説明

シール構造および動力伝達装置

【課題】カバー部材のスラスト面にリップ部を当接させるシール構造を提供する。
【解決手段】軸線O回りに相対回転可能に設けられた軸10とハウジング20との間の隙間90を密封するオイルシール1は、ハウジング20に支持されており軸10に密着して隙間90を密封するオイルシール本体30と、対向面11からDR2方向に沿ってハウジング20に向かって延設されるダストカバー40と、ダストカバー40と当接してDR1方向におけるダストカバー40の位置決めを行なう山部12とを備える。オイルシール本体30は、DR1a方向に沿って延設されたリップ部31を有する。ダストカバー40は、オイルシール本体30に対向するシール面42を有する。リップ部31は、ダストカバー40のシール面42に当接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール構造および動力伝達装置に関し、特に、軸線回りに相対回転可能に設けられた第一部材と第二部材との間の隙間を密封するシール構造と、そのシール構造を備える動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシール構造に関する技術は、たとえば実開平6−10025号公報(特許文献1)、特開平9−174346号公報(特許文献2)および実開平5−87359号公報(特許文献3)などに開示されている。特許文献1では、シャフト部の摺動に対してもシール性を保持するよう、ラジアル方向(径方向)に延びるリップが相手材のラジアル面に当接されている構成が提案されている。
【特許文献1】実開平6−10025号公報
【特許文献2】特開平9−174346号公報
【特許文献3】実開平5−87359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
軸線回りに相対回転可能に設けられた第一部材と第二部材との間の隙間を密封するシール構造の場合、リップ部を含むシール材とカバー部材とを備え、軸線方向と直交する径方向に延設されるカバー部材などの相手材のスラスト面にリップ部を当接させる構成が、シール性能上有利である。
【0004】
相対回転する第一部材または第二部材のラジアル面にリップ部が当接されていると、回転中に回転軸周りに偏心する軸ずれが発生した場合に、シール性能が低下するおそれがあると考えられる。これに対し、カバー部材のスラスト面にリップ部を当接させた場合、回転中に軸ずれが発生してもシール性能への影響は微小である。しかし、特許文献1〜3に記載の技術では、相手材のスラスト方向にリップ部を当接させるための工夫は開示されていない。
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、径方向に延設されるカバー部材のスラスト面にリップ部を当接させることを可能とする、シール構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るシール構造は、軸線回りに相対回転可能に設けられた第一部材と第二部材との間の隙間を密封するシール構造である。シール構造は、シール材と、カバー部材と、山部とを備える。シール材は、第二部材に支持されている。このシール材が第一部材に密着して、第一部材と第二部材との間の隙間を密封する。第一部材は、第二部材に対向する対向面を有する。カバー部材は、第一部材の対向面から、軸線と直交する径方向に沿って第二部材に向かって延設される。山部は、第一部材が対向面から径方向に突起して形成されている。山部は、シール材から離れる側からカバー部材と当接して、軸線方向におけるカバー部材の位置決めを行なう。シール材は、軸線方向に沿って延設されたリップ部を有する。カバー部材は、シール材に対向するスラスト面を有する。リップ部は、カバー部材のスラスト面に当接している。
【0007】
好ましくは、カバー部材は、軸線方向に沿ってシール材から離れる向きに延びる、基部を有する。基部において、カバー部材は第一部材に固定支持されている。
【0008】
好ましくは、山部は、カバー部材と当接する当接部を有する。第一部材には、当接部から軸線方向に沿って窪んだ窪み部が形成されている。基部は、窪み部の内部に収容されている。
【0009】
好ましくは、第二部材は、軸線方向端部を有する。カバー部材は、軸線方向端部を覆うように径方向に延在している。
【0010】
好ましくは、カバー部材は、径方向において軸線方向端部に対して第一部材から離れる側にある先端部を有する。
【0011】
好ましくは、先端部が軸線方向および径方向に対して傾斜して設けられている。カバー部材によって、軸線方向端部が囲まれている。
【0012】
