説明

シート状プリプレグおよびその製造方法

【課題】低樹脂量であり、また樹脂目付バラつき小さな炭素繊維プリプレグ作成し、これにより、巻き付け時に必要なプリプレグ両面でのタック性を確保し、品位良好な低樹脂量プリプレグ提供すること。
【解決手段】炭素繊維および熱硬化性樹脂を有してなるシート状プリプレグであって、該炭素繊維は、単位面積当たりの質量が100〜250g/mとなるように一方向に配向され、該熱硬化性樹脂は、少なくとも該シート状プリプレグの両表面に存在しており、該熱硬化性樹脂の該シート状プリプレグに占める樹脂質量含有率が6〜10%、かつ、明細書に記載の方法で測定されたシート状プリプレグ両表面のタック値が1.0N以上であることを特徴とするシート状プリプレグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料を製造する際の中間基材である炭素繊維プリプレグおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、その炭素繊維プリプレグを構成する熱硬化性樹脂の質量含有率(以下、樹脂質量含有率)が低く、さらには、熱硬化性樹脂の単位面積当たり質量(以下、樹脂目付)のバラつきの小さいシート状の炭素繊維プリプレグ(シート状プリプレグ)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維プリプレグは、ゴルフシャフト、釣竿、バトミントンシャフトやテニスラケットのフレームなどの成形品の中間素材として、スポーツ、レジャー用途に広く利用されるようになってきている。その目的は、主に得ようとする製品の高性能化と軽量化にあり、近年、ゴルフシャフト、釣竿などでさらに軽量化することが望まれている。
【0003】
この目的のため、樹脂質量含有率の低いプリプレグが開発されてきている。例えば、特許文献1には、樹脂質量含有率が13〜32%のプリプレグが一般的記載として例示されており、特許文献2には、繊維質量含有率が90%以上のプリプレグが一般的記載として例示されているが、そのようなプリプレグを得るための具体的な方法については何ら開示されていない。
【0004】
樹脂目付が低いプリプレグ用樹脂フィルムは、特許文献3に開示されている。しかし、その樹脂フィルムと、シート状炭素繊維を単に組み合わせて、従来の方法によって樹脂質量含有率が10%以下で、炭素繊維の単位面積当たりの質量(以下繊維目付とも記載する)100〜150g/mのプリプレグを作成しようとしても、樹脂量が不足するためプリプレグ両表面での粘着性(以下、タック性)を確保することが難しく、タック性の不足によりプリプレグに配される離型紙からプリプレグが剥離してしまう問題があった。
【0005】
またこれを防ぐため、強化繊維内部の樹脂量を減らして両表面の樹脂量を増やす、すなわち、含浸性を悪化させることにより、両表面のタック性を維持する方法を適用しても、含浸性悪化に伴い、プリプレグ内部の強化繊維束が捌け、プリプレグのワレ欠点になってしまう等の問題があるため、樹脂質量含有率が低い目付100〜150g/mの炭素繊維プリプレグの製造は困難であり、たとえ樹脂質量含有率の低いものが得られても、品位安定が望めるものでなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−290514号公報
【特許文献2】特開2003−012837号公報
【特許文献3】特開2005−264146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
樹脂質量含有率の低いプリプレグを製造するために、離型紙の上に樹脂が塗布されてなる樹脂フィルムを用いてシート状の炭素繊維(炭素繊維束を含む総称として用いることもある。以下同様。)プリプレグ(シート状プリプレグ)を製造するに際し、樹脂フィルムを炭素繊維の両表面に配置し、かつ、最適な含浸条件や最適な剥離力をもつ離型紙を用いることにより、ワレや離型紙との剥離が発生しにくいのみならず、従来の技術では実現できない、樹脂質量含有率の低いプリプレグを安定した品位、安定して製造する方法を見いだし、その方法により樹脂質量含有率の低いプリプレグを得ることを課題とする。
【0008】
