説明

ジャイロセンサー、電子機器

【課題】小型化を図ったジャイロセンサーを提供する。
【解決手段】第1空洞部15を有した外マス部14と、第1空洞部15内に設けられ、第2空洞部17を有した内マス部16と、外マス部14を内マス部16と一体に第1軸の方向に駆動させる駆動部70と、外マス部14と内マス部16との間に接続され、第1軸の方向に直交する第2軸の方向に変位可能なバネ部20と、第2空洞部17内に設けられ、第1軸の軸回りの角速度を検出する第1検出部(検出部30)と、第2空洞部17に設けられた振動体40と、を備え、振動体40は、第2空洞部17の内壁に一端を接続させ、第1軸の方向に延出させて他端を浮かせた片持ち支持構造であり、第1軸の方向の駆動振動に伴い、振動体40が第1軸及び第2軸に対して垂直な第3軸方向に振動可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャイロセンサー及びそれを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーナビゲーションシステムや、ビデオカメラの手ぶれ補正などの姿勢制御に、角速度を検出するジャイロセンサーが多く用いられている。このようなジャイロセンサーには、互いに直交するX軸,Y軸,Z軸回りの角速度を検出可能な検出素子を各軸に備えたセンサーがある。
【0003】
特許文献1に開示のジャイロセンサーは、互いに直交する第1ないし第3の検出軸に対する角速度を検出する多軸角速度センサーであって、第1の検出軸に対する角速度を検出する第1の振動型角速度センサー素子と、第2の検出軸に対する角速度を検出する第2の振動型角速度センサー素子と、第3の検出軸に対する角速度を検出する第3の振動型角速度センサー素子と、第1ないし第3の振動型角速度センサー素子を制御するICと、第1ないし第3の振動型角速度センサー素子及びICを収容するパッケージを備え、第1の振動型角速度センサー素子の振動平面と第1の検出軸が平行であり、第2の振動型角速度センサー素子の振動平面と第2の検出軸が平行であり、第3の振動型角速度センサー素子の振動平面と第3の検出軸が直交し低背化した多軸角速度センサーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−266321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来のジャイロセンサーは3軸回りの角速度を検出するため、各軸をチップ内に並べると、実装面積が大きくなってしまいデバイス全体の小型化の要請に伴うセンサー素子の更なる小型化が図れないという問題があった。
【0006】
また1軸の角速度センサーごとに振動が独立なため、駆動回路も角速度センサーごとに設けなければならず、集積回路(IC)も個別に必要であり実装面積が大きくなりセンサーを小型化することが困難であった。また複数の角速度センサー毎に振動モードが存在するため、互いに干渉してしまうという問題があった。
【0007】
上記従来技術の問題点を解決するため、本発明は、小型化を図ったジャイロセンサーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]第1空洞部を有した外マス部と、前記外マス部の前記第1空洞部内に設けられ、且つ第2空洞部を有した内マス部と、前記外マス部を前記内マス部と一体に第1軸の方向に駆動させる駆動部と、前記外マス部と前記内マス部との間に接続され、前記第1軸の方向に直交する第2軸の方向に変位可能なバネ部と、前記内マス部の前記第2空洞部内に設けられ、前記第1軸の軸回りの角速度を検出する第1検出部と、前記内マス部の前記第2空洞部に設けられた振動体と、を備えた振動系構造体を備え、前記振動体は、前記内マス部の前記第2空洞部の内壁に一端を接続させ、前記第1軸の方向に延出させて他端を浮かせた片持ち支持構造であり、前記第1軸の方向の駆動振動に伴い、前記振動体が前記第1軸及び前記第2軸に対して垂直な第3軸方向に振動可能なことを特徴とするジャイロセンサー。
このような構成のジャイロセンサーは、駆動振動に伴って第1軸及び第2軸からなる平面に直交する第3軸方向に振動する振動体を備えているので、第3軸方向の振動を面内軸検出の駆動振動として用いることにより、平面に水平な駆動方向と同じ軸回りの角速度を検出することができる。従って、本適用例のジャイロセンサー素子を組み合わせて用いれば、駆動方向を一方向とした多軸検出が可能となり、素子の小型化が可能となる。
