説明

ジクロロエポキシブタンの製造方法

【課題】 塗料、接着剤、発泡体等に用いられる樹脂成分の中間原料であるポリオールの原料又は樹脂に難燃性、ガスバリヤ性、耐摩耗性、プラスチック基材への接着性等の機能を付与できる化合物であるジクロロエポキシブタンをジクロロブテンと過酸化水素との反応により効率よくエポキシ化して製造する方法を提供する。
【解決手段】 タングステン及び/又はモリブデンを有する遷移金属化合物と炭素数9以上50未満の有機アンモニウム塩の存在下、ジクロロブテンと過酸化水素との反応によりエポキシ化を行うジクロロエポキシブタンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジクロロエポキシブタンの製造方法に関するものであり、更に詳細には、塗料、接着剤、発泡体等に用いられる樹脂成分の中間原料であるポリオールの原料又は樹脂に難燃性、ガスバリヤ性、耐摩耗性、プラスチック基材への接着性等の機能を付与できる化合物であるジクロロエポキシブタンをジクロロブテンと過酸化水素との反応により効率的にエポキシ化して製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジクロロエポキシブタンの製造方法に関しては、これまで多数の文献が知られている。そして、一般にクロロヒドリン法と呼ばれる1,2,4−トリクロロブタン−3−オールからアルカリ化合物により脱塩化水素する方法として1,4−ジクロロ−2,3−エポキシブタンと1,2−ジクロロ−3,4−エポキシブタンの混合物を合成する方法(例えば特許文献1参照。)、有機過酸化物である過酢酸または過ギ酸を用いて3,4−ジクロロ−1−ブテンのオレフィン部位を酸化し3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンを製造する方法(例えば非特許文献1参照。)、さらに3,4−ジクロロ−1−ブテンのオレフィン部位のエポキシ化反応を高い収率で実現させている方法として、メタクロロ過安息香酸を用いて室温付近という温和な条件下での3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの合成方法(例えば非特許文献2参照。)等が提案されている。
【0003】
また、別のジクロロエポキシブタンの合成方法として、−30℃で3,4−エポキシ−1−ブテンに液体塩素を添加し、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンを製造する方法(例えば非特許文献3参照。)、第三級アミン又は第一級、第二級若しくは第三級アミンのハロゲン化水素塩の存在下に、3,4−エポキシ−1−ブテンとハロゲン分子を反応させる方法(例えば特許文献2参照。)、等が提案されている。
【0004】
その一方で、近年、安価で取扱いが容易な過酸化水素とタングステン化合物を用いた触媒によるエポキシ体の製造方法が注目を集め、例えば第4級アンモニウム塩を含む有機相とタングステン化合物およびリン酸類を含む水相からなる2相系溶液に、過酸化水素を添加するエポキシ化方法(例えば特許文献3参照。)、α−アミノメチルホスホン酸、相間移動触媒およびタングステン酸類の存在下、オレフィン類と過酸化水素を反応させる方法(例えば非特許文献4参照。)、等が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hawkins,J.Chem.Soc.,248頁(1959年)
【非特許文献2】D.F.Taber等、J.Org.Chem.67巻、3847頁(2002年)
【非特許文献3】Movsumzade等、Chem.Abstr.82:86251k(1975年)
【非特許文献4】佐藤一彦等、触媒,Vol.46、No.5,328頁(2004年)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】英国特許第864880号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特表平8−508494号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2004−115455号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に提案された方法は、任意の割合でジクロロエポキシブタンの構造異性体を製造することは不可能であり、その生産性に課題を有するものであった。また、非特許文献1に提案された過ギ酸による反応では、反応の収率が35%と低く、副生物としてグリコール類やグリコールエステルが多量に生成するという課題がある。さらに、非特許文献2に提案の方法においては、高い選択性と収率を実現できるが酸化剤として非常に高価なメタクロロ過安息香酸をジクロロブテンに対して少なくとも等モル以上という多量に用いる必要があり、その結果、廃棄物として未反応の過酸化物を含むメタクロロ安息香酸が多量に排出される。また、反応時間も72時間と非常に長く工業的に実施可能な製造方法ではない、という課題があった。
