説明

ジチオホスフェート組成物およびゴムにおける有用性

本発明は、オリゴマーもしくはポリマーのジチオリン酸ジスルフィドまたはポリスルフィド、およびゴムにおけるそれらの有用性に関する。本発明の他の態様は、五硫化リンと、ジオールまたはポリオールおよびモノアルコールとを反応させて、ジチオリン酸を生成するステップと、次いで前記ジチオリン酸を酸化剤で酸化させ、オリゴマーまたはポリマーのジチオホスフェートを生成するステップによって、オリゴマーまたはポリマーのジチオホスフェートを作製する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー組成物および組成物の生成方法に関する。さらに具体的には、ポリマー組成物は、新規なポリマーのジチオホスフェートを含む。
【背景技術】
【0002】
ジチオホスフェート促進剤は、ジエンの加硫において硫黄供与体として使用されてきた。従来の促進剤と比較して、それらは天然ゴムの改善された加硫戻り、生成される加硫物またはゴムの熱安定性、および添加剤の流出なしで生成物を加硫および生成する(「非ブルーミング性」)ための様々な極性のゴムにおける高い溶解性などの利点を提供する。
【0003】
市販のジチオホスフェート添加剤は、(1)Akrochemからの「促進剤ZIPPAC」(ZIPPACは、ポリマーマトリックス中に分散している亜鉛−ジチオリン酸アミン複合体である。ZIPPACは、チアゾールおよびチウラムと組み合わせて使用される場合、ENB系EPDMに速い加硫速度をもたらす。Akrochemの他のチオホスフェート促進剤と比較して、促進剤VS、ZIPPACは、より速い加硫を実現する。加硫ZIPPACは、高度の架橋によって高い弾性率および低い圧縮ひずみを示す。加硫物は通常、非ブルーミング性である。耐熱空気老化性は、他のチオホスフェート促進剤によって得られるものよりも通常良好である。ZIPPACは、有害なニトロソアミンを形成せず(ZIPPACは急速に分解する不安定な第1級アミンのみを形成する)、低いニトロソアミンの生成方式(その高い架橋密度および速い加硫が安全なニトロソアミン加硫系と関係がある通常の問題を克服する)における有用な促進剤である);(2)Crompton−Uniroyal ChemicalからのRoyalac136は、チオリン酸亜鉛(ホスホロジチオ酸亜鉛)である;(3)CAS番号68457−79−4のMeramid P(ジアルキルジチオリン酸亜鉛);(4)主要成分としてジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDTP)と共にチアゾール促進剤および塩基性促進剤の相乗作用的組合せとして説明されているD.O.G.からのDeovulc EG187;(5)FlexsysからのVocol ZBPDは、O,O−ジブチルホスホロジチオ酸亜鉛として記載されている。エラストマー、およびNR、EPDM、ラテックスゴムおよび加硫EPDMのための非ブルーミング性促進剤において利用され、またNRにおいて加硫戻り耐性を改善する。;(6)ジチオリン酸ジスルフィドであるR.T.Vanderbilt CompanyからのVANAX(登録商標)196;(7)ジチオリン酸ポリスルフィドとして説明されているRhine ChemieからのRhenocure AP−6;(8)ジチオホスフェート、硫黄源として説明されているRhine ChemieからのRhenocure(登録商標)TP/S;(9)ホスホリルポリスルフィド、硫黄源として説明されているRhine ChemieからのRhenocure(登録商標)SDT/S;(10)ホスホリルポリスルフィド、硫黄源としてまた説明されているRhine ChemieからのRhenocure SDT/G;および(12)ポリマー結合ホスホリルポリスルフィドとして説明されているRhine ChemieからのRhenogran(登録商標)SDT−50である。
【0004】
ゴムにおいてニトロソアミンを低減することは、ニトロソアミンと関連する発癌特性によって重要となってきた。ジチオホスフェート促進剤は、ニトロソアミン形成の必要条件である化学構造中の窒素が欠如していることによって新たな利益を有する。より良好な環境特性を有することについての一般の表現は、「グリーン」であり、なお一層グリーンな添加剤を生成する努力がなされている。
【0005】
ジチオホスフェート技術についての1つの懸念は、この技術が、有害なニトロソアミンを形成する可能性はないが、毒素となる能力を有することである。マラチオンは、広く利用可能なジチオホスフェート殺虫剤である。昆虫に対してだけでなく多種多様の動物の生態に対して毒性がある(The Ortho Group、「Environmental Hazards:This pesticide is toxic to fish,aquatic invertebrates,and aquatic life stage of amphibians.」)。有毒なジチオホスフェートについての他の参照は、2−P−ジオキサンチオールS−(O,O−ジアルキルホスホロジチオエート)を含有する殺虫性組成物について記載しているUSP2,725,327(1955年11月29日、William R.Diveleyら)、およびO,OジアルキルS−アリールメルカプトホスホロジチオエート組成物および昆虫を殺処分する方法について記載しているUSP2828241(1958年3月25日、Gail H.Birumら)において提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】USP2,725,327(1955年11月29日、William R.Diveleyら)
【0007】
【特許文献2】USP2828241(1958年3月25日、Gail H.Birumら)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】The Ortho Group、「Environmental Hazards:This pesticide is toxic to fish,aquatic invertebrates,and aquatic life stage of amphibians.」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高分子材料は、それらの単量体形態より改善された低い毒性を提供することは一般に受け入れられている。添加剤のポリマー(担体)への結合は、改善された環境安全性をもたらすが、(ゴム加硫に関して)不活性ポリマーによって分子の活性が希釈される。二官能性または多官能性アルコールを介したポリマーのジチオホスフェートの形成によって(反応において五硫化リンと共にジオールまたはポリオールアルコールを利用して、オリゴマーまたはポリマーのジチオリン酸を形成させる)、オリゴマーまたはポリマーのジスルフィドへと、その後ポリスルフィドへと酸化される場合があることが予想外に見出された。あるいは、ジチオリン酸は、金属水酸化物または金属酸化物と反応する場合がある。このように得られた生成物は、ゴムに対して高活性、優れた加硫および/または安定化特性を付与することができ、(モノマー型の添加剤と比較して)それらのポリマー添加剤形態によって改善された取り扱いへの配慮および環境(「グリーン」)への配慮を提供することができる「添加剤」として機能するであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ジチオリン酸ジスルフィド、ジチオリン酸ポリスルフィド、およびジチオリン酸亜鉛は公知の促進剤であり、それらの化学反応を下記に例示する。
【0011】
【化1】