すなわち本発明の課題は、樹脂質量含有率の低いシート状プリプレグを良好な品位で生産性良く得ることにあり、また成形時に丸筒等への巻き付け時に必要なプリプレグ両面でのタック性を確保し、品位良好な樹脂質量含有率の低いシート状プリプレグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、炭素繊維および熱硬化性樹脂を有してなるシート状プリプレグであって、該炭素繊維は、繊維目付が100〜250g/mとなるように一方向に配向され、該熱硬化性樹脂は、少なくとも該シート状プリプレグの両表面に存在しており、該熱硬化性樹脂の該シート状プリプレグに占める樹脂質量含有率が6〜10%、かつ、以下で説明するシート状プリプレグ両表面のタック値が1.0N以上であることを特徴とするシート状プリプレグである。
【0010】
なお、かかるシート状プリプレグは、以下で説明する前記熱硬化性樹脂の単位面積当たりの樹脂質量含有率のバラツキが5.0%以下であることが好ましい。
【0011】
また、前記シート状プリプレグが、さらに少なくともその一方の表面に離型紙を配しており、該シート状プリプレグと該離型紙の剥離抵抗が0.3〜2.5N/25mmである上記シート状プリプレグであることがさらに好ましい。
【0012】
かかるシート状プリプレグは、一方向に配向された、目付が100〜250g/mの炭素繊維をその両表面から樹脂フィルムで挟み込んだ後、少なくとも1本以上からなる加熱金属ロール群に圧接させ、加熱温度90〜130℃、線圧1000〜60000N/mで加圧する工程を含むシート状プリプレグの製造方法によって製造することが出来る。
【0013】
また、かかるシート状プリプレグは、メタリングロールとコーティングロールおよびバックアップロールを備えたリバースロールコーターを用いて、離型紙上に前記熱硬化性樹脂を塗布して樹脂フィルムを製造するに際し、該コーティングロール速度をC、該樹脂フィルム速度をFとしたときに、0<C/F<1.0を満たすようにして得られた樹脂フィルムを、プリプレグに使用することによって、より好適に製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、樹脂質量含有率の低いプリプレグでありながら、樹脂目付バラつきが小さく、巻き付け時に必要なプリプレグ両面でのタック性を確保し、品位良好なシート状プリプレグが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】シート状プリプレグの剥離強度の測定に用いる支持具の概略斜視図である
【図2】シート状プリプレグの剥離強度を測定している状態を示す概略図である。
【図3】本発明の一実施態様に係る炭素繊維プリプレグを製造するための装置の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、炭素繊維および熱硬化性樹脂を有してなるシート状プリプレグであって、該炭素繊維は、単位面積当たりの質量が100〜250g/mとなるように一方向に配向され、該熱硬化性樹脂は、少なくとも該シート状プリプレグの両表面に存在しており、該熱硬化性樹脂の該シート状プリプレグに占める樹脂質量含有率が6〜10%、かつ、プリプレグ両表面のタック値が1.0N以上であるであることを特徴とするシート状プリプレグである。
【0017】
本発明に使用される炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(以下、PANという)系、ピッチ系等が知られており、それらのいずれを用いても良く、またそれらが混合されているものを用いても良い。用いられる炭素繊維は、JIS R 7608(2007)により求められる引張弾性率が200〜900GPaのものが用いられるが、樹脂質量含有率が低いことから、450〜700GPaの範囲内であるものを用いると、例えば、高い弾性率を必要とする釣り竿などの用途では力学的な特性を高く設定することができるようになるため、使用する材料として優位となる。
【0018】
また、本発明における炭素繊維は、一繊維束あたりのフィラメント数は、1000〜72000本が好ましく、3000〜12000がさらに好ましい。さらに、本発明のシート状プリプレグにおいては、プリプレグ中の単位面積あたりの炭素繊維質量、すなわち炭素繊維目付が100〜250g/mである。
【0019】
また、本発明に使用される炭素繊維束は、一方向に引き揃えられたシート状に形成されてなる。
【0020】
本発明で使用される熱硬化性樹脂は、通常、炭素繊維プリプレグの製造に用いられるいずれの樹脂の使用も可能であり、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、シアネートエステル樹脂などが挙げられる。中でも、硬化温度が150℃以下であるエポキシ樹脂が、取り扱い性、製品の機械特性の面から好ましく、組成の一部に改質剤として熱可塑性樹脂を配合することも可能である。
【0021】
