説明

ジアリールエテン系化合物

【課題】調光材料として好適な新規な熱戻り型のジアリールエテン系化合物の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるジアリールエテン系化合物。(一般式(1)中のnは2〜5の整数、A、Bはそれぞれ独立に一般式(2)を表す。)(一般式(2)中のR1は置換されていてもよい芳香族炭素環または置換されていてもよい複素環を表し、R,R,Rは水素原子、アルキル基等を表す。)



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアリールエテン系化合物からなるフォトクロミック材料に係わり、特に着色性、熱戻り特性、繰り返し耐久性等に優れ、調光材料として好適なジアリールエテン系化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック材料とは、光照射により可逆的に分子構造変化を起こし、それに伴い着色と消色を繰り返す材料であり、近年、光記録材料、表示材料、調光材料等への応用の試みが盛んに行われている(非特許文献1参照)。特に調光レンズは顧客ニーズが高いことから既に実用化されているが、現状の性能は以下に記すように必ずしも満足なものではない。
調光用フォトクロミック材料としては、光照射により速やかに着色し、暗所で速やかに消色すること、繰り返し耐久性が高いこと、グレーやブラウンの色合いを出せること、レンズ等の基材に簡便に染色できる等が重要な課題となる。これらの中で、暗所で消色する、すなわち熱戻り特性から、スピロオキサジン系化合物、ナフトピラン系化合物、フルギド系化合物等が本用途に適したものとされ、様々な検討が進められてきた。
しかしながら、スピロオキサジン系化合物は繰り返し耐久性に優れるものの、色合いは主として青色に限定されることから、ナフトピラン系化合物やフルギド系化合物を併用する試みがなされているが、この手法では全体として繰り返し耐久性が不十分となる。また、樹脂中にフォトクロミック化合物を分散させた場合、フォトクロミック化合物の構造変化が阻害され着色・消色の基本機能を十分に果たせない、あるいは熱可塑性樹脂に練り込むにはフォトクロミック化合物の耐熱性が不十分である等の理由により、染色方法が制約され、簡便に染色することが不可能であること等から、現状では、すべての課題を満足する調光用フォトクロミック材料は得られていない。
一方、ジアリールエテン系化合物は、代表的な熱安定性フォトクロミック材料として知られ、一般に光照射(λ1)により着色し、光照射(λ2)により消色するが、熱による消色はないため、着色体は暗所では長期間安定であるという特徴があり、さらに、繰り返し耐久性や耐熱性に極めて優れていることから、主として光記録材料用途で開発が進められてきた。
【0003】
以上のように、ジアリールエテン系化合物は、一般には調光用に必須とされる熱戻り性がない材料であるが、熱戻り性を付与できれば、理想的な調光用材料が得られると想定されるため、最近、アリール基としてピロリル基を用いることで、熱戻り型とする検討が行われている(例えば非特許文献2および3、特許文献1および2参照)。
【特許文献1】特開平3−261762号公報
【特許文献2】特開2000−344693号公報
【非特許文献1】日本化学会編、有機フォトクロミズムの化学、季刊化学総説、No.28、1996、pp.1−8,89−109,149−161
【非特許文献2】Kingo Uchida,Toyokazu Matsumoto,Masahiro Iwamoto,Shigehiko Hayashi,Masahiro Irie、Thermally Reversible Photochromic system.Photochromizm of Dipyrrolylperfluorocyclopentene、Chemistry Letters、1999、pp.835−836
【非特許文献3】Arnault Heynderrickx,Ali Mohamed Kaou,Corinne Moustrou,Andre Samat,Robert Gugliemetti、Synthesis and photochromic behaviour of new dipyrrolylperfluorocyclopentenes、New Journal of Chemistry、2003、pp.1425−1432
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のジアリールエテン系化合物では、ピロリル基導入により熱戻り型とすることは可能であるが、ピロール化合物は反応性が高いことから中間体の安定性が低く、極めて収率が低いため合成そのものが困難であるという問題があった。
たとえば上記非特許文献3には以下の化学式(4)で示されるジアリールエテン化合物が記載されている。
【0005】
【化4】


