがない。つまりシートをいくら後方移動させても、ベルトリーチャとウェビングとが接触する位置はシートバックより前方に保たれる。
【0015】
上記ドア開閉検知部がドア閉を検知している間、第1ストッパまたは第2ストッパによって、ベルトリーチャは、シートのシートバックより前方の所定の距離以内でウェビングに接触するとよい。
【0016】
上記の構成によれば、ベルトリーチャは常にシートバックの前方に位置するものの、所定の距離以内でウェビングに接触するため、ウェビングと乗員の身体との間に大きな間隙が生じない。とりわけシートを後方に移動した場合、ベルトリーチャは第2ストッパによって、シートバック前方の所定の距離以内という近接した位置関係を保ってシートの後方移動に追従する。これによりウェビングは、シートバック前方にあって取り出しやすいだけでなく、シートバックに近接した位置関係を保って追従するので、シートベルトの拘束性能も失われず、緊急時に迅速に乗員を拘束可能である。
【0017】
当該シートベルト装置は、シートの車室中央側に配置され、ウェビングに取り付けられたタングプレートが装着されるバックルと、バックルにタングプレートが装着されているか否かを検知するバックルスイッチと、バックルにタングプレートが装着されていることをバックルスイッチが検知すると、ウェビングを巻き取ってウェビングの弛みを除去するリトラクタと、をさらに備えるとよい。
【0018】
上記の構成によれば、シートベルト装着中にはウェビングの弛みが除去され、ウェビングの張力を保つ程度の巻取力が与えられる。リトラクタは付勢部材による前方への付勢力に拮抗できないほど弱い力でウェビングを巻き取るだけであり、ベルトリーチャの制動は第1および第2ストッパに任される。
【0019】
上記ドア開閉検知部がドア開を検知している間に、バックルにタングプレートが装着されていないことをバックルスイッチが検知すると、リトラクタは、ウェビングの弛みを除去する際より強い力でウェビングを巻き取ることにより、付勢部材に抗してベルトリーチャをシートのシートバックの後方まで回動させるとよい。
【0020】
上記の構成によれば、シートベルトが解除され乗員がドアを開けた場合など、乗降の可能性がある状況では、ベルトリーチャは、乗降の邪魔にならないシートバック後方の格納位置に保持される。
【0021】
当該シートベルト装置は、車両速度を計測する速度計をさらに備え、速度計が所定速度以上の車両速度を計測すると、リトラクタは、ウェビングの弛みを除去する際より強い力でウェビングを巻き取ることにより、付勢部材に抗してベルトリーチャをシートのシートバックの後方まで回動させるとよい。
【0022】
上記付勢部材はベルトリーチャの一端と車体とに取り付けられたトーションスプリングとしてよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、乗員の拘束性能を保持しながらシートベルトの装着も容易な、ベルトリーチャを備えたシートベルト装置を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態であるシートベルト装置を例示する図である。
【図2】図1のベルトリーチャの分解斜視図である。
【図3】図2のベルトリーチャを組み立てた状態を例示する図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】図1のシートベルト装置を車両側面側から見た図である。
【図6】図1のシートベルト装置を車両側面側から見た他の図である。
【図7】本実施形態のシートベルト装置に含まれる制御回路を例示するブロック図である。
【図8】図1の第1ストッパおよび第2ストッパによって制動されるベルトリーチャとシートとの位置関係を例示する図である。
【図9】図7の制御部によって制御される、図1のベルトリーチャの動作を例示するフローチャートである。
【図10】図7の制御部によって制御される、図1のベルトリーチャの動作を例示するフローチャートである。
【図11】図3を車両側面側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0026】
(シートベルト装置)
図1は本発明の実施形態であるシートベルト装置を例示する図であり、図1(a)はシートベルト装置100を車両の運転席に適用した図である。シートベルト装置100は、車室側面上部から到来するウェビング110を備える。ウェビング110は、例えばセンタピラー(Bピラー。図示省略)下方などの車室側面下部に取り付けられたリトラクタ120から引き出され、センタピラー上方などの車室側面上部に取り付けられたスルーアンカ130に挿通されて下方へ折り返されている。折り返されたウェビング110はタングプレート140に挿通され、タングプレート140はウェビング110上を摺動可能である。タングプレート140をシート150の車室中央側に配置されるバックル160に乗員が装着することで、シートベルト装置100の締結が完了する。