【0010】
[適用例2]前記振動体には、周波数調整部が設けられていることを特徴とする適用例1に記載のジャイロセンサー。
上記構成によれば、駆動部の駆動振動と振動体の振動周波数を合わせることができ、所望の駆動振幅が得られる。
【0011】
[適用例3]前記周波数調整部は、前記振動体の前記他端側に設けられていることを特徴とする適用例2に記載のジャイロセンサー。
上記構成によれば、周波数調整部を振動体の他端側に設けることにより、周波数を大きく変化させることができるので、周波数調整を容易に行うことができる。
【0012】
[適用例4]前記周波数調整部には、金属膜が設けられていることを特徴とする適用例2または3に記載のジャイロセンサー。
上記構成によれば、周波数調整部に設けた金属膜をレーザー等により削ることで容易に周波数調整を行うことができる。
【0013】
[適用例5]前記振動体は、前記一端側の剛性が前記他端側の剛性よりも小さいことを特徴とする適用例1ないし4のいずれか1例に記載のジャイロセンサー。
上記構成によれば、駆動振動に伴う振動体の振動の振幅を大きくすることができ、回転が加わったときのコリオリ力を大きく発生させることができ、感度を向上させることができる。
【0014】
[適用例6]前記振動体には、前記他端側に錘部が設けられていることを特徴とする適用例1ないし5のいずれか1例に記載のジャイロセンサー。
【0015】
[適用例7]前記振動体には、前記一端側に溝又は貫通孔が設けられていることを特徴とする適用例1ないし6のいずれか1例に記載のジャイロセンサー。
上記構成によれば、例えば、振動体の先端に錘部を設けたり、振動体の固定端側に貫通孔または溝を設けたりして、振動体の固体端側の剛性を自由端側の剛性よりも小さくすることができ、軸回りに作用する回転によって生じる角速度を感度良く検出することができる。
【0016】
[適用例8]前記外マス部は、基板の上方に配置されており、前記第1検出部は、前記基板に設けられている固定電極と、前記内マス部に設けられている可動電極とを含むことを特徴とする適用例1ないし7のいずれか1例に記載のジャイロセンサー。
上記構成によれば、軸回りに作用する回転によって生じる角速度を感度良く検出することができる。
【0017】
[適用例9]前記振動系構造体を前記第1軸の方向に並べて配置し、前記振動系構造体同士を連結するバネで接続し、前記振動系構造体同士を互いに反対方向に振動させることを特徴とする適用例1ないし8のいずれか1例に記載のジャイロセンサー。
上記構成によれば、振動バランスが向上し、軸回りに作用する回転によって生じる角速度を感度良く検出することができる。
【0018】
[適用例10]一方の前記振動系構造体の前記振動体の前記延出の方向と、他方の前記振動系構造体の前記振動体の前記延出の方向とを逆にし、一方の前記振動系構造体の出力信号と、他方の前記振動系構造体の出力信号の和をとることを特徴とする適用例9に記載のジャイロセンサー。
上記構成によれば、他軸の角速度成分を除去して、所望の角速度のみを検出することができる。従って適用例1と比較して角速度検出を高精度に行うことができる。
【0019】
[適用例11]一方の前記振動系構造体の前記振動体の前記延出の方向と、他方の前記振動系構造体の前記振動体の前記延出の方向とを同じにし、一方の前記振動系構造体の出力信号と、他方の前記振動系構造体の出力振動の差をとることを特徴とする適用例9に記載のジャイロセンサー。
上記構成によれば、加速度成分の力を除去して、所望の角速度のみを検出することができる。従って適用例1と比較して角速度検出を高精度に行うことができる。
【0020】
[適用例12]前記振動系構造体には、前記第2軸および前記第3軸の軸回りの角速度の少なくとも一方を検出する第2検出部が設けられていることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載のジャイロセンサー。
上記構成によれば、駆動方向を一方向とした多軸検出が可能となり、駆動部を共通化することができるのでセンサー全体の小型化を図ることができる。
【0021】
[適用例13]適用例1ないし12のいずれか1例に記載のジャイロセンサーを備えたことを特徴とする電子機器。
