説明

ジフェニルメタンジアミンの製造方法

本発明は、ジフェニルメタンジアミンの製造方法であって、
a)酸の存在下にアニリンをホルムアルデヒドと反応させ、
b)酸をアンモニアで中和し、
c)工程b)からの反応混合物を水相と有機相に分離し、
d)工程c)で得られた水相をアルカリ土類金属の酸化物または水酸化物で処理し、
e)工程d)で得られたアンモニアを除去することを特徴とするジフェニルメタンジアミンの製造方法が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
酸の存在下でのアニリンとホルムアルデヒドの反応によるジフェニルメタンジアミン(MDA)の製造方法は知られており、広く文献に記述されている。実際には、このようにして製造されたジフェニルメタンジアミンは通常、より高度に縮合されたポリフェニレンポリメチレンポリアミン類との混合物として得られる。以下、MDAは二環のジフェニルメタンジアミンと、より高度に縮合されたポリフェニレンポリメチレンポリアミン類との混合物を示すものとする。
【0002】
工業的には、MDAはホスゲンとの反応によりほとんどジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)に変換される。
【0003】
ある利用法では例えばプラスチックや塗料の架橋剤として、純粋な二環のMDAを使用してもよい。
【0004】
工業上、MDAは各文献に記述されるように、酸の存在下でアニリンとホルムアルデヒドの反応により製造される。酸はとりわけ塩酸が使用される。この種類の方法は周知であり、例えば「Kunststoffhandbuch, 第7巻, Polyurethane, Carl Hanser Verlag, Munich, Vienna, 第3版, 1993, 76〜86ページ」に記載されており、そしてまた多数の特許文献に記載がある(WO99/40059はその一例である)。
【0005】
特定の要件下で、酸とアニリンおよびホルムアルデヒドとアニリンの比率を変えることでMDA中の二環の生成物の画分を調整することができる。
【0006】
MDAの製造に関係する一つの問題は中和である。一方では、水酸化ナトリウム水溶液を用いた慣用的に行われる中和は高価である。また一方では、上記手順により生成された塩水は、高額の費用をかけて廃水として処理されなければならない。
【0007】
これらの問題を克服するための一つの可能性は、複数の異種の酸性触媒の使用である。例えばWO01/58847には、固体の無機の酸性触媒の存在下でアニリンをホルムアルデヒドと1.7-100のモル比で反応させることによりMDAを製造する方法が記載されている。同公報に記述された方法の不具合は、オリゴマーのファウリングによる失活の結果としての触媒の不十分な耐用年数、アニリン中に存在する、またはその反応中に形成されるN-メチルアミン類のような第二級アミン類による触媒の酸性基の滴定、および触媒の高コストと触媒の転換と再生による(反応)休止時間に基づく高コスト化が挙げられる。
【0008】
WO2005/007613には酸性触媒を吸着剤により除去するMDAの製造方法が記載されている。再生を経て、酸は吸着剤から回収され再び使用することができる。この方法をもっても不都合な点は、表面のファウリングの結果、吸着剤の耐用年数が短くなることである。
【0009】
反応混合物の中和を目的とした、他の金属、とりわけアルカリ土類金属の酸化物および/または水酸化物の使用は、装置の崩壊を導く固体の付随した形成の増加を理由として大抵失敗していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO01/58847A1
【特許文献2】WO2005/007613A1
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kunststoffhandbuch, 第7巻, Polyurethane, Carl Hanser Verlag, Munich, Vienna, 第3版, 1993, 76〜86ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、単純で、安価で製造方法そのものの不具合を有さずに酸性触媒の操作上確実な分離が可能なMDAの製造方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
