説明

シールされた医用デバイスのための複合吸水材

25℃及び100%RHにおいて0.05g mm m−2 d−1〜5.4g mm m−2 d−1の間の透水性を有するポリマーマトリックス中に分散した活性化学種を含む、シールされた医用デバイスのための複合吸水材ならびに前記複合吸水材を用いてシールされた医用デバイスから水を除去するための方法が記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それだけに限らないが特にヒト体内に埋込み可能な医用デバイスに関連する、シールされた医用デバイスのための複合吸水材に関する。
【背景技術】
【0002】
シールされた医用デバイス、例えば、ペースメーカー、神経刺激装置、補聴器、除細動器、医薬の制御放出のための電気機械的システム、埋込み型心臓除細動器、心臓再同期治療などの分野における最近の進歩により、性能及び信頼性の両方の観点において、それらの特徴が継続的に改善されてきた。
【0003】
以下、埋込み型デバイスについて言及する。というのは、それらが本発明の恩恵を最も受けるものであるからである。
【0004】
これらのデバイスは通常、不活性気体の雰囲気下、典型的には窒素またはアルゴン及びヘリウム中でシールされるが、いくつかの特定の製造プロセスにおいては乾燥空気中でシールされる。
【0005】
医用デバイスのシールに無水の気体を用いるか否かの事実には関わらず、有害化学種が、最初は気相中において、時とともにデバイスの内部に蓄積してデバイスの正しい操作を妨害し、または不可逆的な様式でそれを損傷する可能性さえも除外することはできない。水分は、デバイスの内部で用いられる部品に関する腐蝕性及び電子部品の操作に対する損傷の可能性の両方により、主な有害化学種の1つである。
【0006】
シールされた医用デバイスの内部に存在する水分は、3つの異なった様式に起因する可能性がある。第1の原因は製造プロセス自体から派生する可能性があり、医用デバイスの部品からの気体の放出が第2の可能な原因であり、一方第3の原因はシールされたデバイスの壁を通る浸透に関連している。デバイスの外部から内部へのこの後者の浸透現象は、時にはデバイスが一旦設置された時にも存在し得るが、一方他のデバイスについては、デバイスの製造とその実際の設置との間の時期の中で最も大量の水が入ってくる。この点に関し、シールされた医用デバイスの接合部が、典型的には外部環境からの最大の浸透を示す。
【0007】
医用デバイスの内部への水の浸入の影響、ならびにいくつかの医用デバイスについての外部からの許容し得る最大の浸透に関する主な詳細は、CRC Press社によって2001年に出版されたChapin及びMoxonによる書籍「Neutral Prostheses for Restoration of Sensory and Motor Function」の第3章に見出すことができる。この参考文献は、シールされたデバイスから水を除去するためのゲッター材料の可能な典型的使用についても言及している。
【0008】
シールされた医用デバイスの内部からの水の除去に対するこの機能的なニーズは、典型的にはゲッター材料を用いることによって得られるが、その他に、デバイスの製造プロセスに関する工業的な性質の別のニーズがあり、それによれば理想的にはゲッター材料を空気中でその吸水量を過度に損なうことなく取り扱うことが可能であるべきである。これにより、例えば、それを通して無水の気体が流れるグローブボックスの使用もしくはこの観点からは性能が悪い製造手段の使用を許容することなどの、製造プロセスをより複雑で高価なものにする手段及び方法の使用を避けることができ、またはグローブボックス中で実施すべき操作の数を低減させることが可能になる。
【0009】
したがって、吸水材には2つの対照的な要件がある:一方では、吸水材はデバイスに入ってくる水またはその中に既に存在している水を吸収する能力を有し、それによりデバイス内部での水の量の増加が避けられるような吸水速度を有さなければならないが、他方、吸水材は空気に曝されることによって、または吸水材が非無水雰囲気に曝される条件下でなされる他の操作によって過剰な劣化を起こしてはならない。
【0010】
水の除去に有用な活性化学種から作製され、ポリマーマトリックスの内部に分散した複合吸水材の一般的な使用については、米国特許第5078909号明細書に記載されているが、この特許においては水の浸透または透過に関するポリマーの特性については特に言及されていない。
【0011】
複合吸水材については、いずれも本出願人名義の国際公開第2007/013118号及び国際公開第2007/013119号にも記載されている。国際公開第2007/013118号は、ポリマーマトリックス中に分散した多孔性材料の孔の中に配置された吸水材料の使用について教示しているが、ポリマーの特定の浸透値については何ら教示していない。一方、国際公開第2007/013119号は、活性バリア、即ち低い浸透性、即ち0.00215×10−3g mm m−2 d−1より低い浸透性を有するポリマー中に分散した活性材料から作製された複合システムについて開示している。
【0012】
その代わりに、水に曝されることを防ぎながら医薬を保護するために所与の浸透性を有するポリマーを用いることの問題点は、国際公開第99/61856号に記載されている。この特許においては、この技術的効果は適当な添加剤の除去によって生じる微小流路の形成によって得られる。この文献は、これらの流路によって有害化学種と吸収材との連通が維持されている可能性について記載している。したがって、この文献で教示されるポリマーの機能は、単に活性化学種を含有して取り囲み、医薬容器の内部雰囲気と活性化学種との間の連通を保証するのに適した作用物の機能に過ぎず、ポリマーそれ自体によって活性化学種を遮蔽し保護する作用は全くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5078909号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/013118号
【特許文献3】国際公開第2007/013119号
