説明

シールドガス雰囲気の広域展開装置

【課題】レーザ光を照射して溶接するに際し、溶接部位の周囲のシールドガス雰囲気に濃淡のむらを生じさせない。
【解決手段】端板2に設けた複数の孔2a毎に管1を挿通して該管1の一方の端部1aと端板2とをレーザ溶接するレーザ加工機に於けるシールドガス雰囲気の広域展開装置Aであって、端板2に設けた孔2a毎に挿通した管1の他方の端部側にシールドガスの供給部材10を接続し、該供給部材10から前記管1を通してシールドガスを供給することによって、端板2に設けた孔2aと管1の一方の端部1aとの溶接部位3の周囲をシールドガス雰囲気とする。端板2に於ける複数の孔2aと各孔2a毎に挿通され該孔と溶接される管1の端部1aとが露出した溶接面2bを覆うカバー15を設ける。カバー15に於ける溶接部位3の上方にシールドガスを排出するための排出口16を設ける。カバー15に於ける溶接部位3の上方に透明の蓋体17を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の孔を設けた端板に対し各孔毎に管を挿通して端部をレーザ溶接する際に、溶接部位の周囲に良好なシールドガス雰囲気を実現し得るようにしたシールドガス雰囲気の広域展開装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、二つの被溶接材をレーザ溶接したり、被切断材をレーザ切断するような加工を行う場合、目的の加工部位の周囲を大気から遮断するためにシールドガス雰囲気とすることが行われている。これらの加工部位をシールドガス雰囲気とするための方法として、レーザ光に沿って独立したノズルを設けてシールドガスを噴出する方法や、加工部位を囲むチャンバーを設けて該チャンバー内にシールドガスを充満させる方法等、幾つかの提案がなされている。
【0003】
しかし、上記各方法では夫々固有の問題があり、この問題を解決する技術として特許文献1に記載された発明が提案されている。この発明は、中央部に穴が形成された底部材を有する筒体をレーザトーチの下端に設け、該底部材にシールドガスを供給するための供給口を設けるとともに該筒体の上部に排出口を設け、底部材の穴の内周面にシールドガスを噴射するノズルを複数個設け、レーザ光の光軸周りからシールドガスを噴射させるように構成したものである。
【0004】
特許文献1の技術は、レーザ加工を実施する際に筒体はレーザトーチとともに被加工材の表面側を移動する。このため、底部材は被加工材に接触することなく、僅かな間隙を持って配置される。従って、シールドガスは、レーザ光の光軸周りから加工部位に向かって複数のノズルから噴射されることとなり、良好なシールドガス雰囲気を実現することができる。
【0005】
一方、熱交換器や自動車の排気系に用いられるサイレンサーのように、複数の管を端板に固定する構造の機器を製造する場合、目的の機器の断面形状に対応させた形状を持った端板に複数の孔を設けると共に、各孔毎に管を挿通して該管の端部と孔との接触部分にレーザ光を照射して溶接することが行われる。
【0006】
このようなレーザ溶接を行う場合、管の端部と孔との溶接部位を大気から遮断するために該溶接部位の周囲をシールドガス雰囲気とすることが必要である。特に、溶接部位の周囲に於けるシールドガス雰囲気が不均一なシールドガス濃度であると溶接の品質が劣化する虞があり、シールドガス濃度は均一であることが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−150177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の如く、端板に設けた複数の孔毎に管を挿通して端部を溶接する際に、溶接部位をシールドガス雰囲気とするために特許文献1に記載された技術を採用した場合、いくつかの問題が生じる。
【0009】
即ち、特許文献1の技術では、筒体がレーザトーチに一体的に取り付けられているため、シールドガスは常にレーザ光の光軸を中心として噴射される。このため、ノズルの指向に起因して、及びレーザ光の光軸とノズルとが離隔していることに起因して、レーザ光の照射部位に於けるシールドガス雰囲気に濃淡のむらが生じる虞がある。
【0010】
また、端板に於ける複数の孔を溶接しようとした場合、複数のノズルが障害となり、該ノズルを避けた位置にある孔以外の溶接ができないという問題が生じる。この問題を解決するには底部材の穴を十分に大きくすることが必要となるが、この場合、前述したレーザ光の照射部位に於けるシールドガス雰囲気の濃淡のむらが生じる虞がある。
