説明

シート部材搬送装置、及び該シート部材搬送装置を備えた記録装置

【課題】重力方向に高低差を有する湾曲経路部分が搬送経路の途中に設けられる場合でも、部品点数の増加を抑制して組み立ての手間を低減することができるシート部材搬送装置、及び該シート部材搬送装置を備えた記録装置を提供する。
【解決手段】可撓性を有する用紙12を一枚ずつ搬送方向の下流側へ送り出す給紙ローラー17と、給紙ローラー17により送り出された用紙12を用紙12の表裏両側から挟持可能な挟持部23を有し且つ挟持部23が用紙12の搬送方向と交差する用紙12の幅方向に沿って延びる回動軸22を中心として重力方向に高低差を有する湾曲した移動軌跡を描くように回動可能な反転機構14と、反転機構14における挟持部23を回動させる回動モーターと、回動モーターの駆動を制御する制御部とを備え、制御部は、挟持部23が用紙12を挟持した状態で回動モーターを駆動することにより、用紙12を搬送方向の上流側から下流側へ搬送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録が施されるシート部材を重力方向に高低差を有した湾曲経路部分を有する搬送経路に沿って搬送するシート部材搬送装置、及び該シート部材搬送装置を備えた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、記録材をシート部材に付着させて記録を施す記録装置として、インクジェット式プリンターが広く知られている。このプリンターは、記録ヘッドに供給されるインク(記録材)を記録ヘッドに形成されたノズルから噴射することによりシート部材としての用紙に印刷(画像形成)を施すようになっている。
【0003】
そして、こうしたプリンターにおいて、近時は、例えば特許文献1に記載されるように、重力方向に高低差を有する湾曲したUターン搬送路を搬送経路の途中に有しているものがある。すなわち、この特許文献1のプリンターにおいては、給紙トレイから給紙された用紙をUターン搬送路の部分で反転させると共に、そのUターン搬送路から搬出された用紙を給紙トレイの上方となる位置に設けられた排紙トレイへ排紙することにより、省スペース化を図っている。
【0004】
ところで、こうしたUターン搬送路のように搬送経路の途中で重力方向に高低差を有する湾曲した湾曲経路部分では、用紙を重力方向に湾曲させながら搬送することになる。そのため、例えば、腰の弱い用紙を搬送する場合には、用紙が自重で潰れて搬送できなくなる虞がある。そこで、特許文献1のプリンターの場合は、搬送経路の湾曲経路部分であるUターン搬送路に複数のローラー対を設け、Uターン搬送路に沿う複数箇所で用紙を挟持して搬送するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−197179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、搬送経路の湾曲経路部分に複数のローラー対を設ける場合には、部品点数が増加してしまうと共に、複数箇所にローラーを取り付ける必要があるため、組み立てに手間がかかってしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、重力方向に高低差を有する湾曲経路部分が搬送経路の途中に設けられる場合でも、部品点数の増加を抑制して組み立ての手間を低減することができるシート部材搬送装置、及び該シート部材搬送装置を備えた記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のシート部材搬送装置は、可撓性を有するシート部材を一枚ずつ搬送方向の下流側へ送り出す送出手段と、該送出手段により送り出された前記シート部材を該シート部材の表裏両側から挟持可能な挟持部を有し且つ該挟持部が前記シート部材の前記搬送方向と交差する前記シート部材の幅方向に沿って延びる回動軸を中心として重力方向に高低差を有する湾曲した移動軌跡を描くように回動可能な挟持手段と、該挟持手段における前記挟持部を回動させる回動手段と、該回動手段の駆動を制御する制御手段とを備え、該制御手段は、前記挟持部が前記シート部材を挟持した状態で前記回動手段を駆動することにより、前記シート部材を前記搬送方向の上流側から下流側へ搬送する。
【0009】
