説明

ジフルオロメチレンオキシ単位を含む重合体の製造方法、および新規な該重合体、およびその用途

【課題】式−CFO−で表されるモノマー単位を含む重合体の製造方法、新規な該重合体、および該重合体を必須とするペリクルを提供する。
【解決手段】式COFで表される化合物を重合させる式−CFO−で表されるモノマー単位を含む重合体の製造方法。該モノマー単位と、式COFで表される化合物と重合しうる重合性の不飽和化合物の重合により形成されたモノマー単位とを含む新規な重合体、該重合体を必須とするペリクル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式−CFO−で表されるモノマー単位を含む重合体の製造方法、および新規な該重合体、およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
CF=CFを酸素と光酸化反応させて、式−OCFCF−で表される繰返し単位と式−CFO−で表される繰返し単位を含むペルオキシペルフルオロポリエーテル類を製造する方法が知られている(特許文献1)。また、主鎖に式−CFO−で表される繰返し単位を含み他の主鎖部分に環構造を含まないフッ素樹脂が、ペリクル膜用の材料として提案されている(特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特表平04−505171号公報
【特許文献2】特開2001−255643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の方法で製造されるペルフルオロポリエーテル類中の式−CFO−で表される繰返し単位は、モノマーの重合反応で形成するモノマー単位ではなく、CF=CFが酸素と反応して分解して形成された単位であると考えられた。そして、該単位の割合を任意に変えることは困難であった。また、式COFで表される化合物の重合反応については報告されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は式COFで表される化合物が重合することを見出した。また式COFで表される化合物を重合させると式−CFO−で表されるモノマー単位を含む種々の構造を有する重合体が得られることを見いだした。さらに該重合体がペリクルの材料として有用であることを見いだした。
【0006】
すなわち、本発明は下記の発明を提供する。
<1>式COFで表される化合物を重合させる式−CFO−で表されるモノマー単位を含む重合体の製造方法。
<2>式COFで表される化合物の重合により形成された式−CFO−で表されるモノマー単位と、式COFで表される化合物と重合しうる重合性の不飽和化合物の重合により形成されたモノマー単位とを含む重合体。
<3>重合性の不飽和化合物がフッ素原子を含む重合性の不飽和化合物である<2>に記載の重合体。
<4>重合性の不飽和化合物が下式(a)〜(c)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である<2>または<3>に記載の重合体。
CHR=CR (a)
CFR=CR (b)
CR=CR−Q−CR10=CF (c)
ただし、R、R、およびRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、または飽和の1価含フッ素有機基を示す。ただし、R、R、およびRから選ばれる少なくとも1つはフッ素原子または飽和の1価含フッ素有機基を示す。または、R、R、およびRから選ばれる2つの基が共同で2価含フッ素有機基を形成し、かつ残余の1つの基は水素原子、フッ素原子、または飽和の1価含フッ素有機基を示す。
、R、およびRは、それぞれ独立に、フッ素原子または飽和の1価含フッ素有機基を示す。または、R、R、およびRから選ばれる2つの基が共同で2価含フッ素有機基を形成し、かつ残余の1つの基はフッ素原子もしくは飽和の1価含フッ素有機基を示す。
、R、R、およびR10は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、または1価含フッ素有機基を示す。
Qは、2価含フッ素有機基を示す。
<5>質量平均分子量が500〜1000000である<2>〜<4>のいずれかに記載の重合体。
