説明

ジアルデヒドデンプンの製造方法

【課題】 高価な電気分解装置を用いず、効率的に過ヨウ素酸塩をリサイクルできるジアルデヒドデンプンの製造方法を提供する。
【解決手段】 カチオン化デンプンと過ヨウ素酸(塩)を反応させ、反応液からジアルデヒドデンプンを分離して食塩水またはボウ硝水溶液で洗浄し、反応液中のヨウ素酸(塩)を塩素又は次亜塩素酸塩で酸化して過ヨウ素酸(塩)として回収することを特徴とするジアルデヒドデンプンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙の湿潤紙力剤として有用なジアルデヒドデンプンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デンプンを酸化して得られるジアルデヒドデンプンは紙の湿潤紙力剤として有用な化合物である。また、古紙の回収においてもジアルデヒドデンプンは天然物系の化合物であるため、容易に分解され回収できることが知られている。
【0003】
ジアルデヒドデンプンはデンプンを過ヨウ素酸塩で酸化して製造される。反応液中にはジアルデヒドデンプンとヨウ素酸塩が生成する。しかしながら、過ヨウ素酸塩は高価なため、この反応液中に含まれるヨウ素酸塩から過ヨウ素酸塩を効率的にリサイクルしないとジアルデヒドデンプンを安価に製造することができない。
【0004】
ヨウ素酸塩から過ヨウ素酸塩をリサイクルする方法としては、反応後回収されたヨウ素酸塩溶液を電気分解してヨウ素酸塩を酸化する方法、ヨウ素酸塩を塩素で酸化する方法(特許文献1)、次亜塩素酸塩で酸化する方法(特許文献2)が挙げられる。
【0005】
電解酸化による過ヨウ素酸塩のリサイクル方法は、微量ながらも製品に鉛が混入する恐れがあり、特殊な設備(電解槽と電極)が必要であるため設備費、電極管理費の面で不利である。
【0006】
また生成したジアルデヒドデンプンを洗浄して精製する際、ジアルデヒドデンプンは糊化しやすく洗浄が困難なため、ジアルデヒドデンプンの製造コストを低減することが困難であった。
【特許文献1】特開平4−202002号公報
【特許文献2】特表2003−501334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ジアルデヒドデンプンの製造方法において、高価な電気分解装置を用いず、効率的に過ヨウ素酸塩をリサイクルできるジアルデヒドデンプンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、原料としてカチオン化デンプンを用い、ジアルデヒドデンプンを食塩水またはボウ硝水溶液で洗浄することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1) カチオン化デンプンと過ヨウ素酸(塩)を反応させ、反応液からジアルデヒドデンプンを分離して食塩水またはボウ硝水溶液で洗浄し、反応液中のヨウ素酸(塩)を塩素又は次亜塩素酸塩で酸化して過ヨウ素酸(塩)として回収することを特徴とするジアルデヒドデンプンの製造方法。
(2) カチオン化デンプンと反応させる過ヨウ素酸(塩)を水溶液として反応させることを特徴とする(1)に記載のジアルデヒドデンプンの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、効率よく過ヨウ素酸(塩)をリサイクルできるので、ジアルデヒドデンプンを安価に製造することができる。また、本発明方法により製造したジアルデヒドデンプンは鉛で汚染されることがないので、紙の湿潤紙力剤として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いられるカチオン化デンプンとは、デンプンに各種の置換アミン、アンモニウム塩イミンなどを導入して得られたもので、実用的には第3アミノアルキルエーテル、第4アンモニウムアルキルエーテルであるがこれらに限定されるものではない。デンプンの種類としては、一般的なトウモロコシ、馬鈴薯、小麦、タピオカ、コメ、サゴデンプンなどが挙げられる。カチオン化剤の置換度(D.S.)は0.001ないし0.2が好ましく、特に0.01ないし0.1が好ましい。
【0012】
通常のデンプンを過ヨウ素酸塩で酸化する場合、反応pHは1.5ないし4が好ましく、これ以上のpHになると糊化してしまう。洗浄水もpHが2ないし2.5が好ましく(特開昭60−137902号公報)、純水で洗浄すると糊化してしまう。
