説明

ジニトリル化合物の製造方法

本発明は、2個のニトリル官能基を含有する化合物の製造方法に関する。
特に、本発明は、有機金属錯体とルイス酸型の助触媒とを含む触媒系の存在下に、ニトリル官能基とエチレン性不飽和を含有する化合物からジニトリル化合物を製造する方法に関する。本発明の方法は、ルイス酸の金属元素を抽出し回収するのを可能ならしめる、シアン化水素から生じる反応媒体の処理工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2個のニトリル官能基を含有する化合物の製造方法に関する。
特に、本発明は、ニトリル官能基とエチレン性不飽和を含有する化合物からジニトリル化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジニトリル化合物、特にアジポニトリルは、多くの化合物の合成における重要な化学的中間体である。しかして、アジポニトリルは、ポリアミドの単量体の一つであるヘキサメチレンジアミンの製造に使用される。また、それは、種々のポリアミドの製造に重要な単量体であるアミノカプロニトリル又はカプロラクタムの製造に使用することもできる。
【0003】
アジポニトリルの合成のために提供された方法のうちでは、出発物質としてのブタジエンを使用し及びシアン化水素によるシアン化水素化(hydrocyanation)反応を使用する方法が最も多く工業的に使用されている。
【0004】
この方法は、第一工程で、ブタジエンのようなオレフィンのシアン化水素化を実施してニトリル官能基とエチレン性不飽和を含有する化合物を形成させることからなる。この工程は、一般的に、ニッケルのような金属と有機燐配位子により形成された有機金属錯体を含む触媒系の存在下に実施される。
【0005】
この不飽和モノニトリル化合物の分離及び随意の精製の後に、該化合物は、やはりニッケルのような金属と有機燐配位子により形成された有機金属錯体を含む触媒系の存在下に実施される第二のシアン化水素化反応によってジニトリル化合物に転化される。更に、触媒系は、一般的にルイス酸からなる助触媒を含む。
【0006】
用語“ルイス酸”とは、通常の定義に従って、電子対を受容する化合物を意味するものと理解されたい。ルイス酸は、一般的に、以下に説明するように、金属元素の塩である。
【0007】
一般に実施されている方法では、ルイス酸は、反応媒体中、特に、ニトリルの抽出工程の間維持される。このルイス酸は、次いで蒸留残液と共に除去されるが、特に、それが触媒系として使用された有機金属錯体と共に媒体から分離されないときにそうである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ジニトリルの蒸留中におけるルイス酸の存在は、媒体内で不純物の発生を促進させる可能性があり、これらの不純物は蒸留されたジニトリル中に存在することになろう。更に、ルイス酸の除去及び流出物としてのその排出は、プロセスの経済性及び環境にとって有害となり得る。本発明の目的の一つは、これらの欠点を有しないジニトリル化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的に対して、本発明は、ニトリル官能基とエチレン性不飽和を含有する化合物を、有機金属錯体と金属化合物よりなる助触媒とを含む触媒系の存在下に、シアン化水素によりシアン化水素化することによってジニトリル化合物を製造する方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、上記の方法は、シアン化水素化工程を実施した後に、
(I)不飽和ニトリル化合物のシアン化水素化工程の後に得られる反応媒体E1を処理して該媒体から有機金属錯体を少なくとも抽出し及び第二反応媒体E2を得る工程、
(II)該第二反応媒体E2をイオン交換樹脂に通じることより処理して助触媒から生じる金属イオンを少なくとも抽出し及び第三反応媒体E3を得る工程、及び
(III)形成されたジニトリル化合物を該第三反応媒体E3から分離する工程
の連続工程を含み、そして該工程(II)と工程(III)は逆転させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の好ましい特徴によれば、助触媒はルイス酸である。更に詳しくは、G.A.オラー編“フリーデル・クラフツ及び関連反応”第1巻、第191−197頁(1953)に述べられたルイス酸が本発明にとって好適である。
【0012】
本発明において助触媒として使用できるルイス酸は、元素の周期律表の第Ib、IIb、IIIa、IIIb、IVa、IVb、Va、Vb、VIb、VIIb又はVIII族に属する元素の化合物から選ばれる。これらの化合物は、一般的に塩であって、特に、塩化物又は臭化物のようなハロゲン化物、硫酸塩、スルホン酸塩、ハロアルキルスルホン酸塩、ペルハロアルキルスルホン酸塩、特にフルオルアルキルスルホン酸塩又はペルフルオルアルキルスルホン酸塩、ハロ酢酸塩、ペルハロ酢酸塩、カルボン酸塩及び燐酸塩である。
