説明

シート状物の延伸機、およびシート状物の延伸方法

【課題】位相差板や偏光板の打ち抜き工程における収率を向上することができるシート状物の延伸機、及び、シート状物の延伸方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性のシート状物のを把持する複数のリンクがガイドレールに沿って案内され、前記シート状物を前記ガイドレールの入口側から出口側に搬送しつつ延伸する無端リンク装置の対を備え、前記無端リンク装置の各々は、前記入口側に配置された前記シート状物の幅を略一定に保って搬送する予熱領域と、前記予熱領域の後流側に配置され前記掴み装置の掴みピッチを徐々に拡大させてシート状物を延伸する延伸領域と、前記延伸領域の後流側に配置され延伸された前記シート状物の幅を略一定に保って搬送する熱固定領域を有し、少なくとも、連接された前記延伸領域と前記熱固定領域のユニットを複数配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状物、例えば熱可塑性樹脂フィルム等を延伸する延伸機、および延伸方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、配向軸が周辺に対して傾斜した位相差板や偏光板等に用いられるシート状物の製造方法としては、配向軸が幅方向の辺に対して直角な(或いは平行な)シート状物より、その配向軸が所定の傾斜角度となるように周辺を打ち抜き製造されていた。然しながら、打ち抜きによりシート状物の端部近傍で使用できない部分が発生し、特に大サイズの位相差板等では収率が悪くなる問題点があった。
【0003】
この問題点を解決する公知例として、特開平2−113920号公報(特許文献1)には、フィルムの幅方向の左右両端部を所定走行区間内におけるチャックの縦方向の走行距離が異なるように配置されたテンターレール上を走行する2列のチャック間に把持して走行させることにより、フィルムの長さ方向(縦方向)と斜行する方向に延伸する製造方法が記載されている。
【0004】
また、特開2000−9912号公報(特許文献2)には、プラスチックフィルムを横または縦に一軸延伸しつつ、その延伸方向の左右を異なる速度で前記延伸方向とは相違する縦または横方向に引張り延伸して、配向軸を前記一軸延伸方向に対し傾斜させる製造方法が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平2−113920号公報
【特許文献2】特開2000−9912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の製造方法では、傾斜角度を大きくするとシワが発生する問題があり、さらに斜め延伸専用機であって傾斜角度が固定的であって自由度がない等の欠点があった。そして、特許文献2の方法によれば、傾斜角度などに自由度があり専用性も低い利点はあるが、この方法においても、搬送速度差を大きくするとシワが発生し、望ましい傾斜角度を得ることが困難である。そして、上記のように、フィルムにシワが発生すると、製品としては使えなくなり収率が低下する。
【0007】
また、一般にフィルムは幅方向両端を把持しているので、幅方向延伸に伴う縦方向の収縮応力は把持手段によって拘束されるが、フィルム中央部分は把持手段による拘束力が弱いので、上記収縮応力によって縦方向に移動して湾曲する傾向がある。これはボーイング現象と称されており、フィルムの幅方向の物性、特に配向角分布などの光学的特性、機械的特性、湿度膨張率、熱膨張率、熱収縮率を不均一にする原因となる。特に、無理な延伸や斜め延伸においては、ボーイング現象が懸念される。
【0008】
本発明の目的は、位相差板や偏光板用のフィルムとして、シワやボーイング現象を防止して収率を向上させたシート状物の延伸機、およびシート状物の延伸方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、熱可塑性のシート状物の幅方向の左右両端を把持する掴み装置を有する連結された複数のリンクが、略水平面上の閉じたガイドレールに沿って案内され、前記シート状物を前記ガイドレールの入口側から出口側に搬送しつつ延伸した後に、前記入口側に戻されて走行する無端リンク装置の対を備え、前記無端リンク装置の各々は、前記入口側に配置された前記シート状物の幅を略一定に保って搬送しつつ予熱するための予熱領域と、前記予熱領域の後流側に配置され前記シート状物を搬送しつつ、前記掴み装置の掴みピッチを徐々に拡大させてシート状物を幅方向と縦方向に延伸するための前記ガイドレールに末広がり状部分を設けた延伸領域と、前記延伸領域の後流側に配置され延伸された前記シート状物の幅を略一定に保って搬送しつつ熱固定するための熱固定領域を有し、少なくとも、連接された前記延伸領域と前記熱固定領域のユニットを複数ユニット配置したことを特徴とする。
