説明

シード軸とシードホルダとの連結構造

【課題】融液からの輻射熱でシード軸、シードホルダに変形が生じても、種結晶を融液面に垂直に着液可能なシード軸とシードホルダとの連結構造を提供する。
【解決手段】シード軸にユニバーサルジョイント方式のシードホルダを連結したため、インゴット引き上げ時、炉内の輻射熱などでシード軸、シードホルダが熱膨張して変形しても、シードホルダが自重により垂直方向を向く。これにより、種結晶は融液面に垂直に着液できる。その結果、インゴット引き上げの初期段階において、急激な肩部の成長がなくなり、滑らかな肩部の単結晶インゴットを成長できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シード軸とシードホルダとの連結構造、詳しくはチョクラルスキー方式による単結晶、特に酸化物単結晶を引き上げる際に好適な単結晶引上げ装置におけるシード軸とシードホルダとの連結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、酸化物単結晶の一種である単結晶サファイアのインゴットの製造にあっては、チョクラルスキー法(CZ法)が一般的に知られている。CZ法による単結晶サファイアインゴットの引き上げでは、まずるつぼに充填した酸化アルミニウムをヒータにより加熱し、アルミナ融液を得る。その後、シードホルダの下端部に装着した種結晶をアルミナ融液に浸漬し、シードホルダおよびるつぼを回転させながらシードホルダを徐々に引き上げ、種結晶の下端に単結晶サファイアインゴットを成長させる(特許文献1)。
【0003】
このシードホルダは、種結晶を装着、保持する部材である。特許文献1には構成の記載はないものの、従来のシードホルダは、引き上げ機構によって垂直に引き上げられる棒状のシード軸の下端部に、3本のビスを介して堅固に締結されていた。具体的には、シード軸の下端部にその外周面から中心部のホルダ保持孔に向かって3本の水平なビス孔が形成され、各ビス孔に、それぞれねじ込み量を調整しながら3本のビスをねじ込むことで、シード軸の下端部に、シードホルダが保持される。また、シーホルダの下端部には、種結晶が堅固に締結される。これらのシード軸、シードホルダおよび種結晶は、常温の環境で、それぞれの軸線が垂直な仮想直線上に配置されるように部材間の連結が調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−265150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、特許文献1のような従来技術では、インゴット引き上げ時、アルミナ融液などからの輻射熱によりシード軸が熱膨張し、シード軸に曲がり(変形)が生じるとともに、3本のビスに緩みが発生していた。その結果、室温環境下でシードホルダに装着された垂直な種結晶が、アルミナ融液面に対して斜めに着液し、アルミナ融液内の温度勾配が変化していた。これにより、単結晶サファイアインゴットの肩部の引き上げ時、この肩部が急激に成長してしまい、肩部を同心円状に育成することができない場合があった。
【0006】
そこで、発明者は鋭意研究の結果、シード軸と種結晶とをユニバーサルジョイント構造のシードホルダにより連結するように構成すれば、仮にアルミナ融液からの輻射熱などを原因として、シード軸が熱膨張により変形したり、各ビスに緩みが生じた場合でも、シードホルダおよび種結晶の各自重により種結晶の傾きを無くせることを知見した。すなわち、種結晶はアルミナ融液の直上で垂直に保たれ、種結晶は液面に垂直に着液される。よって、インゴットの引き上げの初期段階において、従来の課題であった急激な肩部の成長が解消され、滑らかな肩部を有した単結晶サファイアインゴットを育成可能なことを知見し、この発明を完成させた。
【0007】
