説明

ジアゾ感光フィルム、及びそれをフォトマスクとして使用するプリント配線板の製造方法。

【課題】
感光性樹脂のフォトマスクとして使用した時に、耐傷性と耐溶剤性が十分に高く、未硬化の液状感光性樹脂と接触しても傷が付いたりそのモノマーや溶剤によって侵されることがなく、また感光性樹脂が付着することもない、長時間繰り返し使用することができ耐久性が高いフォトマスクとして好適なジアゾ感光フィルムを提供する。
【解決手段】
透明支持体上に、(A)バインダー、(B)架橋剤、(C)ジアゾ化合物、及びジアゾ化合物と反応して発色する(D)カプラー成分からなる感光層を設けたジアゾ感光フィルムにおいて、該(A)成分が水酸基含有量3〜7質量%のセルロースエステル(A−1)、該(B)成分が低級アルキル化尿素樹脂(B−1)であり、その硬化物である架橋化セルロースエステル樹脂の分子量が30000以上であることを特徴とするジアゾ感光フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明支持体上に遮光性の発色画像を与える感光層を設けたジアゾ感光フィルム、さらに詳しくは、感光性樹脂のフォトマスクとして使用する際、耐傷性に優れ、かつ未硬化の液状感光性樹脂と接触しても、そのモノマーや溶剤によって侵されることがなく、また感光性樹脂が付着することがないので、長時間繰り返し使用することのできる耐久性の高いフォトマスクとして好適なジアゾ感光フィルム、及びそれをフォトマスクとして使用するプリント配線板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、透明支持体上に遮光性の発色画像を与える感光層を設けたジアゾ感光フィルムは知られている。このようなフィルムは、プリント配線板作製用、各種印刷原版作製用のフォトマスクに用いられている。例えば、プリント配線板の製造においては、銅張り積層板等の導電層(銅層)上に感光性樹脂層を設けたものにフォトマスク(パターン)を重ね、このフォトマスクを通して感光性樹脂層を所定時間密着焼き付け機で露光する。そして、露光された感光性樹脂層を現像してパターンを形成する。この後、前記導電層の不必要部分をエッチングにより除去し、さらに残存する感光性樹脂層を除去し、所定の配線パターンを有するプリント配線板を形成する。この作業中、密着焼付作業は、プリント配線板を作製する際に画像の解像度及び作業効率に深く影響を及ぼし、フォトマスクと感光性樹脂層との密着度が悪いと、ニュートンリング及びエア溜りが発生し、配線パターンが途切れたり、歪んだりする原因となる。また、密着度を良くするために、フォトマスクと感光性樹脂層との間に存在する空気を吸引除去することも行なわれており、こうしてフォトマスクと感光性樹脂層とは強く密着する。
【0003】
このようなフォトマスクとして使用できるジアゾ感光フィルムとしは、透明支持体上にジアゾ化合物とフェニルフェノールと、N−(2´−ヒドロキシ低級アルキル)β−レゾルシルアミドとを含有する感光層を形成したジアゾ感光フィルムが知られている(特許文献1参照)。しかしながら、遮光性に優れた発色画像と透明性という点では優れているものの、耐傷性及び、耐溶剤性に劣るために感光性樹脂層と接触した際に傷が付きやすく、またモノマーや溶剤によって侵されるため繰り返し使用することには限界があった。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば感光層中に平均粒径1〜8μmの固体微粉末を添加し耐傷性を改善する方法が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、このジアゾ感光フィルムは感光性樹脂層と接触した際に傷が付にくいという点では改善されているものの、耐溶剤性は依然として低く、長時間繰り返し使用するという点でその耐久性は十分に満足できるものではなかった。
【0005】
また、前記問題解決のために、感光層上にオーバーコート層を設け、耐傷性及び耐溶剤性を向上させたものが提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、オーバーコート層を形成する際、その塗工液中の溶剤が感光層に浸透する等の不都合を生じやすく、その製造に大きな困難を生じるという問題があった。また、この材料で形成したフォトマスクを用いて感光性樹脂層に潜像を形成する場合には、感光性樹脂層と、感光層に形成したパターンとの間にオーバーコート層が介在することになるため、感光性樹脂層に形成される画像解像度が低下するという問題を生じる。また、感光層の上にプロテクトフィルムをラミネートする方法も提案されているが、感光層とプロテクトフィルムとの間に気泡が入ったり、コスト高となる等の問題があった。
【0006】
さらに、以前我々は、透明支持体上に、(A)バインダー、(B)架橋剤、(C)ジアゾ成分、及び(D)カプラー成分からなる感光層を設けたジアゾ感光フィルムを提案し、そのバインダー成分がセルロースエステルであり、それを低級アルキル化尿素樹脂で架橋させることで、感光層が感光性樹脂層中の溶剤に対して耐溶剤性を有し、かつ表面耐傷性を有するジアゾ感光フィルムを見出し、特許出願した(特許文献4参照)。しかしその後の技術の進展に伴ない、さらなる生産性の向上という観点から、感光性樹脂のフォトマスクとして使用する際、未硬化の液状感光性樹脂と接触しても、耐傷性と耐溶剤性の両面でさらに優れた性能を有し、加えて、感光性樹脂が付着することがなく、長時間繰り返し使用することのできる耐久性の高いフォトマスクとして好適なジアゾ感光フィルムの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−15253号公報
【特許文献2】特開平7−168306号公報
【特許文献3】米国特許第5,382,495号明細書
【特許文献4】特開2000−47346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような状況下で、その問題を解決し、感光性樹脂のフォトマスクとして使用した時に、耐傷性と耐溶剤性が十分に高く、未硬化の液状感光性樹脂と接触しても傷が付いたりそのモノマーや溶剤によって侵されることがなく、また感光性樹脂が付着することもない、長時間繰り返し使用することのできる耐久性の高いフォトマスクとして好適なジアゾ感光フィルム、及びそれをフォトマスクとして使用するプリント配線板の製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、透明支持体上に、バインダー、架橋剤、ジアゾ化合物、及びジアゾ化合物と反応して発色するカプラー成分からなる感光層を設けたジアゾ感光フィルムにおいて、バインダーが水酸基含有量3〜7質量%であるセルロースエステル、架橋剤が低級アルキル化尿素樹脂であり、その硬化物である架橋化セルロースエステル樹脂の分子量が30000以上であって、かつ離型性樹脂を含有する感光層を透明支持体上に設けたジアゾ感光フィルムは、耐傷性と耐溶剤性が十分に高く、未硬化の液状感光性樹脂と接触しても傷が付いたりそのモノマーや溶剤によって侵されることがなく、また感光性樹脂が付着することもないので、その結果、フォトマスクとして使用した時に長時間繰り返し使用することができる耐久性の高いことを知り上記の課題を解決できた。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
[1]透明支持体上に、(A)バインダー、(B)架橋剤、(C)ジアゾ化合物、及びジアゾ化合物と反応して発色する(D)カプラー成分からなる感光層を設けたジアゾ感光フィルムにおいて、該(A)成分が水酸基含有量3〜7質量%のセルロースエステル(A−1)、該(B)成分が低級アルキル化尿素樹脂(B−1)であり、その硬化物である架橋化セルロースエステル樹脂の分子量が30000以上であることを特徴とするジアゾ感光フィルム。
【0011】
[2]感光層に(E)離型性樹脂を含有することを特徴とする[1]に記載のジアゾ感光フィルム。
【0012】
[3]前記(E)成分がパーフルオロアルキル樹脂であることを特徴とする[1]または[2]に記載のジアゾ感光フィルム。
【0013】
[4]前記感光層が、(F)平均粒径3〜20μmの球形フィラーを含有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のジアゾ感光フィルム。
【0014】
[5]銅張り積層板等の絶縁基板の表面に形成された導電層上に感光性樹脂層を設け、その上にフォトマスクを重ね、感光性樹脂層を所定時間密着焼き付け機で露光する工程を備えたプリント配線板の製造方法にあって、該フォトマスクが[1]〜[4]のいずれか一項に記載のジアゾ感光フィルムからなるものであることを特徴とするプリント配線板の製造方法。
【0015】
[6]前記ジアゾ感光フィルムの感光層表面が(F)平均粒径3〜20μmの球形フィラーに基づく凹凸を有することを特徴とする[5]に記載のプリント配線板の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
このように本発明のジアゾ感光フィルムを用いる場合、その感光層は耐傷性と耐溶剤性が十分に高く、未硬化の液状感光性樹脂と接触しても、傷が付いたりそのモノマーや溶剤によって侵されることがなく、また感光性樹脂が付着することがない、長時間繰り返し使用することのできる耐久性の高いものが得られる。
【0017】
よって本発明のジアゾ感光フィルムは上記のような効果を有するために、プリント配線板の分野において、その回路パターン形成工程におけるフォトマスクとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明のジアゾ感光フィルムを実施するための形態について説明する
【0019】
本発明のジアゾ感光フィルムは透明支持体上に、(A)バインダー、(B)架橋剤、(C)ジアゾ化合物、及びジアゾ化合物と反応して発色する(D)カプラー成分、及び(E)離型性樹脂を含有する感光層を設けたものである。それら感光層の各成分について順次説明する。
【0020】
(A)バインダー
本発明のバインダーとしては、水酸基含有量が3〜7質量%であるセルロースエステルであることが必要である。
【0021】
ここでいうセルロースエステルとは、セルロースの水酸基を酸と反応させエステルを作った化合物を意味し、画像露光された材料をアンモニア現像する際、アンモニアの透過性にすぐれ、かつ透明性にすぐれているので好ましい。
【0022】
本発明で用いるセルロースエステルとしては、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレートなどが挙げられ、中でもセルロースアセテートプロピオネートが透明性に優れるので好ましい。
【0023】
