説明

シールド導電体

【課題】 シールド部材を構成する金属パイプと可撓性筒状部材の接続に要する時間の短縮を図る。
【解決手段】 シールド導電体Aは、導体10を筒状のシールド部材20で包囲したものであり、シールド部材20は、金属パイプ21と可撓性筒状部材22の端部同士を導通可能に接続した形態とされている。可撓性筒状部材22が、金属パイプ10の周面とカシメリング30の周面との間で挟み付けられた形態で金属パイプ21に固着されている。可撓性筒状部材22と金属パイプ21は、カシメリング30のカシメ付けによって接続されるので、溶接する方法に比べて接続時間を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド導電体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば電気自動車におけるインバータ装置やモータなどの機器間を接続する場合、シールド機能を備えた導電体が用いられる。この種の導電体としては、シールド電線の導体の端部に電線側端子を固着し、その電線側端子を、機器のシールドケース内に設けた機器側端子に接続するとともに、シールド電線のシールド層を導電性の接続部材を介してシールドケースに接続するようにしたものがある(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
しかし、このような導電体では、電線側端子をシールドケース内に差し込む作業と接続部材をシールドケースに接続する作業を、夫々、端子の極数(即ち、シールド電線の本数)と同じ回数繰り返さなければならないため、手間がかかるという問題がある。
【0004】
そこで、シールド層を有しない電線を用い、その電線を、金属細線を編み込んだ編組線からなる可撓性を有する筒状のシールド部材で一括して覆う構造のものが考えられる。この一括シールドタイプの導電体によれば、シールド機能部(シールド部材)をシールドケースに接続する作業が、電線の本数に拘わらず1回だけで済むため、作業性が向上する。
【特許文献1】特開平11−26093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように複数の電線をシールド部材で包囲した導電体は、車外に露出する経路と車内の狭い空間の屈曲した経路とに沿うように配索される。導電体のうち車体の外部に配索される領域では、飛び石等から電線を保護する機能がシールド部材に求められ、車内の狭い空間に配索される領域では、柔軟に屈曲する可撓性がシールド部材に求められる。
このような事情に鑑みた場合、車外用のシールド部材として金属パイプからなるシールドパイプを用い、車内用のシールド部材として編組線などからなる可撓性筒状部材を使い分けることが考えられる。
この場合、金属パイプと可撓性筒状部材は、共にシールド機能を担うものであることから、互いに導通可能に接続する必要がある。その接続手段としては、金属パイプと可撓性筒状部材を溶接によって固着する方法が考えられるが、溶接による接続方法では、時間が掛かるという問題がある。
本願発明は上記事情に鑑みて創案され、シールド部材を構成する金属パイプと可撓性筒状部材の接続に要する時間の短縮を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、導体を筒状のシールド部材で包囲したものであって、前記シールド部材が、金属パイプと可撓性筒状部材の端部同士を導通可能に接続した形態とされており、前記可撓性筒状部材が、前記金属パイプの周面とカシメリングの周面との間で挟み付けられた形態で前記金属パイプに固着されているところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記カシメリングは、全周に亘って連続した形態とされているところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のものにおいて、前記可撓性筒状部材が前記金属パイプの外周に重ねられているとともに、前記カシメリングが前記可撓性筒状部材の外周側に配置され、前記カシメリングが縮径変形された形態でカシメ付けられているところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項3記載のものにおいて、前記カシメリングが縮径変形された状態では、前記カシメリングの余長部分が外周側へ突出されることで耳部が形成されているところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のものにおいて、前記カシメリングが、前記可撓性筒状部材に対しその長さ方向に沿った所定領域に亘って面接触可能な帯板状をなしているところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のものにおいて、前記金属パイプが円形断面とされているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0012】
