説明

シール装置

【課題】高圧の被密封流体に対してシールリップにより確実な軸シールを維持するとともに、シールリップに発生する相当ミーゼス応力の軽減を図り、シールリップの耐用期間を長期に延ばすことのできるシール装置を提供すること。
【解決手段】バックアップリング2は、その固定部21から連続して延びるテーパー部23、そして先端部24とを有してなり、少なくともテーパー部23の表面Dから先端部24の表面Fへと移る境界部26には、曲率半径(R―1)のアール面Eが形成されているとともに、境界部26であるアール面Eに接しているテーパー部23の表面Dの一部が、境界部26の曲率半径(R―1)より大きな曲率半径を持つ凸曲面である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールリップを有して軸をシールするシール装置に関し、特に、高圧な冷媒等の被密封流体に対してシールリップにより確実な軸シールを可能とするとともに、シールリップの耐用期間を長期に延ばすことの出来るシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カークーラー等において使用される冷媒として、環境への影響を配慮してフロンガスから二酸化炭素ガスへの変更が進んでおり、二酸化炭素ガスである被密封流体を軸シールする構造が一般化してきている。しかし、冷媒に二酸化炭素ガスを用いた場合、冷媒としての被密封流体は従来よりも高圧に設定されることになり、軸シール部分の密封力の向上が急務になっており、カークーラーのコンプレッサ用リップ型シールとして、種々の高密封力のシール装置が開発されてきている。
【0003】
例えば、実開平3−41264号公報(特許文献1)に示すリップ型シール装置(図10)が存在する。このリップ型シール装置は、シールリップ101の大気側である内周面と回転軸102との間に、環状を成す金属材製のバックアップリング103がシールリップ101の内周面に軽く接触嵌合する状態で配置されている。更に、バックアップリング103の大気側Bには、樹脂材製の環状部104がバックアップリング103と同形状に配置されている。さらに、バックアップリング103の被密封流体側Aには、補強環105を埋設した基部106からシールリップ101が被密封流体側に傾斜して延びた端部107に回転軸102の外周面と密接するシール面107aが設けられ、このシール面107aを緊迫するガータスプリング108が端部107の外周面に設けられた環状溝に装着されている。
【0004】
又、環状部104の大気側にはリング状のサポートプレート109が配置され、バックアップリング103と、環状部104と、サポートプレート109とは外周部が断面コの字形の保持リング110により挟持されている。この挟持された三部品全体がシール部で、並列されたシールリップ101を補助している。
【0005】
又、シールリップ101の先端部のシール面107aと環状溝との距離も正確に製作しなければならないが、シールリップ101がゴム材製であるから変形しやすく、ゴム成形上、この距離寸法を確保することが困難になっている。更に、バックアップリング103とシールリップ101との接合も正確に接合させなければならず、シールリップ101に対してバックアップリング103を圧接すると、シールリップ101が回転軸外周面から浮き上がるのでシール能力を悪化させることになる。
【0006】
このような種々の問題点に着目して、特許第3346743号公報(特許文献2)、特開2003−120821号公報(特許文献3)に示されるような技術が開発されており、これら特許文献の技術は、シールリップに於けるテーパ面にバックアップリングの傾斜支持部を圧入嵌合してシール部面の径を拡張し、この傾斜支持部で傾斜したシールリップの拡張テーパ面を圧接保持し、大気側シール部面を一定の角度に保つようにしたものである。このような構成によれば、このバックアップリングで保持された緊迫状態のシール部面が軸の外周面とシャープな面圧で密接するようになり、シール部面が軸と小さな接触面積で接触し、シール部面が押し込まれた異常な変形によりシール能力が低下するのを効果的に防止すると共に、シール角部がシャープな面圧で接触する状態を保持し、優れたシール能力を発揮するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平3−41264号公報(第1頁、第1図)
【特許文献2】特許第3346743号公報(第2頁、第2図)
