説明

シール

【課題】シール作用は同じまま、封止すべき軸におけるシールリップの摩擦が減少されているシールリップを提供する。
【解決手段】アクリルゴムからなるシール区分2を備えるシール1において、シール区分2は、弾性変形による予圧下で密に、封止すべき機械要素3に当接可能である。シール機能を改善するために、シール区分2に構造5が設けられており、この構造5は、巨視的構造であり、かつ搬送ジオメトリ6、具体的には搬送ねじとして形成されている。シール区分2には、摩擦を減少させるコーティング4が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールであって、エラストマー材料からなるシール区分を備え、該シール区分が弾性的な予圧下で密に、相手側可動面に当接可能であるシールに関する。
【背景技術】
【0002】
シール技術において、エラストマー材料からなるシール、特にラジアルシャフトシールリングは、古くから公知である。シールリップとしてのエラストマー材料、例えばブタジエンゴム又はアクリルゴムは、材料に起因して良好なシール作用を有する。シールリップが回転軸に載着されると、エラストマー材料からなるシールリップの表面の歪みによって、自然のシール機構が生じる。このシール機構によって、シールリップと軸との間のシールギャップ内に浸入した封止すべき媒体が、封止すべき空間内に戻される。この利点に付随して、エラストマー材料からなるシールリップは、同時に、シールリップと軸との間を高い摩擦が支配して、エネルギ損失を増大させるという欠点を有する。エラストマーからなるシールリップを備えるシールの他、PTFEからなるシールリップを備えるシールも公知である。PTFEは、最小の摩擦係数により特徴付けられる部分結晶性の熱可塑性の材料である。しかし、PTFEからなるシールリップには、常に、大抵の場合溝状の搬送ジオメトリが設けられている。しかし、溝が運転中にオイルカーボンのデポジットによって目詰まりを起こす場合があることも判っている。これにより、搬送作用、ひいてはシール作用が悪化する。それゆえ、例えばドイツ連邦共和国特許出願公開第10128776A1号明細書において、PTFEからなる、搬送ジオメトリを備えるシールリップに、摩擦を減少させるコーティングを設けることが公知である。このコーティングは、軸とシールリップとの間の摩擦を減少させるのではなく、摩擦減少によって溝内のオイルカーボンの堆積を防止する。
【0003】
従来、エラストマー材料からなるシールリップに摩擦を減少させるコーティングを設けることは、摩擦減少に基づいてシールリップの表面の歪みの減少が発生して、シール機能を低下させるか、又は完全に消失させてしまうので行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第10128776A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、シール作用は同じまま、封止すべき軸におけるシールリップの摩擦が減少されているシールリップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の構成では、前記シール区分に摩擦を減少させるコーティングが設けられており、かつ前記シール区分にシール機能を改善するための構造が設けられているようにした。
【0007】
有利な形態は従属請求項に係る発明である。
【0008】
好ましくは、前記構造が巨視的に形成されている。
【0009】
好ましくは、前記構造が搬送ジオメトリとして形成されている。
【0010】
好ましくは、前記搬送ジオメトリが螺旋構造を備える。
【0011】
好ましくは、前記搬送ジオメトリが螺旋突起を備える。
【0012】
好ましくは、前記搬送ジオメトリが搬送ねじとして形成されている。
【0013】
好ましくは、前記搬送ジオメトリが少なくとも1つの波形のシールエッジを備える。
【0014】
好ましくは、オーバラップするか、又は互いに前後して配置される少なくとも2つの波形のシールエッジが設けられている。
【0015】
好ましくは、前記コーティングが硬質物質として形成されている。
【0016】
好ましくは、前記コーティングがダイヤモンドライクカーボンコーティングである。
【0017】
好ましくは、前記コーティングが潤滑塗料として形成されている。
【0018】
好ましくは、前記コーティングがポリマー層として形成されている。
【0019】
さらに本発明は、前記シールと、封止すべき機械要素として構成されている相手側可動面とを備えるアッセンブリ、又は前記シールと、カセットシールの可動スリーブとして構成されている相手側可動面とを備えるアッセンブリに関する。
【0020】
好ましくは、前記シールが、前記可動スリーブに当接する第1のシール区分及び第2のシール区分を備える。
