説明

シート巻き取り装置用の巻き取り軸及びシート巻き取り装置

【課題】バレルに歪みや変形を生じさせることなく、コイルバネの端部をバレル内で良好な作業性で組み付け可能とする。
【解決手段】巻き取り軸1において、バレル2内でコイルバネ6の一端が係止されるセンターロータ5の外周面に、バレル2の半径方向に弾性を有する弾性片30,30と、その弾性片30,30の外面に設けられ、所定位置でバレル2に設けた位置決め孔11,11に嵌合する位置決め突起31,31とを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のサンシェード装置やトノカバー装置等のシート巻き取り装置において、シートの巻き取りに用いられる巻き取り軸と、その巻き取り軸を用いたシート巻き取り装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のサンシェード装置やトノカバー装置といったシート巻き取り装置においては、サンシェードやトノカバー等のシートの一端を巻き取り軸に固着し、その巻き取り軸を筒状のケースへ回転可能に収容している。この巻き取り軸は、中空筒のバレル内にコイルバネを同軸で収容したもので、コイルバネの一端がケース側に、他端がバレル側にそれぞれ係止されて、予めコイルバネを巻き絞った状態で組み付けることで、バレルにシートの巻き取り方向へ回転トルクを付与するようになっている。
このようなシート巻き取り装置において、バレルへのコイルバネの端部の係止構造としては、特許文献1に示すように、ピン部材をバレルへ半径方向に突き刺してバレル内部へ突出させ、ピン部材に設けた装着溝にコイルバネの端部を係止させたり、コイルバネの端部を係止させる係合部を備えて周方向の複数箇所に窪みを有する嵌着部材をバレル内に収容し、嵌着部材の位置でバレルを内径方向に押し潰して嵌着部材を固定したりする構造が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3922879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の係止構造において、ピン部材を設けた場合は、ピン部材を打ち込んでからコイルバネを係止する作業となるため、バレルの内部でのコイルバネの組み付け作業がやりにくい。また、嵌着部材を用いた場合は、バレルをかしめて押し潰すため、バレルに歪みや変形が生じ、シートの出し入れの際に動作不良を起こしたり、バレルがケースと干渉して異音を発生させたりするおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、バレルに歪みや変形を生じさせることなく、コイルバネの端部を良好な作業性でバレル内に組み付けることができるシート巻き取り装置用の巻き取り軸と、その巻き取り軸を用いたシート巻き取り装置とを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、内部にコイルバネが収容される中空筒のバレルと、そのバレル内の所定位置に固定され、前記コイルバネの一端が係止されるバネ受部材と、前記バレルの一端に遊挿され、前記コイルバネの他端が係止される軸部材と、を含むシート巻き取り装置用の巻き取り軸であって、
前記バネ受部材の外周面に、前記バレルの半径方向に弾性を有する弾性片と、その弾性片の外面に設けられ、前記所定位置で前記バレルに設けた位置決め孔に嵌合する位置決め突起とを形成したことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、前記バレルの内周面に軸方向と平行な内側突条又は内側溝を、前記バネ受部材の外周面に軸方向と平行な外側溝又は外側突条をそれぞれ形成して、前記内側突条と外側溝との嵌合又は前記内側溝と外側突条との嵌合によって前記バネ受部材を回転規制した状態で前記バレル内に挿入可能としたことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、前記軸部材が遊挿される前記バレルの一端に、前記軸部材を回転可能且つ軸方向へスライド可能に軸支する筒状の軸受部材を設けると共に、前記軸受部材の内周面に、その半径方向へ突出する突起を設ける一方、前記軸部材の外周面に、前記突起と係止して前記軸部材の回転を規制するロック溝と、そのロック溝と連通し、前記突起との干渉を回避して前記軸部材の回転を許容するリング溝とを設けて、前記突起が前記リング溝内に位置する状態で前記軸部材を回転することで前記コイルバネの巻き絞りを可能とし、前記軸部材のスライドによって前記突起が前記ロック溝内に位置する状態で前記コイルバネの巻き絞り状態での保持を可能としたことを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項3の構成において、前記リング溝を、前記軸部材の軸方向で前記ロック溝を挟んだ前後に一対設けて、両リング溝をそれぞれ前記ロック溝に連通させて、何れの前記リング溝内へ前記突起を位置させても前記軸部材の回転による前記コイルバネの巻き絞りを可能としたことを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の構成において、前記バレルの他端に、当該他端に挿入されて端部に前記バレルと同軸の支軸を突設させる支軸部材を設けて、前記支軸部材における前記他端への挿入部分の外周面に、前記バレルの半径方向に弾性を有し、挿入状態で前記バレルの内周面に周方向へ接触して内側から押圧する押圧片を設けたことを特徴とするものである。
【0007】
上記目的を達成するために、請求項6に記載の発明は、シート巻き取り装置であって、請求項1乃至5の何れかに記載のシート巻き取り装置用の巻き取り軸の前記バレルにシートの一端を固着して、前記巻き取り軸をケース内に収容して当該ケースに設けたスリットから前記シートを引き出し、前記バレルの一端側の前記軸部材を、前記コイルバネの巻き絞り状態で前記ケースに回転不能に保持させる一方、前記バレルの他端を前記ケースに回転可能に軸支させて、前記バレルに前記シートの巻き取り方向へ回転トルクを付与してなるものである。
なお、本発明でいう「シート」は、巻き取り軸のバレルに端部が固着されてバレルの回転によって巻き取り可能なものであれば、サンシェードやトノカバー等の自動車用のシートは勿論、ロールスクリーンやロールカーテン等の他の目的によるシートも含む。
【発明の効果】
【0008】
請求項1及び6に記載の発明によれば、バレルをかしめたりすることなくバレル内で簡単にバネ受部材を所定位置に位置決めできる。よって、バレルに歪みや変形を生じさせることがなく、コイルバネの端部を良好な作業性でバレル内に組み付けることができる。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、バレルへのバネ受部材の組み付け時に回転方向での位置決めを容易に行うことができ、位置決め孔への位置決め突起の嵌合が短時間で確実に行える。
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加えて、コイルバネの回転トルクの設定と保持とが容易に行える。また、軸受部材に溝等を設けないため、軸受部材のの強度を確保でき、軸部材の回転及びスライド操作もスムーズに行える。
請求項4に記載の発明によれば、請求項3の効果に加えて、コイルバネを巻き絞る際の軸部材のスライド位置を任意に選択できる。特に、バレルの奥側のリング溝内に突起を位置させるスライド位置であれば、軸部材の押し込み量が小さくて済み、作業時間の短縮が期待できる。
請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至4の何れかの効果に加えて、バレルと支軸部材とが強固に結合され、バレルが回転する際の異音の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】巻き取り軸の斜視図である。
【図2】巻き取り軸の分解斜視図である。
【図3】第1ロータ軸の説明図で、(A)が正面、(B)が平面、(C)が左側面、(D)が右側面をそれぞれ示す。
【図4】第1ロータ軸の斜視図で、(A)が筒状部側から、(B)が支軸側からそれぞれ見た状態を示す。
