シール構造および該シール構造を備えた燃料電池
【課題】多品種のシール材を用いることなく密着性を向上させ、コストを低減可能なシール構造および該シール構造を備えた燃料電池を提供すること。
【解決手段】対峙する面にシール面8,9を有する構成部品と、シール面8,9の間に介在して、シール面8,9を密着させるシール材3と、を備え、シール面8,9の一方または両方に、硬質炭素皮膜6,7と、該硬質炭素皮膜6,7と構成部品の基材4,5との間に介在する中間層と、が形成されており、中間層の結晶間には隙間が形成されており、該隙間にシール材3が入り込んでいることを特徴とするシール構造。
【解決手段】対峙する面にシール面8,9を有する構成部品と、シール面8,9の間に介在して、シール面8,9を密着させるシール材3と、を備え、シール面8,9の一方または両方に、硬質炭素皮膜6,7と、該硬質炭素皮膜6,7と構成部品の基材4,5との間に介在する中間層と、が形成されており、中間層の結晶間には隙間が形成されており、該隙間にシール材3が入り込んでいることを特徴とするシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール構造および該シール構造を備えた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素やメタノール等の燃料を電気化学的に酸化することによって電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。燃料電池は、用いる電解質の種類によってリン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、固体高分子電解質型等に分類される。このうち固体高分子電解質型燃料電池(PEFC)は、電解質膜の両面に電極を配置した膜電極接合体(MEA)の片面に水素(燃料ガス)、他方に酸素(酸化ガス)を供給することで発電するタイプの燃料電池であり、内燃機関と同等の出力密度が得られることから電気自動車等の電源として現在広く実用化研究が進められている。
【0003】
MEAのパッケージング方法としては、スタック型、プリーツ型、中空糸型など、様々なタイプが提案されているが、このうち、シート状のMEAをシート状のセパレータで隔離しながら積み重ねることで構成されるスタック型燃料電池が広く用いられている。このようなスタック型燃料電池は、互いに重なるMEAとセパレータの間やセパレータ同士の間にシール材を設けることで、燃料電池内部の燃料ガスや酸化ガスを密封している。
特開2006−107862号公報に記載のスタック型燃料電池は、シール材として接着剤を使用したシール構造を備えており、金属セパレータの接着剤塗布面に対して表面処理を行わず、セパレータの基材に直接接着剤を塗布することで、接着剤の接着性を向上させている。
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、上記シール構造では、金属セパレータ同士の接着性は向上するものの、金属セパレータとその他の構成部品(例えばMEAの樹脂フィルム等)間の十分な接着性を確保することが難しい。したがって、複数の構成部品を接着接合する必要がある場合や、セパレータ素材を変更する場合等には、接着部位に応じて異なる複数の接着剤を使用する必要があり、設備的、コスト的に不利となる。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、多品種のシール材を用いることなく密着性を向上させ、コストを低減可能なシール構造および該シール構造を備えた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、対峙する面にシール面を有する構成部品と、前記シール面の間に介在して、前記シール面を密着させるシール材と、を備え、前記シール面の一方または両方に、少なくとも硬質炭素皮膜が形成されていることを特徴とするシール構造である。
【0007】
本発明の第2の態様は、前記シール構造を有する燃料電池である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、第1実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【図2】図2は、第2実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【図3】図3は、第3実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【図4】図4は、第4実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【図5】図5は、第5実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【図6】図6は、第5実施形態に係るシール構造の変形例を示す断面図である。
【図7】図7は、第5実施形態に係るシール構造の他の変形例を示す断面図である。
【図8】図8は、第5実施形態に係るシール構造のさらに他の変形例を示す断面図である。
【図9】図9は、第6実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【図10】図10は、第7実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【図11】図11は、硬質炭素皮膜にクラックを生じさせる工程を示す工程図である。
【図12】図12は、第8実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【図13】図13は、図12のXIII部の拡大図である。
【図14】図14は、図13の構成部品の表面を観察したSEM写真である。
【図15】図15は、図13の構成部品の断面を観察したTEM写真である。
【図16】図16は、図13の構成部品の断面を観察したSEM写真である。
【図17】図17は、第9実施形態に係る燃料電池のシール構造を示す断面図である。
【図18】図18は、第10実施形態に係る固体高分子形燃料電池のシール構造を示す断面図である。
【図19】図19は、第11実施形態に係る燃料電池用セパレータの斜視図である。
【図20】図20は、図19のXX-XX線に沿う断面図である。
【図21】図21は、硬質炭素皮膜の接触抵抗を示すグラフである。
【図22】図22は、第12実施形態の燃料電池用セパレータの断面図である。
【図23】図23は、第12実施形態の変形例に係る燃料電池用セパレータの断面図である。
【図24】図24は、第13実施形態の燃料電池用セパレータの断面図である。
【図25】図25は、第11〜13実施形態に係る燃料電池スタックの概略断面図である。
【図26】図26は、燃料電池用セパレータの製造方法を示すフロー図である。
【図27】図27は、基材の積層を説明する断面図である。
【図28】図28は、絶縁性硬質炭素皮膜を成膜したときの断面図である。
【図29】図29は、本発明を適用した燃料電池スタックを搭載した車両の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を説明する。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の実施形態のみに制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0010】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【0011】
第1実施形態に係るシール構造は、第1構成部品1および第2構成部品2の間を密封するものである。第1構成部品1および第2構成部品2は、各々、基材4,5と、該基材4,5の対峙する面を被覆する硬質炭素皮膜(DLC、ダイヤモンド様カーボン)6,7と、を備えている。硬質炭素皮膜6,7の表面は、シール材3と密着するシール面8,9となる。該シール面8,9の間には、シール材3が介在しており、両シール面8,9を密着させている。
【0012】
第1構成部品1および第2構成部品2の基材4,5は、硬質炭素皮膜6,7を形成できるものであれば材料は限定されず、第1構成部品1と第2構成部品2とで異なる材料であってもよい。また、硬質炭素皮膜6,7は、かならずしも基材4,5の表面全てを覆う必要はなく、シール材3と密着する部位を含む範囲を被覆していればよい。
【0013】
硬質炭素皮膜6,7は、構成部品の用途に応じて、非導電性または導電性の硬質炭素皮膜を用いることができる。なお、導電性を有する硬質炭素皮膜については、後に詳述する。
【0014】
第1実施形態に係るシール構造によれば、第1構成部品1および第2構成部品2のシール面に硬質炭素皮膜6,7が形成されるため、第1構成部品1および第2構成部品2に表面特性の異なる基材が用いられても、シール材3の密着性を均一に発揮することができ、安定したシール性能を得ることができる。
【0015】
また、硬質炭素皮膜6,7は、樹脂等からなるシール材3との密着性が優れるため、密着性に優れたシール構造を実現できる。
【0016】
<第2実施形態>
図2は、本発明の第2実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【0017】
第2実施形態に係るシール構造は、第1実施形態と同様の第1構成部品1に対して、2つ(複数)の第2構成部品2および第3構成部品11がシール材3により密着する構造となっている。第2構成部品2および第3構成部品11は、各々の基材5,12の第1構成部品1と対峙する面が硬質炭素皮膜7,13で被覆されており、この硬質炭素皮膜7,13で被覆された面が、シール材3と密着するシール面9,14となる。
【0018】
このように、1つの構成部品に対して複数の構成部品が密着される構造においても、本発明に係るシール構造を適用することで、シール材の密着性を向上させることができる。
【0019】
<第3実施形態>
図3は、本発明の第3実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【0020】
第3実施形態に係るシール構造は、第1実施形態と同様に、第1構成部品1と第2構成部品16の間をシール材3で密着させるが、第2構成部品16のシール面17に硬質炭素皮膜が形成されていない点で、第1実施形態と異なる。
【0021】
第1構成部品1の基材4は、硬質炭素皮膜を形成できるのであれば材料は限定されない。また、第2構成部品16の基材は、第1構成部品1の基材4と異なる材料であってもよい。シール材3には、第2構成部品16の基材と密着性の高い材料が選択されることが好ましい。
【0022】
第3実施形態に係るシール構造によれば、シール材3が変更されても高い密着性を発揮できる硬質炭素皮膜6が第1構成部品1に形成されるため、硬質炭素皮膜が形成されない第2構成部品の基材に合わせてシール材3を選択することで、シール材3の良好な密着性を実現できる。
【0023】
<第4実施形態>
図4は、本発明の第4実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【0024】
第4実施形態に係るシール構造は、第1実施形態と同様に、第1構成部品1と第2構成部品2の間をシール材18で密着させるが、シール材18の幅W1、すなわち、シール面8,9に垂直な断面における、シール材18のシール面8,9に平行な方向の幅W1が、第1構成部品1および第2構成部品2の硬質炭素皮膜6,7の幅W2、すなわち、シール面8,9に垂直な断面における、硬質炭素皮膜6,7のシール面8,9に平行な方向の幅W2よりも狭く形成されている点で、第1実施形態と異なる。
【0025】
第4実施形態に係るシール構造によれば、シール材18が確実に硬質炭素皮膜のみと密着するため、シール材の優れた密着性を均一に発揮することができ、安定したシール性能を得ることができる。
【0026】
<第5実施形態>
図5は、本発明の第5実施形態に係るシール構造を示す断面図、図6は、第5実施形態に係るシール構造の変形例を示す断面図、図7は、第5実施形態に係るシール構造の他の変形例を示す断面図、図8は、第5実施形態に係るシール構造の更に他の変形例を示す断面図である。
【0027】
第5実施形態に係るシール構造は、構成部品の対峙する面の少なくとも一方に、凸部または凹部が形成され、この凸部または凹部にシール材が密着する点で、第1〜第4実施形態と異なる。
【0028】
図5に示すように、第5実施形態に係るシール構造では、第1構成部品21および第2構成部品22の基材26,27の互いに対峙する面に、当該面に垂直な方向に突出した凸部23,24が形成されている。基材26,27の対峙する面は、各々、硬質炭素皮膜28,29で被覆されており、この硬質炭素皮膜28,29で被覆された凸部23,24の先端面は、互いに略並行に対峙して、シール材25と密着するシール面30,31となっている。シール材25は、該シール面30,31の間に介在して、両シール面30,31を密着させている。
【0029】
第1構成部品21および第2構成部品22の基材26,27は、硬質炭素皮膜28,29を形成できるのであれば材料は限定されず、第1構成部品21および第2構成部品22で異なる材料であってもよい。
【0030】
第5実施形態の変形例に係るシール構造では、図6に示すように、第1構成部品33および第2構成部品34の基材38,39の互いに対峙する面に、凹部35,36が形成されている。基材38,39の対峙する面は、各々、硬質炭素皮膜40,41で被覆されており、この硬質炭素皮膜40,41で被覆された凹部35,36の底面は、互いに略並行に対峙して、シール材37と密着するシール面42,43となっている。シール材37は、該シール面42,43の間に介在して、両シール面42,43を密着させている。
【0031】
第5実施形態の他の変形例に係るシール構造は、図7に示すように、凹部36を有する第2構成部品34と平坦面45を有する第1構成部品44とを密着させるものである。第1構成部品44および第2構成部品34の基材39,47の対峙する面は、各々、硬質炭素皮膜41,48で被覆されており、この硬質炭素皮膜41,48で被覆された凹部36の底面と平坦面45とが、互いに略並行に対峙して、シール材46と密着するシール面43,49となっている。シール材46は、該シール面43,49の間に介在して、両シール面43,49を密着させている。
【0032】
第5実施形態の更に他の変形例に係るシール構造は、図8に示すように、凸部23を有する第1構成部品21と凹部36を有する第2構成部品34とを密着させるものである。第1構成部品21および第2構成部品の基材26,39の対峙する面は、各々、硬質炭素皮膜28,41で被覆されており、この硬質炭素皮膜28,41で被覆された凸部23の先端面と凹部36の底面とが、互いに略並行に対峙して、シール材50と密着するシール面30,43となっている。シール材50は、該シール面30,43の間に介在して、両シール面30,43を密着させている。
【0033】
第5実施形態に係るシール構造によれば、構成部品の凹凸形状を有する面を硬質炭素皮膜で被覆することで、この面をシール面とすることができ、安定したシール性能を得ることができる。
【0034】
また、硬質炭素皮膜はシール材との密着性が優れるため、密着性に優れたシール構造を実現できる。
【0035】
なお、硬質炭素皮膜は、かならずしも基材の全てを覆う必要はないため、シール材と密着する部位を含む範囲を覆っていればよく、例えば、凹凸形状を有する部位のみに形成してもよい。
【0036】
一般に、シール材と密着する被着体の表面は、濡れ性が高いほど優れた密着性を発揮する。硬質炭素皮膜の濡れ性について、硬質炭素皮膜を成膜した金属表面の臨界表面張力を、金メッキを施した金属表面の臨界表面張力と比較して評価した。臨界表面張力とは、表面張力γLが既知の複数の同系列液体を用いて、液滴が固体表面となす接触角θをそれぞれ測定し、そのcosθ対γLをプロット(Zisman Plot)したとき、cosθ=1を与えるγLの外挿値γCをいう。固体表面の臨界表面張力γCよりも液体の表面張力γLが大きければ、液体は、固体表面上でその滴形を保ち、逆に、それよりも小さければ、液体は、固体表面上を広がってよく濡れる。すなわち固体表面は、臨界表面張力が高いほど濡れやすい。硬質炭素皮膜を成膜した金属表面の臨界表面張力と金メッキを施した金属表面の臨界表面張力とを上記手法で測定し、前者を後者で除することにより、両表面の臨界表面張力の比を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1より、硬質炭素皮膜を成膜した金属表面が、金メッキを施した金属表面に比して、約1.3倍の臨界表面張力を有しており、硬質炭素皮膜がシール材に対してより高い濡れ性を有していることがわかる。
【0039】
図9〜図16は、本発明の第6〜第8実施形態に係るシール構造に関する。これらの実施形態は、硬質炭素皮膜が形成されたシール面に、溝部が形成されている点において、上述の実施形態と異なる。
【0040】
<第6実施形態>
図9は、本発明の第6実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【0041】
第4実施形態に係るシール構造は、第1実施形態と同様に、第1構成部品51と第2構成部品52の間をシール材55で密着させるが、第1構成部品51および第2構成部品52の硬質炭素皮膜53,54にクラック56が形成される点で、第1実施形態と異なる。
【0042】
クラック56は、各々の硬質炭素皮膜53,54に形成されるが、一方の硬質炭素皮膜のみに形成される構成としてもよい。クラック56は、第1構成部品51および第2構成部品52の基材4,5にまで到達しても、または到達しなくてもよい。
【0043】
第6実施形態に係るシール構造によれば、硬質炭素皮膜53,54にクラック56が形成されているため、シール材55と硬質炭素皮膜53,54の間の接触面積の増加およびアンカー効果によって密着性がさらに向上し、より安定したシール性能を得ることができる。
【0044】
<第7実施形態>
図10は、本発明の第7実施形態に係るシール構造を示す断面図、図11は、硬質炭素皮膜にクラックを生じさせる工程を示す工程図である。
【0045】
図10に示すように、第7実施形態に係るシール構造は、凹部63,64を有する第1構成部品61と第2構成部品62の硬質炭素皮膜66,67に、第6実施形態と同様にクラック68が形成される。
【0046】
第7実施形態に係るシール構造は、互いに対峙する凹部63,64同士の間に、シール材65が設けられる。第1構成部品61および第2構成部品62は、各々の基材69,70の対峙する面を硬質炭素皮膜66,67で被覆しており、この硬質炭素皮膜66,67で被覆された凹部63,64の底面が、シール材65と密着するシール面71,72となる。
【0047】
第1構成部品61および第2構成部品62を成形するには、図11に示すように、まず平板形状の板材から所定形状の基材を切り出す(基材加工工程:S1)。次に、基材のシール面となる表面に硬質炭素皮膜形成処理を行う(硬質炭素皮膜形成工程:S2)。次に、少なくともシール面71,72となる面の硬質炭素皮膜に変形を与えるように、最終成形加工を行う(最終成形工程:S3)。最終成形工程S3は、例えば、基材に流路等の形状を成形するプレス加工により行われる。プレス加工を用いれば、硬質炭素皮膜に引張りまたは圧縮する力を作用させて、シール面に形成された硬質炭素皮膜にクラックを形成させることができる。
【0048】
第7実施形態に係るシール構造によれば、構成部品の凹凸形状に硬質炭素皮膜66,67を被覆することでシール面71,72とすることができ、安定したシール性能を得ることができる。更に、硬質炭素皮膜66,67にクラック68を形成することで、シール材65と硬質炭素皮膜66,67の間の接触面積が増加し、かつアンカー効果も生じるため、密着性が向上して安定したシール性能を得ることができる。
【0049】
なお、上述のように凹部63,64同士の間にシール材65を設けるのではなく、凸部と凹部、凸部同士等、変形によりクラックを生じさせることが可能な部位をシール面とするのであれば、他の構成とすることもできる。
【0050】
また、上記シール面形成方法は、構成部品に他の部品と密着させるためのシール面を形成するシール面形成方法であって、素材のシール面となる面に予め硬質炭素皮膜を形成した後、少なくとも前記硬質炭素皮膜が形成された面を変形させることで、前記硬質炭素皮膜にクラックを発生させてシール面を形成する。このシール面形成方法は、硬質炭素皮膜を形成した面を意図的に変形させることで、硬質炭素皮膜にクラックを発生させてシール面とするため、シール面となる面の所望の部位にクラックを生じさせて、当該部位のシール材との密着性を向上させることができる。したがって、シール面をシール材で密着させる際、硬質炭素皮膜により覆われる基材のシール材に対する密着性を考慮する必要がなくなり、シール材の種類を減らしてコストを低減できる。
【0051】
<第8実施形態>
図12は、第8実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