【発明の効果】
【0021】
上記課題を解決するために、シール区分には、摩擦を減少させるコーティングと、シール機能を改善するための構造とが設けられている。摩擦を減少させるコーティングは、シールリップと封止すべき軸との間の摩擦を減少させる。これにより、このシールが使用されるユニット内のエネルギ損失も減少する。表面の歪みの減少に基づくシール作用の減少は、シール作用を改善するための構造によって補償されるので、このシールは結果的に、シール作用は同じまま、減少された摩擦を有する。構造は、有利には巨視的に形成されている。運転中、軸とシールリップとの間の摩擦に基づいて、シールリップの接触領域において微視的構造、特に筋目(Riefen及びRillen)が形成されることが判っている。これらの微視的構造は、シールリップのポンプ作用を改善して、シールリップのシール作用を向上する。摩擦を減少させるコーティングによって、これらの微視的構造は形成され得ない。しかし、これらの微視的構造の有利な効果は、巨視的構造によって補償される。巨視的構造は、特に、その作用が当初から存在しており、運転中に初めて形成されるわけではないという利点を有する。
【0022】
前記構造は搬送ジオメトリとして形成されていてよい。搬送ジオメトリは、運転中にシールギャップ内に浸入する媒体を、封止すべき空間内に戻し搬送する巨視的構造が、シールリップに刻まれることにより特徴付けられる。搬送ジオメトリは、このために、種々異なる形態で実現可能である。
【0023】
一形態では、搬送ジオメトリが螺旋構造を有する。螺旋突起は、シールリップから張り出した、例えば鎌形の形状を有する突出部を有する。突出部は、ポンプ作用が高まる有利な回転方向が生じるように配置されていてもよいし、ポンプ作用が両方向で等しいように配置されていてもよい。螺旋構造は、封止すべき空間に向かって、又は封止すべき空間とは逆方向に向かって、シールリップから突出した螺旋突起を有していてもよい。螺旋構造は、大抵の場合、シールエッジの空気側、つまり封止すべき空間とは反対側に設けられ、シールギャップを通して外部に達する流体を、封止すべき空間内に戻し圧送するように形成されている。
【0024】
搬送ジオメトリは、搬送ねじとして形成されていてもよい。搬送ねじは、シールリップ内に配置された単数又は複数のらせん状の溝を有する。この溝内において、封止すべき媒体は、運転中、流体力学的なプロセスによって、封止すべき空間に向かって圧送される。
【0025】
搬送ジオメトリは、少なくとも1つの波形のシールエッジを有していてもよい。シールエッジは、円形に、封止すべき軸上に載着されるのではなく、軸を閉鎖的に波形に包囲する。この構造の場合も、封止すべき媒体は、運転中、流体力学的なプロセスによって、封止すべき空間に向かって圧送される。この構造のシール作用を改善するために、オーバラップするか、又は互いに前後して配置される少なくとも2つの波形のシールエッジが設けられていてもよい。
【0026】
コーティングは硬質物質として形成されていてよい。硬質物質コーティングは、優れた滑り特性を有する低摩耗性及び耐食性の表面を形成しており、互いに相対的に運動する機械要素を封止するシール技術での使用のために極めて良好に適している。硬質物質コーティングは、大抵の場合、金属材料、例えば硬質クロム、セラミック材料、焼結材料からなる。エラストマー材料からなるシールの場合、プラスチック、例えばPTFEからなる硬質物質コーティングであってよい。PTFEからなるコーティングは、ポリマー層を形成する。PTFEは、特に低い摩擦係数を有しており、特にシール技術での使用において極めて耐摩耗性である。
【0027】
コーティングは、ダイヤモンドライクカーボンコーティングであってもよい。ダイヤモンドライクカーボンコーティング(Diamond−Like−Carbon Beschichtung:DLCコーティングとも呼ばれる)は、高い硬度、ひいては高い耐摩耗性を有する。さらに、DLCコーティングは、有利な摩擦特性を有する。さらに、DLCコーティングは、その他の硬質物質コーティングより低い脆性を有し、かつ略ポリマー状の特性を有することが可能であるという利点を有する。これにより、DLCコーティングは、特に弾性変形可能なシールリップのコーティングのために適している。DLCコーティングは、種々異なる形態でシールリップ上に被着可能である。気相からの物理的な蒸着(PVDとも呼ばれる)は、層を直接出発材料の材料蒸気の凝縮によってシールリップ上に形成する、真空をベースとしたコーティング法である。別の方法は、化学的な気相蒸着(CVDとも呼ばれる)である。シールリップの加熱された表面には、化学反応に基づいて、気相から固体成分が析出される。別の化学的な方法は、プラズマ重合である。この方法では、蒸気状の化合物がまずプラズマによって活性化される。DLCコーティングは耐久性が極めて高い。