【特許文献4】国際公開第99/61856号
【特許文献5】国際公開第2009/043776号
【特許文献6】国際公開第2009/043817号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Chapin及びMoxon、「Neutral Prostheses for Restoration of Sensory and Motor Function」、第3章(2001)、CRC Press
【非特許文献2】「Permeability and Other Film Properties of Plastic and Elastomer」、Plastics Design Library
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、先行技術にまだ存在する問題点を克服することができる、シールされた医用デバイスのための特定の複合吸水材を提供することであり、即ち医用デバイスのハウジングからの充分な吸水速度を確保し、デバイスの製造を単純化するために製造プロセスに要求される時間について何ら特別の注意を必要とせずに空気中で取り扱うことができる複合吸水材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
その第1の態様においては、本発明はポリマーマトリックス中に分散した活性化学種を含む、シールされた医用デバイスのための複合吸水材に関し、前記ポリマーマトリックスは25℃及び100%RHにおいて0.05g mm m−2 d−1〜5.4g mm m−2 d−1の間のMVTRを有することを特徴とする。
【0017】
MVTRはポリマーの透過係数(水蒸気透過速度)を示し、ASTM E96の方法に従って25℃及び100%相対湿度で測定される。以下、この測定単位についてRH(相対湿度)という表示を用いる。
【0018】
用語「活性化学種」は、物理的吸水機構、化学的吸水機構、またはそれらの両方によって水を除去する(即ちゲッターする)のに適した任意の材料を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
特に本発明者らは、本発明に従って作製した複合吸水材を用いることによって、複合吸水材の中に分散した活性化学種のみの重量に対してではなく、複合吸水材の全重量に対する重量百分率として表わして2.5%〜15.2%の医用デバイス中の水の吸収を確保することが可能であることを見出した。さらに、本発明の複合吸水材は、その除水能力を過度に損ねることなく、空気中で典型的な使用条件(22℃、22%RH)の下に取り扱うことができる。特に、例えば、厚さ0.2mmの試料は、空気中に1時間曝した際にその初期吸水量に対して3%の損失によって特徴付けられるが、厚さを1mmとした場合には同じ吸水量損失を得るための曝露時間は10時間にまで増大する。
【0020】
太陽電池パネルにおける使用のための活性化学種を含むポリマーバリアの使用は、いずれも本出願人名義の国際公開第2009/043776号及び国際公開第2009/043817号に記載されている。これらの出願は、25℃及び100%RHで測定した透水性が10g mm m−2 d−1より低いポリマー材料を用いることを特徴としている。バリアとしての特定の使用及びそれにより望ましい技術的効果を考慮すれば、透過性はできるだけ低くなければならない。したがって、これらの出願には、シールされた医用デバイスから水を除去し、それによりデバイスの内部におけるその有害な集積を避けるための複合吸水材の使用を可能にする最小透水性値に特に関連する、シールされた医用デバイスのための複合吸水材に関する教示は見出すことができない。
【0021】
水の吸収のための活性化学種の中で、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0022】
シールされた医用デバイスの分野においては、周囲温度よりも高い温度で操作され、またはいずれにせよ複合吸水材に近接して局所的過熱を引き起こす用途がある。特に、酸化カルシウムの使用は65℃以上の温度が好ましい。
【0023】
水はシールされた医用デバイスにとって主な望ましくない化学種であるが、他の気体化学種の存在もこれらのデバイスのいくつかにとって有害であり、この観点からその中で最も一般的なものは、水素、二酸化炭素、一酸化炭素及び炭化水素である。この場合、複合吸水材が水だけでなくこれらの有害化学種をも吸収するのに適した1つまたは複数のゲッター材料を含むことは特に有用である。
【0024】
その中に活性化学種が分散しているポリマーマトリックスに関して、本発明を実施するために有用な材料は、例えば、エチレン−酢酸ビニル(EVA)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)及び高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリエーテル−ブロック−アミド(PEBA)、Du Pont社販売のSurlyn(商標)などのアイオノマー樹脂、例えば、Basell社販売のLucalen(登録商標)などのエチレン−アクリル酸コポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルブチラール(PVB)及びDOW Chemicals社販売のSaran(商標)などのポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム(EPR)、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)ゴム、及びDow Corning社販売のSylgard(商標)などのシロサニック(Sylossanic)樹脂である。
【0025】
既に述べた材料は特定の組成によって異なったMVTRを有してよく、この場合、複合吸水材の製造のためのポリマーマトリックスは、適切な透水性、即ち0.05g mm m−2 d−1〜5.4g mm m−2 d−1の間の値に基づいて選択されなければならない。例えば、33%の酢酸ビニルを含むEVAは5.4g mm m−2 d−1のMVTRを有し、したがって本発明を実施するために適当であるが、70%の酢酸ビニルを含むEVAは17.5g mm m−2 d−1の透過性を有し、したがってこれは適当でない。
