説明

ジャッキアップ部構造

【課題】車両のジャッキアップ時にジャッキアップブラケットがロアバックパネルから剥離するのを抑制することができるジャッキアップ部構造を得る。
【解決手段】ジャッキアップ部構造10は、ロアバックパネル20に設けられ車両12の前方下側に向けて傾斜する傾斜部20Cと、傾斜部20Cに接合される接合部30Aを備えたジャッキアップブラケット30と、を有している。ここで、車両12をジャッキアップしたとき、傾斜部20Cと接合部30Aとの接合面Maは、鉛直面と平行となる。そして、ジャッキアップブラケット30を押し上げる押上力は、接合面Maに対してほぼ平行なせん断入力として接合部30Aに作用する。これにより、接合面Maに対して垂直方向となる剥離方向への剥離力が減少するので、車両12のジャッキアップ時にジャッキアップブラケット30がロアバックパネル20から剥離するのを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のジャッキアップ部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の後方下部に固定されジャッキによって押し上げられるジャッキアップブラケットを用いたジャッキアップ部構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のジャッキアップ部構造において、ジャッキアップブラケットは、車体の後面に溶接により固定されている。そして、ジャッキアップブラケットが溶接された車体の後面は、地面と垂直な鉛直面となっている。また、ジャッキアップブラケットは、筒状に形成された縦板部及び側板部と、底板部と、底板部がジャッキによって上方へ押圧された状態で底板部と側板部との間に介在する突っ張り部と、を備えている。
【0004】
ここで、特許文献1のジャッキアップ部構造では、ジャッキでジャッキアップブラケットを押し上げたとき、突っ張り部が底板部と側板部との間に介在することで、縦板部の変形を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−029336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のジャッキアップ部構造では、ジャッキでジャッキアップブラケットを押し上げたとき、ジャッキアップブラケットが、鉛直方向と交差する方向(ジャッキアップブラケットが溶接面から離れる方向)へ傾斜する。このため、ジャッキが押し上げているジャッキアップブラケットには、大きな剥離力が作用し、ジャッキアップブラケットが溶接面から剥離することが考えられる。
【0007】
本発明は上記事実を考慮し、車両のジャッキアップ時にジャッキアップブラケットがロアバックパネルから剥離するのを抑制することができるジャッキアップ部構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係るジャッキアップ部構造は、車体の後端側に配置されると共に車両幅方向及び車両上下方向に沿って延在されたロアバックパネルの下部に設けられ、車両前方下側へ傾斜する傾斜部と、前記傾斜部に少なくとも1つの接合位置で接合される接合部を備え、ジャッキで持ち上げられるジャッキアップポイントが、少なくとも1つの前記接合位置よりも前記車両前方に設定されているジャッキアップブラケットと、を有する。
【0009】
請求項1の発明に係るジャッキアップ部構造では、ロアバックパネルの傾斜部が車両前方下側に傾斜しているので、傾斜部とジャッキアップブラケットの接合部との接合面が、車両前方下側に傾斜した配置となる。このため、ジャッキでジャッキアップブラケットを押し上げたとき、接合面は、車両上下方向(鉛直面)に対する傾斜角度が小さくなり、やがて鉛直面と平行となる。
【0010】
ここで、接合面が鉛直面と平行となったとき、あるいはほぼ平行となる状態となったとき、ジャッキアップブラケットを押し上げる押上力は、接合面に対してほぼ平行なせん断入力として接合位置に作用する。そして、接合面に対して垂直方向となる剥離方向への剥離力(剥離成分)が減少する。
【0011】
さらに、ジャッキアップブラケットのジャッキアップポイントが、傾斜部と接合部との接合位置のうち少なくとも1つの接合位置よりも車両の前方に設定(配置)されている。このため、車両をジャッキアップしていくとき、傾斜部と接合部との接合面が鉛直面と平行となるまでの間は、ジャッキによる押上力が、接合部を傾斜部に押し付ける(接触させる)力として作用する。
【0012】
これらの作用により、請求項1の発明に係るジャッキアップ部構造では、車両のジャッキアップ時にジャッキアップブラケットがロアバックパネルから剥離するのを抑制することができる。また、ジャッキアップポイントが車両の前方に近くなるので、車両後方からジャッキアップブラケットが見え難くなり、車両後方からの見栄えを改善できる。
【0013】
請求項2の発明に係るジャッキアップ部構造は、前記車両上下方向で前記傾斜部よりも下方には、前記ロアバックパネル又は前記車体に一端が接合され、前記ジャッキアップブラケットに他端が接合された補強ブラケットが設けられている。
【0014】
請求項2の発明に係るジャッキアップ部構造では、傾斜部と接合部との接合位置に大きなせん断力が作用する重量が大きい車両をジャッキアップするとき、補強ブラケットがせん断力の一部を負担する。これにより、傾斜部と接合部との接合位置に作用するせん断力が低減され、重量が大きい車体をジャッキアップすることができる。
【0015】
請求項3の発明に係るジャッキアップ部構造は、前記ロアバックパネルにおける前記傾斜部よりも下側には、前記車両上下方向に対する前記傾斜部の傾斜角度よりも小さい角度で傾斜又は前記車両上下方向に直立した被接合部が形成され、前記被接合部に前記車体が接合されている。
