説明

シート状物およびその製造方法

【課題】本発明は、環境に配慮した製造工程により、立毛を有する優美な外観を有し、さらに良好な耐摩耗性と風合いを有するシート状物を提供するものである。
【解決手段】本発明は、平均単繊維直径0.3〜7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部に水分散型ポリウレタンを含有してなり、当該水分散型ポリウレタンの内部に直径10〜200μmの孔を有することを特徴とするシート状物である。また、繊維質基材にポリウレタン液を付与して得るシート状物の製造方法であって、当該ポリウレタン液が発泡剤を含有する水分散型ポリウレタン液であり、かつ当該ポリウレタン液を構成するポリウレタンの乾式膜の100%モジュラスが3〜8MPaであることを特徴とするシート状物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状物、特に製造工程に有機溶剤を使用しない環境に配慮した皮革様シート状物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主として繊維質基材とポリウレタンからなる皮革様シート状物は、天然皮革にない優れた特徴を有しており、種々の用途に広く利用されている。とりわけ、ポリエステル系繊維質基材を用いた皮革様シート状物は、耐光性に優れているため、衣料や椅子張りおよび自動車内装材用途等にその使用が年々広がってきた。
【0003】
かかる皮革様シート状物を製造するにあたっては、繊維質基材にポリウレタンの有機溶剤溶液を含浸せしめた後、得られた繊維質基材をポリウレタンの非溶媒である水または有機溶剤水溶液中に浸漬してポリウレタンを湿式凝固せしめる工程の組み合わせが、一般的に採用されている。かかるポリウレタンの溶媒である有機溶剤としては、N,N−ジメチルホルムアミド等の水混和性有機溶剤が用いられる。しかしながら、一般的に有機溶剤は、人体や環境への有害性が高いことから、シート状物の製造に際しては有機溶剤を使用しない手法が強く求められている。
【0004】
その具体的な解決手段として、例えば、従来の有機溶剤タイプのポリウレタンに代えて、水中にポリウレタンを分散させた水分散型ポリウレタンを用いる方法が検討されている。しかし、繊維質基材に水分散型ポリウレタンを含浸、付与したシート状物は、風合いが硬くなりやすいという課題がある。その主な理由は、マイグレーション現象の発生による繊維質基材中のポリウレタンの偏在によるものと、ポリウレタンが繊維質基材の繊維の交絡部分を強く把持することによるものの2点が挙げられ、それぞれについて解消検討がなされている。
【0005】
前者の理由のマイグレーション抑制については、水分散型ポリウレタンに感熱凝固剤として無機塩を添加し、加熱によって水分散型ポリウレタンの流動性を消失させる手法が提案されている(特許文献1参照。)。しかしながら、特許文献1には、後者の理由、すなわちポリウレタンが繊維質基材の繊維の交絡部分を強く把持することによる理由に対する検討については開示されていないため、シート状物の風合いはポリウレタン自体の柔軟性の影響を強く受けることとなる。このため、シート状物に柔軟な風合いを発現させるために、結晶性の低い柔軟なポリウレタンを適用することが考えられる。しかしながら、その場合は耐摩耗性が悪化し、さらに研削して起毛処理する際に使用するサンドペーパー等が容易に目詰まりし、良好な立毛品位を得ることは困難となるものである。
【0006】
一方、後者の理由のポリウレタンの繊維交絡点の把持抑制については、水分散型ポリウレタンに会合型増粘剤を添加して繊維質基材内でのポリウレタンの構造を多孔質構造とすることが提案されている(特許文献2参照。)。この提案では、ポリウレタンを多孔質とすることにより繊維とポリウレタンとの接着面積が少なくなり、繊維の交絡点の把持力は弱まる。しかしながら、会合型増粘剤を水分散型ポリウレタンに添加すると、ポリウレタンを含浸、付与したシート状物は会合型増粘剤に起因するベトツキが発生するため、会合型増粘剤の洗浄工程が必要となり生産性は低いものとなる。さらに、会合型増粘剤は水分散型ポリウレタンに溶解しているものであり、ポリウレタン構造の孔は会合型増粘剤の存在部分で発生することから、孔径を大きくすることはできず、明確なシート状物の風合い柔軟化効果は得られない。
【0007】
また、ポリウレタンの多孔質構造を得る手法としては、水分散型ポリウレタンに整泡剤を添加して機械的に発泡し、それをコーティングするコーティングシートが提案されている(特許文献3参照。)。この提案では、機械的に発泡した水分散型ポリウレタンを繊維質基材表面にコーティングすることにより多孔質構造のポリウレタン膜を得ることができるが、発泡した水分散型ポリウレタンを繊維質基材に含浸、付与すると、含浸時に泡が消失するため、繊維質基材内部でポリウレタンを多孔質構造とすることはできない。
【0008】
また別に、水分散型ポリウレタンに熱膨張性カプセルを添加して繊維質基材上にコーティングする銀付調人工皮革が提案されている(特許文献4参照。)。この提案では、熱膨張性カプセルをポリウレタン内で膨張させることにより多孔質構造とするものであり、繊維質基材に含浸、付与することにより繊維質基材内部でポリウレタンを多孔質構造とすることができるが、添加した熱膨張性カプセルに起因した熱やけによる着色や、熱膨張性カプセル自体が硬いことによるシート状物の風合い硬化が発生する。
【0009】
すなわち、シート状物の製造に際して有機溶剤を使用しない工程での柔軟なシート状物は得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3166054号公報
【特許文献2】特開2000−297211号公報
【特許文献3】特開2002−69858号公報
【特許文献4】特開2004−339614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、環境に配慮した製造工程により、立毛を有する優美な外観と良好な耐摩耗性および風合いを有するシート状物、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明は、平均単繊維直径0.3〜7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部に水分散型ポリウレタンを含有してなり、当該水分散型ポリウレタンの内部に直径10〜200μmの孔を有することを特徴とするシート状物である。
【0013】