上記構成によれば、多軸検出のための駆動部を共通化して小型化を図れ、高精度で角速度を検出することができるジャイロセンサーを備えた電子機器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のジャイロセンサーの構成概略を示す説明図である。
【図2】X軸回りに作用する回転を検出可能なセンサー素子の構成概略を示す説明図である。
【図3】振動体の変形例1〜4の説明図である。
【図4】周波数調整部の説明図であり、(1)は斜視図であり、(2)は(1)のa−a断面図である。
【図5】X軸回りに作用する回転を検出する説明図であり、(1)は斜視図であり、(2)は(1)のb−b断面図である。
【図6】Y軸回りに作用する回転を検出する説明図であり、(1)は斜視図であり、(2)は(1)のc−c断面図である。
【図7】Z軸回りに作用する回転を検出する説明図である。
【図8】ジャイロセンサーの集積回路の説明図である。
【図9】本発明のジャイロセンサーを備える電子機器を適用した携帯電話機の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のジャイロセンサー、電子機器の実施形態を添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。図1は本発明のジャイロセンサーの構成概略を示す説明図である。なお各図では説明の便宜上、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸、Z軸を図示している。また本実施形態ではX軸(第1軸)に平行な方向をX軸方向、Y軸(第2軸)に平行な方向をY軸方向、Z軸(第3軸)に平行な方向をZ軸方向という。
【0024】
図1に示すジャイロセンサー10は、X軸回りに作用する回転を検出可能なセンサー素子100、Y軸回りに作用する回転を検出可能なセンサー素子200、Z軸回りに作用する回転を検出可能なセンサー素子300を備えている。
図2はX軸回りに作用する回転を検出可能なセンサー素子の構成概略を示す説明図である。図2に示すセンサー素子100は、振動系構造体12上に形成した外マス部14と、駆動バネ部60と、外マス部14に囲まれた内マス部16と、外マス部14を駆動させる駆動部70と、外マス部14と内マス部16を接続するバネ部20と、軸回りの変位を検出可能な第1検出部としての検出部30と、内マス部16に支持された振動体40と、を主な基本構成としている。
【0025】
基板となる振動系構造体12は、シリコンを主材料として構成されていて、シリコン基板(シリコンウエハ)上に薄膜形成技術(例えば、エピタキシャル成長技術、化学気相成長技術等の堆積技術)や各種加工技術(例えばドライエッチング、ウェットエッチング等のエッチング技術)を用いて所望の外形形状に加工することにより、前述した各部が一体的に形成されている。或いは、シリコン基板とガラス基板を張り合わせた後に、シリコン基板のみを所望の外形形状に加工することで、前述の各部を形成することもできる。振動系構造体12の主材料をシリコンとすることにより、優れた振動特性を実現できるとともに、優れた耐久性を発揮することができる。またシリコン半導体デバイス作製に用いられる微細な加工技術の適用が可能となり、ジャイロセンサー10の小型化を図ることができる。
【0026】
外マス部14は内側に第1空洞部15を備え、Z軸を法線とする平面視にて略矩形の枠体である。なお、本実施例において、外マス部14および内マス部16は共に枠状になっているが、枠状以外の形状も適用可能である。外マス部14は、Z軸を法線とする平面視にてX軸と交差する側面を駆動バネ部60と接続させている。
【0027】
駆動バネ部60は、外マス部14と固定部50とを連結している。駆動バネ部60は、第1及び第2駆動バネ部62,64から構成されている。第1駆動バネ部62は、一対の第1駆動バネ部62a,62bから構成されており、各第1駆動バネ部62a,62bはY軸方向に往復しながらX軸方向に延在する形状をなしている。また第1駆動バネ部62a,62bは、Z軸を法線とする平面視にて、外マス部14の中心Cと交わるY軸に対して対称的に設けられている。各第1駆動バネ部62a,62bをこのような形状とすることにより、第1駆動バネ部62をY軸方向及びZ軸方向への変形を抑制しつつ、駆動方向AであるX軸方向にスムーズに伸縮させることができる。
【0028】