【0008】
非特許文献3に提案の方法は、原料調達の点で工業規模での3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの製造方法としては実用性が低いという課題があった。特許文献2に提案された方法においては、低温条件にて反応を行うことが必要であり工業規模での製造方法としては同じく実用性に課題を有するものであった。
【0009】
また、特許文献3に提案の方法に於いては、トルエン、キシレンなどの芳香族系の炭化水素溶媒を基質に対して過剰量用いるなど生成するエポキシ体との分離など煩雑な工程が必要であり、非特許文献4に提案の方法においては、高価で、吸湿性が高く取り扱いにも注意を要するアミノメチルホスホン酸を用いており、工業的には必ずしも満足するものではない上に、これらの方法は、何れも酸化しようとする基質によって充分な触媒活性が得られないことが多く、条件の検討が必要である。
【0010】
そして、これまでタングステン化合物を用いた触媒によるエポキシ体の製造方法では電子吸引基である塩素基を含有するジクロロブテン類のようなハロゲン化オレフィン類のエポキシ化方法についての報告例がないのが現状である。
【0011】
そこで、本発明は、樹脂成分の中間原料であるポリオールの原料又は樹脂に機能を付与できる化合物であるジクロロエポキシブタンの製造を効率よく安価に工業的なレベルで実施することが可能な方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題に関して鋭意検討した結果、ジクロロブテンと過酸化水素を反応する際に、タングステン及び/又はモリブデンを有する遷移金属化合物と特定の有機アンモニウム塩を存在させることにより、効率的にジクロロエポキシブタンを製造することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、タングステン及び/又はモリブデンを有する遷移金属化合物と炭素数9以上50未満の有機アンモニウム塩の存在下、ジクロロブテンと過酸化水素との反応によりエポキシ化を行うジクロロエポキシブタンの製造方法に関するものである。
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明のジクロロエポキシブタンの製造方法は、ジクロロブテンと過酸化水素との反応によりエポキシ化を行う際に、タングステン及び/又はモリブデンを有する遷移金属化合物と炭素数9以上50未満の有機アンモニウム塩の存在下で反応を行うものである。
【0016】
本発明におけるタングステン及び/又はモリブデンを有する遷移金属化合物は、エポキシ化反応の際に触媒として作用する遷移金属化合物であり、該遷移金属化合物としては、これらの範疇に属するものであれば如何なる制限を受けることなく用いることが可能であり、例えば単核の金属酸化物類、イソポリ酸類、ヘテロポリ酸類等を挙げることができ、より具体的には、タングステン酸、タングステン酸リチウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸アンモニウム等のタングステン酸またはその塩;モリブデン酸、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウム等のモリブデン酸またはその塩;リン−12−タングステン酸、リン−12−タングステン酸ナトリウム、リン−12−タングステン酸アンモニウム、リン−12−タングステン酸カリウム、ケイタングステン酸、ケイタングステン酸ナトリウム、リンバナドタングステン酸、リン−3−モリブド−9−タングステン酸、リン−6−モリブド−6−タングステン酸、リン−9−モリブド−3−タングステン酸、リン−12−モリブデン酸等のタングステン及び/又はモリブデンを含むヘテロポリ酸またはその塩、等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を混合して用いることもできる。そして、特に効率よくジクロロエポキシブタンを製造することが可能となることから、タングステン酸、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム、リン−12−タングステン酸、リン−3−モリブド−9−タングステン酸が好ましい。
【0017】
本発明における該遷移金属化合物の使用量としては、ジクロロエポキシブタンの製造が可能である限り如何なる制限を受けるものではなく、その中でも特にジクロロエポキシブタンの生産効率に優れた製造方法となることから、ジクロロブテン1モルに対し、該遷移金属化合物中のタングステン原子及び/又はモリブデン原子のモル比率で0.0001〜1倍モルであることが好ましく、特に0.001〜0.1倍モルであることが好ましく、さらに該遷移金属化合物の回収工程を省略することも可能となることから0.002〜0.05倍モルであることが好ましい。
【0018】