【0013】
カチオン化デンプンを過ヨウ素酸塩で酸化する場合、反応pHは3ないし5でも糊化しない。また、洗浄に食塩水またはボウ硝水溶液を用いることにより、糊化を防ぐことができ、食塩水またはボウ硝水溶液はこの後の過ヨウ素酸塩の回収工程で共存しても悪影響を与えることがない。
【0014】
パルプのセルロースは水中ではマイナスに帯電しており、カチオン化デンプンを用いたジアルデヒドデンプンは、単なるデンプンから得られるジアルデヒドデンプンよりセルロースに付着しやすいことが期待できる。
【0015】
本発明方法で用いられる過ヨウ素酸(塩)とは、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウム等を挙げることができる。
【0016】
カチオン化デンプンと過ヨウ素酸(塩)を反応させる場合は、過ヨウ素酸(塩)は水溶液として用いることが好ましい。過ヨウ素酸(塩)を水溶液とすることにより、反応によって生成するヨウ素酸(塩)が反応液中に溶存し、酸化後のジアルデヒドデンプンの回収が容易になる。
【0017】
過ヨウ素酸(塩)水溶液は、濃度0.1〜25wt%、好ましくは、5〜15wt%である。過ヨウ素酸(塩)を反応させる量はカチオン化デンプン1モルあたり0.1〜2.0モル、好ましくは、0.5〜1.2モルである。反応温度は特に限定されないが、例えば5〜50℃、好ましくは10〜40℃である。反応時間も特に限定されないが、例えば5〜600分、好ましくは30〜180分である。
【0018】
反応終了後、カチオン化デンプンを遠心分離等の公知の分離手段で分離し、洗液にヨウ素−デンプン反応がなくなるまで食塩水またはボウ硝水溶液で洗浄する。食塩水またはボウ硝水溶液を用いることにより、ジアルデヒドデンプンが糊化することなく効率的にジアルデヒドデンプンを精製することができる。
【0019】
洗浄に用いる食塩水の濃度は、1〜20wt%、好ましくは、5〜10wt%である。また、ボウ硝水溶液の濃度は、1〜20wt%、好ましくは、5〜10wt%である。
【0020】
ジアルデヒドデンプンを分離した後の反応液には、過ヨウ素酸(塩)が還元されたヨウ素酸(塩)が含まれているが、塩素又は次亜塩素酸塩を用いて過ヨウ素酸(塩)を回収して次ロットへリサイクルすることができる。
【0021】
過ヨウ素酸塩として過ヨウ素酸ナトリウムを用いた例を説明すると、ジアルデヒドデンプンの反応工程から回収された液には、ヨウ素酸ナトリウム、未反応の過ヨウ素酸ナトリウム及び反応不純物が含まれるが、この溶液をろ過後、塩素又は次亜塩素酸ナトリウムで酸化すると、水に難溶性のパラ過ヨウ素酸三水素二ナトリウム(NaIO)が得られる。パラ過ヨウ素酸ナトリウムを分離後、硫酸、硝酸、又はリン酸を加え、過ヨウ素酸ナトリウムとして次のロットのジアルデヒドデンプンの製造に使用することができる。
【0022】
塩素を用いて酸化する方法としては、例えば
80℃以上、pH7〜10、NaOH/NaIO=4.1(3〜6)、Cl/NaIO=1.6(1〜2)で反応すればよい。
【0023】
次亜塩素酸(塩)を用いて酸化する方法としては、例えば80℃以上、NaClO/NaIO=1.6(1〜3)、NaOH/NaIO=0.9(0.8以上)で反応すればよい。
【0024】
(参考例1)
表1に示したように過ヨウ素酸ナトリウムの濃度を変えた水溶液に、カチオン化デンプン50gを各々に加えて酸化した。反応終了後、遠心分離機で分離したジアルデヒドデンプンを10%食塩水で洗浄し、使用した過ヨウ素酸ナトリウムの95%を回収したときの液量を調べた。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示した結果から明らかなように、低濃度の時のほうが回収効率も良かったことにより、敢えて過ヨウ素酸ナトリウム濃度を薄い溶液でデンプンと反応させることで、容易にヨウ素酸ナトリウムを回収でき、ジアルデヒドデンプンの洗浄工程の困難が低減された。
【実施例1】
【0027】
カチオン化タピオカデンプン179g(0.95モル)を純水500mlに分散し、pH3.5の6.6wt%過ヨウ素酸ナトリウム溶液3240g(1.0モル)を、反応温度30℃以下を維持しながら30分で加え、3時間攪拌し、これを遠心分離し、分離したジアルデヒドデンプンを10wt%食塩水450gで2回洗浄し、濾液と洗液をあわせ4320gの回収液を得た。(ヨウ素酸ナトリウム0.94モル、未反応の過ヨウ素酸ナトリウム0.05モル、回収率99%。)更に洗液にヨウ素−デンプン反応がなくなるまで10%食塩水で洗浄した後、減圧下乾燥し173gのジアルデヒドデンプンを得た。