また本発明は、繊維質基材にポリウレタン液を付与して得るシート状物の製造方法であって、該ポリウレタン液が発泡剤を含有する水分散型ポリウレタン液であり、かつ該ポリウレタン液を構成するポリウレタンの乾式膜の100%モジュラスが3〜8MPaであることを特徴とするシート状物の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、環境に配慮した製造工程により、立毛を有する優美な外観を有し、さらに摩耗に対して表面が削れることによる減量をしにくい良好な耐摩耗性と触感が柔軟である良好な風合いを有するシート状物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のシート状物は、繊維質基材の内部に水分散型ポリウレタンを含有してなる。
【0016】
繊維質基材を構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル、6−ナイロン、66−ナイロンなどのポリアミド、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、および熱可塑性セルロースなどの溶融紡糸可能な熱可塑性樹脂からなる繊維を用いることができる。中でも、強度、寸法安定性および耐光性の点から、ポリエステル繊維を用いることが好ましい。また、繊維質基材は、異なる素材の繊維が混合して構成されていてもよい。
【0017】
繊維の断面形状としては、丸断面でよいが、楕円、扁平、三角などの多角形、扇形および十字型などの異形断面のものを採用してもよい。
【0018】
繊維質基材を構成する繊維の平均単繊維直径は、0.3〜7μmとする。平均単繊維直径を7μm以下、より好ましくは6μm以下、更に好ましくは5μm以下とすることで、優れた柔軟性や立毛品位のシート状物を得ることができる。一方、平均単繊維直径を0.3μm以上、より好ましくは0.7μm以上、更に好ましくは1μm以上とすることで、染色後の発色性やサンドペーパーなどによる研削など立毛処理時の束状繊維の分散性、さばけ易さに優れる。
【0019】
極細繊維からなる繊維質基材の形態としては、織物、編物および不織布等を採用することができる。中でも、表面起毛処理した際のシート状物の表面品位が良好であることから、不織布が好ましい。
【0020】
不織布としては、短繊維不織布および長繊維不織布のいずれでもよいが、風合いや品位の点では短繊維不織布が好ましく用いられる。
【0021】
短繊維不織布における短繊維の繊維長としては、25〜90mmが好ましい。25mm以上とすることで、絡合により耐摩耗性に優れたシート状物を得ることができる。また、繊維長を90mm以下とすることで、より風合いや品位に優れたシート状物を得ることができる。
【0022】
極細繊維からなる繊維質基材が不織布の場合、その不織布は繊維の束(繊維束)が絡合してなる構造を有するものであることが好ましい態様である。繊維が束の状態で絡合していることによって、シート状物の強度が向上する。かかる態様の不織布は、極細繊維発現型繊維同士をあらかじめ絡合した後に極細繊維を発現させることによって、得ることができる。
【0023】
極細繊維あるいはその繊維束が不織布を構成する場合、その内部に強度を向上させるなどの目的で、織物や編物を挿入してもよい。かかる織物や編物を構成する繊維の平均単繊維直径としては、0.3〜10μm程度が好ましい。
【0024】
本発明で用いられるポリウレタンとしては、ポリマージオールと有機ジイソシアネートと鎖伸長剤との反応により得られるものが好ましい。
【0025】
ポリマージオールとしては例えば、ポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリエーテル系、シリコーン系およびフッ素系のジオールを採用することができ、これらを組み合わせた共重合体を用いてもよい。耐加水分解性の観点からは、ポリカーボネート系およびポリエーテル系が好ましい。また、耐光性と耐熱性の観点からは、ポリカーボネート系およびポリエステル系が好ましい。耐加水分解性と耐熱性と耐光性のバランスの観点からは、ポリカーボネート系とポリエステル系がより好ましく、特に好ましくはポリカーボネート系である。
【0026】
ポリカーボネート系ジオールは、アルキレングリコールと炭酸エステルのエステル交換反応、あるいはホスゲンまたはクロル蟻酸エステルとアルキレングリコールとの反応などによって製造することができる。
【0027】
アルキレングリコールとしては例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの直鎖アルキレングリコールや、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオールなどの分岐アルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオールなどの脂環族ジオール、ビスフェノールAなどの芳香族ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、およびペンタエリスリトールなどが挙げられる。それぞれ単独のアルキレングリコールから得られるポリカーボネート系ジオールでも、2種類以上のアルキレングリコールから得られる共重合ポリカーボネート系ジオールのいずれでも良い。
【0028】
ポリエステル系ジオールとしては、各種低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルジオールを挙げることができる。
【0029】
低分子量ポリオールとしては例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、およびシクロヘキサン−1,4−ジメタノールから選ばれる一種または二種以上を使用することができる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させた付加物も使用可能である。
【0030】
また、多塩基酸としては例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびヘキサヒドロイソフタル酸から選ばれる一種または二種以上が挙げられる。
【0031】
ポリエーテル系ジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、およびそれらを組み合わせた共重合ジオールを挙げることができる。
【0032】
ポリマージオールの数平均分子量としては、500〜4000が好ましい。数平均分子量を500以上、より好ましくは1500以上とすることで、風合いが硬くなるのを防ぐことができる。また、数平均分子量を4000以下、より好ましくは3000以下とすることで、ポリウレタンとしての強度を維持することができる。
【0033】
