説明

シールド導電路

【課題】内部に電線が挿通される金属製の基幹パイプを備えたシールド導電路において、取付部材を基幹パイプに対して簡易にかつ良好に固定しうる構成を提供する。
【解決手段】シールド導電路1は、内部に電線が挿通される金属製の基幹パイプ10と、基幹パイプ10の周壁に取り付けられる取付部材としての分岐パイプ20と、分岐パイプ20を基幹パイプ10に対して固定する環状固定部材40とを備えている。分岐パイプ20は、基幹パイプ10の外方へ延びる筒状部21と、この筒状部21から側方に張り出すフランジ部24Bとを備えており、環状固定部材40は、分岐パイプ20の筒状部21を通す貫通孔を有すると共に基幹パイプ10の周囲に環状に固定される構成をなしており、分岐パイプ20のフランジ部24Bは、基幹パイプ10の周壁と環状固定部材40によって挟持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド導電路に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電線保護機能を有する金属製のパイプと可撓性を有するシールド部材とを接続し、複数本のノンシールド電線を、パイプと可撓性シールド部材内に挿通することで一括してシールドするシールド導電路が開示されている。このようなシールド導電路は、電気自動車やハイブリッド自動車の動力回路として用いることができ、この場合、車体の床下に沿った配索経路ではパイプをシールド手段として用い、スペースに余裕がなくて屈曲した経路で配索される部分では可撓性シールド部材がシールド手段として用いられる。
【特許文献1】特開2004−171952公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、電気自動車等には電力回路としては、走行用モータの動力回路だけでなく、例えば車室用のエアーコンディショナの動力回路もある。これらの各動力回路は部分的に配索経路が異なるため、本来は、別々の金属パイプを使用してシールドすることが必要となる。しかし、動力回路毎に金属パイプを何本も使用するのでは、重量が嵩む上にパイプの取付け工数も増大するという問題がある。
【0004】
そこで、少なくとも配索経路が共通する部分においては金属パイプを共用し、その金属パイプの途中部分に開口を設け、ここに別の分岐パイプを溶接して分岐状の金属パイプを使用する構成が考えられる。このような分岐パイプを基幹となる金属パイプ(基幹パイプ)に取り付ける方法としては、溶接などによる方法が考えられるが、このような方法は組立作業に多くの工数を要し、コスト高となるという問題がある。
また、分岐パイプに限らず、基幹パイプに何らかの取付部材(例えばL字状の金具など)を取り付ける場合にも同様の問題が生じる。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、内部に電線が挿通される金属製の基幹パイプを備えたシールド導電路において、取付部材を基幹パイプに対して簡易にかつ良好に固定しうる構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、シールド導電路において、内部に電線が挿通される金属製の基幹パイプと、前記基幹パイプの外方へ延びる延出部と、前記延出部の側方に配される形態で当該延出部と一体的に形成され、前記基幹パイプの周壁に支持される被支持部と、を備えた取付部材と、前記延出部を通す貫通孔を有すると共に前記基幹パイプの周囲に環状に固定され、前記取付部材の前記被支持部を前記基幹パイプの前記周壁と共に挟持する環状固定部材とを備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載のシールド導電路において、前記環状固定部材は、その一部に塑性加工を施すことにより前記基幹パイプを締め付ける形態で形状保持されることを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載のシールド導電路において、前記環状固定部材は、前記基幹パイプの周壁に沿う円弧状部と、前記円弧状部の両端からそれぞれ折れ曲がる形態で前記基幹パイプの外方側に屈曲して突出する屈曲突出部とを有し、前記屈曲突出部に対する塑性加工により前記円弧状部の内径が定められる構成をなすことを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のシールド導電路において、前記基幹パイプの周壁に沿う円弧状に形成されると共に、当該基幹パイプと前記環状固定部材との間において前記環状固定部材に締め付けられる形態で配される保持部材を有し、前記保持部材は、前記環状固定部材の内径に応じた曲率に設定されるようになっていることを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のシールド導電路において、前記取付部材は、前記基幹パイプから分岐する分岐パイプからなり、前記基幹パイプは、前記周壁に前記分岐パイプと連通する孔部が形成されており、前記延出部は、前記孔部を介して前記基幹パイプと連通する筒状部とされ、前記被支持部は、前記筒状部から側方に張り出すフランジ部とされていることを特徴とする。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載のシールド導電路において、前記基幹パイプの前記周壁には、前記基幹パイプの外方に向けて筒状に立ち上がる立ち上がり部が形成され、この立ち上がり部の内部が前記孔部とされており、前記基幹パイプは、前記立ち上がり部が前記分岐パイプの前記筒状部に嵌り込む形態で当該分岐パイプと連通していることを特徴とする。
【0012】
請求項7の発明は、請求項5又は請求項6に記載のシールド導電路において、前記フランジ部と前記基幹パイプの周壁との間には、環状のシール部材が設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項8の発明は、請求項7に記載のシールド導電路において、前記筒状部の端部側には、当該筒状部の外側に嵌合する筒状の嵌合部と、前記嵌合部の側方に張り出す前記フランジ部と、前記フランジ部の外周端に続く筒状の周壁部と、を備えた端部側部材が固定されており、前記筒状部の端部は、前記嵌合部の端部よりも前記基幹パイプ側に突出しており、前記シール部材は、前記筒状部の端部と、前記周壁部とに囲まれる形態で、前記フランジ部と前記基幹パイプの前記周壁とに挟持されていることを特徴とする。
【0014】
請求項9の発明は、請求項5ないし請求項8のいずれかに記載のシールド導電路において、前記基幹パイプと前記分岐パイプは、前記孔部を介して冷却水が流動可能とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
<請求項1の発明>
請求項1の発明によれば、環状固定部材が基幹パイプの周囲に固定されることにより、取付部材の被支持部が基幹パイプと環状固定部材とに挟持されて安定的に保持されることとなる。従って、基幹パイプに対して取付部材を簡易にかつ良好に固定できる。
【0016】
<請求項2の発明>
請求項2の発明によれば、複雑な加工を伴うことなく基幹パイプの周囲に環状固定部材を固定できる。
【0017】
<請求項3の発明>
請求項3の発明によれば、基幹パイプの周壁を好適に締め付ける構成を、部品点数を抑えた簡易な構成で実現できる。
【0018】
<請求項4の発明>
請求項4の発明によれば、円弧状の保持部材を介して基幹パイプの周壁を締め付けるようにしているため、基幹パイプの周囲においてより偏りなくかつ満遍なく押圧力が生じるようになる。
【0019】
<請求項5の発明>
請求項5の発明によれば、基幹パイプに対して分岐パイプを取り付ける構成を簡易にかつ良好に実現できる。
【0020】
<請求項6の発明>
請求項6の発明によれば、立ち上がり部が筒状部に嵌り込む形態で基幹パイプと分岐パイプとが連通するため、基幹パイプに対する分岐パイプの位置決めを精度高く良好に行うことができる。また、立ち上がり部が筒状部に嵌り込む形態とされているため、パイプ外からパイプ内への流体の進入或いはパイプ外からパイプ内への流体の漏洩を効果的に防止できる。