第8実施形態に係るシール構造は、第1実施形態と同様に、第1構成部品73と第2構成部品74の間をシール材79で密着させるものであるが、第1構成部品73および第2構成部品74が、各々、基材4,5および硬質炭素皮膜77,78に加えて、それらの間に介在する中間層75、76を備えており、該中間層75、76が、柱状結晶構造を有しており、その結晶の間に、前記溝部を構成する隙間80が形成されている点で、上述の実施形態と異なる。
【0052】
なお、本実施形態では、図12に示すように、隙間80が、第1構成部品73および第2構成部品74の双方のシール面に形成されているが、一方のシール面のみに形成される構成としてもよい。
【0053】
以下、図13〜図16に基づき、第2構成部品74の構成について説明する。なお、第1構成部品73の構成は、第2構成部品74のそれと同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0054】
図13は、図12のXIII部の拡大図である。図13に示すように、第8実施形態にかかるシール構造では、第2構成部品74は、基材5と、第2構成部品74の最表面に形成された硬質炭素皮膜78と、それらの間に介在する柱状結晶構造を有する中間層76と、当該結晶間の隙間80と、を備える。
【0055】
中間層76は、基材5と硬質炭素皮膜78との密着性を向上させるという機能や、基材5からのイオンの溶出を防止するという機能を有する。当該機能は、基材5がアルミニウム又はその合金から構成される場合に、より一層顕著に発現する。
【0056】
中間層76を構成する材料としては、上記密着性を付与するものが好ましい。例えば、周期律表の第4族の金属(Ti、Zr、Hf)、第5族の金属(V、Nb、Ta)、第6族の金属(Cr、Mo、W)、これらの炭化物、窒化物及び炭窒化物などが挙げられる。なかでも好ましくは、クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)もしくはハフニウム(Hf)といったイオン溶出の少ない金属、又はこれらの窒化物、炭化物もしくは炭窒化物が用いられる。より好ましくは、CrもしくはTi、又はこれらの炭化物もしくは窒化物が用いられる。特に、CrもしくはTi、又はこれらの炭化物もしくは窒化物が用いる場合、中間層76の役割として、上側の硬質炭素皮膜78との密着性確保と、下地の基材5の防食効果がある。特に基材5がアルミニウム又はその合金で構成されている場合、界面付近に到達した水分により腐食が進行し、アルミニウムの酸化皮膜の形成が生じる。クロム及びチタン(又はこれらの炭化物もしくは窒化物)は不動態皮膜の形成により、露出部が存在していたとしても、それ自体の溶出は殆ど見られない点において特に有用である。なかでも、上述したイオン溶出の少ない金属(特にCrもしくはTi)又はその炭化物もしくは窒化物を用いた場合、基材5の耐食性を有意に向上させることができる。
【0057】
中間層76の厚さは、特に制限されない。ただし、第2構成部品74をより薄膜化することにより、最終製品のサイズをできるだけ小さくするという観点から、中間層76の厚さは、好ましくは0.01μm〜10μmであり、より好ましくは0.02μm〜5μmであり、さらに好ましくは0.05μm〜5μmであり、特に好ましくは0.1μm〜1μmである。中間層76の厚さが0.01μm以上であれば、均一な層が形成され、基材5の耐食性を効果的に向上させることが可能となる。一方、中間層76の厚さが10μm以下であれば、中間層76の膜応力の上昇が抑えられ、基材5に対する皮膜追従性の低下やこれに伴う剥離・クラックの発生が防止される。
【0058】
中間層76の柱状結晶構造は、中間層76を構成している金属の結晶が、膜厚方向に柱状に成長している構造をいう。中間層76の断面における柱状結晶の平均太さ(中間層76の断面における柱状結晶の柱の太さの平均値をいう。)は、35nm(上限80nm、下限20nm)であることが好ましい。
【0059】
隙間80は、中間層76の柱状結晶間に形成された隙間であり、各々の幅は、特に限定されないが、平面視で、0.1nm〜20nm、長さは、0.01μm〜10μmの範囲にあることが好ましい。また、隙間80は、中間層76の表面に多数かつ一様に分布していることが好ましい。隙間80の深さは、特に制限されないが、アンカー効果を増大させる観点から、中間層76の厚さの範囲内で、できる限り大きくすることが好ましい。
【0060】
なお、図13では、隙間80の幅が、膜厚方向において最表面側端部から基材側端部に至るまで一定であるように示されているが、図13は、柱状結晶の形状を模式的に表した図であり、隙間80には、基材側から最表面側に向けて隙間の幅が拡がるものや、最表面側から基材側に向けて隙間の幅が拡がるもの、更には、最表面側端部から基材側端部に至るまで隙間の幅が不規則に変化するものも含まれる。また、図13では、隙間80を挟んで隣り合う柱状結晶同士は、互いに接触していないように示されているが、隙間80を挟んで隣り合う柱状結晶には、その最表面側端部から基材側端部に至るまでの側面の一箇所又は複数箇所において互いに接触して、一体となっているものも含まれる。局所的には、隙間80は、中間層76の層内で、3次元の隙間のネットワークを形成するように分布している。
【0061】
なお、第2構成部品74の最表面に形成された硬質炭素皮膜78は、50nm〜100nmの径をもつ粒子78aから構成されている。また、硬質炭素皮膜78は、中間層76の最表面において十分大きな幅を有する隙間80の上には形成されない。当該硬質炭素皮膜78が不在となる部分と、前記隙間80とで、前記溝部が構成される。
【0062】
柱状結晶構造を有する中間層76及び硬質炭素皮膜78の成膜方法について、以下に述べる。
【0063】
まず、基材5の構成材料として、所望の厚さのアルミニウム板、又はその合金板、チタン板、ステンレス板などを準備する。次いで、適当な溶媒を用いて、準備した基材5の構成材料の表面の脱脂及び洗浄処理を行う。溶媒としては、エタノール、エーテル、アセトン、イソプロピルアルコール、トリクロロエチレン及び苛性アルカリ剤などを用いることができる。脱脂及び洗浄処理としては、超音波洗浄などが挙げられる。超音波洗浄の条件としては、処理時間が1〜10分間程度、周波数が30〜50kHz程度、及び電力が30〜50W程度である。
【0064】
続いて、基材5の構成材料の表面に形成されている酸化皮膜の除去を行う。酸化皮膜を除去するための手法としては、酸による洗浄処理、電位印加による溶解処理、又はイオンボンバード処理などが挙げられる。その他、アルカリ浸漬洗浄、アルカリによる酸化皮膜除去(アルカリエッチング)、ふっ酸混酸液による表面活性化を行い、その後亜鉛置換浴にてジンケート処理を行う方法が好ましく使用される。ジンケート処理条件は、特に制限されないが、例えば、浴温度10〜40℃、浸漬時間20〜90秒である。なお、上記酸化皮膜の除去工程は省略されても良い。
【0065】
次に、上記の処理を施した基材5の構成材料の表面に、中間層76及び硬質炭素皮膜78を順に成膜する。例えば、まず、上述した中間層76の構成材料(例えば、クロム)をターゲットとして、基材5(例えば、アルミニウムやその合金)の表面上に、後述するバイアス電圧で、クロム中間層76を積層する。次に、硬質炭素皮膜78の構成材料(例えば、グラファイト)を順にターゲットとして、中間層76表面上に、炭素を含む層を原子レベルで積層する。これにより、中間層76、硬質炭素皮膜78を順次形成することができる。さらに、直接付着した硬質炭素皮膜78と中間層76と基材5との界面及びその近傍は、分子間力や僅かな炭素原子の進入によって、長期間にわたって密着性が保持される。
【0066】
中間層76及び硬質炭素皮膜78を積層するのに好適に用いられる手法としては、スパッタリング法もしくはイオンプレーティング法などの物理気相成長(PVD)法、又はフィルタードカソーディックバキュームアーク(FCVA)法などのイオンビーム蒸着法などが挙げられる。スパッタリング法としては、マグネトロンスパッタリング法、アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法、デュアルマグネトロンスパッタ法、ECRスパッタリング法などが挙げられる。また、イオンプレーティング法としては、アークイオンプレーティング法などが挙げられる。なかでも、スパッタリング法及びイオンプレーティング法を用いることが好ましく、スパッタリング法を用いることが特に好ましい。このような手法によれば、水素含有量の少ない炭素層を形成することができる。その結果、炭素原子同士の結合(sp2混成炭素)の割合を増加させることができ、硬質炭素皮膜に導電性が要求される場合には、優れた導電性を達成できるので有用である。これに加えて、比較的低温で成膜が可能であり、基材5へのダメージを最小限に抑えることができるという利点もある。さらに、スパッタリング法によれば、バイアス電圧等を制御することで、上記柱状結晶構造を有する中間層76を得ることができる。
【0067】
中間層76及び硬質炭素皮膜78の成膜をスパッタリング法により行う場合には、スパッタリング時に基材5に対して負のバイアス電圧を印加すると良い。このような形態によれば、イオン照射効果によって、上記柱状結晶構造を有する中間層76やグラファイトクラスターが緻密に集合した硬質炭素皮膜78が成膜される。このような中間層76は基材5の防食効果を高めることができ、アルミニウムのような腐食しやすい金属でも、基材5として適用できる。さらに、構成部品74を導電部材として適用する場合は、硬質炭素皮膜78が優れた導電性を発揮することから、他の導電性部材との接触抵抗をより小さくできるという点で有利である。
【0068】
当該形態において、印加される負のバイアス電圧の絶対値は特に制限されず、硬質炭素皮膜78を成膜可能な電圧が採用される。印加される電圧の大きさは、好ましくは50〜500Vであり、より好ましくは100〜300Vである。本実施形態では、中間層76は、基材5との界面の粗さを悪くしないように低いバイアス電圧(0V超であれば良く、0V超〜50V)で成膜する。最適な柱状結晶構造は、予備実験等を通じて制御することができる。
【0069】
なお、成膜時のその他の条件は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照される。また、UBMS法により硬質炭素皮膜78を成膜する場合には、予め同様の装置及び製法で中間層76を形成しておき、その上に硬質炭素皮膜78を形成することが好ましい。これにより、基材5との密着性に優れる中間層76及び硬質炭素皮膜78が形成される。ただし、他の手法や装置によって中間層76を形成し、異なる装置や製法にて硬質炭素皮膜78を成膜するようにしても良い。この場合であっても、基材5との密着性に優れる中間層76及び硬質炭素皮膜78が形成される。
【0070】
上述した手法によれば、基材5の一方の表面に中間層76及び硬質炭素皮膜78が形成される。基材5の両面に中間層76及び硬質炭素皮膜78が形成するには、基材5の他方の表面に対して、同様の手法によって、中間層76及び硬質炭素皮膜78を形成すれば良い。また、上述したのと同様の手法によれば、基材5の両表面に一度に中間層76及び硬質炭素皮膜78が形成された構成部品74が製造される。基材5の両面に中間層76及び硬質炭素皮膜78を形成するには、市販の成膜装置(両面同時スパッタ成膜装置)を用いても良い。また、コスト的には有利とはいえないが、基材5の一方の表面に中間層76及び硬質炭素皮膜78を成膜し、ついで基材5の他方の面に中間層76及び硬質炭素皮膜78を順次形成しても良い。あるいは、まず、クロムをターゲットとした装置内で、基材5の一方の面に中間層76を成膜し、続いて、他方の面に中間層76を成膜する。その後、ターゲットをカーボンに切り替えて、一方の面に形成された中間層76上に硬質炭素皮膜78を成膜し、続いて、他方の面に硬質炭素皮膜78を成膜する。このように、基材5の両表面へ中間層76及び硬質炭素皮膜78を成膜する場合でも、一表面へ成膜するのと同様の手法が採用される。
【0071】
上記方法により、基材5の表面に中間層76及び硬質炭素皮膜78を成膜した。図14〜図16は、成膜後の基材5の表面を観察したTEM写真およびSEM写真である。
【0072】
ここで、基材5の材料として、アルミニウム板(アルミA1050)を準備した。アルミニウム板の厚さは200μmである。このアルミニウム板を用い、前処理としてエタノール液中で3分間超音波洗浄した後、さらに真空チャンバに該基材5を設置し、Arガスによるイオンボンバード処理を行い、表面の酸化皮膜を除去した。
【0073】
次に、アンバランスドマグネトロンスパッタリング法により、Crをターゲットとして使用し、負のバイアス電圧を50V印加しながら、基材5の両面に膜厚1μmのCr層を形成させた。なお、当該Cr層のみが中間層76となる。
【0074】
さらに、この中間層76上に、UBMS法により、固体グラファイトをターゲットとして使用し、アルミニウム板に対して140Vの大きさの負のバイアス電圧を印加しながら、アルミニウム板の両面のCr層(中間層76)の上に、それぞれ0.2μmの厚さの硬質炭素皮膜78を成膜した。
【0075】
図14から、最表面に50〜100nmの径の微小粒子78aが存在し、それらの間に幅20nm、長さ1μm程度の隙間80が形成されている様子が確認できる。
【0076】
また、図15および図16により、中間層76の断面における柱状結晶の平均太さ(中間層76の断面における柱状結晶の柱の太さの平均値をいう。)が35nm(上限80nm、下限20nm)であり、およびそれらの間に形成された隙間の幅が50nmであることが確認できる。さらに、Cr中間層76の膜厚が0.02μm〜5μmの範囲であることも確認できる。
【0077】
第8実施形態に係るシール構造によれば、上記第1〜第6実施形態と同様、構成部品73、74の最表面に硬質炭素皮膜77、78が形成されていることにより、シール面におけるシール材の濡れ性が向上する。さらに、第8実施形態に係るシール構造によれば、中間層75、76の柱状結晶間に形成された隙間80により、シール材79と構成部品73、74(具体的には、硬質炭素皮膜77、78、および中間層75、76)との接触面積が増加するとともに、アンカー効果も生じる。隙間80の幅は、上述のごとく膜厚方向に不規則に変化しているため、アンカー効果は更に強化されている。このため、シール面におけるシール材の密着性が更に向上して、より安定したシール性能を得ることができる。
【0078】
本実施形態におけるシール材の密着性を評価すべく、日本工業規格(JIS−K−6850)に定められた方法に従って、本実施形態に係るシール構造の接着強さ試験を行った。試験は、被着体として、ステンレス製の板の表面に本実施形態にかかるCr中間層および硬質炭素皮膜を成膜したもの(実施例1、2)と、同じくステンレス製の板の表面に直接、すなわち中間層を設けずに、金メッキを施したもの(比較例)と、を用いた。また、接着剤としては、オレフィン系接着剤とシリコーン系接着剤とを用いた。各試験片の破断時の最大荷重は、各試験片の接着強度に比例する。各実施例の破断時の最大荷重を比較例の破断時の最大荷重で除することにより、比較例の接着強度に対する各実施例の接着強度の比を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2において、「柱状結晶太さ」とは、中間層の断面における柱状結晶の柱の太さの平均値をいう。表2より、実施例1,2が比較例に比して1.3〜1.5倍の接着強度を有しており、本実施形態に係るシール構造がより優れた密着性を発揮することがわかる。
【0081】
<第9実施形態>
図17は、本発明の第9実施形態に係る燃料電池のシール構造を示す断面図である。
【0082】
第9実施形態に係るシール構造は、固体高分子形燃料電池(PEFC)に適用される。
【0083】
燃料電池90は、図17に示すように、一組のシート状のセパレータ95(図面の方に95の記載無し)とシート状の膜電極接合体96とを積層した燃料電池の一単位である単セル94が、複数積層された積層体からなるスタック型燃料電池である。なお、積層体の積層数は、特に限定されず、単一の単セル94のみであっても、単セル94を複数積層した燃料電池スタックであってもよい。
【0084】
セパレータ95a,95cは、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図17に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ95a,95cのMEA側から見た凸部は膜電極接合体96と接触している。これにより、膜電極接合体96との電気的な接続が確保される。また、セパレータ95a,95cのMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、燃料電池90の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ95aのガス流路96aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ95cのガス流路96cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
【0085】
燃料電池90は、まず、固体高分子電解質膜97と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層98aおよびカソード触媒層98c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜97と触媒層98a,98cとの積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層99aおよびカソードガス拡散層99c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜97、一対の触媒層98a,98cおよび一対のガス拡散層99a,99cは、積層された状態で縁部に電解質膜支持部100が接合されて、膜電極接合体(MEA)96を構成する。電解質膜支持部100は、例えば熱硬化性樹脂により形成される。
【0086】
燃料電池90において、膜電極接合体96はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ95aおよびカソードセパレータ95c)により挟持されている。燃料電池スタックにおいて膜電極接合体96は、セパレータ95を介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。
【0087】
一方、セパレータ95a,95cのMEA側とは反対の側から見た凹部は、燃料電池90の運転時に燃料電池を冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路101とされる。さらに、セパレータ95には通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
【0088】
セパレータ95a,95cを構成する導電部材は、金属基材層102(基材)と、金属基材層102の両面に形成される導電性炭素層103(硬質炭素皮膜)とを有する。なお、金属基材層102と導電性炭素層103の間に、上述のごとく、他の材料からなる中間層が介在されてもよい。
【0089】
セパレータ95と電解質膜支持部100(膜電極接合体96の一部)は、第1シール材104により密着され、互いに重なるセパレータ95a,95c同士は、縁部において第2シール材105により密着される。また、互いに重なる電解質膜支持部100同士は、縁部において第3シール材106により密着される。
【0090】
以下、固体高分子形燃料電池の構成要素について説明する。
【0091】
[金属基材層]
金属基材層102は、セパレータ95を構成する導電部材の主層であり、導電性および機械的強度の確保に寄与する。
【0092】
金属基材層102を構成する金属について特に制限はなく、従来、金属セパレータの構成材料として用いられているものが適宜用いられうる。金属基材層の構成材料としては、例えば、鉄、チタン、およびアルミニウム並びにこれらの合金が挙げられる。これらの材料は、機械的強度、汎用性、コストパフォーマンスまたは加工容易性などの観点から好ましく用いられうる。ここで、鉄合金にはステンレスが含まれる。なかでも、金属基材層はステンレス、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されることが好ましい。さらに、特にステンレスを金属基材層として用いると、ガス拡散層の構成材料であるガス拡散基材との接触面の導電性が十分に確保されうる。その結果、たとえリブ肩部の膜の隙間などに水分が浸入したとしても、ステンレスから構成される金属基材層自体に生じる酸化皮膜の有する耐食性により、耐久性が維持されうる。
【0093】
金属基材層102の厚さは、特に限定されない。加工容易性および機械的強度、並びにセパレータ自体を薄膜化することによる電池のエネルギー密度の向上等の観点より、好ましくは50〜500μmであり、より好ましくは80〜300μmであり、さらに好ましくは80〜200μmである。特に、構成材料としてステンレスを用いた場合の金属基材層102の厚さは、好ましくは80〜150μmである。一方、構成材料としてアルミニウムを用いた場合の金属基材層102の厚さは、好ましくは100〜300μmである。上記した範囲内の場合、セパレータとして十分な強度を有しながらも、加工容易性に優れ、好適な薄さを達成可能である。
【0094】
[導電性炭素層]
導電性炭素層103は、導電性炭素を含む層である。この層の存在によって、セパレータ95)を構成する導電部材の導電性を確保しつつ、金属基材層102のみの場合と比較して耐食性が改善されるとともに、シール材との密着性を向上させることができる。なお、本実施形態では、導電性炭素層をシール材と密着させる硬質炭素皮膜に適用しているが、硬質炭素皮膜をシール材と接する部位にのみ設けるのであれば、硬質炭素皮膜において導電性は不要であるため、かならずしも導電性を備える必要はない。
【0095】
導電性炭素層103は、ラマン散乱分光分析により測定される、Dバンドピーク強度(ID)とGバンドピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)により規定されることが好ましい。具体的には、強度比R(ID/IG)が1.3以上であることが好ましい。以下、当該構成要件について、より詳細に説明する。
【0096】
炭素材料をラマン分光法により分析すると、通常1350cm−1付近および1584cm−1付近にピークが生じる。結晶性の高いグラファイトは、1584cm−1付近にシングルピークを有し、このピークは通常、「Gバンド」と称される。一方、結晶性が低くなる、つまり結晶構造欠陥が増し、グラファイト構造が乱れるにつれて、1350cm−1付近のピークが現れてくる。このピークは通常、「Dバンド」と称される(なお、ダイヤモンドのピークは厳密には1333cm−1であり、上記Dバンドとは区別される)。Dバンドピーク強度(ID)とGバンドピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)は、炭素材料のグラファイトクラスターサイズやグラファイト構造の乱れ具合(結晶構造欠陥性)、sp2結合比率などの指標として用いられる。すなわち、本発明においては、導電性炭素層103の接触抵抗の指標とすることができ、導電性炭素層103の導電性を制御する膜質パラメータとして用いることができる。
【0097】
R(ID/IG)値は、顕微ラマン分光器を用いて、炭素材料のラマンスペクトルを計測することにより算出される。具体的には、Dバンドと呼ばれる1300〜1400cm−1のピーク強度(ID)と、Gバンドと呼ばれる1500〜1600cm−1のピーク強度(IG)との相対的強度比(ピーク面積比(ID/IG))を算出することにより求められる。
【0098】
上述したように、R値は1.3以上であることが好ましい。また、当該R値は、より好ましくは1.4〜2.0であり、さらに好ましくは1.4〜1.9であり、さらに好ましくは1.5〜1.8である。このR値が1.3以上であれば、積層方向の導電性が十分に確保された導電性炭素層が得られる。また、R値が2.0以下であれば、グラファイト成分の減少を抑制することができる。さらに、導電性炭素層自体の内部応力の増大をも抑制でき、下地である金属基材層(中間層が存在する場合には中間層)との密着性を一層向上させることができる。
【0099】
なお、本実施形態では導電性炭素層103は、実質的に多結晶グラファイトのみから構成されてもよいし、多結晶グラファイトのみから構成されてもよいが、導電性炭素層103は多結晶グラファイト以外の材料をも含みうる。導電性炭素層103に含まれうる多結晶グラファイト以外の炭素材料としては、グラファイトブロック(高結晶性グラファイト)、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリルなどが挙げられる。また、カーボンブラックの具体例として、以下に制限されることはないが、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラックもしくはサーマルブラックなどが挙げられる。なお、カーボンブラックは、グラファイト化処理が施されていてもよい。また、これらの炭素材料を、ポリエステル系樹脂、アラミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂のような樹脂と複合化させて用いても良い。また、導電性炭素層103に含まれうる炭素材料以外の材料としては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)等の貴金属;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水性物質;導電性酸化物などが挙げられる。多結晶グラファイト以外の材料は、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0100】
導電性炭素層103の厚さは、特に制限されない。ただし、好ましくは1〜1000nmであり、より好ましくは2〜500nmであり、さらに好ましくは5〜200nmである。導電性炭素層の厚さがかような範囲内の値であれば、ガス拡散基材とセパレータとの間に十分な導電性を確保することができる。また、金属基材層に対して高い耐食機能を持たせることができるという有利な効果を奏しうる。
【0101】
なお、本実施形態では、導電性炭素層103のビッカース硬度が規定される。「ビッカース硬度(Hv)」とは、物質の硬さを規定する値であり、物質に固有の値である。本明細書において、ビッカース硬度は、ナノインデンテーション法により測定された値を意味する。ナノインデンテーション法とは、サンプル表面に対して超微小な荷重でダイヤモンド圧子を連続的に負荷及び除荷し、得られた荷重−変位曲線から硬さを測定するという手法であり、Hvが大きいほどその物質は硬いことを意味する。本実施形態において、導電性炭素層103のビッカース硬度は、好ましくは1500Hv以下であり、より好ましくは1200Hv以下であり、さらに好ましくは1000Hv以下であり、特に好ましくは800Hv以下である。ビッカース硬度がこのような範囲内の値であれば、導電性を有しないsp3炭素の過剰な混入が抑制され、導電性炭素層103の導電性の低下を防止することができる。一方、ビッカース硬度の下限値について特に制限はないが、ビッカース硬度が50Hv以上であれば、導電性炭素層103の硬度が十分に確保される。その結果、外部からの接触や摩擦等の衝撃にも耐えることができ、下地である金属基材102との密着性にも優れた導電部材(セパレータ95)を提供することができる。更には第8実施形態のように中間層を設ける態様では、導電性炭素層103と中間層とをより強固に密着させることができ、優れた導電部材を提供することができる。このような観点から、導電性炭素層103のビッカース硬度は、より好ましくは80Hv以上であり、さらに好ましくは100Hv以上であり、特に好ましくは200Hv以上である。なお、本明細書における硬質炭素皮膜のビッカース硬度は、上記範囲に含まれることが好ましい。
【0102】
(導電部材の製造方法)
上述した導電部材を製造する方法は、特に制限はなく、従来公知の手法を適宜参照することにより製造することが可能である。以下、導電部材を製造するための一例を示す。また、セパレータ95を構成する導電部材の各構成要素の材質などの諸条件については、上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0103】
まず、金属基材層の構成材料として、所望の厚さのステンレス板などを準備し、次いで、適当な溶媒を用いて、準備した金属基材層の構成材料の表面の脱脂および洗浄処理を行い、続いて、金属基材層の構成材料の表面(両面)に形成されている酸化皮膜の除去を行い、その後、上記処理を施した金属基材層の構成材料の表面に、導電性炭素層を成膜する。これらの工程の詳細、および導電性炭素を積層(成膜)するのに好適に用いられる手法については、既に第8実施形態のところで詳しく述べたので、ここでは説明を省略する。
【0104】
導電性炭素層の成膜をスパッタリング法により行う場合には、スパッタリング時に金属基材層に対して負のバイアス電圧を印加するとよい。かような形態によれば、イオン照射効果によって、グラファイトクラスターが緻密に集合した構造の導電性炭素層が成膜されうる。このような導電性炭素層は優れた導電性を発揮しうることから、他の部材(例えば、MEA)との接触抵抗の小さい導電部材(セパレータ)が提供されうる。当該形態において、印加される負のバイアス電圧の大きさ(絶対値)は特に制限されず、導電性炭素層を成膜可能な電圧が採用されうる。一例として、印加される電圧の大きさは、好ましくは50〜500Vであり、より好ましくは100〜300Vである。なお、成膜時のその他の条件等の具体的な形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。また、UBMS法により導電性炭素層103を成膜する場合には、予め中間層を形成しておき、その上に導電性炭素層を形成することが好ましい。これにより、下地層との密着性に優れる導電性炭素層が形成されうる。ただし、他の手法によって導電性炭素層を形成する場合には、中間層が存在しない場合であっても、金属基材層との密着性に優れる導電性炭素層が形成されうる。
【0105】
[電解質層]
電解質層は、例えば、固体高分子電解質膜97から構成される。この固体高分子電解質膜97は、燃料電池の運転時にアノード触媒層98aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層98cへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜97は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
【0106】
固体高分子電解質膜97は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質膜と炭化水素系高分子電解質膜とに大別される。フッ素系高分子電解質膜を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能を向上させるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質膜が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜が用いられる。
【0107】
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、アルキルスルホン化ポリベンズイミダゾール、アルキルホスホン化ポリベンズイミダゾール、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質膜が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
【0108】
電解質層の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質層の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質層の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性及び使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
【0109】
[触媒層]
触媒層(アノード触媒層98a,カソード触媒層98c)は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層98aでは水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層98cでは酸素の還元反応が進行する。
【0110】
触媒層は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体、および電解質を含む。以下、触媒担体に触媒成分が担持されてなる複合体を「電極触媒」とも称する。
【0111】
アノード触媒層に用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層に用いられる触媒成分もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
【0112】
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒成分およびカソード触媒層に用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義である。よって、一括して「触媒成分」と称する。しかしながら、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
【0113】
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。ただし、触媒成分の形状は、粒状であることが好ましい。この際、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nmである。触媒粒子の平均粒子径がかような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御されうる。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過形電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として測定されうる。
【0114】
触媒担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、および触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。
【0115】
触媒担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであることが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
【0116】
触媒担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m2/g、より好ましくは80〜1200m2/gである。触媒担体の比表面積がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御されうる。
【0117】
触媒担体のサイズについても特に限定されないが、担持の簡便さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径を5〜200nm程度、好ましくは10〜100nm程度とするとよい。
【0118】
触媒担体に触媒成分が担持されてなる電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。触媒成分の担持量がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御されうる。なお、電極触媒における触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって測定されうる。
【0119】
触媒層には、電極触媒に加えて、イオン伝導性の高分子電解質が含まれる。当該高分子電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、上述した電解質層を構成するイオン交換樹脂が、高分子電解質として触媒層に添加されうる。
【0120】
[ガス拡散層]
ガス拡散層(アノードガス拡散層99a,カソードガス拡散層99c)は、セパレータのガス流路96a,96cを介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層98a,98cへの拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
【0121】
ガス拡散層99a,99cの基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
【0122】
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0123】
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
【0124】
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒子径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0125】
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
【0126】
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、質量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
【0127】
[シール材]
シール材は、特に限定されないが、例えば、熱硬化性樹脂を適用できる。熱硬化性樹脂には、例えばオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂または不飽和ポリエステル等が使用できる。
【0128】
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0129】
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
【0130】
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して膜電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
【0131】
第9実施形態に係るシール構造は、セパレータ95に導電性炭素層103(硬質炭素皮膜)が形成されているため、第1シール材104は硬質炭素皮膜と樹脂材(電解質膜支持部)の間、第2シール材105は硬質炭素皮膜同士、第3シール材106は樹脂材同士を密着させている。通常、複数の異なる材料からなる構成部品同士を密着させる際には、材料の表面性質の異差から、密着部位毎に密着性(シール性)に異差が生じる。しかし、本実施形態では、少なくともセパレータ95に、通常、樹脂材よりもシール材との密着性が高い導電性炭素層103(硬質炭素皮膜)が形成されているため、第1〜第3シール材104,105,106に同一のシール材料を適用しても、シール材104,105,106において高い密着性を実現できる。すなわち、硬質炭素皮膜が形成されない電解質膜支持部90の材料に合わせてシール材料を選択することで、第1〜第3シール材104,105,106に同一のシール材料を適用しても、全てのシール材104,105,106において高い密着性を実現できる。
【0132】
また、セパレータ95の硬質炭素皮膜に導電性炭素層103を用いることで、セパレータ95の耐食性、導電性を確保できるため、シール材104,105との密着性向上のためのみに硬質炭素皮膜を形成する必要がない。
【0133】
なお、図17に示す形態の燃料電池90において、セパレータ95は、平板状の導電部材(基材)に対してプレス加工を施すことで凹凸状に成形されている。したがって、予め硬質炭素皮膜を形成したセパレータ基材をプレス加工することで、第7実施形態(図10参照)と同様にシール面にクラックを形成し、表面積の増加およびアンカー効果により、シール材104,105との密着性をさらに向上させてもよい。
【0134】
<第10実施形態>
図18は、本発明の第10実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)のシール構造を示す断面図である。
【0135】
第10実施形態に係る燃料電池109は、第9実施形態に係る燃料電池90と略同様の構成を有しており、電解質膜支持部107に硬質炭素皮膜108が形成されている構成のみが異なる。なお、電解質膜支持部107には導電性は不要であるため、非導電性の硬質炭素皮膜108を形成することが望ましい。
【0136】
第10実施形態に係るシール構造によれば、第1〜第3シール材104,105,106の全てが、硬質炭素皮膜同士を密着させている。したがって、第1〜第3シール材104,105,106に同一のシール材料を適用して、硬質炭素皮膜に覆われる基材の材料にかかわらず、全てのシール材において高い密着性を実現できる。
【0137】
<第11実施形態>
図19は、第11実施形態に係る燃料電池用セパレータの斜視図、図20は、図19のXX-XX線に沿う断面図、図21は、接触抵抗を示すグラフである。
【0138】
