説明

シール面の仕上げ加工用工具

【課題】構造が単純であり、回転式切削工具により切削加工されたシール面に螺旋状に形成された切削痕を、確実に平滑化することができるシール面の仕上げ加工用工具を提供する。
【解決手段】シール面の仕上げ加工用工具1は、本体10、本体の先端側に形成されシール面に接触する円環状の平坦な加工面11、加工面11を取り囲むようにその外側に形成され本体の縦断面において加工面に対して20乃至30°の角度で本体の基端側に向けて傾斜する肩部12、加工面11に囲まれた領域に凹形状に形成された逃がし部13、及び本体の基部を先端側に向けて押圧する押圧部材を有する。本体の縦断面において加工面の内縁で凹形状に接線を引いたときの接線の延長線と加工面とのなす角度は20乃至30°であり、回転式切削工具により切削加工されたシール面に、加工面11を適宜の押圧力で接触させ、加工面に平行に本体を移動させることによりシール面を仕上げ加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転式切削工具を使用して切削加工されたシール面を仕上げ加工するシール面の仕上げ加工用工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶、半導体部品製造用の真空チャンバ等には、アルミニウム等の金属を機械加工して製造された部品が使用されている。そして、真空チャンバ等の部品同士が接触する部分には、内部の気密性を確保するために、接触する部品の片方又は両方に、図5(a)に示すような矩形断面の溝20が設けられ、この溝20にOリング等のシール部材4が介装される。又は、図5(b)に示すように、部品2の凹部23周縁に、凹部23よりも段差状に高く溝20が設けられ、この溝20にシール部材4が介装される。
【0003】
シール部材4を介装するために部品に設けられる溝20は、図6(a)に示すように、通常、フライス盤等の工作機械を使用して、エンドミル等の回転式切削工具22で切削加工する。
【0004】
このように加工される溝20の底部21には、回転式切削工具22によって切削加工することにより、図6(b)に示すように、螺旋状の切削痕21aが残る。この切削痕21aは、図7に示すように、溝底面21において、回転式切削工具22の加工軌跡に対して垂直な方向成分を含む微小な隙間21cを形成する。従って、溝20に沿う形状のシール部材をこの微小な隙間21c上に載置した場合、気密性を確保すべき空間の内外が貫通してしまう。そして、真空チャンバ等における気密性、真空性を維持することができなくなるという問題点がある。
【0005】
この問題点を解決するために、へールバイトという切削工具を使用して、溝底面21をなぞるように切削する技術が特許文献1,2に開示されている。この仕上げ加工は、へール加工とよばれている。
【0006】
また、図8に示すように、微小な隙間21cが形成された溝20の底面21を、仕上げ加工用工具1aを使用して押圧し、隙間21cを押し潰して仕上げ加工する方法も考えられる。しかしながら、仕上げ加工用工具1aとして例えば単純な棒状の工具を使用した場合、溝底面21と工具との接触面積が大きいため、溝底面21を切削してしまう。そして、溝底面21が切削されると、シール部材を介装したときに溝底面21とシール部材との接触面積が減少し、所望のシール性が得られなくなると共に、仕上げ加工後に更に削り屑を除去する工程が必要となり、加工コストが増大する。また、仕上げ加工時に生成した削り屑は、仕上げ加工時の熱によって、仕上げ加工用工具1aの下面又は溝底面21に付着する。そして、工具1aの下面に削り屑が付着した場合、付着した削り屑が溝底面21を更に掘り下げ、溝底面21に削り屑が付着した場合と同様に、所望の仕上げ面が得られなくなる。
【0007】
一方、溝底面における仕上げ加工用工具の接触面積を小さくするために、平板状の工具1aを使用した場合、エンドミル等を使用したミル加工時の加工軌跡に沿って仕上げ加工すると、図9に示すように、隙間21cが押し潰される部分の幅が仕上げ加工用工具1aの進行に伴って局所的に狭まる。そして、シール部材4が溝底面21に接触する部分の一部に隙間21cが残存し、所望のシール性を確保することができない。この問題を解決するためには、隙間21cを押し潰す部分の幅を均一に保持するように工具1aを回転させる必要がある。
【0008】