また、上記熱硬化性樹脂としては、その最低粘度が0.1〜300ポイズの熱硬化性樹脂であることが好ましい。粘度がこの範囲よりも低いと、所望の塗布厚み、つまり所望の樹脂目付で塗布することが困難となる場合があり、逆に粘度が高すぎると、メタリングロールやコーティングロールで均一な塗布厚みに調整することが困難になることがある。ここで、前記樹脂粘度は、動的粘弾性法を用いて測定し、測定装置としては、例えば、レオメトリックス社製RDA−II型装置などを用いることができる。本発明における最低粘度とは、温度を常温から上昇させると、樹脂粘度が一旦低下し、その後粘度上昇に転じるが、このプロフィールにおける粘度最小値のことを意味する。また、この最低粘度を示す温度を最低粘度温度と定義する。これらの特性は、かかる装置を用い、振動:3.14ラディアン/秒、昇温速度:1.5℃/分、プレートには半径25mmの平行板、ギャップ:1.0mmの条件にて測定する。
【0022】
本発明のシート状プリプレグにおいては、シート状プリプレグ中の熱硬化性樹脂の質量含有率が6〜10%になるように製造された樹脂フィルムを、炭素繊維からなるシートの両表面から挟み込んで用いるなどの手段を採用することにより、樹脂をプリプレグ両表面に存在させることが必要である。一方向に引き揃えられた炭素繊維からなるシートの片方の表面にのみ前述の樹脂を塗布しシート状プリプレグを製造する場合、樹脂フィルムの製造工程では、樹脂目付が大きく問題が少ないが、シート状プリプレグを製造する際には樹脂の質量含有率量が不足するため、含浸によって軟化させた樹脂をシート状プリプレグの逆の表面まで行き届かせることが難しく、巻き付け時に必要なシート状プリプレグ両面でのタック性が確保された品位良好なシート状プリプレグは得られない。
【0023】
本発明のシート状プリプレグにおけるタック性は、温度24±2℃、湿度50±5%RHの測定環境下にて、15〜30分間暴露した後に、(株)東洋精機製作所製PICMAタックテスターIIを用い、18mm×18mmのカバーガラスを0.4kgfの荷重で5秒間プリプレグに圧着し、30mm/分の速度にて引き剥がし、剥がれる際の抵抗力の最大値を測定することにより求められる。カバーガラスは、顕微鏡測定に使用するものが使用でき、例えば、MICRO COVER GLASS 18mm×18mm、厚み:0.12〜0.17mm(MATSUNAMI製)が好適に使用できる。
【0024】
かかる方法で測定したタック値が1.0N以上であることにより、マンドレルに巻き付けする際、剥がれのない取り扱い性良好なプリプレグが得られる。
【0025】
また、本発明のシート状プリプレグは、前記熱硬化性樹脂の樹脂質量含有率のバラツキが5.0%以下であることが好ましい。このバラツキが5.0%を越えると、シート状プリプレグの幅、長手方向の均一性がやや劣る結果、例えば、円筒に巻き付ける際の局所的な剥がれや、硬化後の成形体が偏肉する等の問題が発生する場合がある。このバラツキを5.0%以下とすることで、良好な巻き付け性を保持し、かつ、偏肉の無い成形体を得ることができる。
【0026】
ここでいう、熱硬化性樹脂の樹脂質量含有率はJIS K 7071(1988)に規定される方法で測定する。
【0027】
シート状プリプレグ幅方向より採取したサンプルの樹脂質量含有率を、かかる方法にてそれぞれ測定し、それらの最大値から最小値を差し引き、範囲(レンジ)を求めることにより、樹脂質量含有率のバラツキを求める。なお、ここで用いられる短冊状サンプルは、シート状プリプレグを端部より、幅40mm×長さ250mmの短冊状に幅方向に隙間無くカット(幅方向とは、プリプレグの一方向に引き揃えられた繊維方向に対し、直角な方向を意味する)したものである。
【0028】
また、本発明のシート状プリプレグの離型紙には、シリコーンコートしたプリプレグ用工程紙を用いることができ、離型剤として使用するシリコーンの組成、量とコーティング後の乾燥、熱処理等の条件を調整することで離型力(剥離抵抗)を所望の値に合わせることができる。本発明に用いる離型紙としては、シート状プリプレグと離型紙との剥離抵抗を、0.3〜2.5N/25mmとすることが好ましく、0.4〜2.4N/25mmがより好ましい。すなわち、かかるシート状プリプレグと離型紙との剥離抵抗が小さいと、シート状プリプレグと離型紙の接着が弱いため、離型紙が寸法変形した場合に寸法変形しないシート状プリプレグが、離型紙より局所的に剥がれ、浮きなどの品位不良となる場合があり、さらに著しい場合は、完全に剥離が生じ、取り扱い方法によっては形態保持できないこともある。一方、剥離抵抗が大きすぎるとシート状プリプレグと離型紙の接着が強すぎるために、成形する際にシート状プリプレグと離型紙を剥がすことが容易ではなく、場合によって離型紙が破損したりして、成形加工時の生産効率が低下することがある。
