説明

シート状物の製造方法

【課題】
水分散型ポリウレタン液を用いても外観、風合いに優れたシート状物を得る。
【解決手段】
熱水可溶性ポリマーを有する複合繊維を含んでなる布帛に、水分散型ポリウレタン液を含浸させてポリウレタンを付与する工程を含んでなり、前記水分散型ポリウレタン液が感熱ゲル化性を有し、布帛に含浸させる際の前記水分散型ポリウレタン液の温度が50〜95℃でありかつその感熱ゲル化温度よりも低いことを特徴とするシート状物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散型ポリウレタン液を用いることによって環境に配慮したシート状物、具体的にはポリウレタン付繊維シート状物に関する。
【背景技術】
【0002】
主として極細繊維とポリウレタンからなるシート状物は天然皮革にない優れた特徴を有しており、種々の用途に広く利用されている。
【0003】
近年、シート状物の製造に際しては、従来の有機溶剤タイプのポリウレタンに代えて水中にポリウレタンを分散させた水分散型ポリウレタン液を用いる方法が検討されている。水分散型ポリウレタン液は、ポリウレタンを水中に分散させてエマルジョンとしたものであり、有機溶剤を用いない点で環境保全上好ましい。
【0004】
しかし、水分散型ポリウレタン液を用いた場合は、シート状物の風合いが硬いものとなるという問題があった。これは、有機溶剤溶液のポリウレタンを用いた場合は湿式凝固を行うとポリウレタンは多孔構造となり、繊維交絡点を強固には拘束しないため、風合いの柔軟なシート状物を得ることができるのに対し水分散型ポリウレタン液を用いた場合は、乾熱凝固、湿熱凝固、熱水凝固等のいずれにおいても布帛内のポリウレタンは無孔構造となり、ポリウレタンと極細繊維とが密着した構造となって繊維交絡点を強固に拘束するためと考えられる。
【0005】
また、加熱乾燥時に水分散型ポリウレタン液の水分がシート状物最表面に移動する際に、ポリウレタンも最表面近傍に集中する、いわゆるマイグレーション現象が発生し、これも風合いが硬くなる要因の1つである。
【0006】
これらの問題に対し、例えば特許文献1には、感熱ゲル化性と保存安定性を有するポリウレタン水分散液を使用することで、風合いに優れるシート状物を得る方法が開示されている。しかしながら、この方法によりシート状物内部に形成されるポリウレタンは無孔構造であるため、得られるシート状物の風合いは硬いものである。
【0007】
また特許文献2では、水系ウレタン樹脂と会合型増粘剤とからなる水系樹脂組成物をスチーム加熱により感熱凝固させる方法が提案されている。しかしながら、この方法では、一時的に繊維基材内部のポリウレタン樹脂層中に多孔構造が形成されるものの、その耐熱性が低いため、後の乾燥工程において孔の収縮もしくは無孔化が起こってしまい、風合いの硬いものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−96457号公報
【特許文献2】特開2000−290879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、水分散型ポリウレタン液を用いても柔軟な風合いを有するポリウレタン付繊維シート状物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、熱水可溶性ポリマーを有する複合繊維を含んでなる布帛に、水分散型ポリウレタン液を含浸させてポリウレタンを付与する工程を含んでなり、前記水分散型ポリウレタン液が感熱ゲル化性を有し、布帛に含浸させる際の前記水分散型ポリウレタン液の温度が50〜95℃でありかつその感熱ゲル化温度よりも低いことを特徴とするシート状物の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水分散型ポリウレタン液を用いても外観、風合いの良好なシート状物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のシート状物の製造方法においては、複合繊維を含んでなる布帛を用いる。複合繊維から易溶出性成分を溶出させることにより、極細繊維を発現させることができる。
【0013】
複合繊維の易溶出性成分としては、熱水可溶性ポリマーを用いることが重要である。そうすることにより、後述するように水分散型ポリウレタン液を布帛に含浸させる際に複合繊維における熱水可溶性ポリマーの一部が溶出して水分散型ポリウレタン液と混ざり、多孔構造のポリウレタン弾性体を得ることができる。熱水可溶性の指標としては、当該ポリマーを50℃、好ましくは80℃の大過剰の熱水浴中で該ポリマーを1時間処理した際に、その質量の10%以上が溶解することを指す。