非特許文献3によればジアリールエテン化合物(4)は以下の化学式(5)で示されるピロール化合物と、化学式(6)で示されるペルフルオロシクロペンテンとのカップリング反応により合成される。
【0006】
【化5】




この反応は−100℃の温度下、(5)の8重量%濃度溶液を用いて行われているが、この温度では(5)の結晶が析出し、反応収率に悪影響を与えることが本発明者らの検討により明らかとなった。
【0007】
結晶化を回避する方法として(5)の濃度をより薄くすることが考えられるが、非特許文献3には、反応種の寿命が短いことが記載されており、濃度を低下させることは反応速度の低下をもたらすので好ましくない。また、ジアリールエテン化合物の合成中環体の構造そのものを、溶解性を高める構造に変更した場合、合成したジアリールエテン化合物の着色、消色速度や色合いが構造変更の影響を受けるので困難であると言う問題があった。
本発明の目的は、着色性に優れ、且つ着色・消色速度も早い、調光材料として好適な新規な熱戻り型のジアリールエテン系化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ジアリールエテン系化合物に関して、熱戻り性と着色性を両立させ、且つ簡便に高収率で合成するのに適した分子構造について鋭意検討した結果、アリール基としてN−アリールまたはヘテロアリールピロリル基を用いることにより本目的が達成可能であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記一般式(1)で表されるジアリールエテン系化合物及びこれを用いたフォトクロミック材料に関するものである。
【0009】
【化6】


(一般式(1)中のnは2〜5の整数、A、Bはそれぞれ独立に一般式(2)を表す。)
【0010】

【化7】


(一般式(2)中のR1は置換されていてもよい芳香族炭素環または置換されていてもよい複素環を表し、R2はアルキル基、置換されていてもよい芳香族炭素環または置換されていてもよい複素環を表し、R3は水素原子、アルキル基またはシアノ基を表し、R4はアルキル基、アラルキル基、電子吸引性の基、電子供与性の基、置換されていてもよい芳香族炭素環または置換されていてもよい複素環を表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によるジアリールエテン系化合物は、熱戻り性、着色性、繰り返し耐久性、耐熱性等に極めて優れたものであることから、調光材料として調光レンズ等に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のジアリールエテン系化合物は、前記一般式(1)で示されるパーフルオロシクロアルケン誘導体であり、nは2〜5の整数の範囲であるが、n=3のパーフルオロシクロペンテン誘導体が特に好ましい。
AおよびBはそれぞれ独立に、前記一般式(2)で示されるピロリル基からなる。ここで、R2のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、シクロヘキシル基等が好ましい例として挙げられる。
4としてはアルキル基、アラルキル基、電子吸引性の基、置換されていてもよい芳香族炭素環または置換されていてもよい複素環、または下記一般式(3)で表される置換基から目的に応じて選択できる。
【0013】
【化8】


(R5,R6はそれぞれ独立に水素原子または任意の置換基を表す。但し、R5,R6は置換基を有していても良い環を形成しても良い。)
【0014】
の好ましい例としては、カルボキシル基、エステル基、アミド基、シアノ基、下記式(7)で表される置換基があげられる。
【0015】
【化9】