有機ジイソシアネートとしては例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネートや、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネートが挙げられ、またこれらを組み合わせて用いてもよい。中でも、耐光性の観点から、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートおよびイソフォロンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネートが好ましく用いられる。
【0034】
鎖伸長剤としては、エチレンジアミン、メチレンビスアニリン等のアミン系の鎖伸長剤、およびエチレングリコール等のジオール系の鎖伸長剤を用いることができる。また、ポリイソシアネートと水を反応させて得られるポリアミンを鎖伸長剤として用いることもできる。
【0035】
ポリウレタンには、耐水性、耐摩耗性および耐加水分解性等を向上する目的で架橋剤を併用してもよい。架橋剤は、ポリウレタンに対し、第3成分として添加する外部架橋剤でもよく、またポリウレタン分子構造内に予め架橋構造となる反応点を導入する内部架橋剤でもよい。ポリウレタン分子構造内により均一に架橋点を形成でき、柔軟性の減少を軽減できる点から、内部架橋剤を用いることが好ましい。
【0036】
架橋剤としては、イソシアネート基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基、メラミン樹脂、およびシラノール基などを有する化合物を用いることができる。ただし、架橋が過剰に進むとポリウレタンが硬化してシート状物の風合いも硬くなる傾向にあるため、反応性と柔軟性とのバランスの点ではシラノール基を有するものが好ましく用いられる。シラノール基を内部架橋剤としてポリウレタン分子構造内に導入した場合、不織布の内部空間に含浸・凝固させたポリウレタンはシロキサン結合による架橋構造を有することになり、シート状物の風合いを維持しながらポリウレタンの耐加水分解性などの耐久性を飛躍的に向上させることができる。
【0037】
また、本発明で用いられるポリウレタンは、分子構造内に親水性基を有していることが好ましい。分子構造内に親水性基を有することで、水分散型ポリウレタンとしての分散・安定性を向上させることができる。
【0038】
親水性基としては例えば、4級アミン塩等のカチオン系、スルホン酸塩やカルボン酸塩等のアニオン系、ポリエチレングリコール等のノニオン系、およびカチオン系とノニオン系の組み合わせ、およびアニオン系とノニオン系の組み合わせのいずれの親水性基も採用することができる。
【0039】
なかでも、光による黄変や中和剤による弊害の懸念のないノニオン系の親水性基が特に好ましい。
【0040】
すなわち、アニオン系の親水性基の場合は中和剤が必要となるが、例えば、中和剤がアンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリメチルアミンおよびジメチルエタノールアミン等の第3級アミンである場合は、製膜・乾燥時の熱によってアミンが発生・揮発し、系外へ放出される。そのため、大気放出や作業環境の悪化を抑制するために、揮発するアミンを回収する装置の導入が必須となる。また、アミンは加熱によって揮発せずに最終製品であるシート状物中に残留した場合、製品の焼却時等に環境へ排出されることも考えられる。これに対し、ノニオン系の親水性基の場合は、中和剤を使用しないためアミン回収装置を導入する必要はなく、アミンのシート状物中への残留の心配もない。また、中和剤が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属、またはアルカリ土類金属の水酸化物等である場合、ポリウレタン部分が水に濡れるとアルカリ性を示すこととなるが、ノニオン系の親水性基の場合は中和剤を使用しないため、ポリウレタンの加水分解による劣化を心配する必要もない。
【0041】
水分散型ポリウレタンは、各種の添加剤、例えば、カーボンブラックなどの顔料、リン系、ハロゲン系、シリコーン系および無機系などの難燃剤、フェノール系、イオウ系およびリン系などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系およびオキザリックアシッドアニリド系などの紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系やベンゾエート系などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、帯電防止剤、界面活性剤、柔軟剤、撥水剤、凝固調整剤、染料、防腐剤、抗菌剤、消臭剤、セルロース粒子等の充填剤、およびシリカや酸化チタン等の無機粒子などを含有していてもよい。
【0042】
本発明のシート状物に対するポリウレタンの比率としては、10〜80質量%が好ましい。ポリウレタンの比率を10質量%以上、より好ましくは15質量%以上とすることで、シート強度を得るとともに繊維の脱落を防ぐことができる。また、ポリウレタンの比率を80質量%以下、より好ましくは70質量%以下とすることで、風合いが硬くなるのを防ぎ、良好な立毛品位を得ることが出来る。
【0043】
本発明のシート状物は、水分散型ポリウレタンの内部に直径10〜200μmの孔を含むことが重要である。ポリウレタンの構造を多孔構造とすることにより、ポリウレタンを分子構造としてではなく構造体として柔軟にすることができ、それによりシート状物の風合いは柔軟になる。また、繊維質基材の内部において、ポリウレタンが繊維を把持する力は無孔構造よりも多孔構造の方が弱くなることから、サンドペーパー等による起毛工程において良好な研削性を示し、立毛を有する優美な外観を得ることができる。孔の直径は小さすぎるとシート状物の風合いを柔軟化できず、大きすぎるとシート状物の耐摩耗性が悪化することから、好ましくは20〜180μmであり、より好ましくは30〜160μmである。また、多孔構造は、連通孔でも独立気泡でもどちらでもよい。
【0044】
本発明のシート状物の密度としては0.2〜0.7g/cmが好ましい。0.2g/cm以上、より好ましくは0.3g/cm以上とすることで、表面外観が緻密となり高級な品位を発現させることができる。一方、0.7g/cm以下、より好ましくは0.6g/cm以下とすることで、シート状物の風合いが硬くなるのを防ぐことができる。
【0045】
次に、本発明のシート状物の製造方法について述べる。本発明のシート状物の製造方法では、繊維質基材に特定のポリウレタン液を付与する。
【0046】
繊維質基材の極細繊維を形成させる手段としては、極細繊維発現型繊維を用いることが好ましい。極細繊維発現型繊維を用いることにより、繊維束が絡合した形態を安定して得ることができる。