【0028】
コーティングは潤滑塗料として形成されていてもよい。潤滑塗料は、固体潤滑剤、例えばPTFE、硫化モリブデン又はグラファイト、結合剤、例えば有機又は無機の樹脂、及び溶剤を含有する。さらに、潤滑塗料は、充填剤及び添加剤を含有してもよい。潤滑塗料の被着及び硬化後、乾性潤滑剤のように働くコーティングが生じる。摩擦負荷時、潤滑塗料層の段階的な移設又は剥離が発生する。それゆえ、潤滑塗料層の寿命は限定的である。潤滑塗料コーティングは安価である。
【0029】
アッセンブリは、本明細書で説明する形態のシールと、封止すべき機械要素として構成されている相手側可動面とを有していてよい。封止すべき機械要素は、有利には軸として構成されていてよい。これにより、シールは、有利にはラジアルシャフトシールリングとして使用可能である。
【0030】
アッセンブリは、本明細書で説明する形態のシールと、カセットシールの可動スリーブとして構成されている相手側可動面を有していてよい。有利には、アッセンブリは、カセットシールとして構成されている。
【0031】
前記アッセンブリを前提として、シールは、可動スリーブに当接する第1のシール区分及び第2のシール区分を有していてよい。これにより、2つのシールフランクが形成される。
【0032】
以下に、本発明に係るシールの幾つかの実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ねじ状の搬送ジオメトリを備えるスプリングレスのラジアルシャフトシールリングの概略図である。
【図2】螺旋突起を備えるラジアルシャフトシールリングの概略図である。
【図3】波形を付したシールエッジを備えるシールリングの概略図である。
【図4】オーバラップするシールエッジを備えるシールリングの概略図である。
【図5】カセットシールの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、アクリルゴムからなるシール区分2を備えるシール1、本実施の形態ではラジアルシャフトシールリングを示す。シール区分2は、その他のエラストマー材料から製造されていてもよい。シール区分2は、弾性変形による予圧下で密に、封止すべき機械要素3に当接可能である。本実施の形態は、リングコイルばねを有しておらず、無圧での使用時における半径方向の押し付けは、弾性変形したシールリップの復元力によってのみ生じる。シール機能を改善するために、シール区分2に構造5が設けられている。この構造5は、巨視的構造であり、かつ搬送ジオメトリ6、具体的には搬送ねじとして形成されている。さらに、シール区分2には、摩擦を減少させるコーティング4が設けられている。このコーティング4は、本実施の形態では硬質物質コーティングであり、PVDによって被着されたDLCコーティングにより形成されている。
【0035】
図2は、ブタジエンゴムからなるシール区分2を備えるシール1、本実施の形態ではラジアルシャフトシールリングを示す。シール区分2は、アクリルゴム又はその他のエラストマー材料から製造されていてもよい。シール区分2は、弾性による予圧下で密に、封止すべき機械要素3に当接可能である。本実施の形態は、半径方向の押し付けを高めるリングコイルばねを有する。シール機能を改善するために、シール区分2に構造5が設けられている。この構造5は、巨視的構造であり、周囲に分配された複数の螺旋突起(Drallsteg)により形成されている。螺旋突起は、半径方向で突出するか、又は一方の回転方向で曲げられていてもよい。突出するように形成されたこの種の螺旋突起は、優先回転方向を有する。螺旋突起は交互に曲げられてもよい。交互に曲げられた場合、螺旋突起のジグザグ状の配置が生じる。この螺旋突起は、優先回転方向を有しておらず、交番螺旋(Wechseldrall)とも呼ばれる。螺旋突起は搬送ジオメトリ6を形成する。さらに、シール区分2には、摩擦を減少させるコーティング4が設けられている。このコーティング4は、本実施の形態では硬質物質コーティングであり、潤滑塗料(Gleitlack)により形成されている。
【0036】
図3は、フッ素ゴムからなるシール区分2を備えるシール1を示す。シール区分2は、アクリルゴム又はその他のエラストマー材料から製造されていてもよい。シール区分2は、弾性による予圧下で密に、封止すべき機械要素3に当接可能である。シール機能を改善するために、シール区分2に構造5が設けられている。この構造5は、巨視的構造であり、波形のシールエッジにより形成されている。このシールエッジは搬送ジオメトリ6を形成する。さらに、シール区分2には、摩擦を減少させるコーティング4が設けられている。このコーティング4は、本実施の形態ではポリマーコーティングであり、PTFEからなる被覆により形成されている。