【0016】
5は通常、水素原子でよいが、必要に応じてメチル基、エチル基等のアルキル基またはシアノ基としてもよい。
これらR1、R2、R3、R4およびR5を適切に選択することで、青色や緑色に呈色するフォトクロミック化合物が得られる。
【実施例】
【0017】
以下に実施例をあげて本発明の方法を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0018】
〈実施例1〉
300mlの四つ口フラスコに1−フェニルピロール(7.20g,50.3mmol)を入れ、乾燥後、アルゴンガスで置換し、脱水テトラヒドロフラン(60ml)を加え、さらにカリウムt−ブトキシド(6.77g,60.3mmol)を加え、−80℃に冷却した。次に、メカニカルスターラーで激しく撹拌しながら1.52Mのn−ブチルリチウム(35.0ml,53.2mmol)を滴下し、そのまま1.5時間撹拌した。次に脱水ジメチルホルムアミド(4.6ml,4.37g,59.8mmol)を加え、反応液に10%塩化アンモニウム水溶液を加え反応を終了させた。有機層を10%塩化アンモニウム水溶液で洗浄後、ジエチルエーテルで2回抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで脱水した。これをろ過し、溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより1−フェニルピロール−2−カルボキシアルデヒド(8.47g,49.5mmol)を得た(収率98%)。1H−NMR(CDCl3,TMS,500MHz)6.40(s,1H,Ar),7.09−7.46(m,7H,Ar),9.56(s,1H,CHO)
1000mlのナス型フラスコに1−フェニルピロール−2−カルボキシアルデヒド(6.29g,36.7mmol)とテトラヒドロフラン(37ml)を入れ、28%アンモニア水溶液(367ml)を加え、撹拌し、ヨウ素(10.3g,40.6mmol)を加え、18時間撹拌し、5%チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、反応を終了させた。その後、有機層を5%チオ硫酸ナトリウム水溶液で洗浄し、ジエチルエーテルで2回抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで脱水した。これをろ過し、溶媒留去して1−フェニルピロール−2−カルボニトリル(5.83g,34.7mmol)を得た(収率94%)。
1H−NMR(CDCl3,TMS,500MHz)6.34(d,J=0.9Hz,1H,Ar),7.00(s,1H,Ar),7.08(d,J=0.9Hz,1H,Ar)7.44−7.50(m,5H,Ar)
300mlのナス型フラスコに1−フェニルピロール−2−カルボニトリル(5.77g,34.3mmol)とテトラヒドロフラン(137ml)を入れ、−80℃に冷却し、N−ブロモスクシンイミド(12.8g,71.9mmol)を加えた後室温に戻し、そのまま18時間撹拌した後、5%チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え反応を終了させた。その後、有機層をチオ硫酸ナトリウムで洗浄後、ジエチルエーテルで1回抽出し、有機層をまとめて10%炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後、ジエチルエーテルで1回抽出した。有機層をまとめて硫酸マグネシウムで乾燥後ろ別し、溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製し、4,5−ジブロモ−1−フェニルピロール−2−カルボニトリル(9.03g,27.7mmol)を得た(収率80%)。1H−NMR(CDCl3,TMS,500MHz)7.00(s,1H,Ar),7.35−7.56(m,5H,Ar)
300mlの四つ口フラスコに4,5−ジブロモ−1−フェニルピロール−2−カルボニトリル(8.36g,25.6mmol)を入れ、乾燥後アルゴンガスで置換し、脱水テトラヒドロフラン(100ml)を加え、−80℃に冷却した。次に1.56Mのn−ブチルリチウム(17.5ml,27.3mmol)を滴下し、15分撹拌した。次にヨウ化メチル(1.7ml,3.88g,27.3mmol)を滴下し、そのまま1時間撹拌し、10%塩化アンモニウム水溶液を加え、反応を終了させた。その後、有機層を10%塩化アンモニウム水溶液で洗浄後、ジエチルエーテルで2回抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで脱水した。これをろ過し、溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、4−ブロモ−5−メチル−1−フェニルピロール−2−カルボニトリル(5.22g,20.0mmol)を得た(収率78%)。
1H−NMR(CDCl3,TMS,500MHz)2.13(s,3H,Me)6.90(s,1H,Ar),7.27−7.53(m,5H,Ar)