【0013】
このようなルイス酸の例としては、塩化亜鉛、臭化亜鉛、沃化亜鉛、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、塩化カドミウム、臭化カドミウム、塩化第一錫、臭化第一錫、硫酸第一錫、酒石酸第一錫、塩化インジウム、トリフルオルメチルスルホン酸インジウム、トリフルオル酢酸インジウム、希土類元素、例えば、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ハフニウム、エルビウム、タリウム、イッテルビウム及びルテチウムの塩化物又は臭化物、塩化コバルト、塩化第一鉄及び塩化イットリウムが挙げられるが、これらに限らない。
【0014】
また、トリフェニルボラン又はチタンイソプロポキシドのような化合物もルイス酸として使用することができる。
勿論、数種のルイス酸の混合物を使用することが可能である。
【0015】
ルイス酸のうちでは、特に、塩化亜鉛、臭化亜鉛、塩化第一錫、臭化第一錫、トリフェニルボラン、トリフルオルメチルスルホン酸インジウム、トリフルオル酢酸インジウム、塩化亜鉛/塩化第一錫混合物が挙げられる。
【0016】
使用されるルイス酸助触媒は、一般的に、遷移金属化合物、特にニッケル化合物1モル当たり0.01〜50モルに相当する。
【0017】
本発明の好ましい具体例によれば、イオン交換樹脂での処理工程(II)は、媒体E3からのジニトリル化合物の分離の前に実施される。
これは、ジニトリル化合物の分離が一般的に蒸留によって、しかしてこれらの化合物を含む媒体E3を加熱することによって実施されるためである。これらの金属がジニトリル化合物の副反応又は分解を促進させないようにするために、このような加熱を実施する前に、媒体E3中に存在する金属元素を除去することが有利である。これらの副反応又は分解反応は、ジニトリルの構造と類似している構造であって、このものから分離するのが困難である構造を有する副生物を生じさせる。
【0018】
従って、アジポニトリルの場合には、1−アミノ−2−シアノシクロペンタン(ICCP)のようなある種の不純物が生成し得る。これらの不純物は、蒸留されたアジポニトリル中に一部が再び出てくる。また、これらの不純物及びそれらの水素化生成物も、このアジポニトリルの水素化により得られるヘキサメチレンジアミン(HMD)中に、またHMDから得られるポリアミド中でさえも、再び出てくる可能性がある。
【0019】
従って、これらの不純物は、これらのポリアミドの成形方法に、特に紡糸方法に欠点(糸の破断数の増加)を生じさせ、またポリアミドの安定性及び色に関して欠点を生じさせる可能性がある。
【0020】
本発明の好ましい特徴によれば、触媒系を構成する有機金属錯体は、一般的に、遷移金属から選ばれる金属元素と配位子、一般的に有機燐配位子との間の配位錯体である。
このような有機金属錯体は、多くの刊行物及び特許、例えば、US3496215、DE19953058、FR1529134、FR2069411、US3631191、US3766231、FR2523974、WO99/06355、WO99/06356、WO99/06357、WO99/06358、WO99/52632、WO99/65506、WO99/62855、US5693843、WO96/1182、WO96/22968、US5981772、WO01/36429、WO99/64155又はWO02/13964に開示されている。
【0021】
金属元素は、一般的に、ニッケル、コバルト、鉄、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム及び水銀よりなる群から選択される。これらの金属のうちでも、ニッケルが好ましい金属である。
【0022】
これらの金属錯体において、金属は、特定の酸化状態で、特にニッケルについてはゼロの状態で現われる。
【0023】
シアン化水素化反応の間に、金属元素(例えば、ニッケル)の一部は、高い酸化状態、例えば1又は2の状態に酸化される可能性があり、そうなるとそれは本発明の方法の工程(I)の間に反応媒体E1からもはや抽出できなくなる可能性がある。反応媒体E2又はE3におけるその存在は、助触媒から生じる金属元素の不利益と類似する不利益を生じさせる可能性がある。
【0024】
この不利益は、本発明の好ましい特徴に従って、適切な樹脂と適切な抽出条件を選定することによって、イオン交換樹脂での処理工程(II)の間にこれらの金属元素を同時抽出することを可能にさせる本発明の方法によって克服される。また、本発明の範囲から離れることなく、2種以上の樹脂を併用して又は連続的に使用してこれらの金属元素の同時的又は連続的抽出を可能ならしめることができる。