本発明における有機アンモニウム塩は、エポキシ化反応の際に触媒として作用する該遷移金属化合物の有機相へ溶解性を向上させるものであり、該有機アンモニウム塩としては一般的に炭素数9以上50未満の有機アンモニウム塩として知られている範疇に属するものであれば如何なるものも用いることが可能であり、その中でも特に入手が容易で、遷移金属化合物の有機相への溶解性向上効果に優れることから、特に炭素数16以上44未満の有機アンモニウム塩であることが好ましい。該有機アンモニウム塩としては、具体的には塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ベンジルトリブチルアンモニウム、塩化フェニルトリメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラヘキシルアンモニウム、塩化テトラオクチルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化トリオクチルエチルアンモニウム、塩化ジラウリルジメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ジオクタデシルジメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ジセチルジメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化トリカプリルメチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウム塩化物;塩化ドデシルピリジニウム、塩化セチルピリジニウム等のアルキルピリジニウム塩化物;臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリエチルアンモニウム、臭化ベンジルトリブチルアンモニウム、臭化フェニルトリメチルアンモニウム、臭化テトラヘキシルアンモニウム、臭化テトラオクチルアンモニウム、臭化トリオクチルメチルアンモニウム、臭化トリオクチルエチルアンモニウム、臭化ジラウリルジメチルアンモニウム、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化ジステアリルジメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化ジオクタデシルジメチルアンモニウム、臭化オクタデシルトリメチルアンモニウム、臭化ジセチルジメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化トリカプリルメチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウム臭化物;臭化ドデシルピリジニウム、臭化セチルピリジニウム等のアルキルピリジニウム臭化物;ヨウ化ベンジルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリエチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリブチルアンモニウム、ヨウ化フェニルトリメチルアンモニウム、ヨウ化テトラヘキシルアンモニウム、ヨウ化テトラオクチルアンモニウム、ヨウ化トリオクチルメチルアンモニウム、ヨウ化トリオクチルエチルアンモニウム、ヨウ化ジラウリルジメチルアンモニウム、ヨウ化ラウリルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ジステアリルジメチルアンモニウム、ヨウ化ステアリルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ジセチルジメチルアンモニウム、ヨウ化セチルトリメチルアンモニウム、ヨウ化トリカプリルメチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウムヨウ化物;ヨウ化ドデシルピリジニウム、ヨウ化セチルピリジニウム等のアルキルピリジニウムヨウ化物;硫酸水素ベンジルトリメチルアンモニウム、硫酸水素ベンジルトリエチルアンモニウム、硫酸水素ベンジルトリブチルアンモニウム、硫酸水素フェニルトリメチルアンモニウム、硫酸水素テトラブチルアンモニウム、硫酸水素テトラヘキシルアンモニウム、硫酸水素テトラオクチルアンモニウム、硫酸水素トリオクチルメチルアンモニウム、硫酸水素トリオクチルエチルアンモニウム、硫酸水素ジラウリルジメチルアンモニウム、硫酸水素ラウリルトリメチルアンモニウム、硫酸水素ジステアリルジメチルアンモニウム、硫酸水素ステアリルトリメチルアンモニウム、硫酸水素ジセチルジメチルアンモニウム、硫酸水素セチルトリメチルアンモニウム、硫酸水素トリカプリルメチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウム硫酸水素塩;硫酸水素ドデシルピリジニウム、硫酸水素セチルピリジニウム等のアルキルピリジニウム硫酸水素塩;等を挙げることができ、更に上述の具体例の有機アンモニウム塩の中で天然由来の原料から調製された有機アンモニウム塩であってアルキル基に一部不飽和結合や炭素数に分布を有するものであってもよい。また、該有機アンモニウム塩は単独又は2種以上を混合して用いても良い。そして、その中でも特にジクロロエポキシブタンの生産効率に優れた製造方法となることから塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化ジラウリルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、硫酸水素テトラオクチルアンモニウム、塩化ドデシルピリジニウム、塩化セチルピリジニウムであることが好ましい。