<6>ペリクル膜が接着剤を介して枠体に接着されてなる露光処理用のペリクルであって、ペリクル膜および/または接着剤に用いられる重合体が、<2>〜<5>のいずれかに記載の重合体を必須とするペリクル。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、式−CFO−で表されるモノマー単位を任意の割合で含む重合体が製造できる。また式COFで表される化合物は種々の化合物と重合するため、式−CFO−で表されるモノマー単位を含む種々の構造を有する重合体を製造できる。さらにモノマー単位の組み合わせとその割合を自由に調節できるため、物性に応じて重合体の構造を調節できる。
【0008】
本発明の重合体は、透明性に優れ、特に短波長光に対する透明性と耐久性に優れる。また本発明の重合体は、可とう性に優れ、自立膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の化合物も同様に記す。式COFで表される化合物を、単にCOFとも記す。またCOFの重合により形成された式−CFO−で表されるモノマー単位を、単に(−CFO−)単位とも記す。
【0010】
本発明は、COFを重合させて(−CFO−)単位を含む重合体を製造する方法を提供する。
COFは沸点が低いため、通常採用できる反応条件においてガス状の化合物である。よって重合においてCOFは、ガス状で供給されてもよく、液状または溶媒に溶解させて溶液状で供給されてもよい。溶媒としては、後述の溶媒が挙げられる。供給方法は、COFを連続で供給する方法でもよく、COFを一括で供給する方法でもよい。
【0011】
重合は、溶媒の存在下に行ってもよく、溶媒の不存在下に行ってもよい。重合が後述の共重合である場合、(−CFO−)単位と他のモノマー単位の組成比が安定になる観点から、重合は溶媒の存在下に行うのが好ましい。溶媒としては、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、およびハイドロクロロフルオロカーボンが重合体と高い相溶性を示すため好ましい。
【0012】
重合反応の種類は、特に限定されず、アニオン重合法、カチオン重合法等のイオン重合法、ラジカル重合法等が挙げられる。分子量が高くガラス転移点の高い重合体が得られる観点から、ラジカル重合法が好ましい。また重合反応の方法は、特に限定されず、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法等の方法が採用できる。
【0013】
ラジカル重合法で実施する場合には、ラジカル開始剤の存在下に行うのが好ましい。ラジカル開始剤としては、下記化合物(p)および下記化合物(q)が挙げられる。
(RO) ・・・(p)
(RCOO) ・・・(q)
ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基、エーテル性酸素原子を含むアルキル基、またはアリール基を示す。得られる重合体を後述のペリクルの材料に用いる場合、耐熱性、短波長光に対する透明性や耐光性等の観点から、RおよびRは、それぞれ独立に、ペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキル基、またはペルフルオロアリール基が好ましく、ペルフルオロアルキル基、またはエーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキル基が特に好ましい。RおよびRの炭素数は、それぞれ独立に、1〜6が好ましい。
【0014】
前記好ましいラジカル開始剤の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。ただし、下記化合物中の炭素数が3以上のペルフルオロアルキル基部分は、直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。
(CCOO)、(CCOO)、(COCF(CFCFCOO)、((CFCO)、(CO)
【0015】
重合の反応温度は、操作性と重合速度の観点から、−20℃〜+150℃が好ましい。重合の反応圧力は、0MPa〜100MPa(ゲージ圧)が好ましく、操作性の観点から、0.5MPa〜50MPa(ゲージ圧)が特に好ましい。
【0016】
本発明の製造方法においてCOFは、単独重合させても、COFと重合しうる重合性の不飽和化合物(以下、他のモノマーと記す。)と共重合させてもよい。単独重合の場合には、実質的に(−CFO−)単位からなる重合体(以下、単に単独重合体とも言う。)が得られる。共重合の場合には、(−CFO−)単位と他のモノマーと他のモノマーが重合して形成したモノマー単位(以下、単に他のモノマー単位とも言う。)を含む重合体(以下、単に共重合体とも言う。)が得られる。