この構成によれば、挟持部がシート部材を挟持した状態で回動軸を中心に回動されることにより、シート部材は重力方向に高低差を有する湾曲した移動軌跡を描くように搬送される。そのため、重力方向に高低差を有した湾曲経路部分を有する搬送経路に沿ってシート部材を搬送する場合であっても、シート部材の腰の強弱に関わらずに搬送することができる。したがって、ローラー対のようなシート部材を挟持するための機構を搬送経路に複数設けることなくシート部材を搬送することができる。そのため、重力方向に高低差を有する湾曲経路部分が搬送経路の途中に設けられる場合でも、部品点数の増加を抑制して組み立て時の手間を低減することができる。
【0010】
本発明のシート部材搬送装置は、前記挟持部に挟持された状態で該挟持部と共に回動した前記シート部材を前記挟持手段から受容して前記搬送方向の下流側へ搬送する搬送手段をさらに備え、前記制御手段は、前記挟持部が前記シート部材における前記搬送方向の下流側の端部よりも上流側位置で前記シート部材を挟持した状態で前記回動手段を駆動することにより、駆動が停止された前記搬送手段に前記挟持部を接近させ、その後、前記搬送手段を駆動する。
【0011】
この構成によれば、シート部材の端部が挟持部から搬送方向の下流側へ突出した状態で挟持部を回動して搬送手段へ接近させる。このとき、搬送手段は、その駆動を停止しているため、この搬送手段までシート部材が搬送された場合には、停止している搬送手段と当接してシート部材に撓みが生じる。したがって、シート部材が搬送方向に対して斜行した姿勢で搬送されていた場合であっても、シート部材の斜行を補正して搬送することができる。
【0012】
本発明のシート部材搬送装置において、前記挟持部は、1対の揺動軸を中心として各々揺動可能な1対の挟持部材と、該1対の挟持部材が前記シート部材を表裏両側から挟持可能な方向に前記一対の挟持部材を付勢する付勢手段と、前記揺動軸に前記各挟持部材とそれぞれ一体回動可能に設けられて互いに噛合する1対の歯車とをさらに有する。
【0013】
この構成によれば、1対の挟持部材の揺動軸には、それぞれ歯車が設けられていると共に、各歯車同士は噛合しているため、1対の挟持部材を同じ角度で揺動させることができる。そして、1対の挟持部材は、付勢手段によってシート部材を挟持可能な方向へ付勢されているため、挟持部材間に進入したシート部材を容易に挟持することができる。
【0014】
本発明のシート部材搬送装置において、前記各挟持部材は、前記シート部材を挟持可能な湾曲した曲面部を有する。
この構成によれば、揺動する1対の挟持部材における湾曲した曲面でシート部材を挟持することにより、例えばシート部材の厚みが変化した場合であっても、シート部材と曲面部との当接態様の変化を低減することができる。
【0015】
本発明のシート部材搬送装置は、前記挟持部が回動した場合の前記移動軌跡よりも内側となる位置に該移動軌跡に沿うように設けられるガイド部材をさらに備え、前記制御手段は、前記挟持部によって前記シート部材を搬送する搬送速度が、前記送出手段が前記シート部材を送り出す送出速度よりも速くなるように前記回動手段を駆動制御する。
【0016】
この構成によれば、送出速度よりも早い搬送速度でシート部材を搬送することにより、シート部材の弛みを抑制して搬送することができる。しかし、シート部材の一部を挟持した状態で挟持部材を回動させる場合には、挟持部材の位置に応じてシート部材を引く向きが変化し、シート部材が癖付けされてしまう虞がある。その点、ガイド部材を設けてシート部材をガイド部材に沿って搬送することにより、シート部材における部分的な変形を抑制することができる。
【0017】
本発明の記録装置は、シート部材に記録材を付着させて記録を施す記録手段と、上記構成のシート部材搬送装置とを備える。
この構成によれば、上記シート部材搬送装置に係る発明と同様の作用効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態のプリンターの正面模式図。
【図2】反転機構の斜視図。
【図3】挟持部の斜視図。
【図4】制御部のブロック図。
【図5】反転機構における給紙時の作用図。
【図6】反転機構における挟持部の正回動時の作用図。
【図7】反転機構における下流側位置に位置する挟持部の作用図。
【図8】反転機構における挟持部の反回動時の作用図。
【図9】別例の反転機構の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を記録装置の一種であるインクジェット式プリンターに具体化した一実施形態を図1〜図8に従って説明する。なお、以下の説明において、「上下方向」、「左右方向」をいう場合は、図1に矢印で示した方向を基準として示すものとする。また、「前後方向」をいう場合は、図1において紙面に直交する方向であり、図2に矢印で示した方向を示すものとする。