好ましくは、シール材は、環状部材を介在させて第二部材に支持されている。環状部材は、軸線方向端部を覆うように形成されている。環状部材は、径方向において軸線方向端部に対して第一部材から離れる側に突き出した突出部を有する。突出部は、カバー部材と対向している。
【0013】
本発明に係る動力伝達装置は、回転シャフトと、ハウジングと、シール構造とを備える。回転シャフトは、回転可能に設けられている。ハウジングは、回転シャフトを取り囲む。シール構造は、上記のいずれかの局面に係るシール構造であって、回転シャフトとハウジングとの間の隙間を密閉する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のシール構造によると、カバー部材の軸線方向における位置決めが行なわれるため、軸線方向におけるカバー部材の設置位置についての誤差を小さく抑えることができる。したがって、軸線方向に沿って延設されたシール材のリップ部を確実にカバー部材に当接させることができるので、泥水の浸入を抑制し、シール構造の耐泥水性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0016】
なお、以下に説明する実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。また、以下の実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、上記個数などは例示であり、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。
【0017】
図1は、本実施の形態のシール構造を備える、車両の動力伝達装置としてのディファレンシャルギヤ装置を示す断面模式図である。図1には、車両に搭載され、エンジンなどの駆動力源から入力される回転駆動力を駆動輪に伝達する、動力伝達装置の一部を示している。本実施の形態の動力伝達装置は、エンジン横置きFF(Front engine Front drive)方式をベースとした車両に適用される。
【0018】
ディファレンシャルギヤ装置100は、駆動力源より入力される回転力の一部をドライブシャフトである車軸102を経由させて左右の前輪へ伝達する、差動装置である。ディファレンシャルギヤ装置100は、トランスアクスルケース101内に収容されている。ディファレンシャルギヤ装置100は、回転シャフトとしての車軸102と、車軸102とともに回転運動を行なうディファレンシャルケース103とを備える。
【0019】
ディファレンシャルケース103は、仮想の回転中心線である軸線Oを車軸102と共有するように設けられている。車軸102は、軸線O回りに回転可能に設けられており、トランスアクスルケース101は固定されている。つまり、車軸102は、トランスアクスルケース101に対して軸線O回りに相対的に回転可能に設けられている。ハウジングとしてのトランスアクスルケース101は、車軸102を取り囲んでいる。
【0020】
ディファレンシャルケース103には、リングギヤ106がボルト結合されている。駆動力源で発生し、変速機で駆動力、回転速度および回転方向が変換された動力は、リングギヤ106を経てディファレンシャルケース103に伝達される。ディファレンシャルケース103の一方端側は軸受104により、他方端側は図示しない他の軸受により、それぞれ回転可能にトランスアクスルケース101に支持されている。
【0021】
旋回時や路面に凹凸がある場合などに車軸102に回転差を与えて車両の円滑な走行を可能とするディファレンシャルギヤは、ピニオンギヤ107とサイドギヤ108とを含んで構成されている。ピニオンギヤ107はディファレンシャルケース103に取り付けられており、このピニオンギヤ107にサイドギヤ108が噛合っている。またサイドギヤ108は、スプラインにより車軸102と結合している。
【0022】
車両が平坦路を直進する場合には、左右の駆動輪の転がる距離が等しい。そのため左右
のサイドギヤ108は同じ回転速度で回転し、サイドギヤ108の間に挟まれたピニオンギヤ107は自転せず、ディファレンシャルケース103、ピニオンギヤ107およびサイドギヤ108は一体となって公転する。
【0023】
車両がカーブを曲がる場合には、カーブ外側の駆動輪の転がる距離がカーブ内側の駆動輪よりも長いため、カーブ外側のサイドギヤ108はカーブ内側のサイドギヤ108よりも速く回転する。このとき、カーブ外側のサイドギヤ108はディファレンシャルケース103よりも速く回転しており、カーブ内側のサイドギヤ108はディファレンシャルケース103よりも遅く回転している。したがって、ディファレンシャルケース103に取り付けられ左右のサイドギヤ108の間に挟まれたピニオンギヤ107は、公転だけでなく自転もするようになる。これにより、異なる速度で回転している左右のサイドギヤ108にディファレンシャルケース103からの動力を伝えることを可能にしている。