【特許文献3】特開2003−120821号公報(第2頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述の特許第3346743号公報(特許文献2)、特開2003−120821号公報(特許文献3)に示されるような従来技術では、大きな被密封流体圧がゴム材製のシールリップの外周に加わると、シールリップが回転軸方向へ押され、バックアップリングのテーパー面が回転軸方向へ折り返される角部と、シールリップのシール内面との間に、過大な応力が発生し、バックアップリングの前記角部に位置するシールリップには、極めて大きな相当ミーゼス応力が発生し、長期の使用によりシールリップに破断現象が現れる危険があり、現状では上記したバックアップリングの角部にアール(R)を形成し、シールリップに発生する相当ミーゼス応力の軽減を図っているものの、更なる相当ミーゼス応力の軽減が望まれている。
【0009】
本発明は上述のような問題点に鑑み成されたものであって、高圧の被密封流体に対してシールリップにより確実な軸シールを維持するとともに、シールリップに発生する相当ミーゼス応力の軽減を図り、シールリップの耐用期間を長期に延ばすことのできるシール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のシール装置は、回転軸を囲むように流体収納室側に延出するバックアップリングを有し、少なくとも前記バックアップリングが先細り形状となっており、このバックアップリングにより支持されたシールリップのリップ先端部が回転軸に対して当接可能となっているシール装置であって、前記バックアップリングは、その固定部から連続して延びるテーパー部、そして先端部とを有してなり、少なくとも前記テーパー部の表面から前記先端部の表面へと移る境界部には、曲率半径(R―1)のアール面が形成されているとともに、前記境界部であるアール面に接しているテーパー部の表面の一部が、前記境界部の曲率半径(R―1)より大きな曲率半径を持つ凸曲面であることを特徴としている。
この特徴によれば、流体収納室側の圧力がシールリップに作用し、リップ先端部が回転軸に対して圧接されると同時に、シールリップからの押圧力がバックアップリングに伝わることになる。そして特に、シールリップは、バックアップリングのテーパー部の表面から先端部の表面へと移る境界部(バックアップリングの角部)に強力に当接され、ここに極めて大きな相当ミーゼス応力が集中する傾向にあるが、本発明によれば、前記境界部であるアール面と連続しているテーパー部の表面の一部に、比較的大きな曲率半径を持つ直線面ではない面が形成されているため、このテーパー部における少なくとも一部の膨らんだ丸み(曲率半径)が、シールリップを保持するバックアップリングのテーパー部の面積の増大に寄与し、この増大した接触面の摩擦力増大により流体収納室の圧力がシールリップに働いても、シールリップとバックアップリングのテーパー面間に生ずる僅かなズレの発生を効果的に抑制することになる。したがって、バックアップリングのテーパー部の表面から先端部の表面へと移る境界部(バックアップリングの角部)に位置しているシールリップに、相当ミーゼス応力が極端に集中せず、シールリップにより確実な軸シールを維持しつつ、シールリップに発生する相当ミーゼス応力の軽減が図られ、シールリップの耐用期間を長期に延ばすことができることになる。
【0011】
本発明のシール装置は、回転軸を囲むように流体収納室側に延出するバックアップリングを有し、少なくとも前記バックアップリングが先細り形状となっており、このバックアップリングにより支持されたシールリップのリップ先端部が回転軸に対して当接可能となっているシール装置であって、前記バックアップリングは、その固定部から連続して延びるテーパー部、そして先端部とを有してなり、少なくとも前記テーパー部の表面から前記先端部の表面へと移る境界部には、曲率半径(R―1)のアール面が形成されているとともに、前記テーパー部の表面は、前記境界部の曲率半径(R―1)より大きなほぼ一定の曲率半径(R―2)を持った凸曲面であることを特徴としている。
この特徴によれば、前記テーパー部の表面が、前記境界部の曲率半径(R―1)より大きなほぼ一定の曲率半径(R―2)を持った先細りのテーパー面であることにより、この曲率半径(R―2)は、シールリップを保持するバックアップリングのテーパー面の面積の増大に寄与し、流体収納室の圧力がシールリップに働いても、シールリップとバックアップリングのテーパー面間に生ずる僅かなズレの発生を効果的に抑制できることになる。したがって、バックアップリングのテーパー部の表面から先端部の表面へと移る境界部(バックアップリングの角部)に位置しているシールリップに、相当ミーゼス応力が極端に集中せず、シールリップにより確実な軸シールを維持しつつ、シールリップに発生する相当ミーゼス応力の軽減が図られ、シールリップの耐用期間を長期に延ばすことができることになる。
