説明

ジャカード経編地の製編方法と婦人用下着

【課題】 弾性経編地を編成するに際し、生地安定性に優れるとともに、肌当たり性が良好で、衣料品の製造において、編地を切り放しで使っても解れが生じないジャカード経編地と婦人用下着を提供することを目的とする。
【解決手段】 ジャカード筬の前後に基布形成筬を配してなるダブルニードル列経編機を用いたジャカード経編地の製編方法と該方法による婦人用下着であり、ジャカード筬にポリウレタンなどの弾性糸を通糸し、前後の基布形成筬にポリアミドなどの非弾性糸を通糸して、前記弾性糸をジャカード制御することで、予め設定された経編地上の区域に応じて編地密度を変化させ、生地弾性の強弱区域を設け、必要に応じジャカード柄構成個所を設けるとともに、前部基布形成用の非弾性糸を後部ニードルでループ形成させ、後部基布形成用の非弾性糸を前部ニードル列でループ形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャカード筬と基布形成筬を備えてなるダブルニードル列経編機を用いたジャカード経編地の製編方法と該方法により得られる婦人用下着に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シングルラッシェル編機により、弾性糸と非弾性糸を用いて弾性経編地を編成することや、ジャカード筬を備えたシングルジャカードラッシェル編機により、弾性糸と非弾性糸を用い弾性を有する編地を編成するとともに、編地上にジャカード柄構成することは一般的に行われており、これらの編成で作られた弾性経編地は、女性用のインナーウェアーやスポーツウェアー等の各種衣料製品に利用されている。
【0003】
その中で、特開2005−320644号公報に開示されているカップ部とバック布を有するブラジャーについては、カップ部とバック布をシングルラッシェル編機により一体に編成してなるもので、裁断されたままの状態で縁始末不要な編地縁を有する編組織により編成されることで目的の編地が得られている。即ち、この編地を構成している弾性糸と非弾性糸の編糸の編組織を1×1トリコットなどのトリコット組織とすることで裁断してもその個所から解れ難い編構造を呈することになる。
【0004】
又、特開2005−187960号公報に開示されているものは、ダブルニードル列経編機を用いた伸縮性経編地に関するものであり、ダブルラッシェル機による編成であるために編地のニードルループ面、即ち表裏両面は、平滑であり肌当たり性も良いものとなる。
【特許文献1】特開2005−320644号公報
【特許文献2】特開2005−187960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記編地のうち前述のものは、シングルラッシェル機により編成されたものであり、しかも編組織がトリコット編組織であるために、切り放しのまま使用すると、どうしても縁部からまくれ上がる現象が生じ易くなる。又、シングルラッシェル機による編成であるために、編地のニードルループ面は平滑であるが、反対面のシンカーループ側はどうしても平滑とはならず、肌当たり性が満足できるものでなかった。更に、編み込まれる弾性糸がニードルループを形成する編組織であるがゆえに、一方面に非弾性糸とともに表出し易くなり、洗濯を繰り返した際に表面に飛び出すことがあるなど、今ひとつ耐久性において満足できるものでなかった。
【0006】
又、後述の編地については、ダブルラッシェル機による編成であるために、編地両面は上述のごとく平滑で肌当たり性は良好なものとなるが、編地全体に弾性度は一様であり、例えば女性用下着の一種であるブラジャーなどのように部分的に伸縮性が強い個所とさほど伸縮性の必要がない区域を限られた個所に設けることが必要なものはできなかった。
【0007】
本発明は、上記欠点を解消し、生地安定性に優れ、必要に応じ弾性度の強弱域を任意に設けることができるとともに、ジャカード筬に通糸した弾性糸により、ジャカード柄を生地上に表現することができるジャカード経編地の製編方法を提供するとともに、該方法により製編されたジャカード経編地から作ることで、切り放しで使っても解れが生じない婦人用下着を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、ジャカード筬の前後に基布形成筬を配してなるダブルニードル列経編機を用いたジャカード経編地の製編方法であって、ジャカード筬にポリウレタンなどの弾性糸を通糸し、前後の基布形成筬にポリアミドなどの非弾性糸を通糸してなり、前記弾性糸をジャカード制御することで、予め設定された経編地上の区域に応じて編地密度を変化させ、生地弾性の強弱区域を設けるとともに、前部基布形成用の非弾性糸を後部ニードルでループ形成させ、後部基布形成用の非弾性糸を前部ニードル列でループ形成させるようにするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製編方法によれば、編機前部に配列した非弾性糸と編機後部に配列した非弾性糸に挟み込まれる形態で、弾性糸をトリコット編組織で編む結果、隣り合う弾性糸相互のシンカーループが接触することで、弾性糸のスリップが生じにくくなるとともに、弾性糸によるトリコット編組織のシンカーループ長をジャカード制御することで長短が設けられる結果、所望の区域での生地弾性の強弱が設定できることになる。