説明

シールド掘進機のエレクター装置

【課題】シールド掘進機のエレクター装置の構造を小型、簡単化して省スペースを図ると共に製作費を節減する。
【解決手段】旋回ドラム11の両側部に上下に延びる弦状部材13と、弦状部材13の後方に離隔して位置する昇降フレーム15と、昇降フレーム15の下端から傾斜状に延び且つ昇降フレーム15から後方へ所定長さ延びる傾斜フレーム16とを含む本体フレームと、傾斜フレーム16に連結されたセグメント把持体19と、弦状部材13に昇降フレーム15を昇降可能に連結する平行リンク機構と、該機構を上下揺動させ、本体フレーム14を昇降させる油圧シリンダと、該傾斜フレーム16にセグメント把持体を所定ストローク前後摺動可能に連結する摺動機構20と、該機構を介して前記傾斜フレーム16に対してセグメント把持体を前後に移動駆動可能な油圧シリンダ21とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進機のエレクター装置に関し、特にセグメント把持体を前後摺動させる前後摺動機構をセグメント吊持金物の付近から周方向の側方に外れた位置に配置し、作業性を高め作業スペースを確保可能にしたエレクター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド掘進機は、トンネル内面を覆工するセグメントをリング状に組み立てるエレクター装置を有し、トンネルの掘進に応じてそのエレクター装置により順次1リングずつセグメントを組み立ててトンネル内面を覆工していく。
【0003】
従来のエレクター装置は、門型エレクター装置、軸方向リンク式エレクター装置、半径方向リンク式エレクター装置など多種多様であり、門型エレクター装置は重セグメントに採用され、軸方向リンク式エレクター装置は小口径シールドの軽セグメントに採用され、半径方向リンク式エレクター装置は特殊セグメントに採用される。
【0004】
セグメントの種類に応じてエレクター装置の設計・製作を行う必要があったため、エレクター装置の設計・製作コストが高価になり、シールド掘進機の高コスト要因となっていた。最近では、重セグメントで特殊セグメントでありながら、小口径シールドにも対応可能なエレクター装置が要請されている。
【0005】
特許文献1に記載のシールド掘進機のセグメント組立装置(エレクター装置)においては、シールド本体10の内側に付設された旋回リング47に、昇降装置A、エレクタヘッド装置B、昇降機構C、ローリング機構D、微旋回機構E、ヨーイング機構F、摺動機構G、ピッチング機構H等を装備している。このエレクター装置においては、シールド本体10の内側の空間を極力確保できるように、コンパクトに構成され、既設セグメントにセグメントを倣わせる倣い押し付けを容易にしている。
【0006】
特許文献2に記載のセグメント位置決め装置(エレクター装置)においては、トンネルの最下部にセグメントを組み立てる際の基準姿勢にある場合、旋回ドラムの右側部と、その後方に配置した縦向きの揺動体とを1対の油圧サーボシリンダで平行リンク的に連結し、揺動体を昇降させる昇降用油圧サーボシリンダを設け、その昇降用油圧サーボシリンダにより揺動体を昇降駆動する。揺動体の下端部に接線方向移動機構を介してセグメント把持部の右端部が連結されて、セグメント把持部がトンネルの最下部に対面している。セグメント把持部には、把持機構、ヨーイング微調整機構、ローリング微調整機構が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−128300号公報
【特許文献2】特許第4161500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のエレクター装置では、セグメントを全方向へ位置調整可能に構成する関係上、構造が複雑で、複数のリンク部材や複数の油圧シリンダ等の部品数が多く、製作費が高価になる。しかも、複数のリンク部材や複数の油圧シリンダをトンネルの周方向又はそれに近い方向に向けて配置しているため、セグメントをトンネル半径方向へ移動させる場合の動作が複雑、緩慢になり、能率を高めることが難しい。
【0009】
特に、従来のエレクター装置と同様に、セグメント把持フレーム又はその付近に、ローリング機構、ヨーイング機構、摺動機構、ピッチング機構などを設けるため、それらの構造が複雑化し大重量化し、セグメント組立の作業能率を高めることが難しい。吊持対象のセグメントの吊金物にピン部材を連結する際の作業も、従来のエレクター装置と同様に、セグメント把持フレームの下側の狭いスペースで目視しにくい状態で行うため容易ではない。