【0011】
本発明の目的は、溶接すべき部位にレーザ光を照射して溶接するに際し、溶接部位の周囲のシールドガス雰囲気に濃淡のむらを生じさせることのないシールドガス雰囲気の広域展開装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係るシールドガス雰囲気の広域展開装置は、端板に設けた複数の孔毎に管を挿通して該管の一方の端部と端板とをレーザ溶接するレーザ加工機に於けるシールドガス雰囲気の広域展開装置であって、端板に設けた孔毎に挿通した管の他方の端部側にシールドガスの供給部材を接続し、該供給部材から前記管を通してシールドガスを供給することによって、端板に設けた孔と管の一方の端部との溶接部位の周囲をシールドガス雰囲気とするように構成したものである。
【0013】
上記シールドガス雰囲気の広域展開装置に於いて、前記端板に於ける該端板に設けた複数の孔と各孔毎に挿通され該孔と溶接される管の一方の端部とが露出した溶接面を覆うカバーを設けたことが好ましい。
【0014】
また、上記何れかのシールドガス雰囲気の広域展開装置に於いて、前記端板に設けた孔と管の一方の端部との溶接部位の上方にシールドガス雰囲気の層を形成したことが好ましい。
【0015】
また、上記何れかのシールドガス雰囲気の広域展開装置に於いて、前記カバーに於ける前記端板に設けた孔と管の一方の端部との溶接部位の上方にシールドガスを排出するための排出口を設けたことが好ましい。更に、前記排出口は、前記カバーの外周を均等に分割した位置に配置されていることが好ましい。
【0016】
また、上記何れかのシールドガス雰囲気の広域展開装置に於いて、前記カバーに於ける前記端板に設けた孔と管の一方の端部との溶接部位の上方に透明の蓋体を設けたことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るシールドガス雰囲気の広域展開装置(以下単に「展開装置」という)では、端板に設けた複数の孔毎に挿通した管の一方の端部と孔をレーザ溶接する際に、前記管の他方の端部側にシールドガスの供給部材を接続して該供給部材から管の内部を通してシールドガスを供給することができる。
【0018】
このため、供給されたシールドガスは管の一方の端部から流出することとなり、該一方の端部と端板の孔との溶接部位の周囲に均一なシールドガス雰囲気を構成することができる。特に、複数の孔毎に挿通した複数の管からシールドガスが流出することで、シールドガス雰囲気を広域に展開することができる。
【0019】
また、端板に設けた複数の孔と、各孔毎に挿通した管の一方の端部が露出した溶接面をカバーによって覆うことで、各管の他方の端部側から供給されて溶接部位の周囲に流出したシールドガスが大気に放散することを防止してシールドガス雰囲気を保持することができる。
【0020】
また、端板に設けた孔と管の一方の端部との溶接部位の上方にシールドガス雰囲気の層を形成した場合には、端板に於ける溶接面に全面にわたって形成されたシールドガス雰囲気の層によって各孔と管の一方の端部による溶接部位を覆うことができる。このため、安定し且つ良好なレーザ溶接を実現することができる。
【0021】
また、カバーに於ける孔と管の一方の端部との溶接部位よりも上方にシールドガスを排出する排出口を設けた場合には、カバーの内部に於ける端板の表面から排出口までの層状の部分の圧力を均等に保持してシールドガス雰囲気を均一な状態に保持することができる。そして、レーザ溶接に伴って発生する蒸発した金属を含むヒュームや、管と通して新たなシールドガスが供給されるのに伴うヒュームが混合した低濃度のシールドガスを排出することができる。
【0022】
また、排出口をカバーの外周を均等に分割した位置に配置することによって、カバーの内部に於けるシールドガス雰囲気を均一な状態に保持することができる。
【0023】
特に、常に新鮮な不活性ガスが溶接部位に直接且つ連続的に供給されるため、該溶接部位に対する溶接作業が進行している間不活性ガスによってシールドされる。即ち、溶接部位及び溶接終了直後の高温のビードが新鮮な不活性ガスによって確実にシールドされる。このため、酸化を防止して良好な品質を持った溶接を実現することができる。
【0024】
更に、溶接部位に供給される新鮮な不活性ガスは冷却作用を有するため、溶接直後のビードを素早く酸化し易い温度以下に冷却することができる。このため、良好なビードを形成することができ、且つ高温による変色を防ぐことができる。