【0014】
熱水可溶性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールを主成分とする共重合体、親水性基を共重合した共重合ポリエステルなどが挙げられる。特に耐熱性と熱水への溶解性とのバランスに優れる点から親水性基を共重合した共重合ポリエステルが好ましく、5−ナトリウムスルホイソフタル酸8〜20モル%とイソフタル酸5〜40モル%を共重合した共重合ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0015】
熱水可溶性ポリマーと組み合わせて複合繊維をなし、極細繊維を形成する成分としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートなどのポリエステル、6−ナイロン、66−ナイロンなどのポリアミド、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの各種ポリマーを用いることができる。中でも、強度、寸法安定性、耐光性、染色性の観点からポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステルが好ましい。
【0016】
複合繊維の複合形態としては、芯鞘型、サイドバイサイド型、多層型、放射型、海島型などを挙げることができる。中でも海島型は、1本あたりの複合繊維から特に繊維径の小さな極細繊維を効率良く発現させることができ、シート状物に柔らかな風合いや嵩高性などを付与することができるので好ましい。
【0017】
海島型複合繊維としては、海島型複合用口金を用い、海・島の2成分を相互配列して紡糸する高分子相互配列体方式と、海・島の2成分を混合して紡糸する混合紡糸方式のいずれも用いることができるが、均一な繊度の極細繊維が得られる点で高分子配列体方式による海島型複合繊維がより好ましい。
【0018】
極細繊維の断面形状としては、丸断面でよいが、楕円、扁平、三角などの多角形、扇形、十字型などの異形断面のものを採用してもよい。
【0019】
極細繊維の平均単繊維直径としては、0.3〜7μmが好ましい。7μm以下、より好ましくは5.5μm以下、さらに好ましくは4.5μm以下とすることで、シート状物の柔軟性や立毛品位に優れる。一方、0.3μm以上、より好ましくは0.65μm以上、さらに好ましくは1μm以上とすることで、染色後の発色性に優れ、起毛処理時の繊維の分散性やさばけ易さにも優れる。
【0020】
また極細繊維は、繊維束内の繊維直径CVが10%以下であることが好ましい。ここで繊維直径CVとは、繊維束を構成する繊維の繊維直径標準偏差を束内平均繊維直径で割った値を百分率(%)表示したものであり、値が小さいほど均一であることを示すものである。繊維直径CVを10%以下とすることで、シート状物表面の立毛の外観が優美で、また染色も均質で良好なものとすることができる。
【0021】
複合繊維を含んでなる布帛の種類としては、織物、編物、不織布およびそれらの複合体等を適宜使用することができる。布帛は異なる素材の繊維が混合されて構成されていても良く、また布帛の内部に強度を向上させるなどの目的で、織物や編物を挿入しても良いが、風合いおよび品位の点で不織布を用いることが好ましい。
【0022】
また不織布としては、短繊維不織布、長繊維不織布のいずれでもよいが、風合いや品位の点からは短繊維不織布が好ましい。
【0023】
短繊維不織布における短繊維の繊維長としては、25〜90mmが好ましい。90mm以下とすることで、風合いや品位に優れる。また25mm以上とすることで、絡合による耐摩耗性に優れる。また短繊維不織布における短繊維には、捲縮加工を施すことが、良好な絡合状態を得られることから好ましい。
【0024】
短繊維不織布を得る方法としては、ニードルパンチ、ウォータージェットパンチ等を用いることができる。
【0025】
本発明で用いるポリウレタン液は、水分散型ポリウレタン液とすることが重要である。水分散型ポリウレタン液は有機溶剤を用いなくてもよい点で環境保全上好ましく、本発明は水分散型ポリウレタン液を用いても柔軟な風合いを有するポリウレタン付繊維シート状物を提供することを課題としている。
【0026】
水分散型ポリウレタンは、ポリマージオール、ポリイソシアネート、鎖伸長剤、内部架橋剤を適宜反応させた構造を有するものを用いることができる。