上述の特許文献1に開示された技術は、溝底面において矩形をなす平板状工具を、回転させながら溝に沿って進行させて荒仕上げし、その後、仕上げ加工用工具の切削刃を進行方向に対して法線方向をなすように回転制御しながら進行させて、仕上げ削りを施すものである。
【0009】
また、特許文献2に開示された技術は、仕上げ加工用工具の形状を溝底面において円環状とし、円環の周縁に切削刃を設けて溝底面を均一の幅で切削加工して仕上げ加工するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−126520号公報
【特許文献2】特開2002−144137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述の従来技術には以下のような問題点がある。特許文献1に記載の技術は、仕上げ加工用工具の切削刃を進行方向に対して法線方向をなすように回転制御する構成であるため、加工する溝の形状に合わせて適宜工具の回転を複雑に制御する必要がある。
【0012】
また、特許文献1及び2に記載された技術は、切削加工時に回転式切削工具によって形成された溝底面を更に切削加工する構成であるため、上述の如く、仕上げ加工後に溝底面21とシール部材との接触面積が減少するか、又は発生した削り屑が仕上げ加工用工具若しくは溝底面に付着して、所望のシール性が得られなくなる。また、削り屑が工具又は溝底面に付着しなかった場合においても、これを除去する工程が必要となり、加工コストが増大するという問題点がある。
【0013】
更に、従来のフライス盤等の工作機械においては、図8に示すように、工具をホルダ30にチャックした状態で仕上げ加工を行うため、例えば平板状の仕上げ加工用工具を使用して仕上げ加工を行う場合、工具が溝底面と接触する部分の面積が依然大きく、切削痕を押し潰す際に工具が焼き付いて、仕上げ面が平滑に形成されないという問題点がある。
【0014】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、構造が単純であり、回転式切削工具により切削加工されたシール面に螺旋状に形成された切削痕を、確実に平滑化することができるシール面の仕上げ加工用工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るシール面の仕上げ加工用工具は、回転式切削工具を使用して切削加工されたシール面を仕上げ加工するためのシール面の仕上げ加工用工具において、本体と、この本体の先端側に形成され前記シール面に接触する円環状の平坦な加工面と、この加工面を取り囲むようにその外側に形成され前記本体の縦断面において前記加工面に対して20乃至30°の角度で前記本体の基端側に向けて傾斜する肩部と、前記加工面に囲まれた領域に凹形状に形成された逃がし部と、前記本体の基部を先端側に向けて押圧する押圧部材と、を有し、前記本体の縦断面において前記加工面の内縁で前記凹形状に接線を引いたときの前記接線の延長線と前記加工面とのなす角度が20乃至30°であり、前記加工面を前記回転式切削工具による切削面に押圧力をもって接触させ、前記加工面に平行に前記本体を移動させることにより前記シール面を仕上げ加工するものであることを特徴とする。
【0016】
また、前記円環状の加工面の幅は、0.2乃至0.25mmであることが好ましい。
【0017】
更に、前記押圧部材は、例えば前記本体の基端部を先端側に向けて付勢する弾性部材である。
【0018】
この場合、前記弾性部材を圧縮スプリングバネによって構成することができる。
【0019】
そして、前記逃がし部は、例えば前記本体の先端部に開口する孔であり、この孔を介して前記加工面に潤滑油を供給してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のシール面の仕上げ加工用工具は、円環状の平坦な加工面、加工面を取り囲むように本体の基端側に向けて傾斜する肩部、加工面の内周縁に囲まれた領域に凹形状に形成された逃がし部、及び押圧部材だけで構成され、構造が単純である。
【0021】
また、加工面が円環状に設けられているため、仕上げ加工用工具を進行方向に沿って回転させる機構を有しない工作機械に設置した場合においても、均一な幅で加工面を被切削部材に接触させて仕上げ加工することができる。
【0022】
