説明

ジヒドロテトラベナジン類およびそれらを含有する医薬組成物

本発明は、新規なジヒドロテトラベナジン異性体、個々の鏡像異性体およびその混合物を提供し、ここで、このジヒドロテトラベナジンは3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンである。また、これら新規な異性体の製造方法、それらを含有する医薬組成物、ならびにハンチントン病、片側バリスム、老年舞踏病、チック、遅発性ジスキネジアおよびトゥーレット症候群などの運動亢進性運動障害の処置におけるそれらの使用も提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、新規なジヒドロテトラベナジン(dihydrotetrabenazine)異性体、それらを含有する医薬組成物、それらの製造方法およびそれらの治療的使用に関する。
【0002】
背景技術
テトラベナジン(tetrabenazine)(化学名:1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−9,10−ジメトキシ−3−(2−メチルプロピル)−2H−ベンゾ(a)キノリジン−2−オン)は、1950年代の終盤以来、医薬として用いられてきた。テトラベナジンは、当初は抗精神病薬として用いられたが、現在では、ハンチントン病、片側バリスム(hemiballismum)、老年舞踏病、チック(tic)、遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia)およびトゥーレット症候群(Tourette's disease)などの運動亢進性運動障害(hyperkinetic movement disorders)を処置するために用いられている。例えば、Jankovic et al., Am. J. Psychiatry. (1999) Aug; 156(8): 1279-81およびJankovic et al., Neurology (1997) Feb; 48(2): 358-62参照。
【0003】
テトラベナジンの主要な薬理作用は、ヒト小胞モノアミン輸送体イソ型2(hVMAT2)を阻害することにより中枢神経系におけるモノアミン類の(例えば、ドーパミン、セロトニンおよびノルエピネフリン)の供給量を減らすことである。この薬物はまた、シナプス後ドーパミン受容体を遮断する。
【0004】
テトラベナジンは、種々の運動亢進性運動障害の処置に効果的かつ安全な薬物であり、典型的な神経抑制薬とは対照的に、遅発性ジスキネジアを引き起こすことは示されていない。しかしながらやはり、テトラベナジンは、鬱病、パーキンソン病、傾眠、神経質または不安、不眠症、およびまれにではあるが神経抑制悪性症候群(neuroleptic malignant syndrome)をはじめとするいくつかの用量関連の副作用を示す。
【0005】
テトラベナジンの中心的作用はレセルピンの場合とよく似ているが、VMAT1輸送体における活性を欠いているという点でレセルピンとは異なる。VMAT1輸送体における活性の欠如とは、テトラベナジンはレセルピンよりも末梢活性が低く、結果として、低血圧症などのVMAT1関連副作用を生じないことを意味する。
テトラベナジンの化学構造は下記Fig.1に示す通りである。
【化1】

Fig.1 テトラベナジンの構造
【0006】
この化合物は3位と11b位の炭素原子にキラル中心を持ち、ゆえに、理論的には、下記Fig.2に示すように全部で4種類の異性体型で存在し得る。
【化2】

Fig.2 存在し得るテトラベナジン異性体
【0007】
前記Fig.2において、各異性体の立体化学は、Cahn, Ingold and Prelogにより開発された「RおよびS」命名法を用いて定義される(Advanced Organic Chemistry by Jerry March, 4th Edition, John Wiley & Sons, New York, 1992, pages 109-114参照)。Fig.2および本特許出願の他所において、「R」または「S」の表示は炭素原子の位置番号の順に示されている。従って、例えば、RSは3R,11bSの省略表記である。同様に、下記のジヒドロテトラベナジンのようにキラル中心が3つ存在する場合には、「R」または「S」の表示は炭素原子2、3および11bの順に挙げられている。従って、2S,3R,11bR異性体は、省略形SRRで示されるなどである。
【0008】
市販のテトラベナジンはRR異性体とSS異性体のラセミ混合物であり、RR異性体とSS異性体(以下、3位と11b位の水素原子がトランス相対配向を有することから、個々に、またはひとまとめにしてトランス−テトラベナジンと呼ぶ)は最も熱力学的に安定な異性体であることが明らかである。
【0009】
テトラベナジンはやや不十分で変動のあるバイオアベイラビリティを有する。それは初回通過代謝により大部分代謝され、一般に尿では未変性のテトラベナジンはほとんど、またはまったく検出されない。主要な代謝産物は、テトラベナジンの2−ケト基の還元により生じるジヒドロテトラベナジン(化学名:2−ヒドロキシ−3−(2−メチルプロピル)−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−9,10−ジメトキシ−ベンゾ(a)キノリジン)であり、この薬物の活性を主として担うものと考えられている(Mehvar et al., Drug Metab. Disp, 15, 250-255 (1987)およびJ. Pharm. Sci., 76, No. 6, 461-465 (1987)参照)。
【0010】
これまでに4種類のジヒドロテトラベナジン異性体が確認および同定されており、その総てがより安定な本発明のテトラベナジンのRRおよびSS異性体に由来するものであり、3位と11b位の水素原子の間にトランス相対配向を有する(Kilbourn et al., Chirality, 9:59-62 (1997)およびBrossi et al., Helv. Chim. Acta., vol. XLI, No. 193, pp1793-1806 (1958)参照)。これら4種類の異性体は、(+)−α−ジヒドロテトラベナジン、(−)−α−ジヒドロテトラベナジン、(+)−β−ジヒドロテトラベナジンおよび(−)−β−ジヒドロテトラベナジンである。これら4種類の既知のジヒドロテトラベナジン異性体の構造は、下記Fig.3に示されている通りと考えられる。
【化3】

Fig.3 ジヒドロテトラベナンの既知異性体の構造
【0011】
Kilbourn et al.,(Eur. J. Pharmacol., 278:249-252 (1995)およびMed. Chem. Res., 5:113-126 (1994)参照)は、意識のあるラットの脳において個々に放射性標識したジヒドロテトラベナジン異性体の特異的結合を検討した。彼らは、(+)−α−[11C]ジヒドロテトラベナジン(2R,3R,11bR)異性体が、高濃度の神経膜ドーパミン輸送体(DAT)および胞モノアミン輸送体(VMAT2)と関連のある脳領域に蓄積することを見出した。しかしながら、本質的に不活性な(−)−α−[11C]ジヒドロテトラベナジン異性体は脳内にほぼ一様に分布しており、このことはDATおよびVMAT2との特異的結合が起こっていなかったことを示唆する。これらのin vivo研究は、(+)−α−[11C]ジヒドロテトラベナジン異性体が、(−)−α−[11C]ジヒドロテトラベナジン異性体のKよりも2000倍を超えて高い、[H]メトキシテトラベナジンに対するKを示すことを実証したin vitro研究と関連づけられた。
【0012】
これらの出願が認識する限り、これまでに、テトラベナジンの不安定なRSおよびSR異性体(以下、3位と11b位の水素原子がシス相対配向を有することから、個々に、またはひとまとめにしてシス−テトラベナジンと呼ぶ)に由来するジヒドロテトラベナジン異性体が単離および同定されたことはなく、これらの化合物の生物活性はこれまでに公表されたことはない。
【発明の概要】
【0013】
今般、テトラベナジンの不安定なRSおよびSR異性体(「シス異性体」)に由来するジヒドロテトラベナジン異性体が安定なばかりか、予期しないほど良好な生物特性を有することが見出された。特に、これらの異性体のうち特定のものは、現行使用のRR/SSテトラベナジンに優るいくつかの利点を示す受容体活性特性を有する。例えば、これらの異性体のいくつかのものは、VMAT2に高い親和性を有するが、ドーパミン受容体の結合の著しい低下を示すか、または無視できるほどのドーパミン受容体の結合しか示さず、このことは、それらがテトラベナジンで出くわすドーパミン作動性の副作用を生じにくいことを示す。これらの異性体の中でドーパミン輸送体(DAT)の阻害を示したものはなかった。さらに、ラットにおけるこれらの異性体のいくつかに対する研究では、それらにテトラベナジンに関連する望ましくない鎮静副作用がないことが示された。鎮痛活性がないのは、これらの異性体のいくつかのものの、アドレナリン受容体に対する極めて低い親和性によるためであり得る。さらに、テトラベナジンの副作用の1つが抑鬱であるが、これらのジヒドロテトラベナジン異性体のいくつかのものは、セロトニン輸送体(SERT)タンパク質に対して親和性を示し、このことは、それらが抗鬱活性を持ち得ることを示す。
【0014】
よって、第1の態様において、本発明は、3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンを提供する。
もう1つの態様において、本発明は、3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンと医薬上許容される担体とを含んでなる医薬組成物を提供する。
【0015】
本発明はまた、実質的に純粋な形態、例えば、90%より高い、一般に95%より高い、より好ましくは98%より高い、異性体純度の3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンも提供する。
【0016】
本明細書において「異性体純度」とは、総ての異性体型のジヒドロテトラベナジンの総量または総濃度に対して存在する3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの量を意味する。例えば、その組成物中に存在する総ジヒドロテトラベナジンの90%が3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンであれば、その異性体純度は90%である。
【0017】
本発明はさらに、3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンを含んでなり、かつ、実質的に3,11b−トランス−ジヒドロテトラベナジンを含まない、好ましくは5%未満の3,11b−トランス−ジヒドロテトラベナジン、より好ましくは3%未満の3,11b−トランス−ジヒドロテトラベナジン、もっとも好ましくは1%未満の3,11b−トランス−ジヒドロテトラベナジンしか含まない組成物を提供する。
【0018】
もう1つの態様において、本発明は、薬剤または療法、例えば、ハンチントン病、片側バリスム、老年舞踏病、チック、遅発性ジスキネジアおよびトゥーレット症候群などの運動亢進性運動障害の処置、または鬱病の処置に用いるための3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンを提供する。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、ハンチントン病、片側バリスム、老年舞踏病、チック、遅発性ジスキネジアおよびトゥーレット症候群などの運動亢進性運動障害の処置、または鬱病の処置を目的とした薬剤の製造のための3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの使用を提供する。
【0020】
なおさらなる態様において、本発明は、そのような予防または処置を必要とする患者における、ハンチントン病、片側バリスム、老年舞踏病、チック、遅発性ジスキネジアおよびトゥーレット症候群などの運動亢進性運動障害の予防もしくは処置、または鬱病の処置のための方法であって、有効予防または治療量の3,11−シス−ジヒドロテトラベナジンを投与することを含んでなる方法を提供する。
【発明の具体的説明】
【0021】
本明細書において「3,11b−シス−」とは、ジヒドロテトラベナジン構造の3位と11b位の水素原子がシス相対配向にあることを意味する。よって、本発明の異性体は式(I)の化合物またはその対掌体(鏡像)である。
【化4】

【0022】
存在し得るものとして3,11b−シス配置を有するジヒドロテトラベナジンの4種類の異性体があり、これらは2S,3S,11bR異性体、2R,3R,11bS異性体、2R,3S,11bR異性体および2S,3R,11bS異性体である。これら4種類似体の異性体はすでに単離および同定されており、別の態様において、本発明は、3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの個々の異性体を提供する。特に、本発明は、
a)下式(Ia)を有する3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの2S,3S,11bR異性体:
【化5】

b)下式を有する3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの2R,3R,11bS異性体(Ib):
【化6】

c)下式(Ic)を有する3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの2R,3S,11bR異性体:
【化7】

、および
d)下式(Id)を有する3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの2S,3R,11bS異性体:
【化8】

