説明

シールチェーン

【課題】シール性能の低下、寿命の低下を抑制でき、ブシュの強度低下を抑制することのできるシールチェーンを提供すること。
【解決手段】外リンクプレート2のピン孔2aにピン3の両端部を嵌入固定した外リンク4と、内リンクプレート5のブシュ孔5aに、ローラ6が遊嵌されたブシュ7の両端部7aを嵌入固定した内リンク8とが、ブシュ7にピン3が遊嵌されることにより連結され、外リンクプレート2と内リンクプレート5との間にシール機構9が配置され、シール機構9は、弾性リング10とシールリング11とで構成され、シールリング11は、環状の傾斜内周面11aと環状の傾斜外周面11bとを備え、弾性リング10は、内リンクプレート5から突出したブシュ7の両端部7aに形成された環状の傾斜面7bとシールリング11の環状の傾斜内周面11aとで保持されているシールチェーン1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送(コンベヤ)、動力伝達(伝動)等に用いるシールチェーンに関し、特に、ピンの外周面とブシュの内周面との間に封入された潤滑油(グリース等)が外部へ漏れ出すのを防止すると共に、ピンの外周面とブシュの内周面との間に外部から異物が侵入するのを防止するために、内リンクプレートと外リンクプレートの対向面との間にシール機構を配置したシールチェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
シールチェーンは、一般に、高速伝動チェーン、塵芥雰囲気中でのコンベヤチェーンや伝動チェーン、高負荷の掛かるコンベヤチェーンや伝動チェーン等として使用され、チェーンの内リンクプレートと外リンクプレートとの間にシール機構を設け、ピンとブシュとの間に封入した潤滑油の飛散防止と外部からの異物侵入を防止している。このシール機構には、従来より様々なものが提案されている。
【0003】
図6に、従来のシールチェーンの一例を一部拡大して示す。シール機構20は、ブシュ21の端部と外リンクプレート22の内側部との間に設けた窒化鋼やステンレスからなるシールリング23と、シールリング23とブシュ21の端部との間に設けた弾性リング24とから構成されている。このシールリング23の摺動面23cは弾性リング24により外リンクプレート22の内側部に押し付けられる。この弾性リング24はブシュ21の保持溝21aとシールリング23の保持溝23aとで保持されると共に、ブシュ21の垂直面21bとシールリング23の垂直面23bとで挟持されている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】実開平5−1717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来のシールチェーンは、直線走行中あるいは屈曲走行中に、内リンクプレート25が進行方向左右いずれかにずれて外リンクプレート22に接近あるいは離間することがあるため、弾性リング24がブシュ21の垂直面21bとシールリング23の垂直面23bとで圧縮され、弾性リング24が劣化したり、永久変形し、その結果、シール性能の低下、寿命の低下が促進される、という問題があり、また、弾性リング24を保持するブシュ21の保持溝21aがブシュ21の端面と平行に形成されているので、ブシュ21の端部21dの径方向における肉厚が薄く、ブシュ21の強度が低い、という問題があり、ブシュ21の保持溝21aが内リンクプレート25の対向面25aよりもチェーン幅方向内側に形成されていると共に、内リンクプレート25と外リンクプレート22との隙間が小さく、内リンクプレート25と外リンクプレート22との間から一旦入り込んだ異物が排出されにくいので、ブシュ21の端部21e、弾性リング24、シールリング23、内リンクプレート25のブシュ孔の内周面25b、外リンクプレート22の対向面22aとで囲まれた空間に異物が溜りやすく、その結果、弾性リング24、シールリング23等が損傷したり、ピン26とブシュ21との間に異物が侵入しやすくなる、という問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、前記したような従来の問題点を解決し、内リンクプレートと外リンクプレートとの間から一旦入り込んだ異物が内リンクプレートと外リンクプレートとの間から排出され易く、シール性能の低下、寿命の低下を抑制でき、ブシュの強度低下を抑制することのできるシールチェーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る本発明は、一対の外リンクプレートのピン孔にピン両端部を嵌入固定した外リンクと、一対の内リンクプレートのブシュ孔に、ローラが遊嵌されたブシュの両端部を突出させて嵌入固定した内リンクとが、前記ブシュに前記ピンが遊嵌されることにより連結され、前記外リンクプレートと前記内リンクプレートの対向面との間にシール機構が配置されてなるシールチェーンにおいて、前記シール機構が、前記ピンと同軸的に配置された弾性リングと、該弾性リングの外側に配置され前記外リンクプレートの対向面に圧接された鋼製のシールリングとで構成され、前記シールリングは、前記内リンクプレート側から前記外リンクプレート側に向けて縮径する環状の傾斜内周面と、前記内リンクプレート側から前記外リンクプレート側に向けて拡径する環状の傾斜外周面とを備え、前記弾性リングは、前記内リンクプレートから突