図19および図20に示すように、燃料電池用セパレータ110は、扁平形状の基材111を有する。基材111は、基材111の面方向に広がる面113(一の面)と、面113の外周縁から基材111の厚さ方向に延設された外周端面114と、を有する。面113には、燃料ガス、酸化剤ガス、または冷却水をそれぞれ流通させるためのマニホールド開口115と、該マニホールド開口115に連通する流路を形成するための流路溝112と、が形成されている。燃料ガスは、例えば、水素、メタノールである。酸化剤ガスは、例えば、空気である。
【0139】
流路溝112の表面は、導電性の導電性硬質炭素皮膜120によって覆われている。本実施形態では、面113のアクティブエリア116が、導電性硬質炭素皮膜120によって覆われている。アクティブエリア116とは、面113上の流路溝112を含む領域であって、セパレータ110と膜電極接合体(不図示)とを積層したときに、膜電極接合体において電気化学的反応が進行する領域と対向接触する領域をいう。
【0140】
セパレータ110はさらに、絶縁性の絶縁性硬質炭素皮膜130を有する。絶縁性硬質炭素皮膜130は、基材111の外周端面114と、面113の導電性硬質炭素皮膜120で覆われた領域の周囲の領域と、を覆っている。面113上には、導電性硬質炭素皮膜120で覆われた領域を囲むように、シール材140が配設されており、絶縁性硬質炭素皮膜130は、外周端面114と、面113の外周縁からシール材140までの範囲と、を覆っている。導電性硬質炭素皮膜120は、その面方向における外周縁部において、シール材140に接している。なお、シール材140は、面113上において、流路溝112および該流路溝112に連通するマニホールド開口115の周囲と、その他のマニホールド開口115の周囲と、をそれぞれ囲むように配置されている。
【0141】
基材111は金属製であり、導電性および機械的強度の確保に寄与する。基材111を構成する金属について特に制限はなく、公知のものを適宜用いることができる。基材111の構成材料としては、例えば、鉄、チタン、およびアルミニウムならびにこれらの合金が挙げられる。
【0142】
導電性硬質炭素皮膜120は、導電性炭素を含む皮膜である。導電性硬質炭素皮膜120は、ラマン散乱分光分析により測定される、Dバンドピーク強度(ID)とGバンドピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)によって規定される。本実施形態においては、強度比R(ID/IG)が1.3以上である。
また、好ましい実施形態において、当該Rは、好ましくは1.4〜2.0であり、より好ましくは1.4〜1.9であり、さらに好ましくは1.5〜1.8である。このR値が1.3以上であれば、積層方向の導電性が十分に確保された導電性硬質炭素皮膜120が得られる。また、R値が2.0以下であれば、グラファイト成分の減少を抑制することができる。さらに、導電性硬質炭素皮膜120自体の内部応力の増大をも抑制でき、下地である基材111との密着性を一層向上できる。
【0143】
導電性硬質炭素皮膜120は、多結晶グラファイトの構造を有する。「多結晶グラファイト」とは、微視的にはグラフェン面(六角網面)が積層した異方性のグラファイト結晶構造(グラファイトクラスター)を有するが、巨視的には多数の当該グラファイト構造が集合した等方性結晶体である。したがって、多結晶グラファイトは、ダイヤモンド様カーボン(DLC;Diamond−Like Carbon)の1種であるということもできる。
【0144】
導電性硬質炭素皮膜120は多結晶グラファイトのみから構成されてもよいが、導電性硬質炭素皮膜120は多結晶グラファイト以外の材料をも含みうる。導電性硬質炭素皮膜120に含まれうる多結晶グラファイト以外の炭素材料としては、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリルなどが挙げられる。
【0145】
絶縁性硬質炭素皮膜130は、絶縁性炭素を含む炭素皮膜であり、絶縁性に優れる。絶縁性硬質炭素皮膜130は、例えばダイヤモンド状の結晶構造を有する炭素皮膜、または水素を含む炭素皮膜である。絶縁性炭素層130の厚さは、特に制限されない。ただし、好ましくは1〜1000nmであり、より好ましくは2〜500nmであり、さらに好ましくは5〜200nmである。絶縁性炭素層の厚さがこの範囲内の値であれば、十分な絶縁性を確保することができる。また、金属基材層に対してさらに高い耐食性を与えるという有利な効果を奏しうる。
図21は、接触面圧を1MPaとした条件下での硬質炭素皮膜の接触抵抗を示すグラフである。図21に示すように、酸洗処理によって生成した酸化皮膜の接触抵抗が100〜1000mΩ・cm2であるのに対し、絶縁性硬質炭素皮膜130の接触抵抗は、5000〜11000mΩ・cm2であり、絶縁性硬質炭素皮膜130は酸化皮膜に比べて、優れた絶縁性を有する。なお、導電性硬質炭素皮膜120の接触抵抗は、20mΩ・cm2以下である。
【0146】
燃料電池用セパレータは単セル同士を電気的に接続するとともに、燃料電池スタック内に燃料ガスまたは酸化剤ガスを流す機能を果たす。このため燃料電池用セパレータは、導電性および耐食性の双方で優れていることが好ましい。
しかし、従来の燃料電池用セパレータでは、セパレータが冷却水によって冷却されているとき、外周部分に外気が触れて結露が生じる場合があり、セパレータと他の機器または他の物品とが、結露による水を介して電気的に接続する虞があった。また、セパレータを流れる水、または燃料電池スタック内で生成された水等がセパレータの外周部に付着したときも同様であった。特に、構成上、セパレータの外周部分は他の機器等に接触し易く、付着した水を介しての電気的接続、または直接接触することによる電気的接続が生じる虞があった。
外周部分の表面に不動態皮膜を形成した場合、一応の絶縁性を得ることができるが、図21を用いて説明した通り、その絶縁性は十分でなかった。
【0147】
第11実施形態のセパレータ110では、例えば酸化皮膜に比べて優れた絶縁性を示す絶縁性硬質炭素皮膜130が、基材111の外周端面114を覆っている。このため、セパレータ110は、セパレータ110の外周部分に水が付着したとき等でも、絶縁性硬質炭素皮膜130によって他の物品または機器等との電気的接続を阻害でき、優れた絶縁性を有する。また、外周部分での絶縁性が良好であるため、例えば絶縁性のカバー等を別途設ける必要がなく、装置の小型化、またはコスト低減を図れる。
【0148】
セパレータ110は、導電性硬質炭素皮膜120を有するため、導電性を確保しつつ、基材111のみの場合と比較して高い耐食性を有する。
【0149】
セパレータ110では、絶縁性硬質炭素皮膜130が、基材111の外周端面114だけでなく、面113における、導電性硬質炭素皮膜120で覆われた領域の周囲の領域をも覆う。本実施形態においては、絶縁性硬質炭素皮膜130は、外周端面114だけでなく、面113の外周縁からシール材140までの領域を覆う。このため、例えば、セパレータ110の外周部分に結露によって生じた水と基材111との、面113を介した電気的接続は防げられるので、絶縁性硬質炭素皮膜130が外周端面114だけを覆う場合に比べ、絶縁性がさらに向上する。
【0150】
<第12実施形態>
図22は、第12実施形態の燃料電池用セパレータの断面図である。
【0151】
図22に示すように、第12実施形態の燃料電池用セパレータ200は、第11実施形態と略同様であるが、絶縁性硬質炭素皮膜230が基材210を覆う範囲が第11実施形態と異なる。
【0152】
セパレータ200では、絶縁性硬質炭素皮膜230が、外周端面213と、面212(一の面)における外周縁からシール材240までの領域と、面212におけるシール材240から導電性硬質炭素皮膜220の外周縁部までの領域と、を覆っている。つまり、導電性硬質炭素皮膜220と絶縁性硬質炭素皮膜230との境界は、シール材240の内側に位置する。
【0153】
このような構成によって、第12実施形態はシール材240の外側だけでなくシール材240の内側においても絶縁性を確保しており、第11実施形態の効果に加え、より絶縁性を向上できるという効果を奏する。
【0154】
<第12実施形態の変形例>
図23は、第12実施形態の変形例に係る燃料電池用セパレータの断面図である。
図23に示すように、絶縁性硬質炭素皮膜230Aで覆われた領域と導電性硬質炭素皮膜220Aで覆われた領域との境界の位置は、セパレータ200Aの両面において、面方向にずれていてもよい。
【0155】
<第13実施形態>
図24は、第13実施形態の燃料電池用セパレータの断面図である。
【0156】
図24に示すように、第13実施形態のセパレータ300は、第11実施形態と略同様であるが、絶縁性硬質炭素皮膜330が基材310を覆う範囲、および導電性硬質炭素皮膜320が基材310を覆う範囲が第11実施形態と異なる。セパレータ300では、絶縁性硬質炭素皮膜330が外周端面313のみを覆い、導電性硬質炭素皮膜320が面312(一の面)全体を覆う。
【0157】
このような構成によって、第13実施形態は、第11実施形態と略同様の効果を奏する。また、第13実施形態では、絶縁性硬質炭素皮膜330が面312を覆わないため、第11実施形態に比べ、絶縁性硬質炭素皮膜330の成膜時間を短縮できる。
【0158】
なお、第11〜第13実施形態では、絶縁性硬質炭素被膜および導電性硬質炭素皮膜を互いに重ならないように形成した例を説明したが、絶縁性硬質炭素被膜は、導電性硬質炭素皮膜の上に重ねて形成されてもよい。例えば、基材111の面113全面に導電性硬質炭素皮膜を成膜した後、絶縁性を要求される範囲について絶縁性硬質炭素被膜130を重ねて形成するようにしてもよい。
【0159】
<燃料電池スタック>
図25は、燃料電池スタックの概略断面図である。
【0160】
図25に示すように、燃料電池スタック500は、発電機能を発揮する複数の単セル502が積層された構造を有する。単セル502は、電気化学的反応を進行させる膜電極接合体501と、膜電極接合体501を挟む一対のセパレータ400と、を有する。セパレータ400は、第11実施形態と同様の構成を有する。なお、セパレータ400は第12実施形態と同様の構成を有していてもよい。
【0161】
燃料電池スタック500は、単セル502同士が接する部分において、セパレータ400同士が互いに重なり合った構成を有する。これら互いに重なるセパレータ400間では、絶縁性硬質炭素皮膜430同士が接している。
【0162】
燃料電池スタック500は、第11実施形態または第12実施形態のセパレータと同様の構成のセパレータ400を有するため、これらと同様の効果を奏する。また、互いに重なるセパレータ400において、絶縁性硬質炭素皮膜430同士が接するため、水の浸入を抑制して燃料電池スタック500の内部と外部との絶縁性を確保できる。
【0163】
<燃料電池セパレータの製造方法>
図26は、燃料電池用セパレータの製造方法を示すフロー図、図27は、基材の積層を説明する断面図、図28は、絶縁性硬質炭素皮膜を成膜したときの断面図である。以下の説明で参照する図面においては、上述した部材を一部簡略化して示す。
【0164】
図26に示すように、燃料電池用セパレータ110の製造方法では、まず基材111を成形する(S11)。その後、基材111を導電性硬質炭素皮膜成膜装置に入れ、導電性硬質炭素皮膜120を成膜する(S12)。次に、基材111を取り出し(S13)、面113に配した緩衝部材を介して基材111を積層する(積層工程:S14)。積層した基材111(積層体)を絶縁性硬質炭素皮膜成膜装置に入れて、絶縁性硬質炭素皮膜を成膜する(絶縁性硬質炭素皮膜成膜工程:S15)。その後、積層体を取り出す(S16)。
【0165】
基材111の成形においては、例えばステンレス鋼またはチタン等の金属製の板材をプレスして、所定形状を有する基材111に成形する。
【0166】
導電性硬質炭素皮膜120の成膜では、前処理としてエタノール中で基材111を超音波洗浄する。その後、真空チャンバ内に基材111を設置し、Arガスによるイオンボンバード処理を実施して、表面酸化皮膜、および不純物を除去する。アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法によって、Crをターゲットとして使用し、基材111の両面にCr皮膜を成膜する。さらに、UBMS法によって、固体グラファイトをターゲットとして使用し、基材111に負のバイアス電圧を110V印加しつつ、基材111の両面の必要な箇所に導電性硬質炭素皮膜120を成膜する。
【0167】
図27に示すように、基材111を積層する際は、積層する部材の間に緩衝部材を介在させて基材111を積層する。積層に際し、面113において、流路溝112を囲むように緩衝部材を配置するとともに、積層した複数の基材111のうち、積層方向両端に位置する基材111の外側の面113に、流路溝112を覆うためのカバー520を配置する。カバー20は、流路溝112をマスキングできるものであれば、樹脂製のフィルムでも金属製のプレートでもよい。本実施形態では、シール材140を、緩衝部材として用いている。
【0168】
絶縁性硬質炭素皮膜130の成膜では、前処理からCr皮膜を成膜するまでが導電性硬質炭素皮膜120の成膜と同様である。絶縁性硬質炭素皮膜130の成膜では、例えば、原料としてベンゼンまたはメタンガス等の炭化水素ガスを用いて、真空チャンバ内において高周波放電によってプラズマ化し、プラズマCVD法によって基材111上に炭素や水素を蒸着させる。
【0169】
図28に示すように、絶縁性硬質炭素皮膜130の成膜では、外周端面114と、面113における外周縁からシール材140までの領域とに、絶縁性硬質炭素皮膜130が形成される。
【0170】
なお、絶縁性硬質炭素被膜130は、導電性硬質炭素皮膜120の上に重ねて形成してもよい。すなわち、S12において、基材111の面113全面に導電性硬質炭素皮膜を成膜しておき、S15において、絶縁性を要求される範囲について絶縁性硬質炭素被膜を重ねて形成するようにしてもよい。
【0171】
セパレータ110の製造方法の効果を述べる。
【0172】
上記セパレータ110の製造方法では、基材111の外周端面114と、面113における外周縁からシール材140までの領域と、に、絶縁性硬質炭素皮膜130が形成される。このため、製造したセパレータ110は第11実施形態で説明した作用効果を奏し、本発明の燃料電池用セパレータの製造方法は、優れた絶縁性を有する燃料電池用セパレータを提供できる。
【0173】
また、上記セパレータの製造方法では、基材111を積層した状態で絶縁性被膜130を成膜するため、一度で複数の基材111の成膜を行え、生産性が良好である。
【0174】
また、積層体において、積層方向両端に位置する基材111の外側の面113に形成された流路溝112をカバー520によって覆い、それ以外の流路溝112は、各層間に位置したシール材140(緩衝部材)によってシールされているため、絶縁性硬質炭素皮膜130は、流路溝112に成膜されず、必要な箇所に確実に成膜できる。
【0175】
絶縁性硬質炭素皮膜130を成膜する際に、基材111と基材111との間に配する緩衝部材として、シール材140を用いているため、該シール材140とは別に緩衝部材を用意する必要がなく、コスト低減を図れる。
【0176】
なお、上述した実施形態に係る燃料電池又は燃料電池スタックは、例えば、車両に駆動用電源として搭載されうる。
【0177】
図29は、上述した実施形態の燃料電池スタックを搭載した車両の概念図である。図29に示すように、燃料電池スタック801を燃料電池車800のような車両に搭載するには、例えば、燃料電池車800の車体中央部の座席下に搭載すればよい。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができる。場合によっては、燃料電池スタック801を搭載する場所は、座席下に限らず、後部トランクルームの下部でもよいし、車両前方のエンジンルームであってもよい。このように、上述した形態の燃料電池を搭載した車両もまた、本発明の技術的範囲に包含される。
【0178】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載された単なる例示に過ぎず、本発明はそれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲内において種々改変することができる。例えば、本実施形態のシール構造は、燃料電池に限らず、種々の用途に用いられうる。また、燃料電池に適用するならば、PEFC以外にも、リン酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体電解質形燃料電池(SOFC)またはアルカリ形燃料電池(AFC)などにも適用可能である。
また、上記実施形態の各要素ならびに上記実施形態を適宜組み合わせたものも、本発明の技術的範囲に包含される。例えば、第6〜8実施形態に係る溝部を、第1〜5および第9〜13実施形態に係るシール構造、燃料電池用セパレータ、燃料電池、または車両に適用したものは、本発明の技術的範囲に包含される。
【0179】
本出願は、2008年11月28日に出願された日本国特許願第2008−304983号および2008年11月28日に出願された日本国特許願第2008−305400号に基づく優先権を主張しており、これらの出願の全内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明に係るシール構造によれば、対峙して密着されるシール面に硬質炭素皮膜が形成されているため、シール材との密着性がより一層向上したシール構造が提供される。当該シール構造によれば、基材のシール材に対する密着性を考慮する必要がなく、シール材の種類を減らしてコストを低減できる。
また、当該シール構造を有する燃料電池は、簡素な構造で生産性に優れることから、モバイル用、定置用、自動車用を問わず、多くの用途において好適に利用できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール構造および該シール構造を備えた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素やメタノール等の燃料を電気化学的に酸化することによって電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。燃料電池は、用いる電解質の種類によってリン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、固体高分子電解質型等に分類される。このうち固体高分子電解質型燃料電池(PEFC)は、電解質膜の両面に電極を配置した膜電極接合体(MEA)の片面に水素(燃料ガス)、他方に酸素(酸化ガス)を供給することで発電するタイプの燃料電池であり、内燃機関と同等の出力密度が得られることから電気自動車等の電源として現在広く実用化研究が進められている。
【0003】
MEAのパッケージング方法としては、スタック型、プリーツ型、中空糸型など、様々なタイプが提案されているが、このうち、シート状のMEAをシート状のセパレータで隔離しながら積み重ねることで構成されるスタック型燃料電池が広く用いられている。このようなスタック型燃料電池は、互いに重なるMEAとセパレータの間やセパレータ同士の間にシール材を設けることで、燃料電池内部の燃料ガスや酸化ガスを密封している。
特開2006−107862号公報に記載のスタック型燃料電池は、シール材として接着剤を使用したシール構造を備えており、金属セパレータの接着剤塗布面に対して表面処理を行わず、セパレータの基材に直接接着剤を塗布することで、接着剤の接着性を向上させている。
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、上記シール構造では、金属セパレータ同士の接着性は向上するものの、金属セパレータとその他の構成部品(例えばMEAの樹脂フィルム等)間の十分な接着性を確保することが難しい。したがって、複数の構成部品を接着接合する必要がある場合や、セパレータ素材を変更する場合等には、接着部位に応じて異なる複数の接着剤を使用する必要があり、設備的、コスト的に不利となる。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、多品種のシール材を用いることなく密着性を向上させ、コストを低減可能なシール構造および該シール構造を備えた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、対峙する面にシール面を有する構成部品と、前記シール面の間に介在して、前記シール面を密着させるシール材と、を備え、前記シール面の一方または両方に、少なくとも硬質炭素皮膜が形成されていることを特徴とするシール構造である。
【0007】