を提供する。
【0023】
本発明の個々の新規な異性体は分光分析的特性、光学的特性およびクロマトグラフィー的特定によって同定することができる。
好ましい異性体は右旋(+)異性体である。
【0024】
特定の絶対的配置または立体化学を含まず、これら4種類の新規な異性体は次のように同定することができる。
異性体A
ORD(メタノール、21℃)で測定した場合の光学活性:左旋(−)IRスペクトル(固体KBr)、H−NMRスペクトル(CDCl)および13C−NMRスペクトル(CDCl)は実質的に表1に記載の通り。
異性体B
ORD(メタノール、21℃)で測定した場合の光学活性:右旋(+)IRスペクトル(固体KBr)、H−NMRスペクトル(CDCl)および13C−NMRスペクトル(CDCl)は実質的に表1に記載の通り。
異性体C
ORD(メタノール、21℃)で測定した場合の光学活性:右旋(+)IRスペクトル(固体KBr)、H−NMRスペクトル(CDCl)および13C−NMRスペクトル(CDCl)は実質的に表2に記載の通り。
【0025】
異性体D
ORD(メタノール、21℃)で測定した場合の光学活性:左旋(−)IRスペクトル(固体KBr)、H−NMRスペクトル(CDCl)および13C−NMRスペクトル(CDCl)は実質的に表2に記載の通り。
【0026】
各異性体のORD値は以下の例に示されているが、このような値は例として示されるものであり、異性体の純度、ならびに温度の変動および残留溶媒分子の影響などの他の変数の影響によって異なる場合がある。
【0027】
鏡像異性体A、B、CおよびDは各々、実質的に鏡像異性体的に純粋な形態で存在してもよいし、あるいは本発明の他の鏡像異性体との混合物として存在してもよい。
【0028】
本明細書において「鏡像異性体純度」および「鏡像異性体的に純粋な」とは、総ての鏡像異性体型および異性体型のジヒドロテトラベナジンの総量または総濃度に対して存在するする示された3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの鏡像異性体量を意味する。例えば、その組成物中に存在する総ジヒドロテトラベナジンの90%が単一の鏡像異性体の形態であれば、その異性体純度は90%である。
【0029】
例として、本発明の各態様および実施形態において、異性体A、B、CおよびDから選択される各個の鏡像異性体は、少なくとも55%(例えば、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、99.5%または100%)の鏡像異性体純度で存在し得る。
【0030】
本発明の異性体はまた、異性体A、B、CおよびDの1以上の混合物の形態でも存在し得る。このような混合物はラセミ混合物であっても非ラセミ混合物であってもよい。ラセミ混合物の例としては、異性体Aと異性体Bのラセミ混合物および異性体Cと異性体Dのラセミ混合物が挙げられる。
【0031】
医薬上許容される塩
特に断りのない限り、本願においてジヒドロテトラベナジンおよびその異性体という場合には、その範囲内に、ジヒドロテトラベナジンの遊離塩基だけでなく、その塩、特に酸付加塩も含む。
【0032】
酸付加塩が形成される特定の酸としては、pKa値が3.5未満、より通常には3未満の酸が挙げられる。例えば、酸付加塩は、pKa値が+3.5〜−3.5の範囲の酸から形成することができる。
【0033】
好ましい酸付加塩としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸およびナフタレンスルホン酸などのスルホン酸を伴って形成されるものが挙げられる。
酸付加塩が形成され得る1つの特定の酸としては、メタンスルホン酸である。
【0034】
酸付加塩は、本明細書に記載の方法またはPharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use, P. Heinrich Stahl (Editor), Camille G. Wermuth (Editor), ISBN: 3-90639-026-8, Hardcover, 388 pages, August 2002に記載の方法などの従来の化学法によって作製することができる。一般に、このような塩は、遊離塩基型の化合物を、水中、または有機溶媒中、あるいは両者の混合物中(一般には、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリルなどの非水性媒体が用いられる)で好適な塩基または酸と反応させることにより作製することができる。
【0035】
これらの塩は一般に医薬上許容される塩である。しかしながら、医薬上許容されない塩も中間体として作製してよく、次にこれを医薬上許容される塩に変換すればよい。このような医薬上許容されない塩も本発明の一部をなす。
【0036】
ジヒドロテトラベナジン異性体の製造方法
さらなる態様において、本発明のジヒドロテトラベナジンを製造する方法(方法A)が提供され、その方法は、式(II):
【化9】

の化合物を、式(II)の化合物の2,3−二重結合を水和するのに好適な試薬と反応させ、その後必要に応じて、目的のジヒドロテトラベナジン異性体型を分離および単離することを含んでなる。
【0037】
2,3−二重結合の水和は、ジボランまたはボラン−エーテル(例えば、ボラン−テトラヒドロフラン(THF))などのボラン試薬を用いたヒドロホウ素化により中間体アルキルボラン付加物を得た後、このアルキルボラン付加物の酸化および塩基の存在下での加水分解を行うことにより実施することができる。ヒドロホウ素化は一般にエーテル(例えば、THF)などの乾燥極性非プロトン性溶媒中、通常、非高温、例えば室温で行う。このボラン−アルケン付加物を一般に、水酸化アンモニウムまたはアルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化カリウムもしくは水酸化ナトリウムなどの水酸化物イオンの供給源となる塩基の存在下、過酸化水素などの酸化剤を用いて酸化する。方法Aの反応の一連のヒドロホウ素化−酸化−加水分解から一般に、2位と3位の水素原子がトランス相対配向を有するジヒドロテトラベナジン異性体が得られる。
【0038】
式(II)の化合物は、テトラベナジンを還元してジヒドロテトラベナジンを得た後、そのジヒドロテトラベナジンの脱水を行うことにより製造することができる。テトラベナジンの還元は、水素化リチウムアルミニウムなどの水素化アルミニウム試薬、または水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウムもしくは水素化ホウ素誘導体、例えば、トリ−sec−ブチル水素化ホウ素リチウムなどの水素化ホウ素アルキルといった水素化ホウ素試薬を用いて達成できる。あるいは、この反応工程は、例えば、ラネーニッケルまたは酸化白金触媒などの触媒的水素化を用いて行うこともできる。この反応工程を行うのに好適な条件は下記でよりさらに詳しく記載され、あるいは米国特許第2,843,591号(Hoffmann-La Roche)およびBrossi et al., Helv. Chim. Acta., vol. XLI, No. 193, pp1793-1806 (1958)に見出せる。
【0039】
この還元反応の出発材料として用いられるテトラベナジンは一般にRR異性体とSS異性体の混合物(すなわち、トランス−テトラベナジン)であるので、この還元工程により生じるジヒドロテトラベナジンは3位および11b位について同じトランス配置を有し、上記Fig.3に示されている既知のジヒドロテトラベナジン異性体の1以上の形態をとる。よって、プロセスAは、ジヒドロテトラベナジンの既知の異性体を考慮して、それらを脱水してアルケン(II)を形成した後、必要な本発明の新規なシスジヒドロテトラベナジン異性体を得る条件を用いて、そのアルケン(II)を「再水和する」ことを含み得る。
【0040】
ジヒドロテトラベナジンのアルケン(II)への脱水は、アルコールを脱水してアルケン(II)を形成するための標準的な種々の条件を用いて行うことができる(例えば、J. March (idem) pages 389-390およびその中の参照文献参照)。このような条件の例としては、ハロゲン化リンまたはオキシハロゲン化リン、例えば、POClおよびPClなどのリン系脱水剤の使用が挙げられる。直接的な脱水の代わりとして、ジヒドロテトラベナジンのヒドロキシル基をハロゲン(例えば、塩素または臭素)などの脱離基Lに変換した後、H−Lを除去する条件に置くことができる。ヒドロキシル基のハリドへの変換は、熟練の化学者に周知の方法を用い、例えば、トリフェニルホスフィンまたはトリブチルホスフィンなどのトリアルキルまたはトリアリールホスフィンの存在下で四塩化炭素または四臭化炭素と反応させることによって達成することができる。
【0041】
ジヒドロテトラベナジンを得るための還元の出発材料として用いるテトラベナジンは、商業的に入手可能であるか、または米国特許第2,830,993号(Hoffmann-La Roche)に記載の方法によって合成することができる。
【0042】
本発明はまた、本発明のジヒドロテトラベナジンを製造する方法(方法B)を提供し、その方法は式(III):
【化10】

の化合物を、式(III)の化合物の2,3−エポキシド基を開環する条件下に置いた後、必要に応じて、目的のジヒドロテトラベナジン異性体型を分離および単離することを含む。
【0043】
この開環は、エポキシドの開環に関して知られている方法に従って達成することができる。しかしながら、現在のところ好ましいエポキシドの開環方法は、ボラン−THFなどの還元剤を用いて達成できる還元的開環である。ボラン−THFとの反応は、通常、周囲温度でエーテル(例えば、テトラヒドロフラン)などの極性非プロトン性溶媒中で行うことができ、このようにして形成されたボラン複合体は、次に、水および塩基の存在下、溶媒の還流温度に加熱することによって加水分解される。方法Bから、一般に、2位と3位の水素原子がシス相対配向を有するジヒドロテトラベナジン異性体が得られる。
【0044】
式(III)のエポキシド化合物は、上記式(II)のアルケンのエポキシド化によって製造できる。このエポキシ化反応は、熟練の化学者に周知の条件および試薬を用いて行うことができる(例えば、J. March (同書), pages 826-829およびその中の参照文献参照)。一般に、エポキシ化を行うためには、メタ−クロロ過安息香酸(MCPBA)などの過酸、または過酸と過塩素酸などのさらなる酸化剤との混合物が使用できる。
【0045】
上記方法AおよびBの出発材料が鏡像異性体混合物である場合には、それらの方法の生成物は一般に、鏡像異性体対、例えば、ジアステレオ異性体不純物を伴うラセミ混合物となる。望まないジアステレオ異性体はクロマトグラフィー(例えば、HPLC)などの技術によって除去することができ、個々の鏡像異性体は、熟練の化学者に知られている種々の方法によって分離することができる。例えば、それらは、
(i)キラルクロマトグラフィー(キラル支持体上でのクロマトグラフィー);または
(ii)光学的に純粋なキラル酸を用いて塩を形成し、2種類のジアステレオ異性体の塩を分別結晶により分離した後、その塩からジヒドロテトラベナジンを遊離させること;または
(iii)光学的に純粋なキラル誘導体化剤(例えば、エステル化剤)を用いて誘導体(エステルなど)を形成し、得られたエピマーを分離し(例えば、クロマトグラフィーによる)、その後、その誘導体をジヒドロテトラベナジンに変換すること
によって分離することができる。
【0046】
方法AおよびBの各々から得られ、特に有効であることが分かった鏡像異性体を分離する1つの方法として、以下に示すR(+)異性体などの光学的に活性な形態のモッシャー(Mosher)の酸、またはその活性型を用いてジヒドロテトラベナジンのヒドロキシル基をエステル化するものがある。
【化11】

【0047】
得られたこのジヒドロベナジンの2つの鏡像異性体のエステルは、次に、クロマトグラフィー(例えば、HPLC)により分離することができ、分離されたエステルを、メタノールなどの極性溶媒中、アルカリ金属水酸化物(例えば、NaOH)などの塩基を用いて加水分解して個々のジヒドロベナジン異性体を得ることができる。
【0048】
方法AおよびBの出発材料として鏡像異性体混合物を用い、その後、鏡像異性体の分離を行う代わりに、方法AおよびBを各々、単一の鏡像異性体出発材料で行い、単一の鏡像異性体が優勢となる生成物を得ることもできる。アルケン(II)の単一の鏡像異性体は、RR/SSテトラベナジンに対して、トリ−sec−ブチル水素化ホウ素リチウムを用いて立体選択的還元を行ってジヒドロテトラベナジンのSRRおよびRSS鏡像異性体の混合物を得、これらの鏡像異性体を分離し(例えば、分別結晶による)、その後、分離されたジヒドロテトラベナジンの単一の鏡像異性体を脱水して、式(II)の化合物の単一の鏡像異性体を優先的または排他的に製造することができる。
方法AおよびBはそれぞれ、スキーム1および2にさらに詳細に示されている。
【化12】

