説明

ジアミノピリジンおよび関連化合物の合成方法

様々な有用な材料の合成における化合物および成分として工業的に使用される、2,6−ジアミノピリジンなどのジアミノピリジンおよび関連化合物の合成方法が提供される。この合成は、銅源の存在下における塩素−アンモニア置換によって進行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年8月1日に出願された米国仮特許出願第60/953,259号の利益を主張するものであり、この仮特許出願は、その全体が参照によりあらゆる目的のために本明細書の一部として援用される。
【背景技術】
【0002】
化合物の2,6−ジアミノピリジン
【化1】

は、染料、金属リガンド、薬剤、殺虫剤、および特許文献1に記載されるものなどのポリマーに導入するためのモノマーを含む様々な製品を調製するための出発材料として好都合に用いられる。
【0003】
有機溶媒中でピリジンがナトリウムアミドと反応されるチチバビンアミノ化反応によってジアミノピリジンを調製することが知られている。これは、比較的厳しい条件(例えば、高圧において200℃の温度)を必要とする複雑な反応である。その上、この反応は、二量化を妨げるために比較的高価なナトリウムアミドを過剰な量で使用する必要があり、かつ分離に伴うプロセスの複雑さ、有害なナトリウムアミドの取り扱いおよび廃棄物処理が製造コストを引き上げるため、経済的でない。
【0004】
ジアミノピリジンを製造するための別の方法は、エピクロルヒドリンの3工程の変換である。この方法は、一般に生産性が低く、過剰なシアン化ナトリウムの使用およびHCNの取り扱いを必要とする。さらに、DAP生成物の許容できる収率を達成するために、中間体であるヒドロキシグルタロニトリルの精製が必要とされる。
【0005】
ジクロロピリジンの塩素をアンモニアまたはアミンで置換することが知られている。一方法は、例えば、硫酸銅触媒の存在下でクロロピリジンおよびアンモニアからアミノピリジンを製造するものであり、非特許文献1および特許文献2に記載されている。しかしながら、この方法の収率は、通常、実用化するには低過ぎる。
【0006】
特許文献3では、金属CuまたはAlの存在下で、ピリジン核の2位または6位に少なくとも1個の塩素原子を含むクロロピリジンを、NH水溶液を用いて処理することによって、アミノピリジンが調製される。この反応は、行うのに比較的大量の銅またはアルミニウム粉末、ならびに比較的高い温度および圧力が必要とされるため、不都合なほど難しく、また、2,6−ジアミノピリジンの収率は、一般に、実用化するには低過ぎる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,674,969号明細書
【特許文献2】独国特許第510,432号明細書
【特許文献3】特開昭53/053,662号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Rec.Trav.Chim.,58,709−721(1939)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、2,6−ジアミノピリジンなどのジアミノピリジンおよび関連化合物の調製のための低温、低圧、かつ高選択性の方法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態において、式(I)
【化2】

の構造で表される化合物の合成方法であって、(a)式(II):
【化3】

の構造で表される化合物を、アンモニア水溶液中で銅源と接触させて反応混合物を形成する工程であって、アンモニア水溶液が、約4〜約8のpHになるまで中和される工程と;
【0011】
(b)反応混合物を加熱する工程とによる方法が本明細書において記載されており;ここで、式(I)および式(II)のRおよびRが各々独立して、
(a)H;
(b)アルキル、アリールまたはアラルキル基;
(c)NR(ここで、RおよびRが各々独立して、
(i)H、
(ii)アルキル、アリールまたはアラルキル基、
(iii)
【化4】

(ここで、Rがアルキル、アリールまたはアラルキル基である)、または
(iv)−C(O)−NR(ここで、各Rが上で定義されるとおりである)である);あるいは
(d)OR(ここで、Rが、
(i)H、
(ii)アルキル、アリールまたはアラルキル基、または
(iii)
【化5】

(ここで、Rが上で定義されるとおりである)である)
からなる群から選択される。
【0012】
別の実施形態において、上記の方法によって調製されるような、式(I)の構造で表される化合物を、オリゴマーまたはポリマーに転化することによる、オリゴマーまたはポリマーを調製するための方法が提供される。
【0013】
別の実施形態において、上記の方法によって得られるまたは得ることが可能な式(I)の化合物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書で記載される方法において、式(I)の構造で表される様々な化合物の1つなどのジアミノピリジン(「DAP」)の合成が、銅源の存在下での塩素−アンモニア置換によって進行する。
【0015】
一実施形態において、式(I)
【化6】