【0017】
本発明の重合体の質量平均分子量は、500〜1000000が好ましい。重合体をフィルム、膜等に成形加工して用いる場合は、10000〜750000が好ましく、30000〜500000が特に好ましい。また重合体のガラス転移点は、成形加工性の観点から0℃〜350℃が好ましい。重合体をフィルム状や膜状に成型加工する場合、50℃〜350℃が特に好ましい。
【0018】
共重合体の全モノマー単位に対する(−CFO−)単位の割合は、0.01〜20モル%が好ましく、0.1〜10モル%が特に好ましい。他のモノマー単位の割合は、80〜99.99モル%が好ましく、90〜99.9モル%が特に好ましい。
【0019】
他のモノマー単位の割合を前記の好ましい範囲にした場合の共重合体は、分子量が高くなりかつ高い透明性とガラス転移点が付与される。この理由は、必ずしも明確でないが、(−CFO−)単位を基づくエーテル性酸素原子により共重合体の主鎖を構成する炭素原子の電子共役が切断されるためと考えられる。そのため仮に共重合体における他のモノマー単位が透明性を低下させる単位であっても、共重合体には高い透明性が付与される。共重合体の(−CFO−)単位の割合は、高分解能の19F−NMRにより解析できる。
【0020】
また共重合体の(−CFO−)単位と他のモノマー単位の並び方は、ランダム状であってもブロック状であってもよく、前記理由からランダム状であるのが好ましい。また共重合体の(−CFO−)単位の導入部位は、重合体の主鎖であっても重合体の側鎖であってもよく、重合体の主鎖であるのが好ましい。
【0021】
他のモノマーは、フッ素原子を含む重合性の不飽和化合物が好ましく、フッ素原子を含む重合性の炭素−炭素2重結合および/またはケト基を含む化合物が特に好ましく、フッ素原子を含む重合性の炭素−炭素2重結合を含む化合物がとりわけ好ましい。該化合物は、下記化合物(a)、下記化合物(b)、および下記化合物(c)から選ばれる少なくとも1種の化合物が特に好ましい。
CHR=CR (a)、
CFR=CR (b)、
CR=CR−Q−CR10=CF (c)。
ただし、R〜R10およびQは、前記と同じ意味を示す。
【0022】
〜R10がそれぞれ飽和の1価含フッ素有機基である場合とは、該基がフッ素原子1個以上と炭素原子1個以上を有する飽和の1価の基であることを意味する。R〜R10はそれぞれ直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。飽和の1価含フッ素有機基としては、ポリフルオロアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基が特に好ましく、トリフルオロメチル基およびペンタフルオロエチル基がとりわけ好ましい。
【0023】
またR〜R10の前記2つの基が共同して2価含フッ素有機基を形成する場合は、該基がフッ素原子の1個以上と炭素原子の1個以上とを有する2価の基であることを意味する。該基およびQは、飽和の基であっても不飽和の基であってもよく、飽和の2価含フッ素有機基であるのが好ましい。飽和の2価含フッ素有機基は、エーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキレン基であるのが好ましい。特に、側鎖を除いて、炭素数1〜3のペルフルオロアルキレンの片末端、両末端、または炭素原子間にエーテル性酸素原子を有するエーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキレン基であるのが好ましい。
【0024】
該2価含フッ素有機基は直鎖構造であっても分岐構造であってもよく、分岐構造である場合は分岐部分がトリフルオロメチル基、またはペンタフルオロエチル基が好ましい。また分岐部分は環構造を形成していてもよい。
【0025】
化合物(a)は、重合して下記単位(A)を形成する化合物である(ただし、R〜Rは前記と同じ意味を示す。)。
−CHRCR− (A)。
【0026】
化合物(a)としては、炭素数が2または3の環状構造を含まない化合物(たとえば、CH=CHF、CHF=CHF、CH=CF、CHF=CF等。)、下記化合物(a1)、下記化合物(a2)等が挙げられる。化合物(a)としては、CH=CHF、CH=CF、CHF=CF、化合物(a1)、および化合物(a2)が好ましい。