【0025】
本発明に好適な有機金属錯体としては、ニッケル化合物と、単座又は多座の有機亜燐酸エステル、有機亜ホスフィン酸エステル、有機亜ホスホン酸エステル及び有機ホスフィンの群に属する有機燐化合物とから得られるものが挙げられる。また、スチルベン又はアルシンをニッケル又は上記した金属の一つと結合させて得られる有機金属錯体も使用することが可能である。有機燐化合物の例は、多くの文献及び多くの特許に開示されている。例えば、亜燐酸トリフェニル、亜燐酸トリトリル、亜燐酸トリチミル、ジフェニル亜ホスフィン酸フェニル、ジトリル亜ホスフィン酸トリル、ジチミル亜ホスフィン酸チミル、フェニル亜ホスホン酸ジフェニル、トリル亜ホスホン酸ジトリル、チミル亜ホスホン酸ジチミル、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン又はトリチミルホスフィンが挙げられる。
【0026】
また、二座化合物として、例えば、下記の構造式のものがあげれる。ここに、Phはフェニルを示す。
【化1】

【0027】
更に一般的には、有機燐配位子の全てが本発明に好適である。
【0028】
また、例えば、特許:WO95/30680、WO96/11182、WO99/06358、WO99/13983、WO99/64155、WO01/21579及びをWO01/21580に開示された触媒系及び配位子も挙げられる。
【0029】
有機金属錯体は、反応媒体に転化する前に又は現場で製造することができる。
有機金属錯体は、選定された金属の化合物を有機燐化合物の溶液と接触させることによって製造することができる。
金属の化合物は溶媒に溶解することができる。
【0030】
金属は、使用する化合物内に、有機金属錯体中に有する酸化状態か又はこれよりも高い酸化状態のいずれかで存在することができる。
例えば、本発明の有機金属錯体においては、ロジウムは酸化状態(I)であり、ルテニウムは酸化状態(II)であり、白金は酸化状態(0)であり、パラジウムは酸化状態(0)であり、オスミウムは酸化状態(II)であり、イリジウムは酸化状態(I)であり、ニッケルは酸化状態(0)である。
【0031】
有機金属錯体の製造中に、金属が高い酸化状態で使用されるならば、それは現場で還元することができる。
【0032】
これらの錯体の製造に使用される金属化合物の例として、金属粉、例えばニッケル粉末並びに下記の化合物が挙げられる(勿論、これらの化合物に限定されない。)。
・ニッケルがゼロの酸化状態にある化合物、例えば、テトラシアノニッケル酸カリウムK4[Ni(CN)4]、ビス(アクリロニトリル)ニッケル(0)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(Ni(cod)2としても知られる。)及び配位子を含む誘導体、例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)。
・ニッケル化合物、例えば、カルボン酸塩(特に、酢酸塩)、炭酸塩、重炭酸塩、硼酸塩、臭化物、塩化物、くえん酸塩、チオシアン酸塩、シアン化物、ぎ酸塩、水酸化物、亜燐酸水素塩、亜燐酸塩、燐酸塩及びこれらの誘導体、沃化物、硝酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、アリールスルホン酸塩及びアルキルスルホン酸塩。
【0033】
使用するニッケル化合物が0よりも大きいニッケルの酸化状態に相当するときは、ニッケルの還元剤が反応媒体に添加されるが、この還元剤は好ましくは反応条件下でニッケルと反応するものである。この還元剤は有機又は無機系のものであってよい。例えば、NaBH4又はKBH4のような硼水素化物、Zn粉末、マグネシウム又は水素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
使用するニッケル化合物が0のニッケルの酸化状態に相当するときは、上記したタイプの還元剤も添加することができるが、この添加は必須ではない。
【0035】
鉄化合物が使用されるときは、同じ還元剤が好適である。
【0036】
更に、パラジウムの場合には、還元剤は、反応媒体の成分(ホスフィン、溶媒、オレフィン)であることができる。
【0037】
助触媒又はルイス酸は、有機金属錯体の金属元素(例えば、ニッケル)1モル当たり0.01〜50モル、例えば好ましくは0.05〜10モル/モルの量に従って触媒系に存在する。ルイス酸は、反応媒体に直接に又は有機金属錯体と共に添加することができる。
【0038】
シアン化水素化反応は、一般的に、10℃〜200℃、好ましくは30℃〜120℃の温度で実施される。
【0039】