【0024】
このようなディファレンシャルギヤの働きにより、車両は駆動輪と路面との間ですべりを起こすことなく、円滑にカーブを曲がったり、凹凸路面を走行することができる。
【0025】
車軸102とトランスアクスルケース101との間の隙間には、本実施の形態のシール構造としてのオイルシール1が設けられている。オイルシール1は、トランスアクスルケース101と車軸102との間の隙間を密封して、トランスアクスルケース101内部に封入された潤滑油が外部へ漏出することを抑制している。
【0026】
図2は、図1に示す領域II付近を拡大視して、オイルシールを拡大して示す模式図である。図2中の左右方向であるDR1(DR1a,DR1b)方向は、軸線Oに沿う軸線方向である。また図2中の上下方向であるDR2(DR2a,DR2b)方向は、軸線Oと直交する径方向である。図2に示すように、オイルシール1は、第二部材としてのハウジング20(トランスアクスルケース101)に支持された、シール材としてのオイルシール本体30を備える。またオイルシール1は、第一部材としての軸10(車軸102)に固定された、カバー部材としてのダストカバー40を備える。
【0027】
ダストカバー40は、ハウジング20に対向する軸10の対向面11から、DR2a方向に沿ってハウジング20に向かって延設されている。ダストカバー40は、オイルシール本体30に対向するシール面42を有する。またダストカバー40は、DR1a方向に沿ってオイルシール本体30から離れる向きに延びる基部43を有する。ダストカバー40は、基部43において軸10に固定支持されている。基部43は、ダストカバー40の最内径側を形成している。
【0028】
基部43は、ダストカバー40を確実に軸10に固定するために、DR1方向における延在長さをダストカバー40の厚みの5倍以上とするように、形成することができる。たとえば、ダストカバー40が板厚1mmとして形成される場合、基部43のDR1方向の延在長さは5mm以上とすることができる。ダストカバー40の板厚は任意に設定することができ、たとえば0.8mm以上1.2mm以下の範囲とすることができる。
【0029】
基部43は、ダストカバー40をプレス加工することにより、オイルシール本体30から離れる向きに延びるように曲げられて形成される。このように曲げ加工を受けてDR1a方向に延びる基部43を形成することによって、基部43とオイルシール本体30のダストリップ32との干渉を回避することができる。ダストカバー40がダストリップ32と干渉するとオイルシール1のシール性が低下する場合があるが、本実施の形態のようにダストカバー40を形成すれば、ダストカバー40とダストリップ32との干渉を回避して、オイルシール1のシール性を向上させることができる。
【0030】
オイルシール本体30は、アクリル系樹脂により形成されている。アクリル系樹脂を鋳鉄製のハウジング20に直接圧入すると、圧入後に逆戻りするスプリングバックが発生し、DR1方向におけるオイルシール本体30の寸法バラツキが発生することが懸念される。そのため、オイルシール本体30は、環状部材としての金属製の支持部材35を介在させてハウジング20に支持されている。
【0031】
オイルシール本体30は、DR1a方向に沿って延設されたリップ部31と、ダストリップ32と、シール部33とを有する。シール部33の外周にはスプリングリング34が配設されており、スプリングリング34の締付力によってシール部33の軸10に対するシール性を向上させている。このシール部33がラジアル面である軸10の対向面11と密着することにより、軸10とハウジング20との間の隙間90が密封される。そして、図2中に「オイル側」と示されたハウジング20内部に封入された潤滑油が、図2中に「空気側」と示された外部へ漏出することが抑制されている。
【0032】
リップ部31は、DR2方向に延設されているダストカバー40の、スラスト面であるシール面42に当接している。ダストカバー40は、オイルシール本体30の相手材である、サイドリップ端面当て板材として機能している。リップ部31がダストカバー40のシール面42に当接し、またダストリップ32が軸10の対向面11に当接することにより、シール部33への泥水の浸入が抑制されており、オイルシール1の耐泥水性を向上させてシール性能を向上できる構成とされている。
【0033】
オイルシール1はまた、軸10の対向面11からDR2a方向に突設された山部12を備える。山部12は、軸10が対向面11から径方向に突起して形成されている。山部12は、ダストカバー40に対してオイルシール本体30とDR1方向の反対側に設けられている。山部12は、ダストカバー40のシール面42と反対側の面でありDR1方向においてオイルシール本体30から離れる側の面である当接面41において、ダストカバー40と当接している。