【0016】
請求項3の発明に係るジャッキアップ部構造では、ロアバックパネルの傾斜部よりも下側の部位が直立又は直立に近い状態の側壁となるので、傾斜部よりも下側の部位を傾斜部よりも大きい傾斜角度で傾斜させた構成に比べて、車体上に搭載するスペアタイヤの搭載高さを低くすることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、請求項1に記載の本発明に係るジャッキアップ部構造によれば、車両のジャッキアップ時にジャッキアップブラケットがロアバックパネルから剥離するのを抑制することができるという優れた効果を有する。
【0018】
請求項2に記載の本発明に係るジャッキアップ部構造によれば、重量が大きい車体をジャッキアップすることができるという優れた効果を有する。
【0019】
請求項3に記載の本発明に係るジャッキアップ部構造によれば、車体上に搭載するスペアタイヤの搭載高さを低くすることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係るジャッキアップ部構造を示す車両後部の拡大断面図である。
【図2】第1実施形態に係るジャッキアップブラケットを車両の後方から視認可能となる角度を比較例と共に示した説明図である。
【図3】第1実施形態に係る車両をジャッキアップした後の状態を示す模式図である。
【図4】(A)、(B)第1実施形態に係る車両をジャッキアップする前の状態、ジャッキアップした後の状態を示す車両後部の拡大断面図である。
【図5】第2実施形態に係るジャッキアップ部構造を示す車両後部の拡大断面図である。
【図6】第2実施形態に係る車両をジャッキアップした後の状態を示す車両後部の拡大断面図である。
【図7】第3実施形態に係るジャッキアップ部構造を示す車両後部の拡大断面図である。
【図8】第3実施形態に係る車両をジャッキアップした後の状態を示す車両後部の拡大断面図である。
【図9】(A)、(B)比較例の車両をジャッキアップする前の状態、ジャッキアップした後の状態を示す車両後部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係るジャッキアップ部構造の一例について説明する。
【0022】
図1には、車両12の後部(破線で示す領域R)に設けられた第1実施形態のジャッキアップ部構造10を車両12の車両幅方向に見たときの拡大断面図が示されている。なお、図中の矢印UPは車両12の上方向(以後、単に上方という場合がある)を示し、矢印FRは車両12の前方(以後、単に前方という場合がある)を示している。また、図の手前側から奥側へ向かう方向が車両12の車両幅方向である。そして、車両12の上方向は、地面G(図3参照)に対する鉛直上方に相当する。
【0023】
車両12は、後部にスペアタイヤS(二点鎖線で示す)を収納するトランクルーム14を有しており、トランクルーム14の下部(底部)には、車体の一例としての床部材であり且つ板状のリヤフロアパネル16(フロアパン)が設けられている。
【0024】
リヤフロアパネル16は、車両12の前後方向及び車両幅方向に広がる本体部16Aと、本体部16Aの後端で上方に折り曲げられた折曲部16Bとを有している。また、リヤフロアパネル16の車両幅方向の両端は、それぞれ四角形筒状のサイドメンバ(図示省略)に支持(固定)されており、サイドメンバは、車両12の車両幅方向の両端に前後方向に沿って配置されている。そして、折曲部16Bには、ロアバックパネル20(ロアバック)が接合されている。
【0025】
ロアバックパネル20は、リヤフロアパネル16の後端側に配置されると共に車両幅方向及び車両上下方向に沿って延在されている。また、ロアバックパネル20は、車両12の前方から後方へ向けて、フランジ部20A、中央部20B、傾斜部20C、及び立上部20Dが、この順序で一体化された構成となっている。なお、ロアバックパネル20の立上部20Dよりも上側の図示及び説明は省略する。
【0026】
中央部20Bは、車両12の前方下側へ僅かに傾斜配置された部位であり、フランジ部20Aは、車両12の前後方向における中央部20Bの前端(下端)から下側へ向けて折り曲げられた部位である。
【0027】
傾斜部20Cは、車両12の前後方向における中央部20Bの後端から後方上側へ傾斜配置された部位であり、言い換えると、傾斜部20Cは、立上部20Dの下端から車両12の前方下側へ傾斜した部位である。そして、立上部20Dは、車両12の前後方向における傾斜部20Cの後端(上端)から上方に立ち上げられた部位である。
【0028】
また、傾斜部20Cは、地面G(図3参照)に対して垂直な垂線V(鉛直面で且つ車両上下方向に相当)に対する前方への傾斜角度をθとしたとき、一例として、5°≦θ≦45°となるように設定されている。なお、傾斜角度θは、ジャッキ60(ガレージジャッキ)を用いて車両12の後部をジャッキアップした場合において、車両12の後タイヤTが地面Gから浮いた時点での車両12の地面Gに対する傾斜角度に相当するように予め設定されている。ここで、5°以上45°以下の角度設定は、車両12が小型車から大型車までのいずれのタイプであっても適用可能であるが、傾斜角度θは、作業性を考慮して、特に10°以上30°以下の範囲で設定することが好ましい。
【0029】
一方、フランジ部20Aは、リヤフロアパネル16の折曲部16Bにスポット溶接で接合されている。なお、以後の説明では、「スポット溶接による接合」を単に「接合」と記載する場合がある。また、傾斜部20Cの上部の後面(前後方向で後側の面)には、ロアバックパネル20を補強するためのロアバックリインフォースメント22の下端(後述するフランジ部22A)が接合されている。
【0030】