【0021】
<請求項7の発明>
請求項7の発明によれば、環状固定部材による締め付けがシール部材によるシール性向上に効果的に作用し、パイプ外からパイプ内への流体の進入或いはパイプ内からパイプ外への流体の漏洩を極めて良好に防止できる。
【0022】
<請求項8の発明>
請求項8の発明によれば、簡易な構成でシール部材を挟持でき、シール部材を外部に露出させずに基幹パイプと分岐パイプとの間に安定的に収容できるようになる。
【0023】
<請求項9の発明>
基幹パイプ内及び分岐パイプ内に冷却水を流動させる構成の場合、基幹パイプに対し分岐パイプを安定的かつ漏洩なく固定することが求められるが、請求項9の発明によればこれを好適に実現できることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
<実施形態1>
本発明の実施形態1について図面を参照して説明する。
図1は、実施形態1に係るシールド導電路1を概略的に例示する側断面図である。図2は、図1の一部を拡大して示す斜視図である。図3は、図1の一部を拡大して示す断面図である。また、図4は、図1のシールド導電路1を基幹パイプ10の軸方向と直交する方向に切断した断面図である。
【0025】
図1に示す本実施形態に係るシールド導電路1は、例えば、電気自動車の前部のエンジンルーム内に設けられた走行用モータを駆動するための動力回路を構成する機器(本実施形態ではインバータ)と、車体の後部(例えば、トランクルーム)に設けられた動力回路を構成する機器(本実施形態ではバッテリ)とを接続する導電路として構成されるものである。
【0026】
図1,図2に示すように、シールド導電路1は、一括シールド機能を備える金属製(例えば、アルミニウム合金、ステンレス、銅、銅合金等の金属製)の基幹パイプ10と、この基幹パイプ10内に挿通される3本の導体30と、基幹パイプ10に接続される後述の分岐パイプ20を備えて構成されている。なお、本実施形態では互いに同一構成をなす2本の分岐パイプ20が同一の接続方法で接続されている。
【0027】
基幹パイプ10は、一括シールド機能の他に導体30の保護機能を兼ね備えるものであり、両端に金属細線をメッシュ状に編んだ編組線からなる可撓性筒状部材(図示略)が導通可能に固着して用いられるようになっている。
なお、この編組線は、基幹パイプ10の外部に延出した電線30の周囲を包囲する構成をなすものである。基幹パイプ10の一端側に接続される一方の編組線は、エンジンルーム内に屈曲して配索され、インバータのシールドケース(図示略)に接続される。一方、基幹パイプ10の他端側に接続される他方の編組線は、床板を貫通して車内に配索され、バッテリのシールドケース(図示略)に接続される。
【0028】
図3、図4に示すように、上記基幹パイプ10は、内部に後述の電線30が挿通される構成をなすと共に、横断面形状が円形をなしており、例えば車体の床下(床板の下方)に沿うように概ね水平に配索されるようになっている。
【0029】
電線30は、可撓性を有する芯線31の外周を絶縁被覆32で包囲したノンシールドタイプの電線からなり、その横断面形状は円形をなしている。本実施形態では、互いに同様の構成をなす3本の電線30が、一方側(インバータ側)の編組線(図示略)、基幹パイプ10、及び他方側(バッテリ側)の編組線(図示略)によって一括して挿通(包囲)されている。これら電線30は、基幹パイプ10内においては直線状に配索されており、基幹パイプ10の両端部に配置された一対の蓋体60内を通ってパイプ外方に延出している。
【0030】
一対の蓋体60は、例えば樹脂材料によって構成されるものであり、基幹パイプ10の両端部を塞ぐ形態でそれぞれ基幹パイプ10と嵌合しており、基幹パイプ10の両端部に縮径加工部15が形成されることで、強固な嵌合状態が維持されている。基幹パイプ10内において、電線30の絶縁被覆32と基幹パイプ10の内壁との間には、後述の冷却水を流すための空間が構成されており、蓋体60によって両端部が強固に塞がれることで、流動する冷却水が基幹パイプ10の両端から漏れない構成となっている。
