説明

ジフルオロメチレン−及びトリフルオロメチル−含有化合物を製造するための方法及び組成物

フェニルイオウトリフルオリド又は第1級アルキル置換フェニルイオウトリフルオリドを用いてジフルオロメチレン含有化合物を製造する新規な方法を開示する。また、フェニルイオウトリフルオリド又は第1級アルキル置換フェニルイオウトリフルオリドを用いてトリフルオロメチル含有化合物を製造する新規な方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、ジフルオロメチレン−及びトリフルオロメチル−含有化合物、並びにそれを製造するための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]フッ素含有化合物は、医学、農業、電子、及び他の同様の産業において幅広い用途が見出されている。ジフルオロメチレン(CF)−及びトリフルオロメチル(CF)−含有化合物は、このそれぞれのタイプの化合物がCF及びCFフッ素原子の独特の電子効果及び立体効果に基づく特異的な生物活性又は物理特性を示すので、これらの産業において特に有用である[例えば、Chemical & Engineering News, 6月5日, pp.15-32 (2006);J. Fluorine Chem., vol.127 (2006), pp.992-1012;Tetrahedron, vol.52 (1996), pp.8619-8683;Angew. Chem. Ind. Ed., vol.39, pp.4216-4235 (2000)を参照]。しかしながら、非常に有用なCF及びCF含有化合物は通常は環境に対して自然なものではなく、かかる化合物は有機合成によって製造することが必要である。それぞれのタイプの化合物は合成するのが困難で高価であることが分かっているので、これはCF及びCFを含有する化合物の使用に対する主たる障害であることが分かっている。
【0003】
[0003]ジフルオロメチレン含有化合物は、通常はTetrahedron, vol.52 (1996), pp.8619-8683に記載されているような方法を用いて製造される。CF含有化合物を製造するための殆どの一般的で有用な方法は、カルボニル基(C=O)又はその誘導基若しくは部分(例えば、チオカルボニル基(C=S)、ジチオケタール、又はジチオアセタール(S−C−S))をジフルオロメチレン基(CF)に転化させている。カルボニル基を有する非常に多くの公知の化合物が存在し、チオカルボニル、ジチオケタール、及び/又はジチオアセタール化合物へのそれらの誘導体化も可能であることが分かっている。しかしながら、以下により詳細に議論するように、この従来法の使用は、安全性、コスト、収率、反応性、選択性、反応物質の数、適用可能性、及び/又は商業的製造への適用の困難性に基づく大きな欠点を有している。本発明は、以下により詳細に議論するように、これらの従来の方法を凌ぐ大きな予期しなかった改良を提供する。安全性、コスト、収率、反応性、選択性、反応物質の数、適用可能性、及び/又は商業的製造への適用の困難性に基づく欠点などの同様の懸案が、CF含有化合物の従来の製造に関して存在する。
【0004】
[0004]より詳しくは、CF含有化合物は、従来、カルボニル基、チオカルボニル基、ジチオケタール基、又はジチオアセタール基をジフルオロメチレン基に転化させることによって製造されている。これらの方法及びそれらの欠点としては以下のものが挙げられる:(1)カルボニル含有化合物と四フッ化イオウ(SF)との反応;しかしながら、SFは毒性の高い気体(沸点:−40℃)であり、反応を進行させるためには加圧下で用いなければならない[J. Am. Chem. Soc., vol.82, pp.543-551 (1960)];(2)カルボニル含有化合物とフェニルイオウトリフルオリドとの反応;しかしながら、ケトンと脂肪族アルデヒドとの反応は低い収率を与え、したがってこの反応に関しては限定された有用性しか与えない[J. Am. Chem. Soc., vol.84, pp.3058-3063 (1962)];(3)カルボニル又はチオカルボニル含有化合物とジエチルアミノイオウトリフルオリド(DAST)との反応;しかしながら、DASTは高い爆発性を有する不安定な液体である[J. Org. Chem., vol.40, pp.574-57 (1975);J. Org. Chem., vol. 55, pp.768-770 (1990);Chem & Eng. News, vol.57, No.19, p.4 (1979)];(4)カルボニル又はチオカルボニル含有化合物とビス(2−メトキシエチル)アミノイオウトリフルオリド(Deoxo-Fluor(登録商標))又はそのN−アリール類縁体との反応;しかしながら、Deoxo-Fluor(登録商標)及びN−アリール類縁体は低い熱安定性を有する化合物である[以下の議論及び表1、並びに米国特許6,222,064−B1;Chem. Commun. vol.1999, pp.215-216;J. Org. Chem., vol.65, pp.4830-4832 (2000)を参照];(5)カルボニル含有化合物と四フッ化セレン(SeF)との反応;しかしながら、セレン化合物を用いることは非常に毒性で安全でない傾向がある[J. Am. Chem. Soc., vol.96, pp.925-927 (1974)];又はより大きな安全性を与えるようにデザインされているが、実質的に減少した反応性及び収率を与える種々の他のフッ素化剤;例えばα,α−ジフルオロアルキルアミノ試薬[CFHCFNMe:J. Fluorine Chem. vol.109, pp.25-31 (2001);2,2−ジフルオロ−1,3−ジメチルイミダゾリジン:Chem. Commun., vol.2002, pp.1618-1619;及びN,N−ジエチル−α,α−ジフルオロ(m−メチルベンジル)アミン:J. Fluorine Chem., vol.126, pp.721-725 (2005)]との反応;(6)チオカルボニル含有化合物又はジチオケタール;1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン(DBH)、N−ブロモスクシンイミド(NBS)、又はN−ヨードスクシンイミド(NIS)のようなハロゲン化剤;及びフッ化水素とピリジンとの混合物[ピリジンポリ(フッ化水素)]又はテトラブチルアンモニウムジハイドロジェントリフルオリド[(CNH]のようなフッ化物源;の反応;しかしながら、この方法は3つの反応物質を必要とし、基剤の臭素化のような副反応が優勢な可能性があるという欠点を有する[J. Org. Chem., vol.51, pp.3508-3513 (1986);Synlett, vol.1994, pp.251-252;Tetrahedron Lett., vol.35, pp.3983-3984 (1994);Synlett, vol.1991, pp.909-910;Chem. Lett., pp.827-830 (1992);Tetrahedron Lett., vol.33, pp.4173-4176 (1992)];(7)ジチオケタール、1−(クロロメチル)−4−フルオロ−1,4−ジアゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンビス(テトラフルオロボレート)、及びピリジンポリ(フッ化水素)の反応;しかしながら、この方法は高価な試薬を含む3つの反応物質を必要とし、加水分解のような副反応が反応において優勢な可能性があるという更なる欠点を有し、そしてこの方法は排他的な加水分解が起こるためにジチオアセタールに適用することはできない[Chem. Commun., vol.2005, pp.654-656];(8)ジチオケタールとp−ヨードトルエンジフルオリドとの反応;しかしながら、p−ヨードトルエンジフルオリドは高価であり、p−ヨードトルエンから(p−ヨードトルエンジフルオリドから)ジフルオロメチレン生成物を分離することは、生成物が抽出プロセスにおいて有機層中に回収されるために困難である[Synlett, vol.1991, pp.191-192];(9)ジチオケタール、塩化スルフリル、及びピリジンポリ(フッ化水素)の反応;しかしながら、この方法は3つの反応物質を必要とし、フッ化物源であるピリジンポリ(フッ化水素)が大過剰に必要であり、そしてこの方法は塩素化のような副反応が優勢な可能性があるという重大な欠点を有する[Synlett, vol.1993, pp.691-693];(10)チオカルボニル含有化合物又はジチオアセタールとBrFとの反応;しかしながら、BrFは大きな注意を払って処理しなければならない強酸化剤であり、取り扱いが難しい危険な化合物である分子状フッ素(F)から製造しなければならない[Chem. Commun. vol.1993, pp.1761-1762;Org. Lett., vol.5 (2003), pp.769-771];(11)ジチオケタールと、N−ヨードスクシンイミド又は1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、ヘキサフルオロプロペン−ジエチルアミン試薬、及び水との反応;しかしながら、この方法は4つの反応物質を必要とし、そしてフッ化物源であるヘキサフルオロプロペン−ジエチルアミン試薬は高価である[J. Fluorine Chem., vol.71, pp.9-12 (1995)];(12)ジチオケタールとF−ヨウ素混合物との反応;しかしながら、この方法は危険な化合物であるFを用いる必要がある[J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, vol.1994, pp.1941-1944];並びに最後に(13)トリエチルアミントリヒドロフルオリドの存在下でのジチオケタール又はジチオアセタールの電気分解;しかしながら、(電気分解反応の結果として)低い選択性及び収率のためにこの方法の適用可能性は狭い[Chem. Lett., vol.1992, p.1995]。
【0005】
[0005]CF含有化合物の製造に関しては、以下のものをはじめとする幾つかの従来の方法が用いられている:(1)カルボン酸又はフルオロフォルメートと四フッ化イオウ(SF)との反応;上述したように、SFは加圧下で用いると毒性の高い気体(bp:−40℃)である[J. Am. Chem. Soc., vol.82, pp.543-551 (1960)];(2)クロロチオフォルメートと六フッ化タングステン(WF)との反応;しかしながら、WFは高価で、毒性が高く、室温において殆ど気体状態で存在する(沸点(bp):17℃)[Tetrahedron Letters, pp.2253-2256 (1973)];(3)カルボン酸とジエチルアミノイオウトリフルオリド(DAST)との反応;DASTは高い爆発性を有する不安定な液体である[例えば、米国特許3,914,265及びChem. & Eng. News, vol.57, No.19, p.4 (1979)を参照];(4)フッ化カルボニル又はジチオカルバメートとビス(2−メトキシエチル)アミノイオウトリフルオリド(Deoxo-Fluor(登録商標))との反応;Deoxo-Fluor(登録商標)は低い熱安定性を有する[以下の議論及び表1、並びにChemical Communications, pp.215-216 (1999);J. Org. Chem., vol.65, pp.4830-4832 (2000)を参照];(5)ジチオカルボキシレート、キサンテート、又はジチオカルバメートと、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン(DBH)又はN−ブロモスクシンイミド(NBS)又はN−ヨードスクシンイミド(NIS)、及びテトラブチルアンモニウムフルオリド−フッ化水素[Bu(HF)]又はフッ化水素とピリジンとの混合物[ピリジンポリ(フッ化水素)]との反応[Chemistry Letters, pp.827-830 (1992);Tetrahedron Letters, vol.33, pp.4173-4176及び4177-4178 (1992)];この方法は、基剤の臭素化のような副反応を含み、減少した収率を与えるか、又はNISのような高価な試薬を必要とする;(6)トリクロロメチル置換化合物とSbF/SbFClのような金属フッ化物との反応[例えば、J. Am. Chem. Soc., vol.73, pp.1042-1043 (1951)を参照];出発物質が限定されており、非常に酸性の反応条件のために用途が限定される;(7)トリクロロメチル置換化合物とフッ化水素(HF)との反応[例えばJ. Am. Chem. Soc., vol.60, p.492 (1938)及びvol.76, 2343-2345 (1954)を参照];出発物質は毒性が高く殆ど気体の状態で存在する(bp:19.5℃)HFなどに限られており、反応混合物から大量の気体状で毒性の塩化水素(HCl)が発生することが問題である;(8)フェノール又はその誘導体と四塩化炭素及びHFとの反応[J. Org. Chem., vol.44, pp.2907-2910 (1979)];しかしながら、収率は劣っており、ここでも大量のHClがHFから発生するという厄介な結果をもたらす;(9)有機化合物と、求核性、ラジカル性、又は求電子性のトリフルオロメチル化剤との反応;これらは高価で入手可能性が限られており、更に反応の選択性は低く、使用できる基剤が限られている[Journal of Fluorine Chemistry, vol.128, pp.975-996 (2007)];並びに(10)電子供与置換基を有するベンゼン誘導体と四塩化炭素及びHFとの反応[J. Org. Chem., vol.44, 2907 (1979)];大量のHClが発生する問題に加えて、この反応は反応生成物を分離するのが困難な異性体混合物を与える。
【0006】
[0006]更に、他のCF含有化合物製造方法としては、(11)(トリフルオロメチル)アルカンの低い収率を与えるアルカンカルボン酸とフェニルイオウトリフルオリドとの反応[J. Am. Chem. Soc., vol.84, pp.3058-3063 (1962)];及び最後に且つより最近では(12)米国特許7,265,247−B1(全ての目的のために参照として本明細書中に包含する)において報告されているようなカルボン酸と反応性多アルキル化フェニルイオウトリフルオリドとの反応;が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許6,222,064−B1
【特許文献2】米国特許3,914,265
【特許文献3】米国特許7,265,247−B1
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chemical Engineering News, 6月5日, pp.15-32 (2006)
【非特許文献2】J. Fluorine Chem., vol.127 (2006), pp.992-1012
【非特許文献3】Tetrahedron, vol.52 (1996), pp.8619-8683
【非特許文献4】Angew. Chem. Ind. Ed., vol.39, pp.4216-4235 (2000)
【非特許文献5】J. Am. Chem. Soc., vol.82, pp.543-551 (1960)
【非特許文献6】J. Am. Chem. Soc., vol.84, pp.3058-3063 (1962)
【非特許文献7】J. Org. Chem., vol.40, pp.574-57 (1975)
【非特許文献8】J. Org. Chem., vol. 55, pp.768-770 (1990)
【非特許文献9】Chem & Eng. News, vol.57, No.19, p.4 (1979)
【非特許文献10】Chem. Commun. vol.1999, pp.215-216
【非特許文献11】J. Org. Chem., vol.65, pp.4830-4832 (2000)
【非特許文献12】J. Am. Chem. Soc., vol.96, pp.925-927 (1974)
【非特許文献13】J. Fluorine Chem. vol.109, pp.25-31 (2001)
【非特許文献14】Chem. Commun., vol.2002, pp.1618-1619
【非特許文献15】J. Fluorine Chem., vol.126, pp.721-725 (2005)
【非特許文献16】J. Org. Chem., vol.51, pp.3508-3513 (1986)
【非特許文献17】Synlett, vol.1994, pp.251-252
【非特許文献18】Tetrahedron Lett., vol.25, pp.3983-3984 (1994)
【非特許文献19】Synlett, vol.1991, pp.909-910
【非特許文献20】Chem. Lett., pp.827-830 (1992)
【非特許文献21】Tetrahedron Lett., vol.33, pp.4173-4176 (1992)
【非特許文献22】Chem. Commun., vol.2005, pp.654-656
【非特許文献23】Synlett, vol.1991, pp.191-192
【非特許文献24】Synlett, vol.1993, pp.691-693
【非特許文献25】Chem. Commun. vol.1993, pp.1761-1762
【非特許文献26】Org. Lett., vol.5 (2003), pp.769-771
【非特許文献27】J. Fluorine Chem., vol.71, pp.9-12 (1995)
【非特許文献28】J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, vol.1994, pp.1941-1944
【非特許文献29】Chem. Lett., vol.1992, p.1995
【非特許文献30】Tetrahedron Letters, pp.2253-2256 (1973)
【非特許文献31】Tetrahedron Letters, vol.33, pp. 4177-4178 (1992)
【非特許文献32】J. Am. Chem. Soc., vol.73, pp.1042-1043 (1951)
【非特許文献33】J. Am. Chem. Soc., vol.60, p.492 (1938)及びvol.76, 2343-2345 (1954)
【非特許文献34】J. Org. Chem., vol.44, pp.2907-2910 (1979)
【非特許文献35】Journal of Fluorine Chemistry, vol.128, pp.975-996 (2008)
【非特許文献36】J. Org. Chem., vol.44, 2907 (1979)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
[0007]上記で議論したCF及びCF含有化合物の製造方法のそれぞれは、安全で、簡単で、有効で、選択性で、広く適用可能な方法を与える点で改良の余地がある。このように、容易に入手できる出発物質を用いて高収率で製造するための、安全で、反応性で、選択性で、簡単で、危険性がより低く、コスト的に有効で、広く適用可能な方法を提供する必要性が当該分野において存在する。
【0010】
[0008]本発明は、上記で議論した問題の1以上を克服することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[0009]本発明は、それ自体容易に入手できるか又はカルボニル含有化合物から製造されるイオウ含有化合物、例えばチオカルボニル含有化合物、ジチオケタール、及びジチオアセタールからジフルオロメチレン含有化合物を製造するための新規な方法を提供する。ジフルオロメチレン含有化合物は、医学、農業、電子、及び他の同様の用途において非常に大きな可能性を有することが示されている。また、新規なジフルオロメチレン含有化合物も提供する。
【0012】
[0010]本発明はまた、容易に入手できるか又は製造される基剤からトリフルオロメチル含有化合物を製造するための方法も提供する。トリフルオロメチル含有化合物は、医学、農業、及び電子用途、並びに他の同様の材料及び/又は用途において非常に大きな可能性を有することが示されている。また、新規なトリフルオロメチル含有化合物も提供する。
【0013】
[0011]本発明のこれらの及び他の特徴並びに有利性は、以下の詳細な説明を読み、特許請求の範囲を検討することにより明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ジフルオロメチレン含有化合物:
[0012]本発明は、式:R−C(R)(R)−Rによって表されるイオウ含有化合物から式:RCFによって表されるジフルオロメチレン含有化合物を製造するための新規な方法を提供する。ジフルオロメチレン含有化合物は、医学、農業、生物学、電子、及び他の同様の分野において有用である。当該技術における従来の製造方法とは異なり、本発明は、安全で、簡単で、低コストで、目標のジフルオロメチレン含有化合物を高収率で製造する。
【0015】
[0013]一態様においては、RCFによって表されるジフルオロメチレン含有化合物を製造するための方法は、R−C(R)(R)−Rによって表されるイオウ含有化合物をArSFによって表されるアリールイオウトリフルオリドと反応させることを含む。
【0016】
[0014]この反応は、次の反応式:
【0017】
【化1】