<請求項1の発明>
可撓性筒状部材と金属パイプは、カシメリングのカシメ付けによって接続されているので、溶接する方法に比べて接続時間を短縮することができる。
【0013】
<請求項2の発明>
カシメリングは、全周に亘って連続した形態であるから、周方向における一部分が途切れた略C字形のカシメリングに比べて、固着強度が高い。
【0014】
<請求項3の発明>
カシメリングを金属パイプの内側に配置して拡径変形させつつカシメ付けた場合には、カシメリングが肉薄となるため、固着強度の信頼性が懸念される。これに対し、本発明では、カシメリングを縮径変形させたので、カシメリングの肉厚が薄くならずに済み、カシメリングの固着強度が低下する虞がない。
【0015】
<請求項4の発明>
カシメリングを縮径変形させた状態では、カシメリングの余長部分を、内周側(可撓性筒状部材側)に突出させずに、耳部として外周側へ突出させたので、カシメリングを可撓性筒状部材の外周に対し全周に亘ってほぼ均一に密着させることができる。
【0016】
<請求項5の発明>
カシメリングと可撓性筒状部材は、可撓性筒状部材の長さ方向に沿った所定領域に亘って面接触状に密着するので、線接触状に密着する形態に比べて、固着強度の信頼性に優れる。
【0017】
<請求項6の発明>
金属パイプの周面には、カシメリングをカシメ付ける際の押圧力が径方向に作用するのであるが、金属パイプは円形断面であって剛性が高いものとされているので、金属パイプの周面に支承部材を宛う必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1乃至図4を参照して説明する。本実施形態のシールド導電体Aは、3本の導体10をシールド部材20内に挿通することで、3本の導体10を一括してシールドするようにしたものである。
導体10は、横断面形状が円形をなす金属製(例えば、銅、銅合金、アルミニウム合金、ステンレス等)の単芯線又は撚り線からなる芯線11と、芯線11の外周を覆う絶縁被覆12とによって構成された電線からなる。
【0019】
シールド部材20は、金属パイプ21と可撓性筒状部材22の端部同士を導通可能に接続した形態とされている。
金属パイプ21は、シールド機能の他に導体保護機能を兼ね備えるものであり、飛び石等が当たる虞のある自動車の車外に配索されるのに適している。金属パイプ21の材料としては、例えば、アルミニウム合金、ステンレス、銅、銅合金等からなる。また、金属パイプ21の横断面形状は真円形であり、厚さも全周に亘って一定となっている。つまり、金属パイプ21の内周と外周は同心円形をなす。また、金属パイプ21の端部の外周面(可撓性筒状部材22が密着する面)は、滑らかな円弧面となっている。尚、金属パイプ21の材質が鉄の場合には、防錆手段として亜鉛メッキなどを施してもよい。この金属パイプ21内には、上記した3本の導体10が俵積み状に(各導体10の中心を結んだ線が略正三角形をなすように)配置された状態で挿通されている。
【0020】
一方、可撓性筒状部材22は、金属製(例えば、アルミニウム合金、ステンレス、銅、銅合金等)の細線をメッシュ状に編んだ編組線からなり、湾曲させるような曲げ変形、長さ方向の伸縮変形、径寸法を増減させる変形のいずれもが自在な高い可撓性を有する。この可撓性筒状部材22は、自動車のエンジンルーム内など狭い空間に屈曲させた経路で配索されるのに適している。
【0021】
上記金属パイプ21と可撓性筒状部材22は、1個のカシメリング30を用いて接続されている。カシメリング30は、金属製(例えば、アルミニウム合金、ステンレス、銅、銅合金等)であり、全周に亘って連続した形態の円形をなしている。また、カシメリング30は、その軸線方向(接続状態においては、金属パイプ21及び可撓性筒状部材22の長さ方向)において所定の寸法を有する帯板状をなし、可撓性筒状部材22に対してその長さ方向に沿った所定領域に亘って面接触可能とされている。また、接続前(カシメ付け前)のカシメリング30の内径は、金属パイプ21の外径よりも大きい寸法とされている。尚、カシメリング30の表面には、防錆を目的とした3価クロメートメッキが施されている。
【0022】
次に、金属パイプ21と可撓性筒状部材22を接続する工程を説明する。