出した前記ブシュの両最外端部外周に形成された前記環状の傾斜内周面とほぼ平行な環状の傾斜面と、前記シールリングの環状の傾斜内周面とで保持されているシールチェーン、という構成により前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る本発明のシールチェーンによれば、外リンクプレートと内リンクプレートの対向面との間にシール機構が配置されたシール機構が、ピンと同軸的に配置された弾性リングと、弾性リングの外側に配置され外リンクプレートの対向面に圧接された鋼製のシールリングとで構成され、シールリングは、内リンクプレート側から外リンクプレート側に向けて縮径する環状の傾斜内周面と、内リンクプレート側から外リンクプレート側に向けて拡径する環状の傾斜外周面とを備え、弾性リングは、内リンクプレートから突出したブシュの両最外端部外周に形成された環状の傾斜内周面とほぼ平行な環状の傾斜面と、シールリングの環状の傾斜内周面とで保持されているので、内リンクプレートが外リンクプレートに接近する移動量より、弾性リングの断面変形量が小さくなるため、弾性リングの耐久性を向上させることができ、シール性能の低下、寿命の低下を抑制できる。
【0008】
弾性リングを保持するブシュの傾斜面が内リンクプレートの対向面から突出したブシュの両最外端部外周に形成されているので、ブシュ端部の径方向における肉厚を厚くすることができるため、ブシュの強度低下を抑制することができる。
【0009】
ブシュの両端部が内リンクプレートの対向面から一部突出していると共に、シールリングの傾斜外周面が内リンクプレート側から外リンクプレート側に向けて拡径するように傾斜しているので、内リンクプレートと外リンクプレートとの隙間が大きく、内リンクプレートと外リンクプレートとの間から一旦入り込んだ異物が内リンクプレートと外リンクプレートとの間から排出され易いため、シール部材の損傷やピンとブシュとの間への異物の侵入を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施例を図1乃至図5に基づいて説明する。図1は、本発明実施例のシールチェーンの要部を断面で示した一部平面概略側面図、図2は、シールチェーンの断面図、図3は、シール機構の断面図、図4は、X−X線矢視方向に見た断面図、図5は、弾性リングの断面変形量を模式的に示す説明図であり、(A)は本発明実施例対応の説明図、(B)は従来例対応の説明図である。
【0011】
シールチェーン1は、図1、図2に示すように、一対の外リンクプレート2のピン孔2aにピン3の両端部を嵌入固定した外リンク4と、一対の内リンクプレート5のブシュ孔5aに、ローラ6が遊嵌されたブシュ7の両端部7aを突出させて嵌入固定した内リンク8とが、ブシュ7にピン3が遊嵌されることにより連結され、外リンクプレート2と内リンクプレート5との両者の対向面2b、5bとの間にピン3とブシュ7との間のシールを行うシール機構9が配置されたものである。
【0012】
ブシュ7の両端部7aは、内リンクプレート5の対向面5bから突出しており、この両端部7aの外周には、内リンクプレート5側から外リンクプレート2側に向けて縮径する環状の傾斜面7bが形成されている。
【0013】
前記のピン3は、図2に示すように、内部に油通路3a、3b、外周面に油通路3bに連通する凹溝3cを備え、ピン3の終端部3dから油通路3a、3b、凹溝3cを介してピン3の外周面とブシュ7の内周面との間に潤滑剤(グリース、オイル等)が供給されるようになっている。ピン3外周の油溝となる凹溝3cは無くてもよく、必要に応じて適宜設けられる。
【0014】
シール機構9は、図3、図4に示されるように、ピン3と同軸的に配置された弾性リング10と、弾性リング10の外側に配置され外リンクプレート2の対向面2bに圧接されたシールリング11で構成される。シールリング11は、内リンクプレート5側から外リンクプレート2側に向けて縮径する環状の傾斜内周面11aと、内リンクプレート5側から外リンクプレート2側に向けて拡径する環状の傾斜外周面11bとを備えている。シールリング11の傾斜内周面11aとブシュ7の傾斜面7bとは、ほぼ平行に形成されている。弾性リング10は、ブシュ7の傾斜面7bと、シールリング11の傾斜内周面11aとで保持されている。
【0015】
弾性リング10は、耐油性、耐熱性、耐磨耗性に優れた合成樹脂や合成ゴム(ニトリルゴム、フッ素ゴムが好ましい。)からなるOリングである。また、この弾性リング10の外側に配置されるシールリング11は、鋼製、ステンレス製のものである。
【0016】
以上、本発明の実施例であるシールチェーン1の構成について説明したが、以下作用効果を説明する。外リンクプレート2と内リンクプレート5との両者の対向面2b、5bの間に配置されるシール機構9が、ピン3と同軸的に配置された弾性リング10と、弾性リング10の外側に配置され外リンクプレート2の対向面5bに圧接されたシールリング11とで構成され、シールリング11は、内リンクプレート5側から外リンクプレート2側に向けて縮径するように形成された傾斜内周面11aと、内リンクプレート5側から外リンクプレート2側に向けて拡径するように形成された傾斜外周面11bとを備え、弾性リング10は、内リンクプレート5の対向面5bから突出したブシュ7の端部7aに形成された傾斜面7bとシールリング11の傾斜内周面11aとで保持されているので、内リンクプレート5が外リンクプレート2に接近する移動量より、弾性リング10の断面変形量が小さくなるため、弾性リング10の耐久性を向上させることができ、シール性能の低下、寿命の低下を抑制できる。