【0012】
ポリマーは、主としてそれらのより高い分子量(ポリマー特性)(揮発性および生体膜を通過する可能性を減少させる)によって、モノマーまたは非ポリマー形態と比較して低毒性または無毒性であると広く一般に考えられている。さらに、これらのオリゴマーまたはポリマーのジスルフィドは、硫黄元素との反応によってポリスルフィドに変換することができ、ポリスルフィドは、本発明の多様性の一部である。ジチオホスフェートは、天然ゴム(NR)、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)、EPDM/ブチルおよび加硫ラテックス(NRラテックスおよびクロロプレンラテックス)、ポリブタジエン樹脂およびスチレン−ブタジエンゴムの安定化を含めた多くのエラストマーにおいて利用されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ジチオホスフェートは、アルコールを五硫化リンと反応させて、ジチオリン酸を生成することによって作製されることは公知である。1種または複数のアルコールを使用して所望の特性を得ることは一般的な方法である。さらに、そのアンモニウム塩または亜鉛塩を作製する、あるいはそのジスルフィドまたはポリスルフィドを作製することは通常である。典型的には、ジスルフィドは、ジチオリン酸の酸化カップリングによって作製される。ポリスルフィド類似体は、ジスルフィドへの硫黄挿入によって作製することができ、硫黄元素は典型的には多くの類似体においてこれを行っている。
【0014】
本発明の一実施形態は、アルコール(モノアルコール)と組み合わせてジオールを利用し、五硫化リンと反応させ、より高い分子量を有するポリジチオリン酸を生成する。ジチオリン酸のチオール基の酸化カップリングによって、ジスルフィド結合が生成され、ジスルフィドカップリングの範囲までオリゴマーの分子量を本質的に増加させる。生成物の分子量は、モノアルコールとジオールとの比を変化させることによって制御することができる。より高い分子量を同時に形成する全てのジチオリン酸を除去することは有利であると考えられている。さらに、ジスルフィド部分の任意の部分は、硫黄元素挿入によってジスルフィド、トリスルフィド、テトラスルフィド、またはポリスルフィド(またはその混合物)に変換することができる(典型的には硫黄元素と共にジスルフィドを十分な温度で加熱して、反応を誘発することによって行われる)。
【0015】
本発明の他の実施形態では、モノアルコールは、第1のジオールと同一または異なる化学組成の第2のジオールで置換されている。
【0016】
本発明のまた他の実施形態では、ポリジチオリン酸を、金属酸化物または金属水酸化物で処理して、ポリマーの金属ジチオホスフェートを生成することができる。このタイプの材料は、そのポリマー構造によるその改善された安全性および安定性により、他の金属ジチオホスフェート促進剤の有用な代替品であると思われる。本発明の適切な金属酸化物または金属水酸化物には、Bi、Ca、Cu、Fe、K,Mg、Mn、Mo、Na、Ni、Sb、Sr、TeおよびTiの酸化物および水酸化物が挙げられる。好ましくは、酸化亜鉛または水酸化亜鉛が反応において使用され、ポリマーのジチオリン酸亜鉛が形成される。
【0017】
下記の反応は、R’が残基ジラジカルを表すジオールを伴う、本発明を例示する。
【0018】
【化2】