ロアバックリインフォースメント22は、車両12の前方から後方へ向けて、フランジ部22A、中央部22B、及び立上部22Cが、この順序で一体化された構成となっている。なお、ロアバックリインフォースメント22の立上部22Cよりも上側の図示及び説明は省略する。
【0031】
中央部22Bは、車両12の前方下側へ僅かに傾斜配置された部位であり、フランジ部22Aは、車両12の前後方向における中央部22Bの前端(下端)から前方下側へ向けて折り曲げられた部位である。また、立上部22Cは、中央部22Bの後端(上端)から上方に立ち上げられた部位である。そして、フランジ部22Aは、既述のように、ロアバックパネル20の傾斜部20Cの上部後面に接合されている。
【0032】
ロアバックパネル20における傾斜部20Cの下部後面には、ジャッキアップブラケット30の一端(後述する接合部30A)が接合されており、ロアバックリインフォースメント22における立上部22Cの下部後面には、ジャッキアップブラケット30の他端(後述する直立部30E)が接合されている。
【0033】
ジャッキアップブラケット30は、車両12を車両幅方向に見て、断面がU字形状に近い形状となっている。詳細には、ジャッキアップブラケット30は、図示の左側(車両前方)から右側(車両後方)へ反時計回り方向に、接合部30A、前壁部30B、底部30C、後壁部30D、及び直立部30Eが、この順序で一体化された構成となっている。なお、ジャッキアップブラケット30の車両幅方向の長さは、後述するジャッキ60のジャッキ皿60A上に載せられるように、ロアバックパネル20の長さに比べてかなり短くなっている。
【0034】
接合部30Aは、ロアバックパネル20の傾斜部20Cと同様に、車両12の前方下側へ傾斜した部位であり、垂線Vに対する前方への傾斜角度はθとなっている。そして、接合部30Aにおける前面(前後方向で前側の面)が、傾斜部20Cの後面に接合されている。
【0035】
ここで、図1では、傾斜部20Cと接合部30Aとの接合位置がX印で示されており、本実施形態では一例として、傾斜部20Cと接合部30Aとの接合面Maの傾斜方向(破線La方向)に間隔をあけて2箇所の接合位置P1(前方)、接合位置P2(後方)が設定されている。なお、接合位置P1、P2は、接合面Maにおいて車両幅方向にも間隔をあけて複数箇所に設定されているが、車両幅方向の接合位置の図示及び説明は省略する。
【0036】
前壁部30Bは、接合部30Aの下端から下方へ直立した部位であり、前壁部30Bの上下方向の長さは、車両12の後方から底部30Cが視認される視認角α1(図2参照)に基づいて設定されている。
【0037】
底部30Cは、前壁部30Bの下端から車両12の後方へ予め設定された幅で形成されている。また、底部30Cには、ジャッキ60で持ち上げられるジャッキアップポイントPJが予め設定されている。なお、本実施形態では一例として、図1に示すように、ジャッキアップポイントPJを車両12の前後方向における底部30Cの幅の中央位置(二等分位置)として図示している。
【0038】
ジャッキアップポイントPJは、一例として、車両12の前後方向において、接合位置P1、P2よりも前方に設定(配置)されている。詳細には、ジャッキアップポイントPJは、接合位置P1よりも車両12の前方に距離d1離れた位置に設定されている。
【0039】
なお、本実施形態では一例として、ジャッキアップポイントPJを接合位置P1よりも車両12の前方に距離d1離れた位置で設定したが、ジャッキアップポイントPJは、接合面Maの傾斜方向を示す破線La上に設定されることが特に好ましい。即ち、ジャッキ60のジャッキ皿60Aの上面(ジャッキアップブラケット30の底部30Cが載せられる面)と破線Laとの交点PMにジャッキアップポイントPJを設定することが特に好ましい。
【0040】
後壁部30Dは、底部30Cの後端から後方上側へ傾斜配置された部位である。そして、後壁部30Dは、上端がロアバックリインフォースメント22の立上部22Cの下端近傍まで延設されている。また、直立部30Eは、後壁部30Dの後端(上端)から上方に立ち上げられた部位である。そして、直立部30Eの前面は、ロアバックリインフォースメント22の立上部22Cの後面に接合されている。
【0041】
一方、車両12におけるロアバックリインフォースメント22及びジャッキアップブラケット30よりも後方には、バンパーリインフォースメント42と、バンパーリインフォースメント42を車両12の後方から覆うバンパーカバー44とが設けられている。
【0042】
バンパーリインフォースメント42は、車両幅方向に沿って延在されており、バンパーリインフォースメント42の前面部は、車両12に設けられたバンパーアーム(図示省略)の後面に締結固定されている。
【0043】
バンパーカバー44は、バンパーリインフォースメント42の後方に配置される意匠面となる直立部44Aと、直立部44Aの下端から車両前方下側へ傾斜した後壁部44Bと、後壁部44Bの下端から下方に向けて直立した下端部44Cとを含んで構成されている。そして、車両12の前後方向において、直立部44AからジャッキアップポイントPJまでの距離がL1となっている。
【0044】
さらに、車両12には、ロアバックパネル20の中央部20Bの下面前方と、ジャッキアップブラケット30の前壁部30Bの前面とを接続する補強ブラケット50が、傾斜部20Cよりも下方に設けられている。
【0045】
補強ブラケット50は、板状の中央部50Aと、中央部50Aの前端が折り曲げられて形成された第1フランジ50Bと、中央部50Aの後端が折り曲げられて形成された第2フランジ50Cとを有している。中央部50Aは、ロアバックパネル20及びジャッキアップブラケット30と共に断面が三角形状の閉空間を形成するように後方下側へ傾斜配置されている。そして、第1フランジ50Bは、中央部20Bの下面前方に接合されており、第2フランジ50Cは、前壁部30Bの前面に接合されている。