本発明の第2の態様は、前記シール構造を有する燃料電池である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、第1実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【図2】図2は、第2実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【図3】図3は、第3実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【図4】図4は、第4実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【図5】図5は、第5実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【図6】図6は、第5実施形態に係るシール構造の変形例を示す断面図である。
【図7】図7は、第5実施形態に係るシール構造の他の変形例を示す断面図である。
【図8】図8は、第5実施形態に係るシール構造のさらに他の変形例を示す断面図である。
【図9】図9は、第6実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【図10】図10は、第7実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【図11】図11は、硬質炭素皮膜にクラックを生じさせる工程を示す工程図である。
【図12】図12は、第8実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【図13】図13は、図12のXIII部の拡大図である。
【図14】図14は、図13の構成部品の表面を観察したSEM写真である。
【図15】図15は、図13の構成部品の断面を観察したTEM写真である。
【図16】図16は、図13の構成部品の断面を観察したSEM写真である。
【図17】図17は、第9実施形態に係る燃料電池のシール構造を示す断面図である。
【図18】図18は、第10実施形態に係る固体高分子形燃料電池のシール構造を示す断面図である。
【図19】図19は、第11実施形態に係る燃料電池用セパレータの斜視図である。
【図20】図20は、図19のXX-XX線に沿う断面図である。
【図21】図21は、硬質炭素皮膜の接触抵抗を示すグラフである。
【図22】図22は、第12実施形態の燃料電池用セパレータの断面図である。
【図23】図23は、第12実施形態の変形例に係る燃料電池用セパレータの断面図である。
【図24】図24は、第13実施形態の燃料電池用セパレータの断面図である。
【図25】図25は、第11〜13実施形態に係る燃料電池スタックの概略断面図である。
【図26】図26は、燃料電池用セパレータの製造方法を示すフロー図である。
【図27】図27は、基材の積層を説明する断面図である。
【図28】図28は、絶縁性硬質炭素皮膜を成膜したときの断面図である。
【図29】図29は、本発明を適用した燃料電池スタックを搭載した車両の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を説明する。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の実施形態のみに制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0010】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【0011】
第1実施形態に係るシール構造は、第1構成部品1および第2構成部品2の間を密封するものである。第1構成部品1および第2構成部品2は、各々、基材4,5と、該基材4,5の対峙する面を被覆する硬質炭素皮膜(DLC、ダイヤモンド様カーボン)6,7と、を備えている。硬質炭素皮膜6,7の表面は、シール材3と密着するシール面8,9となる。該シール面8,9の間には、シール材3が介在しており、両シール面8,9を密着させている。
【0012】
第1構成部品1および第2構成部品2の基材4,5は、硬質炭素皮膜6,7を形成できるものであれば材料は限定されず、第1構成部品1と第2構成部品2とで異なる材料であってもよい。また、硬質炭素皮膜6,7は、かならずしも基材4,5の表面全てを覆う必要はなく、シール材3と密着する部位を含む範囲を被覆していればよい。
【0013】
硬質炭素皮膜6,7は、構成部品の用途に応じて、非導電性または導電性の硬質炭素皮膜を用いることができる。なお、導電性を有する硬質炭素皮膜については、後に詳述する。
【0014】
第1実施形態に係るシール構造によれば、第1構成部品1および第2構成部品2のシール面に硬質炭素皮膜6,7が形成されるため、第1構成部品1および第2構成部品2に表面特性の異なる基材が用いられても、シール材3の密着性を均一に発揮することができ、安定したシール性能を得ることができる。
【0015】
また、硬質炭素皮膜6,7は、樹脂等からなるシール材3との密着性が優れるため、密着性に優れたシール構造を実現できる。
【0016】
<第2実施形態>
図2は、本発明の第2実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【0017】
第2実施形態に係るシール構造は、第1実施形態と同様の第1構成部品1に対して、2つ(複数)の第2構成部品2および第3構成部品11がシール材3により密着する構造となっている。第2構成部品2および第3構成部品11は、各々の基材5,12の第1構成部品1と対峙する面が硬質炭素皮膜7,13で被覆されており、この硬質炭素皮膜7,13で被覆された面が、シール材3と密着するシール面9,14となる。
【0018】
このように、1つの構成部品に対して複数の構成部品が密着される構造においても、本発明に係るシール構造を適用することで、シール材の密着性を向上させることができる。
【0019】
<第3実施形態>
図3は、本発明の第3実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【0020】
第3実施形態に係るシール構造は、第1実施形態と同様に、第1構成部品1と第2構成部品16の間をシール材3で密着させるが、第2構成部品16のシール面17に硬質炭素皮膜が形成されていない点で、第1実施形態と異なる。
【0021】
第1構成部品1の基材4は、硬質炭素皮膜を形成できるのであれば材料は限定されない。また、第2構成部品16の基材は、第1構成部品1の基材4と異なる材料であってもよい。シール材3には、第2構成部品16の基材と密着性の高い材料が選択されることが好ましい。
【0022】
第3実施形態に係るシール構造によれば、シール材3が変更されても高い密着性を発揮できる硬質炭素皮膜6が第1構成部品1に形成されるため、硬質炭素皮膜が形成されない第2構成部品の基材に合わせてシール材3を選択することで、シール材3の良好な密着性を実現できる。
【0023】
<第4実施形態>
図4は、本発明の第4実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【0024】
第4実施形態に係るシール構造は、第1実施形態と同様に、第1構成部品1と第2構成部品2の間をシール材18で密着させるが、シール材18の幅W1、すなわち、シール面8,9に垂直な断面における、シール材18のシール面8,9に平行な方向の幅W1が、第1構成部品1および第2構成部品2の硬質炭素皮膜6,7の幅W2、すなわち、シール面8,9に垂直な断面における、硬質炭素皮膜6,7のシール面8,9に平行な方向の幅W2よりも狭く形成されている点で、第1実施形態と異なる。
【0025】
第4実施形態に係るシール構造によれば、シール材18が確実に硬質炭素皮膜のみと密着するため、シール材の優れた密着性を均一に発揮することができ、安定したシール性能を得ることができる。
【0026】
<第5実施形態>
図5は、本発明の第5実施形態に係るシール構造を示す断面図、図6は、第5実施形態に係るシール構造の変形例を示す断面図、図7は、第5実施形態に係るシール構造の他の変形例を示す断面図、図8は、第5実施形態に係るシール構造の更に他の変形例を示す断面図である。
【0027】
第5実施形態に係るシール構造は、構成部品の対峙する面の少なくとも一方に、凸部または凹部が形成され、この凸部または凹部にシール材が密着する点で、第1〜第4実施形態と異なる。
【0028】
図5に示すように、第5実施形態に係るシール構造では、第1構成部品21および第2構成部品22の基材26,27の互いに対峙する面に、当該面に垂直な方向に突出した凸部23,24が形成されている。基材26,27の対峙する面は、各々、硬質炭素皮膜28,29で被覆されており、この硬質炭素皮膜28,29で被覆された凸部23,24の先端面は、互いに略並行に対峙して、シール材25と密着するシール面30,31となっている。シール材25は、該シール面30,31の間に介在して、両シール面30,31を密着させている。
【0029】
第1構成部品21および第2構成部品22の基材26,27は、硬質炭素皮膜28,29を形成できるのであれば材料は限定されず、第1構成部品21および第2構成部品22で異なる材料であってもよい。
【0030】
第5実施形態の変形例に係るシール構造では、図6に示すように、第1構成部品33および第2構成部品34の基材38,39の互いに対峙する面に、凹部35,36が形成されている。基材38,39の対峙する面は、各々、硬質炭素皮膜40,41で被覆されており、この硬質炭素皮膜40,41で被覆された凹部35,36の底面は、互いに略並行に対峙して、シール材37と密着するシール面42,43となっている。シール材37は、該シール面42,43の間に介在して、両シール面42,43を密着させている。
【0031】
第5実施形態の他の変形例に係るシール構造は、図7に示すように、凹部36を有する第2構成部品34と平坦面45を有する第1構成部品44とを密着させるものである。第1構成部品44および第2構成部品34の基材39,47の対峙する面は、各々、硬質炭素皮膜41,48で被覆されており、この硬質炭素皮膜41,48で被覆された凹部36の底面と平坦面45とが、互いに略並行に対峙して、シール材46と密着するシール面43,49となっている。シール材46は、該シール面43,49の間に介在して、両シール面43,49を密着させている。
【0032】
第5実施形態の更に他の変形例に係るシール構造は、図8に示すように、凸部23を有する第1構成部品21と凹部36を有する第2構成部品34とを密着させるものである。第1構成部品21および第2構成部品の基材26,39の対峙する面は、各々、硬質炭素皮膜28,41で被覆されており、この硬質炭素皮膜28,41で被覆された凸部23の先端面と凹部36の底面とが、互いに略並行に対峙して、シール材50と密着するシール面30,43となっている。シール材50は、該シール面30,43の間に介在して、両シール面30,43を密着させている。
【0033】
第5実施形態に係るシール構造によれば、構成部品の凹凸形状を有する面を硬質炭素皮膜で被覆することで、この面をシール面とすることができ、安定したシール性能を得ることができる。
【0034】
また、硬質炭素皮膜はシール材との密着性が優れるため、密着性に優れたシール構造を実現できる。
【0035】
なお、硬質炭素皮膜は、かならずしも基材の全てを覆う必要はないため、シール材と密着する部位を含む範囲を覆っていればよく、例えば、凹凸形状を有する部位のみに形成してもよい。
【0036】
一般に、シール材と密着する被着体の表面は、濡れ性が高いほど優れた密着性を発揮する。硬質炭素皮膜の濡れ性について、硬質炭素皮膜を成膜した金属表面の臨界表面張力を、金メッキを施した金属表面の臨界表面張力と比較して評価した。臨界表面張力とは、表面張力γLが既知の複数の同系列液体を用いて、液滴が固体表面となす接触角θをそれぞれ測定し、そのcosθ対γLをプロット(Zisman Plot)したとき、cosθ=1を与えるγLの外挿値γCをいう。固体表面の臨界表面張力γCよりも液体の表面張力γLが大きければ、液体は、固体表面上でその滴形を保ち、逆に、それよりも小さければ、液体は、固体表面上を広がってよく濡れる。すなわち固体表面は、臨界表面張力が高いほど濡れやすい。硬質炭素皮膜を成膜した金属表面の臨界表面張力と金メッキを施した金属表面の臨界表面張力とを上記手法で測定し、前者を後者で除することにより、両表面の臨界表面張力の比を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1より、硬質炭素皮膜を成膜した金属表面が、金メッキを施した金属表面に比して、約1.3倍の臨界表面張力を有しており、硬質炭素皮膜がシール材に対してより高い濡れ性を有していることがわかる。
【0039】
図9〜図16は、本発明の第6〜第8実施形態に係るシール構造に関する。これらの実施形態は、硬質炭素皮膜が形成されたシール面に、溝部が形成されている点において、上述の実施形態と異なる。
【0040】
<第6実施形態>
図9は、本発明の第6実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
【0041】
第4実施形態に係るシール構造は、第1実施形態と同様に、第1構成部品51と第2構成部品52の間をシール材55で密着させるが、第1構成部品51および第2構成部品52の硬質炭素皮膜53,54にクラック56が形成される点で、第1実施形態と異なる。
【0042】
クラック56は、各々の硬質炭素皮膜53,54に形成されるが、一方の硬質炭素皮膜のみに形成される構成としてもよい。クラック56は、第1構成部品51および第2構成部品52の基材4,5にまで到達しても、または到達しなくてもよい。
【0043】
第6実施形態に係るシール構造によれば、硬質炭素皮膜53,54にクラック56が形成されているため、シール材55と硬質炭素皮膜53,54の間の接触面積の増加およびアンカー効果によって密着性がさらに向上し、より安定したシール性能を得ることができる。
【0044】
<第7実施形態>
図10は、本発明の第7実施形態に係るシール構造を示す断面図、図11は、硬質炭素皮膜にクラックを生じさせる工程を示す工程図である。
【0045】
図10に示すように、第7実施形態に係るシール構造は、凹部63,64を有する第1構成部品61と第2構成部品62の硬質炭素皮膜66,67に、第6実施形態と同様にクラック68が形成される。
【0046】
第7実施形態に係るシール構造は、互いに対峙する凹部63,64同士の間に、シール材65が設けられる。第1構成部品61および第2構成部品62は、各々の基材69,70の対峙する面を硬質炭素皮膜66,67で被覆しており、この硬質炭素皮膜66,67で被覆された凹部63,64の底面が、シール材65と密着するシール面71,72となる。
【0047】
第1構成部品61および第2構成部品62を成形するには、図11に示すように、まず平板形状の板材から所定形状の基材を切り出す(基材加工工程:S1)。次に、基材のシール面となる表面に硬質炭素皮膜形成処理を行う(硬質炭素皮膜形成工程:S2)。次に、少なくともシール面71,72となる面の硬質炭素皮膜に変形を与えるように、最終成形加工を行う(最終成形工程:S3)。最終成形工程S3は、例えば、基材に流路等の形状を成形するプレス加工により行われる。プレス加工を用いれば、硬質炭素皮膜に引張りまたは圧縮する力を作用させて、シール面に形成された硬質炭素皮膜にクラックを形成させることができる。
【0048】
第7実施形態に係るシール構造によれば、構成部品の凹凸形状に硬質炭素皮膜66,67を被覆することでシール面71,72とすることができ、安定したシール性能を得ることができる。更に、硬質炭素皮膜66,67にクラック68を形成することで、シール材65と硬質炭素皮膜66,67の間の接触面積が増加し、かつアンカー効果も生じるため、密着性が向上して安定したシール性能を得ることができる。
【0049】
なお、上述のように凹部63,64同士の間にシール材65を設けるのではなく、凸部と凹部、凸部同士等、変形によりクラックを生じさせることが可能な部位をシール面とするのであれば、他の構成とすることもできる。
【0050】
また、上記シール面形成方法は、構成部品に他の部品と密着させるためのシール面を形成するシール面形成方法であって、素材のシール面となる面に予め硬質炭素皮膜を形成した後、少なくとも前記硬質炭素皮膜が形成された面を変形させることで、前記硬質炭素皮膜にクラックを発生させてシール面を形成する。このシール面形成方法は、硬質炭素皮膜を形成した面を意図的に変形させることで、硬質炭素皮膜にクラックを発生させてシール面とするため、シール面となる面の所望の部位にクラックを生じさせて、当該部位のシール材との密着性を向上させることができる。したがって、シール面をシール材で密着させる際、硬質炭素皮膜により覆われる基材のシール材に対する密着性を考慮する必要がなくなり、シール材の種類を減らしてコストを低減できる。
【0051】
<第8実施形態>
図12は、第8実施形態に係るシール構造を示す断面図である。
第8実施形態に係るシール構造は、第1実施形態と同様に、第1構成部品73と第2構成部品74の間をシール材79で密着させるものであるが、第1構成部品73および第2構成部品74が、各々、基材4,5および硬質炭素皮膜77,78に加えて、それらの間に介在する中間層75、76を備えており、該中間層75、76が、柱状結晶構造を有しており、その結晶の間に、前記溝部を構成する隙間80が形成されている点で、上述の実施形態と異なる。
【0052】
なお、本実施形態では、図12に示すように、隙間80が、第1構成部品73および第2構成部品74の双方のシール面に形成されているが、一方のシール面のみに形成される構成としてもよい。
【0053】
以下、図13〜図16に基づき、第2構成部品74の構成について説明する。なお、第1構成部品73の構成は、第2構成部品74のそれと同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0054】
図13は、図12のXIII部の拡大図である。図13に示すように、第8実施形態にかかるシール構造では、第2構成部品74は、基材5と、第2構成部品74の最表面に形成された硬質炭素皮膜78と、それらの間に介在する柱状結晶構造を有する中間層76と、当該結晶間の隙間80と、を備える。
【0055】
中間層76は、基材5と硬質炭素皮膜78との密着性を向上させるという機能や、基材5からのイオンの溶出を防止するという機能を有する。当該機能は、基材5がアルミニウム又はその合金から構成される場合に、より一層顕著に発現する。
【0056】
中間層76を構成する材料としては、上記密着性を付与するものが好ましい。例えば、周期律表の第4族の金属(Ti、Zr、Hf)、第5族の金属(V、Nb、Ta)、第6族の金属(Cr、Mo、W)、これらの炭化物、窒化物及び炭窒化物などが挙げられる。なかでも好ましくは、クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)もしくはハフニウム(Hf)といったイオン溶出の少ない金属、又はこれらの窒化物、炭化物もしくは炭窒化物が用いられる。より好ましくは、CrもしくはTi、又はこれらの炭化物もしくは窒化物が用いられる。特に、CrもしくはTi、又はこれらの炭化物もしくは窒化物が用いる場合、中間層76の役割として、上側の硬質炭素皮膜78との密着性確保と、下地の基材5の防食効果がある。特に基材5がアルミニウム又はその合金で構成されている場合、界面付近に到達した水分により腐食が進行し、アルミニウムの酸化皮膜の形成が生じる。クロム及びチタン(又はこれらの炭化物もしくは窒化物)は不動態皮膜の形成により、露出部が存在していたとしても、それ自体の溶出は殆ど見られない点において特に有用である。なかでも、上述したイオン溶出の少ない金属(特にCrもしくはTi)又はその炭化物もしくは窒化物を用いた場合、基材5の耐食性を有意に向上させることができる。
【0057】
中間層76の厚さは、特に制限されない。ただし、第2構成部品74をより薄膜化することにより、最終製品のサイズをできるだけ小さくするという観点から、中間層76の厚さは、好ましくは0.01μm〜10μmであり、より好ましくは0.02μm〜5μmであり、さらに好ましくは0.05μm〜5μmであり、特に好ましくは0.1μm〜1μmである。中間層76の厚さが0.01μm以上であれば、均一な層が形成され、基材5の耐食性を効果的に向上させることが可能となる。一方、中間層76の厚さが10μm以下であれば、中間層76の膜応力の上昇が抑えられ、基材5に対する皮膜追従性の低下やこれに伴う剥離・クラックの発生が防止される。
【0058】
中間層76の柱状結晶構造は、中間層76を構成している金属の結晶が、膜厚方向に柱状に成長している構造をいう。中間層76の断面における柱状結晶の平均太さ(中間層76の断面における柱状結晶の柱の太さの平均値をいう。)は、35nm(上限80nm、下限20nm)であることが好ましい。
【0059】
隙間80は、中間層76の柱状結晶間に形成された隙間であり、各々の幅は、特に限定されないが、平面視で、0.1nm〜20nm、長さは、0.01μm〜10μmの範囲にあることが好ましい。また、隙間80は、中間層76の表面に多数かつ一様に分布していることが好ましい。隙間80の深さは、特に制限されないが、アンカー効果を増大させる観点から、中間層76の厚さの範囲内で、できる限り大きくすることが好ましい。
【0060】