【0019】
式中、使用するモノアルコールのモル=2n+4およびジオールのモル=nである。これによって、モノアルコールとジオールの比=r=(2n+4)/n、またはn=4/(r−2)がもたらされる。ポリマーの長さは、モノアルコールとジオールの比によって決定される。
【0020】
ビスジチオリン酸塩は、アルカリ金属水酸化物によって上記で示すビスジチオリン酸から作製することができ、ラテックス添加剤として有用であろうことが想定される。ナトリウム塩を有する例を下記に示す。
【0021】
【化3】

【0022】
1個のリン原子はまた2個のジオールと反応して、下記のタイプのジチオリン酸を得ることができるため、他のタイプの生成物もまた存在する場合がある。この実施例においては、1,5−ペンタンジオールはジオールとして例示されている。
【0023】
【化4】

【0024】
これによって各鎖がより短くなるが、鎖を一緒に結合し、分子量を同じに保つであろう。
【0025】
【化5】

【0026】
(ジオールに対して)ポリオールは、ポリマーもまた生成し、本発明において想定されるが、高い架橋度が取り扱いの問題ならびに活性の減少を生じさせる場合があるためより好ましくない。
【0027】
本発明は加硫において使用されるため、添加剤が、それが中で使用されているゴム中で可溶性であることは特に有利である。典型的には、油溶性のゴムモノマーについては、4個以上の炭素を有するアルコールによって行われるであろう。しかし、低級炭素鎖アルコールはより長鎖のアルコールと組み合わせて使用することができることもまた想定される。水性ポリマー(すなわち、ラテックス)は、ラテックスの加硫において機能することができる材料を得るために、低級アルコールまたは油性製品のエマルジョンを利用することができる。水溶性ポリマーはまた、ジオール単独を使用して作製することができる。本発明においてジオールとして特に有用であるのは、本発明におけるジオールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコールおよびシクロヘキサンジメタノールである。これらは大量に経済的に利用可能であり、適切なモノアルコールと組み合わせて使用される場合、所望の生成物を生成する。
【0028】
本発明は、公知の製造方法においてジチオリン酸中のジオールを利用することによって(塩またはスルフィドへの中間体)、あるいは金属、アミン塩、またはその混合物(例えば、亜鉛もしくはアンモニウム塩は市販である)またはスルフィド(ジスルフィド、トリスルフィド、テトラスルフィド、もしくはポリスルフィド)と、本明細書の上記に記載のジオール(これもまた市販である)または塩およびスルフィドの混合物とのエステル交換方法によって調製することができる。本発明はまた、ジオール/モノアルコール混合物と五硫化リンと反応させて、ジチオリン酸混合物を形成させることによっても作製することができる。次いでこれを公知の酸化剤で処理して、ジスルフィドを形成することができる。
【0029】
【化6】

