説明

シールド機の発進用推進装置

【課題】シールド機内部への出入りや機材の搬出入の邪魔になることがなく、かつ、シールド機に加わる推進力を胴体に分散させて伝えて、ある特定の部分に集中してしまうことを防止できるシールド機の発進用推進装置を提供する。
【解決手段】立坑10内の発進位置の左右両側方上下に、発進方向に沿って固定配設された4本のガイド部材32と、該ガイド部材に係合して発進方向の前後に移動可能に設けられ、シールド機2後端部に当接してこれを前方に向けて推進させる推進部材34と、該推進部材を前後に移動させる伸縮装置36とを備える。該推進部材は、該シールド機の後端部に当接する当接部材52と、該当接部材を支持して該4本のガイド部材に係合する支持部材54とからなり、該当接部材は該シールド機の外郭に沿う多角形または円形の環状をなして該環状部の内側が空所に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シールド機の発進用推進装置に係わり、特に、シールド機が自力で掘進することができない発進時に、当該シールド機を後方から推進して地山中に嵌入させる発進用推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法は、例えば都市土木等におけるトンネルの構築工法として一般に採用されているものであり、シールド機の後方にセグメントによってトンネルの掘削内周面を覆う覆工体を形成するとともに、その形成した覆工体から推進反力を得ながらシールド機によって掘進作業を行ってゆくものである。
【0003】
上記シールド機は、多数のカッタービットが立設されたカッター面板を有し、このカッター面板を回転させながらこれに対向する地山の切羽を切り崩し、その掘削土をカッター面板後方のチャンバー内に取り込んで、さらに当該チャンバの下部に設けたスクリューコンベアで後方に搬送排出しながら前進していくものであり、このような掘削・排土機構が設けられた前方部と、覆工体に反力をとって前方に推進する推進機構部が設けられた後方部と、それら掘削・排土機構と推進機構との作動を制御する運転制御室が設けられた中間部とから構成されている。
【0004】
また、このようなシールド工法では、所定の深度にトンネルを構築するために、シールド機の発進立坑や到達立坑を地中に構築し、これらを発進基地あるいは到達基地として、シールド機を発進又は到達させて、これらの立坑を結ぶ計画路線に沿ったトンネルを構築するようにしている。即ち、通常では、例えば数百メートルから数キロメートル程度の所定のトンネル延長毎に工区分けを行い、これらの各工区の両端部分に、シールド機の発進用あるいは到達用の施設としての立坑を、例えば地中連続工法等によりコンクリ−ト構造物として地中に構築し、各工区毎に掘削形成したシールドトンネルをこれらの立坑を介して連通させることにより、各シールドトンネルが一体となった相当の延長のトンネルが構築されることになる。
【0005】
そして、このような発進立坑からのシールド機の発進作業や、到達立坑へのシールド機の到達作業は、一般に、立坑を構成する壁体の発進口あるいは到達口部分に坑口工を設けるとともに、これらの坑口部分の背面の地盤に対し地盤改良を施してこの地盤を安定固化させ、しかる後に発進口あるいは到達口部分の壁体に対して鏡切り作業を行ない、これによって形成された発進口もしくは到達口を通じてシールド機を地山に貫入させ、あるいは地山から立坑の内部に前進させることにより行われている。
【0006】
ところで、近年にあっては、多面的および立体的に土地の有効利用が図られている。特に構造物の密集した都市部にあっては、上記立坑の施工現場として、地上に十分なスペースを確保することが非常に困難になってきているばかりか、その立坑自体の大きさにも制限を受けて、当該立坑の開口部の間口長を十分に大きくとることができず、シールド機の全長分を確保し得ない場合も生じる。
【0007】
そこで、そのような場合には、シールド機を、例えば、その前方の掘削・排土機構部を内包した前胴部と、各種機構の作動制御を行う運転制御室が設けられた中胴部、排土・推進機構部を内包した後胴部とに分離し、これらを各々個別に立坑内に挿入して当該立坑内の発進位置で相互に接合して組み立てるようにしている。
【0008】
即ち、先ず前胴部を立て坑内の切り羽に面した発進位置に設置して、掘削・排土機構を作動させながら前進させて地山中に嵌入させ、次に当該前胴部の後方に中胴部を設置して連結し、再び掘削・排土機構を作動させながら前進させ、爾後、同様にして中胴部の後に後胴部を接続してシールド機の全体を地山中に嵌入させるようにしている。