本発明においては、セルロースエステルは、水酸基含有量が3〜7質量%であることが必要である。それは、後に説明する架橋剤としての低級アルキル化尿素樹脂と架橋反応し、その硬化物の分子量が大きくなることで耐溶剤性が高くなるためである。すなわち、硬化物の分子量が30000以上であることが耐溶剤性を高くする上で必要であり、反対に硬化物の分子量が30000未満のものが含まれていると、その低分子量バインダーによって耐溶剤性が低下してしまうので好ましくない。硬化物の分子量の上限値としては、2000000程度であり、それ以上の高分子化は立体障害等のため難しい。なお、水酸基含有量は水酸基価滴定法によって直接確認することができる。
【0024】
このように本発明においては、(A)バインダーは水酸基含有量が3〜7質量%であるセルロースエステルであり、それは(B)架橋剤である低級アルキル化尿素樹脂で架橋しており、その硬化物の分子量が30000未満のものを実質的に含まない、分子量が30000以上の架橋化セルロースエステル樹脂であることによって、未硬化の液状感光性樹脂と接触しても、傷が付いたりそのモノマーや溶剤によって侵されることがなくなるので耐傷性と耐溶剤性が十分に高い感光層が得られる。そのためには、セルロースエステルの水酸基含有量は3〜7質量%であることが必要であり、さらに好ましくは3.5〜6.0質量%である。セルロースエステルの水酸基含有量が3質量%未満では、低級アルキル化尿素樹脂との架橋性が悪く、その硬化物の分子量が30000未満のものが残存することになり、耐傷性と耐溶剤性が低下する原因となる。また、7質量%を超えると、セルロースエステルの水酸基含有量が多すぎるため、極性が高くなり、かつ粘度も高くなるため、この後説明する塗工液を作製しようとしても溶媒に溶解性が悪く、透明支持体上に均一な感光層を形成することが困難になる。
【0025】
(B)架橋剤
本発明の架橋剤としては、低級アルキル化尿素樹脂であることが必要である。
【0026】
低級アルキル化尿素樹脂は、尿素とホルムアルデヒドとを縮合反応させて得られるメチロール基を有する初期縮合物(例えば、ジメチロール尿素やその2量体縮合物等)に低級アルコールを反応させて、そのメチロール基をエーテル基に変えることにより得られる熱硬化性を有する樹脂である。この低級アルキル化尿素樹脂を製造するに際し、ホルムアルデヒドの反応割合は、尿素1モル当りホルムアルデヒド0.5〜4.0モル、好ましくは1.3〜2.3モルの割合である。また、低級アルキル化尿素樹脂を得る場合に用いる低級アルコールとしては、炭素1〜6の低級アルコール、好ましくはブチルアルコールが用いられる。低級アルキル化尿素樹脂は、粉末状や溶液状(水溶液やキシレン/ブタノール溶液等)で用いられる。このような低級アルキル化尿素樹脂は既にDIC株式会社から商品名「ベッカミンG−1850」として市販されており、本発明ではこのような市販品を用いることができる。
【0027】
セルロースエステル用架橋剤としては種々のものがあるが、本発明者らの研究によれば、ジアゾ感光材料に用いるバインダー用架橋剤としては、前記低級アルキル化尿素樹脂が好適であることが見出された。ジアゾ感光材料におけるバインダー用の架橋剤としては、感光性樹脂層に対して耐溶剤性及び表面の耐傷性を付与し、かつ、ジアゾ成分及びカプラー成分と反応し、被画線部の光透過を妨げることのないものである必要がある。さらに、ジアゾ感光材料は、その作製時、乾燥温度が高すぎると乾燥中に発色してしまうため、120℃以下で架橋するものである必要がある。本発明で用いる低級アルキル化尿素樹脂は、このような要求特性を満たすものである。
【0028】
低級アルキル化尿素樹脂の配合割合は、水酸基含有量が3〜7質量%であるセルロースエステル100質量部当り、30〜100質量部の割合である。この範囲より架橋剤の割合が少ないとバインダーであるセルロースエステルとの架橋性が悪く、その硬化物の分子量が30000未満のものが残存することになり、感光層の耐傷性と耐溶剤性が低下するし、この範囲より架橋剤の配合割合が多いと、アンモニアの浸透性が低下し、現像スピードが遅くなったり、現像が不十分となる。
【0029】
なお、低級アルキル化尿素樹脂による水酸基含有量が3〜7質量%であるセルロースエステルの架橋化は、低級アルキル化尿素樹脂中に含まれるN−メチロール基とセルロースエステル中に含まれる水酸基との間のエーテル化反応に基づくものである。
【0030】
本発明では、水酸基含有量が3〜7質量%であるセルロースエステルと低級アルキル化尿素樹脂との架橋反応を促進するため、酸触媒が用いられる。酸触媒の例としては、クエン酸、酒石酸、スルホサリチル酸、p−トルエンスルホン酸等があげられ、中でもp−トルエンスルホン酸が反応性が高いので好ましい。
【0031】
酸触媒の配合量としては、低級アルキル化尿素樹脂100質量部に対して、2〜10質量部、さらに好ましくは3〜8質量部である。酸触媒の配合量が2質量部未満では、加熱した時の架橋反応速度が低下したり、加熱により十分な架橋反応を生じさせることができず、また、10質量部を超えると、反応性が高すぎて、透明支持体上に感光層を設けるために使用する、後に説明する塗工液の安定性が悪くなるので好ましくない。
【0032】
(C)ジアゾ化合物
本発明のジアゾ化合物としては、光分解性のジアゾニウム塩、ジアゾスルホネート、ジアゾアミノ化合物等、カプラー成分とカップリング反応を起こして発色すると共に光によって分解する、公知のジアゾ化合物の中から適宜選択して使用することができる。本発明においては、これらのジアゾ化合物の中でも特に光感度及び画像濃度の観点から下記一般式(I)で表されるジアゾ化合物を用いるのが好ましい。

(式中、R1、R2は低級アルキル基、Xはアニオンを示す)
【0033】