又、前後部の各非弾性糸を、反対側のニードルに作用させてニードルループを形成するので、互いのシンカーループ同士が引き合う形態となる結果、生地全体に表裏の生地のバランスがとれることとなるので、生地のまくれ上がり現象が防止される。更に、ダブルニードル列経編機により編成を行うので、生地の表裏とも平滑な形態の生地が得られる。又、必要に応じ、生地全面に亘ってジャカード柄を配置できるので、装飾効果も高められることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
ジャカード筬を2列有し、各ジャカード筬に弾性糸を通糸してなることで、各筬に通糸してなる弾性糸のシンカーループ相互を交差接触させることができる結果、生地弾性のバランスがより好適なものとなり、生地安定性が向上する。
【0011】
弾性糸をジャカード制御して柄構成するようにすれば、より生地の装飾効果が高められることになる。
【0012】
弾性糸を熱融着性を有する熱融着糸とすることで、より解れ防止効果が高められる結果、生地の耐久性が大幅に向上する。
【0013】
上記ジャカード経編地の編成方法により編成された経編地を婦人用下着とすることで、必要に応じ伸縮性の強い区域が弾性糸のジャカード制御により限定的に設けられてなるとともに、強伸縮性の区域と比較的強くない伸縮性の区域における編地の密度差を利用して柄構成できるので、意匠効果及び補整効果に優れ、肌当たりが良く、心地よい通気性が得られる婦人用下着となる。
【0014】
婦人用下着がブラジャーでカップ部とウイング部が一体に編成されたものとすることで、バストアップ効果と意匠効果を兼ね備えてなる好適な一体型ブラジャーが得られる。
【実施例】
【0015】
次に、本発明の製編方法について、実施例に基づき説明する。
【0016】
図1は本発明のジャカード経編地を製編する際に使用する2列のジャカード筬を備えた2列のニードルバーを有する経編機の編成要部の概略側面図である。本実施例の製編方法を行なう経編機として、2列のジャカード筬の前後に基布形成筬が配されたダブルニードル列経編機(HDRPJ8/2機…日本マイヤー社製造)を用いた。編機ゲージは24E(1吋あたりの編針本数が24本)、編幅は42吋である。Fは前方の編針列、Bは後方の編針列であり、GB1、GB2、GB3は前方側の地筬、PJB5、PJB6は2列のジャカード筬、GB7、GB9、GB10は、後方側の地筬である。なお、本経編機においては、地筬GB3に替えて柄筬PB3,PB4(図示せず)を、又、地筬GB7に替えて柄筬PB7,PB8(図示せず)を設けられるようになっている。そして、地筬GB1,GB2,GB3、ジャカード筬PJB5,PJB6、地筬GB7は前方の編針列Fにオーバラップ可能であるとともに、地筬GB3、ジャカード筬PJB5,PJB6、地筬GB7は後方の編針列Bにもオーバラップ可能に、又、地筬GB9,GB10は後方の編針列Bのみにオーバラップ可能な編成タイミングにそれぞれ設定されている。
【0017】
本実施例の編成のために使用する編筬は、前後1列ずつの基布形成用の地筬GB3,GB7と、これらの地筬GB3と地筬GB7に挟まれた2列のジャカード筬PJB5,PJB6である。
【0018】
以上のごとく、編機前部より基布形成用の地筬GB3、ジャカード筬PJB5、ジャカード筬PJB6、基布形成用の地筬GB7の順番に配列された各筬を使用しており、前部編針列Fと後部編針列Bの上方にそれぞれ配設されてなる。ジャカード筬PJB5、ジャカード筬PJB6はそれぞれ2枚のガイドバーより構成され、各ガイドバーのジャカードガイドは、1インチあたり12本設けられ、編針間の位置に対応して、1ゲージ分ずれた交互位置に配列されている。
【0019】