【0009】
ここで、前胴部と中胴部とには推進機構が備えられていないため、これらを前進させるには後方から推進力を付与せねばならない。このため、発進位置には、前胴部及び中胴部の後端に当接して推進力を与える発進用推進装置を設けており、このような発進用推進装置としては、従来、特開2002−213179号公報の推進装置が知られている。
【0010】
この推進装置は、発進位置の左右両側方の上下に位置させてその発進方向に沿って固定配設した4本のガイド部材と、この左右のガイド部材に掛け渡されて当該ガイド部材に沿って発進方向の前後に移動可能に設けられ、シールド機の後端部に当接してこれを前方に向けて推進させる上下2本の推進部材と、各一端が当該推進部材に固定されると共に他端に上記ガイド部材に対してその任意の位置にて固定乃至解放可能な固定装置を有した伸縮装置とを備えて構成されている。即ち、伸縮装置の他端をガイド部材に固定した状態で当該伸縮装置を伸長または短縮させることで上記推進部材を前後に移動させ、また、当該他端を解放した状態で伸縮させることでガイド部材に対する固定位置を変更し得るようになっている。
【特許文献1】特開2002−213179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来の推進装置では、左右のガイド部材に掛け渡して上下に2本配設した推進部材によってシールド機を推進するので、当該推進部材がシールド機断面を横切ってしまい、シールド機内部への作業員の出入りや機材の搬出入の邪魔になってしまうという課題があり、当該課題はシールド機が小型になる程、顕著になってしまうものであった。
【0012】
また、前後に複数に分割されたシールド機を立て坑内の発進位置に設置するにあたっては、各分割シールド機を側方から発進位置に横引きすることになるが、当該横引きの際にガイド部材が邪魔になってしまうため、その都度、ガイド部材を一時的に取り外して撤去し、爾後、再組み立てを行うといった手間の掛かる作業が必要となるという課題もあった。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、シールド機内部への出入りや機材の搬出入の邪魔になることがなく、かつ、シールド機に加わる推進力を胴体に分散させて伝えて、その入力がある特定の部分に集中してしまうことがないシールド機の発進用推進装置を提供することにある。また、第2の目的はシールド機の発進位置への横引が容易に行えるシールド機の発進用推進装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために本発明の請求項1に係る構成は、立坑内の発進位置の左右両側方に、上下に位置されてその発進方向に沿って固定配設された4本のガイド部材と、これら4本のガイド部材に係合して該ガイド部材に沿って発進方向の前後に移動可能に設けられ、シールド機の後端部に当接してこれを前方に向けて推進させる推進部材と、該推進部材を前後に移動させる伸縮装置と、を備えたシールド機の発進用推進装置であって、該推進部材が、該シールド機の後端部に当接する当接部材と、該当接部材を支持して該4本のガイド部材に係合する支持部材とからなり、該当接部材は該シールド機の外郭に沿う多角形または円形の環状をなし、該支持部材は該当接部材の外側に突出して設けられている、ことを特徴とする。
【0015】
ここで、請求項2に示すように、前記伸縮装置の伸長ストロークと伸長速度とを検知して表示するとともに、該伸縮装置の作動を制御する制御装置を設けるようにしても良い。
【0016】
また、請求項3に示すように、前記伸縮装置は、前記各ガイド部材毎にその両側に一対で設けられたセンターホールジャッキで構成し得る。
【0017】
また、請求項4に示すように、前記ガイド部材はその相互間隔をシールド機の直径より大きく離間させ、下方の2つのガイド部材間には該ガイド部材よりも上面が上方に位置された発進台を設け、かつ該発進台に並設させて該ガイド部材の側方には、上面が該発進台と同一高さの載置台を設け、該載置台と発進台との間にはこれらを繋いで該ガイド部材を跨ぐ上面が平坦な渡り板を着脱自在に設け、該載置台上に横引き架台を介して設置したシールド機を該横引き架台ごと側方に横引きして該発進台上に移載する構成ともなし得る。
【発明の効果】
【0018】