【0010】
また、前記シート状物の幅方向の左右両端で、前記延伸領域に位置するリンク装置の掴みピッチの縦方向の拡大倍率を異ならせたことを特徴とする。また、少なくとも、連接された前記予熱領域と前記延伸領域と前記熱固定領域のユニットを複数配置したことを特徴とする。また、前記複数ユニットの間にバッファ領域を設けたことを特徴とする。
【0011】
また、前記延伸領域の末広がり状に配置されたガイドレールの開き角度を左右異ならせたことを特徴とする。また、前記延伸領域に位置するリンク装置の掴みピッチの縦方向の拡大倍率が、上流に位置するユニットより下流に位置するユニットで高く設定されたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、熱可塑性のシート状物の幅方向の左右両端を把持する掴み装置を有する連結された複数のリンクが、略水平面上の閉じたガイドレールに沿って案内され、前記シート状物を前記ガイドレールの入口側から出口側に搬送しつつ延伸した後に、前記入口側に戻されて走行する無端リンク装置の対を備え、前記入口側に配置された予熱領域で前記シート状物の幅を略一定に保って搬送しつつ予熱し、前記予熱領域の後流側に配置された第一延伸領域で前記シート状物を搬送しつつ、前記掴み装置の掴みピッチを徐々に拡大させてシート状物を幅方向と縦方向に延伸し、前記第一延伸領域の後流側に配置された第一熱固定領域で延伸された前記シート状物の幅を略一定に保って搬送しつつ熱固定し、前記第一熱固定領域の後流側に配置された第二延伸領域で、前記シート状物を搬送しつつ、前記掴み装置の掴みピッチを徐々に拡大させてシート状物を幅方向と縦方向に延伸し、前記第二延伸領域の後流側に配置された第二熱固定領域で、延伸された前記シート状物の幅を略一定に保って搬送しつつ熱固定することを特徴とする。
【0013】
また、前記第一の延伸領域と第二の延伸領域の少なくとも一方の領域で、前記シート状物の幅方向の左右両端で、リンク装置の掴みピッチの縦方向の拡大倍率を異ならせて前記シート状物を延伸することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、位相差板や偏光板に適用するシート状物のシワやボーイング現象を防止して、製品の歩留まりを向上させ、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図を用いて詳細に説明するが、まず、本発明の基本形態である同時二軸延伸機を、図7、図8を用いて説明する。図7は同時二軸延伸機の平面図で、図8は図7に示す延伸機のリンク装置の構成の概略を模式的に示す図である。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例に係るシート状物の延伸機1、およびこれに用いられるリンク装置の構成について説明する。図7に示すシート状物の延伸機1は、中央部に延伸する熱可塑性を有する樹脂等から構成されたシート状物20が搬送される搬送スペース2と、閉じた経路を構成するリンクガイドレール3上を駆動され、周回しつつシート状物の幅方向の左右両端部の各々を掴んで搬送し解放する無端リンク装置4、5が搬送スペース2のシート状物の搬送方向の両側に対として配置されている。
【0017】
これらの無端リンク装置4、5では、搬送スペース2のシート状物の入口側に配されたスプロケット6、7、および出口側に配置されたスプロケット8が、図示しないモータ等の駆動装置と連結されて回転駆動され、これらのスプロケット6、7、8に噛み合わされたリンク装置200がリンクガイドレール3上を摺動して移動する。
【0018】