【0027】
図1(b)は図1(a)の部分拡大図である。シートベルト装置100は、車室側面とシート150との間に配置されるベルトリーチャ170を備える。図2は図1のベルトリーチャ170の分解斜視図である。ベルトリーチャ170の一端170Aは、シート150側から車両側面側へ向かって、ブーツ172、ボルト174、支持要素176およびアンカプレート178で構成されている。これらに、さらにプラスチックワッシャ180、リターンスプリング182、ワッシャ184およびホールドプレート186を取り付ける。かかる構成により、ベルトリーチャ170の一端170Aは、車室下部の固定ブラケット187(図1)に回動可能に軸支されている。
【0028】
リターンスプリング182は、ベルトリーチャ170の一端170Aと車体とに取り付けられていて、ベルトリーチャ170を前方に回動するよう付勢する付勢部材である。図2に例示するように、リターンスプリング182のそれぞれの端部は、ベルトリーチャ170の一端170Aを構成するアンカプレート178の孔188と、車体に固定されたホールドプレート186の孔190とに、それぞれ挿入されている。
【0029】
図3は図2のベルトリーチャ170を組み立てた状態を例示する図であり、図4は図3のA−A断面図である。ベルトリーチャ170の組立てるときは、図3(a)のように、まず支持要素176をアンカプレート178のポケット状のスペースに挿入し、リターンスプリング182を取り付ける。その後、図3(b)のように、後方からブーツ172およびボルト174を取り付け、前方からワッシャ184およびホールドプレート186を取り付けて完成する。既に図1に例示したように、ウェビング110はスルーアンカ130からベルトリーチャ他端170Bまでの間、空中を走行する。そして図1(b)のようにウェビング110はベルトリーチャ他端170Bに接触し、図3および図4に例示するようにそのまま支持要素176内を通ってベルトリーチャ一端170Aまで引き込まれ、アンカプレート178に固定される。ベルトリーチャ170はリターンスプリング182によって前方に回動するように付勢されているため、ベルトリーチャ170は、一端170Aの周りを回動しウェビング110に接触する他端170Bによって、ウェビング110の位置を前後に変更する。
【0030】
(第1ストッパ)
図5は図1のシートベルト装置を車両側面側から見た図であり、図5(a)はシート150を前方移動させた状態を実線で例示し、シート150を標準的な位置に移動させた状態を二点鎖線で例示する。図5(b)は図5(a)のシート150を前方移動させた状態におけるベルトリーチャ170の一端170A付近を例示する図である。
【0031】
図5(b)に例示するように、シートベルト装置100は、車体に固定された第1ストッパ200を備える。厳密に言えば第1ストッパ200は車体そのものでなく、車体に固定された固定ブラケット187によって間接的に車体に固定されている。第1ストッパ200は、車体に直接固定する必要はなく、車体との相対的な位置関係が変化しなければよい。
【0032】
ベルトリーチャ170はリターンスプリング182によって前方に回動するよう付勢されているところ、第1ストッパ200は、図5(b)に例示するようにベルトリーチャ170に接触してベルトリーチャ170を所定の前傾姿勢に保持し、ベルトリーチャ170がこの前傾姿勢から前方へ回動するのを制限している。
【0033】
図5(a)の実線で例示するシート150がさらに前方へ移動しても、ベルトリーチャの前傾姿勢は図5(b)の状態から変わらない。このようにウェビング110はシート150が前方移動しても所定の前傾姿勢に保たれ、取り出し易さが保たれる。
【0034】
(第2ストッパ)
図6は図1のシートベルト装置を車両側面側から見た他の図であり、図6(a)はシート150を後方移動させた状態を実線で例示し、シート150を標準的な位置に移動させた状態を二点鎖線で例示する。図6(b)は図6(a)のシート150を後方移動させた状態におけるベルトリーチャ170の一端170A付近を例示する図である。
【0035】
