説明

シート状複合材料及びその製造方法

【課題】電場により有機樹脂マトリックス内にフィラーを所定方向に配向させたシート状複合材料を提供すること。
【解決手段】本発明のシート状複合材料10は、フィラー1と、有機樹脂3とを含有するものであり、有機樹脂マトリックス内にフィラー1が樹枝状に凝集し厚み方向に配向していることを特徴とする。これにより、フィラーを単に分散処理した従来の複合材料に比べて、誘電特性、導電性、熱伝導性等の特性を飛躍的に向上させることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシート状複合材料及びその製造方法に関し、より詳細には誘電特性等に優れ、プリント配線板、コンデンサ、半導体封止樹脂パッケージ等の電子・電気部品として有用なシート状複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機樹脂マトリックス内に1種類以上のフィラーを分散化処理した複合材料は、多岐の分野に亘って使用されている。しかしながら、現在使用されている複合材料は、有機樹脂マトリックス中にフィラーをボールミル等で単に分散化処理したものに過ぎないため、長期間放置すると、有機樹脂よりも密度の大きなフィラーは沈降して密度ムラを生じやすく、均質な複合材料が得難いという問題がある。
【0003】
このような問題を解決すべく、外部場を利用して有機樹脂マトリックス内でフィラーを所定方向に配向させ、その配向状態を固定化しようとする試みが検討されている。外部場としては、流動場、磁場、電場、超音波場等が使用されており、例えば、特許文献1には絶縁性高分子材料に導電性強磁性粒子を分散させた複合材料を、対向する一対の金型磁極間に配置し磁場を印加して導電性強磁性粒子を局在化させるとともに、絶縁性高分子材料を硬化させることにより、導電性強磁性粒子をシートの厚さ方向に配向させた異方性導電シートが提案されている。
【0004】
しかしながら、磁界強度が電磁石レベルの磁場を使用する場合には、使用できるフィラーの種類がFe、Ni、Co系の強磁性体材料に限定されてしまうという問題がある。また、超伝導磁石を用いれば強い磁界強度が得られ、強磁性体以外の材料も適用することが可能になるが、超伝導磁場発生装置は高価であり、また超伝導磁場発生面積が100mm□程度に限定されてしまう等の問題もある。
【0005】
一方、外部場として電場を使用すれば、強磁性体材料以外の無機材料にも適用できるという利点がある。例えば、特許文献2には、ベースポリマーと、高誘電率粉体とを混練した後、溶剤を加えて粘度調整したペーストを導電性基材上に塗布して得た薄膜に電場を印加し高誘電率電気・電子部品を製造する方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2には、薄膜に電場を印加することで高誘電率粉末を所定方向に配向させることが可能であるとの報告がなく、しかも示唆さえもない。更に、本発明者等の検討によれば、特許文献2に記載の方法にしたがいエポキシ樹脂を有機溶剤(MEK)に溶解しチタン酸バリウムを添加して分散化処理した複合材料に電場を印加し加熱硬化しても、チタン酸バリウムが配向しないだけでなく、実用に耐える複合材料を得ることができないという知見を得た。加えて、上記ペーストを乾燥し有機溶剤を除去して得た塗膜に電場を印加した場合にも同様の結果が得られた。このように、電場により有機樹脂マトリックス内でフィラーを所定方向に配向させる技術が未だ確立していないのが実情である。
【特許文献1】特開2001−185261号公報
【特許文献2】特開2004−193411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、電場により有機樹脂マトリックス内にフィラーを所定方向に配向させたシート状複合材料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記問題点に鑑みて鋭意検討を行なったところ、上述のように電場により有機樹脂マトリックス内に所定方向に配向させたフィラーを含有する複合材料を得ることができない要因が、電場印加や加熱硬化の際に、ペースト中の有機溶剤が揮発すると共に、複合材料が電極の外周部に押し出されることにあるとの知見を得た。そして、かかる知見に基づき更に研究を重ねた結果、有機溶剤を用いることなく有機樹脂マトリックス内にフィラーが分散した複合材料を調製し、これに交流電圧を印加すれば、有機樹脂マトリックス内でフィラーが所定方向に配向した複合材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)有機樹脂マトリックス内に、フィラーが樹枝状に凝集し厚み方向に配向している、シート状複合材料。
(2)フィラーの配向度が1.05よりも大きい、上記(1)記載のシート状複合材料。
(3)フィラーが有機樹脂よりも高い誘電率を有する、上記(1)又は(2)記載のシート状複合材料。
(4)フィラーが無機粒子及び無機繊維のうちの少なくとも1種である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のシート状複合材料。
(5)フィラーの含有量が有機樹脂に対して5〜60体積%である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のシート状複合材料。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のシート状複合材料からなり、フィラーとして誘電性無機粒子及び誘電性無機繊維のうちの少なくとも1種を含有する、誘電性シート。
(7)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のシート状複合材料からなり、フィラーとして熱伝導性無機粒子及び熱伝導性無機繊維のうちの少なくとも1種を含有する、熱伝導シート。
(8)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のシート状複合材料からなり、フィラーとして導電性無機粒子及び導電性無機繊維のうちの少なくとも1種を含有する、異方性導電シート。
【0010】