アルカリ土類金属の酸化物または水酸化物を用いた処理による更なる工程で回収されるアンモニアを中和薬剤として使用することにより、驚くべきことにこの目的を達成できたのである。
【0014】
本発明はジフェニルメタンジアミンの製造方法を提供するものであり、以下の工程を含包する。
a)酸の存在下にアニリンをホルムアルデヒドと反応させ、
b)酸をアンモニアで中和し、
c)工程b)からの反応混合物を水相と有機相に分離し、
d)工程c)で得られた水相をアルカリ土類金属の酸化物または水酸化物で処理し、
e)工程d)で得られたアンモニアを除去する。
【0015】
使用する酸は好ましくは無機酸であり、さらに詳細には塩酸である。
【0016】
原則として工程d)でアルカリ土類金属の酸化物または水酸化物を使用することができる。入手しやすく、主として取扱いに問題が無く、結果として生じる副産物が処分できることを理由として、酸化カルシウムおよび/または水酸化カルシウムを使用してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
工程a)のMDAの製造方法は、前述のように触媒としての酸の存在下、アニリンとホルムアルデヒドの反応により行われる。この種類の方法は周知であり、例えば「Kunststoffhandbuch, 第7巻, Polyurethane, Carl Hanser Verlag, Munich, Vienna, 第3版, 1993, 76〜86ページ」に、そしてまた多くの特許文献(WO99/40059はその一例である)に記載がある。
【0018】
ホルムアルデヒドの代わりに、またはホルムアルデヒドとの混合物の中で、少なくとも一種のホルムアルデヒド供与化合物もまた使用することができる。ホルムアルデヒドはさらに詳細には、ホルマリン水溶液、ホルマリンアルコール溶液、ヘミアセタール、第一級アミンのメチレンアミン、第一級または第二級アミンのN,N'-メチレンジアミンそしてまたはパラホルムアルデヒドの形で使用される。
【0019】
発明の方法は連続式に、半連続式に、バッチ式に実施されうるが、好ましくは連続式、半連続式である。
【0020】
連続式の場合には反応物質はお互いに所望の割合で反応装置の中へ量りとられ、入ってくる流れと等しい量の多量の反応生成物が反応装置の中から除去される。使用される反応装置の例は管型反応器である。バッチ式または半連続式の進行の場合、反応物質はバッチ反応装置の中に量りとられ、好ましくは攪拌とともにおよび/またはポンプ循環とともに供給される、そして完全に反応した反応生成物は反応装置から除去され、後処理に回される。
【0021】
発明の方法は、アニリンがホルムアルデヒドに対して好ましくは2倍以上のモル比で実施される。酸とアニリンのモル比は好ましくは0.05より大きい。これらの比においては反応混合物中でそれぞれの二環の生成物の形成が増大する。
【0022】
反応は0‐200℃の温度範囲で実施されるのが好ましく、より好ましくは20‐150℃、特に好ましくは40‐120℃である。温度が上昇するにつれて反応生成物中に2,2'-異性体と2,4'-異性体画分の増加が見られた。
【0023】
反応中の圧力は0,1-50bar(絶対圧)であり、好ましくは1‐10bar(絶対圧)である。
【0024】
バッチ式および半連続式による実施の場合には、すべての反応物質を量りとった後で反応混合物にいわゆる“エイジング”を受けさせることもできる。その目的のために反応混合物は反応装置中に残され、または他の反応装置(好ましくは攪拌式の反応装置)に運ばれる。この段階での反応混合物の温度は75℃を超過すると好ましく、さらに好ましくは110-150℃の範囲内である。
【0025】