【0031】
図2ないし図4に示すように、基幹パイプ10には、この基幹パイプ10と連通する分岐パイプ20が固定されている。分岐パイプ20は、取付部材に相当するものであり、例えば、アルミニウム合金、ステンレス、銅、銅合金等の金属材料によって構成されている。この分岐パイプ20は、基幹パイプ10の外方へ延びる筒状部21(筒状部21は、延出部に相当する)を有し、この筒状部21の端部側には、筒状部21の外側に嵌合する形態で端部部材24がスポット溶接などによって固定されている。
【0032】
端部部材24は、分岐パイプ20の筒状部21が内部に挿通されてこの筒状部21と嵌合する嵌合部24Aと、嵌合部24Aからフランジ状に張り出すフランジ部24Bと、フランジ部24Bの外周端に続く周壁部24Cが形成されている。このような形態をなす端部部材24が筒状部21に固定されることで、筒状部21の端部寄りの位置においてフランジ部24Bが張り出す格好となっている。なお、フランジ部24Bは被支持部に相当する。
【0033】
基幹パイプ10の周壁には、基幹パイプ10の外方に向けて円筒状に立ち上がる立ち上がり部12が形成され、この立ち上がり部12の内部が孔部11とされている。分岐パイプ20の筒状部21は、基幹パイプ10の孔部11を介して基幹パイプ10と連通している。より詳しくは、基幹パイプ10の立ち上がり部12が筒状部21に嵌り込む構成で基幹パイプ10に対して分岐パイプ20が位置決めされ互いに固定されている。
【0034】
図2ないし図4に示すように、基幹パイプ10に対する分岐パイプ20の固定には環状固定部材40が用いられている。この環状固定部材40は、分岐パイプ20の筒状部21を通す貫通孔44を有しており、基幹パイプ10の周囲に環状に固定される構成をなしている。そして、分岐パイプ20のフランジ部24Bを基幹パイプ10の周壁と共に挟持する機能を有している。
【0035】
環状固定部材40は、金属材料によって構成されており、その一部に塑性加工を施すことにより基幹パイプ10を締め付ける形態で形状保持されるようになっている。より具体的には、基幹パイプ10の周壁に沿う円弧状部41と、円弧状部41の両端41A,41Bからそれぞれ折れ曲がる形態で基幹パイプ10の外方側に屈曲して突出する屈曲突出部42とを有しており、この屈曲突出部42に対する塑性加工により円弧状部41の内径が定められる構成となっている。屈曲突出部42は、円弧状部41の両端41A,41Bを繋ぐ形態で円弧状部41と一体的に形成されており、この屈曲突出部42の形状が定まれば、それに応じて円弧状部41の内径も定まるようになっている。より具体的には、屈曲突出部42の両側壁42A,42Bの距離を近づけるように塑性加工を施すことにより円弧状部41の両端41A,41Bが近づくように変形し、円弧状部41による締め付け力が増大するようになっている。なお、塑性加工については後述する。
【0036】
環状固定部材40と基幹パイプ10の間には、円弧状に湾曲する保持部材50が配されている。この保持部材50は、基幹パイプ10の周壁に沿う円弧状に形成されると共に、基幹パイプ10と環状固定部材40との間において環状固定部材40に締め付けられる形態で配されており、環状固定部材40の内径に応じた曲率に設定されるようになっている。保持部材50と基幹パイプ10の周壁との間には、スペーサー55が設けられている。図2ないし図4に示すように、スペーサー55は、基幹パイプ10の周囲におけるフランジ部24Aが設けられていない領域において、円弧状に配置されている。
【0037】
このスペーサー55は、曲板状に形成されると共にその板面が保持部材50に押圧される被押圧部55Cと、この被押圧部55Cから折り曲げられ、基幹パイプ10の周壁に沿って円弧状に配される折れ曲がり部55Bとを備えている。折れ曲がり部55Bは、スペーサー55における両端部(基幹パイプ10の延出方向に関する両端部)に設けられている。折れ曲がり部55Bにおける基幹パイプ10側の端部55Eは、基幹パイプ10の周壁に沿って配されると共にこの周壁に当接しており、被押圧部55Cが押圧されると、折れ曲がり部55Bが基幹パイプ10側に押し出され、端部55Eと基幹パイプ10の周壁とが安定的に当接することとなる。スペーサー55が介在することにより、環状固定部材40による締め付け力が生じたとしても保持部材50が全体的にほぼ同一曲率で湾曲が維持され、フランジ部24Bと被押圧部55Cに対し、保持部材50による力が圧力の偏りがあまり生じることなく安定的に作用することとなる。