(9)有機溶剤を用いることなく有機樹脂とフィラーとを混練して、有機樹脂マトリックス内にフィラーが分散した、0.30重量%以下の水分量の複合材料を得る混練工程と、複合材料を電極に塗布するか、又は電極間に注入若しくは配置し、交流電圧を印加してフィラーを所定方向に配向させる電場処理工程と、配向したフィラーを有機樹脂マトリックス内に固定する固定化工程とを有する、有機樹脂マトリックス内にフィラーが所定方向に配向しているシート状複合材料の製造方法。
(10)有機溶剤を用いることなく有機樹脂とフィラーとを混練して、有機樹脂マトリックス内にフィラーが分散した、0.30重量%以下の水分量の複合材料を得る混練工程と、複合材料を樹脂製フィルムで被覆し、これに交流電圧を印加してフィラーを所定方向に配向させる電場処理工程と、配向したフィラーを有機樹脂マトリックス内に固定する固定化工程とを有する、有機樹脂マトリックス内にフィラーが所定方向に配向しているシート状複合材料の製造方法。
(11)電場処理工程において、フィラーを樹枝状の凝集体として厚み方向に配向させる、上記(9)又は(10)記載の製造方法。
(12)フィラーが有機樹脂よりも高い誘電率を有する、上記(9)〜(11)のいずれかに記載の製造方法。
(13)フィラーが無機粒子及び無機繊維のうちの少なくとも1種である、上記(9)〜(12)のいずれかに記載の製造方法。
(14)混練工程において、平均粒径が1μm以上であるフィラーと、該フィラー(A)と有機樹脂(B)との誘電率の比(A/B)が10以上となる有機樹脂とを用いて複合材料を調製し、電場処理工程において、複合材料に電界強度が0.1kV/mm以上の交流電圧を印加する、上記(9)〜(13)のいずれかに記載の製造方法。
(15)混練工程において、平均粒径が1μm以上であるフィラーと、該フィラー(A)と有機樹脂(B)との誘電率の比(A/B)が10未満となる有機樹脂とを用いて複合材料を調製し、電場処理工程において、複合材料に電界強度が1kV/mm以上の交流電圧を印加する、上記(9)〜(13)のいずれかに記載の製造方法。
(16)混練工程において、平均粒径が1μm未満であるフィラーと、該フィラー(A)と有機樹脂(B)との誘電率の比(A/B)が10以上となる有機樹脂とを用いて複合材料を調製し、電場処理工程において、複合材料に電界強度が1kV/mm以上の交流電圧を印加する、上記(9)〜(13)のいずれかに記載の製造方法。
(17)混練工程において、平均粒径が1μm未満であるフィラーと、該フィラー(A)と有機樹脂(B)との誘電率の比(A/B)が10未満となる有機樹脂とを用いて複合材料を調製し、電場処理工程において、複合材料に電界強度が10kV/mm以上の交流電圧を印加する、上記(9)〜(13)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有機樹脂マトリックス内でフィラーが樹枝状に凝集し厚み方向に配向しているシート状複合材料を提供することができる。これにより、フィラーを単に分散処理した従来の複合材料に比べて、誘電特性、導電性、熱伝導性等の特性を飛躍的に向上させることが可能になるため、本発明のシート状複合材料は、プリント配線板、コンデンサ、半導体封止樹脂パッケージ等の電子・電気部品をはじめとする多岐の分野に有用である。また、本発明の製造方法によれば、外部場として電場を使用するためにフィラーとして多種材料を使用することができ、また特に高価な製造装置も必要としないために誘電特性、導電性、熱伝導性等に優れるシート状複合材料を簡便かつ安価に提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0013】
(シート状複合材料)
本発明のシート状複合材料は、有機樹脂マトリックス内に、フィラーが樹枝状に凝集し厚み方向に配向していることを特徴とする。
【0014】
図1は、シート状複合材料の一実施形態を示す図である。
図1(a)はシート状複合材料10の斜視図であり、図1(b)はシート状複合材料10のIa−Ia線に沿って取られた模式断面図である。本実施形態に係るシート状複合材料10においては、有機樹脂マトリックス内でフィラー1が厚み方向(z軸方向)に延びる帯状又は鎖状の凝集体を形成しており、更にそれを幹としてフィラー1の凝集体が分岐した構成を有している。また、その凝集体の端部は、少なくとも一方の表面に露出している。すなわち、フィラー1の凝集体は、全体で樹枝状の形態をなし、厚み方向(z軸方向)に配向している。また、有機樹脂マトリックス内には、フィラー1の凝集体が複数存在しており、隣接する凝集体は互いに連結して、例えば網目構造(例えば、ハニカム、はしご)を形成していてもよい。
【0015】
このように、本実施形態に係るシート状複合材料においては、フィラーの凝集体が厚み方向に配列しているだけでなく分岐しているため、柱状のフィラーが厚み方向にのみ配向している従来の複合材料に比べて伝導経路が増加し、電気や熱の伝導効率を高めることが可能になる。その結果、シート状複合材料の誘電特性、導電性、熱伝導性を格段に向上させることができる。よって、本実施形態に係るシート状複合材料は、プリント配線板やコンデンサ等の高誘電性を必要とする電気・電子部品(例えば、誘電性シート)、プリント配線板や半導体封止樹脂パッケージ等の高熱伝導性を必要とする電気・電子部品(例えば、熱伝導性シート)、あるいはIC等の機能素子とプリント配線板等とを微細にかつ多点箇所を同時に電気的に接続するための電気・電子部品(例えば、異方性導電シート)等として好適である。
【0016】
また、図2は、シート状複合材料の他の実施形態を示す模式断面図である。
図2(a)に示すシート状複合材料20においては、幹を構成する凝集体が厚み方向(z軸方向)に対して傾斜して配向している点で、z軸方向に配向しているシート状複合材料10と配向方向が相違しているが、他の構成はシート状複合材料10と同様である。よって、シート状複合材料10と同様に良好な誘電特性、導電性、熱伝導性を有することが可能であり、誘電性シート、熱伝導性シート、異方性導電シート等として好適である。
【0017】