前記一般式(I)のジアゾ化合物において、その低級アルキル基R1、R2としては、炭素数1〜6の低級アルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のものが挙げられる。この場合の低級アルキル基R1、R2は同一又は異なっていてもよい。また、アニオンXとしては、例えば、PF6、BF4、Cl、1/2ZnCl2等が好ましいものとして挙げられる。
【0034】
(D)カプラー成分
本発明のカプラー成分としては、塩基性雰囲気下でジアゾ化合物とカップリングして色素を形成するもの、例えば、カルボニル基の隣にメチレン基を有するいわゆる活性メチレン化合物、フェノール誘導体、ナフトール誘導体などがあり、それらの中から、適時選択して用いることができる。
【0035】
その中でも、本発明のカプラー成分としては、フェニルフェノールと下記式(II)で表されるフェノール化合物との組合わせが用いられる。この場合のフェニルフェノールは下記式(III)で表される。ベンゼン環に結合する水酸基の位置はオルト、メタ又はパラ位であることができるが、好ましくはオルト位である。


【0036】
フェニルフェノールは、主に紫外線遮蔽性を有する黄色発色画像を得るために用いられる。また、前記式(II)で表されるフェノール化合物は、ジアゾ感光層にパターン識別のための茶系の色を発色するために用いられる。
【0037】
本発明において、(C)ジアゾ成分(I)(一般式(I)のジアゾ化合物)とカプラー(II)(フェニルフェノール)及びカプラー(III)(式(III)のフェノール化合物)の使用割合は、ジアゾ化合物1モルに対して、全カプラー[(II)+(III)]0.8〜2.5モル、好ましくは1.2〜1.6モルの割合である。また、全カプラーに対し、カプラー(III)の使用割合は、80〜99モル%、好ましくは85〜95モル%であり、カプラー(II)の使用割合は、1〜20モル%、好ましくは5〜15モル%である。
【0038】
(E)離型性樹脂
本発明のジアゾ感光層には、離型性樹脂を含有させることができる。離型剤としては、常温で樹脂状のものに加えて固体粒子状のもの、さらには液体状のものがあるが、本発明においては、紫外線の透過性、取扱い性の観点から樹脂状のものが好ましい。
【0039】
樹脂状の離型剤としては、フッ素系樹脂、ポリエチレン等の炭化水素系樹脂、シリコーン系樹脂等を挙げることができるが、バインダーとの相溶性から、フッ素系樹脂がより好ましい。
【0040】
フッ素系樹脂としては、フルオロアルキル基を有する化合物が好ましい。フルオロアルキル基は炭素数1〜20であることが好ましく、1〜10がより好ましく、直鎖(例えば、−CFCF、−CH(CFH、−CH(CFCF、−CHCH(CFH等)であっても、分岐構造(例えば−CH(CF、−CHCF(CF、−CH(CH)CFCF、−CH(CH)(CFCFH等)であっても、脂環式構造(好ましくは5員環又は6員環、例えば、パーフルオロシクロへキシル基、パーフルオロシクロペンチル基又はこれらで置換されたアルキル基等)であってもよく、エーテル結合を有していてもよい(例えば、−CHOCHCFCF、−CHCHOCHH、−CHCHOCHCH17、−CHCHOCFCFOCFCFH等)。さらにフルオロアルキル基は同一分子中に複数含まれていてもよい。
【0041】
フッ素系樹脂の中でも、その分子量の違いによってオリゴマータイプのものとポリマータイプのものがあるが、バインダーとの相溶性及び溶剤への可溶性の点からオリゴマータイプがより好ましい。このフッ素系樹脂を配合することでジアゾ感光層の離型性が改善されるため、感光性樹脂が付着することがないので、長時間繰り返し使用することのできるフォトマスクとして好適である。
【0042】
フッ素系樹脂の配合割合は、水酸基を含有するセルロースエステル100質量部当り、1〜5質量部の割合である。この範囲よりフッ素系樹脂の割合が少ないと離型性が低下するし、この範囲よりフッ素系樹脂の配合割合が多いと紫外線の透過性が不十分となる。ジアゾ感光層の離型性及び紫外線の透過性の点から、フッ素系樹脂のより好ましい配合割合は、水酸基を含有するセルロースエステル100質量部当り2〜4質量部の割合である。
【0043】
(F)球形フィラー
本発明の感光層には、所望により、球形フィラーを含有させることができる。このような球形フィラーを含む感光層を有する材料で形成されたフォトマスクを使用するときは、これを感光性樹脂層に密着させるに際し、フォトマスクと感光性樹脂層との間に存在する空気の吸引除去にかかる時間を短くすることができる。また、このようなフォトマスクは、その感光層面側が微細凹凸面に形成されていることから、表裏識別性の優れたものとなる。
【0044】
この球形フィラーとしては、コールターカウンター法による平均粒径が3〜20μmの範囲にあるものの使用が好ましい。その配合割合は、水酸基含有量が3〜7質量%であるセルロースエステル100質量部当り、0.05〜5質量部、好ましくは0.05〜4質量部の割合である。その平均粒径が20μmを超えると、得られる材料の球形フィラーによる乱反射量が多くなり、透過性の良い材料を得ることが困難になるし、一方、その平均粒径が3μm未満であると、所望する感光層表面の凹凸が得られず、フォトマスクと感光性樹脂層との間に存在する空気の吸引除去にかかる時間を短くすることができなくなる。さらに、球形フィラーの配合割合が5質量部を超えると、得られる材料の光透過率が悪化すると共に、所望する感光層表面の凹凸を得るのが困難となり、高解像度の画像の密着焼き付けが困難になるし、配合割合が0.05質量部未満では、フォトマスクと感光性樹脂層との間に存在する空気の吸引除去にかかる時間が長くなるなどの不利が生じる。