【図5】ロータ軸受の説明図で、(A)が正面、(B)が平面、(C)が左側面、(D)が右側面をそれぞれ示す。
【図6】ロータ軸受の斜視図で、(A)がフランジ部側から、(B)が反対側からそれぞれ見た状態を示す。
【図7】センターロータの説明図で、(A)が正面、(B)が平面、(C)が底面、(D)が左側面、(E)が右側面をそれぞれ示す。
【図8】センターロータの斜視図で、(A)が小径部側から、(B)が大径部側からそれぞれ見た状態を示す。
【図9】第2ロータ軸の説明図で、(A)が正面、(B)が平面、(C)が底面、(D)が左側面、(E)が右側面をそれぞれ示す。
【図10】第2ロータ軸の斜視図で、(A)が連結部側から、(B)が小径部側からそれぞれ見た状態を示す。
【図11】バレルを断面で表した巻き取り軸の斜視図である。
【図12】巻き取り軸の縦断面図で、(A)が第2ロータ軸の回転規制位置、(B)(C)が第2ロータ軸の回転フリー位置をそれぞれ示す。
【図13】シート巻き取り装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、シート巻き取り装置に用いられる巻き取り軸の斜視図、図2は巻き取り軸の分解斜視図である。
この巻き取り軸1は、長尺筒状のバレル2と、バレル2の一端に嵌着される支軸部材としての第1ロータ軸3と、バレル2の他端に嵌着される軸受部材としてのロータ軸受4と、バレル2内に挿入係止されるバネ受部材としてのセンターロータ5と、バレル2内に収容されて一端がセンターロータ5に係止されるコイルバネ6と、バレル2の他端側でロータ軸受4に挿入されてコイルバネ6の他端が係止される軸部材としての第2ロータ軸7と、バレル2内でコイルバネ6に外装されるチューブ8と、を含んでなる。
【0011】
まずバレル2は、アルミニウム等の金属で形成され、内周面の全長に亘り、軸線と平行な4つの突条10,10・・が、周方向へ等間隔で突設されている。また、バレル2の外面でロータ軸受4が嵌着される端部寄りには、点対称に位置する一対の位置決め孔11,11が、一対の突条10,10と同じ位相で形成されている。
【0012】
第1ロータ軸3は、合成樹脂製で、図3,4に示すように、バレル2の内径と同径の外径を有するキャップ部12の一方の端部側に、バレル2の外径と同径のフランジ13と、その中心に位置する円柱状の支軸14とがそれぞれ形成されている。一方、キャップ部12の他方の端部側には、キャップ部12と同径の筒状部15が形成されている。この筒状部15の外周面には、バレル2の突条10,10・・が合致する4つの軸方向の溝16,16・・が、周方向へ等間隔で凹設されている。また、筒状部15における各溝16と同じ位相には、フランジ13側と周方向の両側との三箇所を分離したコ字状のスリット17,17・・が形成されて、各スリット17内は、フランジ13側の端部が筒状部15の外周面から突出して周方向に所定幅を有し、半径方向に弾性を有する4つの押圧片18,18・・となっている。
【0013】
次に、ロータ軸受4は、バレル2に嵌入可能な合成樹脂製の筒状体で、図5,6に示すように、外周面には、バレル2の突条10,10・・が嵌合する4つの溝20,20・・が、周方向へ等間隔で凹設されている。また、ロータ軸受4の一端側には、バレル2の外径と同径となるフランジ部21が周設されて、フランジ部21の外面で一つの溝20と同じ位相には、切り欠き凹部22が形成されている。さらに、ロータ軸受4の他端側の内周面には、切り欠き凹部22が形成される溝20と対向する溝20と同じ位相で突起23が形成されている。
【0014】
センターロータ5は、合成樹脂製の筒状体で、図7,8に示すように、バレル2の内径と同径となる大径部25と、その大径部25より小径の中径部26と、その中径部26より小径となってコイルバネ6の端部に挿入可能な小径部27とからなる三段径となっている。このうち大径部25には、バレル2の突条10,10・・が嵌合する4つの溝28,28・・が周方向へ等間隔で凹設されると共に、点対称に位置する一対の溝28,28と同じ位相には、中径部26と反対の端部側と周方向の両側との三箇所を分離したコ字状のスリット29,29によって、半径方向に弾性を有する一対の弾性片30,30が形成されている。各弾性片30における自由端側の外面には、円形の位置決め突起31がそれぞれ形成されている。ここでの溝28は、各位置決め突起31の外面にも凹設されている。