この発明は、融液などからの輻射熱を原因として例えばシード軸とシードホルダとの連結部分に曲がりなどが生じても、種結晶を融液面に対して垂直に着液することができるシード軸とシードホルダとの連結構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、チョクラルスキー法により融液から単結晶インゴットを引き上げる際、垂直に引き上げられる棒状のシード軸の下端部と、種結晶が下端部に装着されるシードホルダの上端部とを連結するシード軸とシードホルダとの連結構造において、前記シードホルダは、該シードホルダを上下に分割した2以上のn個の部分シードホルダと、前記シード軸の下端部に最上段の前記部分シードホルダの上端部を回動自在に支持するものと、残りの前記部分シードホルダの隣接する端部同士を回動自在に支持するものとからなり、かつ軸線が水平な2以上のn本の回動ピンとを有し、該n本の回動ピンは、前記最上段の部分シードホルダ用のものを基準とし、下段配置のものほど、180°をnで除算した角度ずつ、前記シードホルダの軸線を中心とする一方向回りに角度変更されたユニバーサルジョイント方式のものであるシード軸とシードホルダとの連結構造である。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、前記シードホルダおよび前記回動ピンは、タングステン、モリブデン、モリブデン合金、タンタルの何れかにより構成され、互いに異なる材質で構成される請求項1記載のシード軸とシードホルダとの連結構造である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、シード軸と種結晶とがユニバーサルジョイント方式のシードホルダにより連結されているので、チョクラルスキー法により融液から単結晶インゴットを引き上げる際、仮に融液からの輻射熱などにより、例えばシード軸とシードホルダとの連結部分に曲がりなどが発生しても、種結晶付きのシードホルダは、その長さ方向が自重によって垂直方向となる。これにより、種結晶は融液の直上で垂直に保たれ、液面に垂直に着液することができる。その結果、単結晶インゴットの引き上げの初期段階において、従来の課題であった急激な肩部の成長がなくなり、滑らかな肩部の単結晶インゴットを成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施例1に係るシード軸とシードホルダとの連結構造の正面図である。
【図2】この発明の実施例1に係るシード軸とシードホルダとの連結構造が搭載された単結晶引き上げ装置の縦断面図である。
【図3】この発明の実施例1に係るシード軸とシードホルダとの連結構造の室温での芯出し状態を示す斜視図である。
【図4】この発明の実施例1に係るシード軸とシードホルダとの連結構造の使用状態を示す斜視図である。
【図5】この発明の実施例2に係るシード軸とシードホルダとの連結構造の室温での芯出し状態を示す斜視図である。
【図6】この発明の実施例2に係るシード軸とシードホルダとの連結構造の使用状態を示す斜視図である。
【図7】従来法に係るシード軸とシードホルダとの連結構造の室温での芯出し状態を示す斜視図である。
【図8】従来法に係るシード軸とシードホルダとの連結構造の使用状態を示す斜視図である。
【図9】別の従来法に係るシード軸とシードホルダとの連結構造の室温での芯出し状態を示す斜視図である。
【図10】別の従来法に係るシード軸とシードホルダとの連結構造の使用状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明は、チョクラルスキー法により融液から単結晶インゴットを引き上げる際、垂直に引き上げられる棒状のシード軸(シャフト)の下端部と、種結晶が下端部に装着されるシードホルダの上端部とを連結するシード軸とシードホルダとの連結構造である。
そして、この発明の要旨は、シードホルダとして、シードホルダを上下に分割した2以上のn個の部分シードホルダと、シード軸の下端部に最上段の部分シードホルダの上端部を回動自在に支持するものと、残りの部分シードホルダの隣接する端部同士を回動自在に支持するものとからなり、かつ軸線が水平な2以上のn本の回動ピンとを有し、n本の回動ピンは、最上段の部分シードホルダ用のものを基準とし、下段配置のものほど、180°をnで除算した角度ずつ、シードホルダの軸線を中心とする一方向回りに角度変更されたユニバーサルジョイント方式のものとした点である。
【0013】
この発明によれば、シード軸と種結晶とを、ユニバーサルジョイント方式のシードホルダにより連結したので、チョクラルスキー法により融液から単結晶インゴットを引き上げる際、仮に融液からの輻射熱などにより、例えばシード軸とシードホルダとの連結部分に曲がりなどが発生しても、種結晶付きのシードホルダは、その長さ方向が自重により垂直方向となる。その結果、種結晶は融液の直上で垂直に保持され、その後、液面に垂直に着液することができる。よって、インゴット引き上げの初期段階において、従来の課題であった急激な肩部の成長が解消され、滑らかな肩部を有した単結晶インゴットの成長が可能となる。
【0014】