また、第2駆動バネ部64の構成は、外マス部14の中心Cと交わるX軸に対して、第1駆動バネ部62と対称的に設けられ、一対の第2駆動バネ部64a,64bから構成されている。各第2駆動バネ部64a,64bをこのような形状とすることにより、第2駆動バネ部64をY軸方向及びZ軸方向への変形を抑制しつつ、駆動方向であるX軸方向にスムーズに伸縮させることができる。
【0029】
内マス部16は、外マス部14の第1空洞部15に設けられ、外周を外マス部14に囲われている。なお、内マス部16の内側には、第2空洞部17が形成されている。内マス部16はZ軸を法線とする平面視にて略矩形の枠体であり、Y軸と交差する側面を、バネ部20を介して外マス部14と接続させている。
【0030】
バネ部20は、第1及び第2バネ部22,24から構成されている。第1バネ部22は、一対の第1バネ部22a,22bから構成されており、各第1バネ部22a,22bはX軸方向に往復しながらY軸方向に延在する形状をなしている。また第1バネ部22a,22bは、Z軸を法線とする平面視にて、外マス部14の中心Cと交わるX軸に対して対称的に設けられている。各第1バネ部22a,22bをこのような形状とすることにより、第1バネ部22をX軸方向及びZ軸方向への変形を抑制しつつ、検出方向であるY軸方向にスムーズに伸縮させることができる。また、第2バネ部24の構成は、外マス部14の中心Cと交わるY軸に対して、第1バネ部22と対称的に設けられ、一対の第2バネ部24a,24bから構成されている。各第2バネ部24a,24bをこのような形状とすることにより、第2バネ部24をX軸方向及びZ軸方向への変形を抑制しつつ、検出方向であるY軸方向にスムーズに伸縮させることができる。
【0031】
駆動部70は、外マス部14をX軸方向に所定の周波数で振動させる機能を備えている。すなわち駆動部70は、外マス部14を+X軸方向に変位させる状態と、−X軸方向に変位させる状態とを繰り返すように振動させている。図2に示す駆動部70は、図示しない駆動電極と固定電極から構成されており、Y軸と交差する側面に1つ設けており、例えば、駆動電極と固定電極間の静電力により駆動させる。この他、外マス部14をX方向に振動させることができる構成であれば、Y軸と交差する両側面に設けるように構成すれば、より安定した駆動運動が行える。固定電極は駆動電極を介してX軸方向に対向配置された櫛歯状の一対の電極片を有している。このような構成の駆動部70は、図示しない電源によって、電極片に電圧を印加することにより、各駆動電極と各電極片との間に静電力を発生させ、駆動バネ部60を伸縮させつつ、外マス部14を所定の周波数でX軸方向に振動させている。なお駆動部70は、静電駆動方式、圧電駆動方式、又は磁場のローレンツ力を利用した電磁駆動方式等を適用することができる。
【0032】
検出部30は、可動電極32と固定電極34から構成されている。可動電極32は駆動方向となるX軸方向に沿って両端を内マス部16に接続させ、隣接する電極同士が所定の間隔を開けるように複数設けている。固定電極34は、可動電極32間の隙間で駆動方向となるX軸方向に沿って設け、下部基板(不図示)のアンカーに固定させている。このような可動電極32と固定電極34は、交互に配置された櫛歯状に形成されている。上記構成による検出部30は、図示しない電源によって、電極に電圧を印加するとことにより、各可動電極32と各固定電極34との間に静電力が発生する。内マス部16がY軸方向に変位すると、可動電極32が固定電極34に接近又は離間することにより静電容量が変化する。この静電容量の変化を検出してY軸方向の変位量を求めることができる。
【0033】
振動体40は、内マス部16内に設けられ、固定端42側を内マス部16に接続させて、自由端44側をX軸方向に沿って延出させている。振動体40は、固定端42側が内マス部16に支持されて、自由端44側がZ軸方向に上下動可能な片持ち支持された構造(カンチレバー構造)となる。振動体40の自由端44側は、駆動方向Aに延出されているため、外マス部14の駆動方向Aに駆動振動すると、自由端44が±Z軸方向に振動させることができる。また振動体40は、2つの検出部30に挟まれるように内マス部16の中心に配置されている。このような構成により安定した振動を維持することができる。
【0034】