【0049】
スキーム1は、2位と3位に結合している水素原子がトランス相対配向にある2S,3S,11bRおよび2R,3R,11bS配置を有する個々のジヒドロテトラベナジン異性体の製法を示している。この反応スキームは、上記で定義した方法Aを含む。
【0050】
スキーム1の一連の反応の出発点は、テトラベナジンのRRおよびSS光学異性体のラセミ混合物である市販のテトラベナジン(IV)である。RRおよびSS異性体の各々において、3位および11b位の水素原子はトランス相対配向にある。市販の化合物を用いる代わりに、テトラベナジンは、米国特許第2,830,993号に記載の手順に従って合成することができる(特定の実施例11参照)。
【0051】
RRおよびSSテトラベナジンのラセミ混合物を、水素化ホウ素還元剤であるトリ−sec−ブチル水素化ホウ素リチウム(「L−セレクトリド」)を用いて還元し、ジヒドロテトラベナジンの既知の2S,3R,11bR異性体と2R,3S,11bS異性体の混合物(V)を得るが、簡略化して、このうちの2S,3R,11bR異性体のみを示す。水素化ホウ素還元剤として水素化ホウ素ナトリウムよりもより立体要求性の高いL−セレクトリドを用いることで、ジヒドロテトラベナジンのRRRおよびSSS異性体の形成が最小限となるか、または抑制される。
【0052】
ジヒドロテトラベナジン異性体(V)を、塩素化炭化水素(例えば、クロロホルムまたはジクロロメタン、好ましくは、ジクロロメタン)などのプロトン性溶媒中、五塩化リンなどの脱水剤と反応させ、鏡像異性体対として不飽和化合物(II)を形成するが、このスキームではそのうちR−鏡像異性体のみを示す。この脱水反応は一般に、室温より低い温度、例えば、0〜5℃前後で行う。
【0053】
次に、この不飽和化合物(II)に対して立体選択的再水和を行って、3位と11b位の水素原子がシス相対配向にあり、2位と3位の水素原子がトランス相対配向にあるジヒドロテトラベナジン(VI)およびその鏡像または対掌体(示されていない)を生成する。立体選択的再水和は、テトラヒドロフラン(THF)中ボラン−THFを用いたヒドロホウ素化を行って中間体ボラン複合体(示されていない)を形成した後、これを水酸化ナトリウムなどの塩基の存在下、過酸化水素で酸化することによって達成される。
【0054】
その後、最初の精製工程(例えば、HPLCによる)を行って、この一連の再水和反応の生成物(V)を、その2S,3S,11bRおよび2R,3R,11bS異性体の混合物として得、2S,3S,11bR異性体のみ示した。これらの異性体を分離するため、この混合物を、ジクロロメタン中、塩化オキサリルおよびジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下でR(+)モッシャーの酸で処理し、ジアステレオ異性体エステル(VII)対を得(そのうち1つのジアステレオ異性体のみを示す)、次に、これをHPLCにより分離することができる。次に、この個々のエステルを、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物を用いて加水分解し、単一の異性体(VI)を得ることができる。
【0055】
スキーム1で示した一連の工程のバリエーションでは、RR/SSテトラベナジンの還元の後、得られたジヒドロテトラベナジン(V)の鏡像異性体混合物を分離して、個々の鏡像異性体を分離することができる。分離は、(+)または(−)カンファースルホン酸などのキラル酸で塩を形成し、得られたジアステレオ異性体を分別結晶により分離して単一の鏡像異性体の塩を得た後、その塩から遊離の塩基を遊離させることによって行うことができる。
【0056】
分離されたジヒドロテトラベナジン鏡像異性体を脱水して、アルケン(II)の単一の鏡像異性体を得ることができる。次に、アルケン(II)の再水和を行い、優先的または排他的にシス−ジヒドロテトラベナジン(VI)の単一の鏡像異性体を得ることができる。
本発明の利点は、モッシャーの酸エステルの形成を含まず、従って、モッシャーの酸エステルの分離に一般に用いられるクロマトグラフィー的分離を避けられるということである。
【0057】
スキーム2は、2位と3位に結合している水素原子がシス相対配向にある、2R,3S,11bRおよび2S,3R,11bS配置を有する個々のジヒドロテトラベナジン異性体の製造を示す。この反応スキームは、上記で定義された方法Bを含む。
【化13】

【0058】
スキーム2において、この不飽和化合物(II)は、テトラベナジンを還元してジヒドロテトラベナジンの2S,3R,11bRおよび2R,3S,11bS異性体(V)を得、スキーム1で上記したようにPClで脱水することにより製造される。しかしながら、化合物(II)をヒドロホウ素化する代わりに、2,3−二重結合は、メタ−クロロ過安息香酸(MCPBA)および過塩素酸との反応によりエポキシドに変換される。このエポキシ化反応は、一般に室温前後で、メタノールなどのアルコール溶媒中で行うのが便宜である。
【0059】
次に、このエポキシド(VII)に対し、求電子還元剤としてボラン−THFを用いて還元的開環を行い、中間体ボラン複合体(示されていない)を得、次にこれを酸化し、水酸化ナトリウムなどのアルカリの存在下、過酸化水素で開裂させ、ジヒドロテトラベナジン(VIII)を2R,3S,11bR異性体と2S,3R,11bS異性体の混合物として得るが、簡略化して、このうちの2R,3S,11bRのみを示す。この異性体混合物(VIII)を、ジクロロメタン中、塩化オキサリルおよびジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下、R(+)モッシャーの酸で処理し、エピマーエステル(IX)対を得(そのうち1つのエピマーのみ示す)、次にこれをクロマトグラフィーにより分離し、スキーム1に関して上記したように、水酸化ナトリウムで加水分解することができる。
【0060】
化学中間体(II)および(III)は新規なものであり、本発明のさらなる態様をなすものであると考えられる。
【0061】
生物学的特性および治療的使用
テトラベナジンは、脳において小胞モノアミン輸送体VMAT2を阻害することにより、およびシナプス前ドーパミン受容体とシナプス後ドーパミン受容体の双方を阻害することにより、その治療効果を発揮する。
【0062】
本発明のこの新規なジヒドロテトラベナジン異性体はまたVMAT2の阻害剤でもあり、異性体CおよびBが最大の阻害程度を示す。テトラベナジン同様、本発明の化合物は、末梢組織および数種の内分泌細胞に見られるVMATイソ型であるVMAT1に対して低い親和性しか持たず、それにより、それらがレセルピンに関連する副作用を生じないはずであることを示唆する。化合物CおよびBはまた、カテコールO−メチルトランスフェラーゼ(COMT)、モノアミンオキシダーゼイソ型AおよびB、ならびに5−ヒドロキシトリプタミンイソ型Idおよび1bに対して阻害活性を全く示さない。
【0063】
驚くべきことに、異性体CおよびBはまたVAMT2の著しい分離とドーパミン受容体活性を示し、VMAT2の結合において活性が高いが、両化合物とも、弱いドーパミン受容体結合活性しか持たないか、またはドーパミン受容体結合活性は存在せず、ドーパミン輸送体(DAT)結合活性を欠いている。実際に、これらの異性体で、有意なDAT結合活性を示すものはない。このことは、これらの化合物が、テトラベナジンによって生じるドーパミン副作用がない可能性があることを示唆している。異性体CおよびBはまた、アドレナリン受容体の阻害剤としての活性が弱いか、または不活性であり、このことは、これらの化合物がテトラベナジンを用いた場合に出くわすことの多いアドレナリン作動性の副作用がない可能性があることを示唆している。実際、ラットで行った運動研究では、テトラベナジンは、用量に関連する鎮静作用を示したが、本発明のジヒドロテトラベナジン異性体BおよびCの投与後に鎮静作用は見られなかった。
【0064】
さらに、異性体Cおよび異性体Bはセロトニン輸送体タンパク質SERTの有力な阻害剤である。SERTの阻害は、フルオキセチン(Prozac(商標))などの抗鬱薬がそれらの治療効果を発揮する1つの機構である。よって、抑鬱が十分認知された副作用であるテトラベナジンとは明らかに対照的に、異性体CおよびBの、SERTを阻害する能力は抗鬱薬として作用する可能性がある。
【0065】
これまでに行われた研究に基づけば、本発明のジヒドロテトラベナジン化合物は、現在テトラベナジンが用いられている、または提案されている病態および症状の予防または処置に有用であると考えられる。よって、限定されるものではないが、例として、本発明のジヒドロテトラベナジン化合物は、ハンチントン病、片側バリスム、老年舞踏病、チック障害、遅発性ジスキネジア、失調症およびトゥーレット症候群などの運動亢進性運動障害の処置に使用可能である。
【0066】
また、本発明のジヒドロテトラベナジン化合物が鬱病の処置に有用であり得るとも考えられる。
【0067】
これらの化合物は一般に、このような投与を必要とする対象、例えば、ヒトまたは動物患者、好ましくは、ヒトに投与される。
【0068】
これらの化合物は一般に、治療上または予防上有用であって無毒な量で投与される。しかしながら、ある状況では、本発明のジヒドロテトラベナジン化合物を投与する利益は、毒性作用または副作用の不利益にまさると考えられ、その場合、化合物を毒性適度と関連する量で投与することが望ましいと考えられる。
【0069】
この化合物の通常の一日量は、0.025ミリグラム〜5ミリグラム/体重キログラムの範囲、例えば、3ミリグラム/体重キログラムまで、より一般には、0.15ミリグラム〜5ミリグラム/体重キログラムであり得るが、必要があれば、それより高い用量または低い用量を投与してもよい。
【0070】
例として、初期出発用量12.5mgを1日2〜3回投与すればよい。この用量は、各個に対して医師が決定したような最大許容有効量まで、2〜3日ごとに1日12.5mgだけ増量することができる。最終的に、投与する化合物の量は、処置する疾病または病態の性質および所定の投与計画によってもたらされる治療利益と副作用の有無に比例し、医師の裁量下にある。
【0071】
医薬処方物
本発明はまた、医薬組成物の形態の、以上で定義したジヒドロテトラベナジン化合物も提供する。
これらの医薬組成物は、経口投与、非経口投与、局所投与、鼻腔内投与、気管支内投与、眼内投与、耳内投与、直腸投与、膣内投与または経皮投与に好適ないずれの形態であってもよい。これらの組成物が非経口投与を意図する場合、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下投与用、または注射、注入もしくは他の送達手段による標的器官または組織への直接送達用に処方することができる。
【0072】
経口投与に好適な医薬投与形としては、錠剤、カプセル剤、キャプレッツ、丸剤、トローチ剤、シロップ剤、溶液、噴霧剤、散剤、顆粒剤、エリキシル剤および懸濁液、舌下錠剤、噴霧剤、カシェ剤またはパッチ剤および口内パッチ剤が挙げられる。
【0073】
本発明のジヒドロテトラベナジン化合物を含有する医薬組成物は、既知の技術に従って処方することができる(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, PA, USA参照)。
【0074】
よって、錠剤組成物は、単位用量の有効化合物を、糖または糖アルコール(例えば、ラクトース、スクロース、ソルビトールまたはマンニトール)などの不活性希釈剤または担体;および/または炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、タルク、炭酸カルシウム、またはセルロースもしくはその誘導体(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)などの非糖由来の希釈剤、およびコーンスターチなどのデンプン類とともに含有し得る。錠剤はまた、ポリビニルピロリドンなどの結合および造粒剤、崩壊剤(例えば、架橋カルボキシメチルセルロースなどの膨潤性架橋ポリマー)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸塩)、保存剤(例えば、パラベン)、抗酸化薬(例えば、BHT)、緩衝剤(例えば、リン酸バッファーまたはクエン酸バッファー)、およびクエン酸/重炭酸混合物などの発泡剤といった標準的な成分を含み得る。このような賦形剤は周知のものであり、ここで詳細に述べる必要はない。
【0075】
カプセル処方物は、硬ゼラチン種または軟ゼラチン種であってもよく、固体、半固体または液体の形態の有効化合物を含むことができる。ゼラチンカプセルは動物性ゼラチンまたはその合成もしくは植物由来の等価物からなり得る。
【0076】
固体投与形投与形(例えば、錠剤、カプセル剤など)はコーティングしてもしなくてもよいが、一般には、例えば、保護膜コーティング(例えば、ワックスまたはワニス)または徐放性コーティングなどのコーティングを施す。コーティング(例えば、Eudragit(商標)型ポリマー)は、胃腸管内の目的の位置で有効成分を放出するように設計することができる。よって、コーティングは、胃腸管内の特定のpH条件下で崩壊するように選択することで、胃内または回腸もしくは十二指腸内で化合物を選択的に放出することができる。
【0077】
コーティングの代わりに、またはコーティングに加えて、薬剤は放出制御剤、例えば、胃腸管内の酸度またはアルカリ度が変化する条件下で化合物を選択的に放出するようにすることができる放出遅延剤を含んでなる固体マトリックスにて提供することができる。あるいは、このマトリックス材料または放出遅延コーティングは、投与形が胃腸管を通過するにつれ実質的に連続的に腐食する腐食性ポリマー(例えば、無水マレイン酸ポリマー)の形態をとってもよい。
【0078】
局所用組成物としては、軟膏、クリーム、噴霧剤、パッチ剤、ゲル剤、滴剤、およびインサート(例えば、眼内インサート)が挙げられる。このような組成物は既知の方法に従って処方することができる。
【0079】
非経口投与用組成物としては、一般に、無菌水性もしくは油性溶液、または微細懸濁液として提供されるか、または無菌注射水で即時調合するための無菌微細粉末で提供してもよい。
【0080】
直腸または膣内投与用処方物の例としては、例えば有効化合物を含有する鋳型可能な、またはワックス材料から形成し得る膣坐剤および坐剤が挙げられる。
【0081】
吸入投与用組成物は、吸入可能な粉末組成物または液体もしくは粉末噴霧剤の形態をとってもよく、粉末吸入ディバイスまたはエアゾールディスペンスディバイスを用いる標準的な形態で投与することができる。このようなディバイスは周知のものである。吸入による投与では、粉末状の処方物に、一般に、有効成分をラクトースなどの不活性な固体粉末希釈剤とともに含む。
【0082】
本発明の化合物は通常、単位投与形で提供され、それ自体、一般に、所望のレベルの生物活性をもたらすに十分な化合物を含む。例えば、経口投与を意図した処方物は、2ミリグラム〜200ミリグラム、より通常には10ミリグラム〜100ミリグラム、例えば、12.5ミリグラム、25ミリグラムおよび50ミリグラムの有効成分を含んでよい。
【0083】
この化合物は所望の治療効果を達成するのに十分な量で、それを必要とする患者(例えば、ヒトまたは動物患者)に投与する。
【0084】
【実施例】
【0085】
以下、限定されるものではないが、実施例によって本発明のジヒドロテトラベナジン化合物の合成および特性を例示する。
【0086】
実施例1
ジヒドロテトラベナジンの2S,3S,11bRおよび2R,3R,11bS異性体の製造
1A. RR/SSテトラベナジンの還元
【化14】