すなわち、図8(a)に示すように、シート状物20の端部を把持する複数(多数)の掴み装置202をシート状物の両側に具備した無端リンク装置4または5(図中リンクの一部並びに片側の無端リンクは省略)は、折尺状に形成された複数個(多数個)の等長リンク201が連結されて、環状に閉じて構成されたリンク装置200を備えている。このリンク装置200は、シート状物の入口側スプロケット6、または7により駆動されてリンクガイドレール3上を走行し、搬送スペース2の入口に設けられた開閉ガイド等の開閉手段(図示せず)により、掴み装置202が開閉されてシート状物20を掴み、予熱領域9で延伸に必要な温度にシート状物を加熱しつつ、リンクガイドレール3の搬送側のレール上を走行する。このとき、シート状物20の幅を略一定に保って搬送しつつ加熱される。
【0019】
次いで、リンク装置200は、予熱領域9の後流側に配置された延伸領域10において、進行方向に末広がり状に配置されたリンクガイドレール3に案内されて、掴み装置202同士の間の掴みピッチをP1からP2に徐々に拡大することにより、シート状物20を縦横二方向に同時に延伸する。横方向の延伸は、末広がり状のガイドレール3上を走行することによりなされる。
【0020】
なお、この領域9で左右のガイドレール3は、関節で接続された複数のリンクベッド3a、3b上にそれぞれ置かれ、リンクベッド3a、3bはモータ部3cによって幅方向に移動して、幅方向に開閉(広狭)する構成とされている。シート状物の進行方向に沿って徐々に開く様にリンクヘッドを設置することにより、その上のガイドレール3が進行方向に末広がり状に配置される。また、モータ部3cによってリンクベッド3a、3bを別個に移動することもでき、この場合、ガイドレール3の末広がりの開き角度を幅方向の左右で異ならせることができる。
【0021】
その後、延伸領域10の後流側に配置された熱固定領域11において、シート状物20の幅を略一定に保って搬送しつつ所定の温度で熱固定した後、出口に設けられた開閉ガイド等の開閉手段(図示せず)により掴み装置202を開いてシート状物から外し、外されたシート状物をそのまま進行させる。リンク装置200は、出口側のスプロケット8により駆動され、リンクガイドレール3の戻り側レール上を走行して入口側スプロケット6に戻るように構成される。
【0022】
リンクガイドレール3は、図8(b)に示すように凸状になるように配置された断面略矩形状の梁状部材で構成された、内周および外周側の一対の組になるレール206、205で構成されている。等長リンク201がシート状物を把持しつつ走行する搬送側のレールにおいて、シート状物20に近い方の外周側のレール205には、シート状物を把持する掴み装置202が連結されたジョイント用リンク軸207が配置される。内周側のレール206には、掴み装置202を有さないジョイント用リンク軸208が配置される。
【0023】
リンク軸207とリンク軸208とは、リンクプレート209及び210により連結される。リンク軸207、208の最下端には第1の転がり軸受である軸受ローラ211a、212aを有する軸受ホルダ211、212が連結され、この軸受ホルダ211、212の両側、すなわち、軸受ローラ211a、212aの外周部に一対の第2の転がり軸受である鍔付ラジアル軸受213[213a、213b]、214[214a、214b]が取り付けられている。鍔付ラジアル軸受213、214は、等長リンク201の動きを規制するレール205、206の両側面を転動し、かつ、レール205、206の上面と鍔付ラジアル軸受213、214の鍔の接触で等長リンク201の自重を保持するように配置されている。
【0024】
図8(c)は、延伸領域10に位置する前記した関節で接続された複数のリンクベッド3a、3b(図7は6区間、図8は2区間)の上に設置されているレール205、206と、等長リンク201を模式したもので、リンクが閉じた状態と開いた状態とでは、リンクプレート209とガイドレールの交差角度(θ)がそれぞれθ1、θ2となって、異なる角度となる。このときでも、軸受ホルダ211、212に支持された鍔付ラジアル軸受213[213a、213b]、214[214a、214b]は、リンク軸207、208に対する軸受ローラ211a、212aの働き(回動)により、常にレール205、206の両側面に対して実質的に垂直に位置するよう変化する(回動する)。
【0025】
従って、一対の鍔付ラジアル軸受をレールに対して常に一定の角度にすることができるので、リンクプレート209及び210とレール205、206の交差角度(θ)やレール幅に依存することなくリンク装置200を安定に走行させることが可能となる。