【0027】
【化1】

【0028】
化合物(b)は、重合して下記単位(B)を形成する化合物である(ただし、R〜Rは前記と同じ意味を示す。)。
−CFRCR− (B)。
化合物(b)としては、CF=CF、CF=CFCF等の炭素数2または3のペルフルオロオレフィン類;CF=CFOCF、CF=CFO(CFF等の炭素数3〜8のペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)類;下記化合物(b1)、下記化合物(b2)等の環状オレフィン類;等が挙げられる。
【0029】
【化2】

【0030】
ただし、R11〜R15は、それぞれ独立に、フッ素原子または炭素数1〜5の飽和の1価含フッ素有機基を示す。Lは、エーテル性酸素原子またはジフルオロメチレン基を示す。1価含フッ素有機基である場合のR11〜R15は、それぞれ独立に、フッ素原子、ポリフルオロアルキル基、またはエーテル性酸素原子を有するポリフルオロアルキル基が好ましく、フッ素原子、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、トリフルオロメトキシ基、またはペンタフルオロエトキシ基が特に好ましい。
【0031】
11およびR12は、共同で2価含フッ素有機基(L)を形成していてもよい。Lは、2箇所以上の炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数3〜6の含フッ素アルキレン基が好ましく、2箇所以上の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入されたペルフルオロアルキレン基が特に好ましい。さらに該基は直鎖構造であってもペルフロオロアルキル基を分岐部分とする基であってもよい。
【0032】
化合物(b1)としては、下記化合物(b11)、下記化合物(b12)、下記化合物(b13)、下記化合物(b14)、下記化合物(b15)、下記化合物(b16)等が挙げられる。
【0033】
【化3】

【0034】
化合物(b2)としては、下記化合物(b21)、下記化合物(b22)等が挙げられる。
【0035】
【化4】

【0036】
化合物(b)としては、CF=CF、化合物(b1)、および化合物(b2)が好ましく、CF=CF、化合物(b11)、化合物(b12)、化合物(b15)、および化合物(b21)が特に好ましい。
【0037】
化合物(c)は、環化重合して下記単位(CA)、下記単位(CB)、または下記単位(CC)を形成する化合物である(ただしR〜R10、およびQは、前記と同じ意味を示す。)。
【0038】
【化5】

【0039】
化合物(c)としては、下記化合物(c1)、下記化合物(c2)、および下記化合物(c3)が好ましい。ただし、Q、Q、およびQは、それぞれ独立に、炭素数1〜3のペルフルオロアルキレン基を示す。R16、R17およびR18は、それぞれ独立に、フッ素原子または水素原子を示す。
CH=CR16−Q−O−CF=CF (c1)、
CF=CR17−Q−O−CF=CF (c2)、
CHF=CR18−Q−O−CF=CF (c3)。
【0040】
化合物(c1)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
CH=CHCFOCF=CF
CH=CHCFCFOCF=CF
CH=CHCFCFCFOCF=CF
CH=CHCF(CF)CFOCF=CF
CH=CFCFCFOCF=CF
CH=CFCF(CF)CFOCF=CF
【0041】
化合物(c2)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
CF=CFCFOCF=CF (c21)、
CF=CFCFCFOCF=CF (c22)、
CF=CHCFCFOCF=CF (c23)、
CF=CHCF(CF)CFOCF=CF (c24)。
【0042】
化合物(c3)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
CHF=CHCFCFOCF=CF
CHF=CHCF(CF)CFOCF=CF
また化合物(c1)〜(c3)以外の化合物(c)としては、下記の化合物が挙げられる。
CH=CHOC(CFOCF=CF