上述のように、本発明のシート状複合材料を構成するフィラーは厚み方向に配向しているが、その配向度が1.05よりも大きいことを特徴とする。ここで、配向度とは、以下の方法により算出される値をいう。すなわち、走査型電子顕微鏡(SEM、型式S−4700、日立製作所(株)製)を用いてSEM写真を撮影し、シート断面のSEM像をトリミング(512×512ピクセル、25.4μm×25.4μm)する。次いで、画像処理ソフト(ImageJ、アメリカ国立衛生研究所製)を用いて画像を2次元フーリエ変換し、画像全体の約20%の幅(中心から100ピクセル幅)を平均化したプロファイルを抽出する。次いで、ガウス関数でフィッティング(フィッティング範囲は全体の30%、150ピクセル)し、フィットした関数における、縦方向(電場に対して平行方向)の半値幅C及び横方向(電場に対して垂直方向)の半値幅Dを計測する。そして、D/C比を配向度として算出する。なお、カーブフィッティングには、グラフ作成ソフト(IGOR、WaveMetrics社製)を使用する。
【0018】
上記方法により算出されるフィラーの配向度は、通常1.05よりも大きく、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.2以上、更に好ましくは1.3以上である。このような配向度とすることにより、プリント配線板、コンデンサ、半導体封止樹脂パッケージ等の電子・電気部品に求められている、誘電特性、導電性、熱伝導性といった各種特性を格段に向上させることができる。
【0019】
また、シート状複合材料中の水分量は、0.30重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.20重量%以下、更に好ましくは0.10重量%以下であり、特に好ましくは0.05重量%以下である。このような水分量とすることで、誘電特性、導電性、熱伝導性等の特性をより向上させることが可能になる。なお、本明細書において水分量とは、JIS K 0068に準拠して測定されるものをいう。
シート状複合材料の厚みは、使用目的に応じて適宜設定することができるが、通常10〜500μm、好ましくは50〜200μmである。
【0020】
次に、本発明のシート状複合材料の構成成分について説明する。
有機樹脂は、複合材料においてマトリックスとして機能し、加工性、柔軟性といった特性を複合材料に付与することができる。有機樹脂としては、電場を印加した際に有機樹脂マトリックス内でフィラーが移動できる程度に流動性を有するものが好適に使用される。すなわち、フィラーの含有量が低い場合には、相対的に有機樹脂の粘度が高くても、電場の印加により有機樹脂マトリックス内でフィラーを移動させて所望の配向状態を得ることができるが、フィラーの含有量が高い場合には、相対的に有機樹脂の粘度を低くしなければ所望の配向状態を得難くなる。したがって、電場を印加した場合に、有機樹脂マトリックス内でフィラーが容易に移動できるように、有機樹脂の粘度及びフィラーの含有量を調整することが望ましい。
【0021】
有機樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、電子線(EB)硬化性樹脂等が好適である。また、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂の場合、室温において液状又は流動性を有するものが好適に使用される。有機樹脂の粘度は、フィラーの性状(例えば、含有量、粒径、形状、表面粗さ(表面摩擦抵抗))や、電場印加条件(例えば、電場周波数、電界強度、印加時間、温度)等によって一様ではないが、例えば、25℃における粘度が通常10〜2,000mPa・S、好ましくは10〜200mPa・Sである。ここで、粘度とは、JIS 7117−1に準拠してB型粘度計により測定されるものをいう。
【0022】
熱可塑性樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルホン等が挙げられ、中でもポリイミド樹脂が好適である。
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイド樹脂、シアネ−ト樹脂等が挙げられ、中でもエポキシ樹脂が好適である。エポキシ樹脂としては、主剤としての脂肪族ポリグリシジルエーテル等の脂肪族系エポキシ樹脂に、硬化剤(例えば、酸無水物)及び硬化促進剤(例えば、三級アミン、ルイス酸塩基型触媒)を混合した液状のエポキシ樹脂が好適に使用される。なお、これら各成分の配合割合は、目的に応じて適宜設定することが可能である。
光硬化性樹脂としては、紫外線(UV)硬化性樹脂等が挙げられる。光又は電子線硬化性樹脂としては、例えば、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート等のオリゴマー、反応性希釈剤及び光重合開始剤(例えば、ベンゾイン系、アセトフェノン系等)を混合した液状の硬化性樹脂が好適に使用される。なお、これら各成分の配合割合も、目的に応じて適宜設定することが可能である。
【0023】
フィラーは、誘電特性、導電性、熱伝導性といった特性を複合材料に付与するための分散質である。フィラーとしては、マトリックス樹脂よりも高い誘電率を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、セラミックス、金属、合金、有機樹脂が挙げられる。また、フィラーの形状は特に限定されるものではないが、例えば、球状、楕円状、針状、板状、繊維状等が挙げられ、中でも球状、繊維状が好適である。なお、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
フィラーとして、通常、無機粒子、無機繊維、有機樹脂粒子等が使用され、中でも無機粒子、無機繊維が好適である。無機粒子としては、例えば、金属又は非金属の、炭化物、窒化物、酸化物等が挙げられ、具体的には、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、スズ系酸化物、スズ−アンチモン系酸化物、酸化チタン/スズ−アンチモン系酸化物、インジウム−スズ系酸化物等の無機粉末が挙げられる。無機繊維としては、例えば、チタン酸バリウム、アルミナ、シリカ、炭素等のセラミックス繊維や、鉄、銅等の金属繊維が挙げられ、中でもチタン酸バリウム等のセラミックス繊維が好適である。また、有機樹脂粒子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂又はそれらの混合物等の粉末が挙げられる。例えば、アクリル系樹脂粒子(例えば、架橋アクリル粒子、非架橋アクリル粒子)はMXシリーズ、MRシリーズ、MPシリーズ(以上、商品名、綜研化学(株))として、またポリスチレン樹脂粒子(例えば、架橋ポリスチレン粒子)はSXシリーズ、SGPシリーズとして商業的に入手することが可能である。