【0038】
また、スペーサー55には、折れ曲がり部55Bとは反対側に折れ曲がる抜け止め部55Aが形成されている。抜け止め部55Aは、スペーサー55の両側(基幹パイプ10の延出方向に関する両側)にそれぞれ3つずつ設けられており、保持部材50及び環状固定部材40の両端部(基幹パイプ10の延出方向に関する両端部)に隣接する形態をなしている。これにより、環状固定部材40及び保持部材50に対してスペーサー55が基幹パイプ10の延出方向に沿って相対的に移動することがなく、環状固定部材40、保持部材50、及びスペーサー55が一体的に結合することとなる。
【0039】
図3、図4に示すように、フランジ部24Bと基幹パイプ10の周壁との間には、環状のシール部材35が設けられている。本実施形態ではシール部材35はOリングによって構成されている。筒状部21の端部は、嵌合部24Aの端部から基幹パイプ10側に突出しており、シール部材35は、筒状部21の端部と周壁部24Cに囲まれる形態で、フランジ部24Bと基幹パイプ10の周壁とに挟持されている。この構成では、環状固定部材40の締め付けによりフランジ部24Bが基幹パイプ10側に押し出され、フランジ部24Bと基幹パイプの周壁との押圧によって変形したシール部材35が、フランジ部24B、基幹パイプ10、筒状部21、周壁部24Cによって囲まれる空間に充填されることとなる。
【0040】
基幹パイプ10と分岐パイプ20は、孔部11を介して冷却水が流動可能とされている。冷却水は、インバータを冷却するためのラジエター、基幹パイプ10、分岐パイプ20,20で循環して流動するようになっている。本実施形態では、一方の分岐パイプ20から基幹パイプ10内を通り、他方の分岐パイプ20に抜ける構成となっているが、冷却水を流動させる構成はこれに限定されないことはいうまでもない。
【0041】
この分岐付きシールド導電路1の製造工程は次のようである。
金属パイプからなる基幹パイプ10を公知の金属加工によって形成すると共に、この基幹パイプ10の必要な位置に予め孔部11及び立ち上がり部12をバーリング加工によって形成しておく。
【0042】
一方、環状固定部材40、保持部材50は、図5ないし図8のような初期形状のものを予め形成しておく。なお、図5は、初期形状の環状固定部材40を例示する側面図であり、図6は初期形状の環状固定部材40及び保持部材を正面から見た正面図である。また、図7は、初期形状の環状固定部材40を貫通孔44側から見た図であり、図8は、屈曲突出部42側から見た図である。環状固定部材40の初期形状は、円弧状部41が締め付け状態(図2ないし図4参照)のときよりも曲率が小さく、内径が大きくなるように形成されている。保持部材50も締め付け状態のときよりも曲率が小さく、内径が大きくなるように形成されており、図6、図7のように、貫通孔44と長孔51とが連通する状態で、環状固定部材40の内周壁に沿って配される。
【0043】
また、図5ないし図7に示すように、円弧条部41の一部において、外方に立ち上がるバーリング加工が施されており、その立ち上がった部分の内部に貫通孔44が形成されている。また、図6、図7に示すように、環状固定部材40の中心に対して貫通孔44の反対側に初期形状の屈曲突出部42が形成されており、この屈曲突出部42の一部には、図8に示すような穴部42Cが形成されている。
【0044】