【0018】
によって示される。
[0015]RCF及びR−C(R)(R)−Rに関し、Rは有機基であり、Rは水素原子又は有機基である。R及びRの有機基は、異なっていても同一であってもよい。R及びRはそれぞれ独立して、アルキルチオ基、アリールチオ基、又はアラルキルチオ基であってよく、或いはRとRは組み合わさって硫黄原子を形成してもよい。R及びRがそれぞれ独立して、アルキルチオ基、アリールチオ基、又はアラルキルチオ基である場合には、R及びRは、組み合わさるか又はアルキレン鎖及び/又は1つ又は複数のヘテロ原子を介して結合してもよい。
【0019】
[0016]Arはフェニル基又は第1級アルキル置換基を有するフェニル基であり、ここで第1級アルキル置換基は1〜8個の炭素原子を有する。
【0020】
[0017]更に、RとRが組み合わさってS(イオウ原子)を形成する場合には、R−C(R)(R)−Rによって表される化合物は、式:R−C(=S)−Rによって示すことができる。
【0021】
[0018]本発明の目的のためには、R又はRの有機基は、1つ又は複数の炭素原子及び1つ又は複数の水素原子から構成され、1つ又は複数の酸素原子、1つ又は複数の窒素原子、1つ又は複数のイオウ原子、1つ又は複数のリン原子、及び/又は1つ又は複数の他のヘテロ原子を含んでいても含んでいなくてもよく;R及びRは、本発明の1つ又は複数の反応を妨げないように選択される。R又はRの有機基の好ましい例としては、置換又は非置換のアルキル、アルキルオキシ、アルキルチオ、アルキルアミノ、及びジアルキルアミノ基;置換又は非置換のアリール、アリールオキシ、アリールチオ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアリール(アルキル)アミノ基;置換又は非置換のヘテロアリール、ヘテロアリールオキシ、ヘテロアリールチオ、ヘテロアリールアミノ、ジ(ヘテロアリール)アミノ、ヘテロアリール(アルキル)アミノ、及びヘテロアリール(アリール)アミノ基;置換又は非置換のアルケニル基;置換又は非置換のアルキニル基;及び他の同様の1つ又は複数の基;が挙げられる。
【0022】
[0019]ここで用いる「アルキル」という用語は、線状、分岐、又は環式のアルキル基を指す。ここで用いる「置換アルキル」という用語は、ハロゲン原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、置換又は非置換のヘテロアリール基、置換又は非置換のアルケニル基、置換又は非置換のアルキニル基、及び/又はO、N、S、P、及び/又は任意の他の1以上のヘテロ原子を含む基のような本発明の反応を実質的に制限しない1以上の置換基を有するアルキル基を指す。
【0023】
[0020]ここで用いる「置換アリール」という用語は、ハロゲン原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、置換又は非置換のヘテロアリール基、置換又は非置換のアルケニル基、置換又は非置換のアルキニル基、及び/又はO、N、S、P、及び/又は任意の他の1以上のヘテロ原子を含む基のような本発明の反応を実質的に制限しない1以上の置換基を有するアリール基を指す。
【0024】
[0021]ここで用いる「置換ヘテロアリール」という用語は、ハロゲン原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、置換又は非置換のヘテロアリール基、置換又は非置換のアルケニル基、置換又は非置換のアルキニル基、及び/又はO、N、S、P、及び/又は任意の他の1以上のヘテロ原子を含む基のような本発明の反応を実質的に制限しない1以上の置換基を有するヘテロアリール基を指す。
【0025】
[0022]ここで用いる「置換アルケニル」という用語は、ハロゲン原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、置換又は非置換のヘテロアリール基、置換又は非置換のアルケニル基、置換又は非置換のアルキニル基、及び/又はO、N、S、P、及び/又は任意の他の1以上のヘテロ原子を含む基のような本発明の反応を実質的に制限しない1以上の置換基を有するアルケニル基を指す。
【0026】
[0023]ここで用いる「置換アルキニル基」という用語は、ハロゲン原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、置換又は非置換のヘテロアリール基、置換又は非置換のアルケニル基、置換又は非置換のアルキニル基、及び/又はO、N、S、P、及び/又は任意の他の1以上のヘテロ原子を含む基のような本発明の反応を実質的に制限しない1以上の置換基を有するアルキニル基を指す。
【0027】
[0024]「置換アルキルオキシ」、「置換アルキルチオ」、「置換アルキルアミノ」、「置換ジアルキルアミノ」、「置換アリール(アルキル)アミノ」、及び「置換ヘテロアリール(アルキル)」において用いる置換アルキルは、上記記載の「置換アルキル」と同じか又は同等である。同様に、「置換アリールオキシ」、「置換アリールチオ」、「置換アリールアミノ」、「置換ジアリールアミノ」、「置換アリール(アルキル)アミノ」、及び「置換ヘテロアリール(アリール)アミノ」において用いる置換アリールは、上記記載の「置換アリール」と同じか又は同等である。同様に、「置換へテロアリールオキシ」、「置換ヘテロアリールチオ」、「置換ヘテロアリールアミノ」、「置換ジ(ヘテロアリール)アミノ」、「置換ヘテロアリール(アルキル)アミノ」、及び「置換ヘテロアリール(アリール)アミノ」において用いる置換ヘテロアリールは、上記記載の「置換ヘテロアリール」と同じか又は同等である。
【0028】
[0025]出発物質としてのR−C(R)(R)−RのR及びR基は、それぞれ、生成物としてのRCFのR及びRと異なっていてよい。したがって本発明には、R基を異なるR基に変換するか、又はR基を異なるR基に変換することを含ませることができる。変換は、ここでの反応条件下においてか或いは本発明の反応中において、ArSFによって表されるアリールイオウトリフルオリドによる−C(R)(R)−基のCF基への変換と一緒に行うことができる。
【0029】
[0026]R及びRのアルキルチオ基の好ましい例としては、メチルチオ、エチルチオ、n−プロピルチオ、イソプロピルチオ、n−ブチルチオ、sec−ブチルチオ、イソブチルチオ、tert−ブチルチオなどが挙げられる。メチルチオ、エチルチオ、及びn−プロピルチオが、比較的入手しやすいのでより好ましい。R及びRのアリールチオ基の好ましい例としては、フェニルチオ、o−、m−、及びp−トリルチオ、o−、m−、及びp−クロロフェニルチオ、o−、m−、及びp−ブロモフェニルチオなどが挙げられる。その比較的低いコストのためにフェニルチオがより好ましい。R及びRのアラルキルチオ基の好ましい例としては、ベンジルチオ、o−、m−、及びp−メチルベンジルチオ、o−、m−、及びp−クロロベンジルチオ、o−、m−、及びp−ブロモベンジルチオ、1−フェニルエチルチオ、2−フェニルエチルチオなどが挙げられる。その比較的低いコストのためにベンジルチオがより好ましい。
【0030】
[0027]RとRが組み合わさるか又はアルキレン鎖及び/又は1つ又は複数のヘテロ原子を介して結合している場合には、R及びRの好ましい例としては、−SCHCHS−、−SCHCHCHS−、−SCH(CH)CHS−、−SCHCHCHCHS−、−SCHCH(CH)CHS−、−SCH(CH)CHCHS−、−SCHCHOCHCHS−などが挙げられ、比較的入手しやすいので−SCHCHS−及び−SCHCHCHS−がより好ましい。
【0031】
[0028]ここで用いるR−C(R)(R)−Rは、商業的に入手できるか、或いは通常の方法にしたがってカルボニル含有化合物又は他の化合物から製造することができる[例えば、Synthesis, vol.1973, pp.149-151;Tetrahedron, vol.41, pp.5061-5087 (1985);Methoden Der Organishen Chemie (Houben-weyl), Vierte Auflage;Georg Thieme Verlag Stattgart, New York (1985), Band E5 (Teil 2), pp.891-916;J. Org. Chem., vol.51, pp.3508-3513 (1986);Synthetic Communications, vol.19, pp.547-552 (1989);Organic Letters, vol.5, pp.767-771 (2003);(それぞれを全ての目的のためにその全部を参照として本明細書中に包含する)を参照]。
【0032】
[0029]ここで記載するArSFのArは、フェニル基、又は1〜8個の炭素、好ましくは1〜4個の炭素を有する第1級アルキル置換基を有するフェニル基である。ArSFの好ましい例としては、フェニルイオウトリフルオリド、o−、m−、及びp−メチルフェニルイオウトリフルオリド(又は、o−、m−、及びp−トリルイオウトリフルオリド)、o−、m−、及びp−エチルフェニルイオウトリフルオリド、o−、m−、及びp−(n−プロピル)フェニルイオウトリフルオリド、o−、m−、及びp−(n−ブチル)フェニルイオウトリフルオリド、o−、m−、及びp−(2−メチルプロピル)フェニルイオウトリフルオリド、o−、m−、及びp−(n−ペンチル)フェニルイオウトリフルオリド、o−、m−、及びp−(n−ヘキシル)フェニルイオウトリフルオリド、o−、m−、及びp−(n−ヘプチル)フェニルイオウトリフルオリド、並びにo−、m−、及びp−(n−オクチル)フェニルイオウトリフルオリドが挙げられる。これらの中では、その比較的低いコストのために、フェニルイオウトリフルオリド、p−メチルフェニルイオウトリフルオリド、p−エチルフェニルイオウトリフルオリド、p−(n−プロピル)フェニルイオウトリフルオリド、p−(n−ブチル)フェニルイオウトリフルオリド、及びp−(2−メチルプロピル)フェニルイオウトリフルオリドがより好ましく、フェニルイオウトリフルオリド(PhSF)及びp−メチルフェニルイオウトリフルオリド(p−CHSF)が更に好ましく、フェニルイオウトリフルオリドが最も好ましい。
【0033】
[0030]ここで用いるArSFは、文献に記載されている方法にしたがって、高い収率及び低いコストで容易に製造することができる[例えば、Synthetic Communications, vol.33, pp.2505-2509 (2003)(全ての目的のためにその全部を参照として本明細書中に包含する)を参照]。
【0034】
[0031]ここで記載した反応は、溶媒を用いるか又は用いないで行うことができる。幾つかの態様においては、この反応は、溶媒を用いて温和に且つ選択的に進行させることができる。溶媒は、好ましくは、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのような炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロノナン、ペルフルオロ(メチルシクロヘキサン)、ペルフルオロ−1−メチルデカリン、ペルフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン、Fluorinart(登録商標)FC-40〜FC-104などのようなハロカーボン;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジ(sec−ブチル)エーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジグライム、トリグライムなどのようなエーテル;ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオリド、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンなどのような芳香族化合物;酢酸エチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチルなどのようなエステル;或いは上記で言及した2種類以上の溶媒の混合物又は組み合わせ;として例示される。溶媒混合物の組み合わせは、それらが所期の用途のために機能する限りにおいて任意の比であってよい。
【0035】
[0032]幾つかの態様においては、1モルのR−C(R)(R)−Rあたり約1モル以上のArSFを加えることによって収率を最適にすることができる。ArSFの量は、特にコストが懸案である場合には、約1〜約5モルのArSF、より好ましくは約1〜約3モルのArSFの範囲で選択することができる。
【0036】
[0033]生成物収率を最適にするために、反応温度は約−50℃〜約+150℃の範囲で行う。より通常的には、反応温度は、約−30℃〜約+120℃、更に好ましくは約−10℃〜約+100℃である。
【0037】
[0034]反応時間は、反応温度、並びに基剤、試薬、及び溶媒のタイプ及び量によって変動する。このように、反応時間は、一般に特定の反応を完了させるのに必要な時間量として定められるが、約0.1時間〜ほぼ数日間であってよい。
【0038】
[0035]本発明の幾つかの態様は、開放反応器又は実質的に密閉(閉止)された反応器内で行うことができ、ArSFは湿分又は水との反応によって消費されるので好ましくは乾燥条件下で行う。
【0039】
[0036]他の態様においては、本発明の反応は、フッ化水素或いはフッ化水素と1種類又は複数のアミン化合物との混合物の存在下で行うことができ、これにより反応を促進させることができる。フッ化水素は、必要量の水、或いはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのようなアルコールを加えることによってその場で生成させることができる。ArSFは下記の反応式に示すように水又はアルコールと反応してフッ化水素を生成するので、水又はアルコールは反応混合物中に加えるが、フッ化水素をその場で生成させるこの方法は、ArSFを水又はアルコールと等モル量で消費することが必要である。
【0040】
【化2】