【0010】
特許文献2のエレクター装置においては、揺動体に対してセグメント把持部を前後移動させる摺動機構が省略され、3つの油圧サーボシリンダにより、揺動体とセグメント把持部を上下方向と前後方向に移動させる構成である。そのため、セグメント把持部を上下移動とは独立的に前後移動させることが殆ど不可能であるため、前後移動の際の3つの油圧サーボシリンダに対する制御が非常に複雑化し、セグメント組み立ての作業能率を高めることが難しい。しかも、3つの油圧サーボシリンダ、ガイド機構等も必要で、エレクター装置の製作費も高価になる。
【0011】
本発明の目的は、シールド掘進機のエレクター装置において、構造を小型、簡単化して省スペース化を図ると共に製作費を節減すること、セグメント把持体を前後摺動させる前後摺動機構をセグメント吊持金物の付近から周方向側方に外れた位置に配置してトンネルの中央部に十分な機器用スペースや作業スペースを確保すること、セグメント把持体とその周辺の構造を簡単化すること、把持ピンを簡単に着脱可能にし作業能率を高めること、等である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1のシールド掘進機のエレクター装置は、シールド掘進機内においてトンネル内面覆工用のセグメントをトンネルの内面全周にリング状に組み立てるためのシールド掘進機のエレクター装置において、トンネルの最下部にセグメントを組み立てる際の基準姿勢にて定義した場合に、旋回ドラム及びこの旋回ドラムを旋回駆動可能な旋回駆動手段と、旋回ドラムの左側部又は右側部に上下に延びる弦状に固定された弦状部材と、前記弦状部材の後方に対向状に離隔し上下に細長い昇降フレームと前記昇降フレームの下端からへ字状に屈曲しトンネルの最下部側へ傾斜状に延び且つ昇降フレームから後方へ所定長さ延びる傾斜フレームとを含む本体フレームと、前記傾斜フレームに連結されたセグメント把持体と、前記弦状部材に昇降フレームを昇降可能に連結する平行リンク機構と、前記平行リンク機構のリンク部材を上下揺動させ、昇降フレームを介して本体フレームを昇降させる揺動用油圧シリンダと、前記傾斜フレームの内側に付設されてその傾斜フレームに前記セグメント把持体を所定ストローク前後摺動可能に連結する前後摺動機構と、前記前後摺動機構を介して前記傾斜フレームに対して前記セグメント把持体を前後に移動駆動可能な前後動用油圧シリンダとを備えたことを特徴としている。
【0013】
エレクター装置によりセグメントを組み立てる場合、セグメント把持体にセグメントを連結把持してから揺動用油圧シリンダにより平行リンク機構を介して本体フレームをトンネル中心側へ移動させ、次に旋回駆動手段により旋回ドラムと本体フレームとその付属物を周方向へ回動させて、セグメントを組み付け位置に搬送し、次に揺動用油圧シリンダにより平行リンク機構を介して本体フレームを径方向外側(トンネル内面側)へ移動させると共に、前後動用油圧シリンダにより、前後摺動機構を介してセグメント把持体の前後位置を調整してからセグメントをトンネル内面に組み付け、セグメント把持体をセグメントから分離する。その後、本体フレームをトンネル中心側へ移動させると共にセグメント把持体の前後位置を調整し、旋回ドラムと本体フレームとその付属物を周方向へ回動させて、セグメント把持体を最下位置に移動させ、以下上記同様に繰り返す。
【0014】
請求項2のシールド掘進機のエレクター装置は、請求項1において、前記セグメント把持体は、セグメントに接近対向する板状の把持板部材と、この把持板部材に形成され且つセグメント吊金物を下方側から挿通可能な吊金物導入口と、この吊金物導入口に挿通されたセグメント吊金物のピン穴に把持板部材の上面側で着脱される把持ピンとを有することを特徴としている。
【0015】
請求項3のシールド掘進機のエレクター装置は、請求項1又は2において、前記セグメント把持体に、セグメントのピッチング姿勢を調整する為の1対のピッチング用油圧シリンダと、セグメントのローリング姿勢を調整する為の1対のローリング用油圧シリンダとを設けたことを特徴としている。
【0016】