【0025】
また、カバーに於ける溶接部位から上方に透明な蓋体を設けた場合には、カバー内部の圧力を保持して均一なシールドガス雰囲気を保持することができる。また、溶接の品質をカバーの外部から確認することが可能となり、品質の安定をはかることができる。更に、レーザ光を蓋体の上方から溶接部位に照射することが可能となり、ヒュームによるレーザ光を発射する光学系の汚染を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施例に係る展開装置の構成を説明する模式断面図である。
【図2】図1のII−II矢視図である。
【図3】本実施例に係る展開装置を用いて溶接する製品としての熱交換器の構成を説明する図である。
【図4】溶接部位の構成例を説明する図でる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る展開装置の実施例、及びこの展開装置を用いることによって好ましく溶接される被溶接物の例について図を用いて説明する。先ず、図3、4により、被溶接物の例として熱交換器Bの構成について説明する。
【0028】
図に示す熱交換器Bは、複数の管1と、皿状に形成され予め設定された複数の位置に孔2aを設けた2枚の端板2とを有しており、2枚の端板2は夫々管1の両端に配置されてレーザ溶接により固定されている。そして、管1の内部と外部に異なる温度を持った流体が流通する過程で熱交換が行われる。
【0029】
管1は、予め目的の熱交換器Bの仕様に応じて設定された径と長さを有している。また、端板2は、目的の熱交換器Bの断面形状に応じた平面形状を有しており、皿型の底面となる面2bと該面2bの周囲に起立して設けた起立片2cと該起立片2cの端部に設けたフランジ2dとを有している。そして、面2bに複数の孔2aが予め設定された配置状態で設けられている。このように、管1の寸法や数、及び端板2の寸法や形状、起立片2cの高さやフランジ2dの寸法等の条件は、目的の熱交換器Bの仕様に応じて設定されている。
【0030】
管1は、両側の端部1aが夫々端板2の孔2aに挿通された状態で溶接されている。管1の端部1aを端板2の孔2aに溶接する際の構造は特に限定するものではなく、管1の端部1aを端板2の面2bと同一面に位置させた状態で溶接することが可能である。この溶接構造の場合、面2bは略平坦な面となる。
【0031】
本実施例では、図4に示すように、端板2の孔2aにバーリング2eを形成し、該バーリング2eに管1を挿通することによって、バーリング2eの突出端の端面と管1の端部1aの端面を略同一面となるように一致させて重ね合わせることで溶接部位3としている。そして、この溶接部位3にレーザ光を照射して両者の母材を溶融することで溶接している。従って、本実施例の場合、面2bはバーリング2eが突出した凹凸な面であり、溶接面2bとなる。
【0032】
このように、端板2の孔2aにバーリング2eを形成することによって、孔2aに挿通した管1の安定性をはかることが可能であり、且つ溶接時の作業性の確実さをはかることが可能である。特に、溶接部位3にレーザ光を照射したときに母材の一部が蒸発することがある。しかし、バーリング2eと管1の端部1aとの重ね合わせ部分を溶接することによって、確実な溶接継手を構成することが可能である。
【0033】
次に、図1、2により展開装置の実施例について説明する。図に示す展開装置Aは、前述した熱交換器Bのように、端板2に設けた複数の孔2aに夫々管1を挿通して端部1aをレーザ溶接する際に、溶接部位3の周囲を均一なシールドガス雰囲気に保持し得るようにしたものである。
【0034】
展開装置Aは、被溶接物である熱交換器Bを挟んで下部側に配置されたシールドガスの供給部材(以下単に「供給部材」という)10と、上部側に配置されるカバー15とに分離して構成されている。また、カバー15の上方には溶接部位3にレーザ光を照射して該溶接部位3を溶接するためのレーザ光照射装置Cが配置されている。
【0035】
供給部材10は、熱交換器Bに配置されている全ての管1の他方の端部側(下端側)からシールドガスを供給して一方の端部(上端)1aから流出させることで、溶接部位3の周囲をシールドガス雰囲気とするものである。このため、供給部材10は、カップ状の筒体11と、この筒体11に接続された供給管12とによって構成されている。
【0036】
