説明

シート状媒体送り出し装置およびシート状媒体処理装置

【課題】シート状媒体が媒体挿入部の端面に突き当たり送り出せなくなることを回避できるシート状媒体送り出し装置を提案すること。
【解決手段】シート状媒体送り出し装置100は、シート状媒体を送り出すピックアップローラー101と、シート状媒体をピックアップローラー101に押し付ける押し付け部材102が単一の駆動モーター103により駆動される。ピックアップローラー101の回転開始時点を、押し付け部材102の移動開始時点よりも遅延させる遅延機構150を備え、遅延機構150の駆動側回転部材133は、その回転方向に所定の遊び角度αだけ回転すると従動側回転部材134に係合して当該従動側回転部材134を同一方向に一体回転させる。シート状媒体は送り出される前に押し付け部材102によって押し付けられるので媒体挿入部の端面に突き当たることなく媒体送り出し口から確実に送り出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小切手、記録用紙などのシート状媒体を送り出すためのシート状媒体送り出し装置、および、当該シート状媒体送り出し装置を備えた小切手処理装置、プリンター、スキャナー、磁気読取装置などのシート状媒体処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入金処理、出金処理を含む銀行業務においては、小切手を利用した決済方法が利用されている。小切手による決済方法では、銀行窓口で小切手に記載されている日時、署名などを確認し、必要な入金処理、出金処理等を行い、その後に処理済の小切手に裏書きを行う。また、当該小切手処理に関するレシートを顧客に発行する。さらに、小切手処理に当っては、本人確認のために、免許証やIDカードの提示を求め、必要に応じて、複写機でこれらのコピーを取って保管している。銀行窓口においては、このような処理を短時間で大量に行うことが必要である。
【0003】
特許文献1には、小切手処理を一括して狭い銀行窓口などにおいて行うことができるように、MICR、光学スキャナー、小切手印刷ヘッドおよびレシート印刷ヘッドを備えた複合型印刷装置が提案されている。この複合型印刷装置では、小切手などの単票紙を搬送する平面視でU字状に湾曲している搬送路と、レシート用の連続紙を搬送する搬送路とを直交して配置し、両者の搬送路が交わる部分に、小切手及びレシートを印刷する単一の印刷ヘッドが配置されている。
【0004】
このような小切手等のシート状媒体を処理するシート状媒体処理装置には、積層状態のシート状媒体を一枚ずつ分離して搬送路に送り出すためのシート状媒体送り出し装置が備わっている。シート状媒体送り出し装置としては、旋回式の押し付け部材によって積層状態のシート状媒体を回転しているピックアップローラーに押し付けて、1枚ずつシート状媒体を送り出す機構を備えたものが知られている。このようなシート状媒体送り出し装置は特許文献2において提案されている。特許文献2に開示のシート状媒体送り出し装置では、積層状態でシート状媒体が挿入される媒体挿入部は、そのシート状媒体の送り出し側の端が、押し付け部材の側からピックアップローラーの側に向けて傾斜している傾斜ガイド面部分となっており、ピックアップローラーによって送り出されるシート状媒体を、ピックアップローラーの側に位置する幅の狭い媒体送り出し口に向けてガイドしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−243764号公報
【特許文献2】特開2010−195510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ピックアップローラーの回転と押し付け部材の移動を単一の駆動モーターで行うことが装置の小型化、コスト低減化等の観点から望ましい。この場合には、駆動力が共通の駆動力伝達経路を介して双方の部材に伝達されるので、駆動モーターが回転すると、ピックアップローラーの回転と押し付け部材の移動が同時に開始されることになる。
【0007】
この構成のシート状媒体送り出し装置では、媒体挿入部に挿入されたシート状媒体のセット状態によっては、押し付け部材によってシート状媒体の送り出し方向の先端部分が、幅の広い媒体挿入部の送り出し側の端面において幅の狭い媒体送り出し口の側に十分に押し込まれる(寄せられる)前に、シート状媒体がピックアップローラーによって送り出されてしまうことがある。この場合には、送り出されるシート状媒体の先端が媒体挿入部の端面に強く押し付けられる。
【0008】
特許文献2のような傾斜ガイド面部分が媒体挿入部の端面に形成されていない場合等においては、シート状媒体の先端面と媒体挿入部の端面の間に発生する摩擦抵抗によって、押し付け部材によるシート状媒体の先端部分を幅の狭い媒体送り出し口の位置まで押し込むことが困難になる。この結果、シート状媒体の先端部分に折れ、曲げなどが付いてしまい、シート状媒体の送り出しができなくなることがある。
【0009】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、シート状媒体のセット状態の如何に拘わらず、押し付け部材によってシート状媒体を幅の狭い媒体送り出し口の側に確実に寄せた状態でピックアップローラーによってシート状媒体を媒体送り出し口に送り出すことができるシート状媒体送り出し装置を提案することにある。また、当該シート状媒体送り出し装置を備えた小切手処理装置などのシート状媒体処理装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明のシート状媒体送り出し装置は、
シート状媒体が挿入される媒体挿入部と、
前記媒体挿入部における前記シート状媒体の送り出し側の端面に位置し、当該媒体挿入部の幅よりも狭い幅の媒体送り出し口と、
前記媒体挿入部に挿入された前記シート状媒体を前記媒体送り出し口に送り出すためのピックアップローラーと、
前記ピックアップローラーに前記シート状媒体を押し付けるための押し付け部材と、
駆動モーターと、
前記駆動モーターの駆動力を前記ピックアップローラーおよび前記押し付け部材に伝達する動力伝達機構とを有しており、
前記動力伝達機構は、前記ピックアップローラーの回転開始時点を、前記押し付け部材が当該押し付け部材の待機位置から前記ピックアップローラーに向けて移動を開始する移動開始時点よりも遅延させる遅延機構を備えており、
前記遅延機構は、同一の中心軸線回りに回転する駆動側回転部材と従動側回転部材とを備え、前記駆動側回転部材は、前記中心軸線回りに予め定めた角度(以下、「遊び角度」という。)だけ回転すると、前記従動側回転部材に係合して当該従動側回転部材を同一回転方向に一体となって回転させることを特徴としている。
【0011】