請求項4のシールド掘進機のエレクター装置は、請求項3において、前記旋回駆動手段で旋回ドラムを回動させることにより前記エレクター装置を旋回ドラムと共に旋回可能に構成してあることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、次の効果が得られる。
弦状部材と昇降フレームと平行リンク機構をトンネル中心から側方に片寄せて配置したので、同様に、傾斜フレームもトンネル中心から離隔した位置に片寄せて配置したため、トンネルの中心部分のスペースを犠牲にすることがない。それ故、トンネルの中心部分に大きな機器用スペースや作業スペースを確保することができ、セグメント組み付けの作業能率を高めることができるうえ、エレクター装置の周辺の掘進機用機器や装備品の配置の自由度を高めることができる。
【0018】
平行リンク機構により本体フレームを昇降させるため、本体フレームを大きなストロークでトンネルの径方向へ移動させることが可能で、周方向分割数の少ない大型のセグメントの組み付けも可能となる。さらに、本体フレームを支持する支持剛性を高めることも可能である。
【0019】
昇降フレームとセグメント把持体の間の傾斜フレームの内側に前後摺動機構を設けたため、昇降フレームとセグメント把持体の間にある傾斜フレームの内側スペースを有効活用して、前後摺動機構をセグメント把持体から側方へ外れた位置に配置することができる。それ故、セグメント把持体の上面側に前後摺動機構を配置する必要がなく、セグメント把持体の周辺の構造を著しく簡単化することができ、セグメント把持体とその付属品を軽量化してセグメント組み付けの作業速度を高めることができる。
【0020】
前後動用油圧シリンダにより前後摺動機構を介してセグメント把持体を前後移動可能に構成したので、本体フレームを、トンネル径方向への移動とは独立にトンネル軸心方向(前後方向)へ移動させることができるから、セグメント組み付け時のセグメント位置決めの作業能率を高めることができるうえ、本体フレームをトンネル軸心方向に精度良く位置決めすることもできる。
【0021】
請求項2の発明によれば、セグメント把持体をセグメントに接近対向する板状の把持板部材を主体にして簡単な軽量な構造に構成することができる。この把持板部材に形成された吊金物導入口にセグメント吊金物を下方側から挿通させ、この吊金物導入口に挿通されたセグメント吊金物のピン穴に把持板部材の上面側で把持ピンを着脱することができるから、把持ピンの着脱を目視しながら簡単に能率的に行うことができる。
【0022】
請求項3の発明によれば、前記セグメント把持体に設けた1対のピッチング用油圧シリンダによってセグメントのピッチング姿勢を調整することができ、また、前記セグメント把持体に設けた1対のローリング用油圧シリンダによってセグメントのローリング姿勢を調整することができる。
【0023】
請求項4の発明によれば、前記旋回駆動手段で旋回ドラムを回動させることにより前記エレクター装置を旋回ドラムと共に旋回可能に構成してあるから、トンネル内面の全周にセグメントを組み付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例のシールド掘進機の要部とエレクター装置の断面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1の一部を拡大図示した部分拡大図である。
【図4】図1の一部を拡大図示した部分拡大図である。
【図5】前後摺動機構の要部側面図である。
【図6】前後摺動機構のガイドロッド等の側面図である。
【図7】前後摺動機構のガイドロッド等の側面図である。
【図8】セグメント把持体の把持板部材にセグメント吊金物と把持ピンとでセグメントを把持する部分を示す要部断面図である。
【図9】セグメント把持体の把持板部材の平面図である。
【図10】図1のX−X線拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0026】
最初に、シールド掘進機1について簡単に説明する。尚、以下の説明において、シールド掘進機1の掘進方向を前方とし、その前方に向かって上下方向、左右方向を上下方向、左右方向として説明する。
図1、図2に示すように、シールド掘進機1は、前胴2(後端部のみ図示)、中折れ部3、後胴4、前胴2の前端部内のチャンバー、カッターヘッド、カッターヘッド回転駆動機構、複数のシールドジャッキ5、複数のシールドジャッキ5の後端部に装備された複数のスプレッダー6、排土設備又は排泥設備、後述のエレクター装置10等を有し、トンネルを掘進しながら、トンネル内面をセグメントSで覆工していく一般的な構造のものであるので、エレクター装置10以外の構成については説明を省略する。