【0020】
図1に示すように、記録装置としてのプリンター11は、可撓性を有するシート部材としての用紙12を積層状態にして貯蔵可能な給紙トレイ13を有している。そして、その給紙トレイ13の左側上方位置には、給紙トレイ13から給紙された用紙12を反転させる挟持手段としての反転機構14が設けられている。また、給紙トレイ13の上方位置には、反転機構14において反転された用紙12に対して、記録材としてのインクを付着させて印刷(記録)を施すための印刷部15が配設されている。
【0021】
すなわち、用紙12は、搬送方向における上流側に配置された給紙トレイ13から給紙されると、重力方向に高低差を有する湾曲した湾曲経路部分を構成する反転機構14を通過し、さらに搬送方向の下流側に位置する印刷部15へ搬送される。そして、印刷部15によって印刷が施された用紙12は、印刷部15よりもさらに搬送方向の下流側となる位置であって且つ給紙トレイ13よりも重力方向(上下方向)における上方位置に設けられた図示しない排紙トレイへ排紙されるようになっている。
【0022】
さて、図1に示すように、給紙トレイ13において給紙口となる位置(図1では左側上部の位置)には、搬送方向と直交する幅方向(前後方向)に沿って延びるように送出手段としての給紙ローラー17が設けられている。なお、給紙ローラー17は、給紙モーター18(図4参照)の駆動力に基づいて回転する第1の回転軸19(図5参照)に一体回転可能に支持されている。また、給紙ローラー17は、給紙トレイ13内に貯蔵されている用紙12(具体的には最上層の用紙)の表面12aに対して接触するように配設されている。そのため、給紙モーター18が駆動されて給紙ローラー17が前側から見て時計方向(図1に矢印で示す方向)に回転すると、給紙トレイ13内の用紙12が一枚ずつ搬送方向の下流側(左側)となる反転機構14側へ送り出されるようになっている。
【0023】
図1,図2に示すように、反転機構14は、前後方向に沿って延びると共に回動モーター21(図4参照)の駆動力に基づいて回動する回動軸22と、回動軸22と一体回動可能な挟持部23とを有している。なお、挟持部23は、基端部24a,25a側が回動軸22に固定された1対のアーム部材24,25の先端部24b,25bに取り付けられることにより、1対のアーム部材24,25を介して回動軸22に支持されている。すなわち、挟持部23は、回動軸22を中心として該回動軸22と共に回動し、重力方向に高低差を有する湾曲した移動軌跡を描くように、用紙12の搬送方向における上流側位置(図1参照)と下流側位置(図7参照)間を移動可能となっている。
【0024】
さらに、反転機構14は、前後方向において1対のアーム部材24,25間となる位置であって、且つ回動軸22と挟持部23との間となる位置に挟持部23の移動軌跡に沿って半円筒状をなすガイド部材26を有している。
【0025】
図2,図3に示すように、挟持部23は、アーム部材24,25の各先端部24b,25b間に掛け渡されるように支持された挟持部材としての1対の揺動板28,29を有している。なお、各揺動板28,29は、回動軸22を中心とした径方向において位置の異なる1対の揺動軸30,31を中心としてそれぞれ揺動可能に設けられている。
【0026】
そして、これらの各揺動板28,29の前後両面には、各揺動軸30,31を中心として回動するように第1〜第4の歯車33〜36が各揺動板28,29と一体回動可能に設けられている。具体的には、回動軸22を回動中心として径方向内側に位置する第1の揺動板28の前後両面には、第1,第2の歯車33,34がそれぞれ固定されている。同様に、回動軸22を回動中心として径方向外側に位置する第2の揺動板29の前後両面には、第3,第4の歯車35,36がそれぞれ固定されている。そして、各揺動板28,29は、第1の歯車33と第3の歯車35とからなる1対の歯車が噛合すると共に、第2の歯車34と第4の歯車36とからなる1対の歯車が噛合した状態でアーム部材24,25に支持されている。
【0027】
さらに、図3に示すように、各揺動板28,29における先端部28a,29a(搬送方向における下流側の端部)の前面には、1対の係止部38,39が前方へ突出形成されている。そして、各係止部38,39には、付勢手段としてのばね40が付勢力に抗して伸ばされた状態で取り付けられている。