【0012】
本発明のシール装置は、前記バックアップリングは、その固定部から連続して延びる延出部を有してなり、該延出部の表面が前記回転軸と略平行な面となっており、前記延出部の表面からテーパー部の表面へと移る境界部は、前記テーパー部の表面であるテーパー面の曲率半径(R―2)以上の曲率半径をもったアール面であることを特徴としている。
この特徴によれば、従来、バックアップリングにおいて延出部の表面からテーパー部の表面へと移る境界部に、比較的曲率半径の小さな屈曲部が存在すると、流体収納室の内部圧の変動によりシールリップがこの屈曲部でバックアップリングと乖離を起こしやすくなり、シールリップとバックアップリングのテーパー面間に生ずる僅かなズレを助長することになるが、上記構成によれば、前記延出部の表面からテーパー部の表面へと緩やかに移る境界部を形成できるため、極端な屈曲部が存在しないことになり、シールリップとバックアップリングのテーパー面間に生ずる僅かなズレの発生を効果的に抑制できることになる。
【0013】
本発明のシール装置は、回転軸を囲むように流体収納室側に延出するバックアップリングを有し、少なくとも前記バックアップリングが先細り形状となっており、このバックアップリングにより支持されたシールリップのリップ先端部が回転軸に対して当接可能となっているシール装置であって、前記バックアップリングは、その固定部から連続して延びるテーパー部、そして先端部とを有してなり、少なくとも前記テーパー部の表面から前記先端部の表面へと移る境界部には、曲率半径(R―1)のアール面が形成されているとともに、前記テーパー部の表面は、前記境界部の曲率半径(R―1)より大きな複数の異なる曲率半径の組み合わせからなる直線面の存在しない凸曲面であることを特徴としている。
この特徴によれば、前記テーパー部の表面が、前記境界部の曲率半径(R―1)より大きな複数の異なる曲率半径の組み合わせからなる直線面の存在しない先細りのテーパー面であることにより、流体収納室内の圧力分布に適するように曲線を種々変更できることとなり、シールリップとバックアップリングのテーパー面間に生ずる僅かなズレの発生を効果的に抑制できることになる。
【0014】
本発明のシール装置は、前記バックアップリングの先端部には、回転軸とほぼ平行な内端面が形成され、前記先端部の表面から前記内端面へと移る境界部には、前記曲率半径(R―1)のアール面より小さい曲率半径(R―0)のアール面が形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、前記バックアップリングの先端部の内端面の角部でシールリップが傷つくことがない。
【0015】
本発明のシール装置は、固定部から連続して延びる延出部、テーパー部、そして先端部とを有してなる前記バックアップリングにより支持される前記シールリップの内側面が、少なくとも前記シールリップの成型時において、予め前記バックアップリングのテーパー部である凸曲面に合致する凹曲面として形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、前記シールリップが、前記バックアップリングのテーパー部である凸曲面のアール面に合致する凹曲面のアール面に予め形成されているため、シールリップ自体の素材強度と相俟ってシールリップとバックアップリングのテーパー面間に生ずる僅かなズレの発生を効果的に抑制できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施の形態におけるシール装置の半断面図である。
【図2】バックアップリングの斜視図である。
【図3】バックアップリングの上半断面図である。
【図4】バックアップリングによりもたらされる相当ミーゼス応力の測定(試験1)とシールリップの切れやすさを評価する実験(試験2)を示した図である。
【図5】試験1の結果を示した図である。
【図6】試験2の結果を示した図である。
【図7】第1実施の形態と比較例3のバックアップリングを比較した図である。
【図8】シールリップの構造を示した図である。
【図9】第2実施の形態のシール装置を示した図である。
【図10】実開平3−41264号公報(特許文献1)に示すリップ型シール装置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例】
【0018】