【0024】
また、例えば、金属粒子をコアとし、その外表面を無機酸化物で被覆した2層構造を有する粒子(コア/シェル2層構造粒子)を使用してもよい。具体的には、銅粒子をコアとし、その外表面をチタン酸バリウムで被覆した2層構造粒子が挙げられる。さらに、形状の異なるフィラーを組み合わせて使用することができ、例えば、カーボンナノチューブのような直径がnmサイズの無機繊維と、球状の無機粒子とを組み合わせて使用すると、これらが鎖状に結合したフィラーの凝集体を得ることができる。図2(b)は、フィラー1として無機繊維1aと無機粒子1bとを組み合わせたシート状複合材料30の模式断面図であるが、このような構成により、より少ないフィラーの含有量で優れた誘電特性、導電性、熱伝導性を発現することが可能になる。
【0025】
フィラーとして無機粒子又は有機樹脂粒子を用いる場合、粒度分布においてばらつきのない、略均一の粒径を有するものが好適に使用される。フィラーの平均粒径は、通常0.5nm〜100μm、好ましくは10nm〜20μm、より好ましくは100nm〜10μmである。粒径が0.5nm未満であると、フィラーのブラウン運動によって電場に対する応答性が悪化する傾向にある。他方、100μmを超えると、重力によりフィラーが沈降しやすくなるため所望の配向状態を得難くなる。
ここで、本明細書において、平均粒径とは、使用するフィラーをレーザ回折式粒度分布測定装置(形式LA−920、株式会社堀場製作所製)にて測定し得られる平均粒径(D50)を意味する。また、平均粒径が0.1μm以下の場合には、動的光散乱式粒度分布測定装置(型式N5、バックマンコールタ社製)にて測定し得られる平均粒径(D50)をいう。
また、無機繊維としては、繊維径が通常1nm〜10μm、好ましくは10nm〜1μmであり、繊維長が通常10nm〜100μm、好ましくは0.1〜100μmであるものが使用され、そのアスペクト比は通常10以上、好ましくは100以上μmである。
【0026】
フィラーの含有量は、マトリックスを構成する有機樹脂に対して、好ましくは5〜60体積%、より好ましくは10〜40体積%、更に好ましくは20〜30体積%である。5体積%未満であると、電場を印加した際にフィラーが連続的でなく断続的に配向するため所望の配向状態を得難くなる。他方、60体積%を超えると、複合材料を調製し難くなり、またシートの加工性や柔軟性が低下する傾向にある。
【0027】
また、本発明のシート状複合材料は、所望の特性を有するフィラーを含有することで使用目的に応じた電子・電気製品を得ることができる。
例えば、フィラーとして誘電性無機粒子及び誘電性無機繊維のうちの少なくとも1種を使用し、それを有機樹脂マトリックス内で所定方向に配向させることにより、例えば、10以上の高い誘電率を有する誘電性シートを得ることができる。誘電性無機粒子及び誘電性無機繊維としては、誘電特性を有する無機材料であれば特に限定されるものではないが、例えばチタン酸バリウム、マグネシウムニオブチタン酸亜鉛、チタン酸ストロンチウム等が使用され、中でもチタン酸バリウムが好適である。また、誘電シートとしては、例えば、高誘電率コンデンサシート、高誘電率キャパシタシートが挙げられる。なお、本明細書において、誘電率とは、JIS K 6911に準拠して測定されるものをいう。
【0028】
また、フィラーとして熱伝導性無機粒子及び熱伝導性無機繊維のうちの少なくとも1種を使用することで、例えば、2W/m・K以上の高い熱伝導率を有する熱伝導シートを得ることができる。熱伝導性無機粒子及び熱伝導性無機繊維としては、熱伝導性を有する無機材料であれば特に限定されるものではないが、例えば、ベリリア、窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素、アルミナ、マグネシア、チタニア等が使用され、中でも窒化硼素が好適である。なお、本明細書において、熱伝導率とは、ASTM E1530に準拠して測定されるものをいう。
さらに、フィラーとして導電性無機粒子及び導電性無機繊維のうちの少なくとも1種を使用することで、例えば、体積抵抗率が1×10Ω・cm以下の優れた導電性を有する異方性導電シートを得ることができる。導電性無機粒子及び導電性無機繊維としては、導電性を有する無機材料であれば特に限定されるものではないが、例えば、金メッキしたニッケル粒子、銀粒子、金粒子、金メッキしたポリマー粒子等が使用され、中でも金メッキしたニッケル粒子が好適である。なお、本明細書において、体積抵抗率とは、JIS K 7194に準拠して測定されるものをいう。
【0029】
以上、本発明のシート状複合材料をその実施形態に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。シート状複合材料は使用目的に応じて、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、着色剤、難燃剤、耐電防止剤、導電性付与剤等の添加剤を配合することができ、その割合は適宜設定することが可能である。また、シート状複合材料は使用目的に応じて加工処理を施してもよく、例えば、誘電性シートの場合、電極板を湿式エッティングにより除去して新たな電極を形成してもよい。
【0030】
(シート状複合材料の製造方法)
本発明のシート状複合材料の製造方法は、混練工程と、電場処理工程と、固定化工程とを有することを特徴とする。以下、各工程について詳細に説明する。
【0031】
まず、有機樹脂と、フィラーとを準備する。
有機樹脂マトリックス内でフィラーが所定方向に配向するか否かは、複合材料中に含まれる導電性成分の含有量によって影響を受ける。このため、複合材料中の導電性成分の含有量は可及的に少ない方が望ましい。導電性成分としては、水分や、ハロゲンイオン、金属イオン等のイオン成分が挙げられ、特に水分による影響が大きい。
かかる観点から、本発明においては、複合材料の水分量を0.30重量%以下とするが、かかる水分量は、好ましくは0.20重量%以下、より好ましくは0.10重量%以下、更に好ましくは0.05重量%以下である。このような水分量の複合材料とするには、有機樹脂及びフィラーとして以下の材料を使用することが好ましい。ここでいう複合材料の水分量とは、電場印加直前の複合材料の水分量を意味し、水分量とは上述のとおりJIS K 0068に準拠して測定されるものをいう。