図6(a)(b)に例示するように、シートベルト装置100は、車体に対して前後に移動するシート150に固定された第2ストッパ210を備える。第2ストッパ210は、図5(b)の前傾姿勢およびそれより後退した図6(b)に例示する後退した姿勢にあるベルトリーチャ170と接触して、ベルトリーチャ170の前方への回動を制限する。図6(b)に例示するように、第2ストッパ210はベルトリーチャ170に接触する面において、ベルトリーチャ170の延伸方向に略平行な傾斜面を有するとよい。
【0036】
上記の構成によれば、シート150が図5(a)の実線で例示する前方移動した状態から二点鎖線で例示する標準的な位置まで後方へ移動すると、第1ストッパ200によって前傾姿勢(図5(b))に保たれていたベルトリーチャ170に第2ストッパ210が接触する。図6(a)の二点鎖線(図5(a)の二点鎖線に同じ)で例示する標準的な位置にあるシート150を、さらに実線で例示するように後方へ移動させると、第2ストッパ210は、リターンスプリング182の前方への付勢力に抗してベルトリーチャ170を後方へ回動させる。同時に、ベルトリーチャ170は第1ストッパ200から離脱し、シート150とともに後方移動する第2ストッパ210のみによって、上記の前傾姿勢より後退した姿勢に保たれる。
【0037】
このように、乗員がシート150を後方移動させても、これにベルトリーチャ170が追従して後退するため、ウェビング110と乗員の身体との間には大きな間隙(ベルトスラック(belt slack;ベルトの弛み))が生じない。したがってシート150が後方へ移動しても、本実施形態によるシートベルト装置100は拘束性能を失わず、緊急時に迅速に乗員を拘束可能である。
【0038】
一方、シート150が前方移動しても、図5に例示するように、第1ストッパ200によってベルトリーチャ170は前傾姿勢に保たれるため、ウェビング110は取り出しやすく、装着が容易である。
【0039】
(第1ストッパ・第2ストッパの機能)
図7は本実施形態のシートベルト装置100に含まれる制御回路を例示するブロック図である。制御回路を構成する各要素はハードウェアまたはソフトウェアのいずれで構成してもよく、車両内のいずれの位置に配置してもよい。
【0040】
シートベルト装置100はドア開閉検知部230を備え、これは、車両の運転席ドア220(ブロックとしてのみ図示)に接続され、運転席ドア220の開閉を検知する。シートベルト装置100はまた、バックルスイッチ240を備え、これは、ウェビング110に取り付けられたタングプレート140が装着されるバックル160に接続され、バックル160にタングプレート140が装着されているか否かを検知する。シートベルト装置100はさらに、速度計242を備え、これは車両速度を計測する。
【0041】
制御部250はドア開閉検知部230、バックルスイッチ240および速度計242に接続される。制御部250は、ドア開閉検知部230からはドア開閉いずれかを示す信号を受信し、バックルスイッチ240からはバックル160にタングプレートが装着されているか否かを示す信号を受信し、速度計242からは車両速度を受信する。制御部250は受信したそれら信号に基づき、リトラクタ120を制御してリトラクタ120内のモータ(図示せず)の巻取力を制御する。
【0042】
ドア開閉検知部230がドア閉を検知している間、制御部250はリトラクタ120を作動させず、第1ストッパ200または第2ストッパ210によって、ベルトリーチャ170は、シート150のシートバック150Aより前方でウェビングに接触する。
【0043】
図8は図1の第1ストッパ200および第2ストッパ210によって制動されるベルトリーチャ170とシート150との位置関係を例示する図である。図8(a)(b)のように、第1ストッパ200のみでベルトリーチャ170が制動されるときの前傾姿勢において、ウェビング110(図8では図示省略)と接触するベルトリーチャ他端170Bは、常にシートバック150Aより前方にある。したがって、シート150を図8(b)のように前方に移動させ、仮に最前方まで移動させても、ウェビング110の取り出しやすさは損なわれない。
【0044】
かかる動作は、第1ストッパ200が、ベルトリーチャ170に十分な前傾角度を持たせる位置に配置されていることで実現されている。また、ベルトリーチャ170自体の長さも、ウェビング110の位置を常にシートバック150Aの前方に保つよう、決定されている。
【0045】
一方、図8(c)に例示するように、シート150が後方まで移動するときには、第2ストッパ210によってベルトリーチャ170がシート150に追従するが、このときベルトリーチャ170はシートバック150Aを追い抜いてそれより後退することがない。つまりシート150をいくら後方移動させても、ベルトリーチャ170とウェビング110とが接触する位置(他端170B)はシートバック150Aより前方に保たれる。よって、シート150を図8(c)のように後方移動させるときにも、ウェビング110の取り出しやすさは損なわれない。