そして、この円環状の加工面は、押圧部材によって切削面に押圧力をもって接触するように構成されており、加工面に囲まれた領域に凹形状の逃がし部が設けられ、加工面の外側には加工面に対して所定の角度をなして傾斜した肩部が設けられている。そして、逃がし部は、本体の縦断面において加工面の内縁で凹形状部分に接線を引いたとき、この接線の延長線と加工面とが所定の角度をなすように設けられている。従って、工具の焼き付きを発生させない範囲において、仕上げ加工用工具と溝底面との接触面積を小さくすることができ、螺旋状の切削痕を均一な押圧力で確実に押し潰して平滑化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は本発明の実施形態の仕上げ加工用工具を加工面側からみた斜視図、(b)は本実施形態の仕上げ加工用工具を示す一部断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る仕上げ加工用工具の本体及びホルダを示す縦断面図である。
【図3】(a)は本実施形態に係る仕上げ加工用工具による仕上げ加工工程を示す上面図、(b)は(a)を仕上げ加工用工具の進行方向からみた一部断面図である。
【図4】本発明の仕上げ加工用工具の変形例を示す一部断面図である。
【図5】(a)は真空チャンバ等に使用される部品及びシール部材を示す斜視図、(b)は真空チャンバ等に使用される他の部品及びシール部材を示す斜視図である。
【図6】(a)はエンドミルによるフライス加工工程を示す斜視図、(b)は(a)の上面図である。
【図7】図6(b)のA−A断面における溝底面を示す一部断面図である。
【図8】従来の仕上げ加工用工具による仕上げ加工工程を示す断面図である。
【図9】従来の仕上げ加工用工具による仕上げ加工工程を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。図1(a)は本発明の実施形態の仕上げ加工用工具の本体を加工面側(上下逆に)からみた斜視図、(b)は本発明の実施形態の仕上げ加工用工具の本外の下半部を示す断面図、図2は本実施形態の仕上げ加工用工具の本体及びホルダを示す断面図、図3(a)は本実施形態に係るシール面の仕上げ加工用工具による仕上げ加工工程を示す上面図、(b)は(a)を仕上げ加工用工具の進行方向からみた一部断面図である。
【0025】
図1(a)に示すように、本実施形態のシール面の仕上げ加工用工具1の本体10は、全体的に円柱状をなし、その先端に円環状の平坦な加工面11が形成されている。そして、この本体10の先端には、円環状の加工面11を取り囲むようにして、本体半径方向外方に肩部12が形成されており、この肩部12は、本体10の平坦加工面11から本体10の基端側に向けて傾斜する斜面を有している。この肩部12の傾斜角度αは、図1(b)に示す縦断面図において、平坦加工面11に対して20乃至30°の角度をなしている。また、加工面11に囲まれた本体の中心領域には、凹形状の逃がし部13が設けられており、本体10の縦断面において加工面11の内縁で凹形状部分に接線を引いたとき、この接線の延長線と加工面とは20乃至30°の角度βをなしている。円柱状の本体10は、外径Dが例えば10乃至30mmである。そして、本実施形態においては、加工面11の幅Wは例えば0.2乃至0.25mmである。即ち、例えば加工面11によって平滑化する部分の幅を10mmとする場合、本体10の逃がし部13の直径d1は9.5乃至9.6mmである。
【0026】
そして、図2に示すように、本実施形態の仕上げ加工用工具1は、例えば、フライス盤等の工作機械3における主軸等のホルダ30に取り付けられる。フライス盤等の工作機械においては、図8に示すように、工具1aをホルダ30に着脱可能に取り付けるが、本実施形態においては、工作機械3の工具1aの代わりに、仕上げ加工用工具1をホルダ30に取り付ける。即ち、ホルダ30は、取り付け用の孔31がホルダ中心軸に同軸的に且つ先端(下端)に開口するように形成されており、仕上げ加工用工具1はその基端部側から孔31内に挿入される。このとき、ホルダ30の孔31の上端の壁と、仕上げ加工用工具1の本体10の基端部側端面との間に圧縮スプリングバネ15を介装しておく。これにより、本体10は、バネ15により、その基端部が押圧され、本体10がその先端部側に向けて付勢されるようになっている。従って、本体10はその先端の加工面11が図3に示すエンドミルにより切削加工された被加工部材2のシール面(溝底面21)に押圧される。また、工具1の本体10側面のホルダ30に挿入された部分において、一部溝16を設けると共に、この溝16にホルダ30側から抜け止め用のネジ30aを介装する。これにより、工具1はホルダ30から抜けることなく圧縮スプリングバネ15による弾性力を受け、被加工部材2のシール面(溝底面21)に押圧される。