【0046】
ここで、ロアバックパネル20、ジャッキアップブラケット30、及び補強ブラケット50を含んでジャッキアップ部構造10が構成されている。なお、車両12が小型車で軽量の場合、あるいは、ジャッキアップブラケット30の上下方向の長さを短く設定できる場合は、補強ブラケット50を含まずに、ロアバックパネル20及びジャッキアップブラケット30でジャッキアップ部構造10を構成してもよい。
【0047】
次に、比較例のジャッキアップ部構造180について説明する。
【0048】
図9(A)には、比較例のジャッキアップ部構造180が示されている。ジャッキアップ部構造180は、ロアバックパネル182とジャッキアップブラケット186とを含んで構成されている。詳細には、ジャッキアップ部構造180は、上方に直立したロアバックパネル182の下端部前面にリヤフロアパネル184が接合されており、下端部後面にジャッキアップブラケット186の接合部186Aが接合されている(ロアバックパネル182と接合部186Aとの接合位置をPAとする)。
【0049】
また、ジャッキアップ部構造180は、ロアバックパネル182における接合位置PAよりも上方の位置において、ロアバックパネル182の後面にロアバックリインフォースメント188の下端が接合されている。そして、ロアバックパネル182と接合部186Aとの接合面Nは、車両12の後タイヤT(図1参照)が地面G(図3参照)に着地している状態で、地面Gに対して垂直方向に配置されている。
【0050】
ジャッキアップブラケット186は、上方に直立した接合部186Aと、接合部186Aの下端から車両12(図1参照)の後方へ予め設定された幅で形成された底部186Bと、底部186Bの後端からロアバックリインフォースメント188へ傾斜配置された後壁部186Cとを有している。そして、ジャッキアップブラケット186は、接合部186Aがロアバックパネル182に接合され、後壁部186Cの上端がロアバックリインフォースメント188に接合されている。
【0051】
また、底部186Bには、ジャッキ60で持ち上げられるジャッキアップポイントQが予め設定されている。ジャッキアップポイントQは、車両12(図1参照)の前後方向における底部186Bの幅の中央位置として図示している。
【0052】
ここで、比較例のジャッキアップ部構造180が設けられた車両12をジャッキ60でジャッキアップするとき(ジャッキアップ開始時)、ジャッキアップポイントQに作用する力F3は、接合位置PAにせん断入力として作用する。なお、この時点では、ジャッキアップブラケット186をロアバックパネル182から剥離する力(以後、剥離成分の力という)は、底部186Bにほとんど作用していない。
【0053】
続いて、図9(B)に示すように、比較例のジャッキアップ部構造180が設けられた車両12をジャッキアップしたとき(ジャッキアップ終了時)、接合面Nは上部が前方へ傾斜し、ジャッキアップブラケット186の底部186Bには剥離成分の力F4が作用する。このため、接合位置PAに剥離成分の力が作用して、破線で示すように、ジャッキアップブラケット186がロアバックパネル182から剥離することが考えられる。
【0054】
(作用)
次に、第1実施形態の作用について説明する。
【0055】
(ジャッキアップ前)
車両12(図1参照)の全てのタイヤが地面G(図3参照)に着いたジャッキアップ前の状態において、図2に示すように、ジャッキアップブラケット30における底部30Cの下面30F(一例として、地面Gと平行)について、車両12の後方への延長線を線Kとする。そして、線K上で底部30Cの後端位置を点Aとし、バンパーカバー44の下端部44Cの下面中央位置を点Bとする。また、点Bを通って線Kに下ろした垂線と線Kとの交点を点Cとする。さらに、線分ACの長さをL2(<L1(図1参照))とし、角CABの大きさを視認角α1とする。
【0056】
一方、図2には、比較例のジャッキアップブラケット200が破線で示されている。ジャッキアップブラケット200は、傾斜部20Cには接合されずにロアバックリインフォースメント22に接合されており、ロアバックリインフォースメント22から下方側へ直立している。なお、ジャッキアップブラケット200の下面200Aは、ジャッキアップブラケット30の下面30Fと同一面上にあるものとする。そして、線K上で下面200Aの後端位置を点Dとする。また、線分DCの長さをL3(<L2)とし、角CDBの大きさを視認角α2とする。
【0057】
ここで、ジャッキアップブラケット30の底部30Cの方が、比較例のジャッキアップブラケット200の底部(下面200A)よりも前方に配置されており、長さL2の方が長さL3よりも長くなっている。このため、車両12(図1参照)の後方からバンパーカバー44の下方側を見たとき、ジャッキアップブラケット30の下端が見える視認角α1は、比較例のジャッキアップブラケット200の下端が見える視認角α2よりも小さくなる。
【0058】
このように、本実施形態のジャッキアップブラケット30の方が比較例のジャッキアップブラケット200に比べて、ジャッキアップポイントPJ(図1参照)が車両12の前方に近くなる。このため、車両12の後方からジャッキアップブラケット30が見え難くなり、車両12の後方からの見栄えを改善することができる。
【0059】
また、ジャッキアップポイントPJが車両12の前方に近くなることにより、ジャッキアップブラケット30とバンパーカバー44との隙間が広がる。これにより、図1に示すように、ジャッキ60のジャッキ皿60Aをジャッキアップブラケット30に接触させるとき、バンパーカバー44に接触しなくなるので、ジャッキ皿60Aの配置作業を容易に行うことができる。