予め、可撓性筒状部材22をカシメリング30の中に通しておき、その可撓性筒状部材22の端部を金属パイプ21の端部外周に略同心状に被せて、径方向に重ねる。このときの長さ方向(軸線)方向における重なり寸法は、カシメリング30の幅寸法よりも大きくする。次に、可撓性筒状部材22に外嵌されているカシメリング30を、金属パイプ21側へスライドさせ、金属パイプ21と可撓性筒状部材22の重なり領域に位置させる。これにより、内側から外側に向かって順に金属パイプ21と可撓性筒状部材22とカシメリング30が略同心状に重なった状態となる。
【0023】
次に、カシメ付け用の上下両金型41,42を型開き状態として、金属パイプ21と可撓性筒状部材22とカシメリング30を、両金型41,42の半円形凹部43内にセットする。このとき、金属パイプ21の内部には中子はセットしない。金型41,42を接近させて型締めすると、カシメリング30が半円形凹部43の内面に押圧され、縮径変形するとともに、カシメリング30の余長部分が、外周側へ突出することにより左右一対の耳部31が形成される。この耳部31は、両金型41,42の対向面における半円形凹部43の左右両縁部の逃がし凹部44に収容されつつ、密着折り返し状に形成される。また、金属パイプ21の外周には、金型41,42からカシメリング30を介して上下方向の挟み付け力が作用するが、金属パイプ21は殆ど潰れ変形せずに、円形を保つ。
【0024】
以上により、可撓性筒状部材22が、金属パイプ21の外周面とカシメリング30の内周面との間で径方向に且つ全周に亘ってほぼ均一に挟み付けられ、金属パイプ21に対し離脱規制された状態に且つ導通可能に固着される。金属パイプ21と可撓性筒状部材22の接続が完了してシールド部材20が完成したら、金型41,42を型開きし、シールド部材20を取り出す。この後、シールド部材20に3本の導体10を挿通させ、必要に応じて曲げ加工や、導体10の端末処理等を行う。
【0025】
上述のように本実施形態においては、可撓性筒状部材22が、金属パイプ21の外周面とカシメリング30の内周面との間で挟み付けられた形態で金属パイプ21に固着されており、可撓性筒状部材22と金属パイプ21は、カシメリング30のカシメ付けによって接続されているので、溶接する方法に比べて接続時間を短縮することができる。
また、カシメリング30は、全周に亘って連続した形態とされているので、周方向における一部分が途切れた略C字形のカシメリングに比べると、固着強度に優れている。
【0026】
また、カシメリングを金属パイプ21の内側に配置して拡径変形させつつカシメ付けた場合には、カシメリングが変形によって肉薄となるため、固着強度の信頼性が懸念されるのであるが、本実施形態では、可撓性筒状部材22を金属パイプ21の外周に重ねるとともに、カシメリング30を可撓性筒状部材22の外周側に配置し、カシメリング30を縮径変形させることによってカシメ付けるようにしたので、カシメリング30の肉厚が薄くならずに済み、カシメリング30の固着強度が低下する虞がない。
【0027】
また、カシメリング30を縮径変形させた状態では、カシメリング30の余長部分を、カシメリング30の内周側(可撓性筒状部材22に接触する側)に突出させるのではなく、耳部31として外周側へ突出させるようにしたので、カシメリング30を全周に亘って可撓性筒状部材22の外周にほぼ均一に密着させることができ、ひいては、可撓性筒状部材22を金属パイプ21とカシメリング30との間で全周に亘って均一に挟み付けることができる。
【0028】
また、カシメリング30と可撓性筒状部材22が、可撓性筒状部材22の長さ方向に沿った所定領域に亘って面接触状に密着するようにしたので、線接触状に密着する形態に比べて、固着強度の信頼性に優れている。
また、金属パイプ21の周面には、カシメリング30をカシメ付ける際の押圧力が径方向に作用するのであるが、金属パイプ21は円形断面であって剛性が高いものとされているので、金属パイプ21の周面に中子などの支承部材を宛わずに済んでいる。
【0029】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施態様も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
(1)上記実施形態では可撓性筒状部材を複数の金属細線を網状に編んだ編組線としたが、本発明によれば、編組線に限らず、導電性金属箔や螺旋巻きした導電性金属線を可撓性筒状部材として用いることができる。
(2)上記実施形態では1本の金属パイプに挿通される導体の本数を3本としたが、本発明によれば、1本の金属パイプに挿通される導体の本数は、1本、2本、又は4本以上であってもよい。