上記のようにしてなる本発明に係るシールド機の発進用推進装置によれば、推進部材がシールド機断面を横切る事が無く、シールド機内部への作業員の出入りや機材の搬出入の邪魔になってしまうことを防止することができ、特に小型のシールド機にとって極めて有用である。
【0019】
また、シールド機に入力する推進力をその外郭をなす胴体の後端部に沿って形成した環状の当接部材によって伝えるので、シールド機に加わる推進力を分散させて伝達することができ、シールド機の胴体の特定部分に入力が集中して過大になることがない。また、シールド機自体に設けられる自己推進用の推進ジャッキの設置位置に合わせて高剛性に形成されている胴体部分に効率よく推進力を伝達させることができる。
【0020】
また、伸縮装置の伸長ストロークと伸長速度を検知して表示するとともにその作動を制御する制御装置を設けることにより、シールド機の自己推進用の推進ジャッキを使用できない発進時の地山中への嵌入時に、その掘削速度を地山の土質に適合した適正値に容易に管理するすることができる。
【0021】
また、前後に複数に分割されたシールド機を立て坑内の発進位置に設置する場合に、各分割シールド機を側方から発進位置に横引きするにあたっては、載置台と発進台との間にガイド部材の上方を跨ぐ渡り板部材を取り付けて横引きするだけで、各分割シールド機を容易に発進位置に設置できるので、当該横引きの際にガイド部材が邪魔になることがなく、もってガイド部材を一時的に取り外して撤去するという無駄な作業を省くことができて、作業の省力化と効率化の向上を可及的に図れるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明に係るシールド機の発進用推進装置の好適な一実施の形態について、添付図面に基づいて詳述する。
【0023】
図1は立坑内に設けられたシールド機の発進用推進装置を示す平面図であり、図2は3分割構成の分割シールド機が配置された状態の正面図、図3〜図6発進用推進装置を用いて3分割シールド機を地山中に嵌入して発進させる手順を順次に示す工程図である。
【0024】
先ず、3分割シールド機について、その概略構成を説明する。図6に示すように、3分割シールド機2は、前方の前胴部4と中央の中胴部6と後方の後胴部8との3つの分割体からなり、これら前胴部4,中胴部6,後胴部8の各分割体は接合・分離可能になっていて、分離することによって、開口部の間口長を十分に大きくとることができない立坑10内に搬入可能となっていて、立坑10内の発進位置において順次接合されて組み立てられるようになっている。
【0025】
上記前胴部4には掘削・排土機構12が設けられており、多数のカッタービット14が立設されたカッター面板16を回転させて、当該カッター面板16に対向する地山の被掘削土の切羽を切り崩し、その掘削土をカッター面板16後方のチャンバー18内に取り込んで、さらにスクリューコンベア20で後方に搬送排出する様になっている。また、中胴部6内には上記スクリューコンベア20から排出される掘削土砂を後方に搬出する排土コンベア(図示せず)と上記カッター面板16やスクリューコンベア20等の各種機構の作動制御を行う運転制御室22等が設けられている。また、後胴部8には中胴部6と同じ排土コンベア(図示せず)が設けられているとともに、推進機構としての推進用ジャッキ24及びトンネル内周部の覆工体Aの先端部にセグメントaを組み付けて当該覆工体Aを逐次延長形成していくセグメント組み付け機26が設けられていて、推進用ジャッキ24は覆工体Aの先端部のセグメントaに反力をとって推進力を得る様になっている。
【0026】
つまり、3分割シールド機2はこれら前胴部4,中胴部6,後胴部8との各分割体が順次に繋がれた状態で、自己推進しながら掘削が可能になる構成となっており、後胴部8なしでは自己推進していくことができないばかりか、後胴部8の接続後も覆工体Aの長さが発進口からある程度まで延びて地山との摩擦力で推進用ジャッキ24の推進反力を負担できるようになるまでは自己推進していくことができない。
【0027】
発進用推進装置30は上述の如く3分割シールド機2が自己推進できない時に、これを発進口の地山中に向けて後方から推進して嵌入発進を補助するものであり、先ず発進位置に設置された前胴部4を地山中に嵌入させた後、その後部に中胴部6を接続して嵌入させ、爾後、さらにその後部に後胴部8を接続して順次嵌入させて、自己推進可能となるまでその発進の補助をすべく設置されている。
【0028】