【0030】
構造1で表されている好ましい本発明において、R’は、ジオールもしくはポリオール、またはその混合物(ジオールのみを示す)を表し、ジオールまたはポリオールの残基は、1〜22個の炭素原子を含有するアルキレン、アルキルアリール、またはアリール基である場合がある。ペンダント官能基は、ジオールまたはポリオールの架橋に影響を与えない。R1からR6は、アルキル基(1〜18個の炭素を含有する)、ヒドロキシアルキル基、アルキルエーテル、ポリアルキルエーテル、ヒドロキシアルキル基、または他のポリマー鎖においてリン原子に結合しているこれらのタイプのいずれかの官能基から独立に選択される。ジスルフィドのいずれかは、オクタスルフィドまでのより高次のスルフィド(例えば、トリ、テトラなど)の場合があり、Bは、2個以上のユニットの場合があり、4個以上のユニットが好ましい(ヨーロッパ登録ポリマー免除は、「4個以上の」ユニットに基づいている)。Bの値は、生成物の取り扱いの容易さによってのみ制限される。
【実施例1】
【0031】
ジチオリン酸、ロットRJT543−233
三つ口フラスコに、86.2グラムの五硫化リンおよび100mLのヘプタンを加えた。反応の間に形成される場合がある硫化水素ガスを除去するために、フラスコをスクラバーに取り付けた。添加漏斗に、85.1グラムの2−エチルヘキサノール、24.3グラムのn−ブタノール、および39.0グラムの1,6−ヘキサンジオールの混合物を加えた。他の2種のアルコールに固体1,6−ヘキサンジオールを溶解させるために、添加漏斗を44℃に加熱した。次いで、混合物を15分の期間に亘り五硫化リン混合物に加えた。添加漏斗を20mLのヘプタンで洗浄し、次いでこれを反応混合物に加えた。反応物を105℃に徐々に加熱し、この温度を2時間半保持した。次いで、ヘプタンを蒸留する間に、温度を120℃に上げた。反応物を125℃に約4時間保持した。次いで、反応物をアスピレーターに添加し、全ての揮発性溶媒が除去され、珪藻土で濾過されることを確実にした。
【実施例2】
【0032】
ポリマーのジチオホスフェートOCD−337、ロットRJT−543−241
三つ口フラスコに、191.3グラムの実施例1のジチオリン酸(RJT−543−233)を加えた。これを水(42.2g)および30%過酸化水素(42.1g、0.371モル)の混合物を含有する添加漏斗に添加した。反応フラスコを氷水浴中に置き、過酸化水素溶液をゆっくりと3時間の期間に亘り加えた。次いで、添加漏斗を40mLの水で洗浄し、反応物に加えた。過酸化物を加える間、反応物の温度を40℃未満に保持した。次いで、反応物を56℃に加熱し、次いで室温に再び戻した。さらなる2.5gの30%過酸化水素を加えた。次いで、これを約30分間撹拌した。次いで、生成物を79.6gのHi−Sil(登録商標)ABS(固体支持体)と混合し、オーブン中で46℃にて乾燥させ、均一な粉末を得た。
【実施例3】
【0033】
OCD−338、ロットRJT−543−244の調製のためのジチオリン酸
三つ口フラスコに、74.1グラムの五硫化リンおよび60.2グラムのヘプタンを加えた。反応の間に形成される場合がある硫化水素ガスを除去するために、フラスコをスクラバーに取り付けた。次いで、フラスコを氷水浴中に置いた。添加漏斗に、37.2グラムのジプロピレングリコールおよび104.4グラムの2−エチルヘキサノールを加えた。次いで、アルコール混合物を15分の期間に亘り五硫化リンに加えた。次いで、添加漏斗を20mLのヘプタンで洗浄し、それを反応フラスコに加えた。反応物を115℃にゆっくりと加熱し、ヘプタンを蒸留した。反応物を115℃で4.5時間加熱し、次いでアスピレーターに添加し、残りの溶媒を除去した。さらに30分後、アスピレーターを取り除き、生成物を珪藻土で濾過した。
【実施例4】
【0034】
ポリマーのジチオホスフェートOCD−338、ロットRJT−543−246