【0047】
極細繊維発現型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分・島成分とし、海成分を溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型繊維や、2成分の熱可塑性樹脂を繊維断面に放射状または多層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維などを採用することができる。なかでも、海島型繊維は、海成分を除去することによって島成分間、すなわち極細繊維間に適度な空隙を付与することができるので、シート状物の柔軟性や風合いの観点からも好ましい。
【0048】
海島型繊維には、海島型複合用口金を用い、海成分と島成分の2成分を相互配列して紡糸する海島型複合繊維や、海成分と島成分の2成分を混合して紡糸する混合紡糸繊維などがある。均一な繊度の極細繊維が得られる点、また十分な長さの極細繊維が得られシート状物の強度にも資する点からは、海島型複合繊維が好ましい。
【0049】
海島型繊維の海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステルおよびポリ乳酸などを用いることができる。なかでも、有機溶剤を使用せずに分解可能なアルカリ分解性のナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステルやポリ乳酸が好ましい。
【0050】
海島型繊維を用いた場合の脱海処理は、繊維質基材へのポリウレタンの付与前に行ってもよいし、付与後に行ってもよい。ポリウレタン付与前に脱海処理を行うと、極細繊維に直接ポリウレタンが密着する構造となって極細繊維を強く把持できることから、シート状物の耐摩耗性が良好となる。一方、ポリウレタン付与後に脱海処理を行うと、ポリウレタンと極細繊維間に、脱海された海成分に起因する空隙が生成し、極細繊維を直接ポリウレタンが把持しない構造となることから、シート状物の風合いが柔軟となる。
【0051】
脱海処理は、溶剤中に海島型繊維を浸漬し、窄液することによって行うことができる。海成分を溶解する溶剤としては、海成分がポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリスチレンの場合にはトルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤を用い、海成分が共重合ポリエステルやポリ乳酸の場合には水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。
【0052】
不織布において繊維あるいは繊維束を絡合させる方法としては、ニードルパンチやウォータージェットパンチを採用することができる。
【0053】
本発明のシート状物の製造方法において繊維質基材に付与するポリウレタン液を構成するポリウレタンとしては、その乾式膜の100%モジュラスが3MPa以上8MPa以下であるものを採用する。100%モジュラスはポリウレタンの硬さを表す指標であり、本発明では100%モジュラスがこの範囲内のポリウレタンを用いることで、ポリウレタン付きシート状物での繊維の拘束力が強く、良好な耐摩耗性を発現することができる。また、係るポリウレタンを用い、ポリウレタン付きシート状物内でのポリウレタンの構造を多孔構造とすることにより、サンドペーパー等による起毛工程において良好な研削性を示し、立毛を有する優美な外観を得ることができる。ポリウレタンの乾式膜の100%モジュラスは、好ましくは3MPa以上6MPa以下であり、この範囲であることでよりポリウレタン付きシート状物の風合いと耐摩耗性はより良好となる。なお、100%モジュラスは、ポリウレタン分子構造内におけるイソシアネートや鎖伸長剤に起因するハードセグメント構造の割合や、ポリオール、イソシアネート等の種類により調整することができる。
【0054】
本発明で用いるポリウレタン液としては、水中に分散・安定化された水分散型ポリウレタン液を用いる。水分散型ポリウレタンは、界面活性剤を用いて強制的に分散・安定化させる強制乳化型ポリウレタンと、ポリウレタン分子構造中に親水性構造を有し、界面活性剤が存在しなくても水中に分散・安定化する自己乳化型ポリウレタンに分類される。本発明ではいずれを用いてもよいが、界面活性剤を含有しない点では自己乳化型ポリウレタンが好ましく用いられる。界面活性剤を含有する強制乳化型ポリウレタンを用いた場合、界面活性剤はシート状物の表面のベトツキ等が発生する原因となり、洗浄工程が必要となって加工工程が増加してコストアップに繋がる。また、界面活性剤の存在により、皮膜化したポリウレタン膜の耐水性が低下するため、ポリウレタンを付与したシート状物の染色において、ポリウレタンの染色液への脱落が発生する傾向にある。
【0055】
水分散型ポリウレタンの濃度(水分散型ポリウレタン液に対するポリウレタンの含有量)としては、水分散型ポリウレタン液の貯蔵安定性の観点から、10質量%以上50質量%以下が好ましい。
【0056】
またポリウレタン液は、貯蔵安定性や製膜性向上のために、水溶性有機溶剤をポリウレタン液に対して40質量%以下含有していてもよいが、製膜環境の保全等の点から、有機溶剤の含有量は1質量%以下とすることが好ましい。
【0057】
また、本発明で用いる水分散型ポリウレタン液としては、感熱凝固性を有するものが好ましい。感熱凝固性を有する水分散型ポリウレタン液を用いることにより、繊維質基材の厚み方向に均一にポリウレタンを付与することができる。感熱凝固性とは、ポリウレタン液を加熱した際に、ある温度(感熱凝固温度)に達するとポリウレタン液の流動性が減少し、凝固する性質のことを言う。ポリウレタン付きシート状物の製造においてはポリウレタン液を繊維質基材に付与後、それを乾熱凝固、湿熱凝固、湿式凝固、あるいはこれらの組み合わせにより凝固させ、乾燥することにより繊維質基材にポリウレタンを付与する。感熱凝固性を示さない水分散型ポリウレタン液を凝固させる方法としては乾式凝固が工業的な生産において現実的であるが、その場合、繊維質基材の表層にポリウレタンが集中するマイグレーション現象が発生し、ポリウレタン付きシート状物の風合いは硬化する傾向にある。
【0058】
水分散型ポリウレタン液の感熱凝固温度としては、40℃以上90℃以下が好ましい。感熱凝固温度を40℃以上とすることで、ポリウレタン液の貯蔵時の安定性が良好となり、操業時のマシンへのポリウレタンの付着等を抑制することができる。また、感熱凝固温度を90℃以下とすることで、繊維質基材中でのポリウレタンのマイグレーション現象を抑制することができる。
【0059】