分岐パイプ20は、円筒状の筒状部21を公知の金属加工により形成すると共に、端部側部材24を公知の金属加工により形成する。図9に示すように、この端部側部材24は、筒状部21と接合する前に、図6、図7のように位置合わせされた環状固定部材40貫通孔44及び保持部材50の長孔51に嵌合部24Aが挿通される。また、図9に示すように、基幹パイプ10の挿通前には、シール部材35とスペーサー55も所定の位置に配置される。スペーサー55は、保持部材50の内周壁に沿って配されるようになっており、保持部材50の内部に収容された後、図9のように抜け止め部55Aが折り曲げられることで保持部材50及び環状固定部材40と一体的に保持される。
【0045】
図10、図11は、塑性加工前の組み付け状態を示す断面図であり、図10は、基幹パイプ10の軸方向に沿って切断した側断面図、図11は、基幹パイプ10の軸方向と直交する方向に切断した断面図を示している。
図9のように各部品を配置した後、基幹パイプ10及び筒状部21を組み付ける。基幹パイプ10において予め形成された立ち上がり部12は、端部側部材24におけるフランジ部24B及び周壁部24Cによって囲まれる空間に収められ、図10、図11のように、嵌合部24Aに対して外方から挿入される筒状部21の端部に嵌り込む格好となる。嵌合部24Aに挿入された筒状部21は、嵌合部24Aに対し溶接によって固定され一体化する。
【0046】
図10、図11のように各部品が配置されると、その後、屈曲突出部42に対する塑性加工がなされる。この塑性加工は、図10のように、屈曲突出部42の両側壁を剛性の高い金属材料などからなる押圧部材70,70によって挟持するように押圧することでなされる。この押圧により、図4のように屈曲突出部42の両側壁が屈曲して押し付けられ、それに伴って円弧状部41の両端部41A,41Bが互いに接近するように変形する。即ち、円弧状部41が縮径し、それに伴って保持部材50も縮径する。本実施形態では、屈曲突出部42に穴部42Cが形成されているため、屈曲突出部42が変形しやすくなっている。
【0047】
屈曲突出部42は、図4のように図10の状態から変形した状態で形状保持されるため、円弧状部41が基幹パイプ10を締め付けた状態が維持され、フランジ部24Bが円弧状部41と基幹パイプ10との間に強固に挟持されることとなる。シール部材35は、フランジ部24Bによって基幹パイプ10の周壁に押し付けられて変形し、図4のように密封状態で維持される。
【0048】
以上のように、本実施形態によれば、環状固定部材40が基幹パイプ10の周囲に固定されることにより、取付部材たる分岐パイプ20のフランジ部24B(被支持部)が基幹パイプ10と環状固定部材40とに挟持されて安定的に保持されることとなる。従って、基幹パイプ10に対して取付部材たる分岐パイプ20を簡易にかつ良好に固定できる。
【0049】
また、環状固定部材40は、その一部に塑性加工を施すことにより基幹パイプ10を締め付ける形態で形状保持されるようになっているため、複雑な加工方法を用いることなく環状固定部材40を簡易に基幹パイプ10の周囲に固定できる。
【0050】
さらに、環状固定部材40において、基幹パイプ10の周壁に沿う円弧状部41と、円弧状部41の両端からそれぞれ折れ曲がる形態で基幹パイプ10の外方側に屈曲して突出する屈曲突出部42とを設け、この屈曲突出部42に対する塑性加工により円弧状部41の内径が定められるようになっている。よって、基幹パイプ10の周壁を好適に締め付ける構成を、部品点数を抑えた簡易な構成で実現できる。
【0051】
また、基幹パイプ10の周壁に沿う円弧状に形成されると共に、当該基幹パイプ10と環状固定部材40との間において環状固定部材40に締め付けられる形態で配される保持部材50を有している。そして、この保持部材50は、環状固定部材40の内径に応じた曲率に設定されるようになっている。このように円弧状の保持部材50を介して基幹パイプ10の周壁を締め付けるようにしているため、基幹パイプの周囲においてより偏りなくかつ満遍なく押圧力が生じるようになる。
【0052】
本実施形態では、取付部材として基幹パイプ10から分岐する分岐パイプ20を用いており、基幹パイプ10に対して分岐パイプ20を取り付ける構成を簡易にかつ良好に実現している。