【0028】
そのため、揺動板28,29の先端部28a,29a同士は、ばね40の付勢力によって互いに接近する方向へ付勢されて当接すると共に、後端部28b,29b(搬送方向における上流側の端部)は、互いに離間する状態に維持されるようになっている。なお、各揺動板28,29の先端部28a,29aは、前後方向に沿って延びる円柱状に形成されていると共に、互いに当接する部分が湾曲した曲面部28c,29cとなっている。
【0029】
図1に示すように、印刷部15には、用紙12を搬送するための搬送部43と、該搬送部43によって搬送される途中の用紙12に向けてインクを噴射し、印刷(記録)を施す記録手段としての記録ヘッド44とを備えている。
【0030】
搬送部43は、矩形板状のプラテン45を備えていると共に、プラテン45の左側には、駆動モーター46(図4参照)の駆動に伴って回転する駆動軸47(図5参照)と、該駆動軸47と一体回転可能な駆動ローラー48が配置されている。一方、プラテン45の右側には前後方向に延びる従動ローラー49が回転可能に配置されている。さらに、各プラテン45の下側には、前後方向に延びるテンションローラー50が回転可能に配置されている。そして、駆動ローラー48、従動ローラー49、及びテンションローラー50には、プラテン45を囲むように、多数の通気孔(図示略)が形成された無端状の搬送ベルト51が巻き回されている。
【0031】
そして、駆動ローラー48を前側から見て時計方向に回転駆動することで、搬送ベルト51が駆動ローラー48、従動ローラー49、及びテンションローラー50の外側を前側から見て時計方向に周回移動されるようになっている。また、各プラテン45には、搬送ベルト51に形成された通気孔を介して用紙12を吸引可能な吸引手段(図示略)が設けられている。そのため、用紙12は、プラテン45の上面と対向する位置にある場合、搬送ベルト51に吸着された状態で、搬送方向の上流側である左側から下流側である右側に向かって搬送されるようになっている。
【0032】
また、図1,図2に示すように、駆動ローラー48の上方位置には、前後方向に延びる搬送手段としての搬送ローラー53が設けられている。この搬送ローラー53は、搬送モーター54(図4参照)の駆動に基づいて回転する第2の回転軸55と、該第2の回転軸55に一体回転可能に設けられた複数(本実施形態では4つ)の分割ローラー56とにより構成されている。そして、搬送ローラー53が搬送モーター54の駆動力に基づいて反時計方向に回転することにより、反転機構14によって搬送された用紙12がプラテン45側へ搬送されるようになっている。そして、本実施形態では、以上の給紙ローラー17、反転機構14、搬送ローラー53により、シート部材搬送装置としての用紙搬送装置が構成されている。
【0033】
また、図4に示すように、プリンター11には、プリンター11の稼働状態を統括制御する制御手段としての制御部59が設けられている。さらに、プリンター11には、ユーザーが操作することにより、印刷の実行命令を入力の可能な操作部60が設けられている。そして、制御部59は、操作部60からの入力情報に基づいて給紙モーター18、回動モーター21、駆動モーター46、搬送モーター54の駆動を制御して用紙12を印刷部15へ搬送する。
【0034】
次に、このように反転機構14を備えたプリンター11において印刷が行われる場合の作用について説明する。
さて、図1に示すように、給紙トレイ13に用紙12が積層状に貯蔵された状態において、ユーザーが操作部60を操作して印刷を開始すると、まず制御部59は給紙モーター18を正転駆動する。すると、給紙ローラー17が時計方向に回転し、給紙トレイ13から用紙12が一枚ずつ給紙されて反転機構14側へ搬送される。すると、図5に示すように、用紙12の先端部12c(搬送方向における下流側の端部)は、各揺動板28,29の先端部28a,29a間に進入し、ばね40によって付勢された各揺動板28,29の先端部28a,29a同士を離間する方向へ揺動させる。なお、各揺動板28,29は、揺動軸30,31に設けられた歯車33〜36の作用により、同じ角度だけ回動して用紙12の進入を許容する。したがって、用紙12は、表面12aと裏面12bが1対の揺動板28,29の曲面部28c,29cに挟持される。
【0035】