感熱凝固温度を前記のとおりとするために、適宜感熱凝固剤を添加してもよい。感熱凝固剤としては例えば、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム等の無機塩や過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル、および過酸化ベンゾイル等のラジカル反応開始剤が挙げられる。
【0060】
本発明で用いる水分散型ポリウレタン液は、発泡剤を含有することが好ましい。発泡剤とは、加熱すると分解して窒素ガスや炭酸ガス等を発生する添加剤のことをいう。発泡剤を含有するポリウレタン液を用いることにより、繊維質基材にポリウレタン液を付与し、加熱した際に発泡し、ポリウレタンは多孔構造となる。前述のとおり、本発明で用いられるポリウレタンは、乾式膜の100%モジュラスが3MPa以上8MPa以下である硬いポリウレタンであるが、ポリウレタンを多孔構造とすることにより、ポリウレタン付きシート状物の風合いは柔軟となる。これは、ポリウレタン付きシート状物内の繊維とポリウレタンとの接着面積が少なくなることで、繊維の拘束力が弱くなるためである。
【0061】
また、ポリウレタン付きシート状物内で、硬いポリウレタンを多孔構造とすることにより、起毛工程で立毛を有する優美な外観を得ることができる。優美な立毛形成は、起毛工程で選択的に繊維よりポリウレタンを多く研削できることが有利である。ここで、ポリウレタンは硬い方が研削しやすいが、硬いポリウレタンを用いた場合、ポリウレタン付きシート状物の風合いは硬くなり、実用に耐えないものとなる。したがって、硬いポリウレタンを用い、かつ多孔構造とすることにより、ポリウレタンの研削性は良好でありながらポリウレタン付きシート状物の風合いは柔軟としたものである。
【0062】
また、発泡後に発泡剤自体は低分子化合物の残さとして残るのみであり、熱膨張カプセルを用いた場合と比べて熱やけによる着色やシート状物の風合いの硬化はない。
【0063】
ポリウレタン液に添加する発泡剤としては例えば、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(例えば、三協化成製“セルマイクA”)、アゾジカルボンアミド(例えば、三協化成製“セルマイクCAP”)、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(例えば、三協化成製“セルマイクS”)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(例えば、永和化成製“セルラーGX”)等の有機系発泡剤および炭酸水素ナトリウム(例えば、三協化成製“セルマイク266”)等の無機系発泡剤を用いることができる。
【0064】
ポリウレタン液への発泡剤の添加量としては、ポリウレタン固形分対比で0.5〜20質量%が好ましい。0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上とすることで、発泡によるシート状物の風合いは柔軟化の効果を効果的に得ることができる。一方、20質量%以下、より好ましくは15質量%以下とすることで、過度の発泡によるシート状物の耐摩耗性の低下を抑えることができる。
【0065】
ポリウレタン液の好ましい態様として前述のように感熱凝固性を示す場合は、発泡剤が熱分解してガスを発生する発泡温度は、ポリウレタンの感熱凝固温度よりも高いことが好ましい。そうすることで、発泡によるガスがポリウレタンから逃げず、多孔構造を安定して形成させることができる。
【0066】
発泡剤の発泡温度としては100℃以上200℃以下が好ましい。100℃以上、より好ましくは120℃以上とすることで、ポリウレタンの凝固の開始後に発泡させるなど、発泡のタイミングを調整しやすく、効果的に多孔構造を形成させることができる。一方、200℃以下、より好ましくは180℃以下とすることで、発泡させるための加熱によりポリウレタンが熱分解するのを防ぐことができる。
【0067】
本発明で用る水分散型ポリウレタン液の粘度は、25℃の測定条件において1〜900mPa・sであることが好ましい。900mPa・s以下、より好ましくは500mPa・s以下とすることで、ポリウレタン液を繊維質基材内部にまで浸透させることができる。一方、1mPa・s以上とすることで、ポリウレタンを効率良く凝固させることができる。
【0068】
本発明で用いる発泡剤を含有するポリウレタン液は、乾式膜の膜密度が0.2g/cm以上0.6g/cm以下であることが好ましい。0.6g/cm以下、より好ましくは0.5g/cm以下とすることで、良好な風合いを効果的に得ることができる。一方、0.2g/cm以上、より好ましくは0.3g/cm以上とすることで、耐摩耗性を維持することができる。
【0069】
ポリウレタン液を繊維質基材に含浸、塗布等し、乾熱凝固、湿熱凝固、湿式凝固、あるいはこれらの組み合わせによりポリウレタンを凝固させることができる。
【0070】
湿熱凝固の温度は、ポリウレタンの感熱凝固温度以上とし、40〜200℃が好ましい。湿熱凝固の温度を40℃以上、より好ましくは80℃以上とすることで、ポリウレタンの凝固までの時間を短くしてマイグレーション現象をより抑制することができる。一方、湿熱凝固の温度を200℃以下、より好ましくは160℃以下とすることで、ポリウレタンの熱劣化を防ぐことができる。
【0071】
湿式凝固の温度は、ポリウレタンの感熱凝固温度以上とし、40〜100℃が好ましい。熱水中での湿式凝固の温度を40℃以上、より好ましくは80℃以上とすることで、ポリウレタンの凝固までの時間を短くしてマイグレーション現象をより抑制することができる。
【0072】
乾式凝固温度および乾燥温度は、80〜180℃が好ましい。乾式凝固温度および乾燥温度を80℃以上、より好ましくは90℃以上とすることで、生産性に優れる。一方、乾式凝固温度および乾燥温度を180℃以下、より好ましくは160℃以下とすることで、ポリウレタンの熱劣化を防ぐことができる。
【0073】
発泡剤の発泡処理は、ポリウレタンを凝固させる工程で行ってもよく、乾燥工程で行ってもよく、また乾燥後にさらに高い温度で熱処理を行う工程を設けて行ってもよい。
【0074】
ポリウレタンの付与後、ポリウレタン付与シート状物をシート厚み方向に半裁ないしは数枚に分割すると、生産効率に優れ好ましい。
【0075】
後述する起毛処理の前に、ポリウレタン付与シート状物にシリコーンエマルジョンなどの滑剤を付与してもよい。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与することは、研削によってシート状物から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくする上で好ましい。
【0076】