【0027】
かかるポリマージオールの例としては、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等が挙げられる。ポリエステルジオールとしては、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリネオペンチルアジペート等のポリアジピン酸、ポリカプロラクトン等を用いることができる。また、ポリエーテルジオールとしてはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)等を挙げることができ、これらを単独あるいは混合して使用することができる。また、ポリカーボネートジオールとしてはヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等のグリコールとアルキルカーボネートあるいはホスゲン等を反応させて得られるポリアルキレンカーボネートポリオールを例示することができる。
【0028】
かかるポリマージオールは単独あるいは混合して用いることができるし、重合時に原料を混合することにより得られる共重合ポリマージオールも好適に用いることができる。
【0029】
かかるポリマージオールの分子量としては数平均分子量で500〜10000が好ましく、700〜5000がより好ましく、1000〜3000がさらに好ましい。
【0030】
また、かかるポリマージオール1分子あたりの水酸基の数を2以上にすることにより、ポリウレタンに架橋構造を導入することもできる。
【0031】
また、必要に応じて比較的低分子のポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンプロピレングリコール、ポリオキシエチレンテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の低分子量多価アルコール、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの低分子量アルキレンポリアミンにエチレンオキサイドを単独であるいはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの1種または2種以上を付加した親水成分をポリマージオールと混合して用いることができる。
【0032】
また、ポリウレタンを重合する際に用いるジイソシアネートとしては、従来から知られているものを使用することができ、例としてイソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジククロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ノルボランジイソシアネートを挙げることができ、これらを単独あるいは混合して用いることができる。
【0033】
またポリウレタンを重合する際に用いる鎖伸長剤としてはイソシアネート基と反応しうる活性水素を2個以上含む低分子化合物を使用することができ、例としてヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、およびその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン等のジアミンが挙げられる。
【0034】
水分散型ポリウレタン液は、必要に応じてポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、シリコーン、ポリウレタン等の水分散液や染料、カーボンブラック等の顔料、防カビ剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤などの耐光剤、難燃剤、浸透剤や滑剤、シリカや酸化チタン等のアンチブロッキング剤、帯電防止剤、抗菌剤、消臭剤、シリコーンオイル等の消泡剤、セルロース等の充填剤、ポリウレタン凝固調整剤等を添加して用いてもよい。
【0035】
水分散型ポリウレタン液は、感熱ゲル化性を有することが重要である。そうすることで、布帛に含浸し加熱乾燥する際のポリウレタンのマイグレーション現象を抑制することができる。水分散型ポリウレタン液の感熱ゲル化温度としては、50〜100℃が好ましい。100℃以下とすることで、マイグレーション現象を効率良く抑制することができる。また50℃以上とすることで、後述するように水分散型ポリウレタン液を布帛に含浸させる時点で直ちに感熱ゲル化が開始してしまうのを防ぐことができ、またさらに安定した貯蔵性を得ることができる。