次に、本発明のジャカード経編地の製編方法の一実施例について、図2に示す編組織図の一例に基づいて説明する。1は地筬GB3に通糸してなる非弾性糸からなる地糸であり、ポリアミド糸 44dtexを地ガイドにフルセット(編機ゲージ数と同じ本数分の糸を地ガイドに全通しすることを意味し、以下同じ)で通糸してなり、2はジャカード筬PJB5に通糸してなる弾性糸であり、ポリウレタン糸 44dtexをジャカードガイドにフルセットで通糸してなり、3はジャカード筬PJB6に通糸してなる弾性糸であり、ポリウレタン糸 44dtexをジャカードガイドにフルセットで通糸してなり、4は地筬GB7に通糸してなる非弾性糸からなる地糸であり、ポリアミド糸 44dtexを地ガイドにフルセットで通糸してなる。
【0020】
これらの一製編方法を実施するための実施例編組織のチェーン番号は、以下の通りである。表記される番号のうち奇数番目に示されるものは、前部編針Fへの作用位置を、偶数番目に示されるものは、後部編針Bへの作用位置を示している。
GB3 :2−2/1−0/1−1/2−3//
PJB5:1−0/1−1/1−2/1−1//
PJB6:1−1/1−2/1−1/1−0//
GB7 :2−3/2−2/1−0/1−1//
【0021】
上記編成においては、前部の地筬GB3に通糸した地糸1が後部編針列Bでニードルループを形成し、後部の地筬GB7に通糸した地糸4が、前部編針列Fでニードルループを形成することになるので、地糸1,4で作られるシンカーループ1a,4aが、図3に示すように前後のニードルループを引き寄せる構造になるとともに、編み上がりにおいて、弾性糸2,3が表裏生地にニードルループで止定された状態で編方向に延在した形態を呈した編構造となるものである。
【0022】
次に、図4及び図5を用いて弾性糸2,3へのジャカード制御の具体的な方法について説明する。図4はジャカード筬PJB5での弾性糸2のジャカード制御組織の変化例を示す説明図であり、図5はジャカード筬PJB6での弾性糸3のジャカード制御組織の変化例を示す説明図である。図中HとTで示す記号は、それぞれのジャカード筬のアンダラップ位置とオーバラップ位置におけるジャカードガイドに対する制御信号の種類を示している。Hはジャカードガイドを基本位置へ変位させる信号を示し、Tは基本位置とは反対の位置に1ゲージ分変位させる信号を示している。信号の送信タイミングは、1編成コースに2回あり、最初は糸を挿入状に投げ渡すアンダラップの始まり位置であり、次が編針に糸を掛けて編目を形成するためのオーバラップの始まり位置である。図中、・印は各編針の位置を示しており、編針記号・を挟んで上下にH又はTの記号で示している。
【0023】
図4における(1)から(6)は弾性糸2に対する6種類のジャカード制御組織を示している。(1)は基本組織であり、弾性糸2は編コースF1,F2において、前部編針列Fの隣接する編針に対し交互にオーバラッピングを繰り返すもので、形成されるシンカーループ2aは、図3に示す隣接する2つの前部編針Fにより形成されたニードルループ2F1,2F2間を往復する形態となる。図中、Ffは前後編針F側で形成される前部基布を、Bfは後部編針B側で形成される後部基布を略示している。
【0024】
ジャカード制御組織(2)は編コースF2において、弾性糸2が点線で示す基本組織の位置から1ゲージ分矢印方向にオーバラッピング位置が変位されることで、形成されるシンカーループ2bは基本組織(1)より1針間分長い3針間を往復する形態となる。
【0025】
ジャカード制御組織(3)は編コースF1において、弾性糸2が点線で示す基本組織の位置から1ゲージ分矢印方向に変位されてオーバラッピングし、更に編コースF2においてもジャカード制御組織(2)同様1ゲージ分矢印方向にオーバラッピング位置が変位されるので、結果的にシンカーループ2cは2針間往復する形態となる。
【0026】
ジャカード制御組織(4)は編コースF1において、弾性糸2が点線で示す基本組織の位置から1ゲージ分矢印方向にオーバラッピング位置が変位されることで、形成されるシンカーループ2dは1つの針列を経方向に連結した形態となる。
【0027】
ジャカード制御組織(5)は弾性糸2が編コースB1において、アンダラップがオーバラップに変化し、続けて編コースF2にて基本組織の位置でオーバラッピングすることで、前後1針間のニードルループを連結するシンカーループ2e1とともに、シンカーループ2e2によって対向する前後のニードルループを連結することになる。
【0028】
ジャカード制御組織(6)は弾性糸2が編コースB1において、アンダラップがオーバラップに変化し、続けて編コースF2において基本組織の位置から1ゲージ分矢印方向に変位されて、シンカーループ2f1,2f2が形成されることで、結果的に3針間における前後のニードルループが連結されることになる。
【0029】