【0037】
図4は、図3に示したシール1を示す。シール1は、本実施の形態では、オーバラップする2つのシールエッジを有する。
【0038】
図5は、組み込まれたラジアルシャフトシールリングを備えるホイールベアリングシールカセットとして構成されているシール1を示す。シール1は、フッ素ゴムからなるシール区分2を備える。シール区分2は、その他のエラストマー材料から製造されていてもよい。シール区分2は、弾性による予圧下で密に、カセットの可動スリーブ3aに当接可能である。シール機能を改善するために、シール区分2に構造5、本実施の形態では螺旋突起が設けられている。第2のシール区分7が軸方向でカセットの可動スリーブ3aに当接している。第1のシール区分2にも、第2のシール区分7にも、それぞれ、摩擦を減少させるコーティング4が設けられている。コーティング4は、本実施の形態では硬質物質コーティングであり、PVDによって被着されたDLCコーティングにより形成されている。
【符号の説明】
【0039】
1 シール、 2 シール区分、 3 機械要素、 3a 可動スリーブ、 4 コーティング、 5 構造、 6 搬送ジオメトリ、 7 第2のシール区分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール(1)であって、エラストマー材料からなるシール区分(2)を備え、該シール区分(2)が弾性による予圧下で密に、相手側可動面に当接可能であるシールにおいて、前記シール区分(2)に摩擦を減少させるコーティング(4)が設けられており、かつ前記シール区分(2)にシール機能を改善するための構造(5)が設けられていることを特徴とする、シール。
【請求項2】
前記構造(5)が巨視的に形成されていることを特徴とする、請求項1記載のシール。
【請求項3】
前記構造(5)が搬送ジオメトリ(6)として形成されていることを特徴とする、請求項1又は2記載のシール。
【請求項4】
前記搬送ジオメトリ(6)が螺旋構造を備えることを特徴とする、請求項3記載のシール。
【請求項5】
前記搬送ジオメトリ(6)が螺旋突起を備えることを特徴とする、請求項4記載のシール。
【請求項6】
前記搬送ジオメトリ(6)が搬送ねじとして形成されていることを特徴とする、請求項5記載のシール。
【請求項7】
前記搬送ジオメトリ(6)が少なくとも1つの波形のシールエッジを備えることを特徴とする、請求項3記載のシール。
【請求項8】
オーバラップするか、又は互いに前後して配置される少なくとも2つの波形のシールエッジが設けられていることを特徴とする、請求項7記載のシール。
【請求項9】
前記コーティング(4)が硬質物質として形成されていることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載のシール。
【請求項10】
前記コーティング(4)がダイヤモンドライクカーボンコーティングであることを特徴とする、請求項9記載のシール。
【請求項11】
前記コーティング(4)が潤滑塗料として形成されていることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載のシール。
【請求項12】
前記コーティング(4)がポリマー層として形成されていることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載のシール。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項記載のシール(1)と、封止すべき機械要素(3)として構成されている相手側可動面とを備えることを特徴とする、アッセンブリ。
【請求項14】
請求項1から12までのいずれか1項記載のシール(1)と、カセットシールの可動スリーブ(3a)として構成されている相手側可動面とを備えることを特徴とする、アッセンブリ。
【請求項15】
前記シール(1)が、前記可動スリーブ(3a)に当接する第1のシール区分(2)及び第2のシール区分(7)を備えることを特徴とする、請求項14記載のアッセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−47513(P2011−47513A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96572(P2010−96572)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(501479868)カール・フロイデンベルク・カーゲー (73)
【氏名又は名称原語表記】Carl Freudenberg KG
【住所又は居所原語表記】Hoehnerweg 2−4, D−69469 Weinheim, Germany
【Fターム(参考)】