筒体11は、端板2に設けた孔2aに挿通された全ての管1を囲むことが可能な形状を持って形成された筒部11aと、底部11bと、を有し上端部分が開放されたカップ状に形成されている。この筒体11の深さは特に限定するものではないが、供給管12を通して供給されたシールドガスが均一な圧力を持って全ての管1に供給し得るような深さであることが好ましい。
【0037】
供給管12は図示しないシールドガスの供給装置に接続されており、該供給装置から供給される予め設定された圧力に調整されたシールドガスを筒体11に供給するものである。溶接部位3の周囲に供給されるシールドガスとしては、炭酸ガスやアルゴンガス等の所謂不活性ガスが選択的に採用される。従って、シールドガスの供給装置はボンベ或いは工場配管等の設備となり、供給管12としては該供給装置に対応した配管やホースが用いられる。
【0038】
カバー15は、端板2に設けた孔2aに挿通された管1を通して供給されたシールドガスを面2b(溶接面2b)の上方に保持してシールドガス雰囲気の層を構成すると共に、レーザ溶接の進行に伴って生じた蒸発金属を含むヒュームによって濃度が低下したシールドガスを排出する機能を有するものである。
【0039】
このため、カバー15は、端面2に設けた全ての孔2aに挿通された管1を囲むことが可能な形状を持って形成された筒体15aを有している。特に、本実施例では、筒体15aは下端部分が端板2のフランジ2dに接触し得るように形成されている。
【0040】
筒体15aの下端から上端側に離隔した位置に排出口16が設けられている。この排出口16は一つ設けてあっても良いが、筒体15aの外周部分を均等に分割した位置に複数設けることが好ましい。筒体15aの外周部分を均等に分割した位置に複数の排出口16を設けることで、カバー15内に存在するシールドガスを均等に排出することが可能となり、内部のシールドガス濃度を均一にすることが可能となる。
【0041】
カバー15の筒体15aの外周部分の分割数は特に限定するものではなく、2か所或いは3か所以上であれば良い。本実施例では、図2に示すように、筒体15aの外周を4等分した位置に夫々設けられている。
【0042】
また、筒体15aに設ける排出口16の高さについては特に限定するものではなく、端板2の面積や管1の数等の条件に応じて適宜設定することが好ましい。
【0043】
排出口16から排出される蒸発金属を含むヒューム及びシールドガスは、供給部材10から供給され、管1を通してカバー15に流出するシールドガスによって押し出されても良く、各排出口16を吸引装置に接続して吸引し得るようにしても良い。何れにしても、排出口16は、カバー15の内部に於けるシールドガス雰囲気の濃度が均一になるように保持し得る位置に設けることが好ましい。
【0044】
カバー15を構成する筒体15aの上部には透明な蓋体17が設けられている。この蓋体17が設けられたことによって、カバー15は伏せたカップ状に形成されることとなり、内部に所定の容積を持った空室が形成される。このため、カバー15を端板2に装着して管1を通してシールドガスを流出させたとき、カバー15の内部には大気が入り込むことがなく、安定したシールドガス雰囲気を構成することが可能である。
【0045】
上記の如く構成されたカバー15では、該カバー15の筒体15aの下端部分を端板2のフランジ2dに接触させて装着することによって、端板2の溶接面2bから排出口16までの間がシールドガスが滞留する空間となる。
【0046】
このため、端板2の孔2aに嵌合させた全ての管1を通して供給部材10からシールドガスを供給すると、このシールドガスは端板2の略全面からカバー15の内部に流出することとなる。従って、端板2の溶接面2b側に構成される溶接部位3の周囲に均一な濃度を持ったシールドガス雰囲気の層が形成されることとなる。
【0047】
特に、上記の如く構成されたカバー15では、蓋体17が透明であることから、照射されたレーザ光20を透過させることが可能となり。この結果、レーザ光照射装置Cの選択の自由度を向上することが可能となる。即ち、本実施例に係る光学系を制御してレーザ光を走査させるレーザ光照射装置Cやレーザ光を出射するノズルを設けたレーザトーチを選択的に採用することが可能である。
【0048】