シート状物の表面に立毛を形成するために、起毛処理を行ってもよい。起毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて研削する方法などにより施すことができる。
【0077】
シート状物は、染色してもよい。染色方法としては、シート状物を染色すると同時に揉み効果を与えてシート状物を柔軟化することができることから、液流染色機を用いることが好ましい。
【0078】
染色温度は繊維の種類にもよるが、80〜150℃が好ましい。80℃以上、より好ましくは110℃以上とすることで、繊維への染着を効率良く行わせることができる。一方、150℃以下、より好ましくは130℃以下とすることで、ポリウレタンの劣化を防ぐことができる。
【0079】
染料は、繊維質基材を構成する繊維の種類にあわせて選択すればよく、例えば、ポリエステル系繊維であれば分散染料を用い、ポリアミド系繊維であれば酸性染料や含金染料を用い、更にそれらの組み合わせを用いることができる。分散染料で染色した場合は、染色後に還元洗浄を行ってもよい。
【0080】
また、染色時に染色助剤を使用することも好ましい。染色助剤を用いることにより、染色の均一性や再現性を向上させることができる。また、染色と同浴または染色後に、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤および抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
【0081】
本発明により得られるシート状物は、家具、椅子および壁材や、自動車、電車および航空機などの車輛室内における座席、天井および内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する内装材、シャツ、ジャケット、カジュアルシューズ、スポーツシューズ、紳士靴および婦人靴等の靴のアッパー、トリム等、鞄、ベルト、財布等、およびそれらの一部に使用した衣料用資材、ワイピングクロス、研磨布およびCDカーテン等の工業用資材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明のシート状物、およびその製造方法を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0083】
[評価方法]
(1)平均単繊維直径
平均単繊維直径は、繊維質基材またはシート状物表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を倍率2000倍で撮影し、繊維をランダムに100本選び、単繊維直径を測定して平均値を計算することで算出した。
【0084】
なお、繊維質基材またはシート状物を構成する極細繊維が異形断面の場合は、異形断面の外周円直径を単繊維直径として算出する。また、円形断面と異形断面が混合している場合、単繊維直径が大きく異なるものが混合している場合等は、それぞれの存在本数比率に応じたサンプリング数を計100本となるように選び算出する。ただし、極細繊維あるいはその繊維束からなる不織布の他に補強用の織物や編物が挿入されているような場合には、当該補強用の織編物の繊維は、極細繊維の平均単繊維直径の測定においてサンプリング対象からは除外する。
【0085】
(2)ポリウレタン内部の孔の直径
シート状物の内部の断面をランダムに10箇所選び、走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率300倍で観察して、画像処理ソフト「ウィンルーフ」を用いて画像処理をおこない、ポリウレタンの孔を黒になるように二値化して、各孔の面積を真円の面積と見たときの直径を算出し、その平均値を算出した。なお、連通孔の場合は連通部分の面積を真円の面積と見たときの直径を算出し、その平均値を算出した。
【0086】
(3)ポリウレタン乾式膜の100%モジュラス
発泡剤を含まない20質量%ポリウレタン水分散液を5cm×10cm×1cmのポリエチレン製トレーに入れ、8時間室温で風乾後、120℃の温度の熱風乾燥機で2時間熱処理して厚さ1mmのポリウレタン乾式膜を得た。このポリウレタン乾式膜について、引張試験機JIS−L1096−8.12.1(1999)記載のA法(ストリップ法)に従い、100%伸長時の引張強さを100%モジュラスとして測定した。
【0087】
(4)ポリウレタン液の乾式膜の膜密度
発泡剤を含む20質量%ポリウレタン水分散液を5cm×10cm×1cmのポリエチレン製トレーに入れ、8時間室温で風乾した。その後、発泡剤の発泡温度より10℃高い温度に設定した熱風乾燥機で2時間熱処理してポリウレタン乾式膜を得た。得られたポリウレタン乾式膜の質量を長さ、幅、膜厚で除してポリウレタン乾式膜の膜密度を算出し、5つの膜サンプルの平均値を膜密度とした。
【0088】
(5)ポリウレタン液の感熱凝固温度
ポリウレタン液20gを内径12mmの試験管に入れ、温度計を先端が液面よりも下になるように差し込んだ後、試験管を封止し、95℃の温度の温水浴にポリウレタン液の液面が温水浴の液面よりも下になるように浸漬した。温度計により試験管内の温度の上昇を確認しつつ、適宜1回あたり5秒以内の時間、試験管を引き上げてポリウレタン液の液面の流動性の有無を確認できる程度に揺すり、ポリウレタン液の液面が流動性を失った温度を感熱凝固温度とした。この測定をポリウレタン液1種につき3回ずつ行い、平均値を算出した。
【0089】
(6)ポリウレタン液の粘度
ポリウレタン液を用い、液温度25℃にて、JIS K7117−1(1999)に従い、測定した。
【0090】
(7)風合い
JIS L1096−8.19.1(1999)記載のA法(45°カンチレバー法)に基づき、タテ方向とヨコ方向へそれぞれ2×15cmの試験片を5枚作成し45℃の温度の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、5枚の平均値を求めた。なお、風合いは50mm以下を良好とした。
【0091】
(8)耐摩耗性評価
ナイロン6からなる直径0.4mmのナイロン繊維を繊維の長手方向に垂直に長さ11mmに切ったものを100本そろえて束とし、この束を直径110mmの円内に6重の同心円状に97個(中心に1個、直径17mmの円に6個、直径37mmの円に13個、直径55mmの円に19個、直径74mmの円に26個、直径90mmの円に32個)配置した円形ブラシ(ナイロン糸9700本)を用い、荷重8ポンド(約3629g)、回転速度65rpm、回転回数50回の条件で、シート状物の円形サンプル(直径45mm)の表面を摩耗せしめ、その前後のサンプルの質量変化を測定し、5サンプルの平均値を摩耗減量とした。なお、耐摩耗性は40mg以下を良好とした。
【0092】