又、図5における(7)から(12)は弾性糸3に対する6種類のジャカード制御組織を示している。(7)は基本組織であり、弾性糸3は編コースB1,B2において、後部編針列Bの隣接する編針に対し交互にオーバラッピングを繰り返すもので、形成されるシンカーループ3aは図3に示す隣接する2つの後部針列Bにより形成されたニードルループ3B1,3B2間を往復する形態となる。
【0030】
ジャカード制御組織(8)は編コースB2において、弾性糸3が点線で示す基本組織の位置から1ゲージ分矢印方向にオーバラッピング位置が変位されることで、形成されるシンカーループ3bは基本組織(7)より1針間長い3針間を往復する形態となる。
【0031】
ジャカード制御組織(9)は編コースB1において、弾性糸3が点線で示す基本組織の位置から1ゲージ分矢印方向に変位され、更に編コースB2においてもジャカード制御組織(8)同様1ゲージ分矢印方向にオーバラッピング位置が変位されるので、結果的にシンカーループ3cは2針間往復する形態となる。
【0032】
ジャカード制御組織(10)は編コースB1において、弾性糸3が点線で示す基本組織の位置から1ゲージ分矢印方向にオーバラッピング位置が変位されることで、形成されるシンカーループ3dは1つの針列を経方向に連結した形態となる。
【0033】
ジャカード制御組織(11)は弾性糸3が編コースF1において、アンダラップがオーバラップに変化し、続けて編コースB1にて基本組織の位置でオーバラッピングすることで、前後1針間のニードルループを連結するシンカーループ3e1とともに、シンカーループ3e2によって対向する前後のニードルループを連結することになる。
【0034】
ジャカード制御組織(12)は弾性糸3が編コースB2において基本組織の位置から1ゲージ分矢印方向に変位され、続けて編コースF1において、アンダラップがオーバラップに変化して、シンカーループ3f1,3f2が形成されることで、結果的に3針間における前後のニードルループが連結されることになる。
【0035】
しかして、編成時に弾性糸2については、ジャカード制御組織(1)〜(6)の中の1種類のジャカード制御組織が各編成コースにおいて選択され、弾性糸3については、ジャカード制御組織(7)〜(12)の中の1種類のジャカード制御組織が各編成コースにおいて選択され、これら弾性糸2と弾性糸3のジャカード組織が組み合わされることになる。
【0036】
上記の組合せは、編成される女性用下着の生地における異弾性強弱区域の配置構成に基づき決定されるものであるが、これらの組合せの中で最も弾性パワーが大となるものは、ジャカード制御組織(6)と、ジャカード制御組織(12)に基づく弾性糸2と弾性糸3の編成区域となり、この個所は特に補整を必要とする下着などにおける部位に配設することが有効であり、配設位置及び占有形態は自在に選択可能である。
【0037】
これらの柄構成を含む区域は、直線状又は曲線状区域と、小柄の連続区域を所望の弾性区域に合わせて設定することが可能であり、その組合せは、弾性糸2の6種類と、弾性糸3の6種類を組み合わせた36通りであるが、基本的には各弾性糸による編針間での作用本数、即ちシンカーループの長さに依存されることになり、3針間、2針間、1針上の何れかの態様によって決定され、いわゆる厚地、薄地、穴地と称されるジャカード柄構成が適用されることになる。
【0038】
図6、図7に示すジャカード制御組織(13)〜(16)は更に別の態様の実施例であり、ジャカード制御組織(13),(15)は弾性糸2,3をそれぞれオーバラッピングさせずに経方向で直線状に延在させるためのものであり、この態様ではオーバラッピングを阻止させるべく、ジャカード制御組織(13)において弾性糸2は、編コースF1では信号をHに続いてTに換え、編コースF2では信号をTに続いてHに換えることで矢印方向に移行する。又、ジャカード制御組織(15)において弾性糸3は、編コースB1では信号をHに続いてTに換え、編コースB2では信号をTに続いてHに換えることにより編成する。これらのジャカード組織(13),(15)については、非弾性糸の地糸によるニードルループのみでの表面効果を強調するときに採用するもので、弾性糸2,3は生地中に隠蔽される。
【0039】
更に、ジャカード制御組織(14),(16)は弾性糸2,3を共に隣接する2本の編針に同時にオーバラッピングさせる、いわゆる二目編組織を構成してなるものであり、ジャカード制御組織(14)において弾性糸(2)は、編コースF1では信号をTに続いてHに換え、編コースF2では信号をHに続いてTに換える。又、ジャカード制御組織(16)において弾性糸3は、編コースB1では信号をTに続いてHに換え、編コースB2では信号をHに続いてTに換える。このジャカード制御組織(14),(16)については弾性生地の部分的物性において、非常にコシが強く伸びが少なく、かつ弾性パワーが大きいものが必要な場合、適宜適用されるものである。