また、このような分岐パイプ20の取り付けに際し、立ち上がり部12が筒状部21に嵌り込む形態で基幹パイプ10と分岐パイプ20とが連通するため、基幹パイプ10に対する分岐パイプ20の位置決めを精度高く良好に行うことができるようになっている。また、立ち上がり部12が筒状部21に嵌り込む形態とされているため、パイプ外からパイプ内への流体の進入或いはパイプ外からパイプ内への流体の漏洩を効果的に防止できる。
【0053】
さらに、環状固定部材40による締め付けがシール部材35によるシール性向上に効果的に作用し、パイプ外からパイプ内への流体の進入或いはパイプ内からパイプ外への流体の漏洩を極めて良好に防止できるようになっている。
【0054】
特に、筒状部21の端部側には、当該筒状部21の外側に嵌合する筒状の嵌合部24Aと、嵌合部24Aの側方に張り出すフランジ部24Bと、フランジ部24Bの外周端に続く筒状の周壁部24Cとを備えた端部側部材24が固定されており、筒状部21の端部は、嵌合部24Aの端部よりも基幹パイプ10側に突出している。そして、シール部材35が、筒状部21の端部と、周壁部とに囲まれる形態で、フランジ部24Bと基幹パイプ10の周壁とに挟持されているため、簡易な構成でシール部材35を挟持でき、シール部材35を外部に露出させずに基幹パイプ10と分岐パイプ20との間に安定的に収容できるようになる。
【0055】
また、基幹パイプ10と分岐パイプ20は、孔部11を介して冷却水が流動可能とされている。基幹パイプ10内及び分岐パイプ20内に冷却水を流動させる構成の場合、基幹パイプ10に対し分岐パイプ20を安定的かつ漏洩なく固定することが求められるが、上記実施形態によれば、これを簡易にかつ好適に実現できることとなる。
【0056】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施態様も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)分岐パイプによる分岐数は本実施形態のように2本でなくてもよい。即ち、1本であってもよく、3本以上であってもよい。
【0057】
(2)上記実施形態ではシールド導電路の一部が車体の外部に配索される場合について説明したが、本発明は、パイプが車体の内部に配索されるシールド導電路にも適用できる。
(3)上記実施形態では、取付部材として分岐パイプ20を例に挙げたが、分岐パイプ以外の取付部材を対象としてもよい。例えば、L字金具などの取付金具(基幹パイプ10を所定位置に固定するための取付金具等)を取付部材として本発明を適用してもよい。L字金具を取付部材とし、上記実施形態と同様の基幹パイプ10に取り付ける場合、L字金具のうちの基幹パイプ10に支持される部分を被支持部とし、その被支持部からL字状に折れ曲がる部分を延出部として上記実施形態と同様の構成を用いることで実現できる。この場合、環状固定部材に形成される貫通孔から延出部を通すこととなるが、この貫通孔は円形としなくてもよく、シール部材35やスペーサー55などは省略することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施形態1に係るシールド導電路1を概略的に例示する側断面図
【図2】図1の一部を拡大して示す斜視図
【図3】図1の一部を拡大して示す側断面図
【図4】図1のシールド導電路1を基幹パイプ10の軸方向と直交する方向に切断した断面図
【図5】初期形状の環状固定部材40を例示する側面図
【図6】初期形状の環状固定部材40及び保持部材を組み合わせた正面図
【図7】初期形状の環状固定部材40を貫通孔44側から見た図
【図8】初期形状の環状固定部材40を屈曲突出部42側から見た図
【図9】シールド導電路の製造方法を説明する図であり、筒状部21及び基幹パイプ10を組み付ける前の状態を示す断面図
【図10】塑性加工前の組み付け状態に関し、基幹パイプ10の軸方向に沿って切断した側断面図
【図11】塑性加工前の組み付け状態に関し、基幹パイプ10の軸方向と直交する方向に切断した断面図
【符号の説明】
【0059】
1…シールド導電路
10…基幹パイプ
11…孔部
12…立ち上がり部