【0046】
これは、図8(a)の前傾姿勢にて、第2ストッパ210がベルトリーチャ170の一端170Aから十分に離れた位置でベルトリーチャ170に接触するからである。言い換えればベルトリーチャ170の長手方向の十分な距離にわたって、第2ストッパ210がベルトリーチャ170に接触するからである。仮に第2ストッパ210がベルトリーチャ170に接触し始める箇所がベルトリーチャ170の一端170Aに近すぎれば、シート150が後方移動する際にベルトリーチャ170が後方へ回動する回転角度も大きくなりすぎる。その場合、ともすればベルトリーチャ170はシートバック150Aより後退し、ウェビング110が取り出しにくくなってしまう。本実施形態は、かかる事態が生じないよう、第2ストッパ210の位置を決定している。
【0047】
また、図8に例示するように、第1ストッパ200または第2ストッパ210によって、ベルトリーチャ170は、シート150のシートバック150Aより前方の所定の距離d以内でウェビング110に接触している。すなわち、ウェビング110に接触するベルトリーチャ170の他端170Bは、シートバック150Aから距離dを超えて前方に過剰に離れすぎることがない。この距離dは任意に決定してよいが、これを小さくするほど、シートベルト装置100の拘束性能が低下しないことは明らかである。
【0048】
上記の構成によれば、ベルトリーチャ170は常にシートバック150Aの前方に位置するものの、所定の距離以内でウェビング110に接触するため、ウェビング110と乗員の身体との間に大きな間隙が生じない。とりわけシート150を後方に移動した場合、従来では、ウェビングと乗員の身体との間の間隙が大きくなりすぎていた。しかし本実施形態ではこれを防止し、図8(c)のように、ベルトリーチャ170は第2ストッパ210によって、シートバック150A前方の所定の距離d以内という近接した位置関係を保ってシート150の後方移動に追従する。このようにウェビング110は、シートバック150A前方にあって取り出しやすいだけでなく、シートバック150Aに近接した位置関係を保って追従するので、シートベルト装置100の拘束性能も失われず、緊急時に迅速に乗員を拘束可能である。
【0049】
(ベルトリーチャの動作)
図9および図10は、図7の制御部250によって制御される、図1のベルトリーチャ170の動作を例示するフローチャートである。制御部250はドア開閉検知部230からドア開信号を受信すると(ステップS300のYES)、リトラクタ120を正転駆動し、ベルトリーチャ170を格納位置へ保持する(ステップS310)。シートベルト装置100が解除され乗員がドアを開けた場合など、乗降の可能性がある状況では、ベルトリーチャ170は、乗降の邪魔にならないシートバック150A後方の格納位置に保持すべきだからである。
【0050】
リトラクタ120の正転駆動は、リトラクタ120のモータ電流が所定の停止検知モータ電流閾値以上に上昇するまで行われ(ステップS320、S330)、3回その工程が繰り返される(ステップS340)。その後は制御部250がドア閉信号を受信するか、あるいはバックルスイッチ240からオン信号(バックル160にタングプレート140が装着されている)を受信するまで、ベルトリーチャ170は格納位置に保持される(ステップS350、S360)。
【0051】
言い換えれば、ドア開閉検知部230がドア開を検知している間に、バックル160にタングプレート140が装着されていないことをバックルスイッチ240が検知すると、リトラクタ120は、ウェビング110の弛みを除去する際より強い力でウェビング110を巻き取る。これによりリトラクタ120は、リターンスプリング182に抗してベルトリーチャ170をシート150のシートバック150Aの後方まで回動させる。
【0052】
ドア開時に限ってかかる動作を行うのは、ドア閉時であればベルトリーチャ170が乗降の邪魔になることはないし、リトラクタ120のモータ駆動電力は可能な限り節約して、ベルトリーチャ170の制動を第1ストッパ200および第2ストッパ210に任せておくほうが得策だからである。また、バックルスイッチ240のオフ時に限ってかかる動作を行うのは、バックル160がタングプレート140に装着されているバックルスイッチ240オンの間は、強力な力で巻き取る必要がなく、専らウェビング110の弛み取りをすればよいからである。
【0053】