の構造で表される化合物の合成方法であって、(a)式(II):
【化7】

の構造で表される化合物を、アンモニア水溶液中で銅源と接触させて反応混合物を形成する工程であって、アンモニア水溶液が、約4〜約8のpHになるまで中和される工程と;
【0016】
(b)反応混合物を加熱する工程とによる方法が本明細書において記載されており;ここで、式(I)および式(II)のRおよびRが各々独立して、
(a)H;
(b)アルキル、アリールまたはアラルキル基;
(c)NR(ここで、RおよびRが各々独立して、
(i)H、
(ii)アルキル、アリールまたはアラルキル基、
(iii)
【化8】

(ここで、Rがアルキル、アリールまたはアラルキル基である)、または
(iv)−C(O)−NR(ここで、各Rが上で定義されるとおりである)である);あるいは
(d)OR(ここで、Rが、
(i)H、
(ii)アルキル、アリールまたはアラルキル基、または
(iii)
【化9】

(ここで、Rが上で定義されるとおりである)である)
からなる群から選択される。
【0017】
本明細書において用いられる際、「アルキル」という用語は、任意の炭素原子から水素原子を取り除くことによってアルカンから誘導される一価の基:−C2n+1(ここで、n=1である)を意味する。アルキル基は、C〜C20の直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基またはシクロアルキル基であってもよい。好適なアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基、トリメチルペンチル基、およびシクロオクチル基が挙げられる。
【0018】
本明細書において用いられる際、「アリール」という用語は、自由原子価が芳香環の炭素原子にある一価の基を意味する。アリール部分は、1つまたは複数の芳香環を含んでいてもよく、不活性基、すなわちその存在が反応を妨げない基で置換されていてもよい。好適なアリール基の例としては、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、n−プロピルフェニル基、n−ブチルフェニル基、t−ブチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基およびエチルナフチル基が挙げられる。
【0019】
本明細書において用いられる際、「アラルキル」という用語は、アリール基を有するアルキル基を意味する。好適なアラルキル基の例としては、ベンジル(すなわちCCH−基)およびフェニルエチル(すなわちフェネチル、CCHCH−基)が挙げられる。
【0020】
本明細書に記載される方法の一実施形態において、式(I)の構造で表される化合物は、式(II)(以下、クロロアミノピリジンまたは「CAP」と称す)の構造で表される化合物を、中和されたアンモニア水溶液中で銅源と接触させて反応混合物を形成する工程と、その反応混合物を加熱する工程とによって調製される。式(II)の特定の実施形態において、RおよびRが各々Hであってもよい。RおよびRが各々Hである場合、式(II)の構造で表される化合物は2−アミノ−6−クロロピリジンであり、この方
法によって製造される式(I)の構造で表される化合物は2,6−ジアミノピリジンである。このような反応は以下に概略的に示される。
【化10】