【0034】
山部12は、ダストカバー40の当接面41と当接する当接部14を有する。当接部14はDR1b方向に突設されて当接面41と当接している。当接部14において、対向面11から最もDR2方向に突出している部分は、突端部13を形成している。DR1方向におけるダストカバー40の位置決め精度を向上させるために、山部12の当接部14は削り加工され、DR1方向における寸法精度を向上させるように仕上げられている。当接部14における、突端部13に対してDR2b方向側の位置であって、突端部13に対し対向面11により近接する位置には、ダストカバー挿入部としての窪み部15が形成されている。軸10には、山部12とダストカバー40とが当接する当接部14からDR1a方向に沿って窪んだ、窪み部15が形成されている。
【0035】
ダストカバー40の基部43は、窪み部15の内部に配設されている。基部43は、窪み部15の内部において、軸10の対向面11と接合している。窪み部15は、ダストカバー40の基部43を受入れ可能に形成されている。窪み部15の内部に基部43を収容することによって、ダストリップ32との干渉を回避しつつ基部43を確実に軸10に固定することができる。ダストカバー40の窪み部15への圧入深さは当接部14の精度により決定されるので、上述した通り、DR1方向の寸法精度が高められるように当接部14は形成されている。
【0036】
山部12の当接部14が当接面41側からダストカバー40と当接していることにより、DR1方向におけるダストカバー40の位置決めが行なわれている。山部12によってダストカバー40のDR1方向における位置決めがされているために、シール面42のDR1方向における寸法精度も向上している。そのため、リップ部31の先端部を、確実にダストカバー40の圧入面であるシール面42に当接させることが可能とされている。
【0037】
上述した通り、ダストカバー40はプレス加工により成形されており、加工寸法の公差レンジが比較的大きい。そのため、基部43においてダストカバー40を軸10に固定するのみでは、シール面42のDR1方向の位置決め精度を向上させることは困難である。そこで、本実施の形態では、山部12を用いてダストカバー40のDR1方向の位置決めを行なっている。当接部14は軸10と一体成形され、削り加工によって精度良く仕上げることが可能であるために、当接部14が当接面41に当たることによってダストカバー40のDR1方向の位置決め精度を向上させることが可能となる。
【0038】
つまり、ダストカバー40のプレス加工公差の影響を受けることなく、シール面42のDR1方向における位置決めをすることができる。そのため、DR1方向におけるダストカバー40の設置位置についての誤差を小さく抑えることができ、オイルシール本体30のリップ部31とダストカバー40のシール面42との当たり代のバラツキを抑制することができるので、シール面42に確実にリップ部31を当接させることが可能とされている。
【0039】
当接部14の肉厚(DR2方向における当接部14の寸法)はどのような厚みとしてもよい。但し、ダストカバー40のDR2方向に対する傾斜角度を小さくしてシール面42とリップ部31との当たり代のバラツキを低減するためには、当接部14の外径(軸線O〜突端部13間の距離)はできるだけ大きくするのが望ましい。たとえば、リップ部31がシール面42と接触する部分における、軸線Oに対するダストカバー40の全振れ量を0.4mm以内とすることができ、この条件を具備するように当接部14の外径を決定することができる。なお全振れ量とは、取り付け偏心と軸偏心との2種類の和によって表される軸の偏心を示す。
【0040】
ダストカバー40はまた、先端部44を有する。先端部44は、軸10とともに軸線O回りに回転するダストカバー40の最外径側を形成している。先端部44は、DR2a方向に延びるダストカバー40において、軸10の対向面11から最も離れる位置に配設されている。ダストカバー40の外径側端部である先端部44は、DR1方向とDR2方向とのいずれに対しても傾斜する、テーパ形状加工が施されて形成されている。
【0041】
ハウジング20は、端部21を有する。ハウジング20はDR1方向に沿って延びる部分を有しており、最もDR1a方向に延びる先端に、軸線方向端部としての端部21が形成されている。端部21は、ダストカバー40の先端部44によって囲まれている。ダストカバー40は、端部21を覆うように、DR2a方向に延在している。ダストカバー40の先端部44は、DR2方向において、端部21よりも軸10の対向面11から離れる側に位置している。
【0042】