【0027】
次に、エレクター装置10について、図1〜図10に基づいて説明する。
エレクター装置10は、トンネル内面覆工用のセグメントSをトンネルの内面の全周にリング状に組み立てることを順々に繰り返す装置である。エレクター装置10は、旋回ドラム11と一体的に、トンネルの軸心A回りに旋回するため、エレクター装置10は鉛直方向に対する姿勢が一定していないけれども、以下の説明では、図1、図2に示すように、トンネルの最下部にセグメントSを組み立てる際の基準姿勢に保持した場合を例にして説明する。
【0028】
図1、図2に示すように、エレクター装置10は、旋回ドラム11、旋回ドラム11を回転駆動する旋回駆動機構12、旋回ドラム11に固定された弦状部材13、昇降フレーム15と傾斜フレーム16とを有する本体フレーム14、平行リンク機構17及び1対の揺動用油圧シリンダ18、セグメント把持体19、前後摺動機構20、前後動用油圧シリンダ21などを主体にして構成されている。旋回駆動機構12で旋回ドラム11を回動させることで、エレクター装置10を旋回ドラム11と共に旋回可能に構成してある。
【0029】
前記旋回ドラム11は、後胴4の前端部分の内側にトンネルの軸心Aと同心状に配設されている。この旋回ドラム11は、例えば5組の遊転ローラ21により後胴4に対して旋回自在に支持されている。旋回ドラム11の外周面には厚い帯状部材11aが固定され、この帯状部材11aが鍔付きの遊転ローラ21で支持され、前後方向へ移動しないように規制されている。
【0030】
図1、図3、図4に示すように、旋回駆動機構12は、旋回ドラム11の内面に固定されたチェーン部材22と、チェーン部材22に係合したスプロケット23と、このスプロケット23を回転駆動する油圧モータ24であって後胴4側に固定された油圧モータ24と、旋回ドラム11の回転角度を検出するエンコーダ25と、エレクター装置10の重心をトンネルの軸心Aに近づける為のカウンタウェイト26等を備えている。図4に示すように、エンコーダ25はチェーン部材22に係合したスプロケット25aを有し、このスプロケット25aの回転角を電気的に検出する。尚、図示してないが、旋回ドラム11の初期位置(原点位置)を検出する原点スイッチ28(図3参照)も設けられている。
【0031】
図1、図2に示すように、弦状部材13は、旋回ドラム11の右側部に上下に鉛直に延びる弦状に固定された正面視弓形の剛性のある鋼製部材であり、弦状部材13の上下両端部と右端縁部が旋回ドラム11に溶接にて固定されている。
本体フレーム14は昇降フレーム15と傾斜フレーム16とで構成されている。昇降フレーム15は、弦状部材13の後方に対向状に離隔配置された上下に細長い鋼製部材であって、剛性確保の為に前面が開放された溝形断面に形成されている。
【0032】
図1、図2、図5に示すように、傾斜フレーム16は、昇降フレーム15の下端からへ字状に屈曲しトンネルの最下部側へ傾斜状に延び且つ昇降フレーム15から後方へ水平に所定長さ延びる鋼製の偏平なボックス状の部材である。昇降フレーム15と傾斜フレーム16とのなす角度は例えば約140°である。但し、この角度に限定される訳ではない。 傾斜フレーム16の上端部分の前端部は昇降フレーム15の下端部に溶接にて固定されている。傾斜フレーム16の上面には全長に亙る補強フレーム16aが溶接にて固定され、この補強フレーム16aの前端が昇降フレーム15に溶接にて固定されている。
【0033】
図2に示すように、トンネルの中央部には、排土設備又は排泥設備のコンベヤ又は管体や油圧ホース類や信号ケーブル類等の一部が配設される断面円形の機器通過スペースPが設けられる。機器通過スペースPの直径は、旋回ドラム11の内径の例えば約55〜60%の大きさになっている。但し、この範囲に限定しないが極力大きいことが望ましい。
前記油圧モータ24も、昇降フレーム15も、傾斜フレーム16も上記の機器通過スペースPにほぼ外接する状態に配設され、エレクター装置10のその他の部材も上記の機器通過スペースPよりも外側に配設されるため、エレクター装置10が旋回ドラム11と共に旋回する場合にも、機器通過スペースPが確保される。
【0034】