【0015】
また、センターロータ5の外周面には、小径部27から中径部26にかけて、一方の弾性片30が設けられる溝28と同じ位相でガイド溝32が軸方向に形成されている。ガイド溝32の終端には、中径部26を径方向に貫通する係止孔33が形成されている。このガイド溝32は、小径部27にコイルバネ6の端部を嵌合する際にコイルバネ6の端部に形成されたL字状の係止部34の進入をガイドするもので、ガイドされた係止部34を係止孔33に挿入係止することでコイルバネ6の結合が可能となっている。さらに、小径部27は、先端へ向かって先細りとなるテーパ形状に形成されている。
【0016】
そして、第2ロータ軸7は、図9,10に示すように、ロータ軸受4に遊挿可能な軸部37と、軸部37の端部に同軸で一体形成され、ロータ軸受4のフランジ部21より大径のフランジ38と、そのフランジ38に同軸で一体形成される星形の連結部39とからなる。これも合成樹脂製となっている。
軸部37の先端部は、コイルバネ6の端部が挿入可能な小径部40となっており、その小径部40を含む軸部37の外面には、ロータ軸受4に遊挿する際の突起23の進入を許容する第1ガイド溝41が軸方向に形成されている。さらに、第1ガイド溝41と点対称位置で軸部37の外面には、コイルバネ6の係止部34の進入を許容する第2ガイド溝42が軸方向に形成されている。この第2ガイド溝42の終端には、軸部37を径方向に貫通する係止孔43が形成されている。ここでも小径部40は、先端へ向かって先細りとなるテーパ形状となっている。
【0017】
また、第1ガイド溝41は、第2ガイド溝42よりも長く形成されて、軸部37の外周に周設した第1リング溝45と連通している。また、第1リング溝45からフランジ38側へ軸方向に所定間隔をおいた外周には、第1リング溝45よりも軸方向の幅が大きい第2リング溝46が周設されて、第1リング溝45と第2リング溝46との間は、第1ガイド溝41と同じ位相の連通溝47によって連通している。連通溝47における軸方向の中央部には、連通溝47から相反方向へ直交状に連通する第1ロック溝48と第2ロック溝49とが形成されている。50は、第2ガイド溝42と同じ位相でフランジ38の外周に設けられた切欠部である。
チューブ8は、塩化ビニル等の軟質樹脂製で、バレル2の内径と略同じ外径を有してセンターロータ5の中径部26に外装可能となっている。
【0018】
以上の如く構成された巻き取り軸1の組み付け手順を説明する。
まず、バレル2の端部に第1ロータ軸3を、突条10と溝16との位相を合わせた状態で筒状部15の先端から差し込み、フランジ13にバレル2の端部が当接するまで挿入する。すると、図11及び図12(A)に示すように、各押圧片18がバレル2によって軸心側へ押し込まれた状態となってバレル2の内周面へ周方向に接触し、バレル2を内側から押圧する。同時に突条10と溝16との嵌合によって回転規制がなされるため、第1ロータ軸3は支軸14を突出させた格好でバレル2と結合される。このように結合状態でバレル2を押圧する押圧片18を設けたことで、バレル2と第1ロータ軸3とが強固に一体化され、バレル2が回転する際の異音の発生が防止される。また、押圧力は押圧片18の先端側へ行くほど大きくなるため、バレル2への挿入時の抵抗も大きくならない。
【0019】
次に、第2ロータ軸7にロータ軸受4を組み付ける。これは、ロータ軸受4の突起23の位相を第2ロータ軸7の第1ガイド溝41に合わせた状態で、第2ロータ軸7をロータ軸受4に差し込んで、突起23が第2リング溝46に達するまでフランジ38側へ相対的にスライドさせればよい。
【0020】
こうしてロータ軸受4を組み付けた第2ロータ軸7の小径部40に、コイルバネ6の一端を、係止部34を第2ガイド溝42に合わせた状態で嵌合させ、係止部34を係止孔43に挿入係止させる。すると、コイルバネ6は第2ロータ軸7に結合される。このとき、第2ガイド溝42によって係止部34は係止孔43へスムーズに案内されるため、コイルバネ6の結合は短時間で容易に行える。そして、コイルバネ6の他端からチューブ8を外装する。