【0060】
(ジャッキアップ時)
図4(A)に示すように、車両12の後部をジャッキアップするときは、ジャッキ皿60Aの上面をジャッキアップブラケット30の底部30C(ジャッキアップポイントPJ)に接触させた後、ジャッキ60を作動させて、ジャッキアップブラケット30を上方に持ち上げる。
【0061】
このとき、ジャッキアップ部構造10では、接合面Maが車両12の前方下側へ傾斜した配置となっている。このため、ジャッキ60でジャッキアップブラケット30を徐々に押し上げると、接合面Maは、鉛直面(地面Gに対して垂直となる面)に対する傾斜角度が徐々に小さくなる。そして、図3に示すように、接合面Maが鉛直面を示す垂線Vと平行(又は平行に近い状態)となったとき、車両12の後タイヤT(図1参照)が地面Gから離れて交換可能となる。
【0062】
ここで、図4(B)に示すように、接合面Maが鉛直面と平行となったとき、あるいはほぼ平行となる状態となったとき、ジャッキアップブラケット30の底部30C(位置PKは押し上げ位置)に入力される押上力F1は、接合面Maに対してほぼ平行なせん断入力として接合部30A(接合位置P1、P2)に作用する。そして、接合面Maに対して垂直方向となる剥離方向(後方)への剥離力F2(剥離成分)が、ジャッキアップ途中の状態に比べて減少する。
【0063】
また、図1に示すように、ジャッキアップ部構造10では、ジャッキアップブラケット30のジャッキアップポイントPJが、接合位置P1、P2よりも車両12の前方に設定(配置)されている。このため、車両12をジャッキアップしていくとき、接合面Maが鉛直面(垂線V)と平行になるまでの間は、ジャッキ60による押上力が、接合部30Aを傾斜部20C側に押す力として作用する。これらの作用により、ジャッキアップ部構造10では、車両12のジャッキアップ時にジャッキアップブラケット30がロアバックパネル20から剥離するのを抑制することができる。
【0064】
なお、ジャッキアップポイントPJ(あるいは押し上げ位置PK(図4(B)参照))を交点PMに設定した場合は、ジャッキアップ時に、鉛直面上に交点PMと接合位置P1、P2が配置される。これにより、接合位置P1、P2にせん断力のみが入力されるので、ジャッキアップブラケット30がロアバックパネル20から剥離するのをさらに抑制することができる。
【0065】
また、ジャッキアップ部構造10では、傾斜部20Cと接合部30Aとの接合部位(接合位置P1、P2)に大きなせん断力が作用する重量が大きい車両12をジャッキアップするとき、補強ブラケット50がせん断力の一部を負担する。これにより、傾斜部20Cと接合部30Aとの接合部位に作用するせん断力が低減され、重量が大きい車体をジャッキアップすることができる。
【0066】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るジャッキアップ部構造の一例について説明する。なお、前述した第1実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
【0067】
図5には、第2実施形態のジャッキアップ部構造70が示されている。ジャッキアップ部構造70は、ジャッキアップ部構造10(図1参照)に換えて車両12に設けられており、ロアバックパネル72、ジャッキアップブラケット80、及び補強ブラケット90を含んで構成されている。なお、車両12が小型車で軽量の場合、あるいは、ジャッキアップブラケット80の上下方向の長さを短く設定できる場合は、補強ブラケット90を含まずに、ロアバックパネル72及びジャッキアップブラケット80でジャッキアップ部構造70を構成してもよい。
【0068】
第2実施形態の車両12は、トランクルーム14の下部に車体の一例としての床部材であり且つ板状のリヤフロアパネル18(フロアパン)が設けられている。
【0069】
リヤフロアパネル18は、車両12の前後方向及び車両幅方向に広がる本体部18Aと、本体部18Aの後端で上方に折り曲げられた折曲部18Bとを有している。また、リヤフロアパネル18の車両幅方向の両端は、それぞれ四角形筒状のサイドメンバ(図示省略)に支持(固定)されており、サイドメンバは、車両12の車両幅方向の両端に前後方向に沿って配置されている。そして、折曲部18Bには、ロアバックパネル72(ロアバック)が接合されている。
【0070】
ロアバックパネル72は、リヤフロアパネル18の後端側に配置されると共に車両幅方向及び車両上下方向に沿って延在されている。また、ロアバックパネル72は、車両12の前方から後方へ向けて、フランジ部72A、中央部72B、傾斜部72C、及び立上部72Dがこの順序で一体化された構成となっている。なお、ロアバックパネル72の立上部72Dよりも上側の図示及び説明は省略する。
【0071】
中央部72Bは、車両12の前方下側へ僅かに傾斜配置された部位であり、フランジ部72Aは、車両12の前後方向における中央部72Bの前端(下端)から下側へ向けて折り曲げられた部位である。
【0072】
傾斜部72Cは、車両12の前後方向における中央部72Bの後端から後方上側へ傾斜配置された部位であり、言い換えると、傾斜部72Cは、立上部72Dの下端から車両12の前方下側へ傾斜した部位である。そして、立上部72Dは、車両12の前後方向における傾斜部72Cの後端(上端)から上方に立ち上げられた部位である。
【0073】
また、傾斜部72Cは、垂線V(図3参照)に対する前方への傾斜角度をθとしたとき、一例として、5°≦θ≦45°となるように設定されている。ここで、傾斜角度θは、作業性を考慮して、特に10°以上30°以下の範囲で設定することが好ましい。
【0074】