図に示すレーザ光照射装置Cは、複数のミラー21a、21bと、複数のレンズ22a、22bを有する光学系23を有して構成されている。ミラー21aは、図示しないレーザ発振器から発射されたレーザ光20をミラー21bの方向に屈折させると共に、図示しない駆動部材によって駆動され、縦方向の光軸を中心としてミラー21bと共に水平面内で旋回し得るように構成されている。また、ミラー21bは図示しない駆動部材によって駆動されて光軸に沿ってミラー21aに対し接近し或いは離隔し得るように、且つミラー21bの垂直軸を中心に旋回し得るように構成されている。また、レンズ22a、22bは図示しない駆動部材によって光軸に沿って互いに離隔し、或いは接近し得るように構成されている。
【0049】
上記の如く構成されたレーザ光照射装置Cでは、予め図示しない制御部に、端板2に設けた全ての孔2aの位置や管1の外径(溶接部位3の直径)、溶接すべき位置(管1の位置)の経路、溶接部位3の面2bからの高さ、を含む溶接情報を記憶させておくことで、溶接作業を開始した後、ミラー21a、21b、レンズ22a、22bを駆動して全ての孔2aに挿通した管1の端部1aとバーリング2eとを一筆書き状に連続して溶接することが可能である。
【0050】
次に上記の如く構成された展開装置Aによって熱交換器Bの端板2に管1を溶接する作業について説明する。熱交換器Bを構成する端板2の全ての孔2aには管1が挿通された状態で、下端側の端板2に供給部材10を構成する筒体11が接触し、上端側の端板2のフランジ2dにカバー15を構成する筒体15aの下端部分が接触した状態で装着されている。また、レーザ光照射装置Cの制御部には、熱交換器Bに対する溶接情報を記憶させておく。
【0051】
先ず、供給部材10を構成する供給管12を介して筒体11にシールドガスを供給する。供給されたシールドガスは、筒体11に開口している全ての管1を通してカバー15の内部に形成された空室に供給される。このとき、供給されるシールドガスの圧力を低く設定しておくことで、管1から流出する際の速度を小さくし、カバー15に於いてシールドガスが急速に充満することなく、ゆっくりと充満して行くようにする。このように、カバー15内がゆっくりとシールドガスによって充満することで、内部にシールドガスの濃淡が生じることを防ぎ、均一なシールドガス雰囲気を構成することが可能である。
【0052】
カバー15の内部に連続して供給されるシールドガスによって、シールドガス雰囲気の層が深くなり、カバー15に設けた排出口16からの排出が開始される。この状態を適度な時間継続させておくことによって、カバー15内の空気はシールドガスに置換され、内部がシールドガス雰囲気となる。即ち、溶接部位3の上方に排出口16までの高さを持ったシールドガス雰囲気の層が形成される。
【0053】
カバー15の内部がシールドガス雰囲気となった後、レーザ光照射装置Cの動作を開始させると、ミラー21a、21bが所定の旋回及び移動を行い、レーザ光20が最初に溶接すべき管1の端部1aとバーリング2dとによって構成された溶接部位3に指向する。次いでレーザ発振器が作動してレーザ光20が溶接部位3に照射され、該溶接部位3に於ける管1、端板2の母材を溶融して溶接が開始する。略同時にミラー21bが旋回し、この旋回に伴ってレーザ光20が溶接部位3を走査して溶接が行われる。
【0054】
レーザ光20によって溶接部位3に対する溶接を行っている間、この溶接部位3の周囲には排出口16までの高さを持ったシールドガス雰囲気の層が形成されている。このため、溶接部位3はシールドガス雰囲気によって大気から遮断されることとなり、大気の巻込による不具合が生じることがない。
【0055】
最初の溶接部位3に対する溶接が終了すると、レーザ発振器の作動が停止してレーザ光20は消去され、同時にミラー21a、21bが水平面内での移動、及び光軸に沿った移動が行われ、次に溶接すべき溶接部位3に対向する。このとき、レーザ発振器からミラー21a、21bを経て溶接部位3に至るレーザ光路の長さが最初の溶接部位3に対するレーザ光路の長さに対して差が生じたような場合、レンズ22a、22bを光軸に沿って移動させることで、レーザ光20を溶接部位3に集光させる。
【0056】
その後、最初の溶接部位3に対する作業と同様な作業を行って、2番目に溶接すべき溶接部位3に対する溶接を行う。更に、同様にして順次指定された溶接部位3に対する溶接を進行させる。
【0057】
上記の如くして溶接部位3に対するレーザ溶接が行われている間、全ての管1から継続してカバー15内にシールドガスが流出している。このように、溶接すべき全ての管1を通してシールドガスが流出するため、溶接部位3の周囲には常に新鮮なシールドガスが供給されていることとなる。従って、カバー15の内部に濃度の均一なシールドガス雰囲気を展開することが可能となり、良好な溶接品質を確保することが可能である。