即ち、この発進用推進装置30は、図7〜図12にも拡大して示してあるように、立坑10内の発進位置の左右両側方に、その上下に位置されて発進方向に沿って固定配設された4本のガイド部材32と、これら4本のガイド部材32に係合して当該ガイド部材32に沿って発進方向の前後に向けて移動可能に設けられた推進部材34と、この推進部材34を移動させる伸縮装置36とを備えている。
【0029】
各ガイド部材32は鋼管で形成されており、発進口38の坑口コンクリート40と、この坑口コンクリート40に対面して立坑10の背面壁側に設けられた支圧壁42とに両端を固定支持されて水平に渡設されている。各ガイド部材32はそれらの上下と左右の相互間隔がシールド機2の直径より大きく離間されていて、3分割シールド機2の前胴部4と中胴部6と後胴部8とをそれぞれ側方から発進位置に挿通できるようになっている。
【0030】
また、下方の2つのガイド部材32間の発進位置にはシールド機2の発進台44が設けられている。この発進台44はその上面が平坦に形成されていて、当該上面は上記ガイド部材32をなす鋼管の上縁よりも上方に位置されて設置されている。さらに、この発進台44に並設されてガイド部材32の一側方には分割シールド機2の載置台46が設けられていて、この載置台46の平坦な上面も上記ガイド部材32をなす鋼管の上縁よりも上方に位置されて、発進台44と同一高さに形成されている。そして、この載置台46と発進台44との間には、これら繋ぐ渡り板部材48がガイド部材32の上方を跨いで着脱自在に設けられていて、この渡り板部材48もその上面は載置台46及び発進台44の高さと同一に平坦に形成されている。つまり、分割シールド機2の前胴部4と中胴部6と後胴部8とのそれぞれは地上から立坑10内に吊り降ろされて横引き架台50を介して載置台46上に載置され、発進位置の発進台44上へは順次に渡り板部材48上を横引き架台50ごと横引きされて滑動移動されるようになっている。そして、発進台44上に設置された分割シールド機2は、その後端部に推進部材34が当接して前方の地山に向けて推進されていく様になっている。
【0031】
この推進部材34は分割シールド機2の後端部に当接する当接部材52と、この当接部材52を支持して4本のガイド部材32に係合する支持部材54とからなる。
【0032】
支持部材54は上下のガイド部材32間に縦に掛け渡された左右2本の支柱54aからなり、各支柱54aの上下端にはガイド部材32の鋼管に嵌合して摺動する摺動孔56が設けられていて、各支柱54aは上下のガイド部材32の鋼管に両端が摺動自在に嵌合して、垂直な姿勢のまま鋼管に沿って前後に移動可能になっている。また、各摺動孔56の左右には側方に突出して後述する伸縮装置36の取付基板58が一体的に設けられている。また、各支柱54aの下端面には立坑10の床面に敷設されたレール60上を走行する車輪62が取り付けられていて、推進部材34の荷重は床部に伝達される様になっている。
【0033】
当接部材52は、分割シールド機2の各分割体(前胴部4,中胴部6,後胴部8)の外郭に沿う多角形、または楕円形を含む円形をなした環状体部52aと、この環状体部52aを上記支柱54aに固定するブラケット部52bとからなる。当該図示例の実施形態では、環状体部52aは円弧状に湾曲形成された鋼材からなる8つの分割片が接合されて真円形に形成されており、その内側は空所に形成されている。ブラケット部52bは環状体部52aの上下部に一体的に設けられて左右両側に延び、その各延出端が支柱54aに一体的に固定されている。また上下のブラケット部52bを繋いで補剛部材52cが設けられており、この補剛部材52cと環状体部52aとは一体的に接合されている。なお、環状体部52aの内側下部には、資材や機材等を搬入する台車の走行路及び作業員の通路となる床部53が設けられており、当該床部53以外には内方に突出する部材がない空所に形成されている。
【0034】
伸縮装置36としてはセンターホールジャッキ36aが採用されている。このセンターホールジャッキ36aは、油圧シリンダと作動ロッドとの中芯部に貫通孔を有し、この貫通孔にはPCストランド64が挿通されている。作動ロッドの先端にはPCストランド64を固定乃至解放自在に把持する固定装置としてのチャックが設けられていて、シリンダ側が推進部材34の支柱54aに一体的に設けられている取付基板58に固定されている。そして、この取付基板58にも上記PCストランド64を挿通する貫通孔が形成されていて、PCストランド64はその一端がガイド部材32の前端部に固設されて側方に突出しているブラケット32aに固定係止されるとともに、他端が支圧壁42に固定具42aを介して固定係止されている。