(3)上記実施形態では1つの可撓性筒状部材を固着する手段として1つのカシメリングを用いたが、本発明によれば、1つの可撓性筒状部材を複数のカシメリングによって固着してもよい。
(4)上記実施形態ではカシメリングを縮径変形させたときに耳部が2つ形成されるようにしたが、本発明によれば、形成される耳部の数は1つまたは3つ以上であってもよい。
(5)上記実施形態ではカシメリングを全周に亘って連続する形態としたが、本発明によれば、カシメリングを周方向における一カ所で途切れた略C字形としてもよい。
(6)上記実施形態では、カシメリングが、可撓性筒状部材に対しその長さ方向に沿った所定領域に亘って面接触可能な帯板状をなしているが、本発明によれば、カシメリングを円形断面のリング状とし、カシメリングが可撓性筒状部材に対して線接触するようにしてもよい。
(7)上記実施形態では可撓性筒状部材を金属パイプの外周に固着したが、本発明によれば、可撓性筒状部材を金属パイプの内周面に固着してもよい。
(8)上記実施形態では金属パイプの断面形状を円形としたが、本発明によれば、金属パイプの断面形状は非円形(例えば、楕円形や長円形等)としてもよい。
(9)上記実施形態では金属パイプの内部に中子をセットせずにカシメリングをカシメ付けたが、本発明によれば、金属パイプの内部に中子をセットした状態で金属パイプの外周にカシメリングをカシメ付けてもよい。
(10)上記実施形態では金属パイプにおける可撓性筒状部材の密着面を平滑な形態としたが、本発明によれば、金属パイプにおける可撓性筒状部材の密着面に凹凸部を形成してもよい。このような凹凸部を形成することで、可撓性筒状部材が長さ方向への引張力を受けたときに引っ掛かりができるので、接続信頼性が高くなる。
(11)上記実施形態ではカシメリングのカシメ付けの際に金属パイプが殆ど潰れ変形しないようにしたが、本発明によれば、カシメリングをカシメ付けた際に金属パイプが僅かに潰れ変形するようにしてもよい。
(12)上記実施形態では電線を導体としたが、本発明によれば、ヒートパイプ等の放熱機能を兼ね備えた部材を導体として用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態1の縦断面図
【図2】図1のX−X線断面図
【図3】金属パイプと可撓性筒状部材との接続工程をあらわす断面図
【図4】金属パイプと可撓性筒状部材の接続完了状態をあらわす断面図
【符号の説明】
【0031】
A…シールド導電体
10…導体
20…シールド部材
21…金属パイプ
22…可撓性筒状部材
30…カシメリング
31…耳部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を筒状のシールド部材で包囲したものであって、
前記シールド部材が、金属パイプと可撓性筒状部材の端部同士を導通可能に接続した形態とされており、
前記可撓性筒状部材が、前記金属パイプの周面とカシメリングの周面との間で挟み付けられた形態で前記金属パイプに固着されていることを特徴とするシールド導電体。
【請求項2】
前記カシメリングは、全周に亘って連続した形態とされていることを特徴とする請求項1記載のシールド導電体。
【請求項3】
前記可撓性筒状部材が前記金属パイプの外周に重ねられているとともに、前記カシメリングが前記可撓性筒状部材の外周側に配置され、
前記カシメリングが縮径変形された形態でカシメ付けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のシールド導電体。
【請求項4】
前記カシメリングが縮径変形された状態では、前記カシメリングの余長部分が外周側へ突出されることで耳部が形成されていることを特徴とする請求項3記載のシールド導電体。
【請求項5】
前記カシメリングが、前記可撓性筒状部材に対しその長さ方向に沿った所定領域に亘って面接触可能な帯板状をなしていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のシールド導電体。
【請求項6】
前記金属パイプが円形断面とされていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のシールド導電体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−80622(P2007−80622A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265536(P2005−265536)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】