有機樹脂として、水分量が好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下のものを使用する。このような水分量とするために、有機樹脂をデシケータ内で乾燥するか、あるいは保存することが望ましく、その場合、デシケータ内をアルゴン雰囲気にすることが望ましい。
また、フィラーとして、水分量が好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下のものを使用する。このような水分量とするためには、フィラーを加熱乾燥すればよく、加熱乾燥条件は、例えば、150〜350℃/1〜10時間、好ましくは200〜300℃/2〜3時間である。水分量が上記範囲外であると、電場印加時にフィラーが有機樹脂マトリックス内を激しく移動し、所望の配向状態を得ることが困難になる。なお、水分量とは、上述のとおり、JIS K 0068に準拠して測定されるものをいう。
【0032】
次いで、混練工程を行なう。混練工程は、有機溶剤を用いることなく有機樹脂とフィラーとを混練し、有機樹脂マトリックス内にフィラーが分散した、0.30重量%以下の水分量の複合材料を得る工程である。本発明においては、複合材料の調製時において有機溶剤を用いないために、有機樹脂として室温で液状の有機樹脂を用いるか、あるいは加熱により流動性を有することの可能な有機樹脂を用いる。フィラーの使用量は、有機樹脂に対して好ましくは5〜60体積%、より好ましくは10〜40体積%、更に好ましくは20〜30体積%である。
有機樹脂マトリックス内にフィラーを分散させる手段としては、有機樹脂の粘度に応じて、ボールミル、ディスパー混合、混練機等の公知の分散手段を用いることができ、特に限定されるものではない。なお、電場印加前にフィラーが巨大な凝集物を形成していると、後述の電場処理工程において所定方向に配向させることが困難になることから、十分に分散化処理を施すことが望ましい。
【0033】
次いで、電場処理工程を行なう。電場処理工程は、混練工程で得られた複合材料に交流電圧を印加してフィラーを所定方向に配向させる工程である。
【0034】
図3は、本発明のシート状複合材料の製造に使用する電場処理装置の一例を示す模式図である。電場処理装置100においては、チャンバー101内に対向する一対の電極103が装着されており、電極103間には複合材料105が配置されている。電極103は、例えば、SUS製の支持体上に導電性両面テープを介して銅箔を付着させた導電性基材である。電極103には、複合材料105に対し所望の条件で電場を印加できるように増幅装置107及び電圧発生装置109が接続されている。
【0035】
電極間に配置すべき複合材料をシート状にするには、例えば、マトリックス樹脂が室温で液状の熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂である場合、電極間に複合材料を注入するか、あるいは一方の電極に複合材料を塗布して塗膜とする。また、マトリックス樹脂が室温で固体の熱可塑性樹脂である場合には、例えば押出機により混練した後、押出成形等により複合材料をシート状にし、これを電極間に配置する。なお、シート状の複合材料の厚みは、通常10〜500μm、好ましくは50〜200μmである。
【0036】
図4は、電場処理装置の他の例を示す模式図である。電場処理装置120おいては、ロール状の電極113をチャンバー101内に有しており、複合材料105を搬送するための搬送部115を備える点で、電場処理装置100と構成が相違する。電極113は、例えば、導電性金属(例えば、銅合金、鉄合金)からなる導電性ロールである。複合材料105の表面は、樹脂製フィルム117で被覆されている。
【0037】
複合材料の表面が樹脂製フィルムで被覆された複合材料を得るには、例えば、マトリックス樹脂が室温で液状の熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂である場合、複合材料を樹脂製フィルムに塗布して塗膜を形成し、次いで塗膜上に樹脂製フィルムを載置する。また、マトリックス樹脂が室温で固体の熱可塑性樹脂である場合には、例えば、共押出により複合材料と樹脂製フィルムとをラミネートしてシート状の複合材料を得る。なお、複合材料の厚みは、上記のとおりである。また、樹脂製フィルムとしては、ポリオレフィンフィルム(例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム)、ポリエステルフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム)等が好適に使用され、その厚みは通常5〜50μm、好ましくは10〜25μmである。
【0038】
そして、有機樹脂マトリックス内のフィラーを所定方向に配向させるために、得られたシート状の複合材料に電場を印加する。なお、電場印加時には、必要により加熱してもよい。電場を印加すると、フィラーは凝集体として電場の印加方向に沿って配列し樹枝の幹部分が形成されるとともに、この幹部分から電場印加方向に延びる枝部分が形成される。その結果、枝部分又は幹部分の端部は、少なくとも一方の電極と接する。例えば、図3及び図4(a)に示す電場処理装置を用いることで、フィラーは図1に示すような形態に配向することが可能である。また、チャンバー内の一方の電極の配置を、図4(b)に示されるように他方の電極よりも下流側へ移動することで、フィラーは図2(a)に示されるような形態に配向することが可能である。図4(a)及び(b)に示す電場処理装置を用いると、樹脂製フィルムにより表面が被覆された状態で複合材料を連続的に電場処理することが可能になるため、シート状複合材料の製造歩留まりが格段に向上する。
【0039】
本発明においては電場として交流電圧を用いるが、その処理加条件は以下のとおりである。なお、本発明者らは、直流電圧を印加すると、有機樹脂マトリック内でフィラーが激しく移動し配向しないとの知見を得ている。