【0087】
0℃にて、エタノール(75ml)およびテトラヒドロフラン(75ml)中、テトラベナジンRR/SSラセミ化合物(15g,47mmol)の攪拌溶液に、テトラヒドロフラン中1MのL−セレクトリド(Selectride)(商標)(135ml,135mmol,2.87当量)を30分かけてゆっくり加えた。添加が完了した後、この混合物を0℃で30分間攪拌した後、室温まで温めた。
【0088】
この混合物を砕氷(300g)に注ぎ、水(100ml)を加えた。この溶液をジエチルエーテル(2×200ml)で抽出し、合わせたエーテル抽出液を水(100ml)で洗浄し、無水炭酸カリウム上で部分乾燥した。無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥を完了させ、濾過後、減圧下で溶媒を除去し(遮光、浴温<20℃)、淡黄色固体を得た。
この固体を石油エーテル(30〜40℃)でスラリーとし、白色粉末固体を得た(12g,80%)。
【0089】
1B. 還元型テトラベナジンの脱水
【化15】

【0090】
0℃にて、ジクロロメタン(200ml)中、実施例1Aから得られた還元型のテトラベナジン生成物(20g,62.7mmol)の攪拌溶液に、五塩化リン(32.8g,157.5mmol,2.5当量)を30分かけて少量ずつ加えた。添加が完了した後、反応混合物を0℃でさらに30分間攪拌し、この溶液を砕氷(0℃)を含む2M炭酸ナトリウム水溶液にゆっくり注いだ。最初の酸素ガスの発生が終わったところで、この混合物を、固体炭酸ナトリウムを用いて塩基性とした(約pH12)。
【0091】
このアルカリ溶液を、酢酸エチル(800ml)を用いて抽出し、合わせた有機抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下で溶媒を除去して褐色の油状物を得、これをカラムクロマトグラフィー(シリカ,酢酸エチル)により精製し、半精製アルケンを黄色固体として得た(10.87g,58%)。
【0092】
1C. 実施例1Bから得られた粗アルケンの水和
【化16】

【0093】
室温にて、乾燥THF(52ml)中、実施例1Bから得られた粗アルケン(10.87g,36.11mmol)の溶液を、1Mボラン−THF(155.6ml,155.6mmol,4.30当量)で滴下処理した。この反応物を2時間攪拌し、水(20ml)を加え、この溶液を30%水酸化ナトリウム水溶液でpH12まで塩基性化した。
【0094】
このアルカリ性の攪拌反応混合物に30%過酸化水素水溶液(30ml)を加え、この溶液を1時間還流加熱した後、室温にした。水(100ml)を加え、この混合物を酢酸エチル(3×250ml)で抽出した。有機抽出液を合わせ、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で溶媒を除去し、黄色油状物を得た(9g)。
【0095】
この油状物を、分取HPLC(カラム:Lichrospher Si60,5μm,250×21.20mm,移動相:ヘキサン:エタノール:ジクロロメタン(85:15:5);UV254nm,流速:10ml/分)を用い、350mg/インジェクションで精製した後、真空下で目的画分を濃縮した。次に、この生成油状物をエーテルに溶解し、真空下で再び濃縮し、上記に示されるジヒドロテトラベナジンラセミ化合物を黄色泡沫として得た(5.76g,50%)。
【0096】
1D. 12.モッシャーのエステル誘導体の製造
【化17】

【0097】
R−(+)−α−メトキシ−α−トリフルオロメチルフェニル酢酸(5g,21.35mmol)、塩化オキサリル(2.02ml)およびDMF(0.16ml)を無水ジクロロメタン(50ml)に加え、この溶液を室温で45分間攪拌した。この溶液を減圧下で濃縮し、残渣をもう一度無水ジクロロメタン(50ml)に取った。得られた溶液を、氷水浴を用いて冷却し、ジメチルアミノピリジン(3.83g,31.34mmol)を加えた後、実施例1Cの固体生成物(5g,15.6mmol)の、無水ジクロロメタン中溶液を予め乾燥したもの(4オングストロームシーブス上)を加えた。室温で45分間攪拌した後、水(234ml)を加え、この混合物をエーテル(2×200ml)で抽出した。エーテル抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、シリカパッドを通し、エーテルを用いて生成物を溶出した。
【0098】
回収したエーテル溶出液を減圧下で濃縮して油状物を得、これをカラムクロマトグラフィー(シリカ,ヘキサン:エーテル(10:1))を用いて精製した。回収した目的のカラム画分を蒸発させ、減圧下で溶媒を除去して固体を得、これを、カラムクロマトグラフィー(シリカ,ヘキサン:酢酸エチル(1:1))を用いてさらに精製して3種類の主成分を得、これをモッシャーのエステルピーク1と2に部分的に分解した。
【0099】
これらの3成分について分取HPLC(カラム:2×Lichrospher Si60,5μm,250×21.20mm,移動相:ヘキサン:イソプロパノール(97:3),UV254nm;流速:10ml/分)をロード量300mgで行った後、目的画分を減圧下で濃縮し、純粋なモッシャーのエステル誘導体を得た。
ピーク1(3.89g,46.5%)
ピーク2(2.78g,33%)
【0100】
これら2つのピークに相当する画分に対して加水分解を行い、異性体AおよびBと同定および特性決定される個々のジヒドロテトラベナジン異性体を遊離させた。異性体AおよびBは各々、次の構造:
【化18】

のうちの1つを有すると考えられる。
【0101】
IE. ピーク1の加水分解による異性体Aの取得
メタノール(260ml)中、モッシャーのエステルピーク1(3.89g,7.27mmol)の溶液に、20%水酸化ナトリウム水溶液(87.5ml)を加え、この混合物を攪拌し、150分間還流加熱した。室温まで冷却した後、水(200ml)を加え、この溶液をエーテル(600ml)で抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で濃縮した。
【0102】
残渣を酢酸エチル(200ml)を用いて溶解し、この溶液を水(2×50ml)で洗浄し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で濃縮し、黄色泡沫を得た。この材料をカラムクロマトグラフィー(シリカ,酢酸エチル:ヘキサン(1:1)〜酢酸エチルの勾配溶出)により精製した。目的の画分を合わせ、減圧下で溶媒を除去した。残渣をエーテルに取り、もう一度、減圧下で溶媒を除去し、異性体Aを灰白色泡沫として得た(1.1g,47%)。
【0103】
異性体Aは2S,3S,11bRまたは2R,3R,11bS配置のいずれかを有すると考えられており(絶対的立体配置は決定されていない)、H−NMR、13C−NMR、IR、質量分析、キラルHPLCおよびORDにより特性決定した。異性体AのIR、NMRおよびMSデータを表1に示し、キラルHPLCおよびORDデータを表3に示す。
【0104】
1F. ピーク2の加水分解による異性体Bの取得
メタノール(185ml)中、モッシャーのエステルピーク2(2.78g,5.19 mmol)の溶液に、20%水酸化ナトリウム水溶液(62.5ml)を加え、この混合物を攪拌し、150分還流加熱した。室温まで冷却した後、水(142ml)を加え、この溶液をエーテル(440ml)で抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で濃縮した。
【0105】
残渣を酢酸エチル(200ml)を用いて溶解し、この溶液を水(2×50ml)で洗浄し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で濃縮した。この残渣に石油エーテル(30〜40℃)を加え、この溶液を、もう一度、真空下で濃縮し、異性体Bを白色泡沫として得た(1.34g,81%)。
【0106】
異性体Bは2S,3S,11bRまたは2R,3R,11bS配置のいずれかを有すると考えられており(絶対的立体配置は決定されていない)、H−NMR、13C−NMR、IR、質量分析、キラルHPLCおよびORDにより特性決定した。異性体BのIR、NMRおよびMSデータを表1に示し、キラルHPLCおよびORDデータを表3に示す。
【0107】
実施例2
ジヒドロテトラベナジンの2R,3S,11bRおよび2S,3R,11bS異性体の製造
2A. 2,3−デヒドロテトラベナジンの製造
テトラヒドロフランにおいてRRおよびSSテトラベナジン鏡像異性体のラセミ混合物(15g,47mmol)を含有する溶液を、実施例1Aの方法により、L−セレクトリド(商標)で還元し、ジヒドロテトラベナジンの2S,3R,11bRおよび2R,3S,11bS鏡像異性体の混合物を白色粉末固体として得た(12g,80%)。次に、この部分精製されたジヒドロテトラベナジンを、実施例1Bの方法に従い、PClを用いて脱水し、2,3−デヒドロテトラベナジンの11bRおよび11bS異性体の半純粋混合物(そのうち、11bR鏡像異性体を下記に示す)を黄色固体として得た(12.92g,68%)。
【化19】

【0108】
2B. 実施例2Aから得られた粗Eアルケンの酸化
【化20】

【0109】
メタノール(215ml)中、実施例2Aから得られた粗アルケン(12,92g,42.9mmol)の攪拌溶液に、メタノール(215ml)中、70%過塩素酸(3.70ml,43mmol)の溶液を加えた。この反応物に77%の3−クロロペルオキシ安息香酸(15.50g,65mmol)を加え、得られた混合物を遮光して室温で18時間攪拌した。
【0110】
この反応混合物を飽和亜硫酸ナトリウム水溶液(200ml)に注ぎ、(200ml)を加えた。得られたエマルションにクロロホルム(300ml)を加え、この混合物を飽和重炭酸ナトリウム水溶液(400ml)で塩基性とした。
【0111】
有機層を回収し、水相をさらなるクロロホルム(2×150ml)で洗浄した。合わせたクロロホルム層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で溶媒を除去し、褐色の油状物を得た(14.35g,収率>100%−生成物中にはおそらく溶媒が残留)。この材料をさらに精製することなく用いた。
【0112】
2C. 2Bから得られたエポキシドの還元的開環
【化21】

【0113】
乾燥THF(80ml)中、実施例2Bから得られた粗エポキシド(14.35g,42.9mmol,推定収率100%)の攪拌溶液を、15分かけて1Mボラン/THF(184.6ml,184.6mmol)でゆっくり処理した。反応物を2時間攪拌し、水(65ml)を加え、この溶液を30分間攪拌しながら還流加熱した。
【0114】
冷却後、反応混合物に30%水酸化ナトリウム溶液(97ml)を加えた後、30%過酸化水素溶液(48.6ml)を加え、この反応物を攪拌し、さらに1時間する還流加熱した。
【0115】
冷却した反応混合物を酢酸エチル(500ml)で抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で溶媒を除去して油状物を得た。この油状物にヘキサン(230ml)を加え、この溶液を減圧下で再濃縮した。
【0116】
この油状残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカ,酢酸エチル)により精製した。目的の画分を合わせ、減圧下で溶媒を除去した。この残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカ,ヘキサン〜エーテル勾配)を用いてもう一度精製した。目的の画分を合わせ、減圧下で溶媒を蒸発させ、淡黄色固体を得た(5.18g,38%)。
【0117】
2D. ジヒドロテトラベナジンの2R,3S,11bRおよび2S,3R,11bS異性体のモッシャーのエステル誘導体の製造
【化22】

【0118】
R−(+)−α−メトキシ−α−トリフルオロメチルフェニル酢酸(4.68g,19.98mmol)、塩化オキサリル(1.90ml)およびDMF(0.13ml)を無水ジクロロメタン(46ml)に加え、この溶液を室温で45分間攪拌した。溶液を減圧下で濃縮し、残渣をもう一度、無水ジクロロメタン(40ml)に取った。得られた溶液を、氷水浴を用いて冷却し、ジメチルアミノピリジン(3.65g,29.87mmol)を加えた後、無水ジクロロメタン(20ml)中、実施例2Cの固体生成物(4.68g,14.6mmol)の溶液を予め乾燥させたもの(4オングストロームシーブス)を加えた。室温で45分間攪拌した後、水(234ml)を加え、混合物をエーテル(2×200ml)で抽出した。このエーテル抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、シリカパッドを通し、エーテルを用いて生成物を溶出した。
【0119】
回収したエーテル溶出液を減圧下で濃縮して油状物を得、これを、カラムクロマトグラフィー(シリカ,ヘキサン:エーテル(1:1))を用いて精製した。回収した目的のカラム画分を蒸発させ、減圧下で溶媒を除去し、ピンク色の固体を得た(6.53g)。
【0120】
この固体に対して分取HPLC(カラム:2×Lichrospher Si60,5μm,250×21.20mm;移動相 ヘキサン:イソプロパノール(97:3);UV254nm;流速:10ml/分)をロード量100mgで行った後、目的の画分を真空下で濃縮して固体を得、これを石油エーテル(30〜40℃)でスラリーとし、濾取し、純粋なモッシャーのエステル誘導体を得た。
ピーク1(2.37g,30%)
ピーク2(2.42g,30%)
【0121】
これら2つのピークに相当する画分に対して加水分解を行い、異性体CおよびDと同定および特性決定される個々のジヒドロテトラベナジン異性体を遊離させた。異性体CおよびDは各々、次の構造:
【化23】