オイルシール本体30を支持する支持部材35は、ハウジング20の端部21を覆うように形成されている。支持部材35は、端部21に対してDR2a方向に突き出した突出部36を有する。突出部36は、DR2方向において軸10から離れる側に、端部21に対して突き出している。突出部36は、DR2方向に対して傾斜するように、DR1b方向へ曲げられている。突出部36は、ダストカバー40の先端部44と対向している。
【0043】
先端部44が端部21に被さるようにDR2a方向に延びているために、ダストカバー40とハウジング20との間の隙間が小さくなっている。支持部材35がハウジング20の外径まで延びて先端部44と対向する突出部36を形成しているために、ハウジング20の外径部におけるダストカバー40と支持部材35との間隔はさらに小さくなっている。そのため、先端部44と突出部36との間の隙間を通過してオイルシール本体30側へ流れる泥水の流路が狭められており、泥水がオイルシール本体30に向けて流れることを抑制できる構造が形成されている。
【0044】
また、突出部36がDR1b方向に曲げられ、ハウジング20の外周側の面と突出部36とは鋭角を形成するように、突出部36は設けられている。このように曲げられた突出部36は、とい機構として機能し、泥水の浸入を抑制している。つまり、ハウジング20の外周面に沿ってDR1a方向に流れる泥水は、突出部36によってせき止められるので、先端部44と突出部36との間の隙間を通過して泥水がオイルシール本体30に向けて流れることをより抑制することができる。
【0045】
先端部44と突出部36との間の隙間から泥水が浸入した場合でも、シール部33よりも空気側においてリップ部31が確実にダストカバー40のシール面42と当接しているために、リップ部31を通過して泥水がさらにDR2b方向へ流れてシール部33に至ることが抑制される。軸10が回転している場合、リップ部31によってせき止められた泥水には、回転に伴って発生する遠心力によって、DR2a方向へ向かう力が作用するので、泥水の浸入を一層抑制することができる。
【0046】
また、ダストカバー40の先端部44が上述の通りテーパ形状に加工されているために、遠心力の作用によってダストカバー40に沿ってDR2a方向へ流れる泥水の振り切り効果が発揮される。ダストカバー40は軸10とともに回転運動するため、先端部44が回転時に発揮する振り切り効果によって、泥水の浸入をさらに抑制することが可能となる。この振り切り効果を有効に発揮するには、ダストカバー40の最外径側を形成している先端部44をテーパ形状に加工するのが好適であり、このようにすれば、軸10の回転数が増大するに従って、より大きな振り切り効果が得られる。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態のオイルシール1は、軸線O回りに相対回転可能に設けられた軸10とハウジング20との間の隙間90を密封する。オイルシール1は、オイルシール本体30と、ダストカバー40と、山部12とを備える。オイルシール本体30は、ハウジング20に支持されている。このオイルシール本体30が軸10に密着して、軸10とハウジング20との間の隙間90を密封する。軸10は、ハウジング20に対向する対向面11を有する。ダストカバー40は、軸10の対向面11から、軸線Oと直交するDR2方向に沿ってハウジング20に向かって延設される。
【0048】
山部12は、軸10が対向面11からDR2a方向に突起して形成されている。山部12は、オイルシール本体30から離れる側からダストカバー40と当接して、DR1方向におけるダストカバー40の位置決めを行なう。オイルシール本体30は、DR1a方向に沿って延設されたリップ部31を有する。ダストカバー40は、オイルシール本体30に対向するシール面42を有する。リップ部31は、ダストカバー40のシール面42に当接している。
【0049】
このようにすれば、ダストカバー40のDR1方向における位置決めが行なわれるため、DR1方向におけるダストカバー40の設置位置についての誤差を小さく抑えることができる。したがって、DR1a方向に沿って延設されたリップ部31を確実にダストカバー40のシール面42に当接させることができるので、泥水の浸入を抑制し、オイルシール1の耐泥水性を向上させることができる。また、リップ部31とダストカバー40との当たり代のバラツキを抑制することができるので、オイルシール本体30がダストカバー40と接触しながら軸10が回転することにより発生する損失トルクを減少させることができる。
【0050】
これまでの説明においては、軸10が対向面11から径方向に突起して形成された山部12によってダストカバー40のDR1方向の位置決めを行なう構成について述べたが、ダストカバー40の位置決めが可能であれば、山部12はどのように形成されてもよい。上述したように軸10の一部を大径部として山部12を形成してもよく、または山部12を構成する別部材を軸10の対向面11に固定してもよい。山部12の立体形状は、軸10の全部または一部が径方向外側へ隆起したフランジ形状でもよく、複数の突起により山部12を形成してもよく、軸線方向に延びるリブ形状が複数形成されて山部12を成していてもよい。