図1、図2に示すように、平行リンク機構17は、弦状部材13に昇降フレーム15を上下揺動可能に連結するものである。平行リンク機構17は、上側の第1リンク部材26と、この第1リンク部材26から下方へ所定距離離隔させた第2リンク部材27とを備えている。第1,第2リンク部材26,27が上下揺動するとき、トンネル軸心Aを含む鉛直面と平行な面に沿って上下揺動するように構成されている。
【0035】
第1,第2リンク部材26,27の前端は弦状部材13に左右方向向きの水平なピン26a,27aにより回動可能に夫々ピン連結されている。第1,第2リンク部材26,27の後端は昇降フレーム15に左右方向向きの水平なピン26b,27bにより回動可能に夫々ピン連結されている。
1対の揺動用油圧シリンダ18は、平行リンク機構17の第2リンク部材27を上下揺動させ、昇降フレーム15を介して本体フレーム14を昇降させるものである。1対の揺動用油圧シリンダ18は左右に接近状に並べて傾斜状に配置されている。
【0036】
各揺動用油圧シリンダ18のシリンダ本体の上端部が弦状部材13の上端近傍部に左右方向向きの水平なピンにより回動可能にピン連結されている。1対の揺動用油圧シリンダ18は第1リンク部材26の途中部の矩形枠部26fに形成された矩形開口穴26c(図10参照)を挿通して下方へ延び、各揺動用油圧シリンダ18のピストンロッドの先端部が第2リンク部材27の上面部に左右方向向きの水平なピンにより回動可能にピン連結されている。
【0037】
こうして、1対の揺動用油圧シリンダ18により、第1,第2リンク部材26,27を上下揺動させることで、昇降フレーム15を介して本体フレーム14を平行に昇降させる(トンネル径方向へ移動させる)ことができる。尚、第1リンク部材26に形成された矩形開口穴26cは、第1リンク部材26が上下揺動しても、1対の揺動用油圧シリンダ18と干渉しないような大きさに形成されている。
【0038】
図1、図2に示すように、セグメント把持体19は、部分円筒状に湾曲した板状の把持板部材30と、この把持板部材30の右半部の上面から傾斜フレーム16の方ヘ延びる断面溝形の腕部材31とを備えている。セグメント把持体19の腕部材31が前後摺動機構20(図5〜図7参照)を介して傾斜フレーム16に前後方向へ所定ストローク移動可能に連結されている。
【0039】
図5〜図7に示すように、前後摺動機構20は、傾斜フレーム16の内側に上下に間隔を空けて前後方向向きに平行に配設された第1,第2ガイドロッド32,33を備えている。第1,第2ガイドロッド32,33の前後両端部は傾斜フレーム16に支持されている。前記腕部材31に固定された連結板34の上下両端部に第1,第2筒体32a,33aが固着され、第1,第2筒体32a,33aが第1,第2ガイドロッド32,33に摺動自在に外嵌されている。このように、2本の第1,第2ガイドロッド32,33で支持されているため、セグメント把持体19はトンネル軸心Aに対して一定の姿勢を保持したまま、前後移動可能になっている。
【0040】
このように、前後摺動機構20は傾斜フレーム16の内側に付設されて、傾斜フレーム16にセグメント把持体19の腕部材31を前後方向へ移動可能に連結している。
前後摺動機構20を介して傾斜フレーム16に対してセグメント把持体19を前後に所定ストローク移動駆動する為の前後動用油圧シリンダ21が前後方向向きの水平姿勢に設けられ、傾斜フレーム16に取り付けられている。前後動用油圧シリンダ21のピストンロッドを退入させると、図5に示すように、セグメント把持体19が前方限界位置へ移動し、鎖線で図示のようにピストンロッドを伸長させると、セグメント把持体19が後方限界位置へ移動する。
【0041】
図1、図2、図8、図9に示すように、セグメント把持体19は、セグメントSに接近対向する十文字状の把持板部材30と、この把持板部材30に形成され且つセグメントSに設けられたセグメント吊金物35を下方側から挿通可能な吊金物導入口36と、この吊金物導入口36に挿通されたセグメント吊金物35のピン穴37に把持板部材30の上面側で挿入される把持ピン38とを有する。
【0042】
図1、図2、図9に示すように、セグメント把持体19の把持板部材30には、セグメントSのピッチング姿勢を調整する為の1対のピッチング用油圧シリンダ40と、セグメントSのローリング姿勢を調整する為の1対のローリング用油圧シリンダ41とが倒立姿勢に設けられている。夫々の油圧シリンダ40,41のロッドの先端の押え具でセグメントSの上面を押えるようになっている。尚、前記油圧モータ24、エンコーダ25、原点スイッチ28、油圧シリンダ18,21,40,41は、図示外の制御ユニットにより駆動制御される。