【0026】
透過性のデータは典型的には製造業者から提供され、またはPlastics Design Library社から出版された「Permeability and Other Film Properties of Plastic and Elastomer」などの文献においてテキストで容易に見出すことができ、したがって所与の透水性値を有するポリマーは当業者によって容易に選択することができる。
【0027】
本発明の目的である複合吸水材は、10重量%〜50重量%の間の量の除水のための材料を含む。この百分率は好ましくは30%〜45%の間である。充分な吸水量を確保するために、吸水材料の重量濃度は10%より低くないことが重要である。
【0028】
本発明によって得ることができる別の利点は、複合吸水材が容易に異なった形態をもって製造でき、異なった形態に適合できることである。特に本発明によれば0.15mm〜2mmの間の厚さを有する複合吸水材を得ることができ、使用者は吸水材を医用デバイスの内部に挿入する際に、単純な切断操作で自由に幅及び長さを決定することができる。
【0029】
典型的には、医用デバイスにおける製品のこの程度の適合性及び可撓性は、分注できる乾燥ペーストを用いることによって現在でも得られるが、これにはその取扱いの間に注意が必要であるという欠点があり、さらにまた、製品、即ち医用デバイスの内部において周囲温度より高い温度での硬化相を必要とする。
【0030】
その第2の態様においては、本発明はポリマーマトリックス中に分散した活性化学種を含む複合吸水材を用いることによって、シールされた医用デバイスから水を除去するための方法に関し、前記ポリマーマトリックスは25℃及び100%RHにおいて0.05g mm m−2 d−1〜5.4g mm m−2 d−1の間のMVTRを有することを特徴とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーマトリックス中に分散した活性化学種を含む、シールされた医用デバイスのための複合吸水材であって、前記ポリマーマトリックスが25℃及び100%RHにおいて0.05g mm m−2 d−1〜5.4g mm m−2 d−1の間の水蒸気透過速度を示すことを特徴とする複合吸水材。
【請求項2】
前記ポリマーマトリックスが主要構成成分として、エチレン−酢酸ビニル、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリエーテル−ブロック−アミド、アイオノマー樹脂、エチレンアクリル酸コポリマー、ポリフッ化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ブチルゴム、EPRゴム、EPDMゴムの中の1つを有する、請求項1に記載の吸水材。
【請求項3】
前記分散した活性化学種が、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、アルカリ金属酸化物、及びアルカリ土類金属酸化物の中の1つまたは複数を含む、請求項1に記載の吸水材。
【請求項4】
前記分散した活性化学種が、1つまたは複数の追加的な有害化合物を吸収する能力を有する活性化学種を含む、請求項1または2に記載の吸水材。
【請求項5】
前記追加的な有害化合物が、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、炭化水素である、請求項4に記載の吸水材。
【請求項6】
複合吸水材に対する前記活性化学種の重量百分率が10%〜50%の間である、請求項1に記載の吸水材。
【請求項7】
厚さが0.15〜2mmの間である、請求項1に記載の吸水材。
【請求項8】
ポリマーマトリックス中に分散した1つの活性化学種を含む複合吸水材をシールされた医用デバイスの中に導入することによって前記デバイスから水を除去するための方法であって、前記ポリマーマトリックスが25℃及び100%RHにおいて0.05g mm m−2 d−1〜5.4g mm m−2 d−1の間の水蒸気透過速度を示すことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記活性化学種が、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の中の1つまたは複数を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アルカリ土類金属酸化物が、酸化カルシウム、酸化バリウムまたはそれらの組合せを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記シールされた医用デバイスが65℃以上の温度で操作され、活性化学種が酸化カルシウムを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記シールされた医用デバイスの内部への複合吸水材の導入が不定長及び不定幅ならびに0.15〜2mmの厚さを有する吸水材シートを切断する段階を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記シールされた医用デバイスが、ペースメーカー、神経刺激装置、補聴器、除細動器、または薬物の制御放出のための電気機械的システムである、請求項8に記載の方法。

【公表番号】特表2011−528924(P2011−528924A)
【公表日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519109(P2011−519109)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058782
【国際公開番号】WO2010/009986
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(511020829)
【Fターム(参考)】