【0040】
図8、図9に示す弾性糸2に対するジャカード制御組織(17),(17a),(18a),(18b)と、弾性糸3に対するジャカード制御組織(19),(19a),(20a),(20b)は、本発明の編成方法の別実施例である。なお、地糸1,4の編組織は、前記実施例と同一なので説明は省略する。この実施例のジャカード制御組織は基本的に、ジャカード制御組織(17),(19)が示すように、基本編組織は鎖編である。
【0041】
ジャカード制御組織(17a)は、ジャカード制御組織(17a)における毎編コースにおいて、信号Hを全てTに換えることで、弾性糸2は1ゲージ間分針列方向へ移動することになり、これにより糸なしの編針間をもたらす。同様にジャカード制御組織(19a)は、ジャカード制御組織(19a)における毎編コースにおいて信号Hを全てTに換えることで、弾性糸3は1ゲージ間分針列方向へ移動することになり、これにより糸なしの編針間をもたらす。この糸なしの編針間は、弾性糸が存在しない部分であり、この両部分の組合せで穴地編効果を生地上に生起させる。
【0042】
ジャカード制御組織(18a),(18b)はいずれもジャカード制御組織(17)を変化させて1ゲージ間のアンダラップ部分を設けたもので、いわゆる薄地組織にあたるものだが、ジャカード制御組織(18a)については、図4に示すジャカード制御組織(1)と同様に弾性糸2のシンカーループ2aが2針間を往復する形態となる。このシンカーループ2aについては、図2に示すように地糸4のシンカーループ4aと逆方向に位置するものであるのに対し、ジャカード制御組織(18b)におけるシンカーループ2bは、地糸4のシンカーループ4aと同方向に位置するものである。ここで、ジャカード制御組織(18a)とジャカード制御組織(18b)を比較した場合、同じ薄地組織でもジャカード制御組織(18a)の方は、シンカーループ4aとシンカーループ2aが同じ閉じ目のニードルループのもとで連結された状態であるので、幅方向(緯方向)への伸びが規制されるのに対し、シンカーループ4aとシンカーループ2bは、同方向でシンカーループ2bの方が開き目のニードルループのもとで、編成されるために、糸同士の異方向アンダラップによる規制を受けないので、幅方向(緯方向)への伸びが良くなる。
【0043】
ジャカード制御組織(20a),(20b)も同じように、ジャカード制御組織(19)を変化させて1ゲージ間のアンダラップ部分を設けたもので、これも薄地組織にあたり、ジャカード制御組織(20a)については、図5に示すジャカード制御組織(7)と同様に弾性糸3のシンカーループ3aが2針間を往復する形態となる。このシンカーループ3aについては、図2に示すように地糸1のシンカーループ1aと逆方向に位置するものであるのに対し、ジャカード制御組織(20b)におけるシンカーループ3bは、地糸1のシンカーループ1aと同方向に位置するものである。ここで、ジャカード制御組織(20a)とジャカード制御組織(20b)を比較した場合、同じ薄地組織でもジャカード制御組織(20a)の方は、シンカーループ1aとシンカーループ3aが同じ閉じ目のニードルループのもとで連結された状態であるので、幅方向(緯方向)への伸びが規制されるのに対し、シンカーループ1aとシンカーループ3bは、同方向でシンカーループ3bの方が開き目のニードルループのもとで編成されるために、糸同士の異方向アンダラップによる規制を受けないので、幅方向(緯方向)への伸びが良くなる。
【0044】
図10の(21)、(22)は、弾性糸2が前後のニードルループを連結するジャカード制御組織であり、ジャカード制御組織(21)の場合、弾性糸2が編コースF1においてジャカード制御組織(17)の基本位置から1ゲージ左に移行し隣接の編針でオーバラッピングし、続けて編コースB1で元の基本編針位置に戻ってオーバラッピングし、編コースF2で対向する前部編針でオーバラッピングの後、前後のニードルループを連結することになる。
【0045】
これに対し、ジャカード制御組織(22)の場合、弾性糸2が編コースF1と編コースB1において連続して前後の対向する編針に対しオーバラッピングした後、編コースF2にてジャカード制御組織(17)の基本位置から1ゲージ左に移行し隣接の編針でオーバラッピングの後、前後のニードルループを連結することになる。
【0046】
前記ジャカード制御組織(21)とジャカード制御組織(22)は、両組織とも前後に相対する隣接編針間においてニードルループが連結されることになるが、ジャカード制御組織(21)は編コースF2で開き目のオーバラッピングを、ジャカード制御組織(22)は編コースF2で閉じ目のオーバラッピングを行うことで、開き目であるジャカード制御組織(21)による弾性区域の伸長度が閉じ目であるジャカード制御組織(22)より大きいものとなる。