本発明の実施例を図面に基づいて説明すると、先ず図1は、本発明の第1実施の形態におけるシール装置の半断面図である。図2は、バックアップリングの斜視図である。図3は、バックアップリングの上半断面図である。図4は、バックアップリングによりもたらされる相当ミーゼス応力の測定(試験1)とシールリップの切れやすさを評価する実験(試験2)を示した図である。図5は、試験1の結果を示した図である。図6は、試験2の結果を示した図である。図7は、第1実施の形態と比較例3のバックアップリングを比較した図である。図8は、シールリップの構造を示した図である。図9は、第2実施の形態のシール装置を示した図である。図10は、実開平3−41264号公報(特許文献1)に示すリップ型シール装置を示した図である。
【0019】
図1は、本発明に係わる第1実施の形態のシール装置を示すものであって、軸に装着されない状態の半断面図である。この図1において、1は、大気Y側と流体収納室X側の間に設置されるシール装置であり、このシール装置1には、ハウジング6の嵌合孔61に嵌着するゴム材製の嵌着部7が設けられている。この嵌着部7の外周面には、凸部状のシール部分7Aが形成されている。又、嵌着部7には、補強環8が埋設されており、この補強環8によりハウジング6との嵌着を強固にすると共に、嵌着部7により第2シールリップ4、第3シールリップ5が保持されている。
【0020】
又、この補強環8を介してゴム材製のシールリップ3が嵌着部7から回転軸50に向かって傾斜した筒状に形成されている。このシールリップ3のリップ先端部31がシール機能面を成し、回転軸50に最適に密接すると面圧を高めてシール能力を発揮する。
【0021】
シールリップ3の嵌着部7から流体収納室X側には、シールリップ3の面に沿ってほぼシールリップ3と近似する形状のバックアップリング2が設けられている。このバックアップリング2は、シールリップ3に被密封流体の圧力を受けても変形しない耐圧性を有する厚さに形成されている。
【0022】
この第1実施の形態のシール装置1にあっては、回転軸を囲むように流体収納室X側に延出するバックアップリング2は、少なくともバックアップリングの前方部分が図1、図2に示されるように先細り形状となっており、このバックアップリング2より支持されたシールリップ3のリップ先端部31が回転軸50に対して当接可能となっている。このシール装置1のバックアップリング2は、第2シールリップ4と補強環8で支持されたゴム材製のシールリップ3とで挟まれることによってシール装置1に固定される部分である固定部21を有している。
【0023】
さらにバックアップリング2は、この固定部21から連続して延びる延出部22、テーパー部23、そして先端部24とを有している。図3には、バックアップリング2の上半断面図が示されており、各部の表面が、順に固定部21の表面A、延出部22の表面B、テーパー部23の表面D、そして先端部24の表面Fとして示されている。そして少なくとも前記テーパー部23の表面Dから先端部24の表面Fへと移る第1境界部26の表面には、曲率半径(R―1)のアール面Eが形成されているとともに、前記延出部22の表面Bからテーパー部23の表面Dへと移る第2境界部29の表面には、曲率半径(R―3)のアール面Cが形成されている。この第1実施の形態のシール装置にあっては、特にテーパー部23の表面Dの全面が、第1境界部26のアール面Eの曲率半径(R―1)より大きなほぼ一定の曲率半径(R―2)を持った凸曲面からなる先細りのテーパー面に形成されており、さらに前記延出部22の表面Bからテーパー部23の表面Dへと移る第2境界部29の表面であるアール面Cも、テーパー部23の表面Dの曲率半径(R―2)と同じ曲率半径(R―2)の凸曲面となっている。この場合、アール面Cの曲率半径(R―3)と、テーパー部23の表面Dの曲率半径(R―2)とが、同じ曲率半径となっていると、アール面Cとテーパー部23の表面Dとの加工が容易となり、また前記延出部22の表面Bからテーパー部23の表面Dへ緩やかな曲面だけで移行できる。
【0024】
ただし、本実施例に限ることなく、第1境界部26の表面であるアール面Eと連続しているテーパー部23の表面Dの一部のみに、第1境界部26のアール面Eの曲率半径(R―1)より大きな曲率半径(R―2)を持った凸曲面が形成されているだけでよい。すなわち本発明においては、テーパー部23の表面Dにおいて直線面の存在を出来るだけ狭小なものとするだけで良いのであり、バックアップリング2のテーパー面における少なくとも一部(全面でも可能)の膨らんだ丸み(曲率半径)が、シールリップ3を保持するバックアップリング2のテーパー面の面積の増大に寄与すれば良いのである。
【0025】
ここでテーパー部23の表面Dの一部のみに、第1境界部26のアール面Eの曲率半径(R―1)より大きな曲率半径(R―2)を持った凸曲面を形成する場合、アール面E寄りのテーパー部23の表面Dの一部に、アール面Eの曲率半径(R―1)より大きな曲率半径(R―2)を持った凸曲面を形成する方が、この凸曲面の影響がアール面E近傍に及ぼされ易くなるため、より好適である。