【0045】
球形フィラーとしては、有機系及び無機系の微粉末が用いられる。球形フィラーとしては、シリカ、クレー、タルク、アルミナ、炭酸カルシウム、酸化チタン等の無機物のフィラーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリレート/スチレン共重合体、メタクリレート/スチレン共重合体、尿素樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機物のフィラーが挙げられる。
【0046】
本発明の感光層には、前記(A)〜(F)成分の他に、例えば、硬化触媒、充填剤、潤滑剤、安定剤、着色剤、酸化防止剤、レベリング剤、反応調整剤など公知の添加剤を含有させることができる。
【0047】
本発明のジアゾ感光フィルムは、前記(A)〜(F)成分を、それぞれ所定の割合で溶媒に溶解又は分散させて形成した、固形分濃度20〜80質量%程度の塗工液を、透明支持体上又は所望により設けられる透明支持体の易接着層の上に、常法に従って塗布、乾燥することにより感光層を形成することにより作製することができる。この時用いられる溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素溶媒、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチルやセロソルブ等のエステル類系溶媒等が用いられる。
【0048】
また、塗工液には、慣用の補助成分、例えば、酸化防止剤として、チオ尿素、ジフェニルチオ尿素等を添加し得るほか、紫外線吸収剤、染料、界面活性剤、帯電防止剤、レベリング剤、消泡剤等を添加することができる。
【0049】
本発明で言う透明支持体とは、紫外線透過性を有する透明なフィルム状ないしはシート状の形態を成し、その上に設けられた感光層を支持する部材を表わす。
【0050】
透明支持体としては、材質が特に限定されるわけではなく、通常のジアゾ感光フィルムの透明支持体として用いられているものの中から、透明性や耐熱性及び耐溶剤性を勘案しつつ、適時選択することができる。透明支持体の厚みとしては通常25〜250μmのものが好ましく、100〜200μmのものがより好ましい。
【0051】
具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、セロハン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、芳香族ポリアミド、ポリスルホン等の合成樹脂フィルムが好ましい。これらの中でも、透明性、耐熱性及び耐溶剤性の観点からポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0052】
基材は、一般的に取り扱い性等を向上させるために、その構成材料中に各種添加剤が含まれている。たとえば、滑り性を向上させるためのフィラー、帯電防止剤、耐候安定剤等である。また、感光層との密着性を向上させる目的で、各種の表面処理を施したものが好適である。表面処理としては、たとえばコロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、オゾン処理等があり、それらに加えて、表面に凹凸を設けるサンドマット処理やヘアライン処理、薄く易接着層を塗布するプライマー処理等がある。
【0053】
上記の感光層との密着性を向上させる方法の中でも、特に、薄く易接着層を塗布するプライマー処理が本発明にはより好ましい。この易接着層としては、通常、飽和ポリエステル樹脂やウレタン樹脂などが利用される。この易接着層の塗布量は、通常0.5〜20g/mの範囲であるが、好ましくは0.5〜10g/mである。塗布量が0.5g/mより少ない場合は十分な密着性を有する易接着層が得られず、塗布量が20g/mより大きいと、コスト上、作業性の観点から好ましくない。
【0054】
さらに、本発明においては、ジアゾ感光層とは反対側の支持体面に、カール防止と滑り性を向上させる目的で、所望によりケミカルコーティング層を設けることができる。このケミカルコーティング層は、バインダーからなる層である。このバインダーとしては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などがあり、具体的にはセルロース系、アクリル系、メラミン系、ウレタン系、ポリエステル系、塩化ビニル系の各樹脂が挙げられる。
【0055】
また、このケミカルコーティング層には、所望によりマット化剤を配合することができる。マット化剤としては、例えばシリカ、ジルコニア、クレー、カオリン、アルミナ、チタニア、ゼオライト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、ガラスなどの無機粉体、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ベンゾグアナミン/メラミン/ホルムアルデヒド縮合物などの合成樹脂粉体が挙げられる。このケミカルコーティング層の厚さは、カール防止性を得る範囲で適宜選択されるが、一般に0.1〜10μm、好ましくは1〜5μmの範囲が有利である。さらに、このケミカルコーティング層には、従来添加剤として慣用されているもの、例えば界面活性剤、潤滑剤、安定剤などを含有させることができる。
【0056】