本発明のシート状媒体送り出し装置では、動力伝達機構に備わっている遅延機構によって、駆動モーターが回転して押し付け部材を待機位置からピックアップローラーの方向に移動を開始させる移動開始時点よりも遅れた時点からピックアップローラーの回転が開始する。したがって、媒体挿入部に挿入されているシート状媒体は押し付け部材によってピックアップローラーの側に押し付けられた後に(寄せられた後に)、ピックアップローラーの回転が始まる。よって、遅延時間を適切に設定しておけば、ピックアップローラーによって送り出される前のシート状媒体の先端を、幅の狭い媒体送り出し口の側に寄せておくことができるので、シート状媒体の先端が媒体挿入部の端面に突き当たる事態を回避できる。よって、媒体送り出し口からシート状媒体を確実に送り出すことができる。
【0012】
また、遅延機構として、同一の中心軸線回りに回転する駆動側回転部材と従動側回転部材の間に回転方向に所定量の遊び角を設け、遊び角分だけ駆動側回転部材が回転しないと従動側回転部材が一体となって回転しない機構を採用している。一体回転する回転部材の間に遊びを形成するという簡単な構成であるので、動力伝達機構を構成している一対の駆動側回転部材と従動側回転部材を利用して簡単に遅延機構を構成できる。よって、部品点数の増加、設置スペースの増加を最小限に抑制でき、シート状媒体送り出し装置の小型・コンパクト化およびコスト低減化を阻害することなく、シート状媒体が媒体挿入部の端面に突き当たって搬送不良などが発生するという弊害を解消できる。
【0013】
本発明のシート状媒体送り出し装置において、
前記媒体挿入部は、その幅方向の両側が相互に対峙している第1側面および第2側面によって規定されており、
前記媒体送り出し口は、その幅方向の両側が相互に対峙している第3側面および第4側面によって規定されており、
前記第3側面は前記第1側面に連続して延びており、
前記第4側面は、前記媒体挿入部における前記第2側面の端から前記第1側面の方向に折れ曲がって延びている端面の先端から前記シート状媒体の送り出し方向に延びており、
前記ピックアップローラーは、その外周面の一部が前記第1側面から露出しており、
前記押し付け部材は、前記ピックアップローラーから前記第2側面の側に後退した前記待機位置から前記ピックアップローラーに向けて移動可能であり、
前記遅延機構の前記遊び角度は、少なくとも、前記押し付け部材が前記媒体挿入部の幅方向において前記待機位置から前記第4側面の位置まで移動するために必要な前記駆動側回転部材の回転量に対応する角度であることを特徴としている。
【0014】
このように遊び角度を設定しておけば、媒体挿入部に挿入されるシート状媒体の枚数の多寡に拘わりなく、ピックアップローラーが回転を開始するまでの間に、シート状媒体の先が媒体挿入部の端面に当たらない位置までシート状媒体を押し込むことができる。すなわち、シート状媒体を押し付け部材によって押し込み、媒体送り出し口が形成されている第1側面の側に寄せることができるので、シート状媒体を確実に媒体送り出し口から送り出すことができる。
【0015】
本発明のシート状媒体送り出し装置において、
前記従動側回転部材は前記ピックアップローラーのローラー軸であり、
前記駆動側回転部材は、前記動力伝達機構における前記駆動モーターの駆動力を前記ローラー軸に伝えるローラー駆動歯車列の最終段伝達歯車であり、
前記最終段伝達歯車は前記ローラー軸に回転可能な状態で取り付けられており、
前記ローラー軸には、その半径方向に延びる係合ピンが取り付けられており、
前記最終段伝達歯車の前記係合ピンに対峙している端面における前記回転中心軸線回りに前記遊び角度だけ離れた位置には、前記係合ピンに係合可能な第1係合面および第2係合面が形成されていることを特徴としている。
【0016】
動力伝達機構を歯車列で構成した場合には、その最終段伝達歯車が一般にピックアップローラーのローラー軸の軸端に同軸状態に固定される。本発明では、最終段伝達歯車をローラー軸に対して回転可能な状態で取り付け、ローラー軸と最終段伝達歯車の間に配置した係合ピンと係合面の間に所定の遊び角度を設けている。ローラー軸に取り付けられているピックアップローラーと最終段伝達歯車とは、ローラー軸の軸線方向において所定の間隔を開けて配置されるので、この隙間を利用して係合ピンおよび第1、第2係合面を配置できる。よって、設置スペースを必要とすることなく遅延機構を組み込むことができるので、装置の小型化、低コスト化に有利である。また、最終段伝達歯車には一対の第1、第2係合面が形成されている。駆動モーターを一方向に回転駆動して最終段伝達歯車が回転し、一方の係合面、例えば第1係合面が係合ピンに係合するとローラー軸が一体回転してシート状媒体の送り出し動作を行うことができる。送り出し終了後に、押し付け部材を待機位置に戻すために、駆動モーターを逆方向に回転駆動して最終段伝達歯車が逆方向に回転すると、他方の第2係合面が係合ピンに係合してローラー軸が逆方向に一体回転する。駆動モーターを止めた後においては、第1係合面と係合ピンの間には遊び角度が形成されているので、次回の動作においてピックアップローラーの回転開始を遊び角度分だけ確実に遅延させることができる。
【0017】
この場合、本発明のシート状媒体送り出し装置では、前記最終段伝達歯車が回転を開始して前記係合面が前記係合ピンに係合するまでの間、前記係合ピンが前記最終段伝達歯車と連れ回りしない方向に、当該係合ピンが取り付けられている前記ローラー軸に、回転負荷を付与している回転拘束部材を備えていることを特徴としている。
【0018】
係合ピンが最終段伝達歯車と連れ回りしてしまうと、係合ピンが取り付けられているローラー軸に回転が伝わり、ピックアップローラーの回転開始時点を必要な時間だけ遅延させることができない。本発明によれば、連れ回りできないように回転拘束部材によって回転負荷を与えているので、ピックアップローラーの回転開始時点を確実に必要時間だけ遅延させることができる。
【0019】
次に、本発明のシート状媒体送り出し装置において、
前記ピックアップローラーは第1ワンウエイクラッチを介してローラー軸に取り付けられており、
前記第1ワンウエイクラッチは、前記ピックアップローラーを前記シート状媒体の送り出し方向に回転させる回転力を前記ローラー軸から前記ピックアップローラーに伝達するものであり、
前記動力伝達機構は、前記ローラー駆動用の歯車列における前記最終段伝達歯車以外の伝達歯車に、第2ワンウエイクラッチを介して一体回転するように連結されている押し付け部材側伝達歯車を備えており、
当該押し付け部材側伝達歯車を介して前記押し付け部材を移動させるための回転力が当該押し付け部材に伝達されることを特徴としている。
【0020】
シート状媒体送り出し装置から送り出されたシート状媒体を搬送して情報の読み取り処理等を行うシート状媒体処理装置においては、一般に、シート状媒体送り出し装置の媒体送り出し口から送り出されたシート状媒体を搬送ローラー対によって銜え込み、搬送路に沿って送り出すように構成される。シート状媒体が搬送ローラー対に引き渡された後にピックアップローラーの回転を止めた時点においては、シート状媒体の後側の部分が押し付け部材によってピックアップローラーに押し付けられたままとなっている。この結果、搬送ローラー対によって送り出されるシート状媒体に大きな送り負荷が作用し、シート状媒体の搬送を正確に行うことができなくなってしまう。第1ワンウエイクラッチを配置しておくことにより、搬送ローラー対によって搬送されるシート状媒体によってピックアップローラーが連れ回りする(ローラー軸に対して空回りする)ことが可能になり、シート状媒体に作用する送り負荷を低減できる。