【0019】
ここで、有機アンモニウム塩が、炭素数9未満のものである場合、又は炭素数50を越えるものである場合、ジクロロエポキシブタンの生産効率に劣る製造方法となる。
【0020】
本発明における炭素数9以上50未満の有機アンモニウム塩の使用量としては、ジクロロエポキシブタンの製造が可能である限り如何なる制限を受けるものではなく、その中でも特にジクロロエポキシブタンの生産効率に優れた製造方法となることから、該遷移金属化合物中のタングステン原子及び/又はモリブデン原子1モルに対して0.1〜5倍モルの範囲であることが好ましい。そして、特に有機アンモニウム塩がアルキルピリジニウム塩類である場合、0.1〜1.5倍モルの範囲であることがより好ましく、またテトラアルキルアンモニウム塩類である場合、0.25〜1.5倍モルの範囲であることがより好ましい。また、該有機アンモニウム塩は、取扱いを容易にするため水やアルコール、プロピレングリコール等によって希釈されたものを用いることもできる。
【0021】
本発明におけるジクロロブテンとしては、一般的にジクロロブテンと称される範疇に属するものであれば如何なる制限を受けることなく用いることが可能であり、例えば1,4−ジクロロ−2−ブテン及び/又は3,4−ジクロロ−1−ブテンを挙げることができる。
【0022】
本発明における過酸化水素としては、一般的に過酸化水素と称される範疇に属するものであれば如何なる制限を受けることなく用いることが可能であり、その中でも安全性の点から過酸化水素水として取り扱うことが好ましく、その際の濃度としては0.01〜85重量%の範囲の濃度の過酸化水素水であることが好ましく、特に10〜60重量%の範囲の濃度の過酸化水素水をそのまま、あるいは水で希釈して用いることが好ましい。
【0023】
本発明における過酸化水素の使用量としては、ジクロロエポキシブタンの製造が可能である限り如何なる制限を受けるものではなく、その中でも特にジクロロエポキシブタンの生産効率に優れた製造方法となることから、ジクロロブテン1モルに対して0.1〜5.0倍モルの範囲であることが好ましく、特に0.3〜2.0倍モルの範囲であることが好ましい。
【0024】
また、本発明の製造方法は、リン酸類や硫酸類などの酸類を用いpHを調製した過酸化水素水を用いることが好ましい。酸類によりpHを調製することにより過酸化水素の自己分解反応を抑制し、高い転化率と選択性でジクロロエポキシブタンを製造することが可能となる。その際のpHは、0.3〜4.0の範囲とすることが特に好ましい。該酸類としては、例えばリン酸、ポリリン酸、ピロリン酸、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、硫酸、硫酸水素ナトリウムなどが挙げられる。また、その際の使用量としては、酸の当量として、該遷移金属化合物中のタングステン原子及び/又はモリブデン原子に対して0.01〜100倍当量の範囲が好ましく、更に好ましくは0.1〜10倍当量である。
【0025】
本発明のジクロロエポキシブタンの製造方法は、溶媒の存在下又は非存在下のいずれでも行うことが可能である。溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン、2,6−ジメチルシクロオクタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、クメン等の芳香族炭化水素;イソプロパノール、ブタノール、高級脂肪族アルコール等のアルコール類、等が挙げられる。これらの中でも反応効率と副反応を抑えるという観点から有機相と水相に分離しやすい溶媒が好ましく塩化メチレンやクロロホルム等のハロゲン化炭化水素やトルエンやキシレン等の芳香族系炭化水素が好ましい。
【0026】
溶媒を用いる際の使用量としては、ジクロロブテン類に対して0.01〜5倍重量であることが好ましい。
【0027】
ジクロロエポキシブタンを製造する際の反応温度は、過酸化水素の自己分解反応が低く抑えられ、過酸化水素当たりの選択率が高く維持できることから0〜90℃の範囲で反応を行うことが好ましい。更にエポキシ化反応の速度を高め、副反応の進行や過酸化水素の自己分解を抑えるという観点から25〜75℃の範囲であることが特に好ましい。また、製造は、大気圧下、加圧下または減圧下のいずれでも実施できる。反応の雰囲気は特に制限はなく、特に安全性を考慮して窒素、アルゴンなどの不活性気体中で実施することが好ましい。
【0028】