【0041】
[0037]フッ化水素と1種類又は複数のアミン化合物との混合物は、好ましくは、フッ化水素とピリジンとの混合物(例えば、約70重量%のHFと約30重量%のピリジンとの混合物)、或いはフッ化水素とトリエチルアミンとの混合物[例えば、フッ化水素とトリエチルアミンとの3:1(モル比)の混合物:EtN(HF)]によって例示される。フッ化水素、或いはフッ化水素と1種類又は複数のアミン化合物との混合物の量は、反応条件にしたがって本発明の反応のための触媒量乃至過剰量であってよい。
【0042】
[0038]また、本発明の反応は、テトラブチルアンモニウムフルオリド−フッ化水素[例えばテトラブチルアンモニウムジハイドロジェントリフルオリド:(CNH]のようなテトラアルキルアンモニウムフルオリド−フッ化水素の存在下で行うこともできる。テトラアルキルアンモニウムフルオリド−フッ化水素の量は、反応条件にしたがって本発明の反応のための触媒量乃至過剰量であってよい。
【0043】
[0039]幾つかの場合においては、酸性条件に対して感受性の1種類又は複数の出発物質及び/又は生成物の分解を抑止するために、本発明の1つ又は複数の反応を、金属フッ化物、例えばフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウムなど、及びピリジン、メチルピリジン、ジメチルピリジン、トリメチルピリジン、クロロピリジン、トリエチルアミンなどのようなアミンなどの塩基の存在下において行うことができる。
【0044】
[0040]本発明の方法は、安全で簡単であり、工業的製造に容易に適用できる。ここでの工業的とは、実験量と比較して大きな規模の使用又は販売に必要な量を指す。出発物質としてのR−C(R)(R)−Rによって表される種々のイオウ含有化合物を、容易に入手又は製造することができる。本発明において用いるアリールイオウトリフルオリドは、上記で言及した公知の方法にしたがい、より安価な試薬、例えばフッ化カリウム及び塩素ガスを用いて、安価なジフェニルジスルフィド又は第1級アルキル置換ジフェニルジスルフィドから高収率で製造することができる。更に、下記に示すように、アリールイオウトリフルオリドは、ジエチルアミノイオウトリフルオリド(EtNSF;DAST)及びビス(2−メトキシエチル)アミノイオウトリフルオリド[(CHOCHCHNSF;Deoxy-Fluor(登録商標)](ジフルオロメチレン含有化合物を製造するために用いられている:上記の背景技術を参照)のような従来のSF試薬と比較して非常に高い熱安定性を示す。
【0045】
[0041]表1に、本発明において用いるPhSF及びp−CHSF、並びに従来の化合物:DAST及びDeoxo-Fluor(登録商標)(比較のために含ませる)に関する熱分析データを示す。示差走査分光法を用い、則ち示差走査分光計(DSC)を用いて、それぞれの化合物の分解温度及び発熱量(−ΔH)を求めた。分解温度は分解の兆候が始まる温度であり、発熱量は化合物の分解から生成する熱の量である。一般に、より高い分解温度及びより低い発熱量の値は、より大きい熱安定性及び安全性を有する化合物を示す。
【0046】
[0042]表1においては、本発明の幾つかの態様において用いる化合物であるフェニルイオウトリフルオリド及びp−メチルフェニルイオウトリフルオリドが、従来のフッ素化剤であるDAST及びDeoxo-Fluor(登録商標)よりも非常に高い分解温度及び低い発熱量の値を示すことが示される。このデータは、本発明の方法が他の従来の方法、例えばDAST及びDeoxo-Fluor(登録商標)を凌いで安全性に関して大きく改良されることを示す。これは従来技術の製造手順を凌ぐ大きな予期しなかった改良である。
【0047】
【表1】