CF=CFOC(CFOCF=CF
【0043】
化合物(c)としては、化合物(c1)および化合物(c2)が好ましく、化合物(c22)、化合物(c23)、および化合物(c24)が特に好ましい。
【0044】
本発明の重合体のうち共重合体をペリクルの材料に用いる場合、短波長光に対する透明性と耐久性が高い観点から、他のモノマーは、CH=CF、化合物(b)、および化合物(c)から選ばれる少なくとも1種が好ましい。ガラス転移温度が高く良好な成膜性能が得られる観点から、CH=CF、化合物(b11)、化合物(b12)、化合物(b15)、および化合物(b21)から選ばれる少なくとも1種の化合物が特に好ましい。
【0045】
また本発明の重合体は、官能基が別途導入されてもよい。官能基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、アルコキシカルボニル基、アシロキシ基、アルケニル基、加水分解性シリル基、水酸基、マレイミド基、アミノ基、シアノ基、およびイソシアネート基が挙げられる。これらの官能基を導入する方法としては、官能基を有する他のモノマーを共重合させる方法が好ましい。共重合体をペリクル用の接着剤等として使用する場合、共重合体中に官能基を導入するのが好ましい。この場合、官能基の割合は0.0001〜0.0010モル/gが好ましい。
【0046】
本発明の重合体に官能基を導入する方法としては、つぎの方法1〜4によるのが好ましい。
(方法1)COFと官能基を有するコモノマーを共重合させる方法。
(方法2)重合開始剤および/または連鎖移動剤に由来する官能基、または該官能基から導きうる官能基を、目的とする官能基に変換する方法。
(方法3)COFと官能基に変換される基を含むコモノマーとを共重合させて、官能基に変換される基を化学変換する方法。
(方法4)共重合体を、酸素ガス雰囲気下で高温処理して側鎖および/または末端基を部分的に酸化分解してカルボキシル基とする方法。
【0047】
これらのうち、反応操作が容易であることから方法2または方法4によるのが特に好ましい。前記方法において、官能基に変換しうる基としては、アルコキシカルボニル基が挙げられる。該基は加水分解反応等によりカルボキシル基に変換できる。
【0048】
本発明の重合体は、重合反応後にフッ素ガスを接触させる処理を行って重合鎖の末端基を変換するのが好ましい。該処理を行う温度は、250℃以下が好ましく、240℃以下が特に好ましく、50℃以下がとりわけ好ましい。該処理は、固体状態の重合体に対して行っても溶液状態の重合体に対して行ってもよい。該処理により重合体は、重合で生成しうる不適な重合鎖の末端部や不飽和結合部がフッ素原子により置換および/または付加された、より耐久性に優れた共重合体となる。たとえば、重合体の末端基が−CH=CH基を含む場合には、該処理により末端基を−CFCF基および/または−CFCFH基に変換できる。ただし、重合体に官能基を導入する場合には、フッ素ガスによる処理は行わないのが好ましい。
【0049】
本発明の重合体は、透明性、耐光性、低屈折率性、低誘電率性、低吸水率性、低表面エネルギー性、耐熱性、耐薬性、機械的強度などの性質に優れる。重合体は、これらの性質を要求される分野における機能性材料として有用に用いうる。この場合、重合体は固体状または固体状の重合体を有機溶媒に溶解または分散させた組成物として用いるのが好ましい。該組成物は、基材に塗布して乾燥させることにより重合体を必須とする被膜を形成させることができる。組成物中の重合体の量は、有機溶媒との相溶性の観点から、有機溶媒に対して0.1〜25質量%が好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
【0050】
有機溶媒は、重合体との相溶性の観点から、含フッ素有機溶媒が好ましい。含フッ素有機溶媒としては、以下の例が挙げられる。
ペルフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等のポリフルオロ芳香族化合物;ペルフルオロ(トリブチルアミン)、ペルフルオロ(トリプロピルアミン)等のポリフルオロ(トリアルキルアミン)化合物;ペルフルオロデカリン、ペルフルオロシクロヘキサン等のポリフルオロシクロアルカン化合物;ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)等のポリフルオロ環状エーテル化合物。ペルフルオロオクタン、ペルフルオロデカン、2H,3H−ペルフルオロペンタン、1H−ペルフルオロヘキサン等のポリフルオロアルカン類;メチルペルフルオロイソプロピルエーテル、メチルペルフルオロブチルエーテル、メチル(ペルフルオロヘキシルメチル)エーテル、メチルペルフルオロオクチルエーテル、エチルペルフルオロブチルエーテル等のポリフルオロエーテル類。