【0021】
また、押し付け部材の動力伝達経路には第2ワンウエイクラッチが介挿されているので、押し付け部材がシート状媒体を押し付けた状態となった後は、一定以上の駆動力が伝達されない。よって、過剰な力が押し付け部材の側に加わることが防止される。この結果、媒体挿入部に挿入されたシート状媒体の枚数の多寡に拘わりなく、バネ部材などの付勢力による適切な押し付け力で、シート状媒体をピックアップローラーの側に押し付けることができる。
【0022】
一方、本発明のシート状媒体処理装置は、上記構成のシート状媒体送り出し装置と、前記シート状媒体送り出し装置から送り出されたシート状媒体を所定の搬送経路に沿って搬送する媒体搬送機構と、前記搬送経路を搬送される前記シート状媒体に担持されている情報を読み取る情報読取部とを有していることを特徴としている。シート状媒体送り出し装置によって確実にシート状媒体が送り出されて媒体搬送機構に引き渡される。よって、シート状媒体がシート状媒体送り出し装置の媒体送り出し口に詰まってシート状媒体の処理効率が低下してしまうという弊害を回避できるので、シート状媒体を効率良く処理可能なシート状媒体処理装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の小切手処理装置を示す斜視図である。
【図2】図1の小切手処理装置の上面の二つのカバーを開けた状態の斜視図である。
【図3】図1の小切手処理装置を上方から見た場合の斜視図である。
【図4】図1の小切手処理装置の内部構成図である。
【図5】図1の小切手処理装置の小切手送り出し装置の機構を示す構成図である。
【図6】図5の小切手送り出し装置の動力伝達機構を示す説明図である。
【図7】図6の動力伝達機構に組み込まれている遅延機構を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照して、本発明のシート状媒体送り出し装置を備えたシート状媒体処理装置の実施の形態を説明する。本実施の形態に係るシート状媒体処理装置は、曲げることの容易なシート状媒体である小切手を処理する小切手処理装置である。また、小切手処理装置には、小切手処理に当っての本人確認などのために曲げることの困難な運転免許証やその他のカードの画像情報を読み取るカードスキャン機構と、小切手の処理済情報などが印刷されたレシートを発行するレシート発行機構とが備わっている。なお、本発明は、小切手以外のシート状媒体を処理するシート状媒体処理装置に対しても同様に適用できることは勿論である。また、カードスキャン機構、レシート発行機構が備わっていないシート状媒体処理装置に対しても適用可能なことは勿論である。
【0025】
(全体構成)
図1は本実施の形態に係る小切手処理装置を前方右側の斜め上方から見た場合の斜視図である。図2は小切手処理装置を前方左側の斜め上方から見た場合の斜視図であり、上面に配置されている前後のカバーを開けた状態のものである。また、図3は小切手処理装置を上方前側から見た場合の斜視図である。
【0026】
これらの図を参照して説明すると、小切手処理装置1の装置筐体1aは、矩形輪郭をした一定厚さの下側筐体部2と、この上に配置されている上側筐体部3とを備えている。上側筐体部3には、処理対象の小切手S1を挿入する入口ポケット4(媒体挿入部)と、入口ポケット4から送り出される小切手S1を搬送する小切手搬送路P1と、小切手搬送路P1から送り出される小切手S1を回収する回収ポケット5が形成されている。小切手搬送路P1に沿って搬送される間に、小切手S1の磁気情報の読み取り、小切手S1の裏書き印刷、および小切手S1の両面の画像情報の読み取りがこの順序で行われる。
【0027】
入口ポケット4から小切手搬送路P1を経由して回収ポケット5に至る小切手搬送経路は、上側筐体部3に形成した装置上下方向Zの上方に開口している所定幅の縦溝によって規定されている。小切手S1は、図1に示すように、その長辺縁が上下となる立てた状態で入口ポケット4に挿入され、その状態のまま小切手搬送路P1を搬送されて回収ポケット5に排出される。この小切手搬送経路は平面視で装置前方に開く略U字形状の経路である。
【0028】
すなわち、図3から分かるように、入口ポケット4は上側筐体部3における装置幅方向Xの右側の前端から略一定幅で装置後方に延びており、幅方向の両側が相互に対峙している第1側面4aおよび第2側面4bによって規定されている。第2側面4bの装置後端側の端(小切手送り出し方向の端)からは、第1側面4aに向けて直角よりも僅かに大きな角度で折れ曲がった方向に端面4cが延びている。この端面4cの端と、これに対峙している第1側面4aの間に狭い幅の小切手送り出し口4dが開いている。小切手送り出し口4dの幅方向の両側は、第1側面4aから連続して装置後側に延びている第3側面4eと、端面4cの端から装置後方に向けて第3側面4eと略平行に延びている第4側面4fによって規定されている。
【0029】
小切手送り出し口4dの装置後側の端からは、小切手搬送路P1の上流側搬送路P11が装置後方に向けて直線状に延びている。上流側搬送路P11の下流端部分は装置幅方向Xの内側に向けて湾曲して、小切手搬送路P1の後側搬送路P12に繋がっている。後側搬送路P12は装置幅方向にほぼ直線状に延びており、その下流端部分は装置前方に向けて湾曲して、小切手搬送路P1の下流側搬送路P13に繋がっている。下流側搬送路P13は直線状搬送路であり、装置前後方向Yに対して装置幅方向の内側に鋭角θで傾斜した方向、例えば10〜20度程度傾斜した方向に延びている。下流側搬送路P13の下流端は小切手排出口5aを介して回収ポケット5に繋がっている。回収ポケット5は装置前後方向Yに沿って装置前端まで延びている。
【0030】
上側筐体部3は、このU字形状の小切手搬送経路によって、右側筐体部分6、後側筐体部分7および左側筐体部分8と、これらの内側に位置する内側筐体部分9に分かれている。内側筐体部分9の上面には、前側カバー11、後側カバー12、後述のレシート発行機構のレシート発行口13および操作面14が配置されている。また、後述のカードスキャン機構による読み取り対象のカードCを挿入するためのカード挿入路15が形成されている。
【0031】
図2から分かるように、前側カバー11は装置前端側の部位を中心として装置前方に開けることができ、後側カバー12は装置後端側の部位を中心として装置後方に開けることができる。レシート発行口13は、前側カバー11の開閉側の縁と後側カバー12の開閉側の縁との間に形成されており、装置幅方向に細長い矩形状をしている。操作面14は、後側カバー12の左側における装置後側部分に形成されており、一段高い位置に形成されたほぼ平坦な面であり、ここには、複数の操作スイッチ14a、動作表示用の複数のLED表示部14bなどが配列されている。