単結晶インゴットとしては、例えば、単結晶サファイアインゴットなどの酸化物単結晶インゴットを採用することができる。その他、単結晶シリコンなどでもよい。
この発明が適用される単結晶引上げ装置としては、各種のチョクラルスキー方式の単結晶引上げ装置を採用することができる。例えば、高磁界印加状態で単結晶インゴットを引き上げるMCZ方式のものなどである。
シード軸は直線的に延びる棒材である。シード軸およびシードホルダの具体的な素材としては、例えばタングステン、モリブデン、モリブデン合金、タンタルなどを採用することができる。また、シード軸とシードホルダとの素材を異ならせれば、互いの融着を防止することができる。
【0015】
ここでいうユニバーサルジョイント方式とは、シード軸の直下において、種結晶およびシードホルダの自重によって、2以上のn個の部分シードホルダがその対応する回動ピンを中心にして自在に回動し、シードホルダの下端部に装着された種結晶の長さ方向を垂直方向に向けさせる方式をいう。
シードホルダを構成する部分シードホルダの個数nは2、3またはそれ以上でもよい。
種結晶の素材は、引き上げられる単結晶インゴットの素材と同一のものが採用される。
回動ピンの本数nは、部分シードホルダの個数と同一である。
各回動ピンは、例えば部分シードホルダ同士など、連結される2つの部材間に形成された複数のピン孔に同軸的に挿入される。各回動ピンの直径は、シードホルダのn本の回動ピンを中心としたユニバーサルジョイントとしての回動の自由度を得るため、対応するピン孔の孔径より0.5mm〜2mm小さい。
【0016】
「180°をnで除算した角度」とは、部分シードホルダの個数および回動ピンの本数を示す数値の「n」が、例えば2の場合には90°、3の場合には60°、4の場合には45°となる。
「最上段の回動ピンを基準として、下段配置のものほど、180°をnで除算した角度ずつ、シードホルダの軸線を中心とした一方向回りに角度変更する」とは、例えばnが3の場合、次のことを意味する。すなわち、シード軸の下端部と最上段の部分シードホルダの上端部とを連結する1本目の回動ピンの長さ方向を基準角度0°としたとき、最上段の部分シードホルダの下端部と、それより1段下(上から2本目)の部分シードホルダの上端部とを連結する上から2本目の回動ピンは、基準角度より例えばシードホルダの軸線を中心として左回りに60°回動した位置に配置される。また、上から2段目の部分シードホルダの下端部と、上から3段目の部分シードホルダの上端部とを連結する上から3本目の回動ピンは、基準角度よりシードホルダの軸線を中心として左回りに120°回動した位置に配置される。
【実施例】
【0017】
次に、図1〜図4を参照して、この発明の実施例1に係るシード軸とシードホルダとの連結構造を説明する。
図1および図2において、10はこの発明の実施例1に係るシード軸とシードホルダとの連結構造(以下、シード連結構造)で、このシード連結構造10は、単結晶サファイアインゴット用の単結晶引上げ装置30に搭載されている。
【0018】
以下、これらの構成体を具体的に説明する。
単結晶引上げ装置30は、中空円筒形状のチャンバ11を備えている。チャンバ11は、メインチャンバ12と、メインチャンバ12上に連設固定され、メインチャンバ12より小径なプルチャンバ13とからなる。メインチャンバ12内の中心部には、モリブデン製のるつぼ14が、回転および昇降が可能な支持軸(ペディスタル)15の上に固定されている。
【0019】
るつぼ14の外側には、加熱抵抗式のヒータ21がるつぼ14の壁部と同心円状に配置されている。ヒータ21の外側には、円筒状の保温筒22がメインチャンバ12の周側壁内面に沿って配置されている。メインチャンバ12の底面上には、円形の保温板23が配置されている。
るつぼ14の中心線上には、支持軸15と同一軸心で回転およびZ方向(垂直方向)への昇降が可能でモリブデンからなる丸棒のシード軸25が、プルチャンバ13を通って吊設されている。また、シード軸25の下端部には、モリブデンからなるシードホルダ24が連結され、このシードホルダ24の下端部には、単結晶サファイアからなる種結晶Cが装着されている。
【0020】
次に、図1を参照して、このシード連結構造10を詳細に説明する。
実施例1のシード連結構造10の特徴は、シードホルダ24をユニバーサルジョイント方式のものとした点である。以下、これについて具体的に説明する。