【0047】
図11の(25)、(26)は、弾性糸3が前後のニードルループを連結するジャカード制御組織であり、ジャカード制御組織(25)の場合、弾性糸3が編コースB1においてジャカード制御組織(19)の基本位置から1ゲージ右に移行し隣接の編針でオーバラッピングし、続けて編コースF2で元の基本編針位置に戻り、次に編コースB2で対向する前部編針でオーバラッピングの後、編コースF1で基本編針位置に戻り、前後のニードルループを連結することになる。
【0048】
これに対し、ジャカード制御組織(26)の場合、弾性糸3が編コースB1と編コースF2において連続して前後の対向する編針に対しオーバラッピングした後、編コースB2にてジャカード制御組織(17)の基本位置から1ゲージ右に移行し隣接の編針でオーバラッピングし、前後のニードルループを連結することになる。
【0049】
前記ジャカード制御組織(25)とジャカード制御組織(26)は、両組織とも前後に相対する隣接編針間においてニードルループが連結されることになるが、ジャカード制御組織(25)は編コースB2で開き目のオーバラッピングを、ジャカード制御組織(26)は編コースB2で閉じ目のオーバラッピングを行うことで、開き目であるジャカード制御組織(25)による弾性区域の伸長度が閉じ目であるジャカード制御組織(26)より大きいものとなる。
【0050】
なお、ジャカード制御組織(23),(24),(27),(28)は、前述のジャカード制御組織(13),(14),(15),(16)同様、別実施例における更に他の実施態様である。ジャカード制御組織(23)は弾性糸2について、ジャカード制御組織(27)は弾性糸3について、各々弾性糸2,3をオーバラッピングさせずに経方向で挿入状に介在させたものである。
【0051】
この態様では、オーバラッピングを阻止すべく、ジャカード制御組織(23)において弾性糸2は、編コースF1で、信号をHに続いてTに換え、編コースF2で信号をTに続いてHに換えた後、編コースB2では信号をTに続いてTに換える。
【0052】
又、ジャカード組織(27)において弾性糸3は、編コースF1において信号をTに続いてTに換え、編コースB1で信号をHに続いてTに換えた後、編コースB2では信号をTに続いてHに換えることにより編成する。これらのジャカード制御組織(23),(27)については、ジャカード制御組織(13),(15)同様、非弾性糸の地糸によるニードルループのみで表面効果が必要なときに採用するもので、弾性糸2,3は生地中に隠蔽される。
【0053】
そして、ジャカード制御組織(24),(28)は、弾性糸2,3を共に隣接する2本の編針に同時にオーバラッピングさせる、いわゆる二目編組織を構成してなるものであり、ジャカード制御組織(24)において弾性糸2は、編コースF1では信号をTに続いてHに換え、編コースF2では、信号をHに続いてTに換える。
【0054】
又、ジャカード制御組織(28)において弾性糸3は編コースF1で信号をTに続いてTに換え、編コースB1では信号をTに続いてHに換えた後、編コースB2では信号をHに続いてTに換える。
【0055】
なお、上述の説明における各図面中で示す矢印は、各ジャカード筬のガイドがジャカード制御により移行する方向を示す。
【0056】
上記本発明の実施例編成方法を用いて、婦人用下着のうちのブラジャー用としてジャカード経編地を製造した実施例を説明する。以下の実施例においては、何れかの部位にてジャカード制御組織(1)〜(16)のうち、弾性糸2及び弾性糸3による各々の制御組織を一つずつ用いて編成したものである。
【0057】
図12に示すものは、ブラジャーの一構成部材としてのウイング部材であり、30は一定の幅を維持して周縁を形成してなる縁取り部であり、弾性糸2をジャカード制御組織(2)で、弾性糸3をジャカード制御組織(8)で編成したものであり、弾性糸2,3ともシンカーループが3針間を往復するいわゆる厚地形態の複合生地となり、生地厚でしかも弾性伸長力が大きい物性を持つ部位となる。
【0058】
31は縁取り部30に囲繞された主体部であり、縁取り部30に比べて比較的弾性伸長力は小さいが、柄構成を伴う。図中は花柄を構成しており、茎32や葉33などを示す部分はジャカード制御組織(2),(8)の重合組織によって、生地上に明瞭な線柄を表し、又、花弁34についてもジャカード制御組織(2),(8)の重合組織のべた柄としている。
【0059】