【0048】
[0043]本発明によって与えられるように、ジフルオロメチレン含有化合物は、入手できる出発物質から、安全に、容易に、且つコスト的に有効に製造することができる。
トリフルオロメチル含有化合物:
[0044]また、本発明の幾つかの態様は、R−C(=A)−Rによって表される炭素含有化合物からRCFによって表されるトリフルオロメチル含有化合物を製造するための新規な方法も提供する。トリフルオロメチル含有化合物は、医学、農業、生物学、及び電子材料用途、並びに他の同様の分野において有用である。当該技術における従来の方法とは異なり、本発明の幾つかの態様は、予期しなかったことに、トリフルオロメチル含有化合物を高い選択率及び向上した収率で製造するために、安全で、容易で、且つ低コストである。
【0049】
[0045]一態様においては、トリフルオロメチル含有化合物:RCFを製造する方法は、R−C(=A)−Rによって表される炭素含有化合物をArSFによって表されるアリールイオウトリフルオリドと反応させることを含む。
【0050】
【化3】

【0051】
[0046]ここでの目的のため、且つトリフルオロメチル含有化合物に関しては、Rは有機基であり;Aは硫黄原子であり;RはSRであり、ここでRは、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、シリル基、金属原子、アンモニウム基、ホスホニウム基、又はS−C(=S)−Rであり、ここでRは上記と同じである。
【0052】
[0047]トリフルオロメチル含有化合物の製造において用いるためのArSFに関しては、Arは、フェニル基又は第1級アルキル置換基を有するフェニル基であり、ここで第1級アルキル置換基は1〜8個の炭素原子を有する。
【0053】
[0048]R−C(=A)−Rが式:R−C(=S)−SRによって表されるチオカルボニル含有化合物である場合には、反応式は下記のように示される。
【0054】
【化4】

【0055】
[0049]トリフルオロメチル含有化合物及び上式に関しては、Rは、1つ又は複数の炭素原子及び1つ又は複数の水素原子から構成され、1つ又は複数の酸素原子、1つ又は複数の窒素原子、1つ又は複数のイオウ原子、1つ又は複数のリン原子、及び/又は1つ又は複数の他のヘテロ原子を含んでいても含んでいなくてもよい有機基である。Rは、本発明の1つ又は複数の反応を妨げない(或いは限られた障害しか与えない)ように選択される。Rの有機基の好ましい例としては、置換又は非置換のアルキル、アルキルオキシ、アルキルチオ、アルキルアミノ、及びジアルキルアミノ基;置換又は非置換のアリール、アリールオキシ、アリールチオ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアリール(アルキル)アミノ基;置換又は非置換のヘテロアリール、ヘテロアリールオキシ、ヘテロアリールチオ、ヘテロアリールアミノ、ジ(ヘテロアリール)アミノ、ヘテロアリール(アルキル)アミノ、及びヘテロアリール(アリール)アミノ基;置換又は非置換のアルケニル基;置換又は非置換のアルキニル基;及び他の同様の基;が挙げられる。
【0056】
[0050]ここで用いる「アルキル」という用語は、線状、分岐、又は環式のアルキルを指す。ここで用いる「置換アルキル」という用語は、ハロゲン原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、置換又は非置換のヘテロアリール基、置換又は非置換のアルケニル基、置換又は非置換のアルキニル基、及び/又はO、N、S、P、及び/又は任意の他の1以上のヘテロ原子を含む基のような本発明の反応を実質的に制限しない1以上の置換基を有するアルキル基を指す。
【0057】
[0051]ここで用いる「置換アリール」という用語は、ハロゲン原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、置換又は非置換のヘテロアリール基、置換又は非置換のアルケニル基、置換又は非置換のアルキニル基、及び/又はO、N、S、P、及び/又は任意の他の1以上のヘテロ原子を含む基のような本発明の反応を実質的に制限しない1以上の置換基を有するアリール基を指す。
【0058】
[0052]ここで用いる「置換ヘテロアリール」という用語は、ハロゲン原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、置換又は非置換のヘテロアリール基、置換又は非置換のアルケニル基、置換又は非置換のアルキニル基、及び/又はO、N、S、P、及び/又は任意の他の1以上のヘテロ原子を含む基のような本発明の反応を実質的に制限しない1以上の置換基を有するヘテロアリール基を指す。
【0059】
[0053]ここで用いる「置換アルケニル」という用語は、ハロゲン原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、置換又は非置換のヘテロアリール基、置換又は非置換のアルケニル基、置換又は非置換のアルキニル基、及び/又はO、N、S、P、及び/又は任意の他の1以上のヘテロ原子を含む基のような本発明の反応を実質的に制限しない1以上の置換基を有するアルケニル基を指す。
【0060】
[0054]ここで用いる「置換アルキニル基」という用語は、ハロゲン原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、置換又は非置換のヘテロアリール基、置換又は非置換のアルケニル基、置換又は非置換のアルキニル基、及び/又はO、N、S、P、及び/又は任意の他の1以上のヘテロ原子を含む基のような本発明の反応を実質的に制限しない1以上の置換基を有するアルキニル基を指す。
【0061】
[0055]「置換アルキルオキシ」、「置換アルキルチオ」、「置換アルキルアミノ」、「置換ジアルキルアミノ」、「置換アリール(アルキル)アミノ」、及び「置換ヘテロアリール(アルキル)」において用いる置換アルキルは、上記記載の「置換アルキル」と同じか又は同等である。同様に、「置換アリールオキシ」、「置換アリールチオ」、「置換アリールアミノ」、「置換ジアリールアミノ」、「置換アリール(アルキル)アミノ」、及び「置換ヘテロアリール(アリール)アミノ」において見られる置換アリールは、上記記載の「置換アリール」と同じか又は同等である。同様に、「置換へテロアリールオキシ」、「置換ヘテロアリールチオ」、「置換ヘテロアリールアミノ」、「置換ジ(ヘテロアリール)アミノ」、「置換ヘテロアリール(アルキル)アミノ」、及び「置換ヘテロアリール(アリール)アミノ」において見られる置換ヘテロアリールは、上記記載の「置換ヘテロアリール」と同じか又は同等である。
【0062】
[0056]R−C(=S)−SRのR基は、任意の与えられた反応において生成物としてのRCFのR基と異なっていてもよい。したがって、本発明の幾つかの態様はRを他のRに変換することを含み、これは、C(=S)−SR基がArSFによって表されるアリールイオウトリフルオリドによってCF基に変換される限りにおいて、ここでの反応条件下においてか或いは本発明の反応中において行うことができる。
【0063】
[0057]Rのアルキル基の好ましい例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチルなどが挙げられる。メチル、エチル、及びプロピルが、入手しやすさのためにより好ましい。Rのアリール基の好ましい例としては、フェニル、o−、m−、及びp−トリル、o−、m−、及びp−クロロフェニル、o−、m−、及びp−ブロモフェニルなどが挙げられる。相対的なコストのためにフェニルがより好ましい。Rのアラルキル基の好ましい例としては、ベンジル、o−、m−、及びp−メチルベンジル、o−、m−、及びp−クロロベンジル、o−、m−、及びp−ブロモベンジル、1−フェニルエチル、2−フェニルエチルなどが挙げられる。比較的低いコストのためにベンジルがより好ましい。Rのシリル基の好ましい例としては、アルキル、アラルキル、及び/又はアリールで置換されたシリル基、例えばトリメチルシリル、トリエチルシリル、トリ(n−プロピル)シリル、トリ(n−ブチル)シリル、t−ブチルジメチルシリル、ジ(イソプロピル)メチルシリル、ベンジル(ジメチル)シリル、トリフェニルシリル、ジメチルフェニルシリルなどが挙げられる。比較的入手しやすいのでトリメチルシリル及びトリエチルシリルがより好ましい。
【0064】
[0058]Rの金属原子の好ましい例としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属などが挙げられる。Li、Na、及びKのようなアルカリ金属、並びに1/2Zn及び1/2Cuのような遷移金属が好ましい。Rのアンモニウム基の好ましい例としては、アンモニウム(NH)、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、プロピルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウムなどが挙げられる。比較的入手しやすいので、アンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、及びベンジルトリメチルアンモニウムがより好ましい。Rのホスホニウム基の好ましい例としては、テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラプロピルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウムなどが挙げられる。比較的入手しやすいので、テトラフェニルホスホニウムがより好ましい。
【0065】
[0059]ArSFのArは、フェニル基、又は1〜8個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を有する第1級アルキル置換基を有するフェニル基である。ArSFの好ましい例としては、フェニルイオウトリフルオリド、o−、m−、及びp−メチルフェニルイオウトリフルオリド(又は、o−、m−、及びp−トリルイオウトリフルオリド)、o−、m−、及びp−エチルフェニルイオウトリフルオリド、o−、m−、及びp−(n−プロピル)フェニルイオウトリフルオリド、o−、m−、及びp−(n−ブチル)フェニルイオウトリフルオリド、o−、m−、及びp−(2−メチルプロピル)フェニルイオウトリフルオリド、o−、m−、及びp−(n−ペンチル)フェニルイオウトリフルオリド、o−、m−、及びp−(n−ヘキシル)フェニルイオウトリフルオリド、o−、m−、及びp−(n−ヘプチル)フェニルイオウトリフルオリド、並びにo−、m−、及びp−(n−オクチル)フェニルイオウトリフルオリドが挙げられる。これらの中では、その比較的低いコストのために、フェニルイオウトリフルオリド、p−メチルフェニルイオウトリフルオリド、p−エチルフェニルイオウトリフルオリド、p−(n−プロピル)フェニルイオウトリフルオリド、p−(n−ブチル)フェニルイオウトリフルオリド、及びp−(2−メチルプロピル)フェニルイオウトリフルオリドがより好ましく、フェニルイオウトリフルオリド(PhSF)及びp−メチルフェニルイオウトリフルオリド(p−CHSF)が更に好ましく、フェニルイオウトリフルオリドが最も好ましい。
【0066】
[0060]本発明において用いるArSFは、文献に与えられている方法にしたがって、高い収率及び低いコストで製造することができる[例えば、Synthetic Communications, vol.33, No.14, pp.2505-2509 (2003)(その全部を参照として本明細書中に包含する)を参照]。
【0067】
[0061]出発物質としてのR−C(=S)−SRによって表されるチオカルボニル含有化合物は、容易に入手できるか、又は通常の方法にしたがって製造される[例えば、Synthesis, vol.1973, pp.149-151;Tetrahedron, vol.41, pp.5061-5087 (1985);Methoden Der Organishen Chemie (Houben-weyl), Vierte Auflage;Georg Thieme Verlag Stattgart, New York (1985), Band E5 (Teil 2), pp.891-916;Synthetic Communications, vol.19, pp.547-552 (1989)(それぞれを、その全部を参照として本明細書中に包含する)を参照]。
【0068】
[0062]良好な生成物収率を得るためには、反応温度は通常は約−50℃〜約+150℃の範囲である。より通常的には、反応温度は、約−30℃〜約+120℃、更に約−10℃〜約+100℃である。
【0069】
[0063]最適の生成物収率を得るためには、ArSFを、R−C(=S)−SRによって表されるチオカルボニル含有化合物1モルあたり約2モル以上の量で用いる。特にコストが懸案である場合には、好ましくは約2〜約8モルのArSFを用いることができ、より好ましくは約2〜約5.5モルを用いることができる。
【0070】
[0064]トリフルオロメチル含有化合物のための反応時間は、反応温度、並びに基剤、試薬、及び溶媒のタイプ及び量によって定まる。このように、反応時間は一般に特定の反応を完了させるために必要な時間量として定められるが、約0.1時間〜ほぼ数日間であってよい。
【0071】
[0065]一態様においては、本発明の反応は、フッ化水素、或いはフッ化水素と1種類又は複数のアミン化合物との混合物(反応を促進させるために用いる)の存在下で行う。フッ化水素は、必要量の水、或いはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのようなアルコールを反応混合物中に加えることによってその場で生成させることができる。ArSFは下記の反応式に示すように水又はアルコールと反応してフッ化水素を生成するが、フッ化水素をその場で生成させるこの方法は水又はアルコールと等モル量のArSFを消費することが必要である。
【0072】
【化5】