【0051】
塗布の方法は、公知の方法が採用でき、ロールコート法、キャスト法、ディップ法、スピンコート法、水上キャスト法、ダイコート法、およびラングミュア・ブロジェット法等の方法が挙げられる。該被膜の膜厚は、通常、0.01〜1000μmが好ましい。
【0052】
本発明の重合体のうち共重合体は、短波長光に対する耐久性と透明性に特に優れ、かつ機械的強度が大きく自立膜を形成できるため、ペリクルの材料として有用である。本発明はペリクル膜が接着剤を介して枠体に接着されてなる露光処理用のペリクルにおけるペリクル膜および/または該接着剤を提供する。
【0053】
共重合体をペリクル膜に適用したペリクルとしては、共重合体を必須とするペリクル膜と、枠体からなるペリクルである。共重合体を接着剤に適用したペリクルとは、ペリクル膜が共重合体を必須とする接着剤を介してペリクル膜が枠体に接着されたペリクルである。共重合体をペリクル膜に適用する場合、短波長光に対する耐久性と透明性の観点から、官能基を含まない共重合体が好ましい。該共重合体としては、フッ素ガスを接触させる処理を行った共重合体が好ましい。
【0054】
共重合体をペリクルに適用したペリクルの製造方法は公知の方法が適用でき、たとえば、下記の方法が適用できる。
前記組成物を基材に塗布して、つぎに基材を乾燥させることにより基材上に共重合体の薄膜を形成させた処理基材を得る。一方、接着剤を枠体に塗布し、該枠体を加熱(100〜200℃が好ましい。)する。つぎに接着剤を塗布した枠体の面に該処理基材を接着し、つぎに該処理基材から基材を剥離させてペリクルを得る方法。ペリクル膜の膜厚は、通常、0.01〜50μmが好ましい。
【0055】
本発明のペリクルにおいて、ペリクル膜および接着剤の両方に本発明の共重合体を用いるのが好ましいが、一方に共重合体以外の材料を用いてもよい。共重合体以外のペリクル膜、共重合体以外の接着剤としては、特開2001−330943号公報、WO2001/37044号公報に記載される材料が挙げられる。たとえば接着剤としては、プロピレン/フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、およびフッ化ビニリデンを主成分とする共重合体から選ばれる重合体、または該選ばれる重合体に前記方法によって官能基を導入した重合体が挙げられる。
【0056】
本発明のペリクルは、露光処理用のペリクルとして用いることができる。特に短波長光を光源に用いた露光処理用のペリクルとして好ましく、Fエキシマレーザー光を光源に用いた露光処理用のペリクルとして特に好ましい。さらに本発明のペリクルは、該ペリクルを用いて露光処理を行う露光処理方法へ容易に適用できる。
【0057】
本発明の(−CFO−)単位を含む重合体は、短波長光に対して高い透明性を有する。その理由は必ずしも明確ではないが、本発明の重合体は主鎖にエーテル結合に基づく酸素原子を含み、主鎖に長い電子的な共役ができないためと考えられる。また本発明の重合体は、短波長光に対して高い耐久性を有する。その理由は必ずしも明確ではないが、本発明の重合体は主鎖にエーテル結合に基づく酸素原子を含み、主鎖の電子的な共役が分断される重合体であると考えられる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下において、Mを質量平均分子量、Mを数平均分子量、ガラス転移点をT、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法をGPC法、CClFCClFをR−113、ジクロロペンタフルオロプロパンをR−225と言う。また圧力は、特に表記しない限り、絶対圧で示す。
【0059】