工程a)の製造方法の後に、反応混合物の中和(工程b))を行う。この目的のためにアンモニアが反応混合物に添加される。アンモニアは気体の形態で反応混合物に供給されても良く、必要に応じて水で飽和されていてもよく、アンモニア水溶液の形態でも良く、または両方の相の混合物の形態でも良い。アンモニアと反応混合物の結合はとりわけ攪拌式タンク、チューブ(静止型混合素子はあってもなくてもよい)またはその他の装置のような適切な装置中で起こる。塩基性のアンモニアの添加は反応混合物の中和と、水相と有機相の二つの混ざらない相の形成を結果としてもたらす。中和は1-10bar(絶対圧)の圧力下、平均温度40-120℃において起こる。
【0026】
工程b)からの混合物は現在、記述されているように有機相と水相となっている。工程c)ではこれらの相が分離される。相は例えばデキャンティングの手段によりお互いに分離される。その後、それぞれの相は別々に後処理に付される。
【0027】
基本的に水と水中に溶解した酸性触媒のアンモニウム塩とから構成される水相と、また少量のアニリンとホルムアルデヒドの反応物質と、少量のMDA最終生成物が、工程d)においてアルカリ土類金属の酸化物および/または水酸化物で処理される。上述のように、対応する化合物であるカルシウム(一般的には乳状石灰や消石灰である)を使用することも好ましい。アンモニウム塩はアンモニアの形成を伴い分解される。この処理工程は、炭酸ナトリウムを生産するためのソルヴェイ法の一工程として知られている。アンモニアは、好ましくは蒸留やストリッピングにより蒸気または不活性ガスと共に分離される。
【0028】
必要に応じて、アンモニアを多く含む気体相が、吸着による乾燥または凝縮による蒸気の除去のような更なる工程を経て濃縮、精製されれば、それらは再び中和(工程b))に回すことができる。
【0029】
一実施の形態では、蒸気を含むガスは、酸化カルシウム(または生石灰とも呼ばれる)上を通過する。この処理により、そのガスは乾燥され、かつ生石灰が水酸化カルシウムに変換される。それは、工程d)でアンモニア塩の分解の処理に供給される消石灰として知られる。
【0030】
濃縮と精製に次いで、必要であれば、アンモニアが除去された後に残る低濃度のアンモニアを含む液相を廃水として処分する。
【0031】
工程c)で分離された有機相(MDAを圧倒的に多く含み、そして残留物の水、アンモニア、MDAの製造に使用された生成物を含む)を同様に後処理する。これは例えば一回、または繰り返しの水洗浄による方法、または好ましくは、例えばアニリンと水の除去を目的とする複合蒸留により成し遂げられる。
【0032】
本発明の方法により製造されるMDAは典型的にMDIを供給する為にホスゲンと反応される。この種類の方法は周知であり、例えば「Kunststoffhandbuch, 第7巻, Polyurethane, Carl Hanser Verlag, Munich, Vienna, 第3版, 1993, 76〜86ページ」に、そしてまた多くの特許文献(WO99/40059やWO99/54289は一つの例である)に広く記述されている。
【0033】
その目的のため、一般にはMDAと、必要に応じてホスゲンが不活性溶媒に溶解され反応へ導かれる。使用される溶媒は好ましくは不活性溶媒であり、とりわけトルエンのような芳香族溶媒やモノクロロベンゼンのようなハロゲン化芳香族化合物である。
【0034】
上記方法では、例えば攪拌式タンク、攪拌式タンクカスケード、カラムおよび/またはチューブ反応装置のような慣用の反応装置で、例えば50-150℃、好ましくは70-120℃、さらに好ましくは70-100℃の知られた温度にて、0.5-10bar、好ましくは0.8-8bar、より好ましくは0.8-1.5barの圧力下にて、1段階または複数の段階にて実施することができる。
【0035】
一例として少なくとも一種の不活性有機溶媒の存在下において、静止型ミキサー中で実施される最初のホスゲン化段階と、滞留時間装置中で実施される2番目のホスゲン化段階との2段階反応によりホスゲン化を実行することができる。
【0036】
ホスゲン化により製造された粗MDIは例えば蒸留などの慣用の技術手段により精製することができる。好ましくは、最初の精製操作において、ホスゲンと、必要に応じて溶媒を、好ましくは実質的に、より好ましくは完全に、ホスゲン化反応混合物すなわち粗MDIから除去することもできる。
【0037】