三つ口フラスコに、174.9グラムの(実施例3の生成物)RJT−543−244を加えた。添加漏斗に、水(35.2グラム)および30%過酸化水素(35.4グラム)の混合物を加えた。反応フラスコを水浴中に置き、過酸化水素を1時間の期間に亘り加えた。これを72.6gのHi−Sil(登録商標)ABSと混合した。混合物をオーブン中で50℃にて乾燥させ、均一な粉末を得た。
【実施例5】
【0035】
ジチオリン酸、ロットRJT−543−102
三つ口フラスコに、102.1グラムの2−エチルヘキサノールおよび31.0グラムの1,6−ヘキサンジオールを加えた。1,6−ヘキサンジオールの全てが融解するまで、これを徐々に加熱した。次いで、フラスコを窒素でフラッシュした。三つ口フラスコを、水酸化ナトリウムを含有するスクラバーに取り付け、形成されている場合がある硫化水素ガスを除去した。次いで、72.0グラムの五硫化リンを、10分の期間に亘りアルコール混合物に加えた。そうするのと同時に、温度を60℃に上げた。次いで30mLのヘプタンを使用して、残りの五硫化リンの全てを反応フラスコ中に洗い流した。反応フラスコを55℃で2時間加熱し、次いで温度を105℃に上げた。105℃で2時間加熱した後、温度を120℃に上げ、さらに3時間半加熱した。次いで、生成物を珪藻土で濾過した。
【実施例6】
【0036】
ポリマーのジチオホスフェート、ロットRJT−543−105B
三つ口フラスコに、145.9グラムの実施例5からのジチオリン酸混合物(RJT−543−102)を加えた。フラスコを窒素ガスでフラッシュし、次いで27.8グラムの30%過酸化水素を含有する添加漏斗に添加した。添加をすると同時に、温度を急激に100℃に上げ、反応フラスコを氷水浴中に置いた。次いで、さらに1.9グラムの30%過酸化水素を加えた。過酸化物を全て加えた後、生成物を58.8グラムのHi−Sil(登録商標)ABSと混合し、オーブン中で55℃にて乾燥し、均一な粉末を得た。
【実施例7】
【0037】
ポリマーのジチオリン酸亜鉛
三つ口フラスコに、204.3gの実施例3からのジチオリン酸混合物、ロットRJT−543−244、および27.1gの酸化亜鉛を加えた。混合物を65℃に加熱し、この温度で4時間混合した。次いで、温度を100℃に上げた。次いで、真空下で温度を徐々に110℃に上げ、その間反応物から生成される水を蒸留した。110℃で1時間真空下にて混合した後、最終生成物を珪藻土で濾過した。
【実施例8】
【0038】
ポリマーのジチオリン酸ポリスルフィド
実施例3を繰り返し、次いで実施例4に記載のように酸化させたが、Hi−Sil ABSと混合しなかった。次いで、三つ口フラスコに、150.0gの生成物および16.0グラムの硫黄元素を加えた。これを120℃に加熱し、3時間撹拌した。次いで、生成物を珪藻土で濾過した。
【実施例9】
【0039】
ジチオリン酸混合物、ロットRJT−554−164
反応フラスコに、130.8グラムの五硫化リンおよび127.3グラムのヘプタンを加えた。反応の間に形成される場合がある硫化水素ガスを除去するために、フラスコを水酸化ナトリウムスクラバーに取り付けた。次いで、144.8グラムのトリエチレングリコールモノブチルエーテル、113.9グラムのジエチレングリコールモノブチルエーテル、および73.2グラムのトリエチレングリコールの混合物を、1時間の期間に亘り加えた。次いで、反応物を加熱し始め、温度を6時間の期間に亘り100℃に徐々に上げた。ヘプタンを蒸留し、温度を130℃に上げた。反応物をさらに1時間加熱した。生成物を珪藻土で濾過した。
【実施例10】
【0040】
ポリマーのジチオリン酸亜鉛(ロットRJT−554−166)