【0026】
図8(c)は、MD方向(縦方向、進行方向)の延伸の量(拡大倍率、シート状物の長手方向の倍率)が1.0より大きくした状態を示す。つまり、図示の左側と比べ、右側ではレール206とレール205との間が徐々に接近するように配置され、これらに沿ってリンク装置200が走行することにより、各等長リンク201のリンクの開き角度が次第に大きくなり、隣同士の等長リンク201の間隔と共に掴み装置202(図示省略)の間隔がMD方向に次第に広がって、シート状物は進行方向に延伸される。更に、図示していない部分のガイドレールと、図中ガイドレールの連結にはバネ鋼を用いることで、複数のリンクベッドが関節で連結でき、ガイドレールが無端状に配置可能となる。
【0027】
尚、本実施例ではシート状物を進行方向に対して延伸する方法を示したが、図示のレール206と205との間の距離を左右両側で同じくすることでθ1とθ2とを略同一にして、図示の左右でMD方向の延伸の量を変えないことも可能で、図8(c)と逆にレール206と205との間の距離を左側より右側で広げてリンク装置のリンクの開き角度を図示の右側で小さくすることで、シート状物をフィルムの進行方向に対して収縮させることも可能である。また、TD方向(横方向、幅方向)の延伸の量(拡大倍率)の無段可変技術(リンクガイドレール3を末広がり状に配置させる構成)と組み合わせることで、TD方向、MD方向の延伸の量を自由に設定することが可能である。
【0028】
上記ガイドレール205、206の間隔の調整は、各レールを載せている2本のリンクベッド3a、3a(図8参照)の間隔をモータ部3cにより無段可変に変化させることでなされ、この移動量を幅方向の両側で異なるように設定できる。従って、両レールの間隔を狭めるに際し、幅方向の一方側のレールの間隔を小さく変化させ、他方側のレールの間隔を大きく変化させるように設定すれば、幅方向の両側で延伸の拡大倍率が異なって、シート状物を斜めに延伸することが出来る。
【0029】
上記の通り、無端リンク装置4、5の間の搬送スペース2は、概略3つの領域に分けられており、入口側から出口側に向かって予熱領域9、延伸領域10、熱固定領域11に分けられる。ここで、上記連接する予熱領域9、延伸領域10及び熱固定領域11を1ユニット、又は上記連接する延伸領域10と熱固定領域11を1ユニットとする。なお、前記各々の領域は1つ以上の空間で構成されている。
【0030】
図7、図8に示すように、上記各領域のシート状物が搬送される搬送スペース2には、シート状物を把持するリンク装置200の端部の下方に複数のノズル12(図示せず)が配置されている。各ノズル12は、そのシート端側の側方に延在するダクト13と連結されて、このダクト13から導入される加熱空気がノズル12に導入される。ノズル12内の空間に導入された高温の空気は、ノズル12上部の上方に向けて開口された吹き出し口からその上方を通るシート状物20の下面に向けて吹き出される。
【0031】
複数のノズル12からこのような高温の空気の供給を受けて、予熱領域9では、シート状物20が加熱され高温にされることで、熱可塑性を有するシート状物の変形が容易な状態とされ、後方の延伸領域での変形の際の損傷や変形の偏りの発生等が抑制される。また、この予熱領域9は、シート状物が搬送スペース2に導入される入口になっており、この入口において、リンクガイドレール3に案内されて駆動されたリンク装置200のシート状物側端部の掴み装置202がシート状物20の端部を把持して、リンク装置200の周回動作の方向である搬送スペース2の出口側に向かってシート状物を引張って搬送を開始する。
【0032】
予熱領域9の後流側に隣接する延伸領域10では、シート状物20の両端側で向かい合う無端リンク装置4、5のリンクガイドレール3は、末広がり状に配置され、このようなリンクガイドレール3に案内されるリンク装置200は、把持するシート状物20の端部を両端の方向(幅方向、横方向)に伸ばす(延伸する)ことができる。また、延伸領域10においても、複数のノズル12より高温の空気がシート状物下面に供給されて吹き付けられ、シート状物延伸の際の損傷や延伸量の偏りが抑制される。
【0033】