さらに、用紙12の先端部12cが撓み可能な程度に揺動板28,29から搬送方向の下流側に突出して先端部12cよりも上流側位置で挟持されると、制御部59は、回動モーター21を正転駆動して挟持部23を時計回り方向へ正回動させる。なお、このとき制御部59は、給紙ローラー17が用紙12を送り出す送出速度よりも、挟持部23が移動して用紙12を搬送する搬送速度の方が速くなるように回動モーター21を駆動する。
【0036】
したがって、図6に示すように、挟持部23に挟持された用紙12は、挟持部23に引っ張られるように搬送される。ところで、このとき用紙12は、表面12aがガイド部材26にガイドされるように搬送されるため、給紙トレイ13付近において用紙12が引き出される角度の変化が抑制されている。なお、このとき給紙ローラー17は、図示しないクラッチによって給紙モーター18との連結状態が切断されることにより、用紙12に連れ周りするようになっている。
【0037】
そして、図7に示すように、挟持部23が下流側位置まで移動すると、挟持部23から突出した用紙12の先端部12cが搬送ローラー53に当接して撓み変形する。すなわち、用紙12が搬送経路に対して非直交となる斜行状態で挟持部23に挟持されていた場合には、まず用紙12の先端部12cにおいて先行する側の端(例えば前側の端)が搬送ローラー53に突き当たる。すると、用紙12は、撓みながら搬送ローラー53に突き当たった側の端を支点として回転し、先行する側の端とは逆の後行する側の端(例えば後側の端)が搬送ローラー53に突き当たって斜行が補正される。
【0038】
そして、制御部59は、このように用紙12の斜行が補正された後、駆動モーター46を駆動して搬送ベルト51を時計回り方向に回転させると共に、搬送モーター54を駆動して搬送ローラー53を反時計回り方向に回転させる。なお、このとき制御部59は、搬送ローラー53及び搬送部43が用紙12を搬送する速度が、給紙ローラー17が用紙12を送り出す送出速度よりも速くなるように駆動モーター46、搬送モーター54を駆動する。
【0039】
すると、斜行が補正された用紙12は、先端部12cが搬送ローラー53に巻き込まれるように受容され、さらに搬送方向の下流側へ搬送される。そして、用紙12は、プラテン45上となる位置まで搬送されると、搬送ベルト51に吸着された状態で搬送されると共に、記録ヘッド44からインクが噴射されて印刷が施される。
【0040】
また、図8に示すように、用紙12が搬送ローラー53に受容されると、制御部59は回動モーター21を反転駆動して挟持部23を反時計回り方向へ反回動させる。このとき、用紙12は、搬送部43及び搬送ローラー53によって搬送方向の下流側へ継続して搬送されているため、各揺動板28,29は、用紙12と摺動するように上流側位置まで移動する。
【0041】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)挟持部23が用紙12を挟持した状態で回動軸22を中心に回動されることにより、用紙12は重力方向に高低差を有する湾曲した移動軌跡を描くように搬送される。そのため、重力方向に高低差を有した湾曲経路部分を有する搬送経路に沿って用紙12を搬送する場合であっても、用紙12の腰の強弱に関わらずに搬送することができる。したがって、ローラー対のような用紙12を挟持するための機構を搬送経路に複数設けることなく用紙12を搬送することができる。そのため、部品点数の増加を抑制して組み立て時の手間を低減することができる。
【0042】
(2)用紙12の先端部12cが挟持部23から搬送方向の下流側へ突出した状態で挟持部23を回動して搬送ローラー53へ接近させる。このとき、搬送ローラー53は、その駆動を停止しているため、この搬送ローラー53まで用紙12が搬送された場合には、停止している搬送ローラー53と当接して用紙12に撓みが生じる。したがって、用紙12が搬送方向に対して斜行した姿勢で搬送されていた場合であっても、用紙12の斜行を補正して搬送することができる。
【0043】
(3)1対の揺動板28,29の揺動軸30,31には、それぞれ歯車33〜36が設けられていると共に、歯車33,35及び歯車34,36同士は噛合しているため、1対の揺動板28,29を同じ角度で揺動させることができる。そして、1対の揺動板28,29は、ばね40によって用紙12を挟持可能な方向へ付勢されているため、揺動板28,29間に進入した用紙12を容易に挟持することができる。
【0044】
(4)揺動する1対の揺動板28,29における湾曲した曲面部28c,29cで用紙12を挟持することにより、例えば用紙12の厚みが変化した場合であっても、用紙12と曲面部28c、29cとの当接態様の変化を低減することができる。