のうちの1つを有すると考えられる。
【0122】
2F. ピーク1の加水分解による異性体Cの取得
メタノール(158ml)中、モッシャーのエステルピーク1(2.37g,4.43 mmol)の攪拌溶液に、20%水酸化ナトリウム水溶液(53ml)を加え、この混合物を150分攪拌還流した。冷却後、この反応混合物に水(88ml)を加え、得られた溶液をエーテル(576ml)で抽出した。有機抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で溶媒を除去した。残渣に酢酸エチル(200ml)を加え、この溶液を水(2×50ml)で洗浄した。有機溶液を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で溶媒を除去した。
【0123】
この残渣を石油エーテル(30〜40℃)で処理し、得られた懸濁固体を濾取した。濾液を減圧下で濃縮し、第二のバッチの懸濁固体を濾取した。回収した両固体を合わせ、減圧下で乾燥させ、異性体Cを得た(1.0g,70%)。 異性体Cは2R,3S,11bRまたは2S,3R,11bS配置のいずれかを有すると考えられており(絶対的立体配置は決定されていない)、
【0124】
H−NMR、13C−NMR、IR、質量分析、キラルHPLCおよびORDにより特性決定した。異性体CのIR、NMRおよびMSデータを表2に示し、キラルHPLCおよびORDデータを表4に示す。
【0125】
2G. ピーク2の加水分解による異性体Dの取得
メタノール(158ml)中、モッシャーのエステルピーク2(2.42g,4.52 mmol)の攪拌溶液に、20%水酸化ナトリウム水溶液(53ml)を加え、この混合物を150分攪拌還流した。冷却後、この反応混合物に水(88ml)を加え、得られた溶液をエーテル(576ml)で抽出した。有機抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で溶媒を除去した。残渣に酢酸エチル(200ml)を加え、この溶液を水(2×50ml)で洗浄した。有機溶液を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後、減圧下で溶媒を除去した。
【0126】
この残渣を石油エーテル(30〜40℃)で処理し、得られた橙色の懸濁固体を濾取した。この固体を酢酸エチル:ヘキサン(15:85)に溶解し、カラムクロマトグラフィー(シリカ,酢酸エチル:ヘキサン(15:85)〜酢酸エチルの勾配)により精製した。目的の画分を合わせ、減圧下で溶媒を除去した。残渣を石油エーテル(30〜40℃)でスラリーとし、得られた懸濁物を濾取した。回収した固体を減圧下で乾燥させ、異性体Dを白色固体として得た(0.93g,64%)。
【0127】
異性体Dは2R,3S,11bRまたは2S,3R,11bS配置のいずれかを有すると考えられており(絶対的立体配置は決定されていない)、H−NMR、13C−NMR、IR、質量分析、キラルHPLCおよびORDにより特性決定した。異性体DのIR、NMRおよびMSデータを表2に示し、キラルHPLCおよびORDデータを表4に示す。
【0128】
表1および2では、赤外線スペクトルはKBrディスク法を用いて測定した。H NMRスペクトルは、Varian Gemini NMR分光計(200MHz)を用い、重水素化クロロホルム中の溶液で測定した。13C NMRスペクトルは、Varian Gemini NMR分光計(50MHz)を用い、重水素化クロロホルム中の溶液で測定した。質量スペクトルは、Micromass Platform II(ES+条件)分光計を用いて得た。表3および4では、旋光分散図は、メタノール溶液中24℃で、Optical Activity PolAAr 2001装置を用いて得た。HPLC保持時間の測定は、UV検出を備えたHP1050 HPLCクロマトグラフを用いて行った。
【0129】
【表1】

【0130】
【表2】

【0131】
【表3】

【0132】
【表4】

【0133】
実施例3
異性体Bの製造の別法およびメシル酸塩の製造
3A. RP/SSテトラベナジンの還元
【化24】

【0134】
冷却した(氷浴)、テトラヒドロフラン(56ml)中、テトラベナジンラセミ化合物(15g,47mmol)の攪拌溶液に、テトラヒドロフラン中1MのL−セレクトリド(商標)(52ml,52mmol,1.1当量)を30分かけてゆっくり加えた。添加が完了した後、この混合物を室温まで温め、さらに6時間攪拌した。TLC分析(シリカ,酢酸エチル)によれば、出発材料は極めて低量でしか残留していないことが示された。
【0135】
この混合物を、砕氷(112g)、水(56ml)および氷酢酸(12.2g)の攪拌混合物に注いだ。得られた黄色溶液をエーテル(2×50ml)で洗浄し、固体炭酸ナトリウム(約13g)をゆっくり加えることで塩基性とした。この混合物に攪拌しながら石油エーテル(30〜40℃)(56ml)を加え、粗β−DHTBZを白色固体として濾取した。
【0136】
この粗固体をジクロロメタン(約150ml)に溶解し、得られた溶液を水(40ml)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、濾過し、減圧下で約40mlまで濃縮した。白色固体の粘稠な懸濁液が生じた。石油エーテル(30〜40℃)(56ml)を加え、この懸濁液を実験室温度で15分間攪拌した。生成物を濾取し、フィルター上で石油エーテル(30〜40℃)を用いて(40〜60ml)スノーホワイトとなるまで洗浄した後、室温で風乾し、β−DHTBZ(10.1g,67%)を白色固体として得た。TLC分析(シリカ,酢酸エチル)によれば、一成分のみであることが示された。
【0137】
3B. ラセミβ−DHTBZのカンファースルホン酸塩の製造および分別結晶
実施例3Aの生成物および1当量の(S)−(+)−カンファー−10−スルホン酸を、最少量のメタノールに加熱しながら溶解した。得られた溶液を冷却した後、生じる固体沈殿の形成が完了するまでエーテルでゆっくり希釈した。得られた白色結晶性固体を濾取し、エーテルで洗浄した後、乾燥させた。
【0138】
このカンファースルホン酸塩(10g)を、エタノール(170ml)とメタノール(30ml)の混合物に溶解した。得られた溶液を攪拌し、冷却した。2時間後、生じた沈殿を白色結晶性固体として濾取した(2.9g)。この結晶性材料のサンプルを過剰量の飽和炭酸ナトリウム水溶液およびジクロロメタンの入った分液漏斗内で振盪した。有機相を分離し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮した。残渣を、石油エーテル(30〜40℃)を用いてトリチュレートし、その有機溶液をもう一度濃縮した。Chirex(S)−VALおよび(R)−NEA 250×4.6mmカラムとヘキサン:エタノール(98:2)溶離剤を用い、流速1ml/分で、この塩のキラルHPLC分析を行ったところ、単離されたβ−DHTBZは1つの鏡像異性体が富化されていたことが示された(e.e.約80%)。
【0139】
富化されたこのカンファースルホン酸塩(14g)を無水エタノール(140ml)に溶解し、プロパン−2−オール(420ml)を加えた。得られた溶液を攪拌したところ、1分以内に沈殿が生じ始めた。この混合物を室温まで冷却し、1時間攪拌した。生じた沈殿を濾取し、エーテルで洗浄し、乾燥させ、白色結晶性固体を得た(12g)。
【0140】
この結晶性材料を過剰量の飽和炭酸ナトリウム水溶液およびジクロロメタンの入った分液漏斗内で振盪した。有機相を分離し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮した。残渣を、石油エーテル(30〜40℃)を用いてトリチュレートし、その有機溶液をもう一度濃縮して得た(真空乾燥の後)。(+)−β−DHTBZ(6.6g,ORD+107.8°)。単離された鏡像異性体はe.e.>97%であった。
【0141】
3C. 異性体Bの製造
ジクロロメタン(90ml)中、実施例3Bの生成物(6.6g,20.6mmol)の冷却(氷水浴)攪拌溶液に、ジクロロメタン(55ml)中、五塩化リン(4.5g,21.6mmol,1.05当量)の溶液を、10分間かけて一定に加えた。添加が完了したところで、得られた黄色溶液をさらに10分間攪拌した後、水(90ml)中炭酸ナトリウム(15g)と砕氷(90g)の攪拌混合物に手早く注いだ。この混合物をさらに10分間攪拌し、分液漏斗に移した。
【0142】
相が分かれたところで、褐色のジクロロメタン層を取り出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮し、粗アルケン中間体を褐色油状物として得た(約6.7g)。TLC分析(シリカ,酢酸エチル)によれば、この粗生成物中には(+)−β−DHTBZの残留はないことが示された。
【0143】
この粗アルケンを無水テトラヒドロフラン(40ml)に取り(乾燥窒素雰囲気)、THF中ボランの溶液(1M溶液,2.5当量,52ml)を攪拌しながら15分かけて加えた。次に、この反応混合物を室温で2時間攪拌した。TLC分析(シリカ,酢酸エチル)によれば、この反応混合物中にアルケン中間体の残留はないことが示された。
【0144】
この攪拌反応混合物水に、(10ml)中、水酸化ナトリウム(3.7g)の溶液を加えた後、過酸化水素水溶液(50%,約7ml)を加え、生じた2相混合物を還流下で1時間攪拌した。このときの有機相のTLC分析(シリカ,酢酸エチル)によれば、異性体Bに関して予測されるRf値を有する生成物の出現が示された。特徴的な非極性成分も見られなかった。
【0145】
この反応混合物を室温まで冷却し、分液漏斗に注いだ。上部の有機層を取り出し、減圧下で濃縮し、大部分のTHFを除去した。残渣をエーテル(安定化したもの(BHT),75ml)に取り、水(40ml)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮し、淡黄色の油状物を得た(8.1g)。
【0146】
この黄色油状物を、カラムクロマトグラフィー(シリカ,酢酸エチル:ヘキサン(80:20),100%酢酸エチルまで増す)を用いて精製し、所望のカラム画分を回収し、合わせ、減圧下で濃縮して薄青い油状物を得、これをエーテル(安定化したもの,18ml)で処理し、減圧下で濃縮し、異性体Bを淡黄色固体泡沫として得た(2.2g)。
【0147】
実施例3Bで示した条件を用いたキラルHPLCによれば、異性体Bが97%を超える鏡像異性体過剰(e.e.)で産生されたことが確認された。
旋光度はBellingham Stanley ADP220偏光計を用いて測定し、[α]+123.5°であった。
【0148】
3D. 異性体Bのメシル酸塩の製造
実施例3Cから得られた1当量の異性体Bと1当量のメタンスルホン酸の混合物を最少量のエタノールに溶解した後、ジエチルエーテルを加えることにより、メタンスルホン酸塩を製造した。結果として生じた白色沈殿を濾取し、真空乾燥し、メシル酸塩を収率約85%、純度(HPLCによる)約96%で得た。
【0149】
実施例4
H]ジヒドロテトラベナジン結合アッセイを用いたVMAT−2結合活性のスクリーニング
ジヒドロテトラベナジンは極めて強力かつ選択性のあるVMAT−2の阻害剤であり、この小胞輸送体と高い親和性(nM範囲)で結合する。[H]ジヒドロ−テトラベナジンは、長年、ヒト、ウシおよび齧歯類の脳においてVMAT−2を標識するための放射性リガンドとして首尾良く用いられてきた(例えば、Scherman et al. J. Neurochem. 50, 1131-1136 (1988); Near et al. Mol. Pharmacol. 30, 252-257 (1986); Kilbourn et al. Eur. J. Pharmacol. 278, 249-252 (1995);およびZucker et al. Life Sci. 69, 2311-2317 (2001)参照)。
【0150】
4種類のジヒドロテトラベナジン異性体A,B,CおよびDを、上記のアッセイを用い、VMAT−2輸送体を阻害する能力に関して試験した。
【0151】
方法および材料
成体ラット(Wistar系統)前脳膜を、本質的にChazot et al. (1993) Biochem. Pharmacol. 45, 605-610に記載のように調製した。成体ラット線条体小胞膜を、本質的にRoland et al. (2000), JPET 293, 329-335に記載のように調製した。10μgの膜を50mM HEPES pH8.0(アッセイバッファー)中、25℃でえ60分間、[H]ジヒドロテトラベナジン(18〜20nM)とともにインキュベートし、結合した放射性リガンドを、GF/Bガラス繊維フィルター上、真空下で迅速濾過することで回収した。並行して、2μMの非標識テトラベナジンの存在下のサンプルで非特異的結合を測定した。放射能は、β−カウンターにて、シンチレーション液中で計数した。4種類の試験化合物(異性体A、B、CおよびD)の前濃度範囲(logおよびhalf−log単位)を三回アッセイした(範囲:10−11〜10−4M)。試験化合物およびテトラベナジンを原液濃度10mMとしてDMSOに溶解した後、アッセイバッファーで希釈液を作製した。各化合物について独立した試験を3回行った。データを解析し、GraphPad Prism3.2パッケージを用いて曲線の当てはめを行った。
【0152】
結果
まず、成体ラット前脳P膜調製物(Chazot et al., 1993)を調製し、原著のプロトコールに記載のようにアッセイした。これによれば、極めて低いレベルの特異的結合活性が示された。
【0153】
次に、成体ラット線条体小胞調製物を調製し、これにより、有意なレベルの、安定な特異的[H]ジヒドロテトラベナジン結合部位が得られた(5〜6pmol/mgタンパク質)。これは公開されているデータ(Roland et al., 2000)に十分匹敵するものであった。この調製物をその後の総てのアッセイに用いた。
【0154】
【表5】