なお、本領域10では、ガイドレール3が前述した複数の関節で接続されたリンクベッド3a(図8参照)に載せられて配置されており、各リンクベッドの角度、両ガイドレールの間隔、又はこれらを個々に設定できることは、前述の通りである。
【0034】
延伸領域10の後方でこれに隣接する熱固定領域11では、無端リンク装置4、5のリンクガイドレール3は、延伸領域10の出口部での距離のまま互いに略並行に配置され、リンク装置200に把持されたシート状物20は略一定の幅で搬送される。同時に、この領域の下方に配置された複数のノズル12からの高温の空気の供給を受けて、延伸された状態を維持して加熱され、その形状や長さが固定され、シート状物の内部応力が除去される。
【0035】
次に、同時二軸延伸機を用いた斜め延伸の例について説明する。図1は、斜め延伸状態を模式した図で、シート状物20を搬送する搬送スペース2と等長リンク201の掴み装置202の掴み位置(図中●印)と、前記等長リンク201が走行するガイドレール3、シート状物の両端に位置する等長リンク201の釣合状態の張力方向(延伸による張力方向)を実線14で示した模式図である。201Lはシート状物の幅方向の左端の掴み位置、201Rはシート状物の幅方向の右端の掴み位置を示す。
【0036】
予熱領域9のシート状物には、相対する等長リンク201により進行方向と略直角の方向に力が作用する。延伸領域10では、シート状物中心線(一転鎖線)より上の等長リンクの左端の掴み位置201LのピッチをP1<P3<P4に設定し、シート状物中心線より下の等長リンクの右端の掴み位置201RのピッチをP1<P2<P4に設定する。そして、両者のピッチをP2<P3の関係と設定することにより、幅方向の直線に対してαの傾斜を持つ実線14のような張力がシート状物20に作用する。すなわち、シート状物20に作用する張力はシート状物の配向に近似されるため、上記シート状物20は略αの傾斜を持つ配向状態になっているとも言える。なお、シート状物20に作用する張力の向きは、シート状物中心線に対し、直角な方向で等間隔の線をシート状物に施し(描き)、延伸した後の線の傾斜角度により判断した。
【0037】
一方、傾斜角度αは、シート状物中心線に対し、上下に位置する等長リンク201のズレ量と出口側シート状物の幅Wにより決定される(実際は各種シート物材料と延伸条件により発生する収縮量を加味する必要がある)。従って、幅Wに対し、前記ズレ量の割合を大きくすれば、傾斜角度の大きな斜め延伸が可能であるが、実際にはシワ発生防止の観点から傾斜角度には限界がある。
【0038】
図2に傾斜角度を大きくした場合の斜め延伸実験例を模式した図を示す。本実験では当初、図1に示す角度αを有する実線14のようにシート状物20に張力が作用すると考えたが、現実には延伸の途中から破線15で力が釣合うように等長リンクが変化して行き、最終的には角度α'を有する破線15でシート状物20に張力が作用する結果となった。また、シート状物には、先行文献に記載されているものと同様のシワの発生も確認できた(力の釣り合いが実線14から破線15にずれる過程で発生)。
【0039】
本実験により、1回の延伸で斜め延伸可能な傾斜角度は数十度以下であることが分かった。そして1回斜め延伸したフィルムを再度同一条件で延伸すると、傾斜角度は約2倍となり、小さな傾斜角度を繰り返すことで、シワが発生しない状態で傾斜角度の大きいシート状物が生産できることが分かった。なお、本角度は各種シート物の材料物性や延伸条件によって異なることは言うまでもない。
【0040】
本実施例の具体構成を図3を用いて説明する。図3では先に説明した延伸領域10を、この領域10に配置されている関節で接続された複数のリンクベッド3aを移動して、ガイドレール3の間隔を3段階に変えることにより、第一延伸領域100、第一熱固定領域110、第二延伸領域101に細分化し、そして11を第二熱固定領域としたことを特徴とする。換言すると、連接する延伸領域と熱固定領域を1ユニットとした場合、2ユニットを配置していることになる。
【0041】
延伸領域10では、シート状物中心線(一転鎖線)より上の等長リンクの左端の掴み位置201LのピッチをP1<P3<P4<P6<P7に設定し、シート状物中心線より下の等長リンクの右端の掴み位置201RのピッチをP1<P2<P4<P5<P7に設定する。そして、幅方向両端のピッチをP2<P3、P5<P6の関係と設定する。
【0042】