一方、フランジ部72Aは、リヤフロアパネル18の折曲部18Bに接合されている。また、傾斜部72Cの上部の後面(前後方向で後側の面)には、ロアバックパネル72を補強するためのロアバックリインフォースメント22のフランジ部22Aが接合されている。
【0075】
ロアバックパネル72における傾斜部72Cの下部後面及び中央部72Bの下面には、ジャッキアップブラケット80の一端(後述する接合部80A及び上壁部80B)が接合されており、ロアバックリインフォースメント22における立上部22Cの下部後面には、ジャッキアップブラケット80の他端(後述する直立部80G)が接合されている。
【0076】
ジャッキアップブラケット80は、図示の左側(車両前方)から右側(車両後方)へ反時計回り方向に、接合部80A、上壁部80B、傾斜壁部80C、前壁部80D、底部80E、後壁部80F、及び直立部80Gが、この順序で一体化された構成となっている。なお、ジャッキアップブラケット80の車両幅方向の長さは、ジャッキ皿60A上に載せられるように、ロアバックパネル72の長さに比べてかなり短くなっている。
【0077】
接合部80Aは、ロアバックパネル72の傾斜部72Cと同様に、車両12の前方下側へ傾斜した部位であり、垂線Vに対する前方への傾斜角度はθとなっている。そして、接合部80Aの前面(前後方向で前側の面)が傾斜部72Cの下部後面に接合されている。
【0078】
ここで、図1では、傾斜部72Cと接合部80Aとの接合位置がX印で示されており、本実施形態では一例として、傾斜部72Cと接合部80Aとの接合面Mbに1箇所の接合位置P3が設定されている。なお、接合位置P3は、接合面Mbにおいて車両幅方向にも間隔をあけて複数箇所に設定されているが、車両幅方向の接合位置の図示及び説明は省略する。
【0079】
上壁部80Bは、接合部80Aの下端から車両12の前方下側へ僅かに傾斜した部位である。そして、上壁部80Bの上面は、ロアバックパネル72の中央部72Bの下面に接合されている(この接合位置を接合位置P4とする)。また、傾斜壁部80Cは、上壁部80Bの下端(前端)から車両12の前方下側へ傾斜した部位であり、傾斜角度は上壁部80Bの傾斜角度よりも大きくなっている。
【0080】
前壁部80Dは、傾斜壁部80Cの下端から下方へ直立した部位であり、前壁部80Dの上下方向の長さは、車両12の後方から底部80Eが視認される視認角(図示省略)に基づいて設定されている。そして、前壁部80Dの前面は、ロアバックパネル72のフランジ部72Aの後面に接合されている。
【0081】
底部80Eは、前壁部80Dの下端から車両12の後方へ予め設定された幅で形成されている。また、底部80Eには、ジャッキ60で持ち上げられるジャッキアップポイントPJが予め設定されている。なお、本実施形態では一例として、ジャッキアップポイントPJを車両12の前後方向における底部80Eの幅の中央位置(二等分位置)として図示している。
【0082】
第2実施形態におけるジャッキアップポイントPJは、一例として、接合位置P3よりも車両12の前方に設定(配置)されている。詳細には、第2実施形態のジャッキアップポイントPJは、接合位置P3よりも車両12の前方に距離d2(>d1)離れた位置に設定されている。即ち、第2実施形態のジャッキアップ部構造70では、第1実施形態のジャッキアップ部構造10(図1参照)に比べて、車両12の前後方向における接合位置からジャッキアップポイントPJまでの距離が長くなっている。また、車両12の前後方向において、バンパーカバー44の直立部44AからジャッキアップポイントPJまでの距離がL4(>L1)となっている。
【0083】
なお、本実施形態では一例として、ジャッキアップポイントPJを接合位置P3よりも車両12の前方に距離d2離れた位置で設定したが、ジャッキアップポイントPJは、接合面Mbの傾斜方向を示す破線Lb上に設定されることが特に好ましい。即ち、ジャッキ60のジャッキ皿60Aの上面(ジャッキアップブラケット80の底部80Eが載せられる面)と破線Lbとの交点PMにジャッキアップポイントPJを設定することが特に好ましい。ここで、第2実施形態におけるジャッキアップポイントPJと交点PMとの間隔は、第1実施形態におけるジャッキアップポイントPJと交点PMとの間隔よりも短くなっており、ジャッキアップポイントPJと交点PMとが近接配置されている。
【0084】
後壁部80Fは、底部80Eの後端から後方上側へ傾斜配置された部位である。そして、後壁部80Fは、上端がロアバックリインフォースメント22の立上部22Cの下端近傍まで延設されている。また、直立部80Gは、後壁部80Fの後端(上端)から上方に立ち上げられた部位である。そして、直立部80Gの前面は、ロアバックリインフォースメント22の立上部22Cの後面に接合されている。
【0085】
補強ブラケット90は、1枚の板材がL字状に折り曲げられた構成となっており、車両12の前方へ張り出された平板状の張出部90Aと、張出部90Aの後端から下方へ直立する直立部90Bとを有している。そして、張出部90Aの上面は、リヤフロアパネル18の本体部18Aの下面に接合されており、直立部90Bの後面は、ジャッキアップブラケット80の前壁部80Dの前面に接合されている。
【0086】
(作用)
次に、第2実施形態の作用について説明する。
【0087】
(ジャッキアップ前)
図5に示すように、ジャッキアップ部構造70において、車両12の前後方向におけるバンパーカバー44の直立部44AからジャッキアップポイントPJまでの距離L4が、第1実施形態の距離L1(図1参照)よりもさらに長くなっている。そして、ジャッキアップブラケット80とバンパーカバー44との隙間が広がっている。これにより、ジャッキ皿60Aをジャッキアップブラケット80に接触させるとき、バンパーカバー44に接触しなくなるので、ジャッキ皿60Aの配置作業を容易に行うことができる。