本発明のジクロロエポキシブタンの製造方法は、溶媒を用いた溶液系、ジクロロブテンを溶媒としたバルク系、溶媒及び/又はジクロロブテンを有機相、過酸化水素を水溶液とした水相である2相系、等の方法により行うことが可能であり、その中でも特に効率的に製造を行うことが可能であることから2相系にて行うことが好ましい。その際の2相系としては、例えばタングステン及び/又はモリブデンを有する遷移金属化合物と過酸化水素とを有する水相にジクロロブテンと炭素数9以上50未満の有機アンモニウム塩とを含む有機相を加え反応を行う方法;ジクロロブテンと炭素数9以上50未満の有機アンモニウム塩とを含む有機相とタングステン及び/又はモリブデンを有する遷移金属化合物を含む水相とからなる二相系溶液に、過酸化水素を水溶液で加える方法;ジクロロブテンと炭素数9以上50未満の有機アンモニウム塩とを含む有機相にタングステン及び/又はモリブデンを有する遷移金属化合物を溶解した過酸化水素の水溶液を加える方法、等が挙げられる。また、この際の有機相は溶媒により希釈されていてもよい。さらに、過酸化水素の水溶液である過酸化水素水であってもよく、過酸化水素水はリン酸や硫酸等の酸類によりpHを調整されていてもよい。
【0029】
本発明の製造方法により得られるジクロロエポキシブタンとしては、一般的にジクロロエポキシブタンと称される範疇に属するものであれば如何なる制限を受けることなく製造することが可能であり、例えば1,4−ジクロロ−2,3−エポキシブタン、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンを挙げることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の製造方法によれば、塗料、接着剤、発泡体等に用いられる樹脂成分の中間原料であるポリオールの原料又は樹脂に難燃性、ガスバリヤ性、耐摩耗性、プラスチック基材への接着性等の機能を付与できるジクロロエポキシブタンを生産効率よく製造することが可能となり、その工業的価値は極めて高いものである。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0032】
実施例により用いた評価・測定方法を以下に示す。
【0033】
〜ガスクロマトグラフィー(GC)分析〜
キャピラリーカラム(タイプ:FFAP、サイズ:長さ30mm×キャピラリー径0.32mmφ)を用い、初期温度:100℃(5分間)、昇温速度:250℃まで10℃/分で昇温:250℃5分間保持の測定条件で測定した。
【0034】
実施例1
攪拌装置を付したフラスコに、85%リン酸によりpH0.5に調整した35重量%の過酸化水素水50ミリリットル(56.5g、0.582モル)、リン−12−タングステン酸・30水和物5.29g(18.56ミリモル)を加え、室温で溶解させ24時間緩やかに攪拌しながら熟成した。別途、冷却管、攪拌装置、滴下装置を付したフラスコに3,4−ジクロロ−1−ブテン200ミリリットル(232g、1.856モル)、塩化トリオクチルメチルアンモニウムの95重量%アルコール溶液6.24g(和光純薬工業社販売元、(商品名)Aliquote336:18.56ミルモル)を加え、室温で攪拌した。
【0035】
ジクロロブテンと塩化トリオクチルメチルアンモニウムの溶液を激しく攪拌しながら50℃まで昇温し、反応溶液の温度が60℃を越えないように制御しながら先に用意したリン−12−タングステン酸の過酸化水素水溶液を30分かけて滴下した。その後、リン酸によりpH0.5に調整した35重量%の過酸化水素水126ミリリットル(142g、1.466モル)を1時間30分かけて反応温度を60℃に保ちながら滴下した。
【0036】
この反応溶液を激しく攪拌しながら8時間、反応温度は60℃に制御しながら反応を実施し、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの製造を行った。反応後、チオ硫酸ナトリウムで未反応の過酸化水素を除外した後、デカンテーションにより水相を除去した。有機相を蒸留水200ミリリットルで3回洗浄し、減圧蒸留により未反応の3,4−ジクロロ−1−ブテンと3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンに分離し、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンを得た。
【0037】
3,4−ジクロロ−1−ブテンの転化率は89%と高く、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの選択率も99%と高く、生産性に優れるものであった。結果を表1に示す。
【0038】
実施例2
塩化トリオクチルメチルアンモニウムの95重量%アルコール溶液6.24gの代わりに、塩化セチルピリジニウム3.155g(9.28ミリモル)を用い、過酸化水素水の滴下後の反応時間を6時間とした以外は、実施例1と同様の方法により反応を行い、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの製造を行った。
【0039】