本実施例は2回の延伸を1台の延伸機で連続して達成する例を示したものである。すなわち、第一延伸領域100で実線14のような比較的小さな傾斜角度α1をもたせた斜め延伸を行い、第一熱固定領域110でシート状物20に作用する内部張力を緩める。次に、第二延伸領域101で、縦方向に比較的近い位置同士の等長リンクに力が作用し、シート状物20への張力作用線が比較的小さな傾斜角度α2を有する一点鎖線16となって延伸される。従って、第二延伸領域101では、第一延伸領域100で斜め延伸されたシート状物20を再度斜め延伸することにより、予熱領域9のシート状物20からみると、実線14と一点鎖線16が合成された破線15の大きな傾斜角度(α1+α2)を持つシート状物が得られる。
【0043】
前記第二延伸領域101では、その前段階の第一熱固定領域110でシート状物20に作用する張力を緩めた状態から延伸を始めており、延伸の最後では傾斜角α2のみの小さな傾斜でしか延伸していないので、シワの発生が防止される。したがって、この2回延伸により小刻みに延伸することにより最終的に大きな傾斜角度でありながら、シワの発生がない斜め延伸が達成できる。
【0044】
本実施例の延伸の順序を説明すると、熱可塑性のシート状物の幅方向の左右両端を把持する掴み装置を有する連結された複数のリンクが、略水平面上の閉じたガイドレールに沿って案内され、前記シート状物を前記ガイドレールの入口側から出口側に搬送しつつ延伸した後に、前記入口側に戻されて走行する無端リンク装置の対を備え、前記入口側に配置された予熱領域で前記シート状物の幅を略一定に保って搬送しつつ予熱し、前記予熱領域の後流側に配置された第一延伸領域で前記シート状物を搬送しつつ、前記掴み装置の掴みピッチを徐々に拡大させてシート状物を幅方向と縦方向に延伸し、前記第一延伸領域の後流側に配置された第一熱固定領域で延伸された前記シート状物の幅を略一定に保って搬送しつつ熱固定し、前記第一熱固定領域の後流側に配置された第二延伸領域で、前記シート状物を搬送しつつ、前記掴み装置の掴みピッチを徐々に拡大させてシート状物を幅方向と縦方向に延伸し、前記第二延伸領域の後流側に配置された第二熱固定領域で、延伸された前記シート状物の幅を略一定に保って搬送しつつ熱固定する。
【0045】
また、前記第一の延伸領域と第二の延伸領域の少なくとも一方の領域で、前記シート状物の幅方向の左右両端で、リンク装置の掴みピッチの縦方向の拡大倍率を異ならせて前記シート状物を延伸する。
【0046】
更に、連接する延伸領域と熱固定領域を1ユニットとした場合に、2ユニット配置している延伸機においては、前記延伸領域に位置するリンク装置の掴みピッチの縦方向の拡大倍率が、上流に位置するユニットより下流に位置するユニットで高く設定されたことを特徴とする。これは、下流に位置するユニットの延伸は、上流での延伸でシート状物が薄く延ばされ、延伸し易い状態にあるため、大きな傾斜角度で延伸してもシワ等が発生しにくいためである。
【0047】
前記で第一熱固定領域110でシート状物に作用する張力をゆるめるとの表現をしたが、図に示したように上下のガイドレールを平行にして延伸力をなくし、フィルムに作用する張力をゆるめることや上下のガイドレールをシート状物の中心側に傾け、完全にリラックスさせることも可能である。
【0048】
また、本実施例は1台の延伸機で連続して2回延伸を行っているが、例えば1台で1回延伸の延伸機を用いて、1回目の延伸後のシート状物を手作業により再度入口に移動して、掴み装置202で掴み直して2回目の延伸を行うことができる。しかしながら、1回目延伸後のシート状物の幅方向両側の1回目延伸時の掴み代を切断し、2回目用の掴み代を作る必要があり、シート状物の製品としての収率が悪くなる。また、これによって切断作業や移動作業が伴い生産能率が悪くなる。これに対し本実施例では、掴み代の切断が不要であるためシート状物の製品としての収率が良く、また、これによって切断作業や移動作業が不要で生産能率が向上する。
【0049】
なお、本実施例では第一、第二延伸領域共、斜め延伸を行っているが、一方の延伸領域で斜め延伸を行い、他方の延伸領域ではシート状物の幅方向の左右両端で、リンク装置の掴みピッチの縦方向の拡大倍率を同じにする左右均等延伸でも良く、更に第一、第二延伸領域共に左右均等延伸でも良く、この場合小刻みに縦方向に延伸することにより、ボーイング現象やシワを防止することができる。