電界強度は、通常0.1〜50kV/mm、好ましくは1〜25kV/mm、より好ましくは3〜20kV/mmである。0.1kV/mm未満であるとフィラーのブラウン運動の方が優勢となり所望の配向状態を得難くなる傾向にある。他方、50kV/mmを超えると複合材料の絶縁破壊を生じやすくなる。
周波数は、通常0.1〜1MHz、好ましくは0.1〜100kHz、より好ましくは0.1〜50kHz、更に好ましくは0.1〜20kHzである。周波数が上記範囲外であると、所望の分散状態を得難くなる傾向にある。
処理時間は使用するマトリックス樹脂によって一様ではないが、通常0.01〜2時間、好ましくは0.01〜1時間、より好ましくは0.01〜0.1時間である。0.01時間未満であるとフィラーの配向が不十分となる場合があり、他方2時間を超えると複合材料の絶縁破壊が生じやすくなる。
電場処理は、フィラーの平均粒径、並びにフィラー及び有機樹脂の誘電率等を考慮して表1に示す条件で行なうことが特に好ましい。
【0040】
【表1】

【0041】
次いで、固定化工程を行なう。固定化工程は、電場処理工程により所定方向に配向したフィラーの凝集体を、配向状態を保持しつつ有機樹脂マトリックス内に固定する工程である。本発明においては、使用目的に応じてマトリックス樹脂を選択することが可能であるが、光硬化性樹脂のように瞬時に硬化して配向状態のフィラーを有機樹脂マトリックス内に容易に固定できるものや、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のように固化又は硬化するまで有機樹脂マトリックス内にフィラーを配向状態で固定できず、継続して電場を印加する必要なものもある。したがって、固定化工程においては、継続して電場を印加してもよい。
フィラーを固定する方法としては、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、例えば、加熱して硬化させる方法が挙げられる。硬化条件は使用する有機樹脂によって適宜設定されるが、硬化温度は通常100〜200℃、好ましくは120〜180℃であり、硬化時間は通常1〜10時間、好ましくは2〜5時間である。
また、マトリックス樹脂が光硬化性樹脂である場合には、例えば、紫外線等を照射して硬化させる方法が挙げられる。この場合、光照射は電場印加と同時に行なってもよく、電極として光透過性に優れる基材(例えば、ITO)を使用することができる。照射条件は使用する有機樹脂によって適宜設定されるが、照射強度は通常200mW/cm以上であり、照射時間は通常1〜10分、好ましくは3〜5分である。また、照射強度及び照射時間を適宜選択して2500mJ/cm以上とすることが望ましい。
更に、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、例えば、冷却して固化させる方法が挙げられる。
【0042】
本発明の製造方法によれば、外部場として電場を使用するために使用するフィラーの性状に制限されることなく、有機樹脂マトリックス内にフィラーを所望の方向に配向させることが可能である。また、本発明の製造方法は、特殊かつ高価な製造装置を用いる必要がない。したがって、所望のシート状複合材料を簡便かつ安価に製造することができる。
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0044】
(実施例1〜5)
下記表2に記載の各成分を配合して、無溶剤型エポキシ樹脂を調製した。得られた無溶剤型エポキシ樹脂の誘電率は、3.3であった。
【0045】
【表2】

【0046】
得られた無溶剤型エポキシ樹脂に、体積比率で5、10、20又は30vol%のチタン酸バリウム(BaTiO)粉末(品番BT−03、堺化学工業(株)製、平均粒径0.3μm、純度99.9%以上、誘電率約3,300)をそれぞれ充填し、遊星型ボールミル(型番Planet-M、Gokin Planetaring製)を用いて分散処理し複合材料を調製した。なお、分散処理に用いた容器及びボールはジルコニア製であり、ボールの直径は1、2、4及び8mmのものを組み合わせて使用した。また、処理条件は、公転回転数600rpm、自転回転数1,500rpm、処理時間10minとした。なお、各複合材料の水分量は、0.03重量%であった。
【0047】
次いで、動的粘弾性装置(型式MR-300V、レオロジー社製)を改造して作製した電場処理装置に、SUS製の支持体に導電性両面テープを介して銅箔を付着させた上部電極(1oz銅箔)及び下部電極(3oz銅箔)を装着した。次いで、電極間に複合材料を注入し、ギャップ量を50〜100μm厚に調整した。そして、電場印加開始と同時に、図5に示すヒートパターンで加熱した。なお、電場処理条件は、表3に示すとおりである。
【0048】
次いで、冷却後、電場処理装置からSUS製の支持体を取り出し、液体窒素中への浸漬と、大気中での放置とを繰り返した。そして、SUS製の支持体の導電性両面テープと、銅箔とを分離して銅箔付シート状複合材料を得た。なお、各シート状複合材料の水分量は、0.03重量%であった。
【0049】
【表3】

【0050】
(実施例6)
表2に記載の各成分を配合して得られた無溶剤型エポキシ樹脂に、体積比率で20vol%の窒化硼素粉末(品番UHP−1、六方晶系窒化硼素、昭和電工(株)製、平均粒径9.3μm、誘電率約4.5)を充填し、実施例1と同様の方法により複合材料を得た。なお、複合材料の水分量は、0.03重量%であった。
次いで、実施例1と同様の方法により図5に示すヒートパターンで加熱し、周波数0.1kHz、電界強度3kV/mmの交流電圧を印加して厚さ100μmのシート状複合材料を得た。なお、シート状複合材料の水分量は、0.03重量%であった。
【0051】
(実施例7)
表2に記載の各成分を配合して得られた無溶剤型エポキシ樹脂に、体積比率で10vol%の金メッキニッケル粒子(福田金属箔粉工業(株)製、平均粒径7.4μm、金メッキ厚0.1〜0.15μm)を充填し、実施例1と同様の方法により複合材料を得た。なお、複合材料の水分量は、0.03重量%であった。
次いで、実施例1と同様の方法により図5に示すヒートパターンで加熱し、周波数10kHz、電界強度16kV/mmの交流電圧を印加して厚さ100μmのシート状複合材料を得た。なお、シート状複合材料の水分量は、0.03重量%であった。
【0052】
(比較例1)