反応フラスコに、108.5グラムの実施例9から得たジチオリン酸および11.9グラムの酸化亜鉛を加えた。反応物をアスピレーターに添加し、95℃に加熱した。12.9グラムのトリエチレングリコールモノブチルエーテル、10.2グラムのジエチレングリコールモノブチルエーテル、および6.5グラムのトリエチレングリコールを含有する混合物を加えた。次いで、5.7グラムの11.5パーセント次亜塩素酸ナトリウムを加えた。反応物をアスピレーターに添加し、100℃に加熱し、水を蒸留した。生成物を珪藻土で濾過した。
【実施例11】
【0041】
ポリマーのジチオリン酸カルシウム、ロットRJT−569−46
三つ口フラスコに、102.1グラムの実施例9から得たジチオリン酸および10.6グラムの水酸化カルシウムを加えた。反応物を42℃に加熱した。次いで、温度を115℃に急速に上げた。反応物を水浴中に置き、温度を30℃に再び下げた。これによって、粘性の生成物を得て、これに20.3グラムのトリエチレングリコールモノブチルエーテルを加えた。次いで反応物を98℃に再び加熱し、次いで加熱を止めた。37℃に再び冷却した後、4.4グラムの35%過酸化水素を1時間半に亘り加えた。次いで、反応物を真空下で再び119℃に加熱し、水を蒸留によって除去した。生成物を珪藻土で濾過した。
【実施例12】
【0042】
ジチオリン酸混合物、ロットRJT−569−56
三つ口丸底フラスコを121.5グラムの五硫化リンおよび135.4グラムのヘプタンで充填した。これをスクラバーに取り付けて、硫化水素ガスを除去した。次いで、フラスコを窒素ガスでフラッシュした。第2の丸底フラスコに、226.5グラムのジプロピレングリコールモノブチルエーテルおよび95.3グラムのトリプロピレングリコールを加えた。次いで、アルコール混合物を五硫化リンに2時間の期間に亘り加えた。次いで、反応混合物を3時間半の期間に亘り95℃に加熱した。反応物をさらに加熱し、ヘプタンを蒸留によって除去した。温度が118℃に達した後、反応物をさらに3時間加熱した。アスピレーターを取り付け、残りのヘプタンを除去した。最終生成物を珪藻土で濾過した。
【実施例13】
【0043】
ポリマーのジチオリン酸銅、ロットRJT−569−59
三つ口丸底フラスコを、136.6グラムの実施例12において得たジチオリン酸で充填した。次いで、これを50℃に加熱し、17.2グラムの銅(II)水酸化物を加えた。反応物を95℃に加熱し、30分間加熱した。温度を27℃に再び下げ、3.9gの35%過酸化水素を加えた。室温で30分間混合した後、次いで反応物を110℃に加熱し、水を真空下で除去した。生成物を珪藻土で濾過した。生成物は6.1%の銅を含有した。
【実施例14】
【0044】
ポリマーのジチオリン酸ニッケル、ロットRJT−569−61
三つ口丸底フラスコに、109.4グラムの実施例11において得たジチオリン酸を加えた。これに、13.0グラムのニッケル(II)水酸化物を加えた。温度を81℃に上げ、反応物をアスピレーターに添加し、形成された水を除去した。混合物を21℃に再び冷却し、1.1グラムの35%過酸化水素を加えた。温度を112℃に再び上げ、水を蒸留によって除去した。生成物を珪藻土で濾過した。生成物は7.1%のニッケルを含有することが見出された。
【実施例15】
【0045】
ポリマーのジチオリン酸ストロンチウム、ロットRJT−569−67
三つ口丸底フラスコを、89.0グラムの実施例9から得たジチオリン酸で充填した。これに、15.1グラムの水酸化ストロンチウムを加えた。反応物を約30分間75℃に加熱した。反応物をアスピレーターに添加し、形成された水を除去した。次いで、反応物を35℃に再び冷却し、4.2gの17.5%過酸化水素を加えた。2.5時間混合した後、11.1グラムのトリエチレングリコールジノナノエートを加えた。次いで、反応物を真空下で加熱し、残りの水を蒸留によって除去した。温度が105℃に達した後、最終生成物を珪藻土で濾過した。
【0046】
いくつかのポリマーのジチオホスフェートが作製され、下記で示すモノマーのビスジチオホスフェートジスルフィドであるVANAX(登録商標)196と比較した。
【0047】
【化7】