【0045】
(5)送出速度よりも早い搬送速度で用紙12を搬送することにより、用紙12の弛みを抑制して搬送することができる。しかし、用紙12の一部を挟持した状態で挟持部23を回動させる場合には、挟持部23の位置に応じて用紙12を引く向きが変化し、用紙12が癖付けされてしまう虞がある。その点、ガイド部材26を設けて用紙12をガイド部材26に沿って搬送することにより、用紙12における部分的な変形を抑制することができる。
【0046】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・図9に示すように、挟持部23は、1つのアーム部材24によって片持ちで支持するようにしてもよい。なお、図9に示す反転機構は、上記実施形態とは幅方向におけるサイズを変更した点でのみ相違しているため、同様の構成部分については同一符号を付すことにしてその詳細な説明を省略する。そして、図9に示すように、例えば、幅の狭い用紙12を搬送する反転機構14では、挟持部23の前後方向における幅を用紙12の幅に合わせて狭くすることができるため、片持ちの支持でも挟持部23のねじれを抑制して用紙12を搬送することができる。
【0047】
また、歯車33〜36は、図9に示すように少なくとも1対の第1の歯車33,第3の歯車35が設けられていればよい。そして、各歯車33,35が設けられる位置も、揺動板28,29とアーム部材24との間に限らず、揺動板28,29と歯車33,35とでアーム部材24で挟むように設けてもよい。さらに、片持ち支持された側(前側)とは反対側(後側)に設けるようにしてもよい。
【0048】
・上記実施形態において、制御部59は、挟持部23が用紙12を搬送する搬送速度が、給紙ローラー17が用紙12を送り出す送出速度と同じ速度、もしくは遅い速度となるように回動モーター21を制御してもよい。そして、その場合には、ガイド部材26を設けない構成としてもよい。すなわち、例えば、挟持部23が用紙12を搬送する際に該用紙12に対して付与される張力が小さい場合には、ガイド部材26を設けない構成としても用紙12の癖付けを抑制して搬送することができる。また、給紙ローラー17の径方向のサイズを大きくし、該給紙ローラー17の形状に沿うように用紙12を搬送することにより、用紙12の部分的な変形を抑制して搬送するようにしてもよい。
【0049】
・上記実施形態において、1対の揺動板28,29は、曲面部28c,29cを設けずに、例えば正面視矩形状の板部材としてもよい。さらに、板部材の各先端部を回動可能として互いに面接触させると共に、用紙12を挟持する場合には、先端部同士が互いに接触していた面を用紙12と面接触させて挟持するようにしてもよい。すなわち、板部材は回動可能に設けられているため、用紙12の厚みが変化した場合でも、用紙12との接触面積の増減を抑制することができる。
【0050】
・上記実施形態において、揺動軸30,31に駆動源(例えばモーター)を設け、駆動源の動力に応じて揺動板28,29を回動させるようにしてもよい。そして、この場合には、ばね40を用いることなく揺動板28,29で用紙12を挟持することができる。
【0051】
・上記実施形態において、揺動板28,29は、回動軸22を中心とする径方向に沿って形成された長穴に揺動軸30,31が挿通支持されるようにしてもよい。すなわち、揺動板28,29は、径方向に移動して用紙12を挟持するようにしてもよい。
【0052】
・上記実施形態において、制御部59は、給紙モーター18及び回動モーター21と共に駆動モーター46及び搬送モーター54を駆動し、搬送ローラー53を回転させた状態で挟持部23を接近させるようにしてもよい。すなわち、用紙12の搬送方向と直交する方向における斜行の補正をすることなく用紙12を搬送するようにしてもよい。そして、この場合には、搬送ローラー53もしくは搬送ベルト51によって受容可能な程度に用紙12が挟持部23から突出していればよい。また、搬送モーター54を設けない構成とすると共に、用紙12を挟持部23から突出した状態で当接させることにより、用紙12を搬送ベルト51上へ受け渡すようにしてもよい。すなわち、搬送部43を搬送手段として機能させてもよい。
【0053】
・上記実施形態において、揺動板28,29を弾性部材(例えば、スポンジ)で形成すると共に、アーム部材24,25に固定してもよい。すなわち、用紙12が供給された場合には、揺動板28,29自身が変形して用紙12の進入を許容すると共に、揺動板28,29の弾性により用紙12を挟持する。