【0051】
また、これまでの説明においては、回転側である軸10にダストカバー40が固定され、固定側であるハウジング20にオイルシール本体30が支持されている例について説明したが、この構成に限られない。つまり、固定部にダストカバーが支持され、当該固定部に対し相対回転する回転部にオイルシール本体が支持される構成であってもよい。
【0052】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、車両のトランスミッション、トランスファまたはディファレンシャルなどのインプット/アウトプット部に用いられるシール構造に、特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施の形態のシール構造を備えるディファレンシャルギヤ装置を示す断面模式図である。
【図2】オイルシールを拡大して示す模式図である。
【符号の説明】
【0055】
1 オイルシール、10 軸、11 対向面、12 山部、13 突端部、14 当接部、15 窪み部、20 ハウジング、21 端部、30 オイルシール本体、31 リップ部、32 ダストリップ、33 シール部、34 スプリングリング、35 支持部材、36 突出部、40 ダストカバー、41 当接面、42 シール面、43 基部、44 先端部、90 隙間、DR1,DR1a,DR1b 軸線方向、DR2,DR2a,DR2b 径方向、O 軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに相対回転可能に設けられた第一部材と第二部材との間の隙間を密封するシール構造であって、
前記第二部材に支持され、前記第一部材に密着して前記隙間を密封するシール材と、
前記第二部材に対向する前記第一部材の対向面から、前記軸線と直交する径方向に沿って前記第二部材に向かって延設されるカバー部材と、
前記第一部材が前記対向面から前記径方向に突起して形成されており、前記シール材から離れる側から前記カバー部材と当接して軸線方向における前記カバー部材の位置決めを行なう山部とを備え、
前記シール材は、前記軸線方向に沿って延設されたリップ部を有し、
前記カバー部材は、前記シール材に対向するスラスト面を有し、
前記リップ部は、前記カバー部材の前記スラスト面に当接している、シール構造。
【請求項2】
前記カバー部材は、前記軸線方向に沿って前記シール材から離れる向きに延びる基部を有し、
前記基部において、前記カバー部材は前記第一部材に固定支持されている、請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記山部は、前記カバー部材と当接する当接部を有し、
前記第一部材には、前記当接部から前記軸線方向に沿って窪んだ窪み部が形成されており、
前記基部は、前記窪み部の内部に収容されている、請求項2に記載のシール構造。
【請求項4】
前記第二部材は、軸線方向端部を有し、
前記カバー部材は、前記軸線方向端部を覆うように前記径方向に延在している、請求項1から請求項3のいずれかに記載のシール構造。
【請求項5】
前記カバー部材は、前記径方向において前記軸線方向端部に対して前記第一部材から離れる側にある先端部を有する、請求項4に記載のシール構造。
【請求項6】
前記先端部が前記軸線方向および前記径方向に対して傾斜して設けられており、前記カバー部材によって前記軸線方向端部が囲まれている、請求項5に記載のシール構造。
【請求項7】
前記シール材は、環状部材を介在させて前記第二部材に支持されており、
前記環状部材は、前記軸線方向端部を覆うように形成されており、前記径方向において前記軸線方向端部に対して前記第一部材から離れる側に突き出した突出部を有し、
前記突出部は、前記カバー部材と対向している、請求項4から請求項6のいずれかに記載のシール構造。
【請求項8】
回転可能に設けられた回転シャフトと、
前記回転シャフトを取り囲むハウジングと、
前記回転シャフトと前記ハウジングとの間の隙間を密閉する、請求項1から請求項7のいずれかに記載のシール構造とを備える、動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−299806(P2009−299806A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155558(P2008−155558)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】