【0027】
なお、圧縮スプリングバネ15の長さは例えば50mmである。バネ15の長さが必要以上に短いと、バネ定数の増加によって押圧力の調整が困難となるため、ホルダ30からの工具1の突出長さとの関係でバネ15の長さを決定することが好ましい。また、本体10の外径Dが例えば20mmの場合、圧縮スプリングバネ15による押圧力は125kgf程度であるが、被切削部材2の材質、及びミル加工後の溝底面21の粗度によってバネ15の押圧力を調整することが好ましい。この場合、ホルダ30の孔31の上端の壁に例えばスプリングの押圧力を調整するネジ30bを設け、孔31上端の壁からのネジ30bの突出量を調整することによって、圧縮スプリングバネ15の押圧力を調整することができる。更に、仕上げ加工時の工具1の倒れを防止するために、ホルダ30が被切削部材2等に干渉しない範囲において、ホルダ30からの工具1の突出長さはできるだけ短いことが好ましい。
【0028】
次に、本実施形態のシール面の仕上げ加工用工具1の動作について説明する。例えば、図5に示すような真空チャンバのOリング配置用溝20をエンドミル等の回転式切削工具22により切削加工する。そうすると、この溝20の底部21には、回転式切削工具22によって切削加工することにより、図6(b)及び図3(a)に示すように、螺旋状の切削痕21aが残る。
【0029】
次いで、工作機械3のホルダ30に本実施形態の仕上げ加工用工具1を装着し、溝20の上方からホルダ30を下降させることにより、加工用工具1の本体10を下降させ、本体10の先端(下端)の平坦な加工面11を溝底面21に接触させる。そして、更にホルダ30が下降すると、圧縮スプリングバネ15が縮退して、本体10に付勢力を及ぼし、本体10の加工面11を溝底面21に押圧する。そして、この状態で、図3(a)に示すように、ホルダ30を溝20に沿って移動させることにより、本体10の加工面11は溝底面21の切削痕21aを押し潰して、溝底面21を平滑化する。
【0030】
ホルダ30の移動は、被切削部材2に対する相対的なものであり、ホルダ30を移動させても良いし、被切削部材2を移動させてもよい。また、本実施形態の仕上げ加工用工具1は、溝底面21上で加工面11に平行に移動することにより、切削痕21aを押し潰すものであり、回転(自転)はしない。従って、本体10又はホルダ30と溝20との位置関係は一定であり、本体10は、溝20に沿って一方向に摺動する。そして、本体10の加工面11が円環状をなしているので、本実施形態の加工用工具1は、図3(a)に示す溝20の屈曲部分を通過する際にも、本体10又はホルダ30と溝20との位置関係を一定にしたままで良い。つまり、本体10は溝20の90°の屈曲部分においても、その向きは一定であるので、結果的に、本体10はその進行方向に対し屈曲方向と反対方向に相対的に自転することになる。このように、本体10は屈曲部で進行方向に対して相対的に自転することにより、本体10が向いている方向は、常に一定の方向であるので、この本体10を保持するホルダ30の向きも常に一定とすることができる。従って、工作機械におけるホルダ30の移動の制御は、屈曲部において、ホルダの回転を伴わず(進行方向に対しては相対的に自転するが)、ホルダの溝20に沿う移動のみであるので、容易である。
【0031】
上述の如く、本体10の加工面11が溝20に沿って、溝底面21に摺動することにより、溝底面21の圧痕21aが押し潰されて、表面が平滑化される。これにより,溝底面21には平滑面21bが形成される。このとき、圧縮スプリングバネ15によって、加工面11の溝底面21に対する押圧力は一定に保持されるので、平滑面21bが溝の進行方向にうねりを生じることが防止される。また、この平滑面21bの幅は、仕上げ加工用工具1の進行方向に沿って常に一定である。なお、このとき、平滑面21b上には、仕上げ加工用工具1の摺動による微小な圧痕が形成される場合があるが、この圧痕の方向は、溝20の長手方向に平行である。即ち、この微小圧痕には、溝20の幅方向に延びる成分がなく、シール部材を平滑面21b上に介装した場合においても、溝20とシール部材との間にはシール面(溝20)の幅方向に延びる隙間が生じることはない。よって,シール部材によるシール性は、確実に確保することができる。
【0032】