【0021】
次に、センターロータ5の小径部27に、コイルバネ6の他端を、係止部34をガイド溝32に合わせた状態で嵌合させ、係止部34を係止孔33に挿入係止させる。すると、コイルバネ6はセンターロータ5に結合される。この場合もガイド溝32による係止部34の案内で、コイルバネ6の結合は短時間で容易に行える。これにより、センターロータ5、コイルバネ6、第2ロータ軸7が連結された状態となる。
【0022】
そして、センターロータ5を、バレル2の位置決め孔11,11と弾性片30,30とが同じ位相となるようにバレル2の突条10に溝28の位相を合わせて、大径部25側からバレル2における第1ロータ軸3と反対側の端部に差し込む。このとき位置決め突起31がバレル2に干渉するが、位置決め突起31を軸心側へ押し込めば、弾性片30の弾性によって大径部25内へ没入するため、そのままバレル2内に挿入することができる。
【0023】
続いてコイルバネ6及びチューブ8もバレル2に挿入してセンターロータ5をバレルの中心側へ押し込めば、位置決め突起31,31が位置決め孔11,11に達する位置で、図11,12のように押し込まれた弾性片30,30が外側へ復帰して位置決め突起31,31を位置決め孔11,11に嵌合させる。従って、センターロータ5は当該位置で回転及び軸方向への移動が規制された状態で位置決めされる。このセンターロータ5の組み付けにより、バレル2の中央の空間がセンターロータ5によって埋められる格好となるため、バレル2の剛性が高くなる。
【0024】
また、センターロータ5の位置決めと共に、ロータ軸受4を、バレル2の突条10に溝20の位相を合わせてバレル2に差し込み、フランジ部21にバレル2の端部が当接するまで挿入する。するとロータ軸受4は、突条10と溝20との嵌合によって回転規制がなされた状態でバレル2に結合される。
このロータ軸受4の結合により、第2ロータ軸7はバレル2の端部で保持され、コイルバネ6はセンターロータ5と第2ロータ軸7との間に伸長した状態で張設される。これにより、コイルバネ6の線形に空間(隙間)が生じ、線形同士の干渉及び擦れによる線形摩耗が抑制される。
【0025】
そして、ここではロータ軸受4に対する第2ロータ軸7の軸方向のスライド位置の選択により、第2ロータ軸7の回転規制状態と回転フリー状態とに切替可能となっている。
すなわち、図12(A)に示すように、ロータ軸受4の突起23が第1、第2ロック溝48,49の何れかに位置する第2ロータ軸7のスライド位置では、左右の回転方向で突起23が第1、第2ロック溝48,49に干渉するため、第2ロータ軸7の回転は規制される。
【0026】
一方、図12(B)に示すように、突起23が第1リング溝45に位置するスライド位置では、第2ロータ軸7は回転方向で突起23と干渉しないため、回転フリー状態で保持される。同様に、同図(C)に示すように突起23が第2リング溝46に位置するスライド位置でも、第2ロータ軸7は回転フリー状態で保持される。
【0027】
従って、コイルバネ6が左巻きの場合、突起23が第1、第2リング溝45,46の何れかに位置する図12(B)(C)のスライド位置で第2ロータ軸7を右回転させれば、コイルバネ6を巻き絞ることができる。そして、所定回数巻き絞った後、第2ロータ軸7を同図(A)の位置にスライドさせて第2ロータ軸7の保持を解除すれば、コイルバネ6の付勢によって第2ロータ軸7が左回転方向へやや戻り、第1ロック溝48に突起23を係止させる。よって、コイルバネ6を巻き絞った状態で保持される(回転トルクを保持した状態)。コイルバネ6が右巻きの場合は、左回転させた第2ロータ軸7の第2ロック溝49に突起23が係止することになる。このように第1、第2ロック溝48,49を相反方向へ2つ設けることで、コイルバネ6の巻き仕様が異なっても対応でき、巻き絞り状態での保持が可能となっている。
【0028】
なお、突起23を第1、第2リング溝45,46と第1、第2ロック溝48,49との間で移動させるためには突起23の位相を連通溝47に一致させる必要があるが、これは、第2ロータ軸7のフランジ38に設けた切欠部50を、ロータ軸受4の切欠凹部22に合わせることで可能となっている。