【実施例2】
【0050】
本発明の実施例2を図4を用いて説明する。図4は先に説明した延伸領域10を、延伸領域10に配置されている関節で接続された複数のリンクベッド3aを移動して、ガイドレール3の間隔を3段階に変えることにより、第一延伸領域100、第一熱固定領域110、第二予熱領域90、第二延伸領域101に細分化し、そして11を第二熱固定領域としたことを特徴とする。換言すると、連接する予熱領域、延伸領域、熱固定領域を1ユニットとした場合、2ユニット配置していることになる。
【0051】
延伸領域10では、シート状物中心線(一転鎖線)より上の等長リンクの左端の掴み位置201LのピッチをP1<P3<P4<P6<P7に設定し、シート状物中心線より下の等長リンクの右端の掴み位置201RのピッチをP1<P2<P4<P5<P7に設定する。そして、幅方向両端のピッチをP2<P3、P5<P6の関係と設定する。
【0052】
本実施例は、実施例1の動作及び効果とほぼ同様であるが、特有な効果としては、第二予熱領域90を持つことで、第一熱固定領域110と温度差をつけて運転することが可能となる。即ち、第一熱固定領域110では、比較的低く温度設定されることにより内部応力を十分に除去することができ、これに続く第二予熱領域90では、これより高く温度設定された状態で予熱することで、その後の第二延伸領域での円滑な延伸に備えることができる。
【実施例3】
【0053】
本発明の実施例3を、図5を用いて説明する。図5は先に説明した延伸領域10を、この領域10に配置されている関節で接続された複数のリンクベッド3aを移動して、ガイドレール3の間隔を3段階に変えることにより、第一延伸領域100、第一熱固定領域110、バッファ領域17、第二予熱領域90、第二延伸領域101に細分化したことを特徴とする。各ピッチP1〜P7の関係は先の実施例と同じである。
【0054】
本実施例は先の実施例の動作及び効果とほぼ同様であるが、特有な効果としては、バッファ領域17を持つことで、予熱、延伸、熱固定の領域を1ユニットとした場合、バッファ領域17を介してユニット毎に部屋構成することによりユニット間を完全に分離できるので、ユニットの温度管理や配置が容易となる。
【実施例4】
【0055】
本発明の実施例4を、図6を用いて説明する。図6は先に説明した延伸領域10でガイドレール3の配置を上下(シート状物中心線に対し上下)で異ならせたことを特徴とする。即ち、延伸領域で末広がりに配置されたガイドレール3の開き角度を、シート状物の幅方向の左右で異ならせたことを特徴としている。具体的には、左端(シート状物中心線に対し上)のガイドレール3の角度を広げて配置し、右端(シート状物中心線に対し下)のガイドレール3は角度を広げないで予熱領域9のままの位置にある。
【0056】
本実施例は先の実施例の動作及び効果とほぼ同様であるが、特有な効果としては、上下のガイドレール3の一方(下)を固定しているので、他方のガイドレール3のみの開き角度を調整するので、幅方向の開き角度を微調整することができ、また、等長リンクのズレ量を微調整可能とし、シート状物を斜め延伸するときにシワが発生しない最大の傾斜角を設定するときに役立つ。
【産業上の利用可能性】
【0057】
テンター方式のフィルム延伸装置全般に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施例1に係る斜め延伸状態を模式した図である。
【図2】同じく傾斜角度を大きくした場合の斜め延伸状態を模式した図である。
【図3】本発明の実施例1の具体構成である斜め延伸状態を模式した図である。
【図4】本発明の実施例2の具体構成である斜め延伸状態を模式した図である。
【図5】本発明の実施例3の具体構成である斜め延伸状態を模式した図である。
【図6】本発明の実施例4の具体構成である斜め延伸状態を模式した図である。
【図7】本発明実施例に係る同時二軸延伸機の平面図である。