【0021】
式(II)の構造で表される化合物は、例えば、特公昭59/053,910号公報(広栄化学工業株式会社)に記載されるような、2−クロロピリジンのアミノ化;3−ヒドロキシグルタロニトリルと無水HClとの反応[Ferrariniら、Journal of Heterocyclic Chemistry,18,(1007−1010(1981)];または硫酸による2−アセトアミド−6−クロロピリジンの加水分解(Ibid.)によって合成されてもよい。CAPは、例えば、Sigma−Aldrich(St.Louis,Missouri)からも市販されている。
【0022】
銅源は、銅元素[Cu(0)]、またはCu(I)化合物もしくはCu(II)化合物などの銅化合物、Cu(I)塩もしくはCu(II)塩などの銅塩、あるいはそれらの混合物であってもよい。本明細書において使用するのに適した銅化合物の例としては、限定はされないが、CuCl、CuBr、CuI、CuSO、CuNO、CuCl、CuBr、CuI、CuSO、およびCu(NOが挙げられる。CuBrおよびCuIが特に好ましい。銅源は、反応において触媒として働くものと考えられる。触媒として作用する銅源は、それが化学的に変化され得るようないかなる形でも反応に関与しないが、それにもかかわらず、反応の1つまたは複数のパラメータを変えることにより、生成物の形成を促すものと考えられる。したがって、銅源は、触媒的に有効な量、すなわち、上記目的を達成し得る量で反応混合物に供給される。
【0023】
反応に用いられる銅の量は、通常、反応混合物中に存在する式(II)の化合物のモル数を基準にして約0.5〜約7mol%である。アンモニアの濃度は、通常、反応混合物に存在する式(II)の化合物1モル当たり約5〜約10モルの範囲である。
【0024】
アンモニア水溶液は、それに緩衝剤を加えることによって中和され得る。緩衝剤は、反応に直接関与しないものの、その存在により反応混合物のpHを所定の限度に制限する物質である。緩衝剤は、ブレンステッド−ローリー酸に関して、弱酸/共役塩基対、または弱塩基/共役酸対である物質であることが多い。緩衝剤は、プロトンの増加または喪失によって平衡を達成する際に、酸またはアルカリの系への添加、あるいは反応混合物の希釈などの事象に関連して、反応混合物のpHの変化を所定の範囲に制限するであろう。本明細書の反応混合物に緩衝剤を加えることにより、pHが、約4.0以上、約4.5以上、約5.0以上、または約5.5以上で、なおかつ約8.0以下、約7.5以下、約7.0以下、または約6.5以下のpHに維持され得る緩衝液が生成される。緩衝剤が反応混合物を制限するpHの範囲は、上述したような様々な最大値および最小値の任意の組合せで形成される任意の範囲で表され得る。
【0025】
緩衝剤は、例えば、アルカリ金属の、アルカリ土類金属のもしくはアンモニウムのリン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、水酸化物、臭化物、ケイ酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩および酒石酸塩;または酢酸などの低級アルカンカルボン酸のアルカリ金属塩;またはリン酸の塩基性アルカリ金属塩の中から選択され得る。また、好適な緩衝剤の例としては、限定はされないが、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、テトラピロリン酸ナトリウム、オルトリン酸塩およびトリポリリン酸塩およびピロリン酸塩などの水溶性縮合リン酸塩も挙げられる。また、酢酸アンモニウム、臭化アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、およびホウ酸アンモニウムも挙げられる。また、ナトリウム、カリウムおよびカルシウム化合物などのアルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物、および、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、および炭酸カリウム、炭酸カルシウム、酢酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウムおよびホウ酸ナトリウムも挙げられる。また、セスキ炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸四カリウム、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム、無水四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム五水和物、四ホウ酸ナトリウム十水和物、酸化マグネシウム、ホウ酸、リンゴ酸、安息香酸、および(メチル)コハク酸も挙げられる。
【0026】
緩衝剤は、任意の好都合な方法で反応混合物に加えられてもよい。例えば、弱酸のアンモニウム塩が緩衝剤として用いられるとき、この弱酸のアンモニウム塩は、塩(例えば酢酸アンモニウム)として直接加えられてもよく、または(例えば、酢酸または無水酢酸を過剰のアンモニア水溶液に加えることによって)その場で(in situ)形成されてもよい。通常、緩衝剤は、全反応混合物の質量を基準にして約20〜約60質量%の濃度で反応混合物中に存在する。
【0027】
温度、圧力および時間などの反応条件は特定の銅源の選択に応じて変わり得るが、以下の条件が通常、所望の式(I)の化合物の製造を行うのに適していることが分かっている:一般に約100℃〜約150℃の範囲の加熱反応温度;一般に約150psi(1.03MPa)〜約700psi(4.83MPa)の範囲の反応圧力;および一般に約5〜約9時間の範囲の反応時間。