【0036】
水分散型ポリウレタン液の濃度(水分散型ポリウレタン液に対する水分散型ポリウレタンの含有量)としては、水分散型ポリウレタン液の貯蔵安定性と、布帛へ含浸し、乾燥する際のマイグレーション現象抑制の観点から、15〜45質量%が好ましい。
【0037】
本発明においては、布帛に水分散型ポリウレタン液を含浸させる際の当該水分散型ポリウレタン液の温度としては、50〜95℃とすることが重要である。50℃以上とすることで、水分散型ポリウレタン液に、該布帛に含まれる複合繊維の熱水可溶性ポリマーの一部が溶出する。これが水分散型ポリウレタン液と混ざり、凝固して、その後に熱水処理を施して熱水可溶性ポリマーを溶解除去することによって多孔構造のポリウレタンが形成される。これにより、柔軟な風合いを有するポリウレタン付繊維シート状物を得ることができる。
【0038】
また、布帛に含浸させる際の水分散型ポリウレタン液の温度は、該水分散型ポリウレタン液の感熱ゲル化温度よりも低いことが重要である。そうすることで、水分散型ポリウレタン液を布帛に含浸させる時点で直ちに感熱ゲル化が開始してしまうのを防ぐことができる。
【0039】
水分散型ポリウレタン液の布帛への含浸時間としては、5秒〜1分が好ましい。5秒以上とすることで、効率良く熱水可溶性ポリマー成分が溶出してポリウレタン液に混ざる。また1分以下とすることで、熱水溶解性ポリマー成分が多量に溶出し過ぎて水分散型ポリウレタンの凝固性を低下させるのを防ぐことができる。
【0040】
ポリウレタンを凝固させる方法としては、乾熱凝固、湿熱凝固、およびそれらの組み合わせ等を採用することができる。
【0041】
乾熱凝固における乾燥温度としては、80〜180℃が好ましい。80℃以上、より好ましくは90℃以上とすることで、乾燥時間を抑えることができる。また180℃以下、より好ましくは160℃以下とすることで、ポリウレタンの熱劣化を防ぐことができる。
【0042】
ポリウレタンを凝固させた後に布帛を熱水で処理して、極細繊維を発現させるとともに、ポリウレタン中の熱水溶解性ポリマー成分を溶出させて多孔構造のポリウレタン弾性体を得ることができる。また、ポリウレタンの凝固後に極細繊維が発現することから、ポリウレタン弾性体と極細繊維との間に空隙を生成させることができ、ポリウレタンと極細繊維とが実質的に密着していない構造となることから、柔軟なシート状物を得ることができる。ここでいう実質的に密着していないとは、シート状物の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を倍率300倍で観察した際に、ポリウレタンが極細繊維に接着しておらず、ポリウレタンと極細繊維の間に空隙が存在することを確認できることをいう。部分的には接している場合も許容される。
【0043】
かかる熱水処理の温度としては、50℃以上が好ましい。50℃以上、より好ましくは80℃以上とする事で、繊維の極細化およびポリウレタンの多孔構造化に要する時間を短縮する事ができる。
【0044】
得られるポリウレタン弾性体の多孔構造としては、微孔を多数有するもののほか、連通孔であってもよい。また、多孔構造の孔の平均直径としは、風合いの点からは5〜200μmが好ましい。
【0045】
シート状物における繊維に対する水分散型ポリウレタンの含有量としては、20〜200質量%が好ましい。20質量%以上、より好ましくは30質量%以上とすることで、シート強度を得て、かつ繊維の脱落を防ぐことができる。また、200質量%以下、より好ましくは180質量%以下とすることで、風合いが必要以上に硬くなるのを防ぎ、目的とする良好な品位を得ることができる。
【0046】
シート状物には、起毛処理を施すことも好ましい。そうすることで、スエード調やヌバック調のものを得ることができる。起毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて施すことができる。起毛処理の前にシリコーンエマルジョンなどの滑剤を付与してもよい。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与することは、研削によってシート状物から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなるので好ましい。
【0047】
また、シート状物は、起毛処理を行う前に、シート厚み方向に半裁、ないしは数枚に分割して得ることも生産効率上好ましい。