本発明のジアゾ感光フィルムは、上記に説明したように、透明支持体上又は所望により設けられる透明支持体の易接着層の上に、常法に従って塗布、乾燥することにより感光層を形成したものであるが、具体的な塗布方法としては、たとえば、メイヤーバーやワイヤーバー、マイクログラビアといったバーコーター、スプレーコーター、各種ロールコーター、ダイコーター、リップコーター、コンマコーター、スピンコーター等を挙げることができる。また、加熱乾燥後の感光層の厚さは、1〜30μm、好ましくは5〜15μmである。ジアゾ感光層の厚さが1μmより小さいと、高濃度の発色画像を有するフォトマスクの製造が困難になり、一方、30μmを超えると、例えば、プリント配線板作成の際の密着焼き付けをするときに、精度の良い画像を形成することが困難になる。
【0057】
乾燥方法についても特に制限がなく、50〜180℃に昇温可能な各種乾燥方法を用いることができる。たとえば、熱風乾燥機、赤外線乾燥機、電気ヒーター等を単独でもしくは各種方法を組み合わせて使用することができる。
【0058】
乾燥条件としては、塗布液に使用される溶剤の蒸発温度、ジアゾ感光材料の発色、さらには基材の耐熱性等を考慮し決定することができるが、本発明の場合、乾燥機中の雰囲気温度を50〜130℃にすることが好ましく、80〜120℃とすることがさらに好ましい。
【0059】
本発明のジアゾ感光フィルムをフォトマスクとして用いた場合には、その感光層に対応するフィルム表面は、そのバインダーとしての水酸基含有量が3〜7質量%であるセルロースエステルが低級アルキル化尿素樹脂で架橋されていることから、耐傷性を有するので、パターン作製後、フォトマスク同士及び作業台との摩擦によっても表面が傷つかず、パターンの一部が切れたりせず、高解像度のパターンを保持することができる。しかも、水酸基含有量が3〜7質量%であるセルロースエステルが低級アルキル化尿素樹脂で十分に架橋され、その硬化物の分子量が30000未満のものを実質的に含まない架橋化セルロースエステル樹脂であることから、その表面は耐溶剤性に優れるため、感光性樹脂層との積層に際してもパターンが感光性樹脂層に含まれるモノマーや溶剤によって侵されることがなく、フォトマスクとして多数回にわたって繰返し使用することができる。また、耐傷性及び耐溶剤性を得るため、ジアゾ感光層上にオーバーコート層を形成する必要がないため、その生産性は高く、しかも、密着焼き付け時にパターンと感光性樹脂層とがより近くに接するため、感光性樹脂層に高解像度のパターンを形成することができる。さらに、離型性樹脂を含有する感光層から得られるフォトマスクは、感光層の離型性が改善されるため、感光性樹脂が付着することがないので、長時間繰り返し使用することができる。これらが相まって本発明のジアゾ感光フィルムは、フォトマスクとして使用した時に長時間繰り返し使用することができる耐久性の高いフォトマスクとしてさらに好適である。
【0060】
加えて、球形フィラーを含有するジアゾ感光層から得られるフォトマスクは、真空密着焼き付け時における固体表面に対する密着性に非常に優れるため、高解像度のパターンを感光性樹脂層に形成することができ、かつ、フォトマスクと感光性樹脂層との間に存在する空気を高真空で吸引除去する際の吸引時間を短くすることができる。
【実施例】
【0061】
次に、本発明を実施例に基づいて具対的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例のジアゾ感光フィルムは耐傷性、耐溶剤性、現像性、離型性、ヘイズ、分子量の各項目について評価したので、それらの評価方法について以下に説明する。
【0062】
(1)耐傷性
JIS K5400に基づき、鉛筆引っかき値(手書き法)より耐傷性を評価した。
【0063】
(2)耐溶剤性
プロピレングリコールモノメチルエーテルに浸した脱脂綿でジアゾ感光層表面を擦り、その都度感光層表面の状態を目視で観察し、クラックが発生するまでの擦った往復の回数をカウントした。往復200回以上擦ってもクラックが発生しないものについては、わずかでも白化が観察できるまで擦り、その回数を記録した。
【0064】
(3)現像性
ジアゾ複写機(リコピーPL−5010)のスピード1ゲージで1回通すと、完全に現像される。この時の画像部の光学濃度を光学濃度計(X−Rite361T、マクベス社製)で測定した。光学濃度が高いほど現像性に優れていることを意味する。
【0065】
(4)離型性
作製したジアゾ感光フィルムの感光層上に、幅25mm、長さ250mmの日東31Bテープ(日東電工社製)を押圧力2kg、ころがし速度20mm/秒の条件でゴムローラーを3往復させることにより圧着し剥離試験用テストピースを作製した。そのテストピースを温度23℃、湿度65%RHの環境下で30分間放置し、調温・調湿後、同環境下で剥離試験機により、引張速度300mm/分の条件で日東31Bテープを180度方向に引き剥がすことにより、180度剥離力(N/25mm)を測定した。剥離力が小さい方が離型性に優れていることを意味する。
【0066】
(5)ヘイズ
作製したジアゾ感光フィルムのヘイズ(%)をJIS K 7105に準拠し測定した。なお、測定装置は日本電色工業(株)製ヘイズメーター 型番NDH2000を使用した。
【0067】
(6)分子量
ゲル浸透クロマトグラフィー測定装置HLC8220GPC、東ソー製)、カラム(TSKgel Super HZM−M 4本、東ソー製)を用い、GPC法により測定されるポリスチレン換算の値として求めた。分子量分布のチャートから、分子量が30000未満のものが存在しない場合を「○」とし、分子量が30000未満のものがわずかでも存在する場合を「×」とした。