【0028】
一実施形態において、本明細書の方法のDAP反応生成物は、過剰のアンモニアおよび水の一部を除去した後、反応生成物、緩衝剤および触媒を含む反応混合物から結晶化することによって反応混合物から分離される。別の実施形態において、反応生成物は、硫酸を反応混合物に加えることによって、反応生成物をヘミ硫酸塩として沈殿させることによって分離される。
【0029】
本明細書の方法は、公知の方法と比較して、所望の式(I)の生成物に対する向上した選択性および収率を提供するのが好都合である。本明細書において用いられる際、生成物(「P」)に対する「選択性」という用語は、最終生成物混合物中のPのモル分率またはモルパーセントを意味し、「転化率」という用語は、反応体が理論量のうちの分率またはパーセントとしてどれほど使い果たされたかを意味する。したがって、転化率に選択性を乗算したものがPの最大「収率」であるが、「正味収率」とも呼ばれる実際の収率は通常、これよりいくらか少なくなる。その理由は、単離、処理、乾燥などの作業の過程で試料の損失が起こるためである。本明細書において用いられる際、「純度」という用語は、すぐに使用可能な(in−hand)、単離された試料の何パーセントが実際に規定の物質であるかを意味する。本明細書において得られる所望の式(I)の生成物に対する選択性および収率の向上は、好ましくない副反応の発生を最小限に抑える緩衝剤の効果と思われるもの(それによって所望の生成物に対する選択性の向上が得られる)に由来し得る。しかしながら、本発明は、操作のいかなる特定の理論にも限定されない。
【0030】
また、上記の方法は、ジアミノピリジンのオリゴマーまたはポリマーなどのジアミノピリジンから製造される生成物の効果的かつ効率的な合成を可能にする。これらの製造される材料は、アミド官能基、イミド官能基、または尿素官能基のうちの1つまたは複数を有していてもよい。ここで、本発明の別の実施形態は、ジアミノピリジンをオリゴマーまたはポリマーに転化するための方法を提供する。ジアミノピリジンが、上記のような方法によって製造され、次にさらに重合反応に供されて、それからのオリゴマーまたはポリマー(上記で指定したタイプの官能基を有するものなど)が調製され得る。複数工程の方法において、ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーなどのポリマーもジアミノピリジンから調製され得る。
【0031】
例えば、反応の条件下で液体であり、二酸(ハロゲン化物)およびジアミノピリジンの両方のための溶媒であり、かつポリマー生成物に対して膨張または部分的解放(salvation)作用を有する有機化合物の溶液中で重合が行われるプロセスにおいて二酸(または二酸ハロゲン化物)と反応させることによって、ジアミノピリジンが、ポリアミドオリゴマーまたはポリマーに転化され得る。反応は、適度な温度(例えば100℃)で行われてもよく、選択した溶媒に可溶でもある酸受容体の存在下で行われるのが好ましい。好適な溶媒としては、メチルエチルケトン、アセトニトリル、5%の塩化リチウムを含有するN,N−ジメチルアセトアミドジメチルホルムアミド、および塩化メチルトリ−n−ブチルアンモニウムもしくは塩化メチル−トリ−n−プロピルアンモニウムなどの第4級塩化アンモニウムを含有するN−メチルピロリドンが挙げられる。反応体成分を組み合わせることにより、かなりの熱が生成され、また、攪拌により、熱エネルギーが生成される。このため、溶媒系および他の材料は、所望の温度を維持するために冷却が必要な場合、プロセスの間ずっと冷却される。上記のものと類似のプロセスが、米国特許第3,554,966号明細書;米国特許第4,737,571号明細書;およびCA2,355,316号明細書に記載されている。
【0032】
また、例えば、溶媒中のジアミノピリジンの溶液が、酸受容体の存在下で、第1の溶媒と非混和性の第2の溶媒中の二酸または二酸塩化物などの二酸ハロゲン化物の溶液と接触されて、2相の界面において重合を行うプロセスにおいて二酸(または二酸ハロゲン化物)と反応させることによって、ジアミノピリジンが、ポリアミドオリゴマーまたはポリマーに転化され得る。ジアミノピリジンは、例えば、塩基を含有する水に溶解または分散されてもよく、この塩基は、重合の際に生成される酸を中和させるのに十分な量で用いられる。水酸化ナトリウムが酸受容体として用いられてもよい。二酸(ハロゲン化物)のための好ましい溶媒は、テトラクロロエチレン、塩化メチレン、ナフサおよびクロロホルムである。二酸(ハロゲン化物)用の溶媒は、アミド反応生成物に対して比較的不溶性であり、かつアミン溶媒に比較的非混和性であるべきである。非混和性の好ましい閾値は以下のとおりである:有機溶媒が0.01質量パーセント〜1.0質量パーセント以下のアミン溶媒に可溶性であるべきである。ジアミノピリジン、塩基および水が、一緒に加えられ、激しく攪拌される。攪拌器の高せん断動作は重要である。酸塩化物の溶液が、水性スラリーに加えられる。接触は、一般に、0℃〜60℃で、例えば、室温で、約1秒〜10分間、好ましくは5秒〜5分間行われる。重合は迅速に行われる。上記のものと類似のプロセスが、米国特許第3,554,966号明細書および米国特許第5,693,227号明細書に記載されている。
【0033】