【0155】
データは3回の独立した試験の平均値±SDである。K値は公開されているラット線条体K値1.2nM(Roland et al., 2000)に基づくものである。
総合K値に関する総合薬理特定は、異性体C>異性体B>異性体D>>異性体Aである。
注目すべきは、異性体Bおよび異性体Aの双方で浅い競合曲線となり、2部位結合モデルに最も良く当てはまった。
【0156】
異性体Aは高親和性部位(K=59nM)と低親和性部位(親和性K<5.9μM)を示し、各々、全部位の約50%を占めていた。このことは、異性体Aが種々の線条体VMAT−2結合部位間で区別可能であることを示す。
【0157】
実施例5
VMAT機能アッセイ
A. VMAT2機能アッセイ
ラット線条体シナプス小胞は、本質的に実施例3に記載のように調製した。よって、ラット線条体P膜調製物(Chazot et al., 1993)を氷冷蒸留水に再懸濁させ、ホモジナイズした。25mM HEPESおよび100mM酒石酸カリウム(pH7.5,4℃)を添加することで浸透圧を元に戻した。次に、この調製物を20,000xg(4℃)で20分間遠心分離した。得られたS画分を取り出し、硫酸マグネシウムを加え(終濃度1mMとする,pH7.5,4℃)、この混合物を100,000xgで45分間遠心分離した。最終的なP画分に、アッセイ用のシナプス小胞が含まれる。
【0158】
100μlアリコート(約2.5μgタンパク質)のシナプス小胞を、30分間、試験化合物CおよびB(DMSO中10−2M原液として新しく調製)の濃度を増しつつ(濃度範囲10−9M〜10−4M)プレインキュベートした後、30℃にて、アッセイバッファー(25mM HEPES,100mM酒石酸カリウム,1.7mMアスコルビン酸,0.05mM EGTA,0.1mM EDTA,2mM ATP−Mg2+,pH7.5)中、[H]ドーパミン(終濃度30nM)の存在下で3分間プレインキュベートした。次に、2mM ATP−Mg2+の代わりに2mM MgSOを含有する氷冷アッセイバッファーpH7.5を添加し、0.5%ポリエチレンイミンに浸したワットマン濾紙で迅速濾過を行うことで反応を停止させた。これらの濾紙を、ブランデル・ハーベスターを用いて冷バッファーで3回洗浄した。濾紙に捕捉された放射能を、液体シンチレーションカウンターを用いて計数し、4℃での小胞[H]ドーパミン取り込みにより測定することによって非特異的結合を求めた。この方法は、Ugarte YV et al. (2003) Eur. J. Pharmacol. 472, 165-171に記載のものに基づくものである。選択的VMAT−2取り込みは、10μMテトラベナジンを用いて決定した。
【0159】
化合物C(見掛けのIC50=18±2nM)および化合物B(見掛けのIC50=30±3nM)は双方とも、[H]ジヒドロテトラベナジン結合アッセイを用いて判定されたそれらの個々の結合親和性と同程度の機能的親和性(特性C>B)を有するVMAT−2輸送体を介してラット線条体小胞への[H]ドーパミン取り込みを阻害した。
【0160】
B. VMAT1の機能アッセイ
VMAT2とは独立にVMAT1単独を有する天然組織は非常に限られている。しかしながら、テトラベナジンはVMAT1に比べてVMAT2に対して少なくとも200倍高い親和性を示し、この違いを用いて、機能アッセイにおけるVMAT2の影響を遮断することができる(Erickson et al. (1996) PNAS (USA) 93, 5166-5171)。本質的にMoshharov et al. (2003) J Neurosci. 23, 5835-5845に記載のように、若い成体SDラットから副腎クロム親和細胞を単離した。このように、副腎を氷領PBS中で切開し、副腎の皮膜と皮質を除去し、残りの髄質を細かく刻んだ。PBSで何回か洗浄した後、組織を、Ca2+フリーコラゲナーゼIA溶液(250U/ml)とともに、緩やかに攪拌しながら30℃で30分間インキュベートした。消化された組織を3回すすぎ、解離した細胞を3000rpmで遠心分離してペレットとし、これをPBSに再懸濁した。小胞画分を、脳調製物に関して記載されているものと同様にして単離した。
【0161】
100μl(約2.5μgタンパク質)のシナプス小胞を、30分間、試験化合物(結合アッセイに関して前記したように調製)の濃度を増しつつ(濃度範囲10−9M〜10−4M)プレインキュベートした。アッセイは、30℃にて、アッセイバッファー(25mM HEPES,100mM酒石酸カリウム,1.7mMアスコルビン酸,0.05mM EGTA,0.1mM EDTA,2mM ATP−Mg2+,pH7.5)中、[H]ドーパミン(終濃度30nM)の存在下で3分間行った。[H]ドーパミンの取り込みは、10μMテトラベナジン(この濃度でVMAT2を選択的に遮断する)の存在下で測定した。非特異的取り込みは、4℃にて小胞[H]ドーパミン取り込みを測定することによって測定した。次に、2mM ATP−Mg2+の代わりに2mM MgSOを含有する氷冷アッセイバッファーpH7.5を添加し、0.5%ポリエチレンイミンに浸したワットマン濾紙で迅速濾過を行うことで反応を停止させた。これらの濾紙を、ブランデル・ハーベスターを用いて冷バッファーで3回洗浄し、濾紙に捕捉された放射能を、液体シンチレーションカウンターを用いて計数した。
【0162】
10μMテトラベナジンの存在下で、化合物Bおよび化合物Cは双方とも、[H]ドーパミンの取り込みをあまり阻害せず、両化合物のIC50値は10−5Mを上回った。このことは、両化合物がVMAT−1に対して低い親和性を有することを示す。さらに、このデータは、この両化合物がVMAT−1よりもVMAT−2に対して少なくとも2オーダーの選択性を有することを示す。
【0163】
実施例6
受容体および輸送体タンパク質結合研究
4種類のジヒドロテトラベナジン異性体A、B、CおよびDの、下記の受容体および輸送体タンパク質と結合する能力を調べるため、特異的結合アッセイを行った。結果を表6に示す。
【0164】
(a)アドレナリン作動性α2A受容体:
参照文献: S. Uhlcn et al. J. Pharmacol. Exp. Tlier., 271:1558-1565 (1994)
起源: ヒト組換え昆虫Sf9細胞
リガンド: 1nM[H]MK−912
ビヒクル: 1%DMSO
インキュベーション時間/温度: 60分、25℃
インキュベーションバッファー: 75mM Tris−HCl,pH7.4,12.5mM MgCl,2mM EDTA
非特異的リガンド: 10μM WB−4101
: 0.6nM
max: 4.6pmol/mgタンパク質
特異的結合: 95%
定量方法: 放射性リガンド結合
有意性判定基準: 最大刺激または阻害の50%以上
【0165】
(b)アドレナリン作動性α2B受容体:
参照文献: S. Uhlen et al., Eur. J. Pharmacol., 33(1): 93-1-1 (1998)
起源: ヒト組換えCHO−K1細胞
リガンド: 2.5nM[H]Rauwolscine
ビヒクル: 1%DMSO
インキュベーション時間/温度: 60分、25℃
インキュベーションバッファー: 50mM Tris−HCl,1mM EDTA,12.5mM MgCl,pH 7.4,0.2%BSA、25℃
非特異的リガンド: 10μMプラゾシン
: 2.1nM
max: 2.1pmol/mgタンパク質
特異的結合: 90%
定量方法: 放射性リガンド結合
有意性判定基準: 最大刺激または阻害の50%以上
【0166】
(c)ドーパミンD受容体:
参照文献: Dearry et al., Nature, 347: 72-76, (1990)
起源: ヒト組換えCHO細胞
リガンド: 1.4nM[H]SCH−23390
ビヒクル: 1%DMSO
インキュベーション時間/温度: 2時間、37C℃
インキュベーションバッファー: 50mM Tris−HCl,pH7.4,150nM NaCl,1.4nMアスコルビン酸,0.001%BSA
非特異的リガンド: 10μM(+)ブタクラモール
: 1.4nM
max: 0.63pmol/mgタンパク質
特異的結合: 90%
定量方法: 放射性リガンド結合
有意性判定基準: 最大刺激または阻害の50%以上
【0167】
(d)ドーパミンD2L受容体:
参照文献: Bunzo et al., Nature, 336:783-787(1988)
起源: ヒト組換えCHO細胞
リガンド: 0.16nM[H]スピペロン
ビヒクル: 1%DMSO
インキュベーション時間/温度: 2時間、25℃
インキュベーションバッファー: 50mM Tris−HCl,pH7.4,150nM NaCl,1.4nMアスコルビン酸,0.001%BSA
非特異的リガンド: 10μMハロペリドール
: 0.08nM
max: 0.48pmol/mgタンパク質
特異的結合: 85%
定量方法: 放射性リガンド結合
有意性判定基準: 最大刺激または阻害の50%以上
【0168】
(e)ドーパミンD受容体:
参照文献: Sokoloff et al., Nature, 347:146-151, (1990)
起源: ヒト組換えCHO細胞
リガンド: 0.7nM[H]スピペロン
ビヒクル: 1%DMSO
インキュベーション時間/温度: 2時間、37℃
インキュベーションバッファー: 50mM Tris−HCl,pH7.4,150nM NaCl,1.4nMアスコルビン酸,0.001%BSA
非特異的リガンド: 25μM S(−)−スルピリド
: 0.36nM
max: 1.1pmol/mgタンパク質
特異的結合: 85%
定量方法: 放射性リガンド結合
有意性判定基準: 最大刺激または阻害の50%以上
【0169】
(f)イミダゾリンI(中枢)受容体:
参照文献: Brown et al., Brit. J. Pharmacol., 99:803-809, (1990)
起源: Wistarラット大脳皮質
リガンド: 2nM[H]イダゾキサン
ビヒクル: 1%DMSO
インキュベーション時間/温度: 30分、25℃
インキュベーションバッファー: 50mM Tris−HCl,0.5mM EDTA,pH7.4,25℃
非特異的リガンド: 1μMイダゾキサン
:4nM
max: 0.14pmol/mgタンパク質
特異的結合: 85%
定量方法: 放射性リガンド結合
有意性判定基準: 最大刺激または阻害の50%以上
【0170】
(g)シグマσ受容体:
参照文献: Ganapathy et al., Pharmacol. Exp. Ther., 289:251-260, (1999)
起源: ヒトjurkat細胞
リガンド: 8nM[H]ハロペリドール
ビヒクル: 1%DMSO
インキュベーション時間/温度: 4時間、25℃
インキュベーションバッファー: 5mM KHPO/KHPOバッファー pH7.5
非特異的リガンド: 10μMハロペリドール
: 5.8nM
max: 0.71pmol/mgタンパク質
特異的結合: 80%
定量方法: 放射性リガンド結合
有意性判定基準: 最大刺激または阻害の50%以上
【0171】
(h)シグマσ受容体:
参照文献: Hashimoto et al., Eur. J. Pharmacol., 236:159-163, (1993)
起源: Wistarラット脳
リガンド: 3nM[H]イフェンプロジル
ビヒクル: 1%DMSO
インキュベーション時間/温度: 60分、37℃
インキュベーションバッファー: 50 mM Tris−HCl,pH7.4
非特異的リガンド: 10μMイフェンプロジル
: 4.8nM
max: 1.3pmol/mgタンパク質
特異的結合: 85%
定量方法: 放射性リガンド結合
有意性判定基準: 最大刺激または阻害の50%以上
【0172】
(i)セロトニン輸送体(SERT):
参照文献: Gu et al., J. Biol. Chem., 269(10):7124-7130, (1994)
起源: ヒト組換えHEK−293細胞
リガンド: 0.15nM[125I]RTI−55
ビヒクル: 1%DMSO
インキュベーション時間/温度: 3時間、4℃
インキュベーションバッファー: 100mM NaCl,50mM Tris HCl,1μMロイペプチン,10μM PMSF,pH7.4
非特異的リガンド: 10μMイミプラミン
: 0.17nM
max: 0.41pmol/mgタンパク質
特異的結合: 95%
定量方法: 放射性リガンド結合
有意性判定基準: 最大刺激または阻害の50%以上
【0173】
(j)ドーパミン輸送体(DAT):
参照文献: Giros et al., Trends Pharmacol. Sci., 14, 43-49 (1993) Gu et al., J. Biol. Chem., 269(10):7124-7130 (1994)
起源: ヒト組換えCHO細胞
リガンド: 0.15nM[125I]RTI−55
ビヒクル: 1%DMSO
インキュベーション時間/温度: 3時間、4℃
インキュベーションバッファー: 100mM NaCl,50mM Tris HCl,1μMロイペプチン,10μM PMSF,pH7.4
非特異的リガンド: 10μMノミフェンシン
: 0.58nM
max: 0.047pmol/mgタンパク質
特異的結合: 90%
定量方法: 放射性リガンド結合
有意性判定基準: 最大刺激または阻害の50%以上
【0174】
【表6】