およびMは、GPC法により測定した。測定方法は、特開2000−74892号に記載する方法にしたがった。具体的には、移動相としてCFClCFCFHClと(CFCHOHとの混合液(体積比99:1)を用い、分析カラムとしてポリマーラボラトリーズ社製のPLgel 5μm MIXED−C(内径7.5mm、長さ30cm)を2本直列に連結したカラムを用いた。分子量測定用標準試料として、分子量分布(M/M)が1.17未満である分子量が1000〜2000000の10種のポリメチルメタクリレート(ポリマーラボラトリー社製)を用いた。移動相流速は1.0ml/min、カラム温度は37℃とした。検出器には蒸発光散乱検出器を用いた。MおよびMはポリメチルメタクリレート換算分子量として示す。また、Tは示査走査熱量分析法(以下、DSCとも略す。)により測定を行った。
【0060】
[例1]重合体(1)の製造例
オートクレーブ(内容積100mL、ステンレス製)に、R−113(25g)、および(CCOO)を3質量%含むR−225溶液(1.33g)を投入した。つぎにオートクレーブ内を窒素ガス雰囲気にした。つぎにオートクレーブをドライアイス・エタノール浴で−78℃に冷却してから、CF=CH(2.1g)およびCOF(2.5g)を投入した。
【0061】
つづいてオートクレーブに窒素ガスを投入して、オートクレーブの内圧を0.3MPa(ゲージ圧)まで加圧した。つぎにオートクレーブの内温を20℃に保持しながら27時間、重合を行い重合体(1)(2.7g)を得た。重合体(1)をH−NMRおよび19F−NMRにより解析した。その結果、不飽和結合を構成する炭素原子に結合するフッ素原子のピークが完全消失しており−CFCH−単位が生成していること、および19F−NMRにおいて−80ppmにピークが存在することから(−CFO−)単位が生成していることを確認した。重合体(1)中の全モノマー単位に対する(−CFO−)単位の割合は1モル%であった。
【0062】
重合体(1)のジメチルホルムアミド中の30℃における固有粘度は0.9であり、重合体(1)のTは136℃であった。また重合体(1)をDSC分析した結果、176℃と167℃に融点が確認された。重合体(1)は、25℃においてタフで半透明なガラス状の重合体であった。
【0063】
[例2]重合体(2)の製造例
オートクレーブ(内容積100mL、ステンレス製)に、R−113(54g)、下記化合物(b12)(5.5g)、および(CCOO)を3質量%含むR−225溶液(2g)を投入してからオートクレーブを窒素ガス置換した。つぎにオートクレーブをドライアイス・エタノール浴で−78℃に冷却してから、CF=CH(1.6g)およびCOF(5g)を投入した。つづいてオートクレーブに窒素ガスを投入して、オートクレーブの内圧を0.3MPa(ゲージ圧)まで加圧した。つぎにオートクレーブの内温を20℃に保持しながら45時間、重合を行い重合体(2)(7.3g)を得た。
【0064】
重合体(2)をH−NMRおよび19F−NMRにより解析した。その結果、不飽和結合を構成する炭素原子に結合するフッ素原子のピークが完全消失しており−CFCH−単位が生成していること、化合物(b12)の5員環構造は保持されることから下記単位(B12)が生成していること、および19F−NMRにおいて−80ppmにピークが存在することから(−CFO−)単位が生成していることを確認した。重合体(2)の全モノマー単位に対する(−CFO−)単位の割合は0.5モル%であり、単位(B12)の割合は41モル%であった。また重合体(2)のMは177000であり、Tは66℃であった。重合体(2)は、25℃においてタフで透明なガラス状の重合体であった。
【0065】
【化6】

【0066】
[例3]重合体(21)の製造例
例2で得た重合体(2)を熱風オーブン中に仕込み、酸素ガス雰囲気下、300℃で2時間処理をした。つぎに純水中に100℃で24時間浸漬した。さらに100℃で24時間真空乾燥して重合体(21)を得た。重合体(21)のIRスペクトルを測定した結果、カルボキシル基に相当するピークが存在することを確認した。
【0067】
[例4]重合体(2)を用いた基材(2)の製造例
ガラス製フラスコに例2で得た重合体(2)(1g)と1,3−トリフルオロメチル−ベンゼン(12.5g)を投入した。フラスコ内容液を、50℃に保持しながら24時間、撹拌して無色透明な溶液を得た。
【0068】
つぎに毎分500回転させた石英基板に該溶液を10秒間、スピンコートした。さらに石英基板を毎分650回転させながら、該溶液を20秒間、スピンコートした。つづいて石英基板を、80℃で加熱(1時間)してから、180℃でさらに加熱(1時間)して乾燥した。その結果、重合体(2)の均一透明な被膜が表面に形成した石英基板(以下、基材(2)という。)を得た。