【0073】
[0066]フッ化水素と1種類又は複数のアミン化合物との混合物は、好ましくはフッ化水素とピリジンとの混合物(例えば、約70重量%のHFと約30重量%のピリジンとの混合物)、或いはフッ化水素とトリエチルアミンとの混合物[例えば、フッ化水素とトリエチルアミンとの3:1(モル比)の混合物:EtN(HF)]によって例示される。フッ化水素、或いはフッ化水素と1種類又は複数のアミン化合物との混合物の量は、触媒量乃至過剰量であってよい。
【0074】
[0067]幾つかの場合においては、酸性条件に対して感受性の1種類又は複数の出発物質及び/又は生成物の分解を抑止するために、本発明の反応を、金属フッ化物、例えばフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウムなど、及び/又はピリジン、メチルピリジン、ジメチルピリジン、トリメチルピリジン、クロロピリジン、トリエチルアミンなどのようなアミンなどの塩基の存在下において行うことができる。また、本発明の反応は、テトラブチルアンモニウムフルオリド−フッ化水素、例えばテトラブチルアンモニウムジハイドロジェントリフルオリド:(CNHのようなテトラアルキルアンモニウムフルオリド−フッ化水素の存在下で行うこともできる。
【0075】
[0068]他の態様においては、本発明にしたがってトリフルオロメチル含有化合物:RCFを製造する方法は、R−C(=A)−Rによって表される炭素含有化合物をArSFによって表されるアリールイオウトリフルオリドと、反応自体から生成するフッ化水素が反応混合物中に実質的に残留する条件下で反応させる、則ち反応中にHFを残留させるように工程を採用する(下記参照)ことを含む。
【0076】
[0069]R及びArは上記に記載したものと同じである。Aは酸素原子であり、Rはヒドロキシ基である。したがって、R−C(=A)−RはRCOOHによって表されるカルボン酸であり、反応式は次のように示される。
【0077】
【化6】

【0078】
[0070]R及びArは上記に記載した通りである。多数のカルボン酸が自然に存在し(商業的に入手でき)、或いは周知の通常の方法によって製造することができる。上記で言及したように、反応に用いるArSFは比較的低いコストで容易に製造することができる。
【0079】
[0071]トリフルオロメチル含有化合物を与えるRCOOHによって表されるカルボン酸とArSFによって表されるアリールイオウトリフルオリドとの反応式(式1)及び反応機構(反応式1)を下記に示す。
【0080】
【化7】

【0081】
【化8】

【0082】
[0072]反応式1において示すように、反応は2つの工程(ここでは工程1及び2)から構成され、工程1においてフッ化水素(HF)が形成されることを注意されたい。
[0073]本発明のこの態様は、工程1の反応から生成するフッ化水素の多少量が反応混合物中に残留するか又は保持される条件下で行う。トリフルオロメチル含有化合物の向上した収率を得るためには、工程1から生成するフッ化水素の少なくとも10%を反応混合物中に残留させるか又は保持する。幾つかの場合においては、フッ化水素の出発量の20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%を、反応混合物中に残留させるか又は保持する。フッ化水素の沸点は19.5℃であるので、フッ化水素を反応中に保持するためには(反応を約19.5℃超で行う場合には)、本発明の幾つかの態様を、密閉又は閉止した反応器又はオートクレーブ内、或いはフッ化水素が反応混合物から放出されない圧力下で行うことができる。また、反応は有効な凝縮器を用いて行うこともできる。これは、本発明の反応の態様の予期しなかった最適化である。
【0083】
[0074]最適の生成物収率のためには、本発明の幾つかの態様を、密閉又は閉止した反応器又はオートクレーブ内で行う反応を用いて行うことができる。しかしながら、工程1の反応はフッ化水素(bp:19.5℃)の沸点以下で容易に行うことができるので、密閉又は閉止した反応器は必ずしも必要ではない。かかる場合においては、反応はフッ化水素(bp:19.5℃)の沸点以下で行う。しかしながら、工程1から生成するフッ化水素を反応混合物中に保持するためには、工程2の反応に関しては、フッ化水素の沸点(19.5℃)の温度以上で行う場合には密閉又は閉止した反応器又はオートクレーブが有効である可能性がある(反応式1を参照)。
【0084】
[0075]フッ化水素(HF)はガラス製品のような材料と反応する可能性があるので、反応器又はオートクレーブに関しては好適な材料、例えば、フルオロポリマー又は他のHF耐性ポリマーのようなポリマー を用いなければならず;鋼、真鍮、銅、アルミニウム、ステンレススチール、Hastelloy、MonelなどのようなHF耐性金属又は合金;或いは、ポリマーがフッ化水素を含む反応混合物と反応も溶解もしないHF耐性ポリマーで被覆したガラス製品、金属、又は合金;を用いることもできる。
【0085】
[0076]反応は好ましくは溶媒を用いずに行う。しかしながら、幾つかの場合においては溶媒を用いることができる。ここで用いるのに好適な溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのような炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロノナン、ペルフルオロ(メチルシクロヘキサン)、ペルフルオロ−1−メチルデカリン、ペルフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン、Fluorinart(登録商標)FC-40〜FC-104などのようなハロカーボン;ニトロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオリド、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンなどのような芳香族化合物;或いは上記の溶媒の2以上の混合物;が挙げられる。
【0086】
[0077]上記の反応式1において示すように、本発明の反応は、工程1及び2と呼ぶ2つの工程から構成される。反応を安全に行い、良好な生成物収率を得るためには、工程1に関する反応温度は約−80℃〜約+40℃の範囲で選択することができ、工程2に関する反応温度は約+40℃〜約+200℃の範囲で選択することができる。より好ましくは、反応温度は、工程1に関しては約−30℃〜ほぼ室温であり、工程2に関しては約+50℃〜約+150℃である。このように、工程1の反応は迅速である可能性があるので、工程1の反応は、上記に記載の温度においてカルボン酸とArSFを混合する際に少なくとも部分的に起こる可能性があり、したがって、混合後には反応混合物を工程2に必要な温度に加熱することができる。
【0087】
[0078]良好な生成物収率を得るためには、ArSFの量は1モルのRCOOHあたり約2モル以上である。特にコストが懸案である場合には、好ましくは約2〜約5モルのArSFを用いることができ、より好ましくは約2〜約3.5モルを用いることができる。
【0088】
[0079]反応時間は、反応温度、並びに存在させる基剤、試薬、及び溶媒のタイプ及び量によって変動する。このように、反応時間は、一般に特定の反応を完了させるのに必要な時間量として定められるが、工程1及び2の合計の反応時間は約0.1時間〜ほぼ数日間であってよい。
【0089】
[0080]他の態様においては、本発明は、R(COOH)によって表される2以上のカルボキシル基を有する化合物から2以上のトリフルオロメチル基を有する化合物を製造することを包含する。
【0090】
[0081]例えば、反応式2は、本発明によるイソフタル酸(i)とフェニルイオウトリフルオリド(PhSF)との反応を示す。
【0091】
【化9】