【0029】
また、本発明のシート状プリプレグは、単独、またはそれを積層して得られる積層基材とし、加熱、硬化することにより、重量、肉厚のばらつきを抑えた品質、品位が良好な炭素繊維強化複合材料を製造することができる。なお、積層基材を得るに際し、互いに隣接するシート状プリプレグのそれぞれの炭素繊維の配向方向が交差する構造を含むようにシート状プリプレグを配置して丸筒等に形成しても良い。本発明のシート状プリプレグを用いて製造される炭素繊維強化複合材料は、公知の成形方法により、平板状、円筒状など、様々な形状の成形体とすることができる。
【0030】
例えば、本発明のシート状プリプレグを円筒状の0°に配置し、他のプリプレグをいわゆるバイヤス層に配した丸筒状に形成し、好ましくは、バイヤス層を形成するプリプレグの樹脂質量含有率を0°層のプリプレグの樹脂質量含有率に対して10%以上、さらに好ましくは樹脂質量含有率の差が10%〜25%であるプリプレグとする。バイヤス層のプリプレグと0°層のプリプレグの樹脂含有率の差が10%未満であると、軽量化効果には優れるものの、成形品の品位やコンポジット特性がやや劣る場合がある。差が25%を越えたプリプレグと組み合わせた場合、軽量化効果が発揮されにくくなる。
【0031】
本発明のシート状プリプレグは、低目付の樹脂フィルムを、前記一方向に配向された炭素繊維の両表面から挟み込んだ後、少なくとも1本以上からなる加熱金属ロール群に圧接させ、加熱温度90〜130℃、線圧1000〜60000N/mで加圧する工程を方法により好適に製造することができる。
【0032】
本発明のごとく、樹脂質量含有率の低いシート状プリプレグを製造する場合、樹脂を炭素繊維に含浸させる際に、加工温度、含浸圧力が高すぎると、絶対的な樹脂質量含有率の不足により、離型紙とシート状プリプレグを接着させている表面樹脂がシート状プリプレグ内部に過度に含浸してしまうため、結果としてかかる離型紙とシート状プリプレグとの付着状態が悪くなり、成形加工中に剥離が生じる可能性がある。一方、加工温度、含浸圧力が低すぎると、樹脂の転写が不十分となり、シート状プリプレグ表面上の含浸不良を生じさせる可能性がある。かかる観点から、本発明のシート状プリプレグは、加熱温度90〜130℃にてシート状プリプレグを加温した状態で、1000〜60000N/mで加圧することにより、上述したシート状プリプレグと離型紙の剥離、および含浸不良の発生の発生を抑制でき、品位良好なシート状プリプレグを好適に製造することができる。さらに好ましくは、加熱温度100〜120℃、加圧条件12000〜48000N/mの範囲である。
【0033】
かかる方法で製造されたシート状プリプレグは、両表面のタック値が1.0N以上となり、シート状プリプレグ同士の貼り付け作業や、マンドレルへの巻き付け作業時に、成形品のボイド発生等の品位不良につながる局所的な浮きを押さえることができる。また、離型紙の離面側のタック値が1.0N以上となることから、プリプレグを把持する離型紙に十分に貼り付き、保管や輸送時にシート状プリプレグと離型紙の剥離が抑制されるなどの利点がある。
【0034】
また、用いる樹脂フィルムは、好ましくは、メタリングロールとコーティングロールおよびバックアップロールを備えたリバースロールコーターを用いて、離型紙上に前記熱硬化性樹脂(以下、単に「樹脂」という場合がある)を塗布して製造するに際し、該コーティングロール速度をC、該樹脂フィルム速度をFとしたときに、0<C/F<1.0を満たすようにする。
【0035】
前記樹脂フィルムを製造するための条件としては、コーティングロール速度C、バックアップロール速度B、樹脂フィルム速度Fの比率がそれぞれ次の関係にあることが好ましい。
0<C/F<1.0 ・・・・(1)以後C/F比と表現する
0.9≦F/B≦1.0 ・・・・(2)以後F/B比と表現する。
【0036】
さらにC/F比は、次の関係にあることがより好ましい。
0<C/F≦0.5 ・・・・(3)。
【0037】
C/Fを1.0未満、より好ましくは0.5以下とすることで、通常のC/F=1.0に比べ、樹脂を離型紙上により効果的に引き伸ばしながら塗布することができ、それによって樹脂の塗布むら、すなわち目付斑を小さくすることができる。
【0038】
また、メタリングロールの速度Mとコーティングロール速度Cは、次の関係にあることが好ましい。
0.5≦M/C≦1.2 ・・・・(4)以後M/C比と表現する。
【0039】