【0035】
即ち、作動ロッドの先端に設けられたチャックでPCストランド64を把持して当該作動ロッド側を固定し、この状態でセンターホールジャッキ36aを伸長作動させると、シリンダ側が推進部材34を押し出して前進させ、センターホールジャッキ36aを縮短作動させると推進部材34を引き戻して後退させる様になっている。よって、チャックの把持固定→ジャッキの伸長作動→チャックの解放→ジャッキの縮短作動という一連の動作サイクルを順次繰り返すことで推進部材34を前進させ続けることができ、逆に、チャックの把持固定→ジャッキの縮短作動→チャックの解放→ジャッキの伸長作動という一連の動作サイクルを順次繰り返すことで推進部材34を後退させ続けることができる。また、センターホールジャッキ は各ガイド部材32毎にその両側に左右一対で設けられて合計で8つ設置されており、左右一対のセンターホールジャッキ36aの一連の動作サイクルを左右で互いに半サイクルずらすことで待機時間を極短くして、高効率にほぼ連続的な前進移動および後退移動が可能となっている。
【0036】
さらに、各センターホールジャッキ36aおよびチャックは、図示しない油圧ユニットに接続され、この油圧ユニットがコンピュータ等の制御装置により作動制御されるように構成されており、各センターホールジャッキ36aの伸長ストロークとその伸長速度もセンサーによって計測されて制御装置の表示器に表示されるとともに、その計測値は各センターホールジャッキ36a毎にフィードバックされて設定速度が所定値に一定に保たれるように油圧ユニットの作動がフィードバック制御されるようになっている。
【0037】
次に、以上の如く構成された発進用推進装置30を用いて分割シールド機2を発進させる手順について説明する。先ず、図1および図2に示すように、分割シールド機2は前胴部4、中胴部6、後胴部8との3つの分割体に3分割されて順次に立坑10内の載置台46上に吊り降ろされて搬入される。前胴部4は載置台46上に横引き架台50を介して設置されると直ぐに横引きされて発進台44上に移動され、横引き架台50は発進台44にボルト結合されて固定される。横引きに際しては、発進台44と載置台46とを繋ぐ渡り板部材48がガイド部材32を跨いで設置され、横引きの終了後に直ちに当該渡り板部材48は取り外される。次いで、中胴部6と後胴部8とが吊り降ろされて立坑10内に搬入され、載置台46上に横引き架台50を介して載置される。
【0038】
そして、発進台44上に設置された前胴部4には、その内部の掘削・排土機構部12に中胴部6の作動制御室22内の作動制御盤から延びる各種の制御ケーブルが接続されて、当該中胴部6の作動制御室22からカッター面板16やスクリューコンベア20等の作動制御が行えるように準備される。また、中胴部6の作動制御室22内には、推進装置30の油圧ユニットの作動制御を行う制御装置に接続されたノート型PC等からなる操作端末器が持ち込まれて、作動制御室22内で推進装置30の作動制御が行えるように準備される。
【0039】
上記制御ケーブル等の準備が終了すると、図3(a),(b)に示すように、推進装置30の推進部材34が前進されてその当接部材52が前胴部4の後端部に当接され、当該推進部材34に押されて前胴部4が発進口に向けて前方に推進されていく。この時、前胴部4の後端部にはその外郭をなすスキンプレートに沿って真円状に形成された当接部材52の環状体部52aがその全周に亘って当接して推進力が伝えられていく。
【0040】
前胴部4が約1m程前進されて、カッター面板16が発進口の直前までくると、図3(c)に示すように、推進部材34が一旦後退されて、当該推進部材34にピッチング調整装置70が取り付けられた後、再び推進装置30が前進駆動されてピッチング調整装置70を介して前胴部4を推進していく。この時、カッター面板16とスクリューコンベア20等の掘削に必要な諸機構部12が中胴部6の作動制御室22で制御されながら駆動され始め、前胴部4が発進口38の地山に当接すると同時に掘削が開始され、掘進速度は推進装置30の油圧ユニットを制御する制御装置の操作端末を通じて中胴部6の作動制御室22内から制御される。
【0041】
掘進が進んで前胴部4が地山中に嵌入していくと、図4(d)〜(f)に示すように、当該前胴部4が横引き架台50上から前方に外れて、その重心点がまだ発進台44上にある時点で掘進が一時停止され、推進部材34は最後部まで後退移動される。そして、推進部材34からピッチング調整装置70を取り外すとともに、前胴部4の後方に置き去りにされて発進台44上に固定されている横引き架台50を取り外した後、載置台46と発進台44との間に渡り板部材48を取り付けて中胴部6を発進台44上に横引き移動し、発進位置に設置する。爾後、推進部材34を前進させて中胴部6の前端部が前胴部4の後端部に当接するまで前進させて、当該前胴部4の後に中胴部6を連結して一体化させる。