図11は図3を車両側面側から見た図である。格納位置は、図11のように、直立状態に近いやや後傾した位置とするとよい。乗降の邪魔にならないよう、シートバック150Aより後方にする必要がある一方、必要以上に後傾させずリトラクタ120の駆動電力を節約するためである。
【0054】
再び図7、図9および図10を参照する。例えば乗員が乗車してドアを閉めた場合など、制御部250がステップS300においてドア閉信号を受信すると、制御部250はリトラクタ120を反転駆動し、リターンスプリング182がベルトリーチャ170を前方に回動するよう付勢する(ステップ)。
【0055】
このとき、図8に例示したように、第1ストッパ200および第2ストッパ210によって、ベルトリーチャ170は、シート150の前後移動に追従して制動される。この制動は、制御部250がドア開信号を受信するか、バックルスイッチ240からオン信号を受信するか、速度計242から所定速度以上の車両速度を受信するまで継続される(ステップS380、S390、S500)。
【0056】
ベルトリーチャ170を所望の位置に制動することは、リトラクタ120がウェビング110を強い力で巻き取る方法でも不可能ではない。しかし、ドア閉時はシートベルトが締結される可能性があるため、強い力でウェビング110が巻き取られていると、乗員はウェビング110を引き出すことができない。したがって、ドア閉時にベルトリーチャ170をリトラクタ120によって制動するのは現実的でなく、そこに本実施形態の第1ストッパ200および第2ストッパ210の存在意義がある。
【0057】
ステップS380で制御部250がドア開信号を受信するか、ステップS500で制御部250が所定速度以上の車両速度を受信した場合には、ステップS310に進み、ベルトリーチャ170を格納する。つまり、制御部250はリトラクタ120を制御し、ウェビング110の弛みを除去する際より強い力でウェビング110を巻き取ることにより、リターンスプリング182に抗してベルトリーチャ170をシートのシートバック150Aの後方の格納位置まで回動させる。ドア開信号を受信した場合はベルトリーチャ170を乗降の邪魔にならない場所に移すためである。所定速度以上の速度を検知した場合は、タングプレート140が走行中の振動等でドアの肘掛等へ接触して生じる異音を防いだり、タングプレート140の揺動を止めて見栄えを向上させたりするためである。
【0058】
図9のステップS360またはステップS390において、乗員がバックル160にタングプレート140を装着したことをバックルスイッチ240が検知すると(バックルスイッチ240オン)、図10のステップS400に移行する。すなわち、制御部250はリトラクタ120を作動させ、リトラクタ120は、ウェビング110を巻き取ってウェビング110の弛みを除去する。リトラクタ120の正転駆動による弛みの除去は、リトラクタ120のモータ電流が所定の停止検知モータ電流閾値以上に上昇するまで行われ(ステップS4100、S420)。
【0059】
上記の構成によれば、シートベルト締結中にはウェビング110の弛みを除去する程度の巻取力がリトラクタ120に付与され、ウェビング110の張力が常に保たれる。リトラクタ120はリターンスプリング182による前方への付勢力に拮抗できないほど弱い力でウェビング110を巻き取るだけであり、ベルトリーチャ170の制動は、この工程でも、図8のように、第1ストッパ200および第2ストッパ210に任される。
【0060】
ただしこれは平常時のリトラクタ120の動作であり、事故時には無論、乗員を拘束する必要があるため、リトラクタ120によるウェビング110を巻き取る力は、リターンスプリング182など比較にならないほど強力になる。
【0061】
乗員がバックル160からタングプレート140を外し、バックルスイッチ240がオフになると(ステップS430のNO)、制御部250はリトラクタ120のモータを正転駆動し、ベルト格納アシスト(補助)動作を行う(ステップS440、S450、S460)。このときの動作はステップS310、S320、S330と同様であるが、リトラクタ120のモータによる巻取力は小さく、ベルト(ウェビング110)の弛みを除去し、ベルトだけを格納する。ベルトリーチャ170は第1ストッパ200または第2ストッパ210で制動された姿勢を保つ。ステップS460でモータ正転駆動が終了すると、制御部250はさらにモータのクラッチを解除し、モータを反転駆動して、ベルトを引き出しやすくする。制御部250は再びステップS380に移行する。
【0062】