シードホルダ24は、これを上下に2分割した2個の部分シードホルダ24A,24Bと、シード軸25の下端部に上段の部分シードホルダ24Aの上端部を回動自在に支持する1本目の回動ピン28Aを有した上段軸支部29Aと、上段の部分シードホルダ24Aの下端部に下段の部分シードホルダ24Bの上端部を回動自在に支持する2本目の回動ピン28Bを有した下段軸支部とを備えている。
【0021】
両回動ピン28A,28Bは、軸線が水平でモリブデン合金からなるピン材である。このうち、1本目の回動ピン28Aの軸線方向(Y方向)を基準として、2本目の回動ピン28Bの軸線方向は、シードホルダ24の軸線を中心とする左回りに、180°を2で除算した90°分だけ角度変更した方向(X方向)を向いている。両回動ピン28A,28Bの素材として、高融点(約2600℃)でタングステンなどに比べて軟らかいモリブデン合金を採用したので、単結晶サファイアインゴットSの引き上げ中に両回動ピン28A,28Bが破断し難い。また、2本目の回動ピン28Bの素材を、シード軸25およびシードホルダ24とは異なる素材としたため、高温で加熱しても互いの接触部分に融着が発生し難い。
また、下段の部分シードホルダ24Bの下端面の中央部には、種結晶Cの上端部の嵌入孔が形成されている。この挿入孔に種結晶Cの上端部を挿入して堅固に固定することで、シードホルダ24の下端部に種結晶Cが装着される。
【0022】
上段軸支部29Aは、1本目の回動ピン28Aの他に、シード軸25の下端面の中央部から下方へ突出した短尺な角柱形状で、かつ図1の図面上で下部を正面視したときの形状が半円形状の軸支用突起31Aと、上段の部分シードホルダ24Aの上端部のうち、X方向の両端部分を貫通して形成された軸支用溝32Aとを有している。軸支用突起31Aの下端部には、Y方向の両側面を貫通した突起側ピン孔31aが形成されている。また、上段の部分シードホルダ24Aの上端部には、そのY方向の両端部分を貫通した溝側ピン孔24aが形成されている。上段軸支部29Aの組み立て時、1本目の回動ピン28Aを一方の溝側ピン孔24aから突起側ピン孔31aを経て他方の溝側ピン孔24aに同軸的に挿入することで、1本目の回動ピン28Aを中心にして、上段の部分シードホルダ24Aがシード軸25に回動自在に連結(軸支)される。なお、1本目の回動ピン28Aの直径は、これらの突起側ピン孔31aおよび溝側ピン孔24aの各内径より0.5mm程度小さい。これにより、1本目の回動ピン28Aと、シード軸25およびシードホルダ24との熱膨張を原因としたこの回動ピン28Aの固縛を防止し、インゴット引き上げ中、ユニバーサルジョイント方式のシードホルダ24の回動(揺動)の自由度を確保することができる。
【0023】
下段軸支部29Bは、2本目の回動ピン28Bの他に、上段の部分シードホルダ24Aの下端面の中央部から下方へ突出した前記シード軸25のものと略同一形状の軸支用突起31Bと、下段の部分シードホルダ24Bの上端部に形成されたものと略同一形状の前記軸支用溝32Bとを有している。ただし、軸支用突起31Bの下部は、図1の図面上でこの下部を側面視したときの形状が半円形状で、かつ軸支用溝32Bの長さ方向はY方向であるとともに、突起側ピン孔31bおよび溝側ピン孔24bの長さ方向はX方向に向いている。
【0024】
次に、図1〜図4を参照して、この単結晶引き上げ装置30を用いた単結晶サファイアインゴット成長方法を具体的に説明する。
まず、図1および図3に示すように、室温下で、シード軸25、上下2段の部分シードホルダ24A,24Bからなるシードホルダ24および種結晶Cについて、それぞれの部材の軸線方向をZ方向に一致させる芯出しを行う。
その後、図2に示すように、チャンバ11内を25Torrに減圧し、100L/minのアルゴンガスを導入する。次に、るつぼ14内の酸化アルミニウムをヒータ21により2020℃まで加熱して溶解し、るつぼ14内にアルミナ融液26を形成する。
【0025】
芯出し後、引き上げ機構によりシード軸25を徐々に下降させ、シードホルダ24の下端部に装着された種結晶Cの先端部をアルミナ融液26に浸漬する。
このとき、シード軸25と種結晶Cとがユニバーサルジョイント方式のシードホルダ24により連結されている。そのため、続くチョクラルスキー法によりアルミナ融液26から単結晶サファイアインゴットSを引き上げる際、仮にアルミナ融液26などからの輻射熱で、シード軸25とシードホルダ24との連結部分に曲がりなどが発生しても、種結晶C付きのシードホルダ24は、90°角度変更した2本の回動ピン28A,28Bを中心として、上段の部分シードホルダ24Aと下段の部分シードホルダ24Bとが自重により自在に回動する。これにより、シードホルダ24の長さ方向が無動力でZ方向に保持される。