また、コイルバネ6を巻き絞ることでコイルバネ6の径は縮小するが、コイルバネ6の端部が結合されるセンターロータ5の小径部27と第2ロータ軸7の小径部40とは、それぞれテーパ形状となってコイルバネ6との密着状態が保持されるため、コイルバネ6との干渉による異音(干渉音)の発生は抑えられる。
【0029】
こうしてコイルバネ6を巻き絞った状態で保持した巻き取り軸1を用いてシート巻き取り装置を構成する場合、図13に示すように、まずバレル2にサンシェードやトノカバーといったシート61の端部を固着し、長尺筒状のケース62に組み付ける。このとき、巻き取り軸1の一端に突出する支軸14をケース62の一端部63に軸支させて、ケース62に設けた図示しないスリットからシート61を引き出した状態でケース62に収容する。次に、切欠部50を切り欠き凹部22に合わせて突起23の位相を連通溝47に一致させて第2ロータ軸7をバレル2側へ押し込めば、突起23が第2リング溝46に位置して第2ロータ軸7に対してバレル2の回転がフリーとなるため、コイルバネ6の回転トルクによってバレル2が回転し、シート61を巻き取る。巻き取り終了後、第2ロータ軸7の連結部39をケース62の他端部64に嵌合保持させる。
【0030】
これにより、任意にシート61を引き出すことができると共に、シート61の引き出しを解除すると自動的に巻き取られるシート巻き取り装置60が得られる。
このシート巻き取り装置60においては、巻き取り軸1のバレル2とセンターロータ5とは位置決め孔11と位置決め突起31との嵌合によって回転方向と軸方向との双方で結合されているため、シート61の出し入れに伴う巻き取り軸1の回転の際、コイルバネ6の回転トルクをバレル2へ確実に伝えることができる。また、センターロータ5にねじれが発生しにくいため、バレル2とセンターロータ5との間に異音が発生するおそれも少なくなる。
【0031】
このように、上記形態の巻き取り軸1及びシート巻き取り装置60によれば、センターロータ5の外周面に、バレル2の半径方向に弾性を有する弾性片30,30と、その弾性片30,30の外面に設けられ、所定位置でバレル2に設けた位置決め孔11,11に嵌合する位置決め突起31,31とを形成したことで、バレル2をかしめたりすることなくバレル2内で簡単にセンターロータ5を所定位置に位置決めできる。よって、バレル2に歪みや変形を生じさせることがなく、コイルバネ6の端部を良好な作業性でバレル2内に組み付けることができる。
【0032】
特にここでは、バレルの内周面に軸方向と平行な突条10(内側突条)を、センターロータ5の外周面に軸方向と平行な溝28(外側溝)をそれぞれ形成して、突条10と溝28との嵌合によってセンターロータ5を回転規制した状態でバレル2内に挿入可能としているので、バレル2へのセンターロータ5の組み付け時に回転方向での位置決めを容易に行うことができ、突条10のガイドによって位置決め孔11への位置決め突起31の嵌合が短時間で確実に行える。この突条10のガイドによる容易な組み付けの効果は、第1ロータ軸3及びロータ軸受4においても同様に得られる上、突条と溝との嵌合により、コイルバネ6の巻き絞りによって発生した回転トルクも確実に保持される。
【0033】
また、第2ロータ軸7が遊挿されるバレル2の一端に、第2ロータ軸7を回転可能且つ軸方向へスライド可能に軸支する筒状のロータ軸受4を設けると共に、ロータ軸受4の内周面に、その半径方向へ突出する突起23を設ける一方、第2ロータ軸7の外周面に、突起23と係止して第2ロータ軸7の回転を規制する第1、第2ロック溝48,49と、その第1、第2ロック溝48,49と連通し、突起23との干渉を回避して第2ロータ軸7の回転を許容する第1、第2リング溝45,46とを設けて、突起23が第1、第2リング溝45,46内に位置する状態で第2ロータ軸7を回転することでコイルバネ6の巻き絞りを可能とし、第2ロータ軸7のスライドによって突起23が第1、第2ロック溝48,49内に位置する状態でコイルバネ6の巻き絞り状態での保持を可能としたことで、コイルバネ6の回転トルクの設定と保持とが容易に行える。また、ロータ軸受4に溝等を設けないため、ロータ軸受4の強度を確保でき、第2ロータ軸7の回転及びスライド操作もスムーズに行える。