【0032】
内側筐体部分9における後側カバー12によって覆われている部分には、ロール紙収納部16が設けられている。後側カバー12を開けるとロール紙収納部16が装置上方に開口し、不図示のロール紙の交換作業などを行うことができる。内側筐体部分9の前側カバー11によって覆われている部分には、ロール紙収納部16に収納した不図示のロール紙から繰り出される連続紙を幅方向に切断するためのオートカッター17が配置されている。ロール紙収納部16に収納された不図示のロール紙から繰り出される連続紙に、レシート発行口13の下側に配置されている不図示の印刷ヘッドによって小切手情報に対応する情報などが印刷され、印刷された部分の後端が切断されて所定長さのレシートとしてレシート発行口13から発行される。また、オートカッター17の装置前側にはインクカートリッジ装着部18が配置されており、ここには小切手印刷用のインク供給源であるインクカートリッジ19が装着されている。前側カバー11を開けると、オートカッター17の駆動ユニット17cが露出すると共に、インクカートリッジ装着部18が上方に開口するので、オートカッター17の点検作業等やインクカートリッジの交換作業などを装置上方から簡単に行うことができる。
【0033】
一方、カード挿入路15は、図2、図3から分かるように、内側筐体部分9の上面における前側カバー11の左側の平坦な装置上面部分20に形成されている。装置上面部分20は、その後側の操作面14に比べて低い位置にある。カード挿入路15は、この装置上面部分20において、装置上方に開口している一定幅で一定深さの直線状の溝である。カード挿入路15の装置後側の後端は、小切手搬送路P1の下流側搬送路P13における装置前方に開口している下流端開口P13aにおける上側の部分に繋がっており、その装置前側の前端は前側カバー11の側縁近傍に位置している。また、カード挿入路15は、図3から分かるように、直線状搬送路である下流側搬送路P13の装置前方への延長線に沿って延びる直線状の挿入路である。すなわち、装置前後方向Yに対して装置内側に鋭角θで傾斜した方向に延びている。
【0034】
曲げることの困難なカードCの画像情報を読み取る場合には、図3に示すように、当該カードCをカード挿入路15に対して装置前側から挿入して装置後方に押し込む。カード挿入路15に押し込まれたカードCは、カード挿入路15から下流側搬送路P13に送り込まれ、当該下流側搬送路P13に配置されている後述の小切手読取用の光学式読取部43(図4参照)によって画像情報が読み取られる。読み取り後のカードCは当該下流側搬送路P13から装置前側のカード挿入路15に送り出される。
【0035】
なお、本例の小切手処理装置1では、曲げることの困難なカードCの磁気情報を読み取るためのカードスロット21も形成されている。カードスロット21は上側筐体部3の右側筐体部分6の上面部分に形成されている。この右側筐体部分6の内部には不図示の磁気読取部が配置されており、カードCを当該カードスロット21に沿って引き抜くことにより、カードCに担持されている磁気情報が読み取られる。
【0036】
(内部構成)
図4は、U字状の小切手搬送経路に沿って小切手S1を搬送するための小切手搬送機構の主要部分を示す内部構成図である。この図を参照して説明すると、小切手搬送経路の上流端には、入口ポケット4を備えた小切手送り出し装置100(シート状媒体送り出し装置)が組み込まれている。小切手送り出し装置100は、入口ポケット4に重なった状態で挿入された小切手S1を一枚ずつ分離して上流側搬送路P11に送り出すものである。本例では、小切手S1は、その裏面が装置内側(内側筐体部9の側)を向くように、入口ポケット4に立てた状態で挿入される。
【0037】
小切手送り出し装置100の詳細は後述するが(図5〜図7参照)、その右側筐体部分6の側の第1側面4aに、外周面の一部が露出した状態でピックアップローラー101が略垂直な姿勢で配置され、内側筐体部分9の側の第2側面4bに形成された開口部に、押し付け部材102が配置されている。押し付け部材102は入口ポケット4に挿入された小切手S1をピックアップローラー101の側に押圧するためのものである。
【0038】
また、小切手送り出し装置100では、駆動モーター103によって、押し付け部材102が第2側面4bの側に退避した待機位置から第1側面4aのピックアップローラー101の側に旋回して、入口ポケット4内の小切手S1をピックアップローラー101に押し付ける。また、同一の駆動モーター103によって回転駆動されるピックアップローラー101によって小切手S1が小切手送り出し口4dから小切手搬送路P1の上流側搬送路P11に送り出される。
【0039】
小切手送り出し装置100の小切手送り出し口4dから延びている小切手送り出し通路4gには、入口ポケット4から送り出された小切手S1を送り出す送り出しローラー104と、これに対峙しているリタードローラー105が配置されている。送り出しローラー104は駆動モーター103により駆動される。リタードローラー105は送り出しローラー104の側に付勢されていると共に、小切手送り出し方向に所定の回転負荷が作用している。したがって、これらの間に銜え込まれて送り出しローラー104によって送り出される小切手S1は、重なって送り出されても、リタードローラー105の回転負荷によって分離され、一枚ずつ上流側搬送路P11に送り出される。
【0040】
次に、送り出しローラー104から送り出された小切手S1の搬送経路上には、複数の搬送ローラー対32〜36が配置されている。上流側搬送路P11には搬送ローラー対32が配置されており、当該搬送ローラー対32は、送り出しローラー104から送り出された小切手S1を銜え込み、下流側に搬送する。後側搬送路P12には搬送ローラー対33、34が配置されており、下流側搬送路P13には残りの搬送ローラー対35、36が配置されている。これらの搬送ローラー対32〜36はそれぞれ、内側筐体部分9の側に配置されている駆動ローラー32a、33a、34a、35a、36aと、外側の右側筐体部分6、後側筐体部分7および左側筐体部分8の側において、小切手搬送路P1を介して対向するように設けられた従動ローラー32b、33b、34b、35b、36bとを備えている。駆動ローラー32a、33a、34a、35a、36aは、無端ベルト37を介して、駆動モーター40によりそれぞれが同期して回転駆動される。また、従動ローラー32b、33b、34b、35b、36bは、不図示の付勢部材により、対向する駆動ローラー32a〜36aの側に付勢されている。
【0041】
小切手搬送路P1の上流側搬送路P11には磁気読取部41が配置されている。磁気読取部41は、小切手S1に磁気インク等で書き込まれた磁気情報を読み取り可能なMICR等の磁気スキャナー41aを備え、磁気スキャナー41aは、その磁気読取面が上流側搬送路P11の側を向く姿勢で右側筐体部分6に配置されている。また、磁気スキャナー41aの磁気読取面には、上流側搬送路P11を挟み、押し付けローラー41bが対向配置されている。押し付けローラー41bによって、搬送される小切手S1が磁気スキャナー41aの磁気読取面に押し付けられて、磁気スキャナー41aによって確実に磁気情報が読み取られる。