【0175】
実施例7
酵素アッセイ
異性体BおよびCの、CNSにおいてモノアミン類のプロセシングに関与する酵素、すなわち、カテコールO−メチルトランスフェラーゼ(COMT)、モノアミンオキシダーゼAおよびモノアミンオキシダーゼBを阻害する能力を調べた。用いたアッセイ方法を以下に記載し、結果を表7に示す。
【0176】
(a)カテコールO−メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害
起源: ブタ肝臓
基質: 3mMカテコール+S−アデノシル−L−[H]メチオニン
ビヒクル: 1%DMSO
プレインキュベーション時間/温度: なし
インキュベーション時間: 60分、37℃
インキュベーションバッファー: 12単位/mlのアデノシンデアミナーゼを含有する100mMリン酸カリウム,10mM MgCl,3mM DTT,pH7.4
定量方法: [H]グアイアコール(guiacol)の定量有意性判定基準: 最大刺激または阻害の50%以上
【0177】
(b)モノアミンオキシダーゼMAO−A阻害
起源: ヒト組換え体
基質: 50μMキヌラミン
ビヒクル: 1%DMSO
プレインキュベーション時間/温度: 15分、37℃
インキュベーション時間: 60分、37℃
インキュベーションバッファー: 100mM KHPO,pH7.4
定量方法: 4−ヒドロキシキノリン分光蛍光分析的定量
有意性判定基準: 最大刺激または阻害の50%以上
【0178】
(c)モノアミンオキシダーゼMAO−B阻害
起源: ヒト組換え体
基質: 50μMキヌラミン
ビヒクル: 1%DMSO
プレインキュベーション時間/温度: 15分、37℃
インキュベーション時間: 60分、37℃
インキュベーションバッファー: 100mM KHPO,pH7.4
定量方法: 4−ヒドロキシキノリンの分光蛍光分析的定量
有意性判定基準: 最大刺激または阻害の50%以上
【0179】
【表7】

【0180】
実施例8
細胞アッセイ
異性体BおよびCの、ヒト胎児腎細胞によるセロトニン(5−ヒドロキシトリプタミン)の取り込みを阻害する能力を、次のアッセイ条件を用いて測定した。
対象: ヒトHEK−293細胞
ビヒクル: 0.4%DMSO
インキュベーション時間/温度: 10分、25℃
インキュベーションバッファー: 5mM Tris−HCl,7.5mM HEPES,120mM NaCl,5.4mM KCl,1.2mM CaCl,1.2mM MgSO,5mMグルコース,1mMアスコルビン酸,pH7.1
定量方法: [H]セロトニン取り込みの定量
有意性判定基準: フルキセチン応答に対して[H]セロトニン取り込みの50%以上の阻害
【0181】
結果
化合物Bはアンタゴニストであることが示され、10aμM濃度でセロトニン取り込み の56%阻害をもたらした。化合物BのIC50は7.53μMであった。
化合物Cはアンタゴニストであることが示され、10aμM濃度でセロトニン取り込み の86%阻害をもたらした。化合物BのIC50は1.29μMであった。
【0182】
実施例9
5−HT1D/1B結合アッセイ
化合物Bおよび化合物Cの、5−HT1D/1B受容体と結合する能力を、Millan, MJ et al. (2002) Pharmacol. Biochem. Behav. 71, 589-598に記載のものに基づくアッセイを用いて調べた。[N−メチルH]GR−125743を、5−HT1D受容体および5−HT1B受容体双方の放射性リガンドとして用いた。成体SDラット前脳P膜(Chazot et al., 1993)をアッセイに用いた。用いたアッセイバッファーは、4mM塩化カルシウム、0.1%アスコルビン酸および10μMパルギリンを含有する50mM Tris−HCl pH7.7(室温)であった。5−HT(10μM)を用いて非特異的結合を定義した。1nM[H]GR−125743とのインキュベーションを室温で1時間行い、ブランデル・ハーベスターを用い、0.1%ポリエチレンイミンに予め浸したGF/B濾紙で迅速濾過することで反応を停止させた後、氷冷バッファー(0.1%BSAを添加)で3回洗浄した。用量範囲10−10〜−10−4Mを用いた。得られた競合曲線を、GraphPad Prism 4パッケージを用いて解析した。
【0183】
化合物BおよびCは双方とも、ラット前脳膜に対する[H][N−メチル]GR−125743の結合の置換をあまり示さなかったが(IC50値>10−4M)、このことはBおよびCの双方が5−HT1D/B受容体に対して低い親和性しか持たないことを示唆する。
【0184】
実施例10
Caco−2吸収アッセイを用いた、ジヒドロテトラベナジン異性体A、B、CおよびDの腸管浸透性の測定
Caco−2吸収アッセイは、薬物のin vivo腸管吸収のin vitro評価用に十分確立された系である−Meunier et al., Cell Biology and Toxicology, 11:187-194、Wils et al., Cell Biology and Toxucology, 10:393-397、およびGres et al., Pharm Sci, 15(5):726-732参照。
【0185】
このアッセイは、Caco−2細胞の、微孔質フィルター上で約21日培養した際に腸細胞への分化する能力に頼ったものである。この培養期間中、Caco−2細胞は自発的な形態的および生化学的変化を受け、十分定義された管腔側表面の刷子縁ならびに細胞のタイトジャンクションを有する、極性のある単層を生じる。従って、これらの細胞は薬物の透過性の分析用のin vitroモデルとして使用できる。
【0186】
Caco−2単層を通過する吸収は、管腔側から基底側または基底側から管腔側の二方向で、それぞれ管腔側または基底側のチャンバーに化合物を加えることで測定することができる。種々の時点で、単層を通過する見掛けの透過係数によって測定されるような吸収速度分析のために受容チャンバーからサンプルを回収する。
【0187】
このPapp値は、細胞内経路(細胞膜を通る)と細胞間経路(細胞間のタイトジェンクションを通る)の双方による試験品の透過性を組み合わせたものを反映する。これらの経路の相対的関与はpKa、分配係数(log D)、分子半径、および所定のpHで試験品の変化によって異なる。次に、Papp値を用いて、化合物をCaco−2単層透過性に関してランク付けすることができる。
【0188】
4種類のヒドロテトラベナジン異性体A、B、CおよびD50μMにおける見掛けの透過係数(Papp)を、このCaco−2吸収モデルを用いて測定し、対照化合物について透過性が低い、中程度、高いのランク付けを行った。放射性標識した対照標品マンニトール(低)、サリチル酸(中程度)およびテストステロン(高)を用いて透過性のランク付けを確定した。1時間後の供与コンパートメントおよび受容コンパートメントにおけるその濃度を測定することで、各ジヒドロテトラベナジン試験品のPapp値を評価した。吸収として、pH7.4において、細胞単層の管腔側から基底側の方向を測定した。Papp値を評価するのに用いたCaco−2細胞は、12穴プレート内のトランスウェルインサート上で26日間増殖させたものであった。系上皮電気抵抗値(Ohm−cm)およびルシファー・イエローの方法により、吸収アッセイの前後で単層の完全性を確認した。
【0189】
材料および方法
マンニトール、サリチル酸およびテストステロンの原液は、メタノール中50mMとして作製した。アッセイ当日、対照標品をハンクス平衡塩溶液(HBSS),pH7.4で希釈し、終濃度50μMとした。次に、放射性標識した14C−マンニトール、H−テストステロンおよび14C−サリチル酸を、それらの対応する非標識培地に加え、最終的な比活性を0.35〜0.65μCi/mLとした。ジヒドロテトラベナジン異性体サンプルを、DMSO中50mMの濃度で作製した。各原液をHBSSバッファー(pH7.4)でさらに希釈し、最終実施濃度50μMとした。
【0190】
Caco−2細胞懸濁液は次のように調製した。バイアル1本の、継代番号29のCaco−2一次細胞ID No.Caco−29−080299(American Type Culture Collection (VA, USA)を解凍し、Caco−2培養培地の入った150cmフラスコで培養した。密集したら、培養培地を除去し、細胞を5mlのPBSで洗浄した。0.25%トリプシン−EDTA(2.0ml/フラスコ)を加え、37℃で約10分間インキュベートし、細胞を解離させた。細胞の解離は顕微鏡下でモニタリングし、10mLのCaco−2培養培地を加えることで停止させた。細胞の生存率および濃度をトリパンプルー排除法によって評価した。細胞の密度と生存率が求められたところで、Caco−2細胞を培養培地で希釈して最終的な実施濃度2.0×10細胞/mlとした。Caco−2培養培地は、ダルベッコの改変イーグル培地、10%ウシ胎児血清、100μM非必須必須アミノ酸、100U/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを含んだ。
【0191】
Costarポリカーボネートメンブラン(孔径0.4μm)を37℃、5%COのウォータージャケット式インキュベーター内で1時間、Caco−2培養培地で予め平衡化した。管腔側チャンバーの内容物を除き、Caco−2細胞懸濁液(200 000細胞/ml)500μlに置き換えた。細胞を、37℃、5%COのウォータージャケット式インキュベーター内でさらに26日間培養維持した。
【0192】
アッセイ前、総ての単層をHBSSで2回洗浄し、それらの経上皮電気抵抗値(TEER)をMillicell-ERSメーターで測定した。細胞の不在下で得られたTEER値をバックグラウンドシグナルとして差し引いた。150Ohm−cmを超えるTEER値を有する単層だけを吸収アッセイ実験に用いた。
吸収実験は総て、pH7.4で3回行った。各対照標品およびジヒドロテトラベナジン試験品の吸収速度を、管腔側から基底側の方向で評価した。各実施溶液のアリコート(100μl)(対照標品および試験品50μM)をアッセイのはじめに最初の濃度(C)の測定のためにとっておいた。
【0193】
吸収実験は、供与チャンバーの内容物を試験品または対照化合物を含有するハンクス平衡塩溶液500μlに置き換えることで始めた。吸収アッセイのため、細胞をCOインキュベーターに戻した。1時間後、受容チャンバーおよび供与チャンバーからサンプルを採取し、これを用いて回収率%を求めた。放射性標識した対照標品マンニトール、サリチル酸およびテストステロンを品質対照として、また、ジヒドロテトラベナジン試験品の比較ランキングのために用いた。
【0194】
吸収実験の終了時に、各細胞単層の完全性を、管腔側から基底側へのルシファー・イエローの漏出wモニタリングすることにより評価した。管腔側チャンバーおよび基底側チャンバーから総ての溶液を除去した。基底側チャンバーに再び1.5mlの新鮮なHBSSを満たし、一方、管腔側チャンバーには0.5mlの120μg/mlルシファー・イエロー溶液を満たした。細胞を1時間インキュベーターに戻し、その後、サンプル100μlを採取し、SpectraMax 340PC-プレートリーダーにて428nmで分光分析的に定量した。
【0195】
各20μl量の放射性標識サンプルをシンチレーションカクテル10ml(ScintiSafe30%)に加え、液体シンチレーションアナライザー(1900CA Tri-Carb)で最大5分間計数した。
【0196】
Caco−2細胞のインキュベーションを、液体クロマトグラフィー直列/質量分析(LC−MS/MS)法を用い、ジヒドロテトラベナジンの存在に関して分析した。
【0197】
見掛けの透過係数は、方程式Papp=dQ/dt×1/A×1/C(cm/秒){式中、dQ/dtは化合物の拡散速度(μg/秒または積分面積/秒)であり、Aは全細胞膜表面積(cm)であり、Cは最初の濃度(μg/mLまたは積分面積/秒)である}を用いて算出した。
【0198】
種々のジヒドロテトラベナジン試験品の管腔側から基底側に向かってのPapp値を、対照標品について測定されたPapp値と比較した。結果を表8に示す。ジヒドロテトラベナジンの化合物C、DおよびAのPapp値はそれぞれ、21.14×10−6、24.87×10−6および25.52×10−6cm/秒であり、これはテストステロン対照標品に匹敵するものである。
化合物BのPapp値は11.98×10−6cm/秒であり、これはサリチル酸対照標品に匹敵するものである。
【0199】
【表8】