200mlの四つ口フラスコに4−ブロモ−5−メチル−1−フェニルピロール−2−カルボニトリル(8.87g,34.0mmol)を入れ、乾燥後、アルゴンガスで置換し、脱水テトラヒドロフラン(85ml)を加え、−100℃に冷却した。次に2.67Mのn−ブチルリチウム(13.4ml,35.8mmol)滴下し、9分撹拌した。次にペルフルオロシクロペンテン(2.2ml,3.48g,16.4mmol)を滴下し、−100℃で30分間撹拌後、そのまま3時間かけて−78℃まで昇温した。その後反応液に10%塩化アンモニウム水溶液を加え反応を終了させた。有機層を10%塩化アンモニウム水溶液で洗浄後、ジエチルエーテルで1回抽出し、有機層をまとめて塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、ジエチルエーテルで1回抽出した。有機層をまとめて硫酸マグネシウムで脱水後、ろ過し、溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、1,2−ビス(2−シアノ−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテン(5.50g,10.3mmol)を得た(収率63%)。
1H−NMR(CDCl3,TMS,500MHz)1.72(s,6H,Me×2)7.06(s,1H,Ar),7.22−7.25(m,4H,Ar),7.55−7.57(m,6H,Ar)
100mlのナス型フラスコに1,2−ビス(2−シアノ−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテン(1.92g,3.56mmol)を入れ、エタノール(15ml)、2N水酸化ナトリウム水溶液(22ml)を加え、還流条件下16時間撹拌した。反応液をエバポレーターで濃縮後、水で希釈し、酢酸エチルで3回抽出した。有機層をまとめて硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、1,2−ビス(2−カルボキシアミド−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテン(0.72g,1.26mmol)を得た(収率35%)。
1H−NMR(DMSO−d6,TMS,400MHz)1.38(s,6H,Me×2),6.87(brs,2H,NH2),7.08−7.51(m,12H,Ar),7.61(brs,2H,NH2
【0019】
〈実施例2〉
100mlの四つ口フラスコに1,2−ビス(2−カルボキシアミド−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテン(0.72g,1.26mmol)を入れ、乾燥後アルゴンガスで置換し、脱水メタノール(20ml)とジメチルホルムアミドジメチルアセタール(1.0ml,0.90g,7.53mmol)を加え、還流条件下18時間撹拌した。この溶液にナトリウム(0.29g,12.6mmol)と脱水メタノール(4.5ml)より発生させたナトリウムメチラートを加えさらに3時間還流条件下で撹拌した。反応液を冷却後、10%塩化アンモニウム水溶液を加え、溶媒をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで2回抽出した。有機層をまとめて硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去し、次いでシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、1,2−ビス(2−メトキシカルボニル−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテン(0.68g,1.13mmol)を得た(収率90%)。
1H−NMR(CDCl3,TMS,400MHz)1.53(s,6H,Me×2),3.66(s,6H,COOMe×2),7.10−7.13(m,4H,Ar),7.22(s,1H,Ar),7.48−7.50(m,6H,Ar)
【0020】
〈実施例3〉
30mlのナス型フラスコに1,2−ビス(2−メトキシカルボニル−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテン(0.500g,0.830mmol)を入れ、メタノール(6.6ml)と2N−水酸化ナトリウム水溶液(2.5ml)を加え、3時間還流させた。その後、反応液を元の2/3程度に濃縮し、氷冷しながら反応液を酸性にし、析出した結晶をろ別後乾燥させ、1,2−ビス(2−カルボキシ−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテン(0.470g,0.818mmol)を得た(収率99%)。
1H−NMR(DMSO−d6,TMS,400MHz)1.45(s,6H,Me×2),7.04(s,2H,Ar),7.16−7.18(m,4H,Ar),7.48−7.54(m,6H,Ar),12.41(brs,2H,CO2H×2)
【0021】
〈実施例4〉
200mlの四つ口フラスコに1,2−ビス(2−シアノ−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテン(2.00g,3.73mmol)を入れ、乾燥後アルゴンガスで置換した後、脱水塩化メチレン(67ml)を加え、−50℃に冷却した。次にジイソブチルアルミニウムハイドライドn−ヘキサン溶液(19.2ml,18.6mmol)を滴下し、0℃に昇温した後、5時間撹拌し、5%硫酸を加え反応を停止した。水層に炭酸カリウムを加え、pH8として反応液を洗浄後、2回塩化メチレンで抽出し、有機層をまとめて硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過した後、溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、1,2−ビス(2−ホルミル−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテン(0.93g,1.71mmol)を得た(収率46%)。