無溶剤型エポキシ樹脂にチタン酸バリウム粉末を充填しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法によりシート状複合材料を得た。シート状複合材料中のBaTiO粉末の含有量は表4のとおりである。
【0053】
(比較例2〜5)
電場処理を行なわなかったこと以外は、実施例1〜3及び5と同様の方法によりシート状複合材料を得た。シート状複合材料中のBaTiO粉末の含有量は表4のとおりである。
【0054】
【表4】

【0055】
(比較例6)
電場処理を行なわなかったこと以外は、実施例6と同様の方法によりシート状複合材料を得た。
【0056】
(比較例7)
電場処理を行なわなかったこと以外は、実施例7と同様の方法によりシート状複合材料を得た。
【0057】
(比較例8)
実施例1と同一の組成からなり、水分量が0.36重量%の複合材料を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法によりシート状複合材料を得た。
【0058】
(比較例9)
実施例2と同一の組成からなり、水分量が0.36重量%の複合材料を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法によりシート状複合材料を得た。
【0059】
(比較例10)
実施例4と同一の組成からなり、水分量が0.36重量%の複合材料を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法によりシート状複合材料を得た。
【0060】
(比較例11)
実施例5と同一の組成からなり、水分量が0.36重量%の複合材料を用いたこと以外は、実施例5と同様の方法によりシート状複合材料を得た。
【0061】
(評価試験)
(1)誘電特性
実施例1〜5、並びに比較例1〜5及び8〜11で得られた銅箔付シート状複合材料の上部電極の1oz銅箔を除去した後、銅箔除去面に金蒸着して薄膜主電極を形成し、評価用試料を作製した。そして、インピーダンス/ゲイン・フェーズ・アナライザー(形式HP4194A、横河・ヒューレット・パッカード(株)製)、及び誘電特性測定用専用電極(形式HP16451B)を用いて、1kHzでの比誘電率と、誘電正接とを測定した。測定結果を表5に示す。また、シート状複合材料中のフィラー含有量と誘電率との関係を図6に示す。
【0062】
(2)配向度
実施例1〜7、並びに比較例2〜5及び8〜11で得られたシート状複合材料について、走査型電子顕微鏡(SEM、型式S−4700、日立製作所(株)製)を用いてSEM写真を撮影し、シート断面のSEM像をトリミング(512×512ピクセル、25.4μm×25.4μm)した。次いで、画像処理ソフト(ImageJ、アメリカ国立衛生研究所)を用いて画像を2次元フーリエ変換し、画像全体の約20%の幅(中心から100ピクセル幅)を平均化したプロファイルを抽出した。次いで、ガウス関数でフィッティング(フィッティング範囲は全体の30%、150ピクセル)し、フィットした関数における、縦方向(電場に対して平行方向)の半値幅C及び横方向(電場に対して垂直方向)の半値幅Dを計測した。そして、D/C比を配向度として算出した。測定結果を表5に示す。なお、カーブフィッティングは、グラフ作成ソフト(IGOR、Wave Metrics社製)を使用した。
【0063】
図7(a)は実施例2で得られたシート状複合材料のIa−Ia方向の断面のSEM写真を示し、図7(b)は実施例3で得られたシート状複合材料のIa−Ia方向の断面の光学顕微鏡写真を示す。また、図8(a)は実施例4で得られたシート状複合材料のIa−Ia方向の断面のSEM写真を示し、図8(b)は断面中央部における拡大写真である。さらに、図9(a)は実施例4で得られたシート状複合材料のIb−Ib方向の断面のSEM写真を示し、図9(b)は断面中央部における拡大写真である。また、図10(a)は比較例4で得られたシート状複合材料のIa−Ia方向の断面のSEM写真を示し、図10(b)は断面中央部における拡大写真である。さらに、図11(a)は比較例4で得られたシート状複合材料のIb−Ib方向の断面のSEM写真を示し、図11(b)は断面中央部における拡大写真である。
シート状複合材料のIa−Ia方向(厚み方向)における光学顕微鏡写真より、実施例ではフィラーが樹枝状の凝集体を形成し、厚み方向に均質に配向しているのに対し、比較例ではフィラーの巨大凝集物が多く観察され、不均質かつ未配向であることが確認された。また、シート状複合材料のIb−Ib方向(xy方向)におけるSEM写真より、実施例のシート状複合材料はフィラーの分布に密な箇所と、疎な箇所とがあり、密な箇所でフィラーが樹枝状に凝集体を形成していることが確認された。そして、このようなフィラーの分布が高い誘電特性の発現に寄与するものと推察される。
【0064】
【表5】

【0065】
(3)熱伝導性
実施例6及び比較例6で得られたシート状複合材料について、ASTM E1530に準拠して熱伝導率を測定した。その結果、実施例6のシート状複合材料の熱伝導率は2.5W/mkであったのに対し、比較例6のシート状複合材料の熱伝導率は1.8W/mkであった。このことから、本実施例のシート状複合材料は、熱伝導性に優れることが確認された。なお、熱伝導率は、熱定数測定装置(型式TC−7000、アルバック理工(株)製)を用いてレーザーフラッシュ測定法により測定した。
【0066】
(4)体積抵抗率
実施例7及び比較例7で得られたシート状複合材料について、JIS K7194に準拠して体積抵抗率を測定した。その結果、実施例7のシート状複合材料の体積抵抗率は5.7×1012Ω・cmであったのに対し、比較例7のシート状複合材料の体積抵抗率は8.3×1012Ω・cmであった。このことから、本実施例のシート状複合材料は、導電性に優れることが確認された。なお、体積抵抗率の測定には、微小電流計(型式TR−8641、武田理研工業(株)製)、DC電源(型式PLE−650−0.1、松定プレシジョン(株)製)、及び電圧計(型式R6452A、アドバンテスト(株)製)を用いた。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明のシート状複合材料の一実施形態を示す図である。
【図2】本発明のシート状複合材料の他の実施形態を示す図である。