【0092】
[0082]反応式2に示す反応は、化合物(i)→(ii)→(iii)→(iv)→(v)と段階的に進行する。したがって、化合物(iv)は出発物質(i)又は(ii)からの生成物と考えられ、化合物(v)も出発物質としての(i)又は(ii)からの生成物と考えられる。(iv)及び(v)の製造は、本発明方法に包含される。実施例17(下記参照)は、出発物質であるイソフタル酸(i)からの化合物(v)の製造を示す。
【0093】
[0083]R(COOH)を用いて、全てのCOOH基をCF基に転化させる場合においては、用いるArSFの量は1モルのR(COOH)あたり約2nモル以上である。特にコストが懸案である場合には、好ましくは2n〜5nモルのArSFを用いることができ、より好ましくは2n〜約3.5nモルを用いることができる。
【0094】
[0084]この他の態様においては、トリフルオロメチル含有化合物:RCFの製造は、R−C(=A)−Rによって表されるカルボニル含有化合物を、ArSFによって表されるアリールイオウトリフルオリドと、フッ化水素と1種類又は複数のアミン化合物との混合物の存在下で反応させることを含む。
【0095】
[0085]R及びArは上記と同じである。Aは酸素原子であり、Rはヒドロキシル基又はハロゲン原子である。したがって、この場合においては、R−C(=A)−Rは、R−C(=O)−Rによって表されるカルボニル含有化合物であり、反応式は下記で示される。
【0096】
【化10】

【0097】
[0086]R及びArは上記と同じである。Rに関するハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であってよい。フッ素及び塩素原子が好ましい。多数のR−C(=O)−R(ここでR=OHである)によって表されるカルボン酸が自然に存在するか商業的に入手することができ、或いは周知の通常の方法によって製造することができる。カルボニルハロゲン化物(Rがハロゲン原子である場合)は、商業的に入手できるか、或いは周知の通常の方法によってカルボン酸又は他の化合物から誘導することができる。上記で言及したように、反応のために用いるArSFは、比較的低いコストで容易に製造することができる。
【0098】
[0087]R−C(=O)−Rの源としては、R−C(=O)−O−C(=O)−Rによって表される酸無水物を用いることができる。これは、酸無水物は、下記の反応式に示すように、フッ化水素と1種類又は複数のアミン化合物との混合物と反応させて、R−C(=O)−R(R=OH)及びR−C(=O)−R(R=F)を形成することができるからである[J. Org. Chem. vol.44, 3872-3881 (1979)(参考として本明細書中に包含する)を参照]。
【0099】
【化11】

【0100】
したがって、ここでの幾つかの態様は、反応においてR−C(=O)−O−(C=O)−Rによって表される酸無水物を用いることを含む。
【0101】
[0088]ここで用いるのに好ましい1種類又は複数のアミン化合物としては、ピリジン、メチルピリジンの各異性体(α、β、又はγ異性体)、ジメチルピリジンの各異性体、トリメチルピリジンの各異性体、クロロピリジンの各異性体などのようなピリジン類;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミンなどのようなアルキルアミン;或いは上記に記載の2種類以上のアミン化合物の混合物;が挙げられる。
【0102】
[0089]フッ化水素と1種類又は複数のアミン化合物との混合物の好ましい例は、フッ化水素とピリジンとの混合物、フッ化水素とメチルピリジンの各異性体又は混合物との混合物、フッ化水素とジメチルピリジンの各異性体又は混合物との混合物、フッ化水素とトリメチルピリジンの各異性体又は混合物との混合物、フッ化水素とトリメチルアミンとの混合物、フッ化水素とトリエチルアミンとの混合物、フッ化水素とトリプロピルアミンとの混合物、フッ化水素とトリブチルアミンとの混合物などによって例示される。これらの中で、入手容易性及び生成物収率を考慮すると、フッ化水素とピリジンとの混合物が最も好ましい。
【0103】
[0090]フッ化水素と1種類又は複数のアミン化合物との混合物は、フッ化水素単独の沸点(19.5℃)よりも高い沸点(又はフッ化水素が蒸発する温度)を有しているので、フッ化水素単独(毒性である)よりも取り扱うのに安全で容易である。その沸点がほぼ室温である毒性化合物(この場合にはHF)は、取り扱いの安全性において重大な問題を有する。このように、沸点がより高くなると、反応がより安全且つ容易に行われる。フッ化水素と1種類又は複数のアミン化合物との混合物の沸点は、それぞれの成分の比によって定まる。混合物中のアミン化合物の量がより少ないと、沸点は19.5℃(フッ化水素の沸点)により近くなる。取り扱い性の観点から、フッ化水素/1種類又は複数のアミン化合物のモル比は22:1以下であることが好ましい。生成物収率の観点からは、3:1以上の比が好ましい。したがって、フッ化水素/1種類又は複数のアミン化合物のモル比は、好ましくは約3:1〜約22:1、より好ましくは約5:1〜約16:1の範囲で選択される。更に、入手容易性及び高い生成物収率のために、フッ化水素/ピリジンのモル比約5:1〜約16:1の混合物が好ましく、フッ化水素とピリジンとの約7:1〜約12:1の混合物がより好ましく、フッ化水素とピリジンとの約9:1(約70重量%:30重量%)の混合物が最も好ましい。
【0104】
[0091]上記の1つ又は複数の反応は、好ましくは溶媒を用いずに行う。しかしながら、幾つかの場合においては溶媒を用いる。好ましい溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのような炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロノナン、ペルフルオロ(メチルシクロヘキサン)、ペルフルオロ−1−メチルデカリン、ペルフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン、Fluorinart(登録商標)FC-40〜FC-104などのようなハロカーボン;ニトロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオリド、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンなどのような芳香族化合物;が挙げられ、上記の溶媒の2以上の混合物を同様に使用のために組み合わせることができる。
【0105】
[0092]最適の生成物収率を得るためには、ArSFを、1モルのR−C(=O)−R(R=ハロゲン原子)あたり約1モル以上の量で用いる。特にコストが懸案である場合には、好ましくは1モルのR−C(=O)−Rあたり約1〜約5モルのArSFを用いることができ、より好ましくは1モルのR−C(=O)−Rあたり約1〜約3.5モルのArSFを用いることができる。或いは、1モルのR−C(=O)−OHに対してはArSFの量は約2モル以上である。特にコストが懸案である場合には、好ましくは1モルのR−C(=O)−OHあたり約2〜約5モルのArSFを用いることができ、より好ましくは1モルのR−C(=O)−OHあたり約2〜約3.5モルのArSFを用いることができる。
【0106】
[0093]上記の反応に関しては、触媒量乃至大過剰のフッ化水素と1種類又は複数のアミン化合物との混合物を用いることができる。より短い反応時間によって良好な生成物収率を得るためには、混合物の好ましい量は、1モルのArSFあたり約0.2〜約50モルのフッ化水素を含む。特にコストが比較的懸案である場合には、より好ましくは、この量は、1モルのArSFあたり約0.5〜約25モルのフッ化水素、更に好ましくは1モルのArSFあたり約0.5〜約10モルのフッ化水素である。
【0107】
[0094]R[−C(=O)−R(R=ハロゲン原子)を用い、全てのC(=O)−R基をCF基に転化させる場合においては、反応において用いるArSFの量は1モルのR[−C(=O)−Rあたり約1nモル以上である。特にコストが懸案である場合には、好ましくはこれらの条件下で約1n〜約5nモルのArSFを用いることができ、より好ましくはこれらの条件下で約1n〜約3.5nモルを用いることができる。R[−C(=O)−R(R=ヒドロキシ基)を用い、全てのC(=O)−R基をCF基に転化させる場合においては、用いるArSFの量は1モルのR[−C(=O)−Rあたり約2nモル以上である。特にコストが懸案である場合には、好ましくは約2n〜約5nモルのArSFを用いることができ、より好ましくは約2n〜約3.5nモルを用いることができる。
【0108】
[0095]反応は、開放反応器又は密閉(閉止)反応器内で行うことができる。
【0109】
[0096]R−C(=O)−R(R=OH)の場合には、本発明の反応は反応式1(上記)において示す工程1及び2である2つの反応から構成される。2つの反応を安全に行って良好な生成物収率を得るためには、工程1に関する反応温度は約−80℃〜約+40℃の範囲で選択することができ、工程2に関する反応温度はほぼ室温〜約+200℃の範囲で選択することができる。より好ましくは、反応温度は、工程1に関しては約−30℃〜ほぼ室温であり、工程2に関してはほぼ室温〜約+150℃であり、更に好ましくは工程2に関しては約+40℃〜約+100℃である。工程1の反応は比較的迅速である可能性があるので、工程1の反応は、上記に記載の温度においてカルボン酸とArSFを混合する際に少なくとも部分的に起こる可能性があり、したがって、混合後には反応混合物を工程2に必要な温度に加熱することができる。
【0110】
[0097]フッ化水素と1種類又は複数のアミン化合物との混合物は工程2の反応に良い意味で大きな影響を与えるが、この混合物は、その相対的な速度のために工程1に関しては必ずしも必要ではない。したがって、フッ化水素と1種類又は複数のアミン化合物との混合物は、RCOOHをArSFと反応させるか又は混合した後に反応混合物に加えることができる。
【0111】
[0098]R−C(=O)−R(R=ハロゲン原子)に関して最適の生成物収率を得るためには、反応温度は約0℃〜約+200℃の範囲で選択する。より好ましくは、反応温度は、ほぼ室温〜約+150℃、更に好ましくはほぼ室温〜約+100℃の範囲で選択することができる。
【0112】
[0099]開放反応器を用いる態様に関しては、反応温度は、混合物中のフッ化水素が沸騰するか又は著しく蒸発する温度より低く保持することが好ましい。しかしながら、反応温度が、混合物中のフッ化水素が沸騰又は蒸発する温度に近いか若しくはこれよりも高い場合には、密閉又は閉止反応器が好ましい。このように、反応器のタイプが開放型か密閉型かは、反応温度に直接関係する。
【0113】
[0100]反応時間は、反応温度、反応器のタイプ、並びに存在させる基剤、試薬、及び溶媒のタイプ及び量によって変動する。このように、反応時間は、一般に特定の反応を完了させるのに必要な時間量として定められるが、約0.1時間〜ほぼ数日間であってよい。
【0114】
[0101]本発明の方法は、従来の方法と比較して、簡単で、予期しなかったことに安全で、且つ工業的製造の解決方法に容易に適用することができる。出発物質としてのR−(C=A)−Rによって表される炭素含有化合物は、容易に商業的に入手できるか、或いは当該技術において公知の技術によって製造される。本発明において用いるアリールイオウトリフルオリドは、上記に言及した公知の方法にしたがって、安価な試薬であるフッ化カリウム及び塩素ガスを用いて、安価なジフェニルジスルフィド又は第1級アルキル置換ジフェニルジスルフィドから高収率で容易に製造することができる。更に、アリールイオウトリフルオリドは、ジエチルアミノイオウトリフルオリド(EtNSF;DAST)及びビス(2−メトキシエチル)アミノイオウトリフルオリド[(CHOCHCHNSF;Deoxo-Fluor(登録商標)]のような従来のSF試薬と比較して非常に高い熱安定性を示す。この向上した安定性によって、従来の試薬を凌ぐ大きな利益が与えられる。
【0115】
[0102]表2に、本発明にしたがって用いるPhSF及びp−CHSF、並びにDAST及びDeoxo-Fluor(登録商標)(従来法)に関する熱分析データを与える。示差走査分光法を用い、則ち示差走査分光計(DSC)を用いて、それぞれの化合物の分解温度及び発熱量(−ΔH)を求めた。分解温度は分解の兆候が始まる温度であり、発熱量は化合物の分解から生成する熱の量である。一般に、より高い分解温度及びより低い発熱量の値は、より大きい熱安定性を有する化合物を与え、より大きな安全性を与える。
【0116】
[0103]表2においては、本発明の化合物であるフェニルイオウトリフルオリド及びp−メチルフェニルイオウトリフルオリドが、従来のフッ素化剤であるDAST及びDeoxo-Fluor(登録商標)と比較して非常に高い分解温度及び低い発熱量の値を示すことが示される。このデータは、本発明の幾つかの態様が他の有用な従来の方法、例えばDAST及びDeoxo-Fluor(登録商標)を凌ぐ大きく改良された予期しかなった安全性を有することを示す。
【0117】
【表2】