3,4−ジクロロ−1−ブテンの転化率は81%と高く、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの選択率も98%と高く、生産性に優れるものであった。結果を表1に示す。
【0040】
実施例3
塩化トリオクチルメチルアンモニウムの95重量%アルコール溶液6.24gの代わりに、塩化ジオクタデシルジメチルアンモニウム5.443g(9.28ミリモル)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により反応を行い、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの製造を行った。
【0041】
3,4−ジクロロ−1−ブテンの転化率は65%と高く、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの選択率も95%と高く、生産性に優れるものであった。結果を表1に示す。
【0042】
実施例4
リン−12−タングステン酸・30水和物5.011g(18.56ミリモル)の代わりに、タングステン酸4.637g(18.56ミリモル)を用い、過酸化水素水を滴下後、反応時間を12時間とした以外は、実施例1と同様の方法により反応を行い、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの製造を行った。
【0043】
3,4−ジクロロ−1−ブテンの転化率は83%と高く、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの選択率も97%と高く、生産性に優れるものであった。結果を表1に示す。
【0044】
実施例5
反応温度60℃の代わりに、75℃とし、反応時間を3時間とした以外は、実施例1と同様の方法により反応を行い、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの製造を行った。
【0045】
3,4−ジクロロ−1−ブテンの転化率は83%と高く、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの選択率も95%と高く、生産性に優れるものであった。結果を表1に示す。
【0046】
実施例6
リン−12−タングステン酸・30水和物5.29g(18.56ミリモル)の代わりに、リン−3−モリブド−9−タングステン酸4.88g(18.56ミリモル)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により反応を行い、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの製造を行った。
【0047】
3,4−ジクロロ−1−ブテンの転化率は76%と高く、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの選択率も97%と高く、生産性に優れるものであった。結果を表1に示す。
【0048】
実施例7
塩化トリオクチルメチルアンモニウムの95重量%アルコール溶液6.24gの代わりに、塩化セチルピリジニウム3.155g(9.28ミリモル)を用いた以外は、実施例6と同様の方法により反応を行い、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの製造を行った。
【0049】
3,4−ジクロロ−1−ブテンの転化率は60%と高く、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの選択率も97%と高く、生産性に優れるものであった。結果を表1に示す。
【0050】
実施例8
塩化トリオクチルメチルアンモニウム塩(18.56ミルモル)の代わりに、塩化トリオクチルメチルアンモニウム塩(23.2ミリモル)を使用した以外は、実施例1と同様の方法により反応を行い、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの製造を行った。
【0051】
3,4−ジクロロ−1−ブテンの転化率は93%と高く、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの選択率も95%と高く、生産性に優れるものであった。結果を表1に示す。
【0052】
実施例9
過酸化水素水153g(1.578モル)を使用した以外は、実施例1と同様の方法により反応を行い、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの製造を行った。
【0053】
3,4−ジクロロ−1−ブテンの転化率は80%と高く、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの選択率も95%と高く、生産性に優れるものであった。結果を表1に示す。
【0054】
実施例10