【0088】
(ジャッキアップ時)
図5に示すように、ジャッキアップ部構造70において、車両12の後部をジャッキアップするときは、ジャッキ皿60Aの上面をジャッキアップブラケット80の底部80E(ジャッキアップポイントPJ)に接触させた後、ジャッキ60を作動させて、ジャッキアップブラケット80を上方に持ち上げる。
【0089】
このとき、ジャッキアップ部構造70では、接合面Mbが車両12の前方下側へ傾斜した配置となっている。このため、ジャッキ60でジャッキアップブラケット80を徐々に押し上げると、接合面Mbは、鉛直面(図示省略)に対する傾斜角度が徐々に小さくなる。そして、接合面Mbが鉛直面と平行(又は平行に近い状態)となったとき、車両12の後タイヤT(図1参照)が地面G(図3参照)から離れて交換可能となる。
【0090】
ここで、図6に示すように、接合面Mbが鉛直面(図示省略)と平行となったとき、あるいはほぼ平行となる状態となったとき、ジャッキアップブラケット80の底部80E(位置PK)に入力される押上力F5は、接合面Mbに対してほぼ平行なせん断入力として接合部80A(接合位置P3)に作用する。そして、接合面Mbに対して垂直方向となる剥離方向(後方)への剥離力F6(剥離成分)が、ジャッキアップ途中の状態に比べて減少する。
【0091】
また、図5に示すように、ジャッキアップ部構造70では、ジャッキアップブラケット80のジャッキアップポイントPJが、接合位置P3及び接合位置P4よりも車両12の前方に設定(配置)されている。このため、車両12をジャッキアップしていくとき、接合面Mbが鉛直面と平行になるまでの間は、ジャッキ60による押上力が接合部80Aを傾斜部72Cに押し、且つ上壁部80Bを中央部72Bに押す力として作用する。これらの作用により、ジャッキアップ部構造70では、車両12のジャッキアップ時にジャッキアップブラケット80がロアバックパネル72から剥離するのを抑制することができる。
【0092】
なお、ジャッキアップ部構造70では、ジャッキアップポイントPJ(あるいは押し上げ位置PK(図6参照))を交点PMに設定した場合は、ジャッキアップ時に、鉛直面上に交点PMと接合位置P3が配置される。これにより、接合位置P3にせん断力のみが入力されるので、ジャッキアップブラケット80がロアバックパネル72から剥離するのをさらに抑制することができる。
【0093】
また、ジャッキアップ部構造70では、傾斜部72Cと接合部80Aとの接合部位(接合位置P3)に大きなせん断力が作用する重量が大きい車両12をジャッキアップするとき、補強ブラケット90がせん断力の一部を負担する。これにより、傾斜部72Cと接合部80Aとの接合部位に作用するせん断力が低減され、重量が大きい車体をジャッキアップすることができる。
【0094】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るジャッキアップ部構造の一例について説明する。なお、前述した第1、第2実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1、第2実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
【0095】
図7には、第3実施形態のジャッキアップ部構造100が示されている。ジャッキアップ部構造100は、ジャッキアップ部構造10(図1参照)に換えて車両12に設けられており、ロアバックパネル102、ジャッキアップブラケット110、及び補強ブラケット90を含んで構成されている。なお、車両12が小型車で軽量の場合、あるいは、ジャッキアップブラケット110の上下方向の長さを短く設定できる場合は、補強ブラケット90を含まずに、ロアバックパネル102及びジャッキアップブラケット110でジャッキアップ部構造100を構成してもよい。
【0096】
ロアバックパネル102は、リヤフロアパネル18の後端側に配置されると共に車両幅方向及び車両上下方向に沿って延在されている。また、ロアバックパネル102は、車両12の前方から後方へ向けて、フランジ部102A、傾斜部102B、及び立上部102Cがこの順序で一体化された構成となっている。なお、ロアバックパネル102の立上部102Cよりも上側の図示及び説明は省略する。
【0097】
フランジ部102Aは、被接合部の一例であり、直立すると共に前面がリヤフロアパネル18の折曲部18Bの後面に接合されている。また、フランジ部102Aは、ロアバックパネル102における傾斜部102Bよりも下側で、車両12の上下方向(鉛直方向)に直立配置されている。即ち、フランジ部102Aは、車両12の上下方向に対する傾斜部102Bの傾斜角度θよりも小さい角度で傾斜又は直立するように配置されている。
【0098】
傾斜部102Bは、フランジ部102Aの上端から後方上側へ傾斜配置された部位であり、言い換えると、立上部102Cの下端から車両12の前方下側へ傾斜した部位である。そして、立上部102Cは、傾斜部102Bの上端から上方に立ち上げられた部位である。
【0099】
また、傾斜部102Bは、垂線V(図3参照)に対する前方への傾斜角度をθとしたとき、一例として、5°≦θ≦45°となるように設定されている。ここで、傾斜角度θは、作業性を考慮して、特に10°以上30°以下の範囲で設定することが好ましい。さらに、傾斜部102Bの上部の後面(前後方向の後側の面)には、ロアバックパネル102を補強するためのロアバックリインフォースメント22のフランジ部22Aが接合されている。
【0100】
一方、ロアバックパネル102におけるフランジ部102Aの後面及び傾斜部102Bの下部後面には、ジャッキアップブラケット110の一端(後述する接合部110A及び前壁部110B)が接合されており、ロアバックリインフォースメント22における立上部22Cの下部後面には、ジャッキアップブラケット110の他端(後述する直立部110E)が接合されている。
