説明

シールド導電路

【課題】 耐食性に優れると共に電磁シールド効果を発揮させることができるシールド導電路を提供する。
【解決手段】 金属パイプ20に電線10が収容されてなるシールド導電路1において、金属パイプ20は、異なる種類の金属を複数層重ねてなる多層構造であって、最外層31をステンレス層とし、他の層32を鉄層とした。さらに、ステンレス層の厚み寸法T1が鉄層の厚み寸法T2よりも小さい。加えて、ステンレス層が、SUS304ステンレス鋼によって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシールド導電路に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、複数の非シールド電線を金属製のパイプに収容して保護すると共に、このパイプを電磁的なシールド機能層として利用するシールド導電路が知られている(特許文献1参照。)。この種のシールド導電路においては、パイプとして、電磁シールド性に優れた鉄製のものや、静電シールド性に優れたアルミニウム製若しくは銅製のものを使用することが考えられている。
【特許文献1】特開2004−171952公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、鉄製のパイプは、電磁シールド性に優れたものであるものの、錆び易いことから、前記シールド導電路は、耐食性が劣るものであった。
【0004】
一方、アルミニウム製若しくは銅製のパイプは、透磁率が鉄製のパイプに比べて低いことから、前記シールド導電路は、磁気シールドの効果が劣るものであった。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑み提案されたものであって、耐食性に優れると共に電磁シールド効果を発揮させることができるシールド導電路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、金属パイプに電線が収容されてなるシールド導電路において、前記金属パイプは、異なる種類の金属を複数層重ねてなる多層構造であって、最外層をステンレス層とし、他の層を鉄層としたところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1において、前記ステンレス層の厚み寸法が前記鉄層の厚み寸法よりも小さいところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2において、前記ステンレス層が、SUS304ステンレス鋼によって形成されているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0009】
<請求項1の発明>
本発明によれば、最外層がステンレス層であることから、シールド導電路を耐食性に優れたものとすることができる。また、他の層をステンレス層に比べて透磁率が高い鉄層としたことから、特に高周波帯域での電磁シ−ルド効果を発揮させることができる。
【0010】
<請求項2の発明>
本発明によれば、ステンレス層の厚み寸法が鉄層の厚み寸法よりも小さいことから、電磁シールド効果を発揮させながらステンレスの使用量を減らすことができ、シールド導電路の価格を抑えることができる。
【0011】
<請求項3の発明>
本発明によれば、ステンレス層が、SUS304ステンレス鋼によって形成されていることから、シールド導電路をより耐食性に優れたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<実施形態>
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。本実施形態のシールド導電路1は、例えば内燃機関及び電気モータの双方を駆動源としたハイブリッド自動車において、そのエンジンルームに設けたインバータ装置からの三相交流出力を後輪用の駆動モータに供給するためのシールド導電路に適用した例である。このシールド導電路1は、図1に図示するように、3本の非シールド電線10を金属パイプ20に収容して構成されている。
【0013】
非シールド電線10は、金属製(例えば銅合金等)の芯線11の外側に合成樹脂製の絶縁被覆12を設けたものである。この芯線11は、複数本の細線(図示せず)を螺旋状に撚り合わせた撚り線又は単芯線からなる。非シールド電線10の断面は円形である。
【0014】
金属パイプ20は、図示するように、外層31及び内層32を備えた2層構造を有する。この金属パイプ20は、外層31が外側金属パイプ21、内層32が内側金属パイプ22によって、それぞれ構成されている。金属パイプ20は、図示するように、3本の非シールド電線10を収容して保護している。
【0015】
3本の非シールド電線10は、金属パイプ20内に挿通されてこのパイプ20内で略俵積み状となっており、金属パイプ20の内径寸法を前記電線10群を略俵積み状にしたときの最大外径よりも大きくしてあることから、金属パイプ20内を容易に挿通させることができる。この金属パイプ20は、各非シールド電線10が挿通された後に、適宜の形状に曲げ加工され、例えば車体の外底面に図示しないブラケットを介して固定される。
【0016】
本実施形態では、外側金属パイプ21は、断面円形のステンレス鋼(ここではSUS304)製である。
【0017】
一方、内側金属パイプ22は、断面円形の鉄(例えば亜鉛めっき鋼)製である。
【0018】