【0026】
さらに前記バックアップリング2の先端部24には、回転軸50とほぼ平行な内端面27が形成されており、前記先端部24の表面Fから前記内端面27へと移る部分には、第1境界部26のアール面Eの曲率半径(R―1)より小さい曲率半径(R―0)のアール面F’が形成されている。なお、前記先端部24に関して、先端部24の表面Fは、基本的に回転軸50に対して垂直に向く部分であるが、ここに垂直の面を設けず、先端部24の表面Fが、曲率半径(R―1)のアール面Eから曲率半径(R―0)のアール面F’へと直接移行する曲面でも良い。少なくとも曲率半径(R―0)のアール面F’の存在により、前記バックアップリング2の先端部24の内端面に形成される角部でシールリップ3が傷つくことがない。
【0027】
第1実施の形態のシール装置にあっては、好適な例として、アール面F’の曲率半径(R―0)が0.1mm、アール面Eの曲率半径(R―1)が0.4mm、表面Dの曲率半径(R―2)が3.0mm、アール面Cの曲率半径(R―3)が3.0mmとなっている。
【0028】
また第1実施の形態のシール装置にあっては、バックアップリング2は、その固定部21から連続して延びる延出部22の表面Bが前記回転軸50と略平行な面となっており、前記延出部22の表面Bからテーパー部23の表面Dへと移る第2境界部29の表面であるアール面Cは、テーパー部23の表面Dの曲率半径(R―2)よりも大きい曲率半径(R―3)のアール面としてもよい。さらに、固定部21の形状は任意であり、また延出部22の表面Bが前記回転軸50と略平行な面である必要がないはばかりか、固定部21と延出部22とを格別区別する必要もない。
【0029】
一般に前述したように、大きな被密封流体圧がゴム材製のシールリップ3の外周に加わった場合、シールリップ3が回転軸50の軸方向へ押され、バックアップリング2のテーパー面が回転軸方向へ折り返される角部(アール面Eの近傍)と、シールリップ3のシール内面との間に過大な応力が発生し、アール面Eの近傍に位置するシールリップ3に相当ミーゼス応力が加わることになる。そこで図4に示されるように、第1実施の形態のシール装置(本発明品)のバックアップリング2によりもたらされる相当ミーゼス応力と、比較例1、2、3の構造の異なるバックアップリングを用いた場合にもたらされる相当ミーゼス応力の測定(試験1)と、温度条件を変更するとともに圧力変動を与えてシールリップの切れやすさを評価する実験(試験2)を行った。
【0030】
ここで(1)バックアップリングの比較例1においては、アール面C1がほぼアールの存在しない角であり、表面D1がほぼアールの存在しない平面。(2)バックアップリングの比較例2においては、アール面C2が曲率半径1.5mmであり、表面D2がほぼアールの存在しない平面。(3)バックアップリングの比較例3においては、アール面C3が曲率半径1.0mmであり、表面D3がほぼアールの存在しない平面になっている。
【0031】
試験1の試験条件として、油温を200℃と定め、被密封流体圧力として8MPaの圧力をかけることとし、各バックアップリング形状によるリップ先端最大相当ミーゼス応力を、FEM解析結果として出力した。
【0032】
試験2の試験条件として、油温を220℃と定め、圧力変動幅を2MPaとし、6MPaと8MPaの圧力を交互にかけることとし、この脈動回数を2400回とした。更に軸の偏心として軸偏心を0.3mmとし、各バックアップリング形状によるのシールリップの切れやすさを評価した。
【0033】
試験1の結果として、図5に示されるように、比較例1にあってはリップ先端最大相当ミーゼス応力が15.2MPa、比較例2にあってはリップ先端最大相当ミーゼス応力が13.3MPa、比較例3にあってはリップ先端最大相当ミーゼス応力が8.3MPaであり、第1実施の形態のシール装置(本発明品)にあってはリップ先端最大相当ミーゼス応力が7.9MPaであった。更に図6に示されるように、緊迫力(N)についての測定でも第1実施の形態のシール装置(本発明品)のものが、約184Nと、他の比較例のものより低く、発熱に対して強いことが確認された。
【0034】
試験2の結果では、他の比較例1,2,3のシールリップに全て切れが発生した後も、第1実施の形態のシール装置(本発明品)のシールリップに切れが発生せず、シールリップに発生する相当ミーゼス応力の軽減が図られていることが明らかになった。
【0035】