【0054】
・上記実施形態において、反転機構14は、湾曲した搬送経路部分であれば任意に用いることができる。すなわち、スキャナーなどの読取装置や、印刷部15と排紙トレイとの間に反転機構14を設けてもよい。また、湾曲した搬送経路であれば、用紙12を反転させる経路ではなくてもよい。例えば、斜めに設けられた給紙トレイから用紙12を給紙すると共に、用紙12の姿勢が水平状態となるように湾曲経路を搬送して印刷を施すプリンターに設けてもよい。
【0055】
・上記実施形態では、記録装置をインクジェット式プリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする記録装置を採用してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
11…プリンター(記録装置)、12…用紙(シート部材)、12c…先端部、14…反転機構(挟持手段)、17…給紙ローラー(送出手段)、21…回動モーター(回動手段)、22…回動軸、23…挟持部、26…ガイド部材、28,29…揺動板(挟持部材)、28c、29c…曲面部、30,31…揺動軸、33〜36…歯車、44…記録ヘッド(記録手段)、53…搬送ローラー(搬送手段)、40…ばね(付勢手段)、59…制御部(制御手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するシート部材を一枚ずつ搬送方向の下流側へ送り出す送出手段と、
該送出手段により送り出された前記シート部材を該シート部材の表裏両側から挟持可能な挟持部を有し且つ該挟持部が前記シート部材の前記搬送方向と交差する前記シート部材の幅方向に沿って延びる回動軸を中心として重力方向に高低差を有する湾曲した移動軌跡を描くように回動可能な挟持手段と、
該挟持手段における前記挟持部を回動させる回動手段と、
該回動手段の駆動を制御する制御手段とを備え、
該制御手段は、前記挟持部が前記シート部材を挟持した状態で前記回動手段を駆動することにより、前記シート部材を前記搬送方向の上流側から下流側へ搬送することを特徴とするシート部材搬送装置。
【請求項2】
前記挟持部に挟持された状態で該挟持部と共に回動した前記シート部材を前記挟持手段から受容して前記搬送方向の下流側へ搬送する搬送手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記挟持部が前記シート部材における前記搬送方向の下流側の端部よりも上流側位置で前記シート部材を挟持した状態で前記回動手段を駆動することにより、駆動が停止された前記搬送手段に前記挟持部を接近させ、その後、前記搬送手段を駆動することを特徴とする請求項1に記載のシート部材搬送装置。
【請求項3】
前記挟持部は、1対の揺動軸を中心として各々揺動可能な1対の挟持部材と、
該1対の挟持部材が前記シート部材を表裏両側から挟持可能な方向に前記一対の挟持部材を付勢する付勢手段と、
前記揺動軸に前記各挟持部材とそれぞれ一体回動可能に設けられて互いに噛合する1対の歯車と
をさらに有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシート部材搬送装置。
【請求項4】
前記各挟持部材は、前記シート部材を挟持可能な湾曲した曲面部を有することを特徴とする請求項3に記載のシート部材搬送装置。
【請求項5】
前記挟持部が回動した場合の前記移動軌跡よりも内側となる位置に該移動軌跡に沿うように設けられるガイド部材をさらに備え、
前記制御手段は、前記挟持部によって前記シート部材を搬送する搬送速度が、前記送出手段が前記シート部材を送り出す送出速度よりも速くなるように前記回動手段を駆動制御することを特徴とする請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載のシート部材搬送装置。
【請求項6】
シート部材に記録材を付着させて記録を施す記録手段と、
請求項1〜5のうち何れか一項に記載のシート部材搬送装置と
を備えることを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−190061(P2011−190061A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58182(P2010−58182)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】