上記茎32、葉33、花弁34による花柄以外の主体部31はジャカード制御組織(1),(7)の重合組織により構成してなる2針間を往復するいわゆる薄地形態の複合生地となる。
【0060】
図13に示すものは、ジャカード経編地をブラジャー用として、左右のカップ部35,36とこれらを連結する連結部37とを一体に編成し、ブラジャー全体を、編成された生地の切除部分(図示せず)と切り離すことで形成してなるものである。
【0061】
次に具体的に各部位についてのジャカード制御組織を説明する。なお、左右のカップ部35,36及び左右のウイング部38,39は、連結部37を中心にして左右対称であるので、これら各部位の説明は、左カップ部35と左ウイング部38についてのみ行い、右カップ部36と右ウイング部39については、その説明を省略する。
【0062】
先ず連結部37は、ジャカード制御組織(2),(8)の重合組織を用いることで、伸びが少なくかつ弾性力の大きい物性とし、これと同様の組織にて、左カップ部35における紐連結部分40及び左ウイング部38における縁取り部42を編成する。
【0063】
又、左カップ部35における上縁部分43では、ジャカード制御組織(1),(7)の重合組織を用いることで、比較的弾性力があり、かつ伸びがある物性をもたらす。
【0064】
更に、44は左カップ部35と連結部37とを区別するための境界線であり、ジャカード制御組織(1),(7)を採用することで、少し薄地の生地組織となり、境界線44により縁取り部分を表すようにする。
【0065】
45は左カップ部35の柄区域を除く主体部分であり、ジャカード制御組織(1),(4),(7)を用いて編成を行う。このジャカード制御組織は、フロント2種類の編組織による弾性糸2でネット組織を、バックの弾性糸3で薄地組織が編成され、これらの重合組織により構成されるので、やや薄めで透明感のある外観となる。
【0066】
前述の柄組織を表現してなる花の線柄46は、ジャカード制御組織(2),(7)を用いて編成を行う。このジャカード制御組織はフロントの弾性糸2による厚地組織と、バックの弾性糸3による薄地組織との重合組織となるので、主体部分45より少し浮き出た形態となり、線柄46が明瞭に表現される。
【0067】
47は花のべた柄であり、この部分はジャカード制御組織(2),(8)を用いて編成を行う。このジャカード制御組織は、フロントの弾性糸2とバックの弾性糸3による両厚地組織の重合組織となるので、線柄46の間を埋めて量感を表すのに好適なものとなる。
【0068】
又、左ウイング部38の主体部分は格子状の柄を構成しており、格子部48はジャカード制御組織(2),(7),(8)を用いて編成を行う。このジャカード制御組織は、フロントの弾性糸2による厚地組織と、2種類の組織でのバックの弾性糸3による厚地又は薄地組織の重合組織からなり、これに対し、格子部48以外の主体部分49はジャカード制御組織(1),(7),(8)を用いて編成を行う。このジャカード制御組織は、フロントの弾性糸2の薄地組織と、バックの弾性糸3の厚地又は薄地組織とによる重合組織よりなるので、主体部分49は薄地で比較的弾性力があり、かつ通気性もあり、この中に格子部48による意匠効果がもたらされる。
【0069】
図14は、図13において示すジャカード経編地を素材として、カップ部35,36に常法によりモールディング加工を施すとともに、左右の紐連結部分40a,40bと、左右のウイング部38,39間に肩紐50a,50bを取着するとともに、左右のウイング部38,39の自由端38a,38bには保持部材51,52を縫着してなることでブラジャー製品を完成するものである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明について、上記実施例では代表的婦人用下着であるブラジャーを説明したが、ブラジャーに限らずガードル、ショーツ、ボディスーツなどの体形補整機能が求められる婦人用下着に最適に利用可能であることは云うまでもなく、多様なジャカード制御組織の組合せにより、好適な補正形態が得られるとともに、柄構成が付加されることで、求められる物性及び意匠性を兼ね備えた婦人用下着が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明のジャカード経編地を編成する際に使用するジャカード筬を備えた2列のニードルバーを有する経編機の概略側面図である。
【図2】本発明のジャカード経編地の製編を実施するための編組織図の一実施例である。
【図3】本発明によるジャカード経編地の編糸構造を概略的に示す斜視図である。
【図4】本発明のジャカード経編地の製編方法の一実施例のうち、ジャカード筬PJB5での弾性糸2のジャカード制御組織の変化例(1)〜(6)を示す説明図である。