【0042】
この連結後、図5(g),(h),(i)に示すように、前胴部4で掘削しながら推進部材34を前進させて掘進を継続し、中胴部6が横引き架台50から外れるまで前進させた後、再び推進部材34を後端部まで後退移動させて、上記と同様にして後胴部8を発進台44上に横引き移動して発進位置に設置し、この後胴部8を推進部材34で前方に押し出して中胴部6の後端部に当接させる。そして、図6(j),(k)に示すように、後胴部8の前端部を中胴部6の後端部に当接させて連結した後、推進部材34をフルストロークで前方に移動させて、前胴部4と中胴部6と後胴部8とが一体となった分割シールド機2を地山中に嵌入させていく。これ以後は分割シールド機2の推進ジャッキ24を作動させて自己推進させてゆき、掘削孔の内周面に沿ってセグメントaを組み立てて形成されていく覆工体Aが所定の長さに至り、当該覆工体Aと地山との摩擦力でシールド機2の自己推進の反力が得られるようになるまで、推進部材34は前端位置に保持したままにしてその反力を負担する。
【0043】
従って、上述のようにしてなるシールド機2の発進用推進装置30によれば、立坑10内からの発進時にシールド機2に推力を伝達する当接部材52は、シールド機2の外郭をなす胴体(前胴部4,中胴部6,後胴部8)の後端部に沿って環状に形成されてその内側が空所になっている環状体部52aがシールド機2の胴体(前胴部4,中胴部6,後胴部8)の後端部に当接して前方に押し出すので、推進部材34がシールド機2の断面を横切ることが無く、もってシールド機2内部への作業員の出入りや、機材および資材(セグメントとその搬送台車等)の搬出入の邪魔になってしまうことを防止することができるようになり、特に径の小さい小型のコンパクトシールド機にとって極めて有用なものとなる。
【0044】
また、シールド機2に入力する推進力をその外郭をなす胴体(前胴部4,中胴部6,後胴部8)の後端部に沿って形成した環状体部52aを有する当接部材52によって伝えるので、シールド機2に加わる推進力を当該胴体(前胴部4,中胴部6,後胴部8)の全周に亘って分散させて伝達することができ、もってシールド機2の胴体(前胴部4,中胴部6,後胴部8)の特定部分に入力が集中して過大になることがない。このため、シールド機2の後胴部8に設けられる自己推進用の推進ジャッキ24の設置位置に合わせて高剛性に形成されている胴体部分に、効率よく推進力を伝達させることができる。
【0045】
また、前後に複数に分割された分割シールド機2を立坑10内の発進位置に設置する場合に、各分割体(前胴部4,中胴部6,後胴部8)を各々側方から発進位置に横引きするにあたっては、載置台46と発進台44との間にガイド部材32の上方を跨ぐ渡り板部材48を取り付けて横引きするだけで、各分割体(前胴部4,中胴部6,後胴部8)を容易に発進位置に設置できて、当該横引きの際にガイド部材32が邪魔になることがなく、もってガイド部材32を一時的に取り外して撤去するといった無駄な作業を省くことができ、作業の省力化と効率化の向上を可及的に図れるようになる。
【0046】
また、伸縮装置36の伸長ストロークと伸長速度とを検知して表示するとともに、その作動を制御する制御装置を設けることにより、分割シールド機2の自己推進用の推進ジャッキ24が使用できない発進時における地山中への嵌入推進時に、その掘削速度(伸縮装置36の伸長速度)を地山の土質に適合した適正値に容易に管理することができる。
【0047】
尚、以上に例示した実施の形態にあっては、伸縮装置36にはセンターホールジャッキを採用しているがこれに限らず推進部材を前後退駆動させ得るものであれば、如何様のジャッキであっても良く、例えば、油圧式ネジ式のものが採用し得る。また、各種ジャッキはその一端側を推進部材34に固定するとともに、他端側にチャック等の固定装置を取り付けて、当該固定装置でガイド部材32の任意の位置に固定可能に構成して尺取り虫様に作動させるようにしても良い等、各種の変形が可能である。
【0048】