外側金属パイプ21を形成するステンレス鋼は、鉄等の金属に比べて錆び難いことから、外層31が、錆び難く耐食性に優れたものとなる。その上、外側金属パイプ21を形成するステンレス鋼(SUS304)は、他のステンレス鋼(例えばSUS430)と比べて、耐食性に優れている。そこで、SUS304ステンレス鋼製の外側金属パイプ21は、シールド導電路1の外層31を、より耐食性に優れたものとしている。
【0019】
一方、内側金属パイプ22を形成する鉄は、複素透磁率の絶対値(1000程度)が大きい。磁性体における単位体積当たりの電磁波吸収エネルギーPは、以下のような近似式で表される。
P∝ωμ"H2∝ωμH2
ここで、ω:電磁波の角速度(=2πf)
μ":磁性体の複素透磁率の虚数部
μ:磁性体の複素透磁率
H:磁界の強さ
【0020】
この電磁波吸収エネルギーPは、上記の近似式から理解できるように、磁気損失(ωμ"H2)の大きさに比例し、磁気損失は、周波数f及び複素透磁率μの大きさに比例する。内側金属パイプ22を形成する鉄は、上述したように、複素透磁率の絶対値が大きく、高周波でも比較的大きな電磁シールド効果を発揮する。そこで、鉄製の内側金属パイプ22は、シールド導電路1の内層32を、電磁シールド効果を発揮するものとしている。
【0021】
また、鉄は、アルミニウムや銅に比べて安価である。そこで、シールド導電路1の内層32が、アルミニウムや銅を用いて形成する場合に比べて、安価に形成される。
【0022】
上述したように、シールド導電路1は、外側金属パイプ21を形成するステンレス鋼(SUS304)が、鉄や他のステンレス鋼(例えばSUS430)に比べて耐食性に優れている。ところが、ステンレス鋼は、鉄に比べて電磁シールドの効果が劣る。そこで、シールド導電路1の外層31は、鉄を用いて形成する場合に比べて電磁シールドの効果が劣る。
【0023】
しかし、このシールド導電路1は、上述したように、内層32が電磁シールド効果を発揮することから、外層31を、耐食性に優れたSUS304ステンレス鋼製の外側金属パイプ21によって構成すれば、耐食性に優れると共に電磁シールドの効果を発揮する。
【0024】
また、このシールド導電路1は、ステンレス製の外側金属パイプ21の厚み寸法T1を鉄製の内側金属パイプ22の厚み寸法T2よりも小さくした。これによって、このシールド導電路1は、厚肉の外側金属パイプ21を形成する場合に比べてステンレスの使用量を減らすことができ、価格を抑えることができる。
【0025】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲内において構成の一部を適宜変更して実施することができる。
(1)図2に図示するように、シールド導電路1Aを、冷却媒体(例えば水)を循環させる配管40(例えばステンレス鋼管)が内側金属パイプ22に挿通され、この内側金属パイプ22の内周面に防錆用のめっき層50(例えばニッケルめっき層)を形成した3層構造を有するようにしたものであってもよい。なお、上述したシールド導電路1と同一の構成は同一の符号を付しその説明を省略する。
(2)また、シールド導電路1,1Aは、3本の非シールド電線10を金属パイプ20に収容したが、非シールド電線10を1本若しくは2本又は4本以上金属パイプ20に収容したものであってよい。
(3)シールド導電路1,1Aは、3本の非シールド電線10を、略俵積み状に配置したが、縦又は横方向に直線状に配置したもの等であってもよい。
(4)シールド導電路1,1Aは、外側及び内側金属パイプ21,22の各断面を、円形状としたが、楕円形状や四角形状等の非円形状としたものであってもよい。
(5)シールド導電路1,1Aは、外側金属パイプ21を、SUS304ステンレス鋼によって形成したが、他のステンレス鋼によって形成したものであってもよい。
(6)シールド導電路1,1Aは、外側金属パイプ21の厚み寸法を、耐食性能や強度を考慮して適宜の値に変更してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態のシ−ルド導電路の概略断面図
【図2】他の実施形態のシールド導電路の概略断面図
【符号の説明】
【0027】
1,1A…シールド導電路
10…非シールド電線
20…金属パイプ
21…外側金属パイプ
22…内側金属パイプ
31…外層
32…内層
T1…外側金属パイプの厚み寸法
T2…内側金属パイプの厚み寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属パイプに電線が収容されてなるシールド導電路において、
前記金属パイプは、異なる種類の金属を複数層重ねてなる多層構造であって、最外層をステンレス層とし、他の層を鉄層としたことを特徴とするシールド導電路。
【請求項2】
前記ステンレス層の厚み寸法が前記鉄層の厚み寸法よりも小さいことを特徴とする請求項1記載のシ−ルド導電路。
【請求項3】
前記ステンレス層が、SUS304ステンレス鋼によって形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のシールド導電路。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−81158(P2007−81158A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−267435(P2005−267435)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】