【0048】
シート状物には、染色を施すことも好ましい。染色手段としては、シート状物を染色すると同時に揉み効果を与えてシート状物を柔軟化することができることから、液流染色機を用いることが好ましい。
【0049】
染色温度は繊維の種類により変更するのがよく、一般に80〜150℃が好ましい。80℃以上、より好ましくは110℃以上とすることで、繊維への染着を効率良く行うことができる。また、150℃以下、より好ましくは130℃以下とすることで、ポリウレタン弾性体の劣化を防ぐことができる。
【0050】
染料は布帛を構成する繊維にあわせて選択すればよく、例えばポリエステル系繊維であれば分散染料、ポリアミド系繊維であれば酸性染料や含金染料を用いることができる。
【0051】
染色後に還元洗浄を行ってもよい。また、染色時に染色助剤を使用することは染色の均一性や再現性を向上させる上で好ましい。また、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤等の仕上げ剤処理を施してもよく、仕上げ処理は染色後でも、染色と同浴でもよい。
【0052】
本発明で得られるシート状物は、天然皮革のようなスエード、ヌバック、銀面等の優れた表面外観を有し、スエードやヌバックといった立毛調の外観において、滑らかなタッチと優れたライティングエフェクトを有するものである。
【実施例】
【0053】
[評価方法]
(1)平均単繊維直径
布帛表面、またはシート状物表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を倍率2000倍で撮影し、円形または円形に近い楕円形の繊維をランダムに100本選び、繊維径を測定する。100本の平均値を計算することで算出した。
【0054】
(2)繊維直径CV
上記(1)により繊維径を測定し、繊維束を構成する繊維の繊維直径標準偏差を束内平均繊維直径で割った値を百分率(%)で表した。5つの束状繊維について、同様の測定を行い、5つの平均値を繊維直径CVとした。
なお、異形断面の場合の繊維直径CVは異形断面の外周円を元に算出する。
【0055】
(3)水分散型ポリウレタン液の感熱ゲル化温度
試験管に固形分濃度10質量%のポリウレタン水分散液を10g入れ、100℃の恒温熱水浴中で昇温し、ポリウレタン水分散液が流動性を失ってゲル化・凝固するときの温度を感熱ゲル化温度とした。
【0056】
(4)シート状物断面のポリウレタン構造の確認
シート状物の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率300倍にて観察し、その写真からポリウレタンと繊維の接着状態、ポリウレタン部分の構造を確認した。
【0057】
(5)外観品位
健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、下記の評価を目視と官能評価にて判別を行い、最も多かった評価を採用した。
◎ :タッチ・シワの状態共に天然皮革様で非常に良好である。
○ :タッチ・シワの状態共に良好である。
× :タッチは良好であるが、シワの状態が不良。または、シワの状態は良好であるが、タッチが不良である。
××:タッチ・シワの状態共に不良である。
(6)風合い
健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、下記の評価を触感で判別を行い、最も多かった評価を採用した。
○ : 非常に柔軟であり、かつ適度な反発感がある。
× : 柔軟であるが、反発感がない。または、反発感はあるが、硬い。
××: 硬い。
【0058】
[実施例1]
(不織布)
海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸12.5モル%とイソフタル酸26モル%を共重合した共重合ポリエチレンテレフタレートを45質量部、島成分としてPETを55質量部からなる割合で、1フィラメント中に島成分が36島含まれる形態の海島型に複合し、紡糸・延伸し、スタフィングボックスにより捲縮を付与してカットし、平均繊維直径が16μm、繊維長51mmの海島型複合繊維のステープルを得た。このステープルを用いて、カード、クロスラッパーを通してウェブを形成し、ニードルパンチ処理により、不織布とした。
【0059】
(水分散型ポリウレタン液)
非イオン系強制乳化型ポリウレタンエマルジョン(エーテル系)に、感熱ゲル化剤として硫酸ナトリウムをポリウレタン固形分対比4質量%添加し、ポリウレタン液濃度が10質量%となるように水分散型ポリウレタン液を調整した。この水分散型ポリウレタン液の感熱ゲル化温度は75℃であった。