[例5]ペリクル(2)の製造例
ガラス製フラスコに例3で得た重合体(21)(2g)とペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)(18g)を投入した。フラスコ内容液を、40℃に保持して24時間、加熱して無色透明な溶液を得た。該溶液を枠体(アルミニウム製)のペリクル膜が接着する面に塗布してから、25℃で3時間乾燥した。つぎに枠体を該面が上側を向くようにホットプレート(120℃)に載せて、枠体を10分間、加熱した。例4で得た基材(2)の被膜面と枠体の接着面を圧着させて接着し、120℃で10分間、加熱した。その結果、枠体と被膜面の接着が完結した。
【0069】
つづいて、基材(2)から石英基材を剥離した。その結果、枠体に重合体(21)を介して重合体(2)の均一な薄膜(膜厚1μm)が自立膜として接着したペリクル(2)を得た。ペリクル(2)のFエキシマレーザー(発振波長157nm)に対する光線透過率は80%以上であった。
【0070】
0.05mJ/パルスの強度を有するFエキシマレーザーを用いて200Hzサイクルにおける、ペリクル(2)の照射試験を行う。ペリクル(2)は、60万パルス以上で膜の透過率がほとんど低下せず、良好な耐久性を示す。またペリクル膜と枠体は重合体(4)を介して、強固に接着されている。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の製造方法により、式COFで表される化合物が重合した式−CFO−で表されるモノマー単位を任意の割合で含む重合体の製造方法が提供される。該重合体は機能性材料として有用であり、短波長光(特に発振波長が157nmのFエキシマーレーザー光)を用いた露光処理におけるペリクルの材料として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式COFで表される化合物を重合させることを特徴とする式−CFO−で表されるモノマー単位を含む重合体の製造方法。
【請求項2】
式COFで表される化合物の重合により形成された式−CFO−で表されるモノマー単位と、式COFで表される化合物と重合しうる重合性の不飽和化合物の重合により形成されたモノマー単位とを含むことを特徴とする重合体。
【請求項3】
重合性の不飽和化合物がフッ素原子を含む重合性の不飽和化合物である請求項2に記載の重合体。
【請求項4】
重合性の不飽和化合物が下式(a)〜(c)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項2または3に記載の重合体。
CHR=CR (a)
CFR=CR (b)
CR=CR−Q−CR10=CF (c)
ただし、R、R、およびRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、または飽和の1価含フッ素有機基を示す。ただし、R、R、およびRから選ばれる少なくとも1つはフッ素原子または飽和の1価含フッ素有機基を示す。または、R、R、およびRから選ばれる2つの基が共同で2価含フッ素有機基を形成し、かつ残余の1つの基は水素原子、フッ素原子、または飽和の1価含フッ素有機基を示す。
、R、およびRは、それぞれ独立に、フッ素原子または飽和の1価含フッ素有機基を示す。または、R、R、およびRから選ばれる2つの基が共同で2価含フッ素有機基を形成し、かつ残余の1つの基はフッ素原子もしくは飽和の1価含フッ素有機基を示す。
、R、R、およびR10は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、または1価含フッ素有機基を示す。
Qは、2価含フッ素有機基を示す。
【請求項5】
質量平均分子量が500〜1000000である請求項2〜4のいずれかに記載の重合体。
【請求項6】
ペリクル膜が接着剤を介して枠体に接着されてなる露光処理用のペリクルであって、ペリクル膜および/または接着剤に用いられる重合体が、請求項2〜5のいずれかに記載の重合体を必須とすることを特徴とするペリクル。

【公開番号】特開2006−28364(P2006−28364A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210061(P2004−210061)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】