【図8】同じく同時二軸延伸機のリンク装置の構成の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1…シート状物の延伸機、2…搬送スペース、3…ガイドレール、4、5…無端リンク装置、6、7、8…スプロケット、9…予熱領域、10…延伸領域、11…熱固定領域、12…ノズル、13…ダクト、17…バッファ領域、20…シート状物、90…第二予熱領域、100…第一延伸領域、101…第二延伸領域、110…第一熱固定領域、200…リンク装置、201…等長リンク、202…掴み装置、205…外周側のレール、206…内周側のレール、207、208…ジョイント用リンク軸、209、210…リンクプレート、211、212…軸受ホルダ、213、214…鍔付ラジアル軸受。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性のシート状物の幅方向の左右両端を把持する掴み装置を有する連結された複数のリンクが、略水平面上の閉じたガイドレールに沿って案内され、前記シート状物を前記ガイドレールの入口側から出口側に搬送しつつ延伸した後に、前記入口側に戻されて走行する無端リンク装置の対を備え、
前記無端リンク装置の各々は、前記入口側に配置された前記シート状物の幅を略一定に保って搬送する予熱領域と、
前記予熱領域の後流側に配置され前記シート状物を搬送しつつ、前記掴み装置の掴みピッチを徐々に拡大させてシート状物を幅方向と縦方向に延伸するための前記ガイドレールに末広がり状部分を設けた延伸領域と、
前記延伸領域の後流側に配置され延伸された前記シート状物の幅を略一定に保って搬送する熱固定領域を有し、
少なくとも、連接された前記延伸領域と前記熱固定領域のユニットを複数ユニット配置したことを特徴とするシート状物の延伸機。
【請求項2】
前記シート状物の幅方向の左右両端で、前記延伸領域に位置するリンク装置の掴みピッチの縦方向の拡大倍率を異ならせたことを特徴とする請求項1記載のシート状物の延伸機。
【請求項3】
少なくとも、連接された前記予熱領域と前記延伸領域と前記熱固定領域のユニットを複数配置したことを特徴とする請求項1または2記載のシート状物の延伸機。
【請求項4】
更に前記複数ユニットの間にバッファ領域を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシート状物の延伸機。
【請求項5】
前記延伸領域の末広がり状に配置されたガイドレールの開き角度を左右異ならせたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシート状物の延伸機。
【請求項6】
前記延伸領域に位置するリンク装置の掴みピッチの縦方向の拡大倍率が、上流に位置するユニットより下流に位置するユニットで高く設定されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のシート状物の延伸機。
【請求項7】
熱可塑性のシート状物の幅方向の左右両端を把持する掴み装置を有する連結された複数のリンクが、略水平面上の閉じたガイドレールに沿って案内され、前記シート状物を前記ガイドレールの入口側から出口側に搬送しつつ延伸した後に、前記入口側に戻されて走行する無端リンク装置の対を備え、
前記入口側に配置された予熱領域で前記シート状物の幅を略一定に保って搬送しつつ予熱し、
前記予熱領域の後流側に配置された第一延伸領域で前記シート状物を搬送しつつ、前記掴み装置の掴みピッチを徐々に拡大させてシート状物を幅方向と縦方向に延伸し、
前記第一延伸領域の後流側に配置された第一熱固定領域で、前記延伸されたシート状物の幅を略一定に保って搬送しつつ熱固定し、
前記第一熱固定領域の後流側に配置された第二延伸領域で、前記シート状物を搬送しつつ、前記掴み装置の掴みピッチを徐々に拡大させてシート状物を幅方向と縦方向に延伸し、
前記第二延伸領域の後流側に配置された第二熱固定領域で、延伸された前記シート状物の幅を略一定に保って搬送しつつ熱固定することを特徴とするシート状物の延伸方法。
【請求項8】
前記第一の延伸領域と第二の延伸領域の少なくとも一方の領域で、前記シート状物の幅方向の左右両端で、リンク装置の掴みピッチの縦方向の拡大倍率を異ならせて前記シート状物を延伸することを特徴とする請求項7記載のシート状物の延伸方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−255344(P2009−255344A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105632(P2008−105632)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】