【0048】
高分子材料を作製するために使用したアルコールを表1に示す。表1はまた、ポリマー中の繰り返し単位の推定数、および推定される分子量を示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【化8−1】

【0051】
【化8−2】

【0052】
【化8−3】

【0053】
【化8−4】

【0054】
研究1、天然ゴムにおけるポリマーのジチオホスフェート類似体に対する従来技術のジチオホスフェート、VANAX(登録商標)196
試料2〜4および試料6の加硫特性を、天然ゴムにおいて評価した。マスター・バッチ中に使用した成分を表2に示す。試験した全ての生成物の質量パーセントは1.5%であった。試料2〜4および試料6を全てVANAX196と比較した。
【0055】
【表2】

【0056】
表3に示すように、試料2〜4および6の加硫特性は、VANAX196のそれと同様である。生成物の全ては、同様の加硫速度および最大トルク値を有した。
【0057】
【表3】

【0058】
ムーニー粘度およびムーニースコーチを下記の表4および5に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
試料2〜4および6から得た物理学的性質はまた、VANAX196のそれと非常に類似していた。表6は、試料2〜4および6から得た加硫したゴムの引張特性を示す。加硫した生成物の全ては、VANAX196で加硫した材料と同様の弾性率、引っ張り強さ、および破断伸び率を示す。表7に示すようにゴムの硬度はまた同様であった。ゴム劣化特性を表8に示す。
【0062】
【表6】

【0063】
【表7】

【0064】
【表8】

【0065】
ポリマー添加剤は、天然ゴムにおいてVANAX(登録商標)196から得た値に近い低い圧縮ひずみをもたらす。結果を表9に示す。
【0066】
【表9】

【0067】
チオリン酸カルシウム、チオリン酸亜鉛、チオリン酸銅、およびチオリン酸ニッケルの加硫特性をまた、天然ゴムにおいて評価した。使用したマスター・バッチを表10に示す。
【0068】
【表10】

【0069】
金属ジチオホスフェートポリマーの加硫特性を表11に示す。結果は、チオリン酸Zn、チオリン酸Ca、チオリン酸Cuおよびチオリン酸Niは全て、ポリマー金属ジチオホスフェートを有さない生成物より速い加硫速度を有することを示す。さらに、得られた最大トルクに基づいて、金属ポリマージチオホスフェート添加剤は全て、より高い加硫状態を示す。
【0070】
【表11】

【0071】
亜鉛またはニッケルを含有した添加剤は、金属ジチオホスフェートを有さない生成物と比較した場合、改善された圧縮ひずみを示す。結果を表12に示す。
【0072】
【表12】

【0073】
研究2、EPDMにおけるポリマーのジチオホスフェート類似体に対する従来技術ジチオホスフェートVANAX(登録商標)196SおよびVocol ZBPD
製品の加硫特性をまたEPDMにおいて評価した。4つの試験を行い、生成物をVANAX196またはVANAX196およびVocol ZBPDの両方と比較した。マスター・バッチ成分を表13において示す。
【0074】
【表13】

【0075】
160℃にて試験方法ASTM D5289を使用して、試料5は、VANAX(登録商標)196およびVocol ZBPDより遅い加硫速度を示したが、同様の最大トルクを有した。試料4を177℃にて試験方法ASTM D5289を使用して試験した場合、これもまた、VANAX196より遅い加硫速度を示したが、また同様の最大トルク値を示した。
【0076】
試料2および3をまた、VANAX196と比較した。試料2は、VANAX196のそれより僅かに長いT’90値を示した。試料3は、僅かに長かった。したがって、EPDMにおいて、添加剤の加硫速度は、それを作製するために使用するアルコールを変化させることによって調節することができる。2および3の両方は、VANAX196のそれと同様の最大トルク値を示した。結果を表14に示す。試料6は、対応するVANAX196に最も近い結果を示した。それは、同等のT’90値および僅かに低い最大トルク値を示した。
【0077】
【表14】

【0078】
試料4を除いた試料の全ては、VANAX(登録商標)196から得たものと同様のムーニー粘度値を示したことを、表15は示す。試料4はある程度より高かった。
【0079】
【表15】

【0080】
ムーニースコーチ時間を表16に示す。試料5は、Vocol ZBPDおよびVANAX196のそれの間であった。試料2〜4および6は、VANAX196のそれに近かった。
【0081】
【表16】

【0082】
物理学的性質を表17に示す。試料5は、VANAX196およびVocol ZBPDのそれと同様の100%弾性率および引っ張り強さを示す。破断伸び率はまた、非常に近い。試料4は、VANAX(登録商標)196より僅かに低い200%弾性率、引っ張り強さ、および破断伸び率を示す。試料2はまた、VANAX196より僅かに低い200%弾性率および引っ張り強さを示すが、より高い破断伸び率を有する。試料3は、VANAX196のそれと非常に近い200%弾性率を示すが、より低い引っ張り強さおよび破断伸び率を有する。試料6は、VANAX196と同様の結果を示すが、僅かに強度が低い。
【0083】
【表17】