なお、図13では、隙間80の幅が、膜厚方向において最表面側端部から基材側端部に至るまで一定であるように示されているが、図13は、柱状結晶の形状を模式的に表した図であり、隙間80には、基材側から最表面側に向けて隙間の幅が拡がるものや、最表面側から基材側に向けて隙間の幅が拡がるもの、更には、最表面側端部から基材側端部に至るまで隙間の幅が不規則に変化するものも含まれる。また、図13では、隙間80を挟んで隣り合う柱状結晶同士は、互いに接触していないように示されているが、隙間80を挟んで隣り合う柱状結晶には、その最表面側端部から基材側端部に至るまでの側面の一箇所又は複数箇所において互いに接触して、一体となっているものも含まれる。局所的には、隙間80は、中間層76の層内で、3次元の隙間のネットワークを形成するように分布している。
【0061】
なお、第2構成部品74の最表面に形成された硬質炭素皮膜78は、50nm〜100nmの径をもつ粒子78aから構成されている。また、硬質炭素皮膜78は、中間層76の最表面において十分大きな幅を有する隙間80の上には形成されない。当該硬質炭素皮膜78が不在となる部分と、前記隙間80とで、前記溝部が構成される。
【0062】
柱状結晶構造を有する中間層76及び硬質炭素皮膜78の成膜方法について、以下に述べる。
【0063】
まず、基材5の構成材料として、所望の厚さのアルミニウム板、又はその合金板、チタン板、ステンレス板などを準備する。次いで、適当な溶媒を用いて、準備した基材5の構成材料の表面の脱脂及び洗浄処理を行う。溶媒としては、エタノール、エーテル、アセトン、イソプロピルアルコール、トリクロロエチレン及び苛性アルカリ剤などを用いることができる。脱脂及び洗浄処理としては、超音波洗浄などが挙げられる。超音波洗浄の条件としては、処理時間が1〜10分間程度、周波数が30〜50kHz程度、及び電力が30〜50W程度である。
【0064】
続いて、基材5の構成材料の表面に形成されている酸化皮膜の除去を行う。酸化皮膜を除去するための手法としては、酸による洗浄処理、電位印加による溶解処理、又はイオンボンバード処理などが挙げられる。その他、アルカリ浸漬洗浄、アルカリによる酸化皮膜除去(アルカリエッチング)、ふっ酸混酸液による表面活性化を行い、その後亜鉛置換浴にてジンケート処理を行う方法が好ましく使用される。ジンケート処理条件は、特に制限されないが、例えば、浴温度10〜40℃、浸漬時間20〜90秒である。なお、上記酸化皮膜の除去工程は省略されても良い。
【0065】
次に、上記の処理を施した基材5の構成材料の表面に、中間層76及び硬質炭素皮膜78を順に成膜する。例えば、まず、上述した中間層76の構成材料(例えば、クロム)をターゲットとして、基材5(例えば、アルミニウムやその合金)の表面上に、後述するバイアス電圧で、クロム中間層76を積層する。次に、硬質炭素皮膜78の構成材料(例えば、グラファイト)を順にターゲットとして、中間層76表面上に、炭素を含む層を原子レベルで積層する。これにより、中間層76、硬質炭素皮膜78を順次形成することができる。さらに、直接付着した硬質炭素皮膜78と中間層76と基材5との界面及びその近傍は、分子間力や僅かな炭素原子の進入によって、長期間にわたって密着性が保持される。
【0066】
中間層76及び硬質炭素皮膜78を積層するのに好適に用いられる手法としては、スパッタリング法もしくはイオンプレーティング法などの物理気相成長(PVD)法、又はフィルタードカソーディックバキュームアーク(FCVA)法などのイオンビーム蒸着法などが挙げられる。スパッタリング法としては、マグネトロンスパッタリング法、アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法、デュアルマグネトロンスパッタ法、ECRスパッタリング法などが挙げられる。また、イオンプレーティング法としては、アークイオンプレーティング法などが挙げられる。なかでも、スパッタリング法及びイオンプレーティング法を用いることが好ましく、スパッタリング法を用いることが特に好ましい。このような手法によれば、水素含有量の少ない炭素層を形成することができる。その結果、炭素原子同士の結合(sp2混成炭素)の割合を増加させることができ、硬質炭素皮膜に導電性が要求される場合には、優れた導電性を達成できるので有用である。これに加えて、比較的低温で成膜が可能であり、基材5へのダメージを最小限に抑えることができるという利点もある。さらに、スパッタリング法によれば、バイアス電圧等を制御することで、上記柱状結晶構造を有する中間層76を得ることができる。
【0067】
中間層76及び硬質炭素皮膜78の成膜をスパッタリング法により行う場合には、スパッタリング時に基材5に対して負のバイアス電圧を印加すると良い。このような形態によれば、イオン照射効果によって、上記柱状結晶構造を有する中間層76やグラファイトクラスターが緻密に集合した硬質炭素皮膜78が成膜される。このような中間層76は基材5の防食効果を高めることができ、アルミニウムのような腐食しやすい金属でも、基材5として適用できる。さらに、構成部品74を導電部材として適用する場合は、硬質炭素皮膜78が優れた導電性を発揮することから、他の導電性部材との接触抵抗をより小さくできるという点で有利である。
【0068】
当該形態において、印加される負のバイアス電圧の絶対値は特に制限されず、硬質炭素皮膜78を成膜可能な電圧が採用される。印加される電圧の大きさは、好ましくは50〜500Vであり、より好ましくは100〜300Vである。本実施形態では、中間層76は、基材5との界面の粗さを悪くしないように低いバイアス電圧(0V超であれば良く、0V超〜50V)で成膜する。最適な柱状結晶構造は、予備実験等を通じて制御することができる。
【0069】
なお、成膜時のその他の条件は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照される。また、UBMS法により硬質炭素皮膜78を成膜する場合には、予め同様の装置及び製法で中間層76を形成しておき、その上に硬質炭素皮膜78を形成することが好ましい。これにより、基材5との密着性に優れる中間層76及び硬質炭素皮膜78が形成される。ただし、他の手法や装置によって中間層76を形成し、異なる装置や製法にて硬質炭素皮膜78を成膜するようにしても良い。この場合であっても、基材5との密着性に優れる中間層76及び硬質炭素皮膜78が形成される。
【0070】
上述した手法によれば、基材5の一方の表面に中間層76及び硬質炭素皮膜78が形成される。基材5の両面に中間層76及び硬質炭素皮膜78が形成するには、基材5の他方の表面に対して、同様の手法によって、中間層76及び硬質炭素皮膜78を形成すれば良い。また、上述したのと同様の手法によれば、基材5の両表面に一度に中間層76及び硬質炭素皮膜78が形成された構成部品74が製造される。基材5の両面に中間層76及び硬質炭素皮膜78を形成するには、市販の成膜装置(両面同時スパッタ成膜装置)を用いても良い。また、コスト的には有利とはいえないが、基材5の一方の表面に中間層76及び硬質炭素皮膜78を成膜し、ついで基材5の他方の面に中間層76及び硬質炭素皮膜78を順次形成しても良い。あるいは、まず、クロムをターゲットとした装置内で、基材5の一方の面に中間層76を成膜し、続いて、他方の面に中間層76を成膜する。その後、ターゲットをカーボンに切り替えて、一方の面に形成された中間層76上に硬質炭素皮膜78を成膜し、続いて、他方の面に硬質炭素皮膜78を成膜する。このように、基材5の両表面へ中間層76及び硬質炭素皮膜78を成膜する場合でも、一表面へ成膜するのと同様の手法が採用される。
【0071】
上記方法により、基材5の表面に中間層76及び硬質炭素皮膜78を成膜した。図14〜図16は、成膜後の基材5の表面を観察したTEM写真およびSEM写真である。
【0072】
ここで、基材5の材料として、アルミニウム板(アルミA1050)を準備した。アルミニウム板の厚さは200μmである。このアルミニウム板を用い、前処理としてエタノール液中で3分間超音波洗浄した後、さらに真空チャンバに該基材5を設置し、Arガスによるイオンボンバード処理を行い、表面の酸化皮膜を除去した。
【0073】
次に、アンバランスドマグネトロンスパッタリング法により、Crをターゲットとして使用し、負のバイアス電圧を50V印加しながら、基材5の両面に膜厚1μmのCr層を形成させた。なお、当該Cr層のみが中間層76となる。
【0074】
さらに、この中間層76上に、UBMS法により、固体グラファイトをターゲットとして使用し、アルミニウム板に対して140Vの大きさの負のバイアス電圧を印加しながら、アルミニウム板の両面のCr層(中間層76)の上に、それぞれ0.2μmの厚さの硬質炭素皮膜78を成膜した。
【0075】
図14から、最表面に50〜100nmの径の微小粒子78aが存在し、それらの間に幅20nm、長さ1μm程度の隙間80が形成されている様子が確認できる。
【0076】
また、図15および図16により、中間層76の断面における柱状結晶の平均太さ(中間層76の断面における柱状結晶の柱の太さの平均値をいう。)が35nm(上限80nm、下限20nm)であり、およびそれらの間に形成された隙間の幅が50nmであることが確認できる。さらに、Cr中間層76の膜厚が0.02μm〜5μmの範囲であることも確認できる。
【0077】
第8実施形態に係るシール構造によれば、上記第1〜第6実施形態と同様、構成部品73、74の最表面に硬質炭素皮膜77、78が形成されていることにより、シール面におけるシール材の濡れ性が向上する。さらに、第8実施形態に係るシール構造によれば、中間層75、76の柱状結晶間に形成された隙間80により、シール材79と構成部品73、74(具体的には、硬質炭素皮膜77、78、および中間層75、76)との接触面積が増加するとともに、アンカー効果も生じる。隙間80の幅は、上述のごとく膜厚方向に不規則に変化しているため、アンカー効果は更に強化されている。このため、シール面におけるシール材の密着性が更に向上して、より安定したシール性能を得ることができる。
【0078】
本実施形態におけるシール材の密着性を評価すべく、日本工業規格(JIS−K−6850)に定められた方法に従って、本実施形態に係るシール構造の接着強さ試験を行った。試験は、被着体として、ステンレス製の板の表面に本実施形態にかかるCr中間層および硬質炭素皮膜を成膜したもの(実施例1、2)と、同じくステンレス製の板の表面に直接、すなわち中間層を設けずに、金メッキを施したもの(比較例)と、を用いた。また、接着剤としては、オレフィン系接着剤とシリコーン系接着剤とを用いた。各試験片の破断時の最大荷重は、各試験片の接着強度に比例する。各実施例の破断時の最大荷重を比較例の破断時の最大荷重で除することにより、比較例の接着強度に対する各実施例の接着強度の比を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2において、「柱状結晶太さ」とは、中間層の断面における柱状結晶の柱の太さの平均値をいう。表2より、実施例1,2が比較例に比して1.3〜1.5倍の接着強度を有しており、本実施形態に係るシール構造がより優れた密着性を発揮することがわかる。
【0081】
<第9実施形態>
図17は、本発明の第9実施形態に係る燃料電池のシール構造を示す断面図である。
【0082】
第9実施形態に係るシール構造は、固体高分子形燃料電池(PEFC)に適用される。
【0083】
燃料電池90は、図17に示すように、一組のシート状のセパレータ95(図面の方に95の記載無し)とシート状の膜電極接合体96とを積層した燃料電池の一単位である単セル94が、複数積層された積層体からなるスタック型燃料電池である。なお、積層体の積層数は、特に限定されず、単一の単セル94のみであっても、単セル94を複数積層した燃料電池スタックであってもよい。
【0084】
セパレータ95a,95cは、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図17に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ95a,95cのMEA側から見た凸部は膜電極接合体96と接触している。これにより、膜電極接合体96との電気的な接続が確保される。また、セパレータ95a,95cのMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、燃料電池90の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ95aのガス流路96aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ95cのガス流路96cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
【0085】
燃料電池90は、まず、固体高分子電解質膜97と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層98aおよびカソード触媒層98c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜97と触媒層98a,98cとの積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層99aおよびカソードガス拡散層99c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜97、一対の触媒層98a,98cおよび一対のガス拡散層99a,99cは、積層された状態で縁部に電解質膜支持部100が接合されて、膜電極接合体(MEA)96を構成する。電解質膜支持部100は、例えば熱硬化性樹脂により形成される。
【0086】
燃料電池90において、膜電極接合体96はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ95aおよびカソードセパレータ95c)により挟持されている。燃料電池スタックにおいて膜電極接合体96は、セパレータ95を介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。
【0087】
一方、セパレータ95a,95cのMEA側とは反対の側から見た凹部は、燃料電池90の運転時に燃料電池を冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路101とされる。さらに、セパレータ95には通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
【0088】
セパレータ95a,95cを構成する導電部材は、金属基材層102(基材)と、金属基材層102の両面に形成される導電性炭素層103(硬質炭素皮膜)とを有する。なお、金属基材層102と導電性炭素層103の間に、上述のごとく、他の材料からなる中間層が介在されてもよい。
【0089】
セパレータ95と電解質膜支持部100(膜電極接合体96の一部)は、第1シール材104により密着され、互いに重なるセパレータ95a,95c同士は、縁部において第2シール材105により密着される。また、互いに重なる電解質膜支持部100同士は、縁部において第3シール材106により密着される。
【0090】
以下、固体高分子形燃料電池の構成要素について説明する。
【0091】
[金属基材層]
金属基材層102は、セパレータ95を構成する導電部材の主層であり、導電性および機械的強度の確保に寄与する。
【0092】
金属基材層102を構成する金属について特に制限はなく、従来、金属セパレータの構成材料として用いられているものが適宜用いられうる。金属基材層の構成材料としては、例えば、鉄、チタン、およびアルミニウム並びにこれらの合金が挙げられる。これらの材料は、機械的強度、汎用性、コストパフォーマンスまたは加工容易性などの観点から好ましく用いられうる。ここで、鉄合金にはステンレスが含まれる。なかでも、金属基材層はステンレス、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されることが好ましい。さらに、特にステンレスを金属基材層として用いると、ガス拡散層の構成材料であるガス拡散基材との接触面の導電性が十分に確保されうる。その結果、たとえリブ肩部の膜の隙間などに水分が浸入したとしても、ステンレスから構成される金属基材層自体に生じる酸化皮膜の有する耐食性により、耐久性が維持されうる。
【0093】
金属基材層102の厚さは、特に限定されない。加工容易性および機械的強度、並びにセパレータ自体を薄膜化することによる電池のエネルギー密度の向上等の観点より、好ましくは50〜500μmであり、より好ましくは80〜300μmであり、さらに好ましくは80〜200μmである。特に、構成材料としてステンレスを用いた場合の金属基材層102の厚さは、好ましくは80〜150μmである。一方、構成材料としてアルミニウムを用いた場合の金属基材層102の厚さは、好ましくは100〜300μmである。上記した範囲内の場合、セパレータとして十分な強度を有しながらも、加工容易性に優れ、好適な薄さを達成可能である。
【0094】
[導電性炭素層]
導電性炭素層103は、導電性炭素を含む層である。この層の存在によって、セパレータ95)を構成する導電部材の導電性を確保しつつ、金属基材層102のみの場合と比較して耐食性が改善されるとともに、シール材との密着性を向上させることができる。なお、本実施形態では、導電性炭素層をシール材と密着させる硬質炭素皮膜に適用しているが、硬質炭素皮膜をシール材と接する部位にのみ設けるのであれば、硬質炭素皮膜において導電性は不要であるため、かならずしも導電性を備える必要はない。
【0095】
導電性炭素層103は、ラマン散乱分光分析により測定される、Dバンドピーク強度(ID)とGバンドピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)により規定されることが好ましい。具体的には、強度比R(ID/IG)が1.3以上であることが好ましい。以下、当該構成要件について、より詳細に説明する。
【0096】
炭素材料をラマン分光法により分析すると、通常1350cm−1付近および1584cm−1付近にピークが生じる。結晶性の高いグラファイトは、1584cm−1付近にシングルピークを有し、このピークは通常、「Gバンド」と称される。一方、結晶性が低くなる、つまり結晶構造欠陥が増し、グラファイト構造が乱れるにつれて、1350cm−1付近のピークが現れてくる。このピークは通常、「Dバンド」と称される(なお、ダイヤモンドのピークは厳密には1333cm−1であり、上記Dバンドとは区別される)。Dバンドピーク強度(ID)とGバンドピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)は、炭素材料のグラファイトクラスターサイズやグラファイト構造の乱れ具合(結晶構造欠陥性)、sp2結合比率などの指標として用いられる。すなわち、本発明においては、導電性炭素層103の接触抵抗の指標とすることができ、導電性炭素層103の導電性を制御する膜質パラメータとして用いることができる。
【0097】
R(ID/IG)値は、顕微ラマン分光器を用いて、炭素材料のラマンスペクトルを計測することにより算出される。具体的には、Dバンドと呼ばれる1300〜1400cm−1のピーク強度(ID)と、Gバンドと呼ばれる1500〜1600cm−1のピーク強度(IG)との相対的強度比(ピーク面積比(ID/IG))を算出することにより求められる。
【0098】
上述したように、R値は1.3以上であることが好ましい。また、当該R値は、より好ましくは1.4〜2.0であり、さらに好ましくは1.4〜1.9であり、さらに好ましくは1.5〜1.8である。このR値が1.3以上であれば、積層方向の導電性が十分に確保された導電性炭素層が得られる。また、R値が2.0以下であれば、グラファイト成分の減少を抑制することができる。さらに、導電性炭素層自体の内部応力の増大をも抑制でき、下地である金属基材層(中間層が存在する場合には中間層)との密着性を一層向上させることができる。
【0099】
なお、本実施形態では導電性炭素層103は、実質的に多結晶グラファイトのみから構成されてもよいし、多結晶グラファイトのみから構成されてもよいが、導電性炭素層103は多結晶グラファイト以外の材料をも含みうる。導電性炭素層103に含まれうる多結晶グラファイト以外の炭素材料としては、グラファイトブロック(高結晶性グラファイト)、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリルなどが挙げられる。また、カーボンブラックの具体例として、以下に制限されることはないが、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラックもしくはサーマルブラックなどが挙げられる。なお、カーボンブラックは、グラファイト化処理が施されていてもよい。また、これらの炭素材料を、ポリエステル系樹脂、アラミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂のような樹脂と複合化させて用いても良い。また、導電性炭素層103に含まれうる炭素材料以外の材料としては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)等の貴金属;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水性物質;導電性酸化物などが挙げられる。多結晶グラファイト以外の材料は、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0100】