【0058】
また、全ての管1から連続的にシールドガスが流出しているため、溶接部位3の端板2に於ける位置に関わらず、濃度の均一なシールドガス雰囲気が展開される。このため、良好な溶接品質を実現することが可能である。
【0059】
溶接部位3に対する溶接に伴って溶接部位3から母材の一部が蒸発し、この蒸発金属を含むヒュームが発生する。このヒュームはカバー15内のシールドガスに混入してシールドガスの濃度を低下させる。しかし、前述したように、溶接すべき全ての管1を通して常に新鮮なシールドガスが供給されるため、溶接部位3の周囲は安定したシールドガス雰囲気を保持することが可能である。
【0060】
また、上記の如くして発生したヒュームは、継続して流入する新鮮なシールドガスによって溶接部位3の周囲から排除され、濃度の低下したシールドガスとしてカバー15に設けた排出口16を通って排出される。
【0061】
端板2に設けた全ての孔2aに挿通した管1とバーリング2eとの溶接が終了すると、供給部材10に対するシールドガスの供給が終了し、カバー15の内部のヒュームが混入したシールドガスが排出される。その後、熱交換器Bの上下の端板2に装着された供給部材10、カバー15が取り外され、熱交換器Bが取り出される。
【0062】
以上の作業を連続して行うことで、熱交換器Bを構成する端板2に設けた複数の孔2aに管1を溶接することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
上記の如く構成された展開装置Aは、熱交換器Bに限定されることなく、板材に設けた孔に管を挿通して両者を溶接することで構成される製品を製造する際に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
A 展開装置
B 熱交換器
C レーザ光照射装置
1 管
1a 端部
2 端板
2a 孔
2b 面、溶接面
2c 起立片
2d フランジ
2e バーリング
3 溶接部位
10 供給部材
11 筒体
11a 筒部
11b 底部
12 供給管
15 カバー
15a 筒体
16 排出口
17 蓋体
20 レーザ光
21a、21b ミラー
22a、22b レンズ
23 光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端板に設けた複数の孔毎に管を挿通して該管の一方の端部と端板とをレーザ溶接するレーザ加工機に於けるシールドガス雰囲気の広域展開装置であって、端板に設けた孔毎に挿通した管の他方の端部側にシールドガスの供給部材を接続し、該供給部材から前記管を通してシールドガスを供給することによって、端板に設けた孔と管の一方の端部との溶接部位の周囲をシールドガス雰囲気とするように構成したことを特徴とするシールドガス雰囲気の広域展開装置。
【請求項2】
前記端板に於ける該端板に設けた複数の孔と各孔毎に挿通され該孔と溶接される管の一方の端部とが露出した溶接面を覆うカバーを設けたことを特徴とする請求項1に記載したシールドガス雰囲気の広域展開装置。
【請求項3】
前記端板に設けた孔と管の一方の端部との溶接部位の上方にシールドガス雰囲気の層を形成したことを特徴とする請求項1または2に記載したシールドガス雰囲気の広域展開装置。
【請求項4】
前記カバーに於ける前記端板に設けた孔と管の一方の端部との溶接部位の上方にシールドガスを排出するための排出口を設けたことを特徴とする請求項2又は3に記載したシールドガス雰囲気の広域展開装置。
【請求項5】
前記排出口は、前記カバーの外周を均等に分割した位置に配置されていることを特徴とする請求項4に記載したシールドガス雰囲気の広域展開装置。
【請求項6】
前記カバーに於ける前記端板に設けた孔と管の一方の端部との溶接部位の上方に透明の蓋体を設けたことを特徴とする請求項2乃至5の何れかに記載したシールドガス雰囲気の広域展開装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−55898(P2012−55898A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198647(P2010−198647)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000138521)株式会社ユタカ技研 (134)
【Fターム(参考)】