なお、本明細書の図9および図10に例示した各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0064】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、車両ドアの開閉に応じてウェビングの位置を変更するベルトリーチャを有するシートベルト装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
100 …シートベルト装置
110 …ウェビング
120 …リトラクタ
130 …スルーアンカ
140 …タングプレート
150 …シート
150A …シートバック
160 …バックル
170 …ベルトリーチャ
172 …ブーツ
174 …ボルト
176 …支持要素
178 …アンカプレート
180 …プラスチックワッシャ
182 …リターンスプリング
184 …ワッシャ
186 …ホールドプレート
187 …固定ブラケット
200 …第1ストッパ
210 …第2ストッパ
220 …運転席ドア
230 …ドア開閉検知部
240 …バックルスイッチ
242 …速度計
250 …制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室側面上部から到来するウェビングと、
車室側面とシートとの間に配置され、車室下部に軸支される一端の周りを回動する他端にて前記ウェビングに接触して該ウェビングの位置を前後に変更するベルトリーチャと、
前記ベルトリーチャを前方に回動するよう付勢する付勢部材と、
車体に固定され、前記ベルトリーチャと接触して該ベルトリーチャが所定の前傾姿勢から前方へ回動するのを制限する第1ストッパと、
車体に対して前後に移動する前記シートに固定され、前記前傾姿勢およびそれより後退した姿勢にある前記ベルトリーチャと接触して該ベルトリーチャの前方への回動を制限する第2ストッパと、
を備えることを特徴とするシートベルト装置。
【請求項2】
車両のドアの開閉を検知するドア開閉検知部をさらに備え、
前記ドア開閉検知部がドア閉を検知している間、前記第1ストッパまたは第2ストッパによって、前記ベルトリーチャは、前記シートのシートバックより前方で前記ウェビングに接触することを特徴とする請求項1に記載のシートベルト装置。
【請求項3】
前記ドア開閉検知部がドア閉を検知している間、前記第1ストッパまたは第2ストッパによって、前記ベルトリーチャは、前記シートのシートバックより前方の所定の距離以内で前記ウェビングに接触することを特徴とする請求項2に記載のシートベルト装置。
【請求項4】
シートの車室中央側に配置され、前記ウェビングに取り付けられたタングプレートが装着されるバックルと、
前記バックルにタングプレートが装着されているか否かを検知するバックルスイッチと、
前記バックルにタングプレートが装着されていることを前記バックルスイッチが検知すると、前記ウェビングを巻き取って該ウェビングの弛みを除去するリトラクタと、
をさらに備えることを特徴とする請求項2または3に記載のシートベルト装置。
【請求項5】
前記ドア開閉検知部がドア開を検知している間に、前記バックルにタングプレートが装着されていないことを前記バックルスイッチが検知すると、前記リトラクタは、前記ウェビングの弛みを除去する際より強い力で該ウェビングを巻き取ることにより、前記付勢部材に抗して前記ベルトリーチャを前記シートのシートバックの後方まで回動させることを特徴とする請求項4に記載のシートベルト装置。
【請求項6】
車両速度を計測する速度計をさらに備え、
前記速度計が所定速度以上の車両速度を計測すると、前記リトラクタは、前記ウェビングの弛みを除去する際より強い力で該ウェビングを巻き取ることにより、前記付勢部材に抗して前記ベルトリーチャを前記シートのシートバックの後方まで回動させることを特徴とする請求項4または5に記載のシートベルト装置。
【請求項7】
前記付勢部材は前記ベルトリーチャの一端と車体とに取り付けられたトーションスプリングであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−84081(P2011−84081A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224440(P2009−224440)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(503358097)オートリブ ディベロップメント エービー (402)
【復代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
【Fターム(参考)】