ここで図7に基づき、第1実施の形態のシール装置のバックアップリングと、これに比較的近似している比較例3のバックアップリングとを比較する。一般に流体収納室X側の圧力がシールリップ3に作用すると、リップ先端部が回転軸に対して圧接されると同時に、シールリップ3からの押圧力がバックアップリング2に伝わることになる。そして特に、シールリップ3は、バックアップリング2のテーパー部の表面から先端部の表面へと移る境界部(バックアップリングの角部)に強力に当接され、ここに極めて大きな相当ミーゼス応力が集中する傾向にある。
【0036】
図7によれば、比較例3のバックアップリング2のテーパー部である表面D3は直線面として形成されている。さらに固定部から連続して延びる直線面である延出部の表面B3と、直線面であるテーパー部の表面D3との境界部には、アール面C3が形成されている。これに対して第1実施の形態のシール装置で利用されるバックアップリング2は、テーパー部の表面Dの全面部(または一部)に、比較的大きな曲率半径を持つ直線面ではない面が形成されている。
【0037】
上記比較試験の結果からも明らかなように、第1実施の形態のシール装置で利用されるバックアップリング2のテーパー面における少なくとも一部(全面でも可能)の膨らんだ丸み(曲率半径)は、シールリップ3を保持するバックアップリング2のテーパー面の面積の増大に寄与しており、流体収納室Xの圧力がシールリップ3に働いても、この増大した接触面の摩擦力によりシールリップ3とバックアップリング2のテーパー面間に生ずる僅かなズレの発生を効果的に抑制されることになるのである。したがって、バックアップリングのテーパー部の表面から先端部の表面へと移る第1境界部26のアール面Eに位置しているシールリップに、相当ミーゼス応力が極端に集中せず、シールリップ3により確実な軸シールを維持しつつ、シールリップ3に発生する相当ミーゼス応力の軽減が図られ、シールリップの耐用期間を従来品に比較して長期に延ばすことができることになるのである。
【0038】
特に、この第1実施の形態のシール装置にあっては、テーパー部23の表面Dの全面が、第1境界部26のアール面Eの曲率半径(R―1)より大きなほぼ一定の曲率半径(R―2)を持った凸曲面からなる先細りのテーパー面に形成されており、さらに前記延出部22の表面Bからテーパー部23の表面Dへと移る第2境界部29の表面であるアール面Cも曲率半径(R―2)の凸曲面となっている。この場合、アール面Cの曲率半径(R―3)とテーパー部23の表面Dの曲率半径(R―2)とは同じ曲率半径となっている。
【0039】
このようにアール面Cの曲率半径(R―3)とテーパー部23の表面Dの曲率半径(R―2)とを同じ曲率半径にすれば、バックアップリング2の製造が容易になるが、これに限らず、テーパー部の表面であるテーパー面の曲率半径(R―2)以上の曲率半径(R―3)をもったアール面Cとすることもできる。
【0040】
特に比較例3のバックアップリング2などにあっては、固定部から連続して延びる直線面である延出部の表面B3と、直線面であるテーパー部の表面D3との境界部には、アール面C3が比較的目立つ屈曲部として表れる。このように比較的曲率半径の小さな屈曲部が存在すると、流体収納室の内部圧の変動によりシールリップ3がこの屈曲部でバックアップリング2と乖離を起こしやすくなり、シールリップ3とバックアップリング2のテーパー面間に生ずる僅かなズレを助長することになる。しかし第1実施の形態のシール装置にあっては、テーパー部の表面Dは既に所定の曲率半径で延びてきており、テーパー部の表面Dから前記延出部の表面Bへと緩やかに移る境界部となるため、極端な屈曲部が存在しないことになり、シールリップ3とバックアップリング2のテーパー面間に生ずる僅かなズレの発生を効果的に抑制できることになる。
【0041】
図8には、シールリップ3の構造が示されており、固定部から連続して延びる延出部、テーパー部、そしてリップ先端部31とを有してなる前記バックアップリング2により支持される前記シールリップ3の内側面が、少なくとも前記シールリップ3の成型時において、予め前記バックアップリング2のテーパー部の表面Dである凸曲面に合致する凹曲面32として形成されている。このように、シールリップ3が、前記バックアップリング2のテーパー部である凸曲面の表面Dに合致する凹曲面32に予め形成されていると、シールリップ3の凹曲面32とテーパー部である凸曲面の表面Dとが平常圧状態においても合致しており、さらにこのシールリップ3は、従来のシールリップの内側面が直線面を有するものより変形し難く、シールリップ3自体の素材強度と相俟ってシールリップ3とバックアップリング2のテーパー面間に生ずる僅かなズレの発生を効果的に抑制できることになる。
【0042】