【0118】
[0104]本発明によれば、入手できる出発物質からトリフルオロメチル含有化合物を、安全に、容易に、選択的に、且つコスト的に有効に製造することができる。
【0119】
[0105]以下の実施例によって本発明をより詳細に示すが、本発明はこれらに限定されるとはみなされないことを理解すべきである。
【実施例】
【0120】
実施例1:ジフルオロメチレン含有化合物の製造:
【0121】
【化12】

【0122】
[0106]窒素下の乾燥雰囲気中において実施例1の反応を行った。1mLの乾燥塩化メチレン中の2−フェニル−1,3−ジチアン(85mg、0.47ミリモル)の溶液を、1mLの乾燥塩化メチレン中のフェニルイオウトリフルオリド(200mg、1.2ミリモル)の溶液に滴加した。反応はフルオロポリマー(PFA)反応器内で行った。反応混合物を室温において2時間撹拌した。反応混合物を19F−NMRによって分析したところ、(ジフルオロメチル)ベンゼンが99%の収率で製造されたことが示された。基準試料と比較することによって生成物を同定した。PhCFHに関する19F−NMR(溶媒としてCDCl;標準試料としてCFCl):−110.5ppm(d,J=56Hz,CF)。
【0123】
実施例2〜8:ジフルオロメチレン含有化合物の製造:
表3に示す条件下において、実施例1と同じように実施例2〜8を行った。結果を実施例1と一緒に表3に示す。分光分析及び/又は基準試料と比較することによって生成物を同定した。生成物の19F−NMRデータ(ppm、溶媒としてCDCl;標準試料としてCFCl)を表3に示す。
【0124】
【表3】

【0125】
[0107]アリールイオウ化合物は水溶液中に可溶であるので、生成物であるジフルオロメチレン含有化合物は、炭酸ナトリウム水溶液のような水溶液で洗浄することによって、ArSFから形成されるアリールイオウ化合物から容易に分離することができる。また、反応中に残留する過剰のArSFも、水溶液で洗浄することによってジフルオロメチレン含有化合物から容易に分離することができる。したがって、本発明の幾つかの態様は反応後の分離プロセスにおいて大きな有利性を有する。
【0126】
[0108]表3中の実施例1〜8から示されるように、予期しなかったことに、フェニルイオウトリフルオリド又は1つの第1級アルキルで置換されているフェニルイオウトリフルオリドが、R−C(R)(R)−Rによって表されるイオウ含有化合物をフッ素化して、高収率のジフルオロメチレン含有化合物を与えることが示された。フェニルイオウトリフルオリドの反応性は低いことが示されている[J. Am. Chem. Soc., vol.84, pp.3058-3063 (1962)を参照]。上記で言及したように、フェニルイオウトリフルオリド及び1つの第1級アルキルで置換されているフェニルイオウトリフルオリドは、高い熱安定性を有し、低いコストで製造することができ、イオウ含有化合物は容易に入手することができる。これらの高い安全性、低いコスト、簡単な手順、及び生成物の高い収率の態様は、工業用途のために特に重要である。
【0127】
実施例9:トリフルオロメチル含有化合物の製造:
【0128】
【化13】

【0129】
[0109]この反応は、窒素下の無水雰囲気中で行った。フェニルイオウトリフルオリド(264mg、1.59ミリモル)及びメチルジチオベンゾエート(53.5mg、0.31ミリモル)を、室温においてフルオロポリマー(PFA)チューブ(反応器)内に配置し、次にチューブを密閉した。反応混合物を70℃において22時間加熱した。次に、反応系を室温に冷却し、19F−NMRによって分析した。分析によって、ベンゾトリフルオリドが85%の収率で製造されたことが示された。基準試料と比較することによって生成物を同定した。PhCHに関する19F−NMR(CDCl);−62.6ppm(s,CF)。
【0130】
実施例10〜12:トリフルオロメチル含有化合物の製造:
[0110]表4に示す反応条件下において、実施例9と同じようにして実施例10〜12に関する反応を行った。実施例10及び11においては、密閉反応器を用いた。実施例12においては、開放反応器を用いた。結果を実施例9と一緒に表4に示す。基準試料と比較するか又は分光分析によって生成物を同定した。実施例10において、PhOCFに関する19F−NMR(CDCl);−57.8ppm(s,CF)。実施例11において、n−C1021OCFに関する19F−NMR(CDCl);−60.5ppm(s,CF)。実施例12において、2−ピリジル−N(CH)CFに関する19F−NMR(CDCl);−57.9ppm(s,CF)。
【0131】
【表4】

【0132】
実施例13:トリフルオロメチル含有化合物の製造:
【0133】
【化14】

【0134】
[0111]窒素下の無水雰囲気中で反応を行った。フルオロポリマー(PFA)チューブ(反応器)内で、室温において、安息香酸(0.34ミリモル)をフェニルイオウトリフルオリド(0.848ミリモル)にすこしずつ加えた。2つの反応物質を混合すると、穏やかな発熱反応が起こった。添加の後、チューブを密閉した。反応混合物を100℃において2時間加熱した。2時間後、反応混合物を室温に冷却し、19F−NMRによって分析した。分析によって、ベンゾトリフルオリドが90%の収率で製造されたことが示された。基準試料と比較することによって生成物を同定した。PhCFに関する19F−NMR(CDCl);−62.6ppm(s,CF)。
【0135】
実施例14〜17及び比較例18〜21:トリフルオロメチル含有化合物の製造:
[0112]表5に示す反応条件下において、実施例13と同じようにして実施例14〜17を行った。表5に示す反応温度は、2つの反応物質を室温において混合した後に反応混合物を加熱した温度である。表5に示す反応時間は、反応混合物を示されている反応温度において加熱した時間である。結果を実施例13と一緒に表5に示す。基準試料と比較するか又は分光分析によって生成物を同定した。実施例14において、n−C1021CFに関する19F−NMR(CDCl);−66.4ppm(s,CF)。実施例15及び比較例18〜20において、PhCFに関する19F−NMR(CDCl);−62.6ppm(s,CF)。実施例16において、p−(n−C15)CCFに関する19F−NMR(CDCl);−62.1ppm(s,CF)。実施例17において、1,3−ジ−CFに関する19F−NMR(CDCl);−62.9ppm(s,CF)。
【0136】
[0113]比較例18及び19は、反応を開放反応器内で行った他は実施例13と同じようにして行った。開放反応おいては、反応中に形成されたフッ化水素を完全か又はほぼ完全に反応混合物から流出させた(フッ化水素の沸点は19.5℃であるので、100℃において加熱した)。比較例20及び21は、実施例13と同じようにして行った。比較例18〜21の結果を表5に示す。
【0137】
【表5−1】