また、各試薬(通常、等モル量で)が一般的な溶媒に溶解され、その混合物が、生成物が0.1〜2dL/gの範囲の粘度を有するまで100〜250℃の範囲の温度まで加熱されるプロセスにおいてテトラ酸(またはそのハロゲン化物誘導体)または二無水物と反応させることによって、ジアミノピリジンが、ポリイミドオリゴマーまたはポリマーに転化され得る。好適な酸または無水物としては、ベンズヒドロール3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、1,4−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、および3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。好適な溶媒としては、クレゾール、キシレノール、ジエチレングリコールジエーテル、γ−ブチロラクトンおよびテトラメチレンスルホンが挙げられる。あるいは、ポリアミド−酸生成物が、反応混合物から回収され、無水酢酸とβ−ピコリンとの混合物などの脱水剤とともに加熱することによってポリイミドにされる。上記のものと類似のプロセスが、米国特許第4,153,783号明細書;米国特許第4,736,015号明細書;および米国特許第5,061,784号明細書に記載されている。
【0034】
また、ジアミノピリジンが、ポリイソシアネートと反応させることによってポリ尿素オリゴマーまたはポリマーに転化され得、ポリイソシアネートの代表例としては、トルエンジイソシアネート;メチレンビス(フェニルイソシアネート);ヘキサメチレンジイソシアネート;フェニレンジイソシアネートが挙げられる。この反応は、両方の試薬を、周囲温度で激しく攪拌しながらテトラメチレンスルホンとクロロホルムとの混合物に溶解させることなどによって溶液中で行われ得る。その生成物は、水、またはアセトンおよび水を用いて分離し、その後真空オーブンで乾燥させることによって精製され得る。上記のものと類似のプロセスが、米国特許第4,451,642号明細書およびKumar,Macromolecules 17,2463(1984)に記載されている。また、ポリ尿素が成す反応は、通常は酸受容体または緩衝液を用いて水性液体にジアミノピリジンを溶解させることによるなどの界面条件下で実施されてもよい。ポリイソシアネートは、ベンゼン、トルエンまたはシクロヘキサンなどの有機液体に溶解される。ポリマー生成物は、激しく攪拌したときに2相の界面において形成される。上記のものと類似のプロセスが、米国特許第4,110,412号明細書およびMillichおよびCarraher、Interfacial Syntheses、第2巻、Dekker、New York、1977に記載されている。また、米国特許第2,816,879号明細書に記載されるような界面プロセスにおけるような、ホスゲンとの反応によって、ジアミノピリジンがポリ尿素に転化され得る。
【0035】
また、(i)ジアミノピリジンをジアミノジニトロピリジンに転化し、(ii)ジアミノジニトロピリジンをテトラアミノピリジンに転化し、(iii)テトラアミノピリジンをピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーに転化することによって、ジアミノピリジンが、ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーに転化され得る。
【0036】
国際公開第97/11058号パンフレットに説明されるように、ジアミノピリジンが、それを硝酸および発煙硫酸中の三酸化硫黄の溶液と接触させることによって、ジアミノジニトロピリジンに転化され得る。米国特許第3,943,125号明細書に説明されるように、強酸の存在下で、および低級アルコール、アルコキシアルコール、酢酸またはプロピオン酸などの補助溶剤を用いて、水素化触媒を用いた水素化によって、ジアミノジニトロピリジンがテトラアミノピリジンに転化され得る。
【0037】
米国特許第5,674,969号明細書(これを参照することによりその全体があらゆる目的のために本明細書の一部として援用される)に開示されるように、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を、酸性の強いポリリン酸中のテトラアミノピリジンの三塩酸塩−一水和物を用いて、減圧下で100℃超から約180℃までゆっくりと加熱しながら重合し、その後水中で沈殿させることによって;あるいは米国特許出願公開第2006/0287475号明細書(その全体があらゆる目的のために本明細書の一部として援用される)に開示されるように、モノマーを約50℃〜約110℃、その後145℃の温度で混合してオリゴマーを形成し、次にこのオリゴマーを、約160℃〜約250℃の温度で反応させることによって、テトラアミノピリジンが、ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーに転化され得る。このように製造されるピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーは、例えば、ポリ(1,4−(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン−2,6−ピリド[2,3−d:5,6−d’]ビスイミダゾール)ポリマー、またはポリ[(1,4−ジヒドロジイミダゾ[4,5−b:4’,5’−e]ピリジン−2,6−ジイル)(2,5−ジヒドロキシ−1,4−フェニレン)]ポリマーであり得る。しかしながら、そのピリドビスイミダゾール部分は、ベンゾビスイミダゾール、ベンゾビスチアゾール、ベンゾビスオキサゾール、ピリドビスチアゾールおよびピリドビスオキサゾールのいずれかまたは複数で置換されてもよく;その2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン部分は、イソフタル酸、テレフタル酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−キノリンジカルボン酸、および2,6−ビス(4−カルボキシフェニル)ピリドビスイミダゾールの1つまたは複数の誘導体で置換されてもよい。
【実施例】