導電性炭素層103の厚さは、特に制限されない。ただし、好ましくは1〜1000nmであり、より好ましくは2〜500nmであり、さらに好ましくは5〜200nmである。導電性炭素層の厚さがかような範囲内の値であれば、ガス拡散基材とセパレータとの間に十分な導電性を確保することができる。また、金属基材層に対して高い耐食機能を持たせることができるという有利な効果を奏しうる。
【0101】
なお、本実施形態では、導電性炭素層103のビッカース硬度が規定される。「ビッカース硬度(Hv)」とは、物質の硬さを規定する値であり、物質に固有の値である。本明細書において、ビッカース硬度は、ナノインデンテーション法により測定された値を意味する。ナノインデンテーション法とは、サンプル表面に対して超微小な荷重でダイヤモンド圧子を連続的に負荷及び除荷し、得られた荷重−変位曲線から硬さを測定するという手法であり、Hvが大きいほどその物質は硬いことを意味する。本実施形態において、導電性炭素層103のビッカース硬度は、好ましくは1500Hv以下であり、より好ましくは1200Hv以下であり、さらに好ましくは1000Hv以下であり、特に好ましくは800Hv以下である。ビッカース硬度がこのような範囲内の値であれば、導電性を有しないsp3炭素の過剰な混入が抑制され、導電性炭素層103の導電性の低下を防止することができる。一方、ビッカース硬度の下限値について特に制限はないが、ビッカース硬度が50Hv以上であれば、導電性炭素層103の硬度が十分に確保される。その結果、外部からの接触や摩擦等の衝撃にも耐えることができ、下地である金属基材102との密着性にも優れた導電部材(セパレータ95)を提供することができる。更には第8実施形態のように中間層を設ける態様では、導電性炭素層103と中間層とをより強固に密着させることができ、優れた導電部材を提供することができる。このような観点から、導電性炭素層103のビッカース硬度は、より好ましくは80Hv以上であり、さらに好ましくは100Hv以上であり、特に好ましくは200Hv以上である。なお、本明細書における硬質炭素皮膜のビッカース硬度は、上記範囲に含まれることが好ましい。
【0102】
(導電部材の製造方法)
上述した導電部材を製造する方法は、特に制限はなく、従来公知の手法を適宜参照することにより製造することが可能である。以下、導電部材を製造するための一例を示す。また、セパレータ95を構成する導電部材の各構成要素の材質などの諸条件については、上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0103】
まず、金属基材層の構成材料として、所望の厚さのステンレス板などを準備し、次いで、適当な溶媒を用いて、準備した金属基材層の構成材料の表面の脱脂および洗浄処理を行い、続いて、金属基材層の構成材料の表面(両面)に形成されている酸化皮膜の除去を行い、その後、上記処理を施した金属基材層の構成材料の表面に、導電性炭素層を成膜する。これらの工程の詳細、および導電性炭素を積層(成膜)するのに好適に用いられる手法については、既に第8実施形態のところで詳しく述べたので、ここでは説明を省略する。
【0104】
導電性炭素層の成膜をスパッタリング法により行う場合には、スパッタリング時に金属基材層に対して負のバイアス電圧を印加するとよい。かような形態によれば、イオン照射効果によって、グラファイトクラスターが緻密に集合した構造の導電性炭素層が成膜されうる。このような導電性炭素層は優れた導電性を発揮しうることから、他の部材(例えば、MEA)との接触抵抗の小さい導電部材(セパレータ)が提供されうる。当該形態において、印加される負のバイアス電圧の大きさ(絶対値)は特に制限されず、導電性炭素層を成膜可能な電圧が採用されうる。一例として、印加される電圧の大きさは、好ましくは50〜500Vであり、より好ましくは100〜300Vである。なお、成膜時のその他の条件等の具体的な形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。また、UBMS法により導電性炭素層103を成膜する場合には、予め中間層を形成しておき、その上に導電性炭素層を形成することが好ましい。これにより、下地層との密着性に優れる導電性炭素層が形成されうる。ただし、他の手法によって導電性炭素層を形成する場合には、中間層が存在しない場合であっても、金属基材層との密着性に優れる導電性炭素層が形成されうる。
【0105】
[電解質層]
電解質層は、例えば、固体高分子電解質膜97から構成される。この固体高分子電解質膜97は、燃料電池の運転時にアノード触媒層98aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層98cへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜97は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
【0106】
固体高分子電解質膜97は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質膜と炭化水素系高分子電解質膜とに大別される。フッ素系高分子電解質膜を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能を向上させるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質膜が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜が用いられる。
【0107】
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、アルキルスルホン化ポリベンズイミダゾール、アルキルホスホン化ポリベンズイミダゾール、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質膜が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
【0108】
電解質層の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質層の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質層の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性及び使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
【0109】
[触媒層]
触媒層(アノード触媒層98a,カソード触媒層98c)は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層98aでは水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層98cでは酸素の還元反応が進行する。
【0110】
触媒層は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体、および電解質を含む。以下、触媒担体に触媒成分が担持されてなる複合体を「電極触媒」とも称する。
【0111】
アノード触媒層に用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層に用いられる触媒成分もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
【0112】
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒成分およびカソード触媒層に用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義である。よって、一括して「触媒成分」と称する。しかしながら、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
【0113】
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。ただし、触媒成分の形状は、粒状であることが好ましい。この際、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nmである。触媒粒子の平均粒子径がかような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御されうる。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過形電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として測定されうる。
【0114】
触媒担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、および触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。
【0115】
触媒担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであることが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
【0116】
触媒担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m2/g、より好ましくは80〜1200m2/gである。触媒担体の比表面積がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御されうる。
【0117】
触媒担体のサイズについても特に限定されないが、担持の簡便さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径を5〜200nm程度、好ましくは10〜100nm程度とするとよい。
【0118】
触媒担体に触媒成分が担持されてなる電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。触媒成分の担持量がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御されうる。なお、電極触媒における触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって測定されうる。
【0119】
触媒層には、電極触媒に加えて、イオン伝導性の高分子電解質が含まれる。当該高分子電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、上述した電解質層を構成するイオン交換樹脂が、高分子電解質として触媒層に添加されうる。
【0120】
[ガス拡散層]
ガス拡散層(アノードガス拡散層99a,カソードガス拡散層99c)は、セパレータのガス流路96a,96cを介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層98a,98cへの拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
【0121】
ガス拡散層99a,99cの基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
【0122】
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0123】
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
【0124】
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒子径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0125】
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
【0126】
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、質量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
【0127】
[シール材]
シール材は、特に限定されないが、例えば、熱硬化性樹脂を適用できる。熱硬化性樹脂には、例えばオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂または不飽和ポリエステル等が使用できる。
【0128】
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0129】
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
【0130】
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して膜電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
【0131】
第9実施形態に係るシール構造は、セパレータ95に導電性炭素層103(硬質炭素皮膜)が形成されているため、第1シール材104は硬質炭素皮膜と樹脂材(電解質膜支持部)の間、第2シール材105は硬質炭素皮膜同士、第3シール材106は樹脂材同士を密着させている。通常、複数の異なる材料からなる構成部品同士を密着させる際には、材料の表面性質の異差から、密着部位毎に密着性(シール性)に異差が生じる。しかし、本実施形態では、少なくともセパレータ95に、通常、樹脂材よりもシール材との密着性が高い導電性炭素層103(硬質炭素皮膜)が形成されているため、第1〜第3シール材104,105,106に同一のシール材料を適用しても、シール材104,105,106において高い密着性を実現できる。すなわち、硬質炭素皮膜が形成されない電解質膜支持部90の材料に合わせてシール材料を選択することで、第1〜第3シール材104,105,106に同一のシール材料を適用しても、全てのシール材104,105,106において高い密着性を実現できる。
【0132】
また、セパレータ95の硬質炭素皮膜に導電性炭素層103を用いることで、セパレータ95の耐食性、導電性を確保できるため、シール材104,105との密着性向上のためのみに硬質炭素皮膜を形成する必要がない。
【0133】
なお、図17に示す形態の燃料電池90において、セパレータ95は、平板状の導電部材(基材)に対してプレス加工を施すことで凹凸状に成形されている。したがって、予め硬質炭素皮膜を形成したセパレータ基材をプレス加工することで、第7実施形態(図10参照)と同様にシール面にクラックを形成し、表面積の増加およびアンカー効果により、シール材104,105との密着性をさらに向上させてもよい。
【0134】
<第10実施形態>
図18は、本発明の第10実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)のシール構造を示す断面図である。
【0135】
第10実施形態に係る燃料電池109は、第9実施形態に係る燃料電池90と略同様の構成を有しており、電解質膜支持部107に硬質炭素皮膜108が形成されている構成のみが異なる。なお、電解質膜支持部107には導電性は不要であるため、非導電性の硬質炭素皮膜108を形成することが望ましい。
【0136】
第10実施形態に係るシール構造によれば、第1〜第3シール材104,105,106の全てが、硬質炭素皮膜同士を密着させている。したがって、第1〜第3シール材104,105,106に同一のシール材料を適用して、硬質炭素皮膜に覆われる基材の材料にかかわらず、全てのシール材において高い密着性を実現できる。
【0137】
<第11実施形態>
図19は、第11実施形態に係る燃料電池用セパレータの斜視図、図20は、図19のXX-XX線に沿う断面図、図21は、接触抵抗を示すグラフである。
【0138】
図19および図20に示すように、燃料電池用セパレータ110は、扁平形状の基材111を有する。基材111は、基材111の面方向に広がる面113(一の面)と、面113の外周縁から基材111の厚さ方向に延設された外周端面114と、を有する。面113には、燃料ガス、酸化剤ガス、または冷却水をそれぞれ流通させるためのマニホールド開口115と、該マニホールド開口115に連通する流路を形成するための流路溝112と、が形成されている。燃料ガスは、例えば、水素、メタノールである。酸化剤ガスは、例えば、空気である。
【0139】
流路溝112の表面は、導電性の導電性硬質炭素皮膜120によって覆われている。本実施形態では、面113のアクティブエリア116が、導電性硬質炭素皮膜120によって覆われている。アクティブエリア116とは、面113上の流路溝112を含む領域であって、セパレータ110と膜電極接合体(不図示)とを積層したときに、膜電極接合体において電気化学的反応が進行する領域と対向接触する領域をいう。
【0140】
セパレータ110はさらに、絶縁性の絶縁性硬質炭素皮膜130を有する。絶縁性硬質炭素皮膜130は、基材111の外周端面114と、面113の導電性硬質炭素皮膜120で覆われた領域の周囲の領域と、を覆っている。面113上には、導電性硬質炭素皮膜120で覆われた領域を囲むように、シール材140が配設されており、絶縁性硬質炭素皮膜130は、外周端面114と、面113の外周縁からシール材140までの範囲と、を覆っている。導電性硬質炭素皮膜120は、その面方向における外周縁部において、シール材140に接している。なお、シール材140は、面113上において、流路溝112および該流路溝112に連通するマニホールド開口115の周囲と、その他のマニホールド開口115の周囲と、をそれぞれ囲むように配置されている。
【0141】
基材111は金属製であり、導電性および機械的強度の確保に寄与する。基材111を構成する金属について特に制限はなく、公知のものを適宜用いることができる。基材111の構成材料としては、例えば、鉄、チタン、およびアルミニウムならびにこれらの合金が挙げられる。
【0142】
導電性硬質炭素皮膜120は、導電性炭素を含む皮膜である。導電性硬質炭素皮膜120は、ラマン散乱分光分析により測定される、Dバンドピーク強度(ID)とGバンドピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)によって規定される。本実施形態においては、強度比R(ID/IG)が1.3以上である。
また、好ましい実施形態において、当該Rは、好ましくは1.4〜2.0であり、より好ましくは1.4〜1.9であり、さらに好ましくは1.5〜1.8である。このR値が1.3以上であれば、積層方向の導電性が十分に確保された導電性硬質炭素皮膜120が得られる。また、R値が2.0以下であれば、グラファイト成分の減少を抑制することができる。さらに、導電性硬質炭素皮膜120自体の内部応力の増大をも抑制でき、下地である基材111との密着性を一層向上できる。
【0143】
導電性硬質炭素皮膜120は、多結晶グラファイトの構造を有する。「多結晶グラファイト」とは、微視的にはグラフェン面(六角網面)が積層した異方性のグラファイト結晶構造(グラファイトクラスター)を有するが、巨視的には多数の当該グラファイト構造が集合した等方性結晶体である。したがって、多結晶グラファイトは、ダイヤモンド様カーボン(DLC;Diamond−Like Carbon)の1種であるということもできる。
【0144】
導電性硬質炭素皮膜120は多結晶グラファイトのみから構成されてもよいが、導電性硬質炭素皮膜120は多結晶グラファイト以外の材料をも含みうる。導電性硬質炭素皮膜120に含まれうる多結晶グラファイト以外の炭素材料としては、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリルなどが挙げられる。
【0145】
絶縁性硬質炭素皮膜130は、絶縁性炭素を含む炭素皮膜であり、絶縁性に優れる。絶縁性硬質炭素皮膜130は、例えばダイヤモンド状の結晶構造を有する炭素皮膜、または水素を含む炭素皮膜である。絶縁性炭素層130の厚さは、特に制限されない。ただし、好ましくは1〜1000nmであり、より好ましくは2〜500nmであり、さらに好ましくは5〜200nmである。絶縁性炭素層の厚さがこの範囲内の値であれば、十分な絶縁性を確保することができる。また、金属基材層に対してさらに高い耐食性を与えるという有利な効果を奏しうる。