(9)外観品位
シート状物の外観品位は、健康状態の良好な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、目視と官能評価にて下記のように5段階評価し、最も多かった評価を外観品位とした。なお、外観品位は3級〜5級を良好とした。
5級:均一な繊維の立毛があり、繊維の分散状態は良好で、外観は良好である。
4級:5級と3級の間の評価である。
3級:繊維の分散状態はやや良くない部分があるが、繊維の立毛はあり、外観はまずまず良好である。
2級:3級と1級の間の評価である。
1級:全体的に繊維の分散状態は非常に悪く、外観は不良である。
【0093】
[実施例1]
(繊維質基材用不織布)
海成分として5−スルホイソフタル酸ナトリウムを8mol%共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、島成分としてポリエチレンテレフタレートを用い、海成分45質量%、島成分55質量%の複合比率にて、島数36島/1フィラメント、平均単繊維直径17μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を繊維長51mmにカットしてステープルとし、カードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により、不織布とした。この不織布を98℃の温度の湯中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間、乾燥させ、繊維質基材用不織布とした。
【0094】
(ポリウレタン液)
ポリオールにポリヘキサメチレンカーボネートを適用し、イソシアネートにジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを適用したポリオキシエチレン鎖含有ポリカーボネート系自己乳化型ポリウレタン(ポリウレタン1)液の固形分100質量部に対して、感熱凝固剤として過硫酸アンモニウム(APS)2質量部を、発泡剤として炭酸水素ナトリウム(三協化成製“セルマイク266” 発泡温度140℃)5質量部を加え、水によって全体を固形分10質量%に調製し、水分散型のポリウレタン液を得た。
【0095】
(ポリウレタンの付与)
上記の繊維質基材用不織布に上記のポリウレタン液を含浸させ、100℃の温度の湿熱雰囲気下で5分間処理後、乾燥温度120℃の温度で5分間熱風乾燥させ、さらに150℃の温度で2分間乾熱処理を行うことにより、不織布の島成分質量に対するポリウレタン質量が30質量%となるようにポリウレタンを付与したシートを得た。
【0096】
(脱海・起毛・染色・還元洗浄)
上記のポリウレタンを付与したシートを、95℃に加熱した濃度10g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分処理を行い、海島型繊維の海成分を除去した脱海シートを得た。脱海シート表面の平均単繊維直径は、2μmであった。そして、脱海シート表面を240メッシュのエンドレスサンドペーパーを用いた研削によって起毛処理した後、サーキュラー染色機を用いて分散染料により染色し還元洗浄を行い、シート状物を得た。
【0097】
得られたシート状物の外観品位、風合いおよび耐摩耗性は良好であった。
【0098】
[実施例2]
(繊維質基材用不織布)
実施例1で用いたものと同様の繊維質基材用不織布を用いた。
【0099】
(ポリウレタン液)
発泡剤の添加量を3質量部としたこと以外は実施例1と同様に調製し、水分散型のポリウレタン液を得た。
【0100】
(ポリウレタンの付与)
上記の繊維質基材用不織布に上記のポリウレタン液を含浸させ、実施例1と同様にしてポリウレタンを付与したシートを得た。
【0101】
(脱海・起毛・染色・還元洗浄)
上記のポリウレタンを付与したシートに対して、実施例1と同様にして脱海・起毛・染色・還元洗浄処理を行い、シート状物を得た。
【0102】
得られたシート状物の外観品位、風合いおよび耐摩耗性は良好であった。
【0103】
[実施例3]
(繊維質基材用不織布)
実施例1で用いたものと同様の繊維質基材用不織布を用いた。
【0104】
(ポリウレタン液)
ポリオールにポリヘキサメチレンカーボネートを適用し、イソシアネートにジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを適用した、実施例1のポリウレタン1よりハードセグメント量を減少させた組成によるポリオキシエチレン鎖含有ポリカーボネート系自己乳化型ポリウレタン(ポリウレタン2)液の固形分100質量部に対して、感熱凝固剤として過硫酸アンモニウム(APS)2質量部、発泡剤として炭酸水素ナトリウム(三協化成製“セルマイク266” 発泡温度140℃)3質量部を加え、水によって全体を固形分10質量%に調製し、水分散型のポリウレタン液を得た。
【0105】
(ポリウレタンの付与)
上記の繊維質基材用不織布に上記のポリウレタン液を含浸させ、実施例1と同様にしてポリウレタンを付与したシートを得た。
【0106】
(脱海・起毛・染色・還元洗浄)
上記のポリウレタンを付与したシートに対して、実施例1と同様にして脱海・起毛・染色・還元洗浄処理を行い、シート状物を得た。
【0107】
得られたシート状物の外観品位、風合いおよび耐摩耗性は良好であった。
【0108】
[実施例4]
(繊維質基材用不織布)
実施例1で用いたものと同様の繊維質基材用不織布を用いた。
【0109】
(ポリウレタン液)
ポリオールにポリヘキサメチレンカーボネートを適用し、イソシアネートにジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを適用した、実施例1のポリウレタン1よりハードセグメント量を増加させた組成によるカルボン酸トリエチルアミン塩含有ポリカーボネート系強制乳化型ポリウレタン(ポリウレタン3)液の固形分100質量部に対して、感熱凝固剤として硫酸ナトリウム18質量部、発泡剤としてp,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)(三協化成製“セルマイクS” 発泡温度160℃)18質量部を加え、水によって全体を固形分10質量%に調製し、水分散型のポリウレタン液を得た。
【0110】
(ポリウレタンの付与)
上記の繊維質基材用不織布に上記のポリウレタン液を含浸させ、湿熱処理、熱風乾燥後の乾熱処理条件を160℃の温度で2分間としたこと以外は実施例1と同様にして、ポリウレタンを付与したシートを得た。
【0111】
(脱海・起毛・染色・還元洗浄)
上記のポリウレタンを付与したシートに対して、実施例1と同様にして脱海・起毛・染色・還元洗浄処理を行い、シート状物を得た。