【0038】
本発明の有利な属性および効果は、後述する実施例で分かるであろう。これらの実施例の基礎をなす本発明の実施形態は、例示に過ぎず、本発明を例示するためのそれらの実施形態の選択は、これらの実施例に記載されるもの以外の材料および条件が本発明を実施するのに適していないこと、またはこれらの実施例に記載されるもの以外の主題が添付の特許請求の範囲およびその等価物の範囲から除外されることを示すものではない。実施例の重要性は、それから得られる結果を、緩衝剤を用いずに実施されるため制御された実験(対照A)として機能するとともに、このような比較に対する根拠を提供するように設計された所定の反応から得られる結果と比較することによってより十分に理解される。
【0039】
材料
以下の材料を実施例および対照に用いた。全ての市販の試薬を、特に記載のない限り、入手したままの状態で用いた。2,6−ジクロロピリジン(98%の純度)、CuI(99%の純度)、およびCuBr(98%の純度)を、Aldrich Chemical Company(Milwaukee,Wisconsin,USA)から購入した。Cu粉末(99.5%の純度)を、Alfa Aesar(Ward Hill,Massachusetts,USA)から購入した。酢酸アンモニウム(98%の純度)を、Fluka(Buchs,Switzerland)から購入した。アンモニア水溶液(28〜30質量%のアンモニア)をEM Science(現EMD Chemicals Inc.)(Gibbstown,New Jersey,USA)から購入した。
【0040】
方法
反応される出発材料のモル分率を基準にした転化率パーセント、および反応で製造される2,6−ジアミノピリジンのモル分率を基準にした収率を、特に指定のない限り、トリエチレングリコールの内部標準を用いた定量的ガスクロマトグラフィー(FID検出器を備えたHP5890 Series II)によって測定した。
【0041】
略語の意味は以下のとおりである:「g」はグラムを意味し、「GC」はガスクロマトグラフィーを意味し、「h」は時間を意味し、「mol」はモルを意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「MPa」はメガパスカル、「psi」はポンド/平方インチを意味する。
【0042】
実施例1
(2−アミノ−6−クロロピリジン)の調製
ガス取込み攪拌器(gas entrapment stirrer)を備えた600mLのオートクレーブにおいて、240gのアンモニア水溶液(28質量%のNH)を加え、120gの2,6−ジクロロピリジンと混合した。窒素でパージした後、48gの液体アンモニアを加え、反応混合物を攪拌しながら6hにわたって150℃まで加熱した。反応混合物を室温まで冷却し、圧力を大気圧に戻した。生成物をろ過によって単離し、水およびMeOHで洗浄し、乾燥させた。2−クロロ−6−アミノピリジンの収率は約70%であり、GCクロマトグラフィーによって測定した際の純度は98%であった。
【0043】
実施例2
2−アミノ−6−クロロピリジンからの2,6−ジクロロピリジンの調製
300mLのHastelloyオートクレーブにおいて、120gの水酸化アンモニウム水溶液(28質量%のNH)中の5.0gのCuIの溶液を加え、77gの酢酸アンモニウムおよび60gの2−アミノ−6−クロロピリジンと混合した。窒素でパージした後、24gの液体アンモニアを加えて、約117psi(0.807MPa)の圧力を得た。その後、反応混合物を8hにわたって150℃まで加熱した。反応の過程にわたって、圧力は、423psi(2.92MPa)の初期の圧力から340psi(2.34MPa)まで低下した。反応混合物を室温まで冷却し、圧力を大気圧に戻した。反応混合物を、定量的GC分析方法を用いて分析した。2−アミノ−6−クロロピリジンの転化率は99.0%であった。2,6−ジクロロピリジンの収率は81%であった。
【0044】
対照A
この反応は、酢酸アンモニウムを反応混合物に加えなかった以外は、実施例2に記載のものと同じ方法で行った。2−アミノ−6−クロロピリジンの転化率は99.5%であり、2,6−ジアミノピリジンの収率は69%であった。
【0045】
数値の範囲が本明細書において記載または設定されている場合、その範囲はその端点、およびその範囲内の全ての個々の整数および端数を含み、また、あたかもそれらのより狭い範囲における各々が明示的に記載されているのと同程度に、より大きなグループの値のサブグループを形成するためにそれらの端点およびその内部の整数および端数の全ての様々な可能な組合せによって形成されるその中のより狭い範囲の各々を含む。数値の範囲が規定値より大きいものとして本明細書に記載されている場合、その範囲は、それにもかかわらず限定され、本明細書に記載のような本発明の枠の範囲内で操作可能な値によってその上限が制限される。数値の範囲が、規定値より小さいものとして本明細書に記載されている場合、その範囲は、それにもかかわらず0ではない値によってその下限が制限される。
【0046】
本明細書において、特に明確に記載されていない限りまたは使用法の文脈によって矛盾する示唆がない限り、本明細書に記載される量、サイズ、範囲、配合、パラメータ、および他の量および特性は、特に「約」という用語によって修飾されている場合、正確であってもよいが正確である必要はなく、また、本発明の枠の範囲内で、規定値に対する機能的および/または操作可能な等価を有する規定外の値を規定値に含めるだけでなく、許容差、換算係数、丸め誤差、測定誤差などを反映して、概略値であっても、および/または規定より(必要に応じて)大きくてもまたは小さくてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