シアン化水素化反応は溶媒無しで実施することができるが、不活性有機溶媒を添加することが有益である。この溶媒は、少なくともシアン化水素化温度において、シアン化水素化しようとする化合物を含む相又は媒体と混和性である触媒系のための溶媒であることができる。
【0040】
この反応及び本発明の方法は、連続式で又はバッチ式で実施することができる。
また、この反応は、特に、有機金属錯体が可溶である水性相を含む二相系の存在下に実施することもできる。この具体例では、水性相が反応の終了時に有機金属錯体の大部分と共に分離される。ジニトリルと未反応の不飽和ニトリルを含む有機相は、本発明の意味の範囲内で媒体E1である。これは、この有機相を本発明の方法に従って処理して該相に存在する有機錯体とルイス酸の少割合を抽出することが有益であるためである。
【0041】
シアン化水素化反応器の出口で得られた反応媒体E1は、本発明の好ましい具体例に従い、有機金属錯体の抽出のために工程(I)に供給される。
この工程は、液/液抽出プラントにおいて該錯体を溶媒によって抽出することからなる。抽出溶媒として、例えば、5〜9個の炭素原子を含有するアルカン、例えばペンタン、ヘキサン又はヘプタン;5〜8個の炭素原子を含有するシクロアルカン、例えばシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン又はシクロオクタン;1〜5個の炭素原子を含有するハロゲン化炭化水素、例えばクロロホルム、ジクロルエタン、四塩化炭素、クロルプロパン又はジクロルメタン、或いは6〜9個の炭素原子を含有する置換又は非置換芳香族化合物、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン又はイソプロピルベンゼンが挙げられる。
【0042】
また、この分離は、不飽和ニトリルの蒸留と、その一方の相が有機金属錯体を含み且つ他の相が主としてジニトリルを含む二相の媒体の生成とによってもたらすことができる。後相は、痕跡量の有機金属錯体を抽出するために前記の溶媒による液/液抽出に付することができる。
このようにして抽出された有機金属錯体は、シアン化水素化反応に再循環させることができる。
【0043】
工程(I)の終了時に、有機金属錯体をもはや含まない反応媒体E2が得られる。用語“もはや含まない”とは、最高量の有機金属錯体が抽出されたがしかし該錯体の痕跡量が本発明の範囲を離れることなく媒体中に残存し得ることを意味するものと理解されたい。
【0044】
この反応媒体E2は、形成されたジニトリルと、ルイス酸及び、随意としての、酸化を受け又は受けなかったかも知れない有機金属錯体から生じる金属元素の化合物も含有する。
【0045】
本発明の好ましい具体例によれば、この反応媒体E2は、ルイス酸の金属イオン及び、随意としての、有機金属錯体に由来し且つ該媒体E2中に見出される酸化された金属イオンを固定し且つ抽出することを可能ならしめるイオン交換樹脂での処理に付される。
【0046】
本発明の好適なイオン交換樹脂は、抽出しようとする金属元素の種類に応じて選定される。しかして、これらの樹脂は、強陽イオン性又は弱陽イオン性樹脂、吸着剤樹脂、キレート樹脂及び触媒樹脂よりなる群に属するものの一つであることができる。樹脂の例として、スルホン酸樹脂、カルボン酸樹脂、イミノ二酢酸樹脂又はローム&ハース社より商品名アンバーライト及びアンバーリストとして、ダウ社よりダウエックスとして、バイエル社よりレバタイト及びイオナックとして販売されている樹脂が挙げられる。
【0047】
この工程(II)は、当業者に知られた任意の装置で実施することができる。しかして、これらの樹脂を固定床又は流動床の形で含むカラム或いは該樹脂により作られた膜装置系を使用することができる。
【0048】
樹脂での処理の後、形成されたジニトリル有機化合物から本質的になる反応媒体E3が得られる。これらの種々の化合物は、蒸留工程(III)で有利に分離される。しかし、本発明の範囲から離れることなく、他の分離方法も使用することができる。
【0049】
更に、樹脂による処理工程(II)は、抽出された金属元素が負荷された樹脂を溶離操作に付して樹脂を再生させ且つこれらの金属元素を回収するための工程も含む。
この溶離は、イオン交換樹脂での処理方法のための慣用的で且つ標準的な工程である。それは、特に、強酸、特に硫酸又は塩酸、或いは強有機酸、好ましくは再生しようとするルイス酸の陰イオンに相当する酸を使用して実施することができる。
【0050】
本発明との関係では、この溶離は、ルイス酸を回収し再生させることを可能にさせ、しかしてそれをシアン化水素化反応において再使用することを可能にさせることができる。この可能性は、プロセスの経済的な操作及び環境に対する関心を可能にさせるのに非常に有益であり、特に、ルイス酸として使用した化合物が高価であり及び(又は)環境に対して毒性を示すときにそうである。