1H−NMR(CDCl3,TMS,400MHz)1.62(s,6H,Me×2),7.15−7.17(m,2H,Ar),7.24(s,1H,Ar),7.51−7.54(m,6H,Ar),9.39(s,2H,CHO×2)
ベンゾジチオールテトラフルオロホウ酸塩(1.20g,5.00mmol)を300mlの四つ口フラスコに入れ、乾燥後アルゴンガスで置換した後、脱水アセトニトリル(20ml)で溶かし、ヨウ化ナトリウム(0.749g,5.00mmol)、亜リン酸トリメチル(0.59ml,0.622g,5.01mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。次に系内を減圧にして溶媒を留去し、脱水テトラヒドロフラン(100ml)で溶かし、−80℃に冷却した。次に2.67Mのn−ブチルリチウム(1.9ml,5.07mmol)を滴下後30分撹拌し、脱水テトラヒドロフラン(100ml)に溶かした1,2−ビス(2−ホルミル−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテン(0.9g,1.66mmol)を滴下後10分撹拌し、室温に昇温して2時間撹拌した。その後、溶媒を留去し、塩化メチレンに溶かし、水洗後、塩化メチレンで2回抽出した。有機層をまとめて硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、1,2−ビス[2−(1,3−ベンゾジチオール−4−イル)−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル]ヘキサフルオロシクロペンテン(0.60g,0.736mmol)を得た(収率44%)。
1H−NMR(CDCl3,TMS,400MHz)1.68(s,6H,Me×2),5.86(s,2H,CH×2),7.03−7.25(m,12H,Ar),7.44−7.50(m,6H,Ar)
【0022】
(フォトクロミック性の試験)
実施例1で得た1,2−ビス(2−カルボキシアミド−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンを酢酸エチルに溶解し、無色の液体を得た。次にこの溶液を石英セル中で、キセノンランプにより紫外線を照射すると、溶液は紫色に着色した。また、分光光度計(島津製作所製「MultiSpec−1500」)により測定した着色体の可視域の極大波長は597nmであった。
また、実施例2で得た1,2−ビス(2−メトキシカルボニル−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンを酢酸エチルに溶解し、無色の液体を得た。次にこの溶液に、同様にして紫外線を照射すると、溶液は青色に着色した。また、着色体の可視域の極大波長は622nmであった。
また、実施例3で得た1,2−ビス(2−カルボキシ−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンを酢酸エチルに溶解し、無色の液体を得た。次にこの溶液に、同様にして紫外線を照射すると、溶液は青色に着色した。また、着色体の可視域の極大波長は622nmであった。
また、実施例4で得た1,2−ビス[2−(1,3−ベンゾジチオール−4−イル)−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル]ヘキサフルオロシクロペンテンを酢酸エチルに溶解し、無色の液体を得た。次にこの溶液に、同様にして紫外線を照射すると、溶液は緑色に着色した。また、着色体の可視域の極大波長は717nmであった。
(退色性の試験)20℃において、上記のように実施例1,2,3,4の化合物にそれぞれ紫外光を照射して紫外光の照射を停止した後、極大波長の吸光度変化を測定し、吸光度が半分になる半減期を求め、退色速度を評価した。結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
〈実施例5〉
ポリカーボネート(PC)を塩化メチレンに重量比1:20で溶解し、PC溶液を調整した。次に実施例2で得られた1,2−ビス(2−メトキシカルボニル−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンを溶液中のPCに対して1重量%加え、混合溶液を調整した。この混合溶液を1500mm×500mmの容器に流し込み、自然乾燥させ、厚さ100μmの有機膜を得た。
【0025】
〈実施例6〉
240℃で溶解させたPCに対して0.1重量%の、実施例2で得られた1,2−ビス(2−メトキシカルボニル−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンを加え、空気雰囲気下、ラボプラストミルで6分間混錬した。ここで得られた混合物を破砕した後200℃で75秒加圧プレスして厚さ3mm、直径40mmの透明円盤を作成した。