また、推進部材34の環状体部52aも真円形に限定されるものではなく、シールド機断面形状が楕円であれば、これに合わせて楕円形状となす。更には、胴体の外径が大きい等、作業員の出入りや資材・機材等の搬出入の支障とならなければ、多角形状の環状体に形成しても良い。この場合、シールド機2に設置される自己推進用の推進ジャッキの中心線が、環状体部の各辺を構成する部材の中心線上に一致させるのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係るシールド機の発進用推進装置を示す平面図である。
【図2】3分割構成の分割シールド機が配置された状態の発進用推進装置の正面図である。
【図3】発進用推進装置を用いて3分割シールド機を地山中に嵌入して発進させる手順を順次に示す工程図である。
【図4】同上、工程図である。
【図5】同上、工程図である。
【図6】同上、工程図である。
【図7】推進装置の側面図である。
【図8】推進部材の正面図である。
【図9】図8に示す推進部材の平面図である。
【図10】図8に示す推進部材の右側面図である。
【図11】推進部材をなす支柱のを示すもので(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。
【図12】推進部材をなす当接部材を示すもので(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。
【符号の説明】
【0050】
2 分割シールド機 4 前胴部
6 中胴部 8 後胴部
10 立坑 12 掘削・排土機構部
14 カッタービット 16 カッター面板
18 チャンバー 20 スクリューコンベア
22 作動制御室 24 推進ジャッキ
26 セグメント組立機 30 発進用推進装置
32 ガイド部材 34 推進部材
36 伸縮装置 36a センターホールジャッキ
38 発進口 40 坑口コンクリート
42 支圧壁 44 発進台
46 載置台 48 渡り板部材
50 横引き架台 52 当接部材
52a 環状体部 52b ブラケット
54 支持部材 54a 支柱
56 摺動孔 58 取り付け基板
60 レール 62 車輪
64 PCストランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立て坑内の発進位置の左右両側方に、上下に位置されてその発進方向に沿って固定配設された4本のガイド部材と、
これら4本のガイド部材に係合して該ガイド部材に沿って発進方向の前後に移動可能に設けられ、シールド機の後端部に当接してこれを前方に向けて推進させる推進部材と、 該推進部材を前後に移動させる伸縮装置と、
を備えたシールド機の発進用推進装置であって、
該推進部材が、該シールド機の後端部に当接する当接部材と、該当接部材を支持して該4本のガイド部材に係合する支持部材とからなり、
該当接部材は該シールド機の外郭に沿う多角形または円形の環状をなし、該環状部の内側は空所に形成されている、
ことを特徴とするシールド機の発進用推進装置
【請求項2】
前記伸縮装置の伸長ストロークと伸長速度とを検知して表示するとともに、該伸縮装置の作動を制御する制御装置が設けられていることを特徴とする請求項1記載のシールド機の発進用推進装置。
【請求項3】
前記伸縮装置が、前記各ガイド部材毎にその両側に一対で設けられたセンターホールジャッキでなることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のシールド機の発進用推進装置。
【請求項4】
前記ガイド部材はその相互間隔がシールド機の直径より大きく離間され、下方の2つのガイド部材間には該ガイド部材よりも上面が上方に位置された発進台が設けられており、かつ該発進台に並設されて該ガイド部材の側方に上面が該発進台と同一高さの載置台が設けられ、該載置台と発進台との間にはこれらを繋いで該ガイド部材を跨ぐ上面が平坦な渡り板が着脱自在に設けられており、該載置台上に横引き架台を介して設置したシールド機を該横引き架台ごと側方に横引きして該発進台上に移載することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシールド機の発進用推進装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−322167(P2006−322167A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144520(P2005−144520)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】