【0112】
得られたシート状物の外観品位、風合いおよび耐摩耗性は良好であった。
【0113】
[実施例5]
(繊維質基材用不織布)
実施例1で用いたものと同様の繊維質基材用不織布を用いた。
【0114】
(ポリウレタン液)
前記実施例4と同様のポリウレタン3液の固形分100質量部に対して、感熱凝固剤として硫酸ナトリウム15質量部、発泡剤としてOBSH(三協化成製“セルマイクS” 発泡温度160℃)3質量部を加え、水によって全体を固形分10質量%に調製し、水分散型のポリウレタン液を得た。
【0115】
(ポリウレタンの付与)
上記の繊維質基材用不織布に上記のポリウレタン液を含浸させ、実施例1において、ポリウレタン液を変更し、さらにポリウレタン液を含浸し、湿熱処理、熱風乾燥後の乾熱処理条件を160℃の温度で2分間処理としたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリウレタンを付与したシートを得た。
【0116】
(脱海・起毛・染色・還元洗浄)
上記のポリウレタンを付与したシートに対して、実施例1と同様にして脱海・起毛・染色・還元洗浄処理を行い、シート状物を得た。
【0117】
得られたシート状物の外観品位、風合いおよび耐摩耗性は良好であった。
【0118】
[比較例1]
(繊維質基材用不織布)
実施例1で用いたものと同様の繊維質基材用不織布を用いた。
【0119】
(ポリウレタン液)
発泡剤を添加しないこと以外は実施例1と同様にして、ポリウレタン液を得た。
【0120】
(ポリウレタンの付与)
上記の繊維質基材用不織布に上記のポリウレタン液を含浸させ、実施例1と同様にしてポリウレタンを付与したシートを得た。
【0121】
(脱海・起毛・染色・還元洗浄)
上記のポリウレタンを付与したシートに対して、実施例1と同様にして脱海・起毛・染色・還元洗浄処理を行い、シート状物を得た。
【0122】
比較例1では発泡剤を用いなかったため、得られたシート状物は外観品位は不良であり、風合いは硬いものとなった。
【0123】
[比較例2]
(繊維質基材用不織布)
実施例1で用いたものと同様の繊維質基材用不織布を用いた。
【0124】
(ポリウレタン液)
ポリオールにヘキサメチレンカーボネートと3−メチルペンタンカーボネートを共重合したポリカーボネートを適用し、イソシアネートにイソフォロンジイソシアネートを適用したカルボン酸トリエチルアミン塩含有ポリカーボネート系強制乳化型ポリウレタン(ポリウレタン4)の固形分100質量部に対して、感熱凝固剤として硫酸ナトリウム15質量部、発泡剤として炭酸水素ナトリウム(三協化成製“セルマイク266” 発泡温度140℃)5質量部を加え、水によって全体を固形分10質量%に調製し、水分散型のポリウレタン液を得た。
【0125】
(ポリウレタンの付与)
上記の繊維質基材用不織布に上記のポリウレタン液を含浸させ、実施例1と同様にしてポリウレタンを付与したシートを得た。
【0126】
(脱海・起毛・染色・還元洗浄)
上記のポリウレタンを付与したシートに対して、実施例1と同様にして脱海・起毛・染色・還元洗浄処理を行い、シート状物を得た。
【0127】
比較例2では100%モジュラスが低すぎるポリウレタンであったことにより、得られたシート状物は耐摩耗性は低くなり、さらに起毛工程での研削性が悪くなることで、外観品位は不良となった。
【0128】
[比較例3]
(繊維質基材用不織布)
実施例1で用いたものと同様の繊維質基材用不織布を用いた。
【0129】
(ポリウレタン液)
ポリオールにポリヘキサメチレンカーボネートを適用し、イソシアネートにジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを適用した、実施例4のポリウレタン3よりハードセグメント量を増加させた組成によるカルボン酸トリエチルアミン塩含有ポリカーボネート系強制乳化型ポリウレタン(ポリウレタン5)液の固形分100質量部に対して、感熱凝固剤として硫酸ナトリウム15質量部、発泡剤として炭酸水素ナトリウム(三協化成製“セルマイク266” 発泡温度140℃)15質量部を加え、水によって全体を固形分10質量%に調製し、水分散型のポリウレタン液を得た。
【0130】
(ポリウレタンの付与)
上記の繊維質基材用不織布に上記のポリウレタン液を含浸させ、実施例1と同様にしてポリウレタンを付与したシートを得た。
【0131】
(脱海・起毛・染色・還元洗浄)
上記のポリウレタンを付与したシートに対して、実施例1と同様にして脱海・起毛・染色・還元洗浄処理を行い、シート状物を得た。
【0132】
比較例3では100%モジュラスが高すぎるポリウレタンであったことにより、得られたシート状物は風合いは硬くなり、さらに起毛工程での研削性が悪くなることで、外観品位は不良となった。
【0133】
各実施例で調整し用いたポリウレタン液の組成と性状を表1に示す。
【0134】
【表1】

【0135】
各実施例・比較例で得られたシート状物の密度とポリウレタン内部の孔径およびその他の評価結果を表2に示す。
【0136】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均単繊維直径0.3〜7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部に水分散型ポリウレタンを含有してなり、当該水分散型ポリウレタンの内部に直径10〜200μmの孔を有することを特徴とするシート状物。
【請求項2】
前記シート状物の密度が0.2〜0.7g/cmである、請求項1に記載のシート状物。
【請求項3】
繊維質基材にポリウレタン液を付与して得るシート状物の製造方法であって、当該ポリウレタン液が発泡剤を含有する水分散型ポリウレタン液であり、かつ当該ポリウレタン液を構成するポリウレタンの乾式膜の100%モジュラスが3〜8MPaであることを特徴とするシート状物の製造方法。
【請求項4】
発泡剤を含有するポリウレタン液の乾式膜の膜密度が0.2〜0.6g/cmである、請求項3記載のシート状物の製造方法。
【請求項5】
前記ポリウレタン液が感熱凝固性を有し、かつ当該ポリウレタン液の感熱凝固温度よりも前記発泡剤の発泡温度の方が高い、請求項3または4記載のシート状物の製造方法。
【請求項6】
前記ポリウレタン液の25℃における粘度が1〜900mPa・sである、請求項3〜5のいずれか記載のシート状物の製造方法。

【公開番号】特開2011−214210(P2011−214210A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52561(P2011−52561)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】