【0060】
(ポリウレタン付与)
上記不織布に、上記水分散型ポリウレタン液を60℃に加熱したものを2分間含浸し、乾燥温度125℃で10分熱風乾燥して、ポリウレタンの付着量が不織布の島成分に対して80質量%であるポリウレタン付シートを得た。
【0061】
(脱海)
上記ポリウレタン付シートを90℃に加熱した熱水に30分間、浸漬して不織布およびポリウレタンに含まれる共重合ポリエチレンテレフタレートを除去し、脱海シートを得た。
【0062】
(半裁・起毛・染色)
上記脱海シートを厚さ方向に半裁し、半裁面と反対となる面を240メッシュのエンドレスサンドペーパーを用いた研削によって起毛処理した後、サーキュラー染色機にて分散染料により染色を行い、皮革様シート状物を得た。
得られた皮革様シート状物の繊維の平均単繊維直径は2μm、繊維直径CVは7.4%であった。また、ポリウレタンは多孔構造であり、この皮革様シート状物の外観品位、風合いは良好であった。
【0063】
[実施例2]
(不織布)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0064】
(水分散型ポリウレタン液)
非イオン系強制乳化型ポリウレタンエマルジョン(エーテル系)に、感熱ゲル化剤として硫酸ナトリウムをポリウレタン固形分対比3質量%添加し、ポリウレタン液濃度が10質量%となるように水分散型ポリウレタン液を調整した。この水分散型ポリウレタン液の感熱ゲル化温度は80℃であった。
【0065】
(ポリウレタン付与〜染色)
上記水分散型ポリウレタン液を用い、不織布に含浸する際の水分散型ポリウレタン水分散液の温度を65℃にした以外は実施例1と同様にしてポリウレタン付与から染色までを行い、皮革様シート状物を得た。
得られた皮革様シート状物の繊維の平均単繊維直径は2.1μm、繊維直径CVは7.5%であった。また、ポリウレタンは多孔構造であり、この皮革様シート状物の外観品位、風合いは良好であった。
【0066】
[実施例3]
(不織布)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0067】
(水分散型ポリウレタン液)
非イオン系強制乳化型ポリウレタンエマルジョン(エーテル系)に、感熱ゲル化剤として硫酸ナトリウムをポリウレタン固形分対比5質量%添加し、ポリウレタン液濃度が10質量%となるように水分散型ポリウレタン液を調整した。この水分散型ポリウレタン液の感熱ゲル化温度は60℃であった。
【0068】
(ポリウレタン付与〜染色)
上記水分散型ポリウレタン液を用い、不織布に含浸する際の水分散型ポリウレタン水分散液の温度を50℃にした以外は実施例1と同様にしてポリウレタン付与から染色までを行い、皮革様シート状物を得た。
得られた皮革様シート状物の繊維の平均単繊維直径は2.2μm、繊維直径CVは7.6%であった。また、ポリウレタンは多孔構造であり、この皮革様シート状物の外観品位、風合いは良好であった。
【0069】
[実施例4]
(不織布)
海成分としてポリエチレン−ポリ酢酸ビニル−ポリビニルアルコール共重合体を45質量部、島成分として6−ナイロンが55質量部からなる割合で、1フィラメント中に島成分が16島含まれる形態の海島型に複合し、紡糸・延伸し、スタフィングボックスにより捲縮を付与してカットし、平均繊維直径が19μm、繊維長51mmの海島型複合繊維のステープルを得た。このステープルを用いて、カード、クロスラッパーを通してウェブを形成し、ニードルパンチ処理により、不織布とした。
【0070】
(水分散型ポリウレタン液)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0071】
(ポリウレタン付与)
上記不織布に、上記水分散型ポリウレタン液を60℃に加熱したものを2分間含浸し、乾燥温度125℃で10分熱風乾燥して、ポリウレタンの付着量が不織布の島成分に対して85質量%であるポリウレタン付シートを得た。
【0072】
(脱海〜染色)
上記ポリウレタン付シートを用い、実施例1と同様にして脱海から染色までを行い、皮革様シート状物を得た。
得られた皮革様シート状物の繊維の平均単繊維直径は2.4μm、繊維直径CVは7.4%であった。また、ポリウレタンは多孔構造であり、この皮革様シート状物の外観品位、風合いは良好であった。
【0073】
[実施例5]
(ダブルラッセル編物)