次いで好ましくは、2,2'-,2,4'-および/または4,4'-MDIのような所望の単量体のMDIおよび/またはこれらの異性体の少なくとも二種を含む混合物を、好ましくは蒸留(例えば圧力は2-50mbar、好ましくは2-20mbarであり、温度は150-250℃、好ましくは180-230℃である)および/または結晶化(例えば分別再結晶化である)のような適当な技術手段によりその後分離することができる。
【0038】
MDIの製造方法の一実施の形態では、粗MDAから二環の生成物を分離することができ、EP570799に記載があるような気体相のホスゲン化によりそれを反応させることができる。そして例えば二環のMDIを提供する。
【0039】
この方法で製造されたMDIはとりわけ、ポリウレタンを生成するための少なくとも二種の活性水素原子を有する化合物と反応させることができる。
【0040】
本発明の方法は費用対効果が高く操作上確実なMDAの処理を可能にする。MDAに損傷はない。使用されるアンモニアは反応生成物から完全に分離することができる。アンモニアの循環は生成物の損失の発生を防止する。発生する塩の水溶液は問題なく処分される。
【実施例】
【0041】
以下の実施例により本発明を更に説明する。
【0042】
攪拌機構の備わった実験装置中で、1kgのアニリンを30質量%濃度の塩酸0.5kgと混合し、そしてその混合物を50℃に加熱した。1時間にわたって連続的に、40質量%濃度のホルムアルデヒド溶液合計0.4kgを量り入れた。そのあとで混合物を100℃に加熱し、その温度で12時間攪拌した。この間、アニリンをホルムアルデヒドと反応させ、MDAを生成した。
【0043】
その後、30分間激しく攪拌した混合物の中に50℃の20質量%濃度のアンモニア溶液約350gを量り入れた。それから攪拌器のスイッチを停止した。反応混合物は有機相と水相に分離した。相分離が起こった後で、それらの相を実験装置から別々に回収した。
【0044】
回収された水相は18.5質量%濃度の塩化アンモニウムを含んでいた。
【0045】
1kgの水相を温度調節された実験装置中で150gの水酸化カルシウム(消石灰)と混ぜあわせた。結果として生じた水和アンモニア気体は酸化カルシウムで満たされた乾燥塔を通過し、乾燥した。乾燥したアンモニアは中和のために再び使用された。
【0046】
完全な脱ガスに続いて、装置の中には処分すべき約20%濃度の塩化カルシウム水溶液が残っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジフェニルメタンジアミンの製造方法であって、
a)酸の存在下にアニリンをホルムアルデヒドと反応させる工程、
b)酸をアンモニアで中和する工程、
c)工程b)からの反応混合物を水相と有機相に分離する工程、
d)工程c)で得られた水相をアルカリ土類金属の酸化物または水酸化物で処理する工程、
e)工程d)で得られたアンモニアを除去することを特徴とするジフェニルメタンジアミンの製造方法。
【請求項2】
使用する酸が無機酸である請求項1記載の方法。
【請求項3】
使用する酸が塩酸である請求項1記載の方法。
【請求項4】
工程d)で使用されるアルカリ土類金属の酸化物または水酸化物が酸化カルシウムおよび/または水酸化カルシウムである請求項1記載の方法。
【請求項5】
工程d)で使用されるアルカリ土類金属の水酸化物が水酸化カルシウムである請求項1記載の方法。
【請求項6】
工程e)で得られたアンモニアが工程b)に戻される請求項1記載の方法。
【請求項7】
工程c)で得られた有機相を精製し、後処理し、ジフェニルメタンジアミンを生成する請求項1記載の方法。
【請求項8】
精製されたジフェニルメタンジアミンをホスホゲンと反応させて、ジフェニルメタンジイソシアネートを生成する請求項1記載の方法。

【公表番号】特表2010−515667(P2010−515667A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544402(P2009−544402)
【出願日】平成20年1月2日(2008.1.2)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050002
【国際公開番号】WO2008/083997
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】