【0042】
上流側搬送路P11の下流端に連続して装置幅方向に延びている後側搬送路P12には、その装置右隅の側の部分に、小切手S1の裏面に裏書き印刷を行う小切手印刷部42が設けられている。小切手印刷部42は装置上下方向に延びる状態に配置されたライン型のインクジェットヘッド42aを備え、当該インクジェットヘッド42aのノズル面が後側搬送路P12の側を向く状態に配置されている。後側搬送路P12を挟み、このノズル面に対峙する後側筐体部分7の部位には、インクジェットヘッド42aの印刷位置を規定するプラテン42bが配置されている。インクジェットヘッド42aのインク供給源は、図2を参照して説明したように、インクカートリッジ装着部18に装着したインクカートリッジ19である。本例のようにライン型のヘッドを用いると、シリアル型のヘッドを用いる場合に比べて、当該小切手印刷部42をコンパクトに形成できるので好ましい。
【0043】
次に、小切手搬送路P1の下流側搬送路P13には、搬送ローラー対35、36が配置されており、これらの間の搬送路部分には、小切手S1の両面の画像情報を読み取る光学式読取部43が設けられている。光学式読取部43は、小切手S1の裏面読取用の光学スキャナー43aと表面読取用の光学スキャナー43bとを備えており、互いの読取面が下流側搬送路P13を挟んで向かい合うように設けられている。
【0044】
下流側搬送路P13の下流端は、磁気情報の読取、裏書き印刷、および画像情報の読取が終了した処理済みの小切手S1を回収ポケット5に排出する小切手排出口5aに繋がっている。回収ポケット5は上方に開口しており、当該回収ポケット5に回収された小切手S1を上方から取り出すことができる。入口ポケット4および回収ポケット5のいずれもが上方に開口しているので、操作者は常に小切手処理装置1の手前上方から小切手S1を扱うことができる。
【0045】
(小切手処理装置の制御系および動作)
小切手処理装置1の動作はMPU等の制御部61によって制御される。制御部61は、図4に示すように、下側筐体部2の上面に配置した基板60に搭載されている。単一の制御部61により小切手処理装置1の小切手処理機構、レシート発行機構およびカードスキャン機構を制御することにより、例えばドライバーのアップデートなどのメンテナンス性が向上する。なお、制御部61は、図4に示すように基板60の上面に設けるほか、基板60の裏面(小切手搬送路P1が形成される側とは反対側)に、制御基板として取り付けても良い。
【0046】
小切手S1が装置前側から入口ポケット4に挿入されると、制御部61は小切手処理機構の駆動モーター103を駆動制御して小切手S1を押し付け部材102によってピックアップローラー101の側に押し付け、この状態でピックアップローラー101により小切手S1を小切手送り出し口4dに送り出し、送り出しローラー104およびリタードローラー105によって確実に1枚ずつ小切手S1を小切手搬送路P1に送り出す。
【0047】
制御部61は、小切手S1が上流側搬送路P11を搬送されてくると、まず磁気読取部41を制御して小切手S1の磁気情報を読み取り、読み取られた磁気情報を取得する。次に制御部61は、読み取った磁気情報に基づいて、小切手印刷部42により小切手S1の裏面に裏書き印刷を実行する。また、制御部61は光学式読取部43を制御して小切手S1の両面の画像を読み取り、読み取られた画像情報を取得する。さらに、画像情報が読み取られた小切手S1は搬送ローラー対36により回収ポケット5に排出される。
【0048】
このように、小切手処理装置1の小切手処理機構によれば、磁気情報の読み取り、裏書き印刷、画像情報の読み取りといった一連の処理を一括して行うことができるので、ユーザーの負担を軽減することができる。
【0049】
(小切手送り出し装置の構成)
図5は小切手送り出し装置100の機構部分を示す説明図であり、(a)は小切手S1が挿入されて押し付け部材102が待機位置にある状態を示し、(b)は押し付け部材102が旋回して小切手S1をピックアップローラー101に押し付けた状態を示す。小切手送り出し装置100は、その装置フレーム110に各部品が組み付けられており、先に述べたように、広幅の入口ポケット4の第1側面4aの側にはピックアップローラー101が配置され、反対側の第2側面4bの側には押し付け部材102が配置されている。また、入口ポケット4の小切手送り出し方向の端面4cにおける第1側面4aの側の端に開いている狭い幅の小切手送り出し通路4gには、その第3側面4eの側に、送り出しローラー104が配置され、その第4側面4fの側にリタードローラー105が配置されている。
【0050】
ピックアップローラー101は、入口ポケット4の第1側面4aにおける小切手S1の送り出し方向111の中程の位置に、その外周面101aの一部が露出した状態に配置されている。押し付け部材102は、第2側面4bの側において、送り出し方向111の後端部に、装置上下方向に垂直に延びる状態に配置した旋回中心軸112を中心として、図5(a)に示す待機位置102Aから図5(b)に示すようにピックアップローラー101の側に旋回可能である。本例の押し付け部材102は、旋回中心軸112によって後端が旋回可能に支持されている後側旋回板113と、この後側旋回板113の先端部に取り付けた支軸114を中心として後端が旋回可能な状態に支持されている前側旋回板115とを備えている。旋回中心軸112に取り付けた不図示の捩りコイルバネなどの付勢力によって、押し付け部材102は常にピックアップローラー101の側に付勢されている。また、前側旋回板115は、例えば支軸114に取り付けた不図示の捩りコイルバネ等の付勢部材の付勢力によって図5(a)に示すように後側旋回板113から直線状に延びる状態に保持されている。
【0051】
駆動モーター103が、小切手S1を送り出す方向に向けて回転駆動すると、押し付け部材102がピックアップローラー101の側に旋回し、先端側の前側旋回板115の先端115aが入口ポケット4に挿入されている小切手S1の束の送り出し方向111の先端側の部分に当たり、小切手S1を先端側から第1側面4aの側に押し込む(寄せる)。押し付け部材102が更に旋回すると、前側旋回板115は支軸114を中心として後側旋回板113に対して第2側面4bの側に徐々に折れ曲がり、その平坦な側面115bによって小切手S1の前側部分を第1側面4aの側に押し付けた状態が形成される。この結果、小切手S1の束が全体として第1側面4aに押し付けられ、そこに外周面が露出しているピックアップローラー101に、小切手S1の束における第1側面4aの側に位置する小切手S1が押し付けられる。この状態でピックアップローラー101が回転すると、小切手S1が狭い幅の小切手送り出し口4dに送り出される。
【0052】