図3は振動体の変形例1〜4の説明図である。振動体は、内マス部に片持ち支持された構造であり、駆動部による駆動振動に伴ってZ軸方向へ振動可能な形状であれば、次のような変形例1〜4の形状に形成することもできる。(1)、(2)は振動体40a,40bの平面図であり、いずれも固定端42側と内マス部16を支持部46a,46bを介して接続させている。支持部46a,46bは振動体よりも細腕に形成している。また固定端42と内マス部16の間に開口47を設けている。このような振動体40a,40bは支持部46a,46bにより剛性を小さくし自由端44を振動し易い構造にすることができる。(3)は振動体40cの断面図であり、固定端42側に薄肉部48を形成している。このような振動体40cは、薄肉部48により剛性を小さくし自由端44を振動し易い構造にすることができる。(4)は振動体40dの平面図であり、Z軸を法線とする平面視にて、自由端44aを固定端42aよりも幅広に、又は断面視で自由端44aを固定端42aよりも厚肉となるハンマーヘッド型に形成している。このような振動体40dは、自由端44aの質量を固定端42aよりも大きくすることができ(錘部を形成でき)、駆動に対してZ軸方向へ振動し易い構造にすることができる。なお、振動体40a,40bの延出方向の全長の中心線で振動体を分割したときに、固定端側(一端側)とは中心線から固定端までの領域を指し、自由端側(他端側)とは中心線から先端までの領域を指す。
【0035】
本発明のジャイロセンサーは、振動体を振動させる駆動部を一元化させてセンサー全体の小型化を図っている。一定の振動周波数で角速度を検出するためには駆動部による駆動振動の駆動共振周波数と同じ周波数で振動体を振動させる必要がある。振動体40は、予め、駆動共振周波数と同じ周波数で発振するような形状に設計しているが、製作上の誤差等により、同じ周波数に形成することが困難な場合がある。そこで実施形態の振動体40は上面に共振周波数を調整可能な周波数調整部80を設けている。図4は周波数調整部の説明図であり、(1)は斜視図であり、(2)は(1)のa−a断面図である。周波数調整部80は、振動体40の上面に金、タングステンなどの金属膜を塗布することにより形成することができる。そして(2)に示すように周波数調整部80にレーザー光を照射して、金属膜を剥離させて振動体40の質量を減少させて、共振周波数を調整することができる。このような金属膜の他にも、シリコン材料の振動体40に直にレーザー光を照射して、振動体40の質量を減少させて、共振周波数の調整を行うように構成することもできる。このような周波数調整部80により、振動体40の共振周波数と、駆動部70による外マス部14の駆動の駆動共振周波数を一致させることができる。
【0036】
Y軸回りに作用する回転を検出可能なセンサー素子200は、図1に示すように、外マス部14の第1空洞部15に一対の変位板90a,90bを設けている。変位板90a,90bは回転軸92a,92bで外マス部14のX軸方向と直行する側面に連結されている。回転軸92a,92bは、各変位板90a,90bの重心からずれた位置に形成している。回転軸92a,92bは共に回転方向がX軸方向に沿って設けられている。回転軸92a,92bは変位が加わったときにその軸回りにねじり変形させ変位板90a,90bをZ軸方向に回転させる。また変位板90a,90bは、回転軸92a,92bに対し重力(Z軸方向の変位)による回転方向が互いに逆方向に回転するように取り付けている。換言すると、回転軸92a,92bの変位板90a,90bの重心からのずれの方向と、回転軸92a,92bの変位板90a,90bの重心からのずれの方向とは、互いに反対方向であるとも言える。変位板90a,90bと対向する箇所には、所定間隔を開けて下部電極(不図示)を設けている。
【0037】
Z軸回りに作用する回転を検出可能なセンサー素子300は、図1に示すように外マス部14内に内マス部116と、バネ部120と、第2検出部としての検出部130を設けている。
内マス部116は、外マス部14の第1空洞部15に設けられ、外周を外マス部14に囲われている。内マス部116はZ軸を法線とする平面視にて略矩形の枠体であり、Y軸と交差する側面を、バネ部120を介して外マス部14と接続させている。
【0038】