【0051】
本発明の方法は、特に、エチレン性不飽和を有する脂肪族ニトリル、特に、線状ペンテンニトリル類、例えば3−ペンテンニトリル又は4−ペンテンニトリルに適用される。
これらのペンテンニトリル類は、少量の他の化合物、例えば、2−メチル−3−ブテンニトリル、2−メチル−2−ブテンニトリル、2−ペンテンニトリル、バレロニトリル、アジポニトリル、2−メチルグルタロニトリル又は2−エチルスクシノニトリルを含有することができる。これらの化合物は、ペンテンニトリル類中に存在するが、特に、後者が不飽和モノニトリルを与えるためのブタジエンのシアン化水素化の第一工程から生じるときにそうである。
【0052】
この第一工程は、一般的には、有機金属錯体を含む触媒の存在下で、しかも助触媒の不在下に実施される。この第一工程に使用される有機金属錯体は、本発明の方法に使用されるものと同一であっても異なっていてもよい。同一である場合には、本発明の方法の工程(I)で回収された有機金属錯体は、ブタジエンのシアン化水素化の第一工程のためにシアン化水素化反応器に再循環することができる。
【0053】
また、本発明の方法に導入されるモノニトリルは、一般的には、上記の第一工程で得られた化合物を有機金属錯体を含む触媒系(有利には、第一工程のものと同一である)の存在下に、しかもシアン化水素の不在下に保持することからなる、(一般的には、上記の第一工程と組み合わせた)異性化工程から生じさせることもできる。
【0054】
この異性化工程の目的は、線状不飽和モノニトリルに対する本法の選択率を向上させることである。
【0055】
本発明の他の利点及び詳細は、以下に例示としてのみ示す実施例に照らして一層明確になろう。
【0056】
例1
トリフルオル酢酸インジウム(0.5g、1.10ミリモル)を3−ペンテンニトリル(36.4g、448ミリモル)とアジポニトリル(63.6g、588ミリモル)の混合物に溶解してなる溶液を調製する。媒体の組成を元素分析により決定する。
この溶液の4mlづつをローム&ハース社より以下に示す商品名で販売されている下記の樹脂のそれぞれ2mlと接触させる。
・スルホン酸樹脂(アンバーライト252H)
・キレート樹脂(IRC748)
・吸着剤樹脂(アンバーライトXAD7)
・陽イオン性樹脂(IRC50)
反応媒体のそれぞれを周囲温度(20℃)で4時間撹拌する。樹脂をろ別し、ろ液の組成を元素分析により決定する。
出発時の媒体及びろ液の組成を下記の表Iに示す。
【0057】
【表1】

【0058】
例2
ガラス製カラムに100mLのスルホン酸樹脂(アンバーライト252H)を充填する。トリフルオル酢酸インジウムをインジウム元素の濃度で表わして3300ppmの濃度で含む3−ペンテンニトリルとアジポニトリルとの溶液(モル数で30/70)をカラムの頂部から340g/時の流量で連続して供給する。カラムの出口で試料を10分毎に取出す。試料中のインジウムの濃度を元素分析により測定する。
分離カラムの3時間の操作の間、試料中のインジウムの濃度は常に20ppm未満であった。
【0059】
例3
塩化亜鉛(0.1g、0.73ミリモル)を3−ペンテンニトリル(36.4g、448ミリモル)とアジポニトリル(63.6g、588ミリモル)の混合物に溶解してなる溶液を調製する。反応媒体の組成を元素分析により決定する。
この溶液の4mLを2mLのスルホン酸樹脂(アンバーライト252H)の存在下に周囲温度(20℃)で4時間撹拌する。樹脂による処理の前及び処理の後の溶液の分析は、溶液中の亜鉛の濃度が480ppmから8ppmに変化することを示した。
【0060】
例4
Ni(0)/有機燐配位子/ルイス酸(In)の系により接触される3−ペンテンニトリルのシアン化水素化によりアジポニトリルを与えるための反応を実施する。有機燐配位子は、次式:
【化2】

を有する化合物である。
この反応媒体の3mLづつを3mLの下記の樹脂の一つの存在下に周囲温度(ほぼ20℃)で4時間撹拌する。
・スルホン酸樹脂(アンバーライト252H)
・キレート樹脂(IRC748)
・吸着剤樹脂(アンバーライトXAD7)
反応媒体の樹脂による処理の前及び処理の後の組成を下記の表IIに示す。
【0061】
【表2】

【0062】
これらの試験は、ルイス酸から生じるイリジウムのみならず、ある種の条件下では、触媒として使用した有機金属錯体から生じる酸化されたニッケルも抽出することが可能であることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和を含むモノニトリル化合物を、有機金属錯体と助触媒を含む触媒系の存在下に、シアン化水素との反応によりシアン化水素化することによってジニトリル化合物を製造するにあたり、
(I)不飽和ニトリル化合物のシアン化水素化の後に得られる反応媒体E1を処理して触媒系から有機金属錯体を分離し及び第二反応媒体E2を得る工程、