本実施形態の仕上げ加工用工具1は、加工面11の外側に形成された肩部12が加工面11に対して20乃至30°の角度αをなして傾斜している。肩部12の傾斜は、仕上げ加工用工具1が溝底面21に接触する面積を小さくすると共に、加工面11が溝底面21を押圧する力を円柱状の本体10の基端側から安定的に支持し、被切削部材2を塑性変形させて平滑面21bを安定して形成することに寄与している。そして、肩部12が加工面11に対してなす角度αが20°未満であると、加工面11が溝底面21を押し潰して平滑面21bを形成する際、肩部12が溝底面21に接触する面積が増大し、溝底面21に対して実質的に加工面11と同等の作用を及ぼすようになる。従って、溝底面21を切削して削り屑が生じたり、切削痕21aを押し潰す際に工具が焼き付いて、仕上げ面が平滑に形成されなくなる虞がある。一方、肩部12が加工面11に対してなす角度αが30°を超えると、円柱状の本体の基端側から溝底面21を押圧する力を支持する作用が小さくなり、溝底面21における切削痕21aの押し潰しが不十分となり、平滑面21bの安定した形成が困難になる。従って、本発明において、肩部12が加工面との間になす角度αを20乃至30°と規定する。
【0033】
本実施形態の逃がし部13は、本体の先端側の加工面11に囲まれた領域に設けられており、凹形状をなしている。そして、この凹形状の逃がし部13も、肩部12と同様に、本体10の縦断面において加工面11の内縁で凹形状部分に接線を引いたとき、この接線の延長線と加工面11とは20乃至30°の角度βをなしている。加工面11に対する逃がし部13の角度を規定することにより、肩部12と同様に、仕上げ加工用工具1が溝底面21に接触する面積を小さくすると共に、加工面11が溝底面21を押圧する力を円柱状の本体10の基端側から安定的に支持し、被切削部材2を塑性変形させて平滑面21bを安定して形成することができる。仕上げ加工においては、切削痕21aは、まず肩部12の傾斜面から加工面11までの間の部分に接触して押し潰されて、塑性変形する。しかしながら、加工方向前方側においては、切削痕21aが完全に塑性変形しきれずに、弾性変形によって形状が若干元に戻る場合がある。本実施形態においては、本体10の縦断面において加工面11の内縁で凹形状部分に接線を引いたとき、接線の延長線が加工面11との間になす角度βを、肩部12の傾斜角αと同一の範囲に設定することにより、弾性変形によって元に戻った切削痕21aを加工方向後方側でも確実に押し潰し、切削痕21aを確実に塑性変形させることができる。即ち、加工方向後方側において、逃がし部13の端部は加工方向前方側の肩部12と同じ作用を有する。従って、角度βを20乃至30°と規定する。この角度βは、加工面11に対する肩部12の傾斜角度αと同一であることが好ましい。
【0034】
本実施形態において、加工面11の幅Wは上述の如く、例えば0.2乃至0.25mmである。加工面11の幅Wが0.2mm未満であると、加工面11が溝底面21と実質的に線接触に近い形で接触するようになり、先端が鋭利になった加工面11がその端部で溝底面21を切削してしまったり、仕上げ加工用工具1自体が接触部分で潰れやすくなる。一方、加工面11の幅Wが0.25mmを超えた場合においても、加工面11が溝底面21に接触する面積が増大し、溝底面21を切削して削り屑を生じる。また、切削痕21aを押し潰す際に工具が焼き付いて、仕上げ面が平滑に形成されなくなる虞がある。従って、加工面11の幅を0.2乃至0.25mmと規定する。そして、逃がし部13の直径d1は、本体10の加工面11の幅を上述のように決めて、加工面と溝底面21との間の接触面積を調整すると共に、平滑面21bの幅を調整するために、決めることができる。この平滑面21bの幅は、シール部材の幅とシール性を考慮して決めることが必要である。即ち、溝底面21の上に、Oリング等のシール部材を載置した場合に、シール部材と溝底面21との接触領域が平滑面21bの幅とほぼ一致するようにした方が、シール性及び仕上げ加工の程度を考慮して、無駄がなく、効率的である。
【0035】
以上の工程を経て、溝底面21に平滑面21bを形成することにより、シール部材を介装したとき、シール部材が溝底面20の平滑面21bと隙間なく面接触するようになる。そして、シール部材による気密性が確保され、真空チャンバ等の部品の信頼性が向上する。
【0036】
本実施形態のシール面の仕上げ加工用工具1は、構造が単純である。また、溝底面21を押圧する加工面11が円環状に設けられているので、移動軌跡に沿って常時同一の幅で平滑面21bを形成する。従って、ホルダ30を回転する機構を有しない工作機械3に取り付けて仕上げ加工した場合においても、安定してシール面を仕上げ加工することができる。