バネ部120は、第1及び第2バネ部122,124から構成されている。第1バネ部122は、一対の第1バネ部122a,122bから構成されており、各第1バネ部122a,122bはX軸方向に往復しながらY軸方向に延在する形状をなしている。また第1バネ部122a,122bは、Z軸を法線とする平面視にて、外マス部14の中心C’と交わるX軸に対して対称的に設けられている。各第1バネ部122a,122bをこのような形状とすることにより、第1バネ部122をX軸方向及びZ軸方向への変形を抑制しつつ、検出方向であるY軸方向にスムーズに伸縮させることができる。また、第2バネ部124の構成は、外マス部14の中心C’と交わるY軸に対して、第1バネ部122と対称的に設けられ、一対の第2バネ部124a,124bから構成されている。各第2バネ部124a,124bをこのような形状とすることにより、第2バネ部124をX軸方向及びZ軸方向への変形を抑制しつつ、検出方向であるY軸方向にスムーズに伸縮させることができる。
【0039】
検出部130は、センサー素子100の検出部30と同様に、可動電極132と固定電極134から構成されている。可動電極132は駆動方向となるX軸方向に沿って両端を内マス部116に接続させ、隣接する電極同士が所定の間隔を空けるように複数設けている。固定電極134は、可動電極132間の隙間で駆動方向となるX軸方向に沿って設け、下部基板(不図示)のアンカーに固定させている。このような可動電極132と固定電極134は、交互に配置された櫛歯状に形成されている。
【0040】
本発明のジャイロセンサー10は、振動系構造体121上に2つの振動体を備えている。具体的には、センサーの駆動方向(X軸方向)に沿ってセンサー素子100,200,300を有する第1振動系構造体112と、センサー素子100,200,300を有する第2振動系構造体212から構成されている。ここでセンサー素子100の第1振動体40aと第2振動体40bは、振動方向が同一となるように配置している。具体的に第1振動体40aの自由端と第2振動体40bの自由端とが対向するように配置している。或いは、第1振動体40aの自由端と第2振動体40bの自由端とは互いに離間するように配置してもよい。
【0041】
なお、第1及び第2振動系構造体112,212は、少なくともセンサー素子100を基本構成とし、Y軸及びZ軸回りに作用する回転を検出可能なセンサー素子200,300のいずれか一方を備える構成とすることもできる。
【0042】
振動系構造体120は、シリコンを主材料として構成されていて、シリコン基板(シリコンウエハ)上に薄膜形成技術や各種加工技術を用いて所望の外形形状に加工することにより、各部が一体的に形成されている。
【0043】
また、第1及び第2振動系構造体112,212の間には、第3駆動バネ部(連結バネ)66を形成している。第3駆動バネ部66は、一対の第3駆動バネ部66a,66bから構成されており、各第3駆動バネ部66a,66bはY軸方向に往復しながらX軸方向に延在する形状をなしている。また第3駆動バネ部66a,66bは、Z軸を法線とするXY平面視にて、第1振動系構造体112と第2振動系構造体212の中心Cと交わるX軸に対して対称的に設けられている。各第3駆動バネ部66a,66bをこのような形状とすることにより、第1駆動バネ部62及び第2駆動バネ部64をY軸方向及びZ軸方向への変形を抑制しつつ、X軸方向にスムーズに伸縮させることができる。第1及び第2振動系構造体112,212の四隅には、第1及び第2駆動バネ部62,64を設けている。
【0044】
またジャイロセンサー10の駆動部72は、図2に示す駆動部70と基本構成は同じである。第1振動系構造体112のX軸方向と交差する側面に一対の駆動部72a,72bを取り付け、第2振動系構造体212のX軸方向と交差する側面に一対の駆動部72c,72dを取り付けている。第1振動系構造体112の駆動部72a,72bと、第2振動系構造体212の駆動部72c,72dは、位相が180度ずれた交番電圧を印加することにより、各駆動電極と各電極片との間にそれぞれ静電力を発生させている。第1〜第3駆動バネ部62,64,66がX軸方向に伸縮すると、第1振動系構造体112と第2振動系構造体212は、互いに逆位相でかつ所定の周波数でX軸方向に振動させることができる。なお、駆動部72a,72bは、どちらか一方のみ形成されていれば良い。駆動部72c,72dについても同様である。
【0045】
上記構成による本発明のジャイロセンサー10の作用について以下説明する。
一般にコリオリ力は数式1のように表すことができる。
【数1】

【0046】