図6はピックアップローラー101および押し付け部材102の動力伝達機構を示す説明図であり、(a)は装置フレーム110の底板部分の裏面に配置されているローラー駆動用の歯車列および押し付け部材駆動用の歯車列を示し、(b)はA−A線で切断した場合の部分斜視図である。
【0053】
図6を参照して説明すると、動力伝達機構120は駆動モーター103の駆動力をピックアップローラー101に伝達するローラー駆動用の歯車列130と、駆動モーター103の駆動力を押し付け部材102に伝達する押し付け部材駆動用の歯車列140とを備えている。ローラー駆動用の歯車列130は、装置フレーム110の底板部分116の裏面の側に突出している駆動モーター103のモーター軸103aに固着した駆動スプロケット131を備えている。駆動スプロケット131は、底板部分116の裏面側に回転自在の状態で取り付けた中間伝達歯車132にかみ合っている。中間伝達歯車132は、同じく底板部分116の裏面側に配置されている最終段伝達歯車133にかみ合っている。最終段伝達歯車133は、装置フレーム110によって回転自在の状態で支持されているピックアップローラー101のローラー軸134における底板部分116から裏面側に突出している軸端部134aに回転可能な状態で同軸に取り付けられている。最終段伝達歯車133とローラー軸134の間には、それらの回転中心軸線回りに予め定めた遊びのある状態でこれらを相互に連結している遅延機構150が組み込まれている。遅延機構150については後述する(図7参照)。
【0054】
ここで、ピックアップローラー101は、ワンウエイクラッチ135を介して、ローラー軸134に連結されている。ワンウエイクラッチ135は、ローラー軸134が予め定めた正回転方向136(ピックアップローラー101により小切手S1が送り出される回転方向)に回転する場合には当該ローラー軸134の回転力をピックアップローラー101に伝達する。換言すると、ローラー軸134とピックアップローラー101が一体回転する。逆に、ローラー軸134が正回転方向とは逆の逆回転方向137に回転する場合にはローラー軸134の回転力を実質的にピックアップローラー101に伝達しない。換言すると、ピックアップローラー101に対してローラー軸134が空回りし、ローラー軸134が回転していない状態では、ピックアップローラー101はローラー軸134に対して正回転方向に空回り可能である。
【0055】
次に、押し付け部材駆動用の歯車列140は、中間伝達歯車132に対して、ワンウエイクラッチ141を介して同軸状態に連結されている小径伝達歯車142を備えている。小径伝達歯車142には、所定の角度を張る扇形の伝達歯車143がかみ合っている。扇形の伝達歯車143は、装置フレーム110の底板部分116の裏面側に回転自在の状態に取り付けられている。扇形の伝達歯車143の歯車軸143aには、その半径方向に延びる旋回板144が固定されており、当該旋回板は144は扇形の伝達歯車143と一体となって歯車軸143aを中心として一定の角度範囲内で揺動する。旋回板144の先端部は、装置フレーム110の底板部分116から裏面側に突出している押し付け部材102の支軸114の下側の軸端部114aに対して、支軸114の中心軸線に直交する方向から係合している。これらの旋回板144と支軸114の軸端部114aの係合状態は、例えば、押し付け部材102の旋回中心軸112に取り付けた不図示の捩りコイルばねのバネ力によって保持されている。また、底板部分116には、軸端部114aの移動範囲を包含する角度を張る一定幅の円弧溝116aが形成されており、旋回板144によって旋回する支軸114は円弧溝116aに沿ってスライドする。
【0056】
なお、ローラー駆動用の歯車列130の最終段伝達歯車133は、装置フレーム110の底板部分116の裏面側に回転自在の状態で取り付けられている大径伝達歯車138にかみ合っている。大径伝達歯車138は送り出しローラー104のローラー軸104aの軸端部に固着した伝達歯車139にかみ合っている。よって、駆動モーター103の駆動力が送り出しローラー104に伝達される。
【0057】
次に、図7は遅延機構150を示す図であり、(a)はその斜視図であり、(b)はその縦断面図である。図6および図7を参照して説明すると、遅延機構150は、ローラー軸134(従動側回転部材)において装置フレーム110の底板部分116から裏面側に突出している軸端部134aに、その直径方向に延びる状態に固定した所定長さの係合ピン151を備えている。係合ピン151は軸端部134aの中心を貫通して延びており、軸端部134aから直径方向の両側に同一長さだけ突出している。
【0058】
また、遅延機構150は、最終段伝達歯車133(駆動側回転部材)の上側を向く端面133a(係合ピン151に対峙する側の端面)に固定した一定の角度を張る一対の扇形突起152、153を備えている。扇形突起152には歯車の端面133aから垂直に起立している第1係合面152aが形成されており、他方の扇形突起153における第1係合面152aの側にも歯車の端面133aから垂直に起立している第2係合面153aが形成されている。これらの第1、第2係合面152a、153aの回転中心軸線134b回りの角度が遊び角度に設定されている。
【0059】
図7(a)から分かるように、第2係合面153aに係合ピン151が係合した状態から最終段伝達歯車133が遊び角度だけ正回転方向136に回転すると、第1係合面152aが係合ピン151に係合して当該係合ピン151を同一の正回転方向136に一体回転させる。逆に、第1係合面152aに係合ピン151が係合した状態から最終段伝達歯車133が遊び角度だけ正回転方向136とは逆の逆回転方向137に回転すると、第2係合面153aが係合ピン151に係合した状態になり、当該係合ピン151を同一の逆回転方向137に一体回転させる。したがって、逆回転方向137への回転終了後には、第1係合面152aと係合ピン151の間が常に一定の遊び角度が形成された状態になる。
【0060】
ここで、本例の遅延機構150には、最終段伝達歯車133の第1係合面152aが係合ピン151に係合する前に、係合ピン151(ピックアップローラー101の側)が駆動側の最終段伝達歯車133と連れ回りしてしまうことを防止するための機構が付設されている。図7(b)を参照して説明すると、ピックアップローラー101のローラー軸134は、装置フレーム110の上板部分117および底板部分116に取り付けた軸受用スリーブ154、155を介して回転自在の状態で支持されている。また、ピックアップローラー101の下側端面の側にはローラー軸134に固定した止め輪156の下面にバネ受け157が取り付けられており、当該バネ受け157と装置フレーム110の底板部分116の上面の間には、ローラー軸134を同心状に取り囲む状態で圧縮コイルバネ158が装着されている。
【0061】