【0017】
弾性リング10の断面変形量について、弾性リングNの断面変形状態を模式的に示す図5を参照して説明する。図5(A)に本発明対応のものとして示すように、例えば、ブシュBの両最外端部外周に形成された傾斜面Ba及びシールリングSの傾斜内周面Saがそれぞれ45°の場合、内リンクプレートが外リンクプレートLPに近づく移動量をδとすると、つぶれた弾性リングNの断面変形量は略々δ/2となる。
【0018】
これに対して、図5(B)に従来例対応のものとして示すように、弾性リングN’がブシュB’の垂直面Ba’とシールリングS’の垂直面Sa’とで挟持されている場合、内リンクプレートが外リンクプレートLPに近づく移動量をδとすると、つぶれた弾性リングN’の断面変形量はδとなる。したがって、弾性リングNをブシュBの傾斜面BaとシールリングSの傾斜面Saとで保持した方が、弾性リングNの耐久性を向上させることができる。なお、上記において、本発明対応のものとして、傾斜面Ba及び傾斜面Saが平行でそれぞれ45°傾斜しているものについて説明したが、両者共に45°以下で傾斜させることが望ましい。
【0019】
弾性リング10を保持するブシュ7の傾斜面7bが内リンクプレート5の対向面5bから突出したブシュ7の端部7aに形成されているので、内リンクプレート5から突出しているブシュ7の端部7aのピン3との接触面7cからの高さを高く、すなわち、ブシュ7の端部7aの径方向における肉厚を厚くすることができるため、ブシュ7の強度低下を抑制することができる。
【0020】
ブシュ7の端部7aが内リンクプレート5の対向面5bから突出していると共に、シールリング11の傾斜外周面11bが内リンクプレート5側から外リンクプレート2側に向けて拡径するように傾斜しているので、内リンクプレート5と外リンクプレート2との隙間が大きく、内リンクプレート5と外リンクプレート2との間から一旦入り込んだ異物が内リンクプレート5と外リンクプレート2との間から排出され易いため、シール部材の損傷やピン3とブシュ7との間への異物の侵入を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明実施例のシールチェーンの要部を断面で示した一部平面概略側面図である。
【図2】シールチェーンの断面図である。
【図3】シール機構の断面図である。
【図4】図2におけるX−X線矢視方向に見た断面図である。
【図5】弾性リングの断面変形量を模式的に示す説明図であり、(A)は本発明実施例対応の説明図、(B)は従来例対応の説明図である。
【図6】従来のシールチェーンのシール機構の説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1 ・・・ シールチェーン
2 ・・・ 外リンクプレート
2a ・・・ ピン孔
2b ・・・ 対向面
3 ・・・ ピン
3a、3b ・・・ 油通路
3c ・・・ 凹溝
3d ・・・ 終端部
4 ・・・ 外リンク
5 ・・・ 内リンクプレート
5a ・・・ ブシュ孔
5b ・・・ 対向面
6 ・・・ ローラ
7 ・・・ ブシュ
7a ・・・ 端部
7b ・・・ 傾斜面
7c ・・・ 接触面
8 ・・・ 内リンク
9 ・・・ シール機構
10 ・・・ 弾性リング
11 ・・・ シールリング
11a ・・・ 傾斜内周面
11b ・・・ 傾斜外周面
N、N’ ・・・ 弾性リング
B、B’ ・・・ ブシュ
Ba ・・・ ブシュの傾斜面
S、S’ ・・・ シールリング
Sa ・・・ 傾斜内周面
LP ・・・ 外リンクプレート
δ ・・・ 移動量
Ba’ ・・・ ブシュの垂直面
Sa’ ・・・ 垂直面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の外リンクプレートのピン孔にピン両端部を嵌入固定した外リンクと、一対の内リンクプレートのブシュ孔に、ローラが遊嵌されたブシュの両端部を突出させて嵌入固定した内リンクとが、前記ブシュに前記ピンが遊嵌されることにより連結され、前記外リンクプレートと前記内リンクプレートとの対向面の間にシール機構が配置されてなるシールチェーンにおいて、
前記シール機構が、前記ピンと同軸的に配置された弾性リングと、該弾性リングの外側に配置され前記外リンクプレートの対向面に圧接された鋼製のシールリングとで構成され、
前記シールリングは、前記内リンクプレート側から前記外リンクプレート側に向けて縮径する環状の傾斜内周面と、前記内リンクプレート側から前記外リンクプレート側に向けて拡径する環状の傾斜外周面とを備え、
前記弾性リングは、前記内リンクプレートから突出した前記ブシュの両最外端部外周に形成された前記環状の傾斜内周面とほぼ平行な環状の傾斜面と、前記シールリングの環状の傾斜内周面とで保持されていることを特徴とするシールチェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−116014(P2008−116014A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302021(P2006−302021)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】