【図5】同じくジャカード筬PJB6での弾性糸3のジャカード制御組織の変化例(7)〜(12)を示す説明図である。
【図6】同じくジャカード筬PJB5での弾性糸2のジャカード制御組織の別の変化例(13),(14)を示す説明図である。
【図7】同じくジャカード筬PJB6での弾性糸3のジャカード制御組織の別の変化例(15),(16)を示す説明図である。
【図8】本発明のジャカード経編地の製編方法の別実施例のうち、ジャカード筬PJB5での弾性糸2のジャカード制御組織の変化例(17),(17a),(18a),(18b)を示す説明図である。
【図9】同じくジャカード筬PJB6での弾性糸3のジャカード制御組織の変化例(19),(19a),(20a),(20b)を示す説明図である。
【図10】同じくジャカード筬PJB5での弾性糸2のジャカード制御組織の別の変化例(21)〜(24)を示す説明図である。
【図11】同じくジャカード筬PJB6での弾性糸3のジャカード制御組織の別の変化例(25)〜(28)を示す説明図である。
【図12】本発明の編成方法により編成されたジャカード経編地をブラジャーの柄入りウイング部にした実施例を示す斜視図である。
【図13】本発明の編成方法により編成されたジャカード経編地をブラジャー用として、左右のカップ部と左右のウイング部を一体に編成し、カップ部とウイング部に柄が入ったものの実施例を示す斜視図である。
【図14】図13のジャカード経編地を用い、ブラジャー製品を作成した例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0072】
GB1、GB2、GB3 前方側の地筬
PJB5、PJB6 ジャカード筬
GB7、GB9、GB10 後方側の地筬
1 地糸(非弾性糸)
2 弾性糸
3 弾性糸
4 地糸(非弾性糸)
(1)〜(6) 弾性糸2に対するジャカード制御組織
(7)〜(12) 弾性糸3に対するジャカード制御組織
(13)、(14) 弾性糸2に対するジャカード制御組織
(15)、(16) 弾性糸3に対するジャカード制御組織
(17)、(17a)、(18)、(18b) 弾性糸2に対する別実施例ジャカード制御組織
(19)、(19a)、(20a)、(20b) 弾性糸3に対する別実施例ジャカード制御組織
(21)、(22)、(23)、(24) 弾性糸2に対する別実施例ジャカード制御組織
(25)、(26)、(27)、(28) 弾性糸3に対する別実施例ジャカード制御組織
30 縁取り部
31 主体部
35 左カップ部
36 右カップ部
37 連結部
38 左ウイング部
39 右ウイング部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャカード筬の前後に基布形成筬を配してなるダブルニードル列経編機を用いたジャカード経編地の製編方法であって、ジャカード筬にポリウレタンなどの弾性糸を通糸し、前後の基布形成筬にポリアミドなどの非弾性糸を通糸してなり、前記弾性糸をジャカード制御することで、予め設定された経編地上の区域に応じて編地密度を変化させ、生地弾性の強弱区域を設けるとともに、前部基布形成用の非弾性糸を後部ニードルでループ形成させ、後部基布形成用の非弾性糸を前部ニードル列でループ形成させてなるジャカード経編地の製編方法。
【請求項2】
ジャカード筬を2列有し、各ジャカード筬に弾性糸を通糸して編成してなる請求項1に記載のジャカード経編地の製編方法。
【請求項3】
弾性糸をジャカード制御して柄構成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のジャカード経編地の製編方法。
【請求項4】
弾性糸が熱融着性を有する熱融着糸である請求項1〜請求項3のうちの1項に記載のジャカード経編地の製編方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のうちの1項に記載の製編方法により編成された婦人用下着。
【請求項6】
婦人用下着がブラジャーであり、カップ部とウイング部が一体に編成されてなることを特徴とする請求項5に記載の婦人用下着。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−169533(P2008−169533A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159620(P2007−159620)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(000230168)日本マイヤー株式会社 (14)
【Fターム(参考)】