さらには、それぞれのロールの回転による「振れ」による樹脂目付バラツキを小さくすることができるので、0.75≦M/C≦1.1の範囲がより好ましい。
【0040】
ここで、各ロール速度C、B、Mはそれぞれのロールの周速度のことである。また、樹脂フィルム速度Fは、樹脂フィルムの走行速度(=離型紙の走行速度)のことである。
【0041】
また、上記関係を実現するために、リバースロールコーターで、離型紙に樹脂を塗布し、樹脂フィルムとした後、巻取機で巻き取られるより前に、樹脂フィルムに対し減圧吸引することによって吸着把持しつつ、通常の転写状態に比べて、樹脂を引き伸ばしながら樹脂を塗布すると良い。かかる方法により樹脂フィルムを得ることにより、樹脂の塗布むらを小さくすることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0043】
(1)材料
A.炭素繊維
炭素繊維には、東レ株式社製M60JB−6K(引張弾性率:588GPa、繊度:0.206g/m、フィラメント数:6000本)を用いた。
【0044】
B.樹脂(熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤)
樹脂は、予め下記の組成で調製し、最低粘度50ポイズ、最低粘度温度120℃とした樹脂組成物を用いた。ここで、樹脂粘度は、レオメトリックス社製RDA−II型装置を用い、操作モード:ダイナミック、振動3.14ラディアン/秒、昇温速度:1.5℃/分、プレート:平行板(半径25mm)、ギャップ:1.0mmの条件で測定した。使用した樹脂の組成は下記の通りである。
【0045】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828、登録商標、ジャパン エポキシ レジン(株)製):20質量部
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート1001、登録商標、ジャパン エポキシ レジン(株)製):30質量部
フェノールノボラック型エポキシ樹脂(エピコート154、登録商標、ジャパン エポキシ レジン(株)製):50質量部
ポリビニルホルマール(ビニレック K、商品名、チッソ(株)製):10質量部
3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(DCMU99、型番、保土ヶ谷化学工業(株)製):10質量部。
【0046】
C.離型紙
離型紙の離型性を、基材種類、コーティング剤の種類、コーティング剤の付着量、熱処理量について調整する公知の方法を適用することで、離型力を変更した離型紙を数種類作製した。以下のとおり、4種類の離型紙サンプルを用意し、実際に上記材料でのプリプレグを作製、その離型力を測定した。
【0047】
離型紙種類 プリプレグとの離型力(N/25mm)
離型紙A 2.6
離型紙B 2.4
離型紙C 0.4
離型紙D 0.2。
【0048】
D.樹脂フィルム
(1)B.の調製樹脂を用いて、リバースコーターにて、単位面積あたりの樹脂質量が8g/mおよび16g/mになるように(1)C.の離型紙上に1000mm幅で塗布し、樹脂フィルムを作成した。
【0049】
(2)シート状プリプレグ製造方法
図3は、炭素繊維プリプレグを製造する方法の一例を示している。複数の炭素繊維束のパッケージ12から引き出された炭素繊維束13は、引き揃えロール14、15、コーム16を介して、複数の炭素繊維束13が互いに並行にシート状に引き揃えられ、炭素繊維シート17の形態とされる。
【0050】
炭素繊維シート17に対して、上側の樹脂フィルムのロール体21から引き出された上側の樹脂フィルム18が導入ロール19、20を介して炭素繊維シート17の上面側に配置されるとともに、下側の樹脂フィルムのロール体28から引き出された下側の樹脂フィルム22が導入ロール19、20を介して炭素繊維シート17の下面側に配置される。
【0051】
このように両側から樹脂フィルム18、22で挟まれた炭素繊維シート17は、ヒーター23で加熱されて樹脂フィルムに塗布されていた樹脂が加熱、軟化され、含浸ロール24、25でニップされて加圧されることにより、樹脂が炭素繊維シート17中に含浸される。樹脂が含浸された炭素繊維シート17は、引取ロール26、27の位置で、樹脂が炭素繊維シート17側に転写された後の上側の離型紙29がロール体30として巻き取られ回収される。樹脂が含浸された炭素繊維シート17は、炭素繊維プリプレグ31として、ロール体32として巻き取られる。本実施態様では、下側の離型フィルム22も炭素繊維プリプレグ32とともに巻き取られ、炭素繊維プリプレグ32が巻き出されて複合材料成形用に使用される際に、離型材として機能する。