【0043】
次に、エレクター装置10の作用、効果について説明する。
エレクター装置10によりセグメントSを組み立てる場合、セグメント把持体19にセグメントSを連結把持してから揺動用油圧シリンダ18により平行リンク機構17を介して本体フレーム14をトンネル中心側へ移動させ、次に旋回駆動機構12により旋回ドラム11と本体フレーム14とその付属物を周方向へ回動させて、セグメントSを組み付け位置に搬送し、次に揺動用油圧シリンダ18により平行リンク機構17を介して本体フレーム14を径方向外側(トンネル内面側)へ移動させると共に、前後動用油圧シリンダ21により、前後摺動機構20を介してセグメント把持体19の前後位置を調整してからセグメントSをトンネル内面に組み付け、セグメント把持体19をセグメントSから分離する。
【0044】
その後、本体フレーム14をトンネル中心側へ移動させると共にセグメント把持体19の前後位置を調整し、旋回ドラム11と本体フレーム14とその付属物を周方向へ回動させて、セグメント把持体19を最下位置に移動させ、以後1リング分のセグメントの組み付けが完了するまで上記同様に繰り返す。その後、次の1リング分の掘削が完了した時点で、次の1リング分のセグメントSの組み立てを行う。
【0045】
弦状部材13と昇降フレーム15と平行リンク機構17をトンネル中心から側方に片寄せて配置したので、同様に、傾斜フレーム16もトンネル中心から離隔した位置に片寄せて配置したため、トンネルの中心部分のスペースを犠牲にすることがない。それ故、トンネルの中心部分に大きな機器用スペースや作業スペースを確保することができ、セグメント組み付けの作業能率を高めることができるうえ、エレクター装置10の周辺の掘進機用機器や装備品の配置の自由度を高めることができる。
【0046】
平行リンク機構17により本体フレーム14を昇降させるため、本体フレーム14を大きなストロークでトンネルの径方向へ移動させることが可能で、周方向分割数の少ない大型のセグメントSの組み付けも可能となる。さらに、本体フレーム14を支持する支持剛性を高めることも可能である。
【0047】
昇降フレーム15とセグメント把持体19の間の傾斜フレーム16の内側に前後摺動機構20を設けたため、昇降フレーム15とセグメント把持体19の間にある傾斜フレーム16の内側スペースを有効活用して、前後摺動機構20をセグメント把持体19から側方へ外れた位置に配置することができる。それ故、セグメント把持体19の上面側に前後摺動機構20を配置する必要がなく、セグメント把持体19の周辺の構造を著しく簡単化することができ、セグメント把持体19とその付属品を軽量化してセグメント組み付けの作業速度を高めることができる。
【0048】
前後動用油圧シリンダ21により前後摺動機構20を介してセグメント把持体19を前後移動可能に構成したので、本体フレーム14を、トンネル径方向への移動とは独立にトンネル軸心方向(前後方向)へ移動させることができるから、セグメント組み付け時のセグメント位置決めの作業能率を高めることができるうえ、本体フレーム14をトンネル軸心方向に精度良く位置決めすることもできる。
【0049】
セグメント把持体19をセグメントに接近対向する板状の把持板部材30を主体にして簡単な軽量な構造に構成することができる。この把持板部材30に形成された吊金物導入口36にセグメント吊金物35を下方側から挿通させ、この吊金物導入口36に挿通されたセグメント吊金物35のピン穴37に把持板部材30の上面側で把持ピン38を着脱することができるから、把持ピン38の着脱を目視しながら能率的に行うことができる。
【0050】
セグメント把持体19の把持板部材30に設けた1対のピッチング用油圧シリンダ40によってセグメントSのピッチング姿勢を調整することができ、また、セグメント把持体19の把持板部材30に設けた1対のローリング用油圧シリンダ41によってセグメントSのローリング姿勢を調整することができる。
旋回駆動機構12で旋回ドラム11を回動させることによりエレクター装置10を旋回ドラム11と共に旋回可能に構成してあるから、トンネル内面の全周にセグメントSをリング状に組み付けることができる。