3,4−ジクロロ−1−ブテン(1.856モル)、リン−12−タングステン酸・30水和物5.011gの代わりに、1,4−シクロロ−2−ブテン(1.856モル)、タングステン酸ナトリウム・2水和物6.125g(18.56ミリモル)を用い、反応温度を75℃とし、反応時間を6時間とした以外は、実施例1と同様の方法により反応を行い、1,4−ジクロロ−2,3−エポキシブタンの製造を行った。
【0055】
1,4−ジクロロ−2−ブテンの転化率は95%と高く、1,4−ジクロロ−2,3−エポキシブタンの選択率も96%と高く、生産性に優れるものであった。結果を表1に示す。
【0056】
比較例1
塩化トリオクチルメチルアンモニウムの95重量%アルコール溶液6.14g(18.56ミルモル)の代わりに、塩化テトラメチルアンモニウム2.03g(18.56ミリモル)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により反応を行い、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの製造を行った。
【0057】
3,4−ジクロロ−1−ブテンの転化率は5%未満と低いものであった。
【0058】
比較例2
塩化トリオクチルメチルアンモニウムの95重量%アルコール溶液6.14g(18.56ミルモル)の代わりに、塩化テトラエチルアンモニウム3.08g(18.56ミリモル)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により反応を行い、3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの製造を行った。
【0059】
3,4−ジクロロ−1−ブテンの転化率は5%未満と低いものであった。
【0060】
比較例3
冷却管、攪拌装置、滴下装置を付したフラスコに3,4−ジクロロ−1−ブテン188ミリリットル(218g、1.74モル)と98%ギ酸50ミリリットル(60.2g,1.30モル)を加え50℃で激しく攪拌した。そこへ35重量%の過酸化水素水215ミリリットル(243g、2.50モル)を反応溶液の温度が60℃を越えないように制御しながら1時間かけて滴下した。この反応溶液を激しく攪拌しながら4時間、反応温度は60℃に制御しながら反応を実施した。反応後、静置し2相に分離した有機相から3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンを回収した。
【0061】
3,4−ジクロロ−1−ブテンのエポキシ体への転化率は4%と低く、生産性に劣るものであった。
【0062】
比較例4
冷却管、攪拌装置、滴下装置を付したフラスコにメタクロロ過安息香酸201.6g(0.841モル)、クロロホルム200ミリリットル(295.2g)、3,4−ジクロロ−1−ブテン102.0g(0.816モル)を加え30℃にて10時間反応を行った。反応液を濾過し、濾液と残滓にわけ濾液を減圧蒸留することにより目的の3,4−ジクロロ−1,2−エポキシブタンの回収を行った。
【0063】
3,4−ジクロロ−1−ブテンのエポキシ体への転化率は39%と低く、生産性に劣るものであった。
【0064】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0065】
塗料、接着剤、発泡体等に用いられる樹脂成分の中間原料であるポリオールの原料又は樹脂に難燃性、ガスバリヤ性、耐摩耗性、プラスチック基材への接着性等の機能を付与できるジクロロエポキシブタンを生産効率よく製造することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン及び/又はモリブデンを有する遷移金属化合物と炭素数9以上50未満の有機アンモニウム塩との存在下、ジクロロブテンと過酸化水素との反応によりエポキシ化を行うことを特徴とするジクロロエポキシブタンの製造方法
【請求項2】
タングステン及び/又はモリブデンを有する遷移金属化合物が、タングステン酸、タングステン酸ナトリウム、リン−12−タングステン酸及びリン−3−モリブド−9−タングステン酸からなる群より選択されるものであることを特徴とする請求項1に記載のジクロロエポキシブタンの製造方法。
【請求項3】
ジクロロブテンと炭素数9以上50未満の有機アンモニウム塩を含む有機相、とタングステン及び/又はモリブデンを有する遷移金属化合物と過酸素水素を含む水相、との2相系で反応を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のジクロロエポキシブタンの製造方法。
【請求項4】
タングステン及び/又はモリブデンを有する遷移金属化合物と過酸素水素を含む水相のpHを0.3〜4に調整し、反応を行うことを特徴とする請求項3に記載のジクロロエポキシブタンの製造方法。

【公開番号】特開2012−56883(P2012−56883A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201681(P2010−201681)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】