【0052】
かかる製造方法にて、(1)A.の炭素繊維を1000mm幅に一方向へ引きそろえたシートの両表面、または片方の表面に、(1)D.の樹脂フィルムを押し当て挟み、加熱金属ロール群に圧接させることで、炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸せしめ、シート状プリプレグを製造した。
【0053】
(3)評価項目と測定方法
A.単位面積当たりの質量;g/m
(2)のシート状プリプレグを端部より幅40mm×長さ250mmの短冊状に幅方向に隙間無くカットし、離型紙を含む場合はそれを除いて試料とし、天秤で秤量しプリプレグ幅方向25点のプリプレグ質量より1mあたりのプリプレグ質量を測定し、その平均値を求めた。ここでいう、幅方向とは、シート状プリプレグの一方向に引き揃えられた繊維方向に対し、直角な方向のことを言う。
【0054】
B.樹脂質量含有率;%
上記短冊状サンプルから、JIS K 7071(1988)の方法で、樹脂質量含有率を算出した。樹脂質量含有率のバラツキは、25点のサンプルにおける樹脂質量含有率の最大から最小を差し引き、範囲(レンジ)を求め、その値で表した。
【0055】
C.タック値;N
タック値は、温度24±2℃、湿度50±5%RHの測定環境下にて、15〜30分間暴露した後に、(株)東洋精機製作所製PICMAタックテスターIIを用い、18mm×18mmのカバーガラスを0.4kgfの荷重で5秒間プリプレグに圧着し、30mm/分の速度にて引き剥がし、剥がれる際の抵抗力の極大値を測定することで求めた。カバーガラスは、MICRO COVER GLASS 18mm×18mm、厚み:0.12〜0.17mm(MATSUNAMI製)を使用した。
【0056】
D.シート状プリプレグと離型紙の剥離抵抗;N/25mm
(2)のシート状プリプレグと(1)C.の離型紙の剥離強度は次のように測定した。
【0057】
すなわち、シート状プリプレグを離型紙ごと、炭素繊維の方向を長さ方向として幅25mm、長さ300mmの短冊状に裁断し、試験片とした。次に、図1に示すように、上記試験片1を、試験片の全体を覆うことのできる大きさの両面接着テープ(例えばソニーケミカル製両面テープT4000、幅50mm)を用いて、折れ角θが165°のステンレス製の支持具2に、離型紙を外側にして張り付けた。次に図2に示すように、支持具2を引張試験機の下側チャック4(固定)に装着するとともに、プリプレグ1aから10mmほどあらかじめ引き剥がした離型紙1bの引き剥がし端をクリップ5、金属線6を介して上側チャック7(可動)に装着し、23℃、50%RHの雰囲気にて引張速度100mm/分で離型紙1bを引っ張ってプリプレグ1aから引き剥がし、そのときの荷重をチャート上に記録した。そして、引き剥がし終えるまでの間のチャートから、はがし始めの1分間と剥がし終わりの1分間を除いて、荷重の山の頂点を高い方から5点、荷重の谷底点を低いほうから5点読み取り、それら10点の荷重の単純平均値を求めて剥離強度とした。なお、引張試験機としては、荷重測定誤差が±1%を超えない、クロスヘッド移動速度を一定に保てる形式の適当な材料試験機を用いた。なお、かかる材料試験機として、例えば、東洋ボールドウィン社製テンシロンUTM−4Lなどの万能型引張試験機を用いることができる。
【0058】
(4)プリプレグ層内における樹脂含有層の確認方法(断面樹脂被覆状態の観察)
前述のシート状プリプレグの端部から500mmの位置において、10mm×10mmの大きさにサンプルをカットした。
【0059】
次に、シート状プリプレグの厚み方向の断面を繊維断面が見える方向で倍率100倍の顕微鏡で観察した。シート状プリプレグ断面には、マトリックス樹脂である熱硬化性樹脂と炭素繊維の両方が存在している部分と、炭素繊維のみが露出している部分を観察することができる。固定したサンプルを反射型光学顕微鏡で観察するとともに白黒写真として撮影する。このときマトリックス樹脂と炭素繊維が存在している部分は明るく、炭素繊維のみが露出している部分は暗く、写真に撮影される。次いで撮影した写真を2値化した。2値化の方法は様々あるが、例えば、白黒写真をパソコンに接続したスキャナーを使用し、解像度200dpiで取り込むことにより行うことが出来る。スキャナーとしては特に限定されないが、例えば、EPSON製 GT−7000S等を用いることができる。かかる画像を画像処理用ソフトにて、写真画像のヒストグラムを表示させ、モード法で2値化しとして炭素繊維のみの暗部、マトリックス樹脂と炭素繊維両方が存在する明部を分別することができる。