【0200】
化合物C、DおよびAのPapp値はテストステロン値に近く、このことは、これらの化合物がcaco−2モデルにおいて高い透過性を有することを示し、一方、化合物BのPapp値はサリチル酸値とテストステロン値の間であり、このことは、Caco−2モデルにおいて中程度の透過性を有することを示す。これらの結果は、これら4種類のジヒドロテトラベナジン異性体がin vivoにおいて腸管上皮からよく吸収されるはずであることを示唆する。
【0201】
実施例11
テトラベナジンおよびジヒドロテトラベナジン異性体BおよびCの鎮静特性の比較
本発明のジヒドロテトラベナジン異性体が鎮静特性を有するかどうかを調べるため試験を行った。ラットの自発的運動活性に対するこれらの異性体の作用を、以下に示す方法を用い、テトラベナジンおよびハロペリドールによってもたらされた作用と比較した。
【0202】
方法
試験の開始時に体重200〜250gの雄Sprague-Dawleyラット(Charles River Laboratories, Saint-Germain/L’Arbresle, France)を試験に用いた。これらのラットは、次の環境条件:温度20±2℃、湿度最小45%、換気1時間当たり>12回、明/暗周期12時間/12時間[午前7:00に点灯]に設定した室内で、Makrolon III型ケージに1ケージ当たり2または3匹で飼育した。ラットを試験開始前少なくとも5日間それらの条件に順応させた。ラットには食餌(Dietex, Vigny, France, ref. 811002)および水(ボトル中の水道水)を自由に摂らせた。
【0203】
コーン油中、各試験化合物の溶液を試験当日に新たに調製した。ハロペリドールは、脱イオン水0.5%のヒドロキシエチルセルロースで調製した。ビヒクルまたは試験化合物のいずれかを1回用量として投与した(0.3、1、3および10mg/kg、2mL/kg腹腔内)。対照化合物ハロペリドール(1mg/kg)を腹腔内投与した(2mL/kg)。
【0204】
動物を、光度の弱い(最大50ルクス)の室内の、ビデオカメラ下、プレクスガラスケージ内に入れた。投与後45分および3時間に、ビデオ画像解析装置(Videotrack, View Point, France)を用い、20分間、運動活性を調べた。投与後1時間の対照群(ハロペリドール)の運動活性を記録した。歩行移動の回数と時間および不動期の時間を測定した。運動活性の測定の終了時(45分および3時間)に、プレクスガラスケージ内で次のように、眼瞼閉鎖や覚醒状態のスコアをとった。
【0205】
眼瞼閉鎖:
0:(正常)眼瞼全開
1:眼瞼やや下垂
2:眼瞼下垂、眼瞼がおよそ半分下垂
3:眼瞼完全閉鎖
【0206】
覚醒状態:
1:極めて低い、昏迷、昏睡、ほとんど応答がないか全く応答がない
2:低い、時には昏迷、<<感覚鈍麻(dulled)>>、時折頭や身体を動かす
3:やや低い、やや昏迷、時折探索活動をとるが、不動期がある
4:正常、機敏、探索活動/ゆっくり動きを止める
5:やや高い、やや興奮、緊張、突然動き出したり、動きを止めたりする
6:極めて高い、極めて機敏、突然発作的に走り出したり、身体を動かしたりする
【0207】
歩行移動(距離)の回数と時間(秒)および不動期の時間(秒)を、ビデオ画像解析装置(Videotrack, ViewPoint, Lyon, France)を用い、20分間2回(投与後45分および3時間)測定した。プレクスガラスケージ上に設置したビデオカメラを用いて画像追跡を行い、総ての運動活性を記録した。ビデオカメラで記録した画像をデジタル化し、デジタル画像スポットの重力中心の移動を追跡し、次の方法を用いて解析した:スポットの重力中心の移動速度を測定し、移動のタイプを定義するため、閾値1(高速)および閾値2(低速)の2つの閾値を設定した。動物の移動およびスポットの重力中心の移動速度が閾値1を超えれば、歩行移動とみなした。動物が不動のままであり、その速度が閾値2未満であれば、不動とみなした。
【0208】
結果は12の個々の値の平均値±SEMで表した。統計解析は、ANOVA(片側)およびダネット(Dunnett)のt検定を用い、クラスカル−ウォリス(Kruskal-Wallis)のノンパラメトリック検定の後、鎮静評価(sedation cotation)に関してマン・ホイットニー(Mann & Whiteney)のU検定を行った。p<0.05のp値は有意性を示すと考えられた。
【0209】
プロトコール
群の大きさn=12
第1群:対照ハロペリドール(1mg/kg腹腔内)
第2群:ビヒクル対照群(2ml/kg腹腔内)
第3群:テトラベナジン(0.3mg/kg腹腔内)
第4群:テトラベナジン(1mg/kg腹腔内)
第5群:テトラベナジン(3mg/kg腹腔内)
第6群:テトラベナジン(10mg/kg腹腔内)
第7群:異性体C(0.3mg/kg腹腔内)
第8群:異性体C(1mg/kg腹腔内)
第9群:異性体C(3mg/kg腹腔内)
第10群:異性体C(10mg/kg腹腔内)
第11群:異性体B(0.3mg/kg腹腔内)
第12群:異性体B(1mg/kg腹腔内)
第13群:異性体B(3mg/kg腹腔内)
第14群:異性体B(10mg/kg腹腔内)
【0210】
【表9】

これらの結果は、テトラベナジンが投与後45分および3時間に用量依存性の鎮静作用をもたらし、一方、異性体Bおよび異性体Cはどの時点でも鎮静作用を示さないが、異性体Cは投与後3時間に、有意でない若干の運動亢進を示すことを実証する。
【0211】
実施例12
医薬組成物
(i)錠剤処方物−I
本発明のジヒドロテトラベナジンを含有する錠剤組成物は、ジヒドロテトラベナジン50mgと希釈剤としてのラクトース(BP)197mgおよび滑沢剤としてのステアリン酸マグネシウム3mgとを混合し、公知の方法で打錠することにより製造した。
(ii)錠剤処方物−II
本発明のジヒドロテトラベナジンを含有する錠剤組成物は、化合物(25mg)と酸化鉄、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、トウモロコシデンプンおよびタルクとを混合し、公知の方法で打錠することにより製造した。
(iii)カプセル処方物
カプセル処方物は、本発明のジヒドロテトラベナジン100mgとラクトース100mとを混合し、得られた混合物を標準的な不透明ゼラチン硬カプセル剤に充填することにより製造した。
【0212】
均等性
上記の本発明の特定の実施形態に対して、本発明の基礎にある原理から逸脱することなく、多くの変形や変更を行えることが容易に分かるであろう。このような変形や変更は総て本願に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジン。
【請求項2】
実質的に純粋な形態、例えば90%より高い、一般に95%より高い、より好ましくは98%より高い、異性体純度の3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジン。
【請求項3】
(+)−異性体型である、請求項1または2に記載の3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジン。
【請求項4】
3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンを含んでなる組成物であって、実質的に3,11b−トランス−ジヒドロテトラベナジンを含まない、組成物。
【請求項5】
3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンを含んでなり、かつ、5%未満の3,11b−トランス−ジヒドロテトラベナジン、好ましくは3%未満の3,11b−トランス−ジヒドロテトラベナジン、より好ましくは1%未満の3,11b−トランス−ジヒドロテトラベナジンしか含まない、組成物。
【請求項6】
3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンが(+)−異性体である、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
下式(Ia)を有する3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの2S,3S,11bR異性体:
【化1】

【請求項8】
下式(Ib)を有する3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの2R,3R,11bS異性体:
【化2】

【請求項9】
下式(Ic)を有する3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの2R,3S,11bR異性体:
【化3】

【請求項10】
下式(Id)を有する3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの2S,3R,11bS異性体:
【化4】

【請求項11】
メタノール中、21℃で測定した場合に−114.6°のORD[α]を有する3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジン異性体。
【請求項12】
メタノール中、21℃で測定した場合に、約+123°のORD[α]値を有する、3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジン異性体。
【請求項13】
メタノール中、21℃で測定した場合に、+150.9°のORD[α]値を有する、3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジン異性体。
【請求項14】
メタノール中、21℃で測定した場合に、−145.7°のORD[α]値を有する、3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジン異性体。
【請求項15】
明細書の表1に示される分光学的特性と、明細書の表3に示されるクロマトグラフィー特性および必要によりORD特性とを有する、ジヒドロテトラベナジン異性体。
【請求項16】
明細書の表2に示される分光学的特性と、明細書の表4に示されるクロマトグラフィー特性および必要によりORD特性とを有する、ジヒドロテトラベナジン異性体。
【請求項17】
明細書の表1に示される分光学的特性と、明細書の表3に示されるクロマトグラフィー特性とを有し、かつ、左旋光学活性を有する、ジヒドロテトラベナジン異性体A。
【請求項18】
明細書の表1に示される分光学的特性と、明細書の表3に示されるクロマトグラフィー特性とを有し、かつ、右旋光学活性を有する、ジヒドロテトラベナジン異性体B。
【請求項19】
明細書の表2に示される分光学的特性と、明細書の表4に示されるクロマトグラフィー特性とを有し、かつ、右旋光学活性を有する、ジヒドロテトラベナジン異性体C。
【請求項20】
明細書の表2に示される分光学的特性と、明細書の表4に示されるクロマトグラフィー特性とを有し、かつ、左旋光学活性を有する、ジヒドロテトラベナジン異性体D。
【請求項21】
遊離塩基の形態である、請求項1〜20のいずれか一項に記載のジヒドロテトラベナジン。
【請求項22】
酸付加塩の形態である、請求項1〜20のいずれか一項に記載のジヒドロテトラベナジン。
【請求項23】
前記塩がメタンスルホン酸塩である、請求項22に記載のジヒドロテトラベナジン。
【請求項24】
薬剤または療法、例えば、ハンチントン病、片側バリスム、老年舞踏病、チック、遅発性ジスキネジアおよびトゥーレット症候群などの運動亢進性運動障害の処置、または鬱病の処置に用いるための、請求項1〜23のいずれか一項に記載のジヒドロテトラベナジン。
【請求項25】
請求項1〜23のいずれか一項に記載のジヒドロテトラベナジンと医薬上許容される担体とを含んでなる、医薬組成物。
【請求項26】
ハンチントン病、片側バリスム、老年舞踏病、チック、遅発性ジスキネジアおよびトゥーレット症候群などの運動亢進性運動障害の処置、または鬱病の処置を目的とした薬剤の製造のための、請求項1〜23のいずれか一項に記載のジヒドロテトラベナジンの使用。
【請求項27】
予防または処置を必要とする患者における、ハンチントン病、片側バリスム、老年舞踏病、チック、遅発性ジスキネジアおよびトゥーレット症候群などの運動亢進性運動障害の予防もしくは処置、または鬱病の処置のための方法であって、有効予防または治療量の、請求項1〜23のいずれか一項に記載のジヒドロテトラベナジンを投与することを含んでなる、方法。
【請求項28】
請求項1〜23のいずれか一項に記載のジヒドロテトラベナジンを製造する方法であって、式(II):
【化5】

の化合物を、式(II)の化合物の2,3−二重結合を水和するのに好適な試薬と反応させ、その後必要に応じて、目的のジヒドロテトラベナジン異性体型を分離および単離することを含んでなる、方法。
【請求項29】
請求項1〜23のいずれか一項に記載のジヒドロテトラベナジンを製造する方法であって、式(III):
【化6】

の化合物を、式(III)の化合物の2,3−エポキシド基を開環するための条件に置き、その後必要に応じて、目的のジヒドロテトラベナジン異性体型を分離および単離することを含んでなる、方法。
【請求項30】
請求項29に記載の式(III)の化合物を製造する方法であって、
請求項27に記載の式(II)のアルケン化合物を、エポキシド基を形成するのに好適な酸化剤(ペルオキシ酸など)と反応させることを含んでなる、方法。
【請求項31】
請求項28に記載の式(II)の化合物を製造する方法であって、
3,11−トランス−ジヒドロテトラベナジンを、ハロゲン化リンまたはオキシハロゲン化リンなどの脱水剤で脱水することを含んでなる、方法。
【請求項32】
下式(II)の化合物:
【化7】

【請求項33】
下式(III)の化合物:
【化8】

【請求項34】
請求項1〜23のいずれか一項に記載の化合物の、モッシャー(Mosher)の酸エステル。

【公表番号】特表2007−522193(P2007−522193A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552683(P2006−552683)
【出願日】平成17年2月11日(2005.2.11)
【国際出願番号】PCT/GB2005/000464
【国際公開番号】WO2005/077946
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(506270488)ケンブリッジ、ラボラトリーズ、(アイルランド)、リミテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE LABORATORIES (IRELAND) LIMITED
【Fターム(参考)】