【0026】
これにより、種結晶Cはアルミナ融液26の直上で垂直に保たれ、液面に垂直に種結晶Cを着液することができる。その結果、単結晶サファイアインゴットSの引き上げの初期段階において、従来の課題であった急激な肩部の成長がなくなり、滑らかな肩部の単結晶サファイアインゴットSを成長させることができる。
なお、ユニバーサルジョイント方式のシード連結構造10は、ピン多点式構造であるため、炉内温度によっては、それぞれモリブデンからなるシード軸25およびシードホルダ24の連結部分が溶着するおそれがある。そこで、両回動ピン28A,28Bを有する両軸支部29A,29Bは、アルミナ融液26の液面から常時上方へ200mm以上離間し、1500℃以下となるプルチャンバ13の内部空間に配置される方が好ましい。
その後、るつぼ14およびシード軸25を互いに逆方向へ回転させつつ、シード軸25をZ方向(垂直)に引き上げ、種結晶Cの下方に単結晶サファイアインゴットSを成長させる。
【0027】
次に、図5および図6を参照して、この発明の実施例2に係るシード軸とシードホルダとの連結構造を説明する。
図5および図6に示すように、この発明の実施例2に係るシード連結構造10Aの特徴は、シードホルダ24を、上下段の部分シードホルダ24A,24Bに、中段の部分シードホルダ24Cを加えて、3本の回動ピン28A〜28Cを使用する3分割に構成した点である。
【0028】
ここでは、上段の部分シードホルダ用の1本目の回動ピン28Aを基準として、下段配置のものほど、180°をnで除算した角度ずつ、具体的には60°ずつ、中段の部分シードホルダ用の2本目の回動ピン28B、下段の部分シードホルダ用の3本目の回動ピン28Cが、シードホルダ24の軸線を中心として左回りに回動した位置に配置されている。
その他の構成、作用および効果は、実施例1から推測可能な範囲であるので説明を省略する。
【0029】
ここで、実際にシード軸とシードホルダとの連結構造の違い(比較例1,2および試験例1,2)によって、単結晶サファイアインゴットの引き上げ中の種結晶の傾きと、引き上げ中の単結晶サファイアインゴットの肩部の成長とがどのように変化するかを、各比較例および各試験例について、それぞれ同一条件で3回ずつ実験した。なお、種結晶の傾きはシードホルダ上方よりCCDカメラで撮像し、撮像画像を数値化演算処理して求めた値である。
【0030】
(比較例1)
比較例1では、シード軸とシードホルダとの連結構造としてビス連結方式を採用した。具体的には、図7に示すように、シード軸25の下端面の中央部に形成されたホルダ保持孔25aに、シードホルダ24の上端面の中央部から突出した連結突起33を挿入し、シード軸25の下端部にその外周面から中心部のホルダ保持孔25aに向かって3本のビスPをねじ込んだ。これにより、連結突起33を介して、シード軸25の下端部にシードホルダ24が堅固に挟持された。なお、互いに連結されたシード軸25、シードホルダ24および種結晶Cは、あらかじめ常温の環境で、それぞれの軸線が垂直方向へ向くように部材間の連結を調整した。
【0031】
その後、実施例1のインゴット引き上げ条件で、るつぼ14のアルミナ融液26から単結晶サファイアインゴットSを引き上げた。このとき、アルミナ融液26などからの輻射熱によりシード軸25が熱膨張し、シード軸25に曲がりが生じるとともに、3本のビスPに緩みが発生した。これは、シード軸25にシードホルダ24がビス止めされていたためである。その結果、室温環境下でシードホルダ24に装着された垂直な種結晶Cが、アルミナ融液26の液面に対して斜めに着液し、アルミナ融液26内の温度勾配が変化した(図8)。よって、単結晶サファイアインゴットSの肩部の引き上げ時、肩部が急激に成長してしまい、肩部を同心円状に育成できなかった。以上のような実験を3回分行った結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
(比較例2)
比較例2では、シード軸とシードホルダとの連結構造として実施例1の回動ピン2本のユニバーサルジョイント方式ではなく、図9および図10に示すように、1つの軸支部34からなる回動ピン1本方式を採用した。1つの軸支部34は、シード軸25の軸支用突起31と、これを収納するシードホルダ24の軸支用溝と、この軸支用溝内で軸支用突起31を回動自在に支持するX方向へ長い1本の回動ピン28Dとを有している。なお、互いに連結されたシード軸25、シードホルダ24および種結晶Cは、あらかじめ常温の環境で、それぞれの軸線が垂直方向へ向くように部材間の連結を調整した。結果を表1に示す。