【0060】
かかる方法で、プリプレグ断面の明部、暗部の観察により、プリプレグ断面における樹脂被覆状態・含浸状態を確認した。この明部がプリプレグ断面を厚さ方向に10等分したとき、両厚みの最外部分(上下合わせて全体の20%にわたる部分)にもれなく存在している場合を「両面に樹脂が存在するプリプレグ」、片面には明部が存在せず、逆の片面には存在しているものを「片面のみ樹脂層が存在するプリプレグ」とした。
【0061】
(実施例1)
M/C比=0.8、C/F=0.5に条件設定したリバースロールコーターで、離型紙Bに塗布樹脂目付が8g/mとなるように塗布した樹脂フィルムを、単位面積あたり150g/mとなるように一方向に引き揃えた炭素繊維からなるシートの両表面より挟みこみ、前述の含浸装置にて110℃に加熱したホットプレートおよび金属ニップロールを通過させ、線圧15000N/mで加圧し、その後25℃まで冷却した後、上側の離型紙を剥ぎ取り、ポリエチレンのカバーフィルムをかぶせ、巻き取り、シート状プリプレグAを得た。シート状プリプレグAに対し、前述の方法にて、シート状プリプレグ目付、樹脂含有量、シート状プリプレグ表面(ポリエチレンカバー側)および裏面(離型紙側)のタック値、剥離抵抗、断面樹脂の被覆状態を測定および確認したところ、表1のとおり、品位、および成形作業時の取り扱い性良好なシート状プリプレグを得ることができた。
【0062】
シート状プリプレグA
プリプレグ目付:165g/m
樹脂質量含有率平均:9.0%
樹脂質量含有率バラツキ:3.2%
表面タック値:1.2N
裏面タック値:1.2N
剥離抵抗:2.4N/0.25mm
断面樹脂被覆状態:プリプレグ断面方向の両表面に存在した。
【0063】
(実施例2)
離型紙Cに樹脂を塗布した樹脂フィルムを用いた以外は実施例1と同様の方法で、品位、および成形作業時の取り扱い性良好なシート状プリプレグBを得ることができた。
【0064】
シート状プリプレグB
プリプレグ目付:164g/m
樹脂質量含有率平均:8.8%
樹脂質量含有率バラツキ:4.2%
表面タック値:1.2N
裏面タック値:1.3N
剥離抵抗:0.4N/0.25mm
断面樹脂被覆状態:プリプレグ断面方向の両表面に存在した。
【0065】
(実施例3)
樹脂質量含有率バラツキが5.5%になるように製造した樹脂フィルムを用いた以外は実施例1と同様の方法で、シート状プリプレグCを得た。品位は良好であったが、成形作業時に局所的な剥がれが発生し、良好な取り扱い性が得られたとまでは言えなかった。
【0066】
シート状プリプレグC
プリプレグ目付:164g/m
樹脂質量含有率平均:9.3%
樹脂質量含有率バラツキ:5.5%
表面タック値:1.1N
裏面タック値:1.2N
剥離抵抗:2.4N/0.25mm
断面樹脂被覆状態:プリプレグ断面方向の両表面に存在した。
【0067】
(実施例4、5)
離型紙A、Dに樹脂を塗布した樹脂フィルムを用いた以外は実施例1と同様の方法で、シート状プリプレグD、E得た。プリプレグDは成形する際に、離型紙がやや剥ぎづらく、プリプレグFでは局所的な剥がれが発生し、取り扱い性がやや劣っていたが、成形時には許容できるものであった。
【0068】
(実施例6〜9)
加熱温度を90℃または130℃、加圧条件を1000N/mまたは60000N/m、に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、シート状プリプレグF、G、H、Iを得た。表1に示す通り、品位、および、成形時の取り扱い性良好なシート状プリプレグを得ることができた。
【0069】
【表1】

【0070】
(比較例1)
樹脂質量が16g/mとなるように離型紙Bに塗布した樹脂フィルムを、一方向に引き揃えた炭素繊維からなるシートの片方の表面(下側)より挟みこみ、もう片方の表面(上側)より樹脂を塗布しない離型紙Bを挟みこんだ以外は、実施例1と同様の方法で、シート状プリプレグを得た。結果は、表面側のタック値は0.0N、断面樹脂被覆状態観察では表面における樹脂被覆は確認できず、シート状プリプレグの表面は炭素繊維が毛羽立った状態で、成形不可能であった。
【0071】
(比較例2)
樹脂質量が16g/mとなるように離型紙Bに塗布した樹脂フィルムを一方向に引き揃えた炭素繊維からなるシートの片方の表面(上側)より挟みこみ、もう片方の表面(下側)より樹脂を塗布しない離型紙Bを挟みこんだ以外は、比較例1と同様の方法で、シート状プリプレグを得ようと試みたが、加熱、加圧による含浸箇所を通過後、プリプレグの巻き取りまでの加工中において、離型紙とシート状プリプレグ間で剥離が発生し、加工できなかった。