【0034】
さらに、第1、第2リング溝45,46を、第2ロータ軸7の軸方向で第1、第2ロック溝48,49を挟んだ前後に一対設けて、両リング溝45,46をそれぞれ第1、第2ロック溝48,49に連通させて、何れのリング溝45,46内へ突起23を位置させても第2ロータ軸7の回転によるコイルバネ6の巻き絞りを可能としたことで、コイルバネ6を巻き絞る際の第2ロータ軸7のスライド位置を任意に選択できる。特に、第1リング溝45内に突起23を位置させるスライド位置であれば、第2ロータ軸7のバレル2への押し込み量が小さくて済み、作業時間の短縮が期待できる。
【0035】
そして、バレル2の他端に、当該他端に挿入されて端部にバレル2と同軸の支軸14を突設させる第1ロータ軸3を設けて、第1ロータ軸3における筒状部15の外周面に、バレル2の半径方向に弾性を有し、挿入状態でバレル2の内周面に周方向へ接触して内側から押圧する押圧片18を設けたことで、バレル2と第1ロータ軸3とが強固に結合され、バレル2が回転する際の異音の発生が抑制される。
【0036】
なお、上記形態では、バレルの内周面に内側突条を、第1ロータ軸、センターロータ及びロータ軸受の外周面に外側溝をそれぞれ設けているが、これを逆にして、バレルの内周面に内側溝を、第1ロータ軸、センターロータ及びロータ軸の外周面に外側突条をそれぞれ設けて嵌合させても差し支えない。
また、これらの突条や溝の数は適宜増減可能であるが、突条の数が多いほどバレルと第1ロータ軸やセンターロータ等との間の空間が少なくなって一体性が高まる。特にこれらの部材が合成樹脂製であると、突条と溝との嵌合によってバレルの中央で弾性支持される格好となるため、車両走行中の振動やバレルの回転動作によって第1ロータ軸やセンターロータ等の周面がバレルの内面と接触するおそれが小さくなる。すなわち、突条及び溝の数が多いほど異音の発生は効果的に抑制される。
【0037】
一方、バネ受部材の形態は、上記センターロータに限定するものではなく、例えば弾性片の前後の向きを逆にしたり、周方向の向きに設けたり、弾性片の数を増減したりして差し支えない。従って、バレルに設ける位置決め孔も、弾性片の数、すなわち位置決め突起の数に合わせて変更すればよい。また、ガイド溝の形状変更や省略も可能で、三段径も限定するものではない。
【0038】
さらに、軸部材も、上記形態の第2ロータ軸のようにリング溝は必ずしも一対必要ではなく、何れか一方のみとしてもよい。同様に、ロック溝も何れか一方とすることもできる。連結部の形状変更も任意である。
加えて、軸受部材においても、上記ロータ軸受の形態に限らず、軸方向の長さの変更、切り欠き凹部や突起の形状変更等は適宜可能である。
一方、支軸部材も、上記第1ロータ軸以外の形状変更、例えば押圧片の向きを変えたり数を増減したり等が考えられる。また、バレルをケースに直接軸支させる等して支軸部材を省略することもできる。
【0039】
その他、チューブの省略やコイルバネとバネ受け部材及び軸部材との結合構造も適宜変更可能である。
そして、本発明の巻き取り軸は、サンシェードやトノカバーといった自動車用のシート巻き取り装置に用いる場合に限らず、ロールスクリーンやロールカーテン等の他のシート巻き取り装置に用いるものであってもよい。よって、本発明のシート巻き取り装置も、当該巻き取り軸を具備するものであれば、シートの種類や用途は問わない。
【符号の説明】
【0040】
1・・巻き取り軸、2・・バレル、3・・第1ロータ軸、4・・ロータ軸受、5・・センターロータ、6・・コイルバネ、7・・第2ロータ軸、8・・チューブ、10・・突条、11・・位置決め孔、12・・キャップ部、14・・支軸、15・・筒状部、16,20,28・・溝、18・・押圧片、22・・切り欠き凹部、23・・突起、30・・弾性片、31・・位置決め突起、32・・ガイド溝、34・・係止部、37・・軸部、41・・第1ガイド溝、42・・第2ガイド溝、45・・第1リング溝、46・・第2リング溝、47・・連通溝、48・・第1ロック溝、49・・第2ロック溝、50・・切欠部、60・・シート巻き取り装置、61・・シート、62・・ケース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にコイルバネが収容される中空筒のバレルと、そのバレル内の所定位置に固定され、前記コイルバネの一端が係止されるバネ受部材と、前記バレルの一端に遊挿され、前記コイルバネの他端が係止される軸部材と、を含むシート巻き取り装置用の巻き取り軸であって、