【0068】
(実施例1)
(A)成分として、水酸基含有量3.6質量%のセルロースアセテートプロピオネート(a−1)100質量部と、ブチル化尿素樹脂(b−1)48質量部に、(C)成分として、一般式(I)のジアゾ化合物(R1及びR2はメチル基、XはPF6)16.7質量部、(D)成分として、式(II)のカプラー(d−1)1.3質量部、o−フェニルフェノール(d−2)10.3質量部、さらに、酸触媒として、p−トルエンスルホン酸3.4質量部、充填剤として、不定形シリカ0.6質量部、メチルエチルケトン192質量部、及びプロピレングリコールモノメチルエーテル230質量部を均一に混合、溶解し固形分濃度30質量%の塗工液を調整した。この塗工液を片面がプライマー処理された厚さ175μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの易接着層の上にワイヤーバーで塗布した後、これを100℃で3分間乾燥し厚さ10μmの感光層を形成しジアゾ感光フィルムを作製した。そのものについて物性を評価した結果を表1に示す。
【0069】
(実施例2)
実施例1において、(A)成分として、水酸基含有量5.0質量%のセルロースアセテートプロピオネート(a−2)を使用した以外は、実施例1と同様にしてジアゾ感光フィルムを作製した。そのものについて物性を評価した結果を表1に示す。
【0070】
(実施例3)
実施例1において、ブチル化尿素樹脂(b−1)の配合割合を100質量部とした以外は、実施例1と同様にしてジアゾ感光フィルムを作製した。そのものについて物性を評価した結果を表1に示す。
【0071】
(実施例4)
実施例1において、ブチル化尿素樹脂(b−1)の配合割合を30質量部とした以外は、実施例1と同様にしてジアゾ感光フィルムを作製した。そのものについて物性を評価した結果を表1に示す。
【0072】
(実施例5)
実施例1において、ブチル化尿素樹脂(b−1)の配合割合を120質量部とした以外は、実施例1と同様にしてジアゾ感光フィルムを作製した。そのものについて物性を評価した結果を表1に示す。
【0073】
【表1】



【0074】
(比較例1)
実施例1において、(A)成分として、水酸基含有量2.6質量%のセルロースアセテートプロピオネート(a−3)を使用した以外は、実施例1と同様にしてジアゾ感光フィルムを作製した。そのものについて物性を評価した結果を表2に示す。
【0075】
(比較例2)
実施例1において、(A)成分として、水酸基含有量8.0質量%のセルロースアセテートプロピオネート(a−4)を使用した以外は、実施例1と同様にしてジアゾ感光フィルムを作製しようとしたが、(a−4)成分は溶媒であるメチルエチルケトンとプロピレングリコールモノメチルエーテルの混合溶媒に溶解性が悪く、ポリエチレンテレフタレートフィルムの易接着層の上に均一な感光層を形成することができなかった。
【0076】
(比較例3)
実施例1において、(b−1)成分を含まないようにした以外は、実施例1と同様にしてジアゾ感光フィルムを作製した。そのものについて物性を評価した結果を表2に示す。
【0077】
(比較例4)
実施例1において、(B)成分として、メラミン樹脂(b−2)を使用した以外は、実施例1と同様にしてジアゾ感光フィルムを作製した。そのものについて物性を評価した結果を表2に示す。
【0078】
(比較例5)
実施例1において、ブチル化尿素樹脂(b−1)の配合割合を20質量部とした以外は、実施例1と同様にしてジアゾ感光フィルムを作製した。そのものについて物性を評価した結果を表2に示す。
【0079】
【表2】



【0080】
(評価)
上記の結果から、実施例1〜4のジアゾ感光フィルムは、耐傷性、耐溶剤性のいずれも優れていることが分かる。耐傷性が優れているので、それをフォトマスクとして使用した場合、パターン作成後、フォトマスク同士及び作業台との摩擦によっても表面が傷つかず、パターンの一部が切れたりせず、高解像度のパターンを保持することができる。また、耐溶剤性が優れているので、感光性樹脂層との積層に際してもパターンが感光性樹脂層に含まれるモノマーや溶剤によって侵されることがなく、フォトマスクとして多数回にわたって繰返し使用することができる。そしてこの耐溶剤性が高いのは、分子量の測定結果から分かるように、本発明においては、(A)成分の水酸基含有量が3〜7質量%であるセルロースエステルと低級アルキル化尿素樹脂の間に十分に架橋反応が進行し、その結果、その硬化物は耐溶剤性の低い分子量が30000未満のものが含まれず、分子量が30000以上の架橋化セルロースエステル樹脂のみで構成されていることによるものと思われる。実施例5の結果から明らかなように、ジアゾ感光フィルムは、耐傷性、耐溶剤性は実施例1〜4と同様の効果が得られているものの、現像性が低くなっている。これは、架橋剤として用いた低級アルキル化尿素樹脂の配合量が多すぎるため、アンモニアの浸透性が低下したためであると考えられる。
【0081】
これに対し、比較例1では、セルロースエステルの水酸基含有量が少なすぎるため低級アルキル化尿素樹脂との架橋性が悪く、また比較例3では、低級アルキル化尿素樹脂が含まれていないため共に耐傷性、耐溶剤性が劣ることが分かる。さらに比較例2では、セルロースエステルの水酸基含有量が多すぎるため、極性が高くなり、かつ粘度も高くなるため、塗工液を作製しようとしても溶媒に溶解性が悪く、ポリエチレンテレフタレートフィルムの易接着層の上に均一な感光層を形成することができなかった。さらに比較例4では、架橋剤がメラミン樹脂であるためにジアゾ成分及びカプラー成分と反応し、被画線部の光透過を妨げ現像性が悪くなる。また、比較例5では、低級アルキル化尿素樹脂の配合量が少なすぎるため耐溶剤性が劣るものであった。