【0037】
また、逃がし部13及び肩部12を設けることにより、加工面11が被切削部材2の溝底面21に接触する面積を小さく抑えることができ、接触面積の増大に伴う溝底面の切削、削り屑の発生及び焼き付きを防止することができる。
【0038】
また、本実施形態のシール面の仕上げ加工用工具1には、押圧部材として圧縮スプリングバネ15が設けられている。これにより、加工面の溝底面への押圧力を一定にすることができ、過度に大きい押圧力に起因する工具の焼き付き及び削り屑の発生を防止することができる。
【0039】
そして、このような本体10の溝底面21上の移動を複数回周回させ、仕上げ加工用工具1による仕上げ加工を複数回繰り返すと、平滑面21b上に残存する圧痕も更に一層消失させて表面をより一層平滑化することができる。
【0040】
なお、本実施形態においては、押圧部材として圧縮スプリングバネ15を設けたが、押圧部材は弾性部材に限らず、円柱状の本体10と工作機械3のホルダ30との間に空気圧又は油圧式のシリンダを設け、このシリンダによって加工面11の溝底面21に対する押圧力を制御してもよく、又は本体10とは別体的に空気圧又は油圧調整装置を設け、この空気圧又は油圧調整装置によって圧力が制御された加圧機構により、加工面11の溝底面に対する押圧力を制御してもよい。
【0041】
また、図4に示すように凹形状の逃がし部13に連通する潤滑油供給孔14を設け、仕上げ加工時に加工面11に潤滑油を供給するように構成すれば、潤滑油供給孔14から供給された潤滑油の潤滑作用により、シール面の仕上げ加工用工具の相対的な移動が円滑となり、工具の焼き付きが更に一層確実に防止される。
【符号の説明】
【0042】
1:(シール面の)仕上げ加工用工具、1a:仕上げ加工用工具、10:本体、11:加工面、12:肩部、13:逃がし部、14:潤滑油供給孔、15:圧縮スプリングバネ、16:溝、2:被切削部材、20:溝、21:溝底面、21a:切削痕、21b:平滑面、22:回転式切削工具、23:凹部、3:工作機械、30:ホルダ、30a:ネジ、30b:ネジ、4:シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転式切削工具を使用して切削加工されたシール面を仕上げ加工するためのシール面の仕上げ加工用工具において、
本体と、
この本体の先端側に形成され前記シール面に接触する円環状の平坦な加工面と、
この加工面を取り囲むようにその外側に形成され前記本体の縦断面において前記加工面に対して20乃至30°の角度で前記本体の基端側に向けて傾斜する肩部と、
前記加工面に囲まれた領域に凹形状に形成された逃がし部と、
前記本体の基部を先端側に向けて押圧する押圧部材と、
を有し、
前記本体の縦断面において前記加工面の内縁で前記凹形状に接線を引いたときの前記接線の延長線と前記加工面とのなす角度が20乃至30°であり、
前記加工面を前記回転式切削工具による切削面に押圧力をもって接触させ、前記加工面に平行に前記本体を移動させることにより前記シール面を仕上げ加工するものであることを特徴とするシール面の仕上げ加工用工具。
【請求項2】
前記円環状の加工面の幅は、0.2乃至0.25mmであることを特徴とする請求項1に記載のシール面の仕上げ加工用工具。
【請求項3】
前記押圧部材は、前記本体の基端部を先端側に向けて付勢する弾性部材であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシール面の仕上げ加工用工具。
【請求項4】
前記弾性部材は圧縮スプリングバネであることを特徴とする請求項3に記載のシール面の仕上げ加工用工具。
【請求項5】
前記逃がし部は前記本体の先端部に開口する孔であり、この孔を介して前記加工面に潤滑油を供給することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシール面の仕上げ加工用工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−234511(P2010−234511A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88059(P2009−88059)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】