ローラー軸134における底板部分116から裏面側に突出している軸端部134aには、係合ピン151よりも上側の部位に円盤状のフランジ159が圧入されている。ローラー軸134は圧縮コイルバネ158によって底板部分116に対して上方に付勢されており、この付勢力によって、ローラー軸134に圧入固定したフランジ159の上側の端面159aが底板部分116の裏面116bに押し付けられた状態が形成されている。フランジ159の端面159aと底板部分116の裏面116aの間の摩擦抵抗によって、ローラー軸134には、その回転を拘束する所定の大きさの回転拘束力が作用している。
【0062】
この回転拘束力の大きさは、最終段伝達歯車133が正回転方向136に回転を開始して第1係合面152aが係合ピン151に係合するまでの間、係合ピン151(ローラー軸134)が最終段伝達歯車133と連れ回りしてしまうことを阻止できるように設定されている。すなわち、遊び角度だけ回転するまでの間(押し付け部材102が移動を開始してから所定の遅延時間が経過するまでの間)に、ピックアップローラー101の回転が開始することのないようにしてある。この圧縮コイルバネ158(回転拘束部材)を配置することによって、ピックアップローラー101の回転開始時点を常に適切な時点にすることができる。
【0063】
(小切手送り出し装置の動作)
このように構成した小切手送り出し装置100における各部の動作を以下に纏めて説明する。まず、駆動モーター103が小切手S1を送り出す方向に回転を開始すると、これに同期して押し付け部材102が待機位置102Aから移動を開始して小切手S1の押し付け動作を始める。これに対して、ピックアップローラー101の側は、遅延機構150によって回転開始時点が遅延する。すなわち、遅延機構150によって最終段伝達歯車133が予め定めた遊び角度だけ正回転方向136に回転した後に、最終段伝達歯車133がローラー軸134に連結され、この時点からローラー軸134が最終段伝達歯車133と一体となって正回転方向136に回転する。
【0064】
この結果、押し付け部材102の移動開始時点から所定の遅延時間の後に、ピックアップローラー101がワンウエイクラッチ135を介してローラー軸134と一体となって正回転方向136に回転を開始し、小切手S1の送り出し動作が始まる。この時点では、押し付け部材102によって小切手S1は小切手送り出し口4dの側に寄せられている。よって、ピックアップローラー101によって送り出された小切手S1の送り出し方向の先が入口ポケット4の端面4cに突き当たり、小切手S1を小切手送り出し口4dから送り出すことができないという弊害を回避できる。なお、押し付け部材102が移動して小切手S1をピックアップローラー101の側に寄せた状態が形成されると、ワンウエイクラッチ141によって小径伝達歯車142が空転状態になるので、押し付け部材駆動用の歯車列140あるいは押し付け部材102に過剰な力が作用することがなく、押し付け部材102は一定の付勢力で小切手S1を押し付けた状態になる。
【0065】
ピックアップローラー101によって小切手送り出し口4dから送り出された小切手S1は、駆動モーター103と同期して回転を開始する送り出しローラー104とリタードローラー105の間を通って小切手搬送路に送り出され、その上流端に配置されている搬送ローラー対32に引き渡される。この時点では搬送ローラー対32は定速回転状態となっており、送り出された小切手S1が搬送ローラー対32によって下流側に送り出される。
【0066】
駆動モーター103は小切手S1を搬送ローラー対32に引き渡すと駆動を停止し、ピックアップローラー101の回転も止まる。この時点では、送り出される小切手S1の後側部分は押し付け部材102によってピックアップローラー101の側に押し付けられた状態にある。しかしながら、ピックアップローラー101はワンウエイクラッチ135を介してローラー軸134の側に連結されているので、搬送ローラー対32によって引き出される小切手S1に連れ回りする。よって、大きな搬送負荷が搬送ローラー対32に作用して小切手搬送に支障を来すことがない。
【0067】
連続して小切手S1を搬送する場合には、1枚の小切手S1の搬送が終了する毎に、所定のタイミングで駆動モーター103が駆動を開始して次の小切手S1の送り出し動作が行われる。このとき、押し付け部材102によって小切手S1がピックアップローラー101に押し付けられた状態のままであり、また、遅延機構150の第1係合面152aに係合ピン151が係合した状態のままである。したがって、駆動モーター103の回転を開始すると、これに同期してピックアップローラー101が回転を開始して小切手S1の送り出し動作が行われる。したがって、本例の遅延機構150によれば、ピックアップローラー101を不必要に遅延させて回転開始時点を遅らせることがない。よって、連続した小切手の送り出し動作にロスタイムが無く、送り出し動作を効率良く行うことができる。
【0068】
次に、小切手S1の送り出しが終了した後は、駆動モーター103を、小切手S1を送り出す場合の回転方向とは逆方向に回転駆動させる。この場合には、駆動モーター103の回転開始と共に押し付け部材102が付勢力に逆らって待機位置102Aに向けて退避を開始する。これに対して、ローラー駆動用の歯車列130の側では、最終段伝達歯車133が逆回転方向137に回転するので、遅延機構150における第1係合面152aが係合ピン151から離れる方向に回転を開始する。この結果、第1係合面152aが係合ピン151から離れる方向に回転し、第2係合面153aに係合ピン151が係合し、この後は、最終段伝達歯車133とローラー軸134が逆回転方向137に一体となって回転する。押し付け部材102が待機位置102Aに戻った時点で駆動モーター103が停止する。例えば、不図示のセンサーによって押し付け部材102が待機位置102Aに戻ったことが検出されると駆動モーター103が停止する。この時点では、第2係合面153aに係合ピン151が係合しているので、第1係合面152aが係合ピン151に対して遊び角度だけ離れた回転位置に戻った状態が保持される。この結果、次回の小切手送り出し動作の開始時における遊びが確保される(遅延時間が確保される)。
【符号の説明】
【0069】
S1 小切手、P1 小切手搬送路、P11 上流側搬送路、P12 後側搬送路、P13 下流側搬送路、P13a 下流端開口、C カード、X 装置幅方向、Y 装置前後方向、Z 装置上下方向、
1 小切手処理装置、1a 装置筐体、2 下側筐体部、3 上側筐体部、4 入口ポケット、4a 第1側面、4b 第2側面、4c 端面、4d 小切手送り出し口、4e 第3側面、4f 第4側面、4g 小切手送り出し通路、5 回収ポケット、5a 小切手排出口、6 右側筐体部分、7 後側筐体部分、8 左側筐体部分、9 内側筐体部分、11 前側カバー、12 後側カバー、13 レシート発行口、14 操作面、14a 操作スイッチ、14b LED表示部、15 カード挿入路、16 ロール紙収納部、17 オートカッター、17c 駆動ユニット、18 インクカートリッジ装着部、19 インクカートリッジ、20 装置上面部分、21 カードスロット、32,33,34,35,36 搬送ローラー対、32a,33a,34a,35a,36a 駆動ローラー、32b,33b,34b,35b,36b 従動ローラー、37 無端ベルト、40 駆動モーター、41 磁気読取部、41a 磁気スキャナー、41b 押し付けローラー、42 小切手印刷部、42a インクジェットヘッド、42b プラテン、43 光学式読取部、43a,43b 光学スキャナー、60 基板、61 制御部