実施例5で得た有機膜は、1,2−ビス(2−メトキシカルボニル−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンが色素としてポリカーボネート中に分散しており、紫外光照射前は無色透明であるが、キセノンランプにより紫外線を照射すると、1,2−ビス(2−メトキシカルボニル−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンが閉環体に異性化し、有機膜は青色に着色した。このように着色した有機膜に可視光を照射したり暗所に置いたりすることで、閉環体が開環体に異性化し、退色した。この着色、退色は可逆的に行うことができた。また、分光光度計(島津製作所製「MultiSpec−1500」)により透過光スペクトルを測定したところ、着色体の可視域において透過波長が極小値をとるのは607nmであった。
実施例6で得た円盤に同様にして紫外線を照射すると、円盤は青色に着色した。このように着色した円盤に可視光を照射したり暗所に置いたりすることで、閉環体が開環体に異性化し、退色した。この着色、退色は可逆的に行うことができた。また、透過光スペクトルを測定したところ、着色体の可視域において透過波長が極小値をとるのは611nmであった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1で得た1,2−ビス(2−カルボキシアミド−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンの酢酸エチル溶液の紫外線照射前後の吸収スペクトル変化を示すグラフである。
【図2】実施例1で得た1,2−ビス(2−カルボキシアミド−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンの酢酸エチル溶液の20℃における、波長597nmの吸光度の時間変化を示すグラフである。
【図3】実施例2で得た1,2−ビス(2−メトキシカルボニル−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンの酢酸エチル溶液の紫外線照射前後の吸収スペクトル変化を示すグラフである。
【図4】実施例2で得た1,2−ビス(2−メトキシカルボニル−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンの酢酸エチル溶液の20℃における、波長622nmの吸光度の時間変化を示すグラフである。
【図5】実施例3で得た1,2−ビス(2−カルボキシ−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンの酢酸エチル溶液の紫外線照射前後の吸収スペクトル変化を示すグラフである。
【図6】実施例3で得た1,2−ビス(2−カルボキシ−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル)ヘキサフルオロシクロペンテンの酢酸エチル溶液の20℃における、波長622nmの吸光度の時間変化を示すグラフである。
【図7】実施例4で得た1,2−ビス[2−(1,3−ベンゾジチオール−4−イル)−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル]ヘキサフルオロシクロペンテンの酢酸エチル溶液の紫外線照射前後の吸収スペクトル変化を示すグラフである。
【図8】実施例4で得た1,2−ビス[2−(1,3−ベンゾジチオール−4−イル)−5−メチル−1−フェニルピロール−4−イル]ヘキサフルオロシクロペンテンの酢酸エチル溶液の20℃における、波長717nmの吸光度の時間変化を示すグラフである。
【図9】実施例5で得た有機膜の紫外線照射前後の吸収スペクトル変化を示すグラフである。
【図10】実施例6で得た円盤の紫外線照射前後の吸収スペクトル変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジアリールエテン系化合物。
【化1】


(一般式(1)中のnは2〜5の整数、A、Bはそれぞれ独立に一般式(2)を表す。)
【化2】


(一般式(2)中のR1は置換されていてもよい芳香族炭素環または置換されていてもよい複素環を表し、R2はアルキル基、置換されていてもよい芳香族炭素環または置換されていてもよい複素環を表し、R3は水素原子、アルキル基またはシアノ基を表し、R4はアルキル基、アラルキル基、電子吸引性の基、電子供与性の基、置換されていてもよい芳香族炭素環または置換されていてもよい複素環を表す。)
【請求項2】
該一般式(2)中のR4が、下記一般式(3)で表される置換基である、請求項1記載のジアリールエテン系化合物。
【化3】

(R5,R6はそれぞれ独立に水素原子または任意の置換基を表す。但し、R5,R6は置換基を有していても良い環を形成しても良い。)
【請求項3】
請求項1又は2記載のジアリールエテン系化合物からなるフォトクロミック材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−162895(P2008−162895A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350671(P2006−350671)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(591001514)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】