【0072】
(比較例3〜6)
表2に示す通り、加熱温度を80℃もしくは140℃、加圧条件を900N/mもしくは60100N/m、に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、シート状プリプレグの製造を試みた。比較例3および5では、樹脂が部分的に転写しないため、表面に樹脂が存在しないプリプレグが得られた。一方比較例4および6では、樹脂のしみこみが著しく、タックに劣るプリプレグが得られた。
【0073】
【表2】

【0074】
(実施例10、11)
プリプレグ成形用に実施例1のプリプレグAと同一の樹脂、炭素繊維を用い、繊維質量含有率の平均値を75%としたプリプレグJを用意した。
【0075】
プリプレグAを0°方向に配し、90°方向にプリプレグJを配して円筒を成形したところ、良好な品位の成形品が得られた(実施例10)。また、90°方向プリプレグAを用いたこと以外については実施例10と同様に成形したところ、実施例10に比べ、若干表面品位や機械特性が劣るものの、表面品位や機械特性の概ね良好な成形品が得られた。
【符号の説明】
【0076】
1:試験片(プリプレグ材)
2:試験片の支持具
3:両面テープ
4a:一方向プリプレグ
4b:離型紙
5:試験片(プリプレグ材)
6:試験片の支持具
7:両面テープ
8:下側チャック
9:クリップ
10:金属線
11:上側チャック
12:炭素繊維束のパッケージ
13:炭素繊維束
14:引き揃えロール
15:引き揃えロール
16:コーム
17:炭素繊維シート
18:上側の樹脂フィルム
19:導入ロール
20:導入ロール
21:上側樹脂フィルムのロール体
22:下側の樹脂フィルム
23:ヒーター
24:含浸ロール
25:含浸ロール
26:引取りロール
27:引取りロール
28:下側樹脂フィルムのロール体
29:上側の離型紙
30:上側の離型紙のロール体
31:炭素繊維プリプレグ
32:炭素繊維プリプレグのロール体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維および熱硬化性樹脂を有してなるシート状プリプレグであって、該炭素繊維は、単位面積当たりの質量が100〜250g/mとなるように一方向に配向され、該熱硬化性樹脂は、少なくとも該シート状プリプレグの両表面に存在しており、該熱硬化性樹脂の該シート状プリプレグに占める樹脂質量含有率が6〜10%、かつ、明細書に記載の方法で測定されたシート状プリプレグ両表面のタック値が1.0N以上であることを特徴とするシート状プリプレグ。
【請求項2】
明細書に記載の方法で測定された、前記熱硬化性樹脂の単位面積当たりの樹脂質量含有率のバラツキが5.0%以下である、請求項1に記載のシート状プリプレグ。
【請求項3】
前記シート状プリプレグが、さらに少なくともその一方の表面に離型紙を配しており、該シート状プリプレグと該離型紙の剥離抵抗が0.3〜2.5N/25mmである、請求項1または2に記載のシート状プリプレグ。
【請求項4】
用いられる炭素繊維がJIS R 7608(2007)により求められる引張弾性率が450〜700GPaである、請求項1〜3のいずれかに記載のシート状プリプレグ
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のシート状プリプレグ、またはそれを積層して得られる積層基材を硬化させてなる炭素繊維強化複合材料。
【請求項6】
請求項1〜4に記載のシート状プリプレグの製造方法であって、一方向に配向された、目付が100〜250g/mの炭素繊維をその両表面から樹脂フィルムで挟み込んだ後、少なくとも1本以上からなる加熱金属ロール群に圧接させ、加熱温度90〜130℃、線圧1000〜60000N/mで加圧する工程を含む、シート状プリプレグ製造方法。
【請求項7】
メタリングロールとコーティングロールおよびバックアップロールを備えたリバースロールコーターを用いて、離型紙上に前記熱硬化性樹脂を塗布して樹脂フィルムとするに際し、該コーティングロール速度をC、該樹脂フィルム速度をFとしたときに、0<C/F<1.0を満たすことを特徴とする、請求項6に記載のプリプレグ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−132389(P2011−132389A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293909(P2009−293909)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】