図21は、接触面圧を1MPaとした条件下での硬質炭素皮膜の接触抵抗を示すグラフである。図21に示すように、酸洗処理によって生成した酸化皮膜の接触抵抗が100〜1000mΩ・cm2であるのに対し、絶縁性硬質炭素皮膜130の接触抵抗は、5000〜11000mΩ・cm2であり、絶縁性硬質炭素皮膜130は酸化皮膜に比べて、優れた絶縁性を有する。なお、導電性硬質炭素皮膜120の接触抵抗は、20mΩ・cm2以下である。
【0146】
燃料電池用セパレータは単セル同士を電気的に接続するとともに、燃料電池スタック内に燃料ガスまたは酸化剤ガスを流す機能を果たす。このため燃料電池用セパレータは、導電性および耐食性の双方で優れていることが好ましい。
しかし、従来の燃料電池用セパレータでは、セパレータが冷却水によって冷却されているとき、外周部分に外気が触れて結露が生じる場合があり、セパレータと他の機器または他の物品とが、結露による水を介して電気的に接続する虞があった。また、セパレータを流れる水、または燃料電池スタック内で生成された水等がセパレータの外周部に付着したときも同様であった。特に、構成上、セパレータの外周部分は他の機器等に接触し易く、付着した水を介しての電気的接続、または直接接触することによる電気的接続が生じる虞があった。
外周部分の表面に不動態皮膜を形成した場合、一応の絶縁性を得ることができるが、図21を用いて説明した通り、その絶縁性は十分でなかった。
【0147】
第11実施形態のセパレータ110では、例えば酸化皮膜に比べて優れた絶縁性を示す絶縁性硬質炭素皮膜130が、基材111の外周端面114を覆っている。このため、セパレータ110は、セパレータ110の外周部分に水が付着したとき等でも、絶縁性硬質炭素皮膜130によって他の物品または機器等との電気的接続を阻害でき、優れた絶縁性を有する。また、外周部分での絶縁性が良好であるため、例えば絶縁性のカバー等を別途設ける必要がなく、装置の小型化、またはコスト低減を図れる。
【0148】
セパレータ110は、導電性硬質炭素皮膜120を有するため、導電性を確保しつつ、基材111のみの場合と比較して高い耐食性を有する。
【0149】
セパレータ110では、絶縁性硬質炭素皮膜130が、基材111の外周端面114だけでなく、面113における、導電性硬質炭素皮膜120で覆われた領域の周囲の領域をも覆う。本実施形態においては、絶縁性硬質炭素皮膜130は、外周端面114だけでなく、面113の外周縁からシール材140までの領域を覆う。このため、例えば、セパレータ110の外周部分に結露によって生じた水と基材111との、面113を介した電気的接続は防げられるので、絶縁性硬質炭素皮膜130が外周端面114だけを覆う場合に比べ、絶縁性がさらに向上する。
【0150】
<第12実施形態>
図22は、第12実施形態の燃料電池用セパレータの断面図である。
【0151】
図22に示すように、第12実施形態の燃料電池用セパレータ200は、第11実施形態と略同様であるが、絶縁性硬質炭素皮膜230が基材210を覆う範囲が第11実施形態と異なる。
【0152】
セパレータ200では、絶縁性硬質炭素皮膜230が、外周端面213と、面212(一の面)における外周縁からシール材240までの領域と、面212におけるシール材240から導電性硬質炭素皮膜220の外周縁部までの領域と、を覆っている。つまり、導電性硬質炭素皮膜220と絶縁性硬質炭素皮膜230との境界は、シール材240の内側に位置する。
【0153】
このような構成によって、第12実施形態はシール材240の外側だけでなくシール材240の内側においても絶縁性を確保しており、第11実施形態の効果に加え、より絶縁性を向上できるという効果を奏する。
【0154】
<第12実施形態の変形例>
図23は、第12実施形態の変形例に係る燃料電池用セパレータの断面図である。
図23に示すように、絶縁性硬質炭素皮膜230Aで覆われた領域と導電性硬質炭素皮膜220Aで覆われた領域との境界の位置は、セパレータ200Aの両面において、面方向にずれていてもよい。
【0155】
<第13実施形態>
図24は、第13実施形態の燃料電池用セパレータの断面図である。
【0156】
図24に示すように、第13実施形態のセパレータ300は、第11実施形態と略同様であるが、絶縁性硬質炭素皮膜330が基材310を覆う範囲、および導電性硬質炭素皮膜320が基材310を覆う範囲が第11実施形態と異なる。セパレータ300では、絶縁性硬質炭素皮膜330が外周端面313のみを覆い、導電性硬質炭素皮膜320が面312(一の面)全体を覆う。
【0157】
このような構成によって、第13実施形態は、第11実施形態と略同様の効果を奏する。また、第13実施形態では、絶縁性硬質炭素皮膜330が面312を覆わないため、第11実施形態に比べ、絶縁性硬質炭素皮膜330の成膜時間を短縮できる。
【0158】
なお、第11〜第13実施形態では、絶縁性硬質炭素被膜および導電性硬質炭素皮膜を互いに重ならないように形成した例を説明したが、絶縁性硬質炭素被膜は、導電性硬質炭素皮膜の上に重ねて形成されてもよい。例えば、基材111の面113全面に導電性硬質炭素皮膜を成膜した後、絶縁性を要求される範囲について絶縁性硬質炭素被膜130を重ねて形成するようにしてもよい。
【0159】
<燃料電池スタック>
図25は、燃料電池スタックの概略断面図である。
【0160】
図25に示すように、燃料電池スタック500は、発電機能を発揮する複数の単セル502が積層された構造を有する。単セル502は、電気化学的反応を進行させる膜電極接合体501と、膜電極接合体501を挟む一対のセパレータ400と、を有する。セパレータ400は、第11実施形態と同様の構成を有する。なお、セパレータ400は第12実施形態と同様の構成を有していてもよい。
【0161】
燃料電池スタック500は、単セル502同士が接する部分において、セパレータ400同士が互いに重なり合った構成を有する。これら互いに重なるセパレータ400間では、絶縁性硬質炭素皮膜430同士が接している。
【0162】
燃料電池スタック500は、第11実施形態または第12実施形態のセパレータと同様の構成のセパレータ400を有するため、これらと同様の効果を奏する。また、互いに重なるセパレータ400において、絶縁性硬質炭素皮膜430同士が接するため、水の浸入を抑制して燃料電池スタック500の内部と外部との絶縁性を確保できる。
【0163】
<燃料電池セパレータの製造方法>
図26は、燃料電池用セパレータの製造方法を示すフロー図、図27は、基材の積層を説明する断面図、図28は、絶縁性硬質炭素皮膜を成膜したときの断面図である。以下の説明で参照する図面においては、上述した部材を一部簡略化して示す。
【0164】
図26に示すように、燃料電池用セパレータ110の製造方法では、まず基材111を成形する(S11)。その後、基材111を導電性硬質炭素皮膜成膜装置に入れ、導電性硬質炭素皮膜120を成膜する(S12)。次に、基材111を取り出し(S13)、面113に配した緩衝部材を介して基材111を積層する(積層工程:S14)。積層した基材111(積層体)を絶縁性硬質炭素皮膜成膜装置に入れて、絶縁性硬質炭素皮膜を成膜する(絶縁性硬質炭素皮膜成膜工程:S15)。その後、積層体を取り出す(S16)。
【0165】
基材111の成形においては、例えばステンレス鋼またはチタン等の金属製の板材をプレスして、所定形状を有する基材111に成形する。
【0166】
導電性硬質炭素皮膜120の成膜では、前処理としてエタノール中で基材111を超音波洗浄する。その後、真空チャンバ内に基材111を設置し、Arガスによるイオンボンバード処理を実施して、表面酸化皮膜、および不純物を除去する。アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法によって、Crをターゲットとして使用し、基材111の両面にCr皮膜を成膜する。さらに、UBMS法によって、固体グラファイトをターゲットとして使用し、基材111に負のバイアス電圧を110V印加しつつ、基材111の両面の必要な箇所に導電性硬質炭素皮膜120を成膜する。
【0167】
図27に示すように、基材111を積層する際は、積層する部材の間に緩衝部材を介在させて基材111を積層する。積層に際し、面113において、流路溝112を囲むように緩衝部材を配置するとともに、積層した複数の基材111のうち、積層方向両端に位置する基材111の外側の面113に、流路溝112を覆うためのカバー520を配置する。カバー20は、流路溝112をマスキングできるものであれば、樹脂製のフィルムでも金属製のプレートでもよい。本実施形態では、シール材140を、緩衝部材として用いている。
【0168】
絶縁性硬質炭素皮膜130の成膜では、前処理からCr皮膜を成膜するまでが導電性硬質炭素皮膜120の成膜と同様である。絶縁性硬質炭素皮膜130の成膜では、例えば、原料としてベンゼンまたはメタンガス等の炭化水素ガスを用いて、真空チャンバ内において高周波放電によってプラズマ化し、プラズマCVD法によって基材111上に炭素や水素を蒸着させる。
【0169】
図28に示すように、絶縁性硬質炭素皮膜130の成膜では、外周端面114と、面113における外周縁からシール材140までの領域とに、絶縁性硬質炭素皮膜130が形成される。
【0170】
なお、絶縁性硬質炭素被膜130は、導電性硬質炭素皮膜120の上に重ねて形成してもよい。すなわち、S12において、基材111の面113全面に導電性硬質炭素皮膜を成膜しておき、S15において、絶縁性を要求される範囲について絶縁性硬質炭素被膜を重ねて形成するようにしてもよい。
【0171】
セパレータ110の製造方法の効果を述べる。
【0172】
上記セパレータ110の製造方法では、基材111の外周端面114と、面113における外周縁からシール材140までの領域と、に、絶縁性硬質炭素皮膜130が形成される。このため、製造したセパレータ110は第11実施形態で説明した作用効果を奏し、本発明の燃料電池用セパレータの製造方法は、優れた絶縁性を有する燃料電池用セパレータを提供できる。
【0173】
また、上記セパレータの製造方法では、基材111を積層した状態で絶縁性被膜130を成膜するため、一度で複数の基材111の成膜を行え、生産性が良好である。
【0174】
また、積層体において、積層方向両端に位置する基材111の外側の面113に形成された流路溝112をカバー520によって覆い、それ以外の流路溝112は、各層間に位置したシール材140(緩衝部材)によってシールされているため、絶縁性硬質炭素皮膜130は、流路溝112に成膜されず、必要な箇所に確実に成膜できる。
【0175】
絶縁性硬質炭素皮膜130を成膜する際に、基材111と基材111との間に配する緩衝部材として、シール材140を用いているため、該シール材140とは別に緩衝部材を用意する必要がなく、コスト低減を図れる。
【0176】
なお、上述した実施形態に係る燃料電池又は燃料電池スタックは、例えば、車両に駆動用電源として搭載されうる。
【0177】
図29は、上述した実施形態の燃料電池スタックを搭載した車両の概念図である。図29に示すように、燃料電池スタック801を燃料電池車800のような車両に搭載するには、例えば、燃料電池車800の車体中央部の座席下に搭載すればよい。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができる。場合によっては、燃料電池スタック801を搭載する場所は、座席下に限らず、後部トランクルームの下部でもよいし、車両前方のエンジンルームであってもよい。このように、上述した形態の燃料電池を搭載した車両もまた、本発明の技術的範囲に包含される。
【0178】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載された単なる例示に過ぎず、本発明はそれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲内において種々改変することができる。例えば、本実施形態のシール構造は、燃料電池に限らず、種々の用途に用いられうる。また、燃料電池に適用するならば、PEFC以外にも、リン酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体電解質形燃料電池(SOFC)またはアルカリ形燃料電池(AFC)などにも適用可能である。
また、上記実施形態の各要素ならびに上記実施形態を適宜組み合わせたものも、本発明の技術的範囲に包含される。例えば、第6〜8実施形態に係る溝部を、第1〜5および第9〜13実施形態に係るシール構造、燃料電池用セパレータ、燃料電池、または車両に適用したものは、本発明の技術的範囲に包含される。
【0179】
本出願は、2008年11月28日に出願された日本国特許願第2008−304983号および2008年11月28日に出願された日本国特許願第2008−305400号に基づく優先権を主張しており、これらの出願の全内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明に係るシール構造によれば、対峙して密着されるシール面に硬質炭素皮膜が形成されているため、シール材との密着性がより一層向上したシール構造が提供される。当該シール構造によれば、基材のシール材に対する密着性を考慮する必要がなく、シール材の種類を減らしてコストを低減できる。
また、当該シール構造を有する燃料電池は、簡素な構造で生産性に優れることから、モバイル用、定置用、自動車用を問わず、多くの用途において好適に利用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対峙する面にシール面を有する構成部品と、前記シール面の間に介在して、前記シール面を密着させるシール材と、を備え、
前記シール面の一方または両方に、硬質炭素皮膜と、該硬質炭素皮膜と前記構成部品の基材との間に介在する中間層と、が形成されており、
前記中間層の結晶間には隙間が形成されており、該隙間に前記シール材が入り込んでいることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
前記硬質炭素皮膜が形成されたシール面に、前記硬質炭素皮膜が不在となる部分と前記中間層の隙間とから構成される溝部を形成したことを特徴とする請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記中間層は、膜厚方向へ成長させた柱状結晶構造を有しており、
前記隙間は、前記中間層の柱状結晶間の隙間からなることを特徴とする請求項1または2に記載のシール構造。
【請求項4】
前記シール面に形成された前記硬質炭素皮膜及び中間層の幅が、前記シール材の幅よりも広いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項5】
前記構成部品は、対峙する面の少なくとも一方に、凸部または凹部を有しており、
該凸部の先端面または凹部の底面に、前記硬質炭素皮膜及び中間層が形成されたシール面が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項6】
前記構成部品は、隣接する二つの燃料電池用セパレータ、または、膜電極接合体および該膜電極接合体に隣接する燃料電池用セパレータであり、
前記セパレータは、前記硬質炭素皮膜及び中間層が形成されたシール面を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項7】
前記シール面に形成された硬質炭素皮膜が、導電性を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項8】
前記構成部品は、面方向に広がる一の面、および該一の面の外周縁から厚さ方向に延設された外周端面を有する扁平形状の基材と、少なくとも前記外周端面を覆う絶縁性硬質炭素皮膜と、を有する燃料電池用セパレータであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項9】
前記一の面には、流路溝が形成されており、
前記一の面の前記流路溝を含む領域が、導電性硬質炭素皮膜によって覆われていることを特徴とする請求項8に記載のシール構造。
【請求項10】
前記絶縁性硬質炭素皮膜が、前記外周端面と、前記一の面における、前記導電性硬質炭素皮膜によって覆われた領域の周囲の領域と、を覆うことを特徴とする請求項9に記載のシール構造。
【請求項11】
前記導電性硬質炭素皮膜が、前記一の面の全体を覆うことを特徴とする請求項9に記載のシール構造。
【請求項12】
前記シール材は、前記一の面上に、前記導電性硬質炭素皮膜によって覆われた領域の周囲を囲むように配置されており、
前記絶縁性硬質炭素皮膜は、前記外周端面と、前記一の面の外周縁から前記シール材までの範囲の前記一の面と、を覆うことを特徴とする請求項10に記載のシール構造。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のシール構造を有する燃料電池。
【請求項1】
対峙する面にシール面を有する構成部品と、前記シール面の間に介在して、前記シール面を密着させるシール材と、を備え、
前記シール面の一方または両方に、硬質炭素皮膜と、該硬質炭素皮膜と前記構成部品の基材との間に介在する中間層と、が形成されており、
前記中間層の結晶間には隙間が形成されており、該隙間に前記シール材が入り込んでいることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
前記硬質炭素皮膜が形成されたシール面に、前記硬質炭素皮膜が不在となる部分と前記中間層の隙間とから構成される溝部を形成したことを特徴とする請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記中間層は、膜厚方向へ成長させた柱状結晶構造を有しており、
前記隙間は、前記中間層の柱状結晶間の隙間からなることを特徴とする請求項1または2に記載のシール構造。
【請求項4】
前記シール面に形成された前記硬質炭素皮膜及び中間層の幅が、前記シール材の幅よりも広いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項5】
前記構成部品は、対峙する面の少なくとも一方に、凸部または凹部を有しており、
該凸部の先端面または凹部の底面に、前記硬質炭素皮膜及び中間層が形成されたシール面が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項6】
前記構成部品は、隣接する二つの燃料電池用セパレータ、または、膜電極接合体および該膜電極接合体に隣接する燃料電池用セパレータであり、
前記セパレータは、前記硬質炭素皮膜及び中間層が形成されたシール面を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項7】
前記シール面に形成された硬質炭素皮膜が、導電性を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項8】
前記構成部品は、面方向に広がる一の面、および該一の面の外周縁から厚さ方向に延設された外周端面を有する扁平形状の基材と、少なくとも前記外周端面を覆う絶縁性硬質炭素皮膜と、を有する燃料電池用セパレータであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のシール構造。
【請求項9】
前記一の面には、流路溝が形成されており、
前記一の面の前記流路溝を含む領域が、導電性硬質炭素皮膜によって覆われていることを特徴とする請求項8に記載のシール構造。
【請求項10】
前記絶縁性硬質炭素皮膜が、前記外周端面と、前記一の面における、前記導電性硬質炭素皮膜によって覆われた領域の周囲の領域と、を覆うことを特徴とする請求項9に記載のシール構造。
【請求項11】
前記導電性硬質炭素皮膜が、前記一の面の全体を覆うことを特徴とする請求項9に記載のシール構造。
【請求項12】
前記シール材は、前記一の面上に、前記導電性硬質炭素皮膜によって覆われた領域の周囲を囲むように配置されており、
前記絶縁性硬質炭素皮膜は、前記外周端面と、前記一の面の外周縁から前記シール材までの範囲の前記一の面と、を覆うことを特徴とする請求項10に記載のシール構造。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のシール構造を有する燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−23042(P2012−23042A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168459(P2011−168459)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【分割の表示】特願2010−540433(P2010−540433)の分割
【原出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【分割の表示】特願2010−540433(P2010−540433)の分割
【原出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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