比較例2ではシード軸25とシードホルダ24とを1本の回動ピン28Dにより軸支したが、回動ピン28Dを中心として種結晶Cを回動させた際、種結晶CはX方向への自由度がないために傾き易かった。すなわち、表1に示すように、3回の実験中、種結晶Cの傾きおよび肩部の急激な成長を抑制できたのは2回目のみであった。
【0034】
(試験例1)
試験例1では、図1、図3および図4に示す実施例1に則って、シードホルダ24が上下段に2分割された部分シードホルダ24A,24Bからなり、かつ軸線方向が90°相違えた2本の回動ピン28A,28Bを有するユニバーサルジョイント方式を採用した。実施例1と同一条件で単結晶サファイアインゴットSを引き上げたところ、シードホルダ24はX方向およびY方向への回動の自由度を有し、高温環境でシード軸25が多少変形しても、また種結晶Cをシードホルダ24と一体的に所定方向へ回動させた場合でも、種結晶Cは自重により、常時、垂直を保持することができた。その結果を表1に示す。
【0035】
(試験例2)
試験例2では、図5および図6に示す実施例2に則って、シードホルダ24が上中下段に3分割された部分シードホルダ24A〜24Cからなり、かつ軸線方向が60°ずつ相違えた3本の回動ピン28A〜28Cを有するユニバーサルジョイント方式を採用した。実施例2と同一条件で単結晶サファイアインゴットSを引き上げたところ、実施例1と同等のX方向およびY方向への回動の自由度を有し、このように回動ピンの本数を増やしても、種結晶Cをアルミナ融液26に垂直に着液させ、単結晶サファイアウェーハSの肩部を安定して成長可能なことを確認することができた。その結果を表1に示す。
【0036】
本発明では、シードホルダ24および種結晶Cの自重により、室温下および高温下に拘わらず、常時、種結晶Cがアルミナ融液26の液面に対して垂直を保持できる構造となっているため、従来では必須であった室温下での種結晶の長さ方向を垂直方向に揃える芯出し作業が不要となった。
また、実験中、種結晶Cの傾きをCCDカメラの画面上で確認したが、回動ピンを2本以上使用することで種結晶Cの傾きは検出下限の1.2E−04°以下であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、インゴットの引き上げの初期段階において、従来の課題であった急激な肩部の成長が解消され、滑らかな肩部を有した単結晶インゴットを育成することができる。
【符号の説明】
【0038】
10,10A シード軸とシードホルダとの連結構造、
24 シードホルダ、
24A〜24C 部分シードホルダ、
25 シード軸、
26 アルミナ融液(融液)、
28A〜28C 回動ピン、
C 種結晶、
S 単結晶サファイアインゴット(単結晶インゴット)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により融液から単結晶インゴットを引き上げる際、垂直に引き上げられる棒状のシード軸の下端部と、種結晶が下端部に装着されるシードホルダの上端部とを連結するシード軸とシードホルダとの連結構造において、
前記シードホルダは、
該シードホルダを上下に分割した2以上のn個の部分シードホルダと、
前記シード軸の下端部に最上段の前記部分シードホルダの上端部を回動自在に支持するものと、残りの前記部分シードホルダの隣接する端部同士を回動自在に支持するものとからなり、かつ軸線が水平な2以上のn本の回動ピンとを有し、
該n本の回動ピンは、前記最上段の部分シードホルダ用のものを基準とし、下段配置のものほど、180°をnで除算した角度ずつ、前記シードホルダの軸線を中心とする一方向回りに角度変更されたユニバーサルジョイント方式のものであるシード軸とシードホルダとの連結構造。
【請求項2】
前記シードホルダおよび前記回動ピンは、タングステン、モリブデン、モリブデン合金、タンタルの何れかにより構成され、互いに異なる材質で構成される請求項1記載のシード軸とシードホルダとの連結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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