【0084】
硬度特性を表18に示す。試料5は、VANAX196およびVocol ZBPDのそれと同様の特性を示す。試料2〜4および6はまた、VANAX196のそれと非常に類似している。
【0085】
【表18】

【0086】
ゴム劣化特性を表19に示し、圧縮ひずみ特性を表20に示す。圧縮ひずみ特性は125℃で70時間試験した場合高いが、100℃で22時間試験した場合著しく下落する。得られた値は、VANAX(登録商標)196またはVocol(登録商標)ZBPDから得たものと同様である。生成物の引裂き強度を表21に示す。
【0087】
【表19】

【0088】
【表20】

【0089】
【表21】

【0090】
研究3、ラテックスにおけるポリマーのジチオホスフェート誘導体の評価
VANAX196液体、ロットRJT−554−54、およびRJT−554−56のエマルジョンを、これらの実施例において使用した。
【0091】
【表22】

【0092】
【表23】

【0093】
フィルムを100℃で20分および30分加硫した。フィルムをまた70℃で7日間加熱エージングした。
【0094】
【表24】

【0095】
VANAX(登録商標)196、RJT−554−54、およびRJT−554−56を使用して作製した全てのフィルムは、100℃で20分加硫した#7を除いて、老化の前および後の両方の許容基準に合致した。このフィルムは、高い伸びおよび低い引っ張り強さに基づいて加硫不足であった。第2の組のフィルムのより長い加硫時間によって、この問題は修復された。
【0096】
クロロプレンの例
【0097】
【表25】

【0098】
【表26】

【0099】
フィルムを120℃で35分間加硫した。フィルムを100℃で22時間加熱エージングした。
【0100】
【表27】

【0101】
この加硫系を使用して作製したフィルムは、35分間加硫した場合、許容基準に合致した。この加硫時間での結果は、老化の前および後の両方で優れている。さらに、化合物12から作製したフィルムは、VANOX SPLスラリーなどの良好なAO系の重要性を明らかに示す。これらのフィルムは、老化後に引張および伸びの減少を示した唯一のものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)五硫化リンと、ジオールまたはポリオールおよびモノアルコールとを反応させて、ジチオリン酸を生成するステップと、
(b)前記ジチオリン酸を酸化剤で酸化させて、ポリマーのジチオホスフェートを生成するステップと
を含む、ポリマー組成物の作製方法。
【請求項2】
硫黄元素をステップ(b)に加える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化剤が、過酸化水素、次亜塩素酸塩、塩素またはその混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記モノアルコールが、1〜18個の炭素原子を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ジオールまたはポリオールが、1〜22個の炭素原子を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ジオールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノールおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(a)五硫化リンと、ジオールまたはポリオールおよびモノアルコールとを反応させて、ジチオリン酸を生成するステップと、
(b)前記ジチオリン酸と金属酸化物または金属水酸化物とを反応させて、ポリマーのジチオホスフェートを生成するステップと
を含む、ポリマー組成物の作製方法。
【請求項8】
前記反応において金属酸化物が使用される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記反応において金属水酸化物が使用される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記金属酸化物または金属水酸化物が、Zn、Bi、Ca、Cu、Fe、K、Mg、Mn、Mo、Na、Ni、Sb、Sr、Te、Tiおよびこれらの混合物からなる群の金属酸化物または金属水酸化物から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記金属酸化物が酸化亜鉛である、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法によって生成されるポリマー組成物。
【請求項13】
請求項7に記載の方法によって生成されるポリマー組成物。
【請求項14】
請求項2に記載の方法によって生成されるポリマー組成物。
【請求項15】
五硫化リンと、ジオールまたはポリオールおよびモノアルコールとを反応させて生成するジチオリン酸。

【公表番号】特表2010−516710(P2010−516710A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−546587(P2009−546587)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際出願番号】PCT/US2008/052591
【国際公開番号】WO2008/095070
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(507293620)アール.ティー. ヴァンダービルト カンパニー インコーポレーティッド (11)
【Fターム(参考)】