ヨウ素酸および未反応の過ヨウ素酸ナトリウムを含む回収液を80℃に昇温し48wt%NaOH320g(3.9モル)とCl104g(1.5モル)をpH7〜10を維持しながら加え、生成したパラ過ヨウ素酸ナトリウムを分離・水洗し267g(0.95モル)を得た。これにパラ過ヨウ素酸ナトリウムを13g(0.05モル)加え、純水1470gに分散し、96wt%硫酸54gを加え溶解し次のロットの反応に使用できた。
【0028】
(参考例2)
カチオン化タピオカデンプン179g(0.95モル)を純水582mlに分散し、pH5.0の6.6wt%過ヨウ素酸ナトリウム溶液3240g(1.0モル)を、反応温度30℃以下を維持しながら30分で加え、3時間攪拌し、これを遠心分離し、分離したジアルデヒドデンプンを10wt%食塩水300gで7回洗浄した後、減圧下乾燥し、209gのジアルデヒドデンプンを得た。反応中、pH5.5まで上昇した。
【実施例2】
【0029】
参考例2で得られたヨウ素酸ナトリウム(0.89モル)および未反応の過ヨウ素酸ナトリウム(0.10モル)を含む回収液4162gを80℃に昇温し48wt%NaOH63g(0.76モル)と13%NaClO796g(1.6モル)をpH7〜10を維持しながら加え、生成したパラ過ヨウ素酸ナトリウムを分離・水洗し270g(0.97モル)を得た。これにパラ過ヨウ素酸ナトリウムを8g(0.03モル)加え、純水1482gに分散し、96wt%硫酸54gを加え溶解し次のロットの反応に使用できた。
【実施例3】
【0030】
カチオン化タピオカデンプン179g(0.95モル)を純水582mlに分散し、pH3.5の6.6wt%過ヨウ素酸ナトリウム溶液3240g(1.0モル)を、反応温度30℃以下を維持しながら30分で加え、3時間攪拌し、これを遠心分離し、分離したジアルデヒドデンプンを8wt%ボウ硝水溶液300gで7回洗浄した後、減圧下乾燥し、207gのジアルデヒドデンプンを得た。
【0031】
(比較例1)
原料にカチオン化していないタピオカデンプンを用いる以外は、参考例2と全く同様の操作により反応および分離をした後、ジアルデヒドデンプンを純水により7回洗浄したところ、ジアルデヒドデンプンは糊化および著しく溶解して収量が激減した。反応中、pH5.9まで上昇した。
【0032】
【表2】

【0033】
(比較例2)
参考例2と全く同様の操作により反応したら、反応液はpH6.9まで上昇し、糊化が起こり、遠心分離後、洗浄2回目で濾過不能になった。
【0034】
(比較例3)
比較例1で得られたヨウ素酸ナトリウム(0.57モル)を含む回収液を80℃に昇温し48wt%NaOH157g(1.9モル)とCl52g(0.7モル)をpH7〜10を維持しながら反応させたが、パラ過ヨウ素酸ナトリウムは全く得られず反応液が褐色に変化した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明方法で得られるジアルデヒドデンプンは紙の湿潤紙力剤として有用であり、本発明はジアルデヒドデンプンを安価に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン化デンプンと過ヨウ素酸(塩)を反応させ、反応液からジアルデヒドデンプンを分離して食塩水またはボウ硝水溶液で洗浄し、反応液中のヨウ素酸(塩)を塩素又は次亜塩素酸塩で酸化して過ヨウ素酸(塩)として回収することを特徴とするジアルデヒドデンプンの製造方法。
【請求項2】
カチオン化デンプンと反応させる過ヨウ素酸(塩)を水溶液として反応させることを特徴とする請求項1に記載のジアルデヒドデンプンの製造方法。

【公開番号】特開2008−291121(P2008−291121A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138600(P2007−138600)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(393009828)日本天然ガス株式会社 (1)
【出願人】(000208260)大和化学工業株式会社 (28)
【Fターム(参考)】