図5はX軸回りに作用する回転を検出する説明図であり、(1)は斜視図であり、(2)は(1)のb−b断面図である。外マス部内の内マス部16は、駆動部によって駆動方向Aに駆動している。この駆動振動に伴って、振動体40がZ軸方向に振動(v)する。そして駆動方向となるX軸方向の軸回りに角速度(Ωx)が入力された場合、コリオリ力は±Y軸方向に作用する。Y軸方向にコリオリ力が作用すると、検出部30は、可動電極32が固定電極34に接近又は離間することにより静電容量が変化する。この静電容量の変化を検出してY軸方向のコリオリ力を求めることにより、X軸回りに作用する回転を検出することができる。
【0047】
図6はY軸回りに作用する回転を検出する説明図であり、(1)は斜視図、(2)は(1)のc−c断面図である。外マス部14は駆動部によって駆動方向Aに駆動している。そしてY軸方向の軸回り角速度(Ωy)が入力された場合、コリオリ力は±Z軸方向に作用する。Z軸方向にコリオリ力が作用すると、変位板90a,90bは下部電極と接近又は離間することにより静電容量が変化する。この静電容量の変化を検出してZ軸方向のコリオリ力を求めることにより、Y軸回りに作用する回転を検出することができる。
【0048】
図7はZ軸回りに作用する回転を検出する説明図である。外マス部内の内マス部116は、駆動部によって駆動方向Aに駆動している。そしてZ軸方向の軸回りに角速度(Ωz)が入力された場合、コリオリ力は±Y軸方向に作用する。Y軸方向にコリオリ力が作用すると、検出部130は、可動電極132が固定電極134に接近又は離間することにより静電容量が変化する。この静電容量の変化を検出してY軸方向のコリオリ力を求めることにより、Z軸回りに作用する回転を検出することができる。
【0049】
なお、図1のセンサー素子100において、X軸回りに作用する回転を検出する際に、Z軸回りに作用する回転も検出される場合がある。本発明のジャイロセンサー10は、第1振動体40aと第2振動体40bが振動体の延出方向を反対方向にすることによりZ方向の振動方向が同一となるように構成している。このような構成によれば、Z軸回りの回転を受けたときの内マス部16の変位は、第1振動系構造体112側と第2振動系構造体212側でY軸方向で互いに逆向きとなり、両者からの出力信号の和を取ることにより除去して、X軸回りの変位のみを検出することができる。
【0050】
このようなジャイロセンサー10によれば、多軸検出のための駆動部を共通化してセンサー全体の小型化を図ることができる。
また、図1のセンサー素子100において、Y軸の加速度成分が検出される場合がある。このY軸加速度成分を無くしたい場合は、第1振動体40aと第2振動体40bの振動体の延出方向を同じにして、第1振動体40aと第2振動体40bのZ軸方向の振動方向を互いに逆にし、第1振動系構造体112側と第2振動系構造体212側の両者からの出力信号の差を取ることにより、Y軸加速度の検出を除去することができる。
【0051】
図8はジャイロセンサーの集積回路の説明図である。図示のようにジャイロセンサー10は、駆動部70に集積回路(IC)52を電気的に接続させている。本発明のジャイロセンサー10は、1つの駆動部70により外マス部14を駆動振動させて、センサー素子100,200,300により複数の角速度を検出することができる。駆動部70は集積回路52で駆動させることにより、各軸の駆動共振周波数を同一にして所望の駆動振幅を得ることができる。
【0052】
図9は本発明のジャイロセンサーを備える電子機器を適用した携帯電話機の説明図である。図示のように携帯電話機500は、複数の操作ボタン502、受話口504、および送信口506を備え、操作ボタン502と受話口504との間には、表示部508が配置されている。このような携帯電話機500には角速度検出手段として機能するジャイロセンサー10が内蔵されている。
【符号の説明】
【0053】
10………ジャイロセンサー、12,121………振動系構造体、14………外マス部、15………第1空洞部、16,116………内マス部、17………第2空洞部、20,120………バネ部、22,122………第1バネ部、24,124………第2バネ部、30,130………検出部、32,132………可動電極、34,134………固定電極、40………振動体、42………固定端、44………自由端、47………開口、48………薄肉部、50………固定部、52………集積回路(IC)、60………駆動バネ部、62………第1駆動バネ部、64………第2駆動バネ部、66………第3駆動バネ部、70,72………駆動部、80………周波数調整部、90a,90b………変位板、92a,92b………回転軸、100,200,300………センサー素子、112………第1振動系構造体、212………第2振動系構造体、500………携帯電話機、502………操作ボタン、504………受話口、506………送信口、508………表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1空洞部を有した外マス部と、