(II)該第二反応媒体E2をイオン交換樹脂によって処理して助触媒から生じる金属イオンを少なくとも抽出し及び第三反応媒体E3を得る工程、及び
(III)形成されたジニトリル化合物を該第三反応媒体E3から分離する工程
の連続工程を含み、しかも該工程(III)は工程(II)の前に実施することもできる、不飽和モノニトリル化合物からジニトリル化合物を製造する方法。
【請求項2】
助触媒がルイス酸であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(II)で抽出された金属イオンが樹脂の溶離によって回収される請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
回収された金属イオンがシアン化水素化工程の触媒系を形成させるために再循環されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ルイス酸が元素の周期律表の第Ib、IIb、IIIa、IIIb、IVa、IVb、Va、Vb、VIb、VIIb又はVIII族に属する金属元素の化合物であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ルイス酸が該金属元素の塩化物又は臭化物のようなハロゲン化物、硫酸塩、スルホン酸塩、ハロアルキルスルホン酸、ペルハロアルキルスルホン酸塩、特にフルオルアルキルスルホン酸塩又はペルフルオルアルキルスルホン酸塩、ハロ酢酸塩、ペルハロ酢酸塩、カルボン酸塩及び燐酸塩よりなる群から選ばれることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ルイス酸が塩化亜鉛、臭化亜鉛、沃化亜鉛、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、塩化カドミウム、臭化カドミウム、塩化第一錫、臭化第一錫、硫酸第一錫、酒石酸第一錫、塩化インジウム、トリフルオルメチルスルホン酸インジウム、トリフルオル酢酸インジウム、希土類元素、例えば、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ハフニウム、エルビウム、タリウム、イッテルビウム及びルテチウムの塩化物又は臭化物、塩化コバルト、塩化第一鉄及び塩化イットリウムよりなる群から選ばれることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
工程(II)で使用された金属イオン抽出用の樹脂が強陽イオン性又は弱陽イオン性樹脂、吸着剤樹脂、キレート樹脂及び触媒樹脂よりなる群から選ばれることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
イオン交換樹脂がスルホン酸樹脂、カルボン酸樹脂及びイミノ二酢酸樹脂よりなる群から選ばれることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(I)における有機金属錯体の抽出が5〜9個の炭素原子を含有するアルカン、5〜8個の炭素原子を含有するシクロアルカン、1〜5個の炭素原子を含有するハロゲン化炭化水素及び6〜9個の炭素原子を含有する置換又は非置換芳香族化合物よりなる群から選ばれる抽出溶媒を使用して液/液抽出によって実施されることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
工程(III)におけるジニトリル化合物の分離が該ニトリル化合物の蒸留によって実施されることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
不飽和モノニトリル化合物がペンテンニトリルであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
ペンテンニトリルがブタジエンのシアン化水素化によって得られることを特徴とする請求項12に記載の方法。

【公表番号】特表2006−515323(P2006−515323A)
【公表日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−518435(P2005−518435)
【出願日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【国際出願番号】PCT/FR2004/000143
【国際公開番号】WO2004/080924
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【出願人】(598051417)ロディア・ポリアミド・インターミーディエッツ (14)
【Fターム(参考)】