海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸12.5モル%とイソフタル酸26モル%を共重合した共重合ポリエチレンテレフタレートを80質量部、島成分としてPETが20質量部からなる割合で、1フィラメント中に島成分が8島含まれる形態の海島型に複合し、紡糸・延伸し、平均繊維直径が91μm、36フィラメントの海島型繊維糸をパイル糸とした。また、PETからなり繊維直径91μm、36フィラメントの加工糸をグランド糸とした。これらのパイル糸およびグランド糸を用い、ダブルラッセル編機にて釜間4mmの条件で編成し、二重接結構造の編物を得た。
【0074】
(水分散型ポリウレタン液)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0075】
(ポリウレタン付与)
上記ダブルラッセル編物に、上記水分散型ポリウレタン液を60℃に加熱したものを2分間含浸し、乾燥温度125℃で10分熱風乾燥して、ポリウレタンの付着量が脱海後のパイル編物に対して50質量%であるポリウレタン付編物を得た。
【0076】
(半裁)
上記ポリウレタン付編物の接結部(パイル部を形成する部分の中央)を半裁して、ポリウレタン付パイル編物を得た。
【0077】
(脱海)
上記ポリウレタン付パイル編物に対して実施例1と同様にして脱海処理を行い、脱海シートを得た。
【0078】
(染色)
上記脱海シートに対してサーキュラー染色機にて分散染料により染色を行い、極細繊維からなるパイルを有するシート状物を得た。
得られたシート状物のパイル糸の繊維の平均単繊維直径は4.8μm、繊維直径CVは7.4%であった。また、ポリウレタンは多孔構造であり、このシート状物の外観品位、風合いは良好であった。
【0079】
[比較例1]
(不織布・水分散型ポリウレタン液)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0080】
(ポリウレタン付与〜染色)
不織布に含浸する際の水分散型ポリウレタン液の温度を20℃にした以外は実施例1と同様にしてポリウレタン付与から染色までを行い、シート状物を得た。
得られたシート状物の繊維の平均単繊維直径は2μm、繊維直径CVは7.5%であった。この皮革様シート状物におけるポリウレタンは無孔構造であり、風合いは硬く不良であった。
【0081】
[比較例2]
(不織布・水分散型ポリウレタン液)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0082】
(ポリウレタン付与〜染色)
不織布に含浸する際の水分散型ポリウレタン液の温度を80℃にした以外は実施例1と同様にしてポリウレタン付与から染色までを行い、シート状物を得た。
得られたシート状物の繊維の平均単繊維直径は2.2μm、繊維直径CVは7.6%であった。この皮革様シート状物のポリウレタンは多孔構造であったが、ポリウレタンが不均一に付着しており風合いは硬く、外観品位は不良であった。
【0083】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の製造方法により得られるシート状物は、家具、椅子、壁材や、自動車、電車、航空機などの車輛室内における座席、天井、内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する内装材、シャツ、ジャケット、鞄、ベルト、財布、カジュアルシューズ、スポーツシューズ、紳士靴、婦人靴等の靴のアッパー、トリム等、及びそれらの一部に使用した衣料用資材、CDカーテン、DVDカーテン、研磨布、ワイピングクロス等の工業資材として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱水可溶性ポリマーを有する複合繊維を含んでなる布帛に、水分散型ポリウレタン液を含浸させてポリウレタンを付与する工程を含んでなり、前記水分散型ポリウレタン液が感熱ゲル化性を有し、布帛に含浸させる際の前記水分散型ポリウレタン液の温度が50〜95℃でありかつその感熱ゲル化温度よりも低いことを特徴とするシート状物の製造方法。

【公開番号】特開2010−216034(P2010−216034A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63957(P2009−63957)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】