前記外マス部の前記第1空洞部内に設けられ、且つ第2空洞部を有した内マス部と、
前記外マス部を前記内マス部と一体に第1軸の方向に駆動させる駆動部と、
前記外マス部と前記内マス部との間に接続され、前記第1軸の方向に直交する第2軸の方向に変位可能なバネ部と、
前記内マス部の前記第2空洞部内に設けられ、前記第1軸の軸回りの角速度を検出する第1検出部と、
前記内マス部の前記第2空洞部に設けられた振動体と、
を備えた振動系構造体を備え、
前記振動体は、前記内マス部の前記第2空洞部の内壁に一端を接続させ、前記第1軸の方向に延出させて他端を浮かせた片持ち支持構造であり、前記第1軸の方向の駆動振動に伴い、前記振動体が前記第1軸及び前記第2軸に対して垂直な第3軸方向に振動可能なことを特徴とするジャイロセンサー。
【請求項2】
前記振動体には、周波数調整部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のジャイロセンサー。
【請求項3】
前記周波数調整部は、前記振動体の前記他端側に設けられていることを特徴とする請求項2に記載のジャイロセンサー。
【請求項4】
前記周波数調整部には、金属膜が設けられていることを特徴とする請求項2または3に記載のジャイロセンサー。
【請求項5】
前記振動体は、前記一端側の剛性が前記他端側の剛性よりも小さいことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のジャイロセンサー。
【請求項6】
前記振動体には、前記他端側に錘部が設けられていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のジャイロセンサー。
【請求項7】
前記振動体には、前記一端側に溝又は貫通孔が設けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のジャイロセンサー。
【請求項8】
前記外マス部は、基板の上方に配置されており、
前記第1検出部は、前記基板に設けられている固定電極と、前記内マス部に設けられている可動電極とを含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のジャイロセンサー。
【請求項9】
前記振動系構造体を前記第1軸の方向に並べて配置し、前記振動系構造体同士を連結するバネで接続し、前記振動系構造体同士を互いに反対方向に振動させることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載のジャイロセンサー。
【請求項10】
一方の前記振動系構造体の前記振動体の前記延出の方向と、他方の前記振動系構造体の前記振動体の前記延出の方向とを逆にし、
一方の前記振動系構造体の出力信号と、他方の前記振動系構造体の出力信号の和をとることを特徴とする請求項9に記載のジャイロセンサー。
【請求項11】
一方の前記振動系構造体の前記振動体の前記延出の方向と、他方の前記振動系構造体の前記振動体の前記延出の方向とを同じにし、
一方の前記振動系構造体の出力信号と、他方の前記振動系構造体の出力振動の差をとることを特徴とする請求項9に記載のジャイロセンサー。
【請求項12】
前記振動系構造体には、前記第2軸および前記第3軸の軸回りの角速度の少なくとも一方を検出する第2検出部が設けられていることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載のジャイロセンサー。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載のジャイロセンサーを備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−242240(P2012−242240A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112577(P2011−112577)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】