100 小切手送り出し装置、101 ピックアップローラー、101a 外周面、102 押し付け部材、102A 待機位置、103 駆動モーター、103a モーター軸、104 送り出しローラー、104a ローラー軸、105 リタードローラー、110 装置フレーム、111 送り出し方向、112 旋回中心軸、113 後側旋回板、114 支軸、114a 軸端部、115 前側旋回板、115a 先端、115b 側面、116 底板部分、116a 円弧溝、116b 裏面、117 上板部分、
120 動力伝達機構、
130 ローラー駆動用の歯車列、131 駆動スプロケット、132 中間伝達歯車、133 最終段伝達歯車、133a 端面、134 ローラー軸、134a 軸端部、134b 回転中心軸線、135 ワンウエイクラッチ、136 正回転方向、137 逆回転方向、138 大径伝達歯車、139 伝達歯車、
140 押し付け部材駆動用の歯車列、141 ワンウエイクラッチ、142 小径伝達歯車、143 扇形の伝達歯車、143a 歯車軸、144 旋回板、
150 遅延機構、151 係合ピン、152 扇形突起、152a 第1係合面、153 扇形突起、153a 第2係合面、154 軸受用スリーブ、155 軸受用スリーブ、156 止め輪、157 バネ受け、158 圧縮コイルバネ、159 フランジ、159a 端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状媒体が挿入される媒体挿入部と、
前記媒体挿入部における前記シート状媒体の送り出し側の端面に位置し、当該媒体挿入部の幅よりも狭い幅の媒体送り出し口と、
前記媒体挿入部に挿入された前記シート状媒体を前記媒体送り出し口に送り出すためのピックアップローラーと、
前記ピックアップローラーに前記シート状媒体を押し付けるための押し付け部材と、
駆動モーターと、
前記駆動モーターの駆動力を前記ピックアップローラーおよび前記押し付け部材に伝達する動力伝達機構とを有しており、
前記動力伝達機構は、前記ピックアップローラーの回転開始時点を、前記押し付け部材が当該押し付け部材の待機位置から前記ピックアップローラーに向けて移動を開始する移動開始時点よりも遅延させる遅延機構を備えており、
前記遅延機構は、同一の中心軸線回りに回転する駆動側回転部材および従動側回転部材を備え、前記駆動側回転部材は、前記中心軸線回りに予め定めた角度(以下、「遊び角度」という。)だけ、予め定めた回転方向に回転すると、前記従動側回転部材に係合して当該従動側回転部材を同一回転方向に一体となって回転させることを特徴とするシート状媒体送り出し装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記媒体挿入部は、その幅方向の両側が相互に対峙している第1側面および第2側面によって規定されており、
前記媒体送り出し口は、その幅方向の両側が相互に対峙している第3側面および第4側面によって規定されており、
前記第3側面は前記第1側面に連続して延びており、
前記第4側面は、前記媒体挿入部における前記第2側面の端から前記第1側面の方向に折れ曲がって延びている端面の先端から前記シート状媒体の送り出し方向に延びており、
前記第1側面から前記ピックアップローラーの外周面の一部が露出しており、
前記押し付け部材は、前記ピックアップローラーから前記第2側面の側に後退した前記待機位置から前記第1側面に露出している前記ピックアップローラーの前記外周面の部分に向けて移動可能であり、
前記遅延機構の前記遊び角度は、少なくとも、前記押し付け部材が前記媒体挿入部の幅方向において前記待機位置から前記第4側面の位置まで移動するために必要な前記駆動側回転部材の回転量に対応する角度であることを特徴とするシート状媒体送り出し装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記従動側回転部材は前記ピックアップローラーのローラー軸であり、
前記駆動側回転部材は、前記動力伝達機構における前記駆動モーターの駆動力を前記ローラー軸に伝えるローラー駆動歯車列の最終段伝達歯車であり、
前記最終段伝達歯車は前記ローラー軸に回転可能な状態で取り付けられており、
前記ローラー軸には、その半径方向に延びる係合ピンが取り付けられており、
前記最終段伝達歯車の前記係合ピンに対峙している端面における前記回転中心軸線回りに前記遊び角度だけ離れた位置には、前記係合ピンに係合可能な第1係合面および第2係合面が形成されていることを特徴とするシート状媒体送り出し装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記最終段伝達歯車が回転を開始して前記係合面が前記係合ピンに係合するまでの間、前記係合ピンが前記最終段伝達歯車と連れ回りしない方向に、当該係合ピンが取り付けられている前記ローラー軸に、回転負荷を付与している回転拘束部材を備えていることを特徴とするシート状媒体送り出し装置。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記ピックアップローラーは第1ワンウエイクラッチを介してローラー軸に取り付けられており、
前記第1ワンウエイクラッチは、前記ピックアップローラーを前記シート状媒体の送り出し方向に回転させる回転力を前記ローラー軸から前記ピックアップローラーに伝達するものであり、
前記動力伝達機構は、前記ローラー駆動用の歯車列における前記最終段伝達歯車以外の伝達歯車に、第2ワンウエイクラッチを介して一体回転するように連結されている押し付け部材側伝達歯車を備えており、
前記押し付け部材側伝達歯車を介して前記押し付け部材を移動させるための回転力が当該押し付け部材に伝達されることを特徴とするシート状媒体送り出し装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちのいずれかの項に記載のシート状媒体送り出し装置と、
前記シート状媒体送り出し装置から送り出されたシート状媒体を所定の搬送経路に沿って搬送する媒体搬送機構と、
前記搬送経路を搬送される前記シート状媒体に担持されている情報を読み取る情報読取部とを有していることを特徴とするシート状媒体処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−82519(P2013−82519A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222590(P2011−222590)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】