前記バネ受部材の外周面に、前記バレルの半径方向に弾性を有する弾性片と、その弾性片の外面に設けられ、前記所定位置で前記バレルに設けた位置決め孔に嵌合する位置決め突起とを形成したことを特徴とするシート巻き取り装置用の巻き取り軸。
【請求項2】
前記バレルの内周面に軸方向と平行な内側突条又は内側溝を、前記バネ受部材の外周面に軸方向と平行な外側溝又は外側突条をそれぞれ形成して、前記内側突条と外側溝との嵌合又は前記内側溝と外側突条との嵌合によって前記バネ受部材を回転規制した状態で前記バレル内に挿入可能としたことを特徴とする請求項1に記載のシート巻き取り装置用の巻き取り軸。
【請求項3】
前記軸部材が遊挿される前記バレルの一端に、前記軸部材を回転可能且つ軸方向へスライド可能に軸支する筒状の軸受部材を設けると共に、前記軸受部材の内周面に、その半径方向へ突出する突起を設ける一方、前記軸部材の外周面に、前記突起と係止して前記軸部材の回転を規制するロック溝と、そのロック溝と連通し、前記突起との干渉を回避して前記軸部材の回転を許容するリング溝とを設けて、前記突起が前記リング溝内に位置する状態で前記軸部材を回転することで前記コイルバネの巻き絞りを可能とし、前記軸部材のスライドによって前記突起が前記ロック溝内に位置する状態で前記コイルバネの巻き絞り状態での保持を可能としたことを特徴とする請求項1又は2に記載のシート巻き取り装置用の巻き取り軸。
【請求項4】
前記リング溝を、前記軸部材の軸方向で前記ロック溝を挟んだ前後に一対設けて、両リング溝をそれぞれ前記ロック溝に連通させて、何れの前記リング溝内へ前記突起を位置させても前記軸部材の回転による前記コイルバネの巻き絞りを可能としたことを特徴とする請求項3に記載のシート巻き取り装置用の巻き取り軸。
【請求項5】
前記バレルの他端に、当該他端に挿入されて端部に前記バレルと同軸の支軸を突設させる支軸部材を設けて、前記支軸部材における前記他端への挿入部分の外周面に、前記バレルの半径方向に弾性を有し、挿入状態で前記バレルの内周面に周方向へ接触して内側から押圧する押圧片を設けたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のシート巻き取り装置用の巻き取り軸。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載のシート巻き取り装置用の巻き取り軸の前記バレルにシートの一端を固着して、前記巻き取り軸をケース内に収容して当該ケースに設けたスリットから前記シートを引き出し、前記バレルの一端側の前記軸部材を、前記コイルバネの巻き絞り状態で前記ケースに回転不能に保持させる一方、前記バレルの他端を前記ケースに回転可能に軸支させて、前記バレルに前記シートの巻き取り方向へ回転トルクを付与してなるシート巻き取り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−201177(P2012−201177A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66416(P2011−66416)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【特許番号】特許第4995329号(P4995329)
【特許公報発行日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【出願人】(595143333)桑野工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】