【0138】
【表5−2】

【0139】
[0114]表4及び5における実施例9〜17から示されるように、予期しなかったことに、フェニルイオウトリフルオリド、又は1つの第1級アルキルで置換されたフェニルイオウトリフルオリドを用いる本発明方法によって、アルキルカルボン酸をフェニルイオウトリフルオリドと雰囲気圧力(開放反応器)において110〜125℃で2時間反応させると(トリフルオロメチル)アルカンが僅か28%の収率で製造されたという報告[J. Am. Chem. Soc., vol.84, pp.3058-3063 (1962)を参照]と比較して、著しく高いトリフルオロメチル含有化合物の収率が与えられたことが示された。
【0140】
[0115]更に、この方法は、予期しなかったことに、2以上のアルキル置換基によって活性化されている多置換フェニルイオウトリフルオリドを用いる最近公開された方法(米国特許7,265,247−B1)よりも低いコスト及び高い生産性で行われる。本発明のアリールイオウトリフルオリドである、2以上の複数のアルキル置換基によって活性化されていないフェニルイオウトリフルオリド及び1つの第1級アルキルで置換されたフェニルイオウトリフルオリドは、多置換フェニルイオウトリフルオリドよりも安価で小さい分子量を有する。分子量がより小さいと、試薬の重量あたりの生産性がより大きくなる。
【0141】
[0116]実施例13〜17と比較例18及び19とを比較することにより、本発明が予期しなかった改良された方法を提供することが示される。本発明方法(密閉反応器;実施例13)は100℃において2時間後に90%の生成物の収率を与え、これに対して、開放反応器(比較例18及び19)は、同等の温度において、2時間後に僅か28%、及び更に24時間後において49%の収率しか与えなかった。比較例20は、実際にフッ化ベンゾイルは実施例13と同等の条件下でベンゾトリフルオリドに転化しなかったことを示し、これは本発明の反応(反応式1)の工程1によって形成されるフッ化水素が本発明の反応のために非常に重要であることを示す。比較例21は、ピリジン−3−カルボン酸は本発明の反応条件によって3−(トリフルオロメチル)ピリジンに転化しないことを示し、これは、反応式3に示すように、工程1にしたがって生成するフッ化水素がピリジン−3−カルボン酸の塩基性窒素部位によって不活性化されて1を形成するので、遊離フッ化水素が本発明の反応のために非常に重要であることの他の証拠を与える。
【0142】
【化15】

【0143】
[0117]これらの反応条件下においては、3−ピリジル基は本発明の反応を害する可能性のある有機基である。しかしながら、3−ピリジル基は、十分に強いルイス酸又はブレンステッド酸を加えるか、或いは任意の他の化学変換によって害のない基に転化させることができる。
【0144】
実施例22:トリフルオロメチル含有化合物の製造:
【0145】
【化16】

【0146】
[0118]実施例22において示す反応を、窒素下の無水雰囲気中で行った。室温において、安息香酸(212mg、1.73ミリモル)及びフェニルイオウトリフルオリド(865mg、5.21ミリモル)を、凝縮器、窒素シリンダーに接続した窒素ガス入口、及び空気雰囲気に接続した窒素ガス出口を有するフルオロポリマー(PFA)反応器内において少しずつ混合した。2つの反応物質を混合すると、温和な発熱反応が起こった。混合の後、この混合物に、1.2mLのフッ化水素及びピリジン(Sigma-Aldrichから)の約70%:30%(wt/wt)の混合物を加えた。次に、反応混合物を、窒素雰囲気下、雰囲気圧力(開放反応器)において50℃で24時間加熱した。24時間後、反応混合物を室温に冷却し、反応混合物の19F−NMR分析を行ったところ、ベンゾトリフルオリドが95%の収率で得られたことが示された。基準試料と比較することによって生成物を同定した。PhCFに関する19F−NMR(CDCl);−62.6ppm(s,CF)。
【0147】
[0119]19F−NMR分析によって、この反応の第1の生成物がフッ化ベンゾイル(PhCOF)であり、これが次に最終生成物であるベンゾトリフルオリドに転化することが明確に示された。したがって、この実験(実施例22)は、下記に示すPhCOFのPhCFへの転化の反応の例である。
【0148】
【化17】

【0149】
実施例23〜25:トリフルオロメチル含有化合物の製造:
[0120]表6に示す反応条件下において、実施例22と同じようにして実施例23〜25を行った。表6に示す反応温度は、2つの反応物質を室温において混合した後に反応混合物を加熱した温度である。表6に、実施例23〜25及び実施例22の結果を示す。基準試料と比較するか又は分光分析によって生成物を同定した。実施例23において、PhCFに関する19F−NMR(CDCl);−62.6ppm(s,CF)。実施例24において、p−(n−C15)CCFに関する19F−NMR(CDCl);−62.1ppm(s,CF)。実施例25において、n−C1021CFに関する19F−NMR(CDCl);−66.4ppm(s,CF)。
【0150】
【表6−1】

【0151】
【表6−2】

【0152】
[0121]本発明の目的のためには、十分に本発明の範囲内の種々の変更及び修正を本発明に対して行うことができると理解される。それ自体当業者に容易に示唆され、ここで開示され、特許請求において規定される発明の精神内に包含される数多くの他の変更を行うことができる。
【0153】
[0122]本明細書は、特許、特許出願、及び公報のような参照文献に対する数多くの引用を含む。それぞれは全ての目的のために参照として本明細書中に包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−C(R)(R)−Rによって表されるイオウ含有化合物をArSFによって表されるアリールイオウトリフルオリドと反応させることを含み、ここで
は有機基であり;Rは水素原子又は有機基であり;R及びRはそれぞれ独立して、アルキルチオ基、アリールチオ基、又はアラルキルチオ基であり、RとRは組み合わさるか又はアルキレン鎖及び/又は1つ又は複数のヘテロ原子を介して結合してもよく、或いはRとRは組み合わさって硫黄原子を形成し;Arはフェニル基又は第1級アルキル置換基を有するフェニル基であり、ここで第1級アルキル置換基は1〜8個の炭素原子を有する、
CFによって表されるジフルオロメチレン含有化合物の製造方法。
【請求項2】
第1級アルキル置換基が1〜4個の炭素原子を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アリールイオウトリフルオリドが、フェニルイオウトリフルオリド、p−メチルフェニルイオウトリフルオリド、p−エチルフェニルイオウトリフルオリド、p−(n−プロピル)フェニルイオウトリフルオリド、p−(n−ブチル)フェニルイオウトリフルオリド、及びp−(2−メチルプロピル)フェニルイオウトリフルオリドからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アリールイオウトリフルオリドがフェニルイオウトリフルオリド及びp−メチルフェニルイオウトリフルオリドからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アリールイオウトリフルオリドがフェニルイオウトリフルオリドである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
R−C(=S)−SRによって表されるチオカルボニル含有化合物をArSFによって表されるアリールイオウトリフルオリドと反応させることを含み、ここで
Rは有機基であり;Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、シリル基、金属原子、アンモニウム基、ホスホニウム基、又はS−C(=S)−Rであり;Arはフェニル基又は第1級アルキル置換基を有するフェニル基であり、ここで第1級アルキル置換基は1〜8個の炭素原子を有する、
RCFによって表されるトリフルオロメチル含有化合物の製造方法。
【請求項7】
第1級アルキル置換基が1〜4個の炭素原子を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
アリールイオウトリフルオリドが、フェニルイオウトリフルオリド、p−メチルフェニルイオウトリフルオリド、p−エチルフェニルイオウトリフルオリド、p−(n−プロピル)フェニルイオウトリフルオリド、p−(n−ブチル)フェニルイオウトリフルオリド、及びp−(2−メチルプロピル)フェニルイオウトリフルオリドからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
アリールイオウトリフルオリドがフェニルイオウトリフルオリド及びp−メチルフェニルイオウトリフルオリドからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
アリールイオウトリフルオリドがフェニルイオウトリフルオリドである、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
反応から生成するフッ化水素が反応中に保持される条件下において、RCOOHによって表されるカルボン酸をArSFによって表されるアリールイオウトリフルオリドと反応させることを含み、ここで、
Rは有機基であり;Arはフェニル基又は第1級アルキル置換基を有するフェニル基であり、ここで第1級アルキル置換基は1〜8個の炭素原子を有する、
RCFによって表されるトリフルオロメチル含有化合物の製造方法。
【請求項12】
第1級アルキル置換基が1〜4個の炭素原子を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
アリールイオウトリフルオリドが、フェニルイオウトリフルオリド、p−メチルフェニルイオウトリフルオリド、p−エチルフェニルイオウトリフルオリド、p−(n−プロピル)フェニルイオウトリフルオリド、p−(n−ブチル)フェニルイオウトリフルオリド、及びp−(2−メチルプロピル)フェニルイオウトリフルオリドからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
アリールイオウトリフルオリドがフェニルイオウトリフルオリド及びp−メチルフェニルイオウトリフルオリドからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
アリールイオウトリフルオリドがフェニルイオウトリフルオリドである、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
反応を溶媒の不存在下で行う、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
反応の少なくとも一部を実質的に密閉(閉止)した反応器内で行う、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
フッ化水素と1種類又は複数のアミン化合物との混合物の存在下において、R−C(=O)−Rによって表されるカルボニル含有化合物をArSFによって表されるアリールイオウトリフルオリドと反応させることを含み、ここで
Rは有機基であり;Rはヒドロキシル基又はハロゲン原子であり;Arはフェニル基又は第1級アルキル置換基を有するフェニル基であり、ここで第1級アルキル置換基は1〜8個の炭素原子を有する、
RCFによって表されるトリフルオロメチル含有化合物の製造方法。
【請求項19】
第1級アルキル置換基が1〜4個の炭素原子を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
アリールイオウトリフルオリドが、フェニルイオウトリフルオリド、p−メチルフェニルイオウトリフルオリド、p−エチルフェニルイオウトリフルオリド、p−(n−プロピル)フェニルイオウトリフルオリド、p−(n−ブチル)フェニルイオウトリフルオリド、及びp−(2−メチルプロピル)フェニルイオウトリフルオリドからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
アリールイオウトリフルオリドがフェニルイオウトリフルオリド及びp−メチルフェニルイオウトリフルオリドからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
アリールイオウトリフルオリドがフェニルイオウトリフルオリドである、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
フッ化水素/1種類又は複数のアミン化合物のモル比が22:1以下である、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
1種類又は複数のアミン化合物がピリジンである、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
フッ化水素とピリジンとのモル比が16:1〜5:1の範囲である、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
反応を溶媒の不存在下で行う、請求項18に記載の方法。

【公表番号】特表2011−518765(P2011−518765A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538090(P2010−538090)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/086044
【国際公開番号】WO2009/076345
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】