【0051】
次に、前記実施例を部分的に変更する例について説明する。
1]前記弦状部材13と本体フレーム15を右側部側に配置する代わりに左側部側に配置してもよい。その場合セグメント把持体19の腕部材31も左方へ延びるものとする。 2]前記平行リンク機構17の第1,第2リンク部材26,27を長さ一定に構成したが、第1,第2リンク部材26,27の途中部に長さ調整用のピースをボルト締結することにより第1,第2リンク部材26,27の長さを増減可能に構成してもよい。
【0052】
3]その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記実施例を部分的に変更して実施可能であり、本発明はそのような変更形態をも包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
トンネルを掘削するシールド掘進機のエレクター装置の性能を高め、トンネル掘進の生産性を高めることができる。
【符号の説明】
【0054】
S セグメント
1 シールド掘進機
10 エレクター装置
11 旋回ドラム
12 旋回駆動機構(旋回駆動手段)
13 弦状部材
14 本体フレーム
15 昇降フレーム
16 傾斜フレーム
17 リンク機構
18 揺動用油圧シリンダ
19 セグメント把持体
20 前後摺動機構
21 前後動用油圧シリンダ
26,27 第1,第2リンク部材
30 把持板部材
35 セグメント吊金物
36 吊金物導入口
37 ピン穴
38 把持ピン
40 ピッチング用油圧シリンダ
41 ローリング用油圧シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘進機内においてトンネル内面覆工用のセグメントをトンネルの内面全周にリング状に組み立てるためのシールド掘進機のエレクター装置において、
トンネルの最下部にセグメントを組み立てる際の基準姿勢にて定義した場合に、
旋回ドラム及びこの旋回ドラムを旋回駆動可能な旋回駆動手段と、
旋回ドラムの左側部又は右側部に上下に延びる弦状に固定された弦状部材と、
前記弦状部材の後方に対向状に離隔し上下に細長い昇降フレームと、前記昇降フレームの下端からへ字状に屈曲しトンネルの最下部側へ傾斜状に延び且つ昇降フレームから後方へ所定長さ延びる傾斜フレームとを含む本体フレームと、
前記傾斜フレームに連結されたセグメント把持体と、
前記弦状部材に昇降フレームを昇降可能に連結する平行リンク機構と、
前記平行リンク機構のリンク部材を上下揺動させ、昇降フレームを介して本体フレームを昇降させる揺動用油圧シリンダと、
前記傾斜フレームの内側に付設されてその傾斜フレームに前記セグメント把持体を所定ストローク前後摺動可能に連結する前後摺動機構と、
前記前後摺動機構を介して前記傾斜フレームに対して前記セグメント把持体を前後に移動駆動可能な前後動用油圧シリンダと、
を備えたことを特徴とするシールド掘進機のエレクター装置。
【請求項2】
前記セグメント把持体は、セグメントに接近対向する板状の把持板部材と、この把持板部材に形成され且つセグメント吊金物を下方側から挿通可能な吊金物導入口と、この吊金物導入口に挿通されたセグメント吊金物のピン穴に把持板部材の上面側で挿入される把持ピンとを有することを特徴とする請求項1に記載のシールド掘進機のエレクター装置。
【請求項3】
前記セグメント把持体に、セグメントのピッチング姿勢を調整する為の1対のピッチング用油圧シリンダと、セグメントのローリング姿勢を調整する為の1対のローリング用油圧シリンダとを設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載のシールド掘進機のエレクター装置。
【請求項4】
前記旋回駆動手段で旋回ドラムを回動させることにより前記エレクター装置を旋回ドラムと共に旋回可能に構成してあることを特徴とする請求項3に記載のシールド掘進機のエレクター装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−189991(P2010−189991A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37819(P2009−37819)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】