20…分岐パイプ(取付部材)
21…筒状部(延出部)
24…端部部材
24A…嵌合部
24B…フランジ部(被支持部、張り出し部)
24C…周壁部
30…電線
35…シール部材
40…環状固定部材
41…円弧状部
42…屈曲突出部
44…貫通孔
50…保持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に電線が挿通される金属製の基幹パイプと、
前記基幹パイプの外方へ延びる延出部と、前記延出部の側方に配される形態で当該延出部と一体的に形成され、前記基幹パイプの周壁に支持される被支持部と、を備えた取付部材と、
前記延出部を通す貫通孔を有すると共に前記基幹パイプの周囲に環状に固定され、前記取付部材の前記被支持部を前記基幹パイプの前記周壁と共に挟持する環状固定部材と、
を備えることを特徴とするシールド導電路。
【請求項2】
前記環状固定部材は、その一部に塑性加工を施すことにより前記基幹パイプを締め付ける形態で形状保持されることを特徴とする請求項1に記載のシールド導電路。
【請求項3】
前記環状固定部材は、前記基幹パイプの周壁に沿う円弧状部と、前記円弧状部の両端からそれぞれ折れ曲がる形態で前記基幹パイプの外方側に屈曲して突出する屈曲突出部とを有し、前記屈曲突出部に対する塑性加工により前記円弧状部の内径が定められる構成をなすことを特徴とする請求項2に記載のシールド導電路。
【請求項4】
前記基幹パイプの周壁に沿う円弧状に形成されると共に、当該基幹パイプと前記環状固定部材との間において前記環状固定部材に締め付けられる形態で配される保持部材を有し、
前記保持部材は、前記環状固定部材の内径に応じた曲率に設定されるようになっていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のシールド導電路。
【請求項5】
前記取付部材は、前記基幹パイプから分岐する分岐パイプからなり、
前記基幹パイプは、前記周壁に前記分岐パイプと連通する孔部が形成されており、
前記延出部は、前記孔部を介して前記基幹パイプと連通する筒状部とされ、
前記被支持部は、前記筒状部から側方に張り出すフランジ部とされていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のシールド導電路。
【請求項6】
前記基幹パイプの前記周壁には、前記基幹パイプの外方に向けて筒状に立ち上がる立ち上がり部が形成され、この立ち上がり部の内部が前記孔部とされており、
前記基幹パイプは、前記立ち上がり部が前記分岐パイプの前記筒状部に嵌り込む形態で当該分岐パイプと連通していることを特徴とする請求項5に記載のシールド導電路。
【請求項7】
前記フランジ部と前記基幹パイプの周壁との間には、環状のシール部材が設けられていることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のシールド導電路。
【請求項8】
前記筒状部の端部側には、当該筒状部の外側に嵌合する筒状の嵌合部と、前記嵌合部の側方に張り出す前記フランジ部と、前記フランジ部の外周端に続く筒状の周壁部と、を備えた端部側部材が固定されており、
前記筒状部の端部は、前記嵌合部の端部よりも前記基幹パイプ側に突出しており、
前記シール部材は、前記筒状部の端部と、前記周壁部とに囲まれる形態で、前記フランジ部と前記基幹パイプの前記周壁とに挟持されていることを特徴とする請求項7に記載のシールド導電路。
【請求項9】
前記基幹パイプと前記分岐パイプは、前記孔部を介して冷却水が流動可能とされていることを特徴とする請求項5ないし請求項8のいずれかに記載のシールド導電路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−207879(P2007−207879A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22879(P2006−22879)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】