【図3】本発明のシート状複合材料の製造に使用する電場処理装置の一例を示す模式図である。
【図4】本発明のシート状複合材料の製造に使用する電場処理装置の他の例を示す模式図である。
【図5】実施例及び比較例のシート状複合材料の製造におけるヒートパターンを示す図である。
【図6】シート状複合材料中のフィラー含有量と誘電率との関係を示す図である。
【図7】実施例2及び実施例3で得られたシート状複合材料のIa−Ia方向の断面の光学顕微鏡写真を示す図である。
【図8】実施例4で得られたシート状複合材料のIa−Ia方向の断面のSEM写真を示す図である。
【図9】実施例4で得られたシート状複合材料のIb−Ib方向の断面のSEM写真を示す図である。
【図10】比較例4で得られたシート状複合材料のIa−Ia方向の断面のSEM写真を示す図である。
【図11】比較例4で得られたシート状複合材料のIb−Ib方向の断面のSEM写真を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1…フィラー、3…有機樹脂、10…シート状複合材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機樹脂マトリックス内に、フィラーが樹枝状に凝集し厚み方向に配向している、
シート状複合材料。
【請求項2】
フィラーの配向度が1.05よりも大きい、請求項1記載のシート状複合材料。
【請求項3】
フィラーが有機樹脂よりも高い誘電率を有する、請求項1又は2記載のシート状複合材料。
【請求項4】
フィラーが無機粒子及び無機繊維のうちの少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシート状複合材料。
【請求項5】
フィラーの含有量が有機樹脂に対して5〜60体積%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のシート状複合材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のシート状複合材料からなり、フィラーとして誘電性無機粒子及び誘電性無機繊維のうちの少なくとも1種を含有する、誘電性シート。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のシート状複合材料からなり、フィラーとして熱伝導性無機粒子及び熱伝導性無機繊維のうちの少なくとも1種を含有する、熱伝導シート。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のシート状複合材料からなり、フィラーとして導電性無機粒子及び導電性無機繊維のうちの少なくとも1種を含有する、異方性導電シート。
【請求項9】
有機溶剤を用いることなく有機樹脂とフィラーとを混練して、有機樹脂マトリックス内にフィラーが分散した、0.30重量%以下の水分量の複合材料を得る混練工程と、
複合材料を電極に塗布するか、又は電極間に注入若しくは配置し、交流電圧を印加してフィラーを所定方向に配向させる電場処理工程と、
配向したフィラーを有機樹脂マトリックス内に固定する固定化工程と
を有する、有機樹脂マトリックス内にフィラーが所定方向に配向しているシート状複合材料の製造方法。
【請求項10】
有機溶剤を用いることなく有機樹脂とフィラーとを混練して、有機樹脂マトリックス内にフィラーが分散した、0.30重量%以下の水分量の複合材料を得る混練工程と、
複合材料を樹脂製フィルムで被覆し、これに交流電圧を印加してフィラーを所定方向に配向させる電場処理工程と、
配向したフィラーを有機樹脂マトリックス内に固定する固定化工程と
を有する、有機樹脂マトリックス内にフィラーが所定方向に配向しているシート状複合材料の製造方法。
【請求項11】
電場処理工程において、フィラーを樹枝状の凝集体として厚み方向に配向させる、請求項9又は10記載の製造方法。
【請求項12】
フィラーが有機樹脂よりも高い誘電率を有する、請求項9〜11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
フィラーが無機粒子及び無機繊維のうちの少なくとも1種である、請求項9〜12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
混練工程において、平均粒径が1μm以上であるフィラーと、該フィラー(A)と有機樹脂(B)との誘電率の比(A/B)が10以上となる有機樹脂とを用いて複合材料を調製し、
電場処理工程において、複合材料に電界強度が0.1kV/mm以上の交流電圧を印加する、
請求項9〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
混練工程において、平均粒径が1μm以上であるフィラーと、該フィラー(A)と有機樹脂(B)との誘電率の比(A/B)が10未満となる有機樹脂とを用いて複合材料を調製し、
電場処理工程において、複合材料に電界強度が1kV/mm以上の交流電圧を印加する、
請求項9〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
混練工程において、平均粒径が1μm未満であるフィラーと、該フィラー(A)と有機樹脂(B)との誘電率の比(A/B)が10以上となる有機樹脂とを用いて複合材料を調製し、
電場処理工程において、複合材料に電界強度が1kV/mm以上の交流電圧を印加する、
請求項9〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
混練工程において、平均粒径が1μm未満であるフィラーと、該フィラー(A)と有機樹脂(B)との誘電率の比(A/B)が10未満となる有機樹脂とを用いて複合材料を調製し、
電場処理工程において、複合材料に電界強度が10kV/mm以上の交流電圧を印加する、
請求項9〜13のいずれか一項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−332224(P2007−332224A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163909(P2006−163909)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】