の構造で表される化合物の合成方法であって、(a)式(II):
【化2】

の構造で表される化合物を、アンモニア水溶液中で銅源と接触させて反応混合物を生成させる工程であって、ここでアンモニア水溶液が、約4以上でなおかつ約8以下のpHに緩衝化される、工程;と(b)反応混合物を加熱する工程;とを含み、
ここで、式(I)および式(II)の両方のRおよびRが各々独立して、
(a)H;
(b)アルキル、アリールまたはアラルキル基;
(c)NR(ここで、RおよびRが各々独立して、
(i)H、
(ii)アルキル、アリールまたはアラルキル基、
(iii)
【化3】

(ここで、Rがアルキル、アリールまたはアラルキル基である)、または
(iv)−C(O)−NR(ここで、各Rが上で定義されたとおりである)である);または
(d)OR[ここで、Rが、
(i)H、
(ii)アルキル、アリールまたはアラルキル基、または
(iii)
【化4】

(ここで、Rが上で定義されたとおりである)である]
からなる群から選択される、方法。
【請求項2】
およびRの一方または両方がHである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応混合物が、約100℃〜約150℃の範囲の温度に加熱される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
反応圧力が、約150psi(1.03MPa)〜約700psi(4.83MPa)の範囲にある請求項1に記載の方法。
【請求項5】
銅源が、Cu(0)、Cu(I)塩、Cu(II)塩、またはそれらの混合物を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
銅源が、CuCl、CuBr、CuI、CuSO、CuNO、CuCl、CuBr、CuI、CuSO、Cu(NOおよびそれらの混合物からなる群から選択される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
銅源が、式(II)の化合物のモル数を基準にして約0.5〜約7mol%の銅という量で反応混合物中に存在する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アンモニアが、式(II)の化合物1モル当たり約5〜約10モルの範囲のアンモニアの濃度で反応混合物中に存在する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
緩衝剤が、弱酸のアンモニウム塩を含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
緩衝剤が、全反応混合物の質量を基準にして約20〜約60質量%の濃度で反応混合物中に存在する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
式(I)の化合物を反応させて、それからオリゴマーまたはポリマーを製造する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
製造されるポリマーが、ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)ポリマーを含む請求項11に記載の方法。

【公表番号】特表2010−535250(P2010−535250A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520212(P2010−520212)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【国際出願番号】PCT/US2008/071869
【国際公開番号】WO2009/018504
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】