図9には、第2実施の形態のシール装置が示されており、第1実施の形態のシール装置と相違する点は、第1実施の形態のシール装置が、特にテーパー部23の表面Dの全面が、第1境界部26のアール面Eの曲率半径(R―1)より大きなほぼ一定の曲率半径(R―2)を持った凸曲面からなる先細りのテーパー面に形成されているのに対して、第2実施の形態のシール装置が、テーパー部23の表面Dが、前記第1境界部の曲率半径(R―1)より大きな曲率半径を持ち、かつ曲率半径がそれぞれ異なる面D1、D2、D3・・からなっており、このテーパー部23の表面Dがそれぞれ異なる曲率半径の組み合わせからなる直線面の存在しない先細りのテーパー面になっている点であり、流体収納室内の圧力分布に適するように曲率半径がそれぞれ異なる面D1、D2、D3を組み合わせて、テーパー部23の表面Dの曲線を種々変更できるため、シールリップとバックアップリングのテーパー面間に生ずる僅かなズレの発生を効果的に抑制できることになる。
【0043】
また、(D1の曲率半径)>(D2の曲率半径)>(D3の曲率半径)のように第1境界部26のアール面Eから次第に曲率半径が大きくなるようにすると、テーパー部の表面Dから前記延出部の表面Bへと緩やかに移る境界部となるため、極端な屈曲部が存在し難くなる。
【0044】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1 シール装置
2 バックアップリング
3 シールリップ
4 シールリップ
5 シールリップ
6 ハウジング
7 嵌着部
7A シール部分
8 補強環
21 固定部
22 延出部
23 テーパー部
24 先端部
26 境界部
27 内端面
29 境界部
31 リップ先端部
32 凹曲面
50 回転軸
61 嵌合孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を囲むように流体収納室側に延出するバックアップリングを有し、少なくとも前記バックアップリングが先細り形状となっており、このバックアップリングにより支持されたシールリップのリップ先端部が回転軸に対して当接可能となっているシール装置であって、
前記バックアップリングは、
その固定部から連続して延びる延出部、テーパー部、そして先端部とを順次有してなり、少なくとも前記テーパー部の表面から前記先端部の表面へと移る第1境界部には、所定の曲率半径(R―1)のアール面が形成されているとともに、前記延出部の表面から前記テーパー部の表面へと移る第2境界部の表面には、曲率半径(R―3)のアール面が形成されており、
更に、前記第1境界部であるアール面に接している前記テーパー部の表面は、前記第1境界部の所定の曲率半径(R―1)より大きな曲率半径(R―2)を持つ凸曲面であるとともに、該テーパー部の表面の曲率半径(R―2)は、前記第2境界部の表面のアール面の曲率半径(R―3)と同じ曲率半径となっていることを特徴とするシール装置。
【請求項2】
前記バックアップリングは、前記固定部から連続して延びる前記延出部の表面が前記回転軸と略平行な面となっていることを特徴とする請求項に記載のシール装置。
【請求項3】
前記バックアップリングの先端部には、回転軸とほぼ平行な内端面が形成され、前記先端部の表面から前記内端面へと移る境界部には、前記所定の曲率半径(R―1)のアール面より小さい曲率半径(R―0)のアール面が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のシール装置。
【請求項4】
固定部から連続して延びる延出部、テーパー部、そして先端部とを有してなる前記バックアップリングにより支持される前記シールリップの内側面が、少なくとも前記シールリップの成型時において、予め前記バックアップリングのテーパー部である凸曲面に合致する凹曲面として形成されていることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載のシール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−255565(P2012−255565A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−222220(P2012−222220)
【出願日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【分割の表示】特願2008−503755(P2008−503755)の分割
【原出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000101879)イーグル工業株式会社 (119)
【Fターム(参考)】