【0082】
(実施例6)
実施例1において、(E)成分として、パーフルオロアルキル基含有オリゴマー2.6質量部追加した以外は、実施例1と同様にしてジアゾ感光フィルムを作製した。そのものについて物性を評価した結果を表3に示す。
【0083】
(実施例7)
実施例6において、平均粒径3.5μmの不定形シリカの配合量を0.15質量部とし、さらに(F)成分として、平均粒径10μmの球状微粉末シリカを0.1質量部用いた以外は、すべて実施例6と同様にしてジアゾ感光フィルムを作製した。このものについて物性を評価した結果を表3に示す。
【0084】
【表3】



【0085】
(評価)
実施例6及び7のジアゾ感光フィルムは、実施例1のジアゾ感光フィルムに比べ、離型性も優れているものであり、この結果から特に、プリント基板などを製造する際のフォトマスクとして使用した場合、感光性樹脂と接触しても、感光性樹脂が付着しにくいため、フォトマスクとして長時間繰り返し使用することができる。また、今回使用した(E)離型性樹脂は、ヘイズや現像性といったジアゾ感光フィルムとして本来有しているべき基本性能を損なっていないものであることが評価結果から分かる。
さらに、実施例6に比べ実施例7のジアゾ感光フィルムは、ヘイズが3%から1%になっていることが分かる。これは、実施例7のジアゾ感光フィルムはその表面に微細な凹凸を有するものを用いた結果であり、この微細な凹凸により、フォトマスクを用いてパターンを形成する際、フォトマスクと感光性樹脂とを真空状態で密着させた場合、不要な空気が微細凹凸から抜け、フォトマスクと感光性樹脂の密着性が向上する。その結果、密着後、露光処理を行いパターンを形成させた場合に、得られるパターンは精度の高いものであることが推察される。
これらの結果から、実施例6及び7のジアゾ感光フィルムは、実施例1のものよりも、耐傷性、耐溶剤性及び離型性のいずれにおいても優れているので、このジアゾ感光フィルムを用いたフォトマスクは耐久性が高いものであり、このフォトマスクを用いたプリント配線板の製造において、従来のフォトマスクを用いるものと比べ、フォトマスクの交換回数を少なくでき、その結果、精度の高いパターンを形成でき、しかもコストの低減や、生産効率の向上など、製造面での効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のジアゾ感光フィルムは、耐傷性と耐溶剤性に優れ、かつ離型性にも優れている。さらに、現像性やヘイズといったジアゾ感光フィルムとして本来有しているべき基本性能にも優れているので、感光性樹脂のフォトマスクとして使用する際、未硬化の液状感光性樹脂と接触しても、そのモノマーや溶剤によって侵されることがなく、また感光性樹脂が付着することがないので、長時間繰り返し使用することができ耐久性が高い。よって、プリント配線板作成の分野において広く使用されているフォトマスクとして好適に用いることができると共に、優れたプリント配線板の製造方法を提供することができる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明支持体上に、(A)バインダー、(B)架橋剤、(C)ジアゾ化合物、及びジアゾ化合物と反応して発色する(D)カプラー成分からなる感光層を設けたジアゾ感光フィルムにおいて、該(A)成分が水酸基含有量3〜7質量%のセルロースエステル(A−1)、該(B)成分が低級アルキル化尿素樹脂(B−1)であり、その硬化物である架橋化セルロースエステル樹脂の分子量が30000以上であることを特徴とするジアゾ感光フィルム。
【請求項2】
感光層に(E)離型性樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載のジアゾ感光フィルム。
【請求項3】
前記(E)成分がパーフルオロアルキル樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載のジアゾ感光フィルム。
【請求項4】
前記感光層が、(F)平均粒径3〜20μmの球形フィラーを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のジアゾ感光フィルム。
【請求項5】
銅張り積層板等の絶縁基板の表面に形成された導電層上に感光性樹脂層を設け、その上にフォトマスクを重ね、感光性樹脂層を所定時間密着焼き付け機で露光する工程を備えたプリント配線板の製造方法にあって、該フォトマスクが請求項1〜4のいずれか一項に記載のジアゾ感光フィルムからなるものであることを特徴とするプリント配線板の製造方法。
【請求項6】
前記ジアゾ感光フィルムの感光層表面が(F)平均粒径3〜20μmの球形フィラーに基づく凹凸を有することを特徴とする請求項5に記載のプリント配線板の製造方法。

























【公開番号】特開2012−22275(P2012−22275A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162313(P2010−162313)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000108454)ソマール株式会社 (81)
【Fターム(参考)】