【0101】
ジャッキアップブラケット110は、図示の左側(車両前方)から右側(車両後方)へ反時計回り方向に、接合部110A、前壁部110B、底部110C、後壁部110D、及び直立部110Eが、この順序で一体化された構成となっている。なお、ジャッキアップブラケット110の車両幅方向の長さは、ジャッキ皿60A上に載せられるように、ロアバックパネル102の長さに比べてかなり短くなっている。
【0102】
接合部110Aは、ロアバックパネル102の傾斜部102Bと同様に、車両12の前方下側へ傾斜した部位であり、垂線Vに対する前方への傾斜角度はθとなっている。そして、接合部110Aの前面が傾斜部102Bの後面に接合されている。
【0103】
ここで、図7では、傾斜部102Bと接合部110Aとの接合位置がX印で示されており、本実施形態では一例として、傾斜部102Bと接合部110Aとの接合面Mcに2箇所の接合位置P5、P6が設定されている。接合位置P5は、車両12の前後方向で接合位置P6よりも前方に設定されている。なお、接合位置P5、P6は、接合面Mcにおいて車両幅方向にも間隔をあけて複数箇所に設定されているが、図示及び説明は省略する。
【0104】
前壁部110Bは、接合部110Aの下端から下方へ直立した部位であり、前壁部110Bの上下方向の長さは、車両12の後方から底部110Cが視認される視認角(図示省略)に基づいて設定される。そして、前壁部110Bの前面は、ロアバックパネル102のフランジ部102Aの後面に接合されている。
【0105】
底部110Cは、前壁部110Bの下端から車両12の後方へ予め設定された幅で形成されている。また、底部110Cには、ジャッキ60で持ち上げられるジャッキアップポイントPJが予め設定されている。なお、本実施形態では一例として、ジャッキアップポイントPJを車両12の前後方向における底部110Cの幅の中央位置(二等分位置)として図示している。
【0106】
第3実施形態におけるジャッキアップポイントPJは、一例として、接合位置P6よりも車両12の前方に設定(配置)されている。詳細には、第3実施形態のジャッキアップポイントPJは、車両12の前後方向において、接合位置P6よりも車両12の前方に距離d3(<d1)離れた位置に設定されている。即ち、第3実施形態のジャッキアップ部構造100では、第1実施形態のジャッキアップ部構造10(図1参照)に比べて、車両12の前後方向における接合位置からジャッキアップポイントPJまでの距離が短くなっている。また、車両12の前後方向において、バンパーカバー44の直立部44AからジャッキアップポイントPJまでの距離がL5(<L1)となっている。
【0107】
後壁部110Dは、底部110Cの後端から後方上側へ傾斜配置された部位である。そして、後壁部110Dは、上端がロアバックリインフォースメント22の立上部22Cの下端近傍まで延設されている。また、直立部110Eは、後壁部110Dの後端(上端)から上方に立ち上げられた部位である。そして、直立部110Eの前面は、ロアバックリインフォースメント22の立上部22Cの後面に接合されている。
【0108】
補強ブラケット90は、張出部90Aの上面がリヤフロアパネル18の本体部18Aの下面に接合されており、直立部90Bの後面がジャッキアップブラケット110の前壁部110Bの前面に接合されている。
【0109】
(作用)
次に、第3実施形態の作用について説明する。
【0110】
(ジャッキアップ前)
図7に示すように、ジャッキアップ部構造100において、車両12の前後方向におけるバンパーカバー44の直立部44AからジャッキアップポイントPJまでの距離L5が、第1実施形態の距離L1(図1参照)よりも僅かに短い長さとなっている。このため、ジャッキアップブラケット110とバンパーカバー44との隙間は広く、ジャッキ60のジャッキ皿60Aをジャッキアップブラケット110に接触させるとき、バンパーカバー44に接触しなくなるので、ジャッキ皿60Aの配置作業を容易に行うことができる。
【0111】
(ジャッキアップ時)
図7に示すように、ジャッキアップ部構造100において、車両12の後部をジャッキアップするときは、ジャッキ皿60Aの上面をジャッキアップブラケット110の底部110C(ジャッキアップポイントPJ)に接触させた後、ジャッキ60を作動させて、ジャッキアップブラケット110を上方に持ち上げる。
【0112】
このとき、ジャッキアップ部構造100では、接合面Mcが車両12の前方下側へ傾斜した配置となっている。このため、ジャッキ60でジャッキアップブラケット110を徐々に押し上げると、接合面Mcは、鉛直面(図示省略)に対する傾斜角度が徐々に小さくなる。そして、接合面Mcが鉛直面と平行(又は平行に近い状態)となったとき、車両12の後タイヤT(図1参照)が地面G(図3参照)から離れて交換可能となる。
【0113】
ここで、図8に示すように、接合面Mcが鉛直面(図示省略)と平行となったとき、あるいはほぼ平行となる状態となったとき、ジャッキアップブラケット110の底部110C(位置PK)に入力される押上力F7は、接合面Mcに対してほぼ平行なせん断入力として接合部110A(接合位置P5、P6)に作用する。そして、接合面Mcに対して垂直方向となる剥離方向(後方)への剥離力F8(剥離成分)が、ジャッキアップ途中の状態に比べて減少する。
【0114】
また、図7に示すように、ジャッキアップ部構造100では、ジャッキアップブラケット110のジャッキアップポイントPJが、少なくとも接合位置P6よりも車両12の前方に設定(配置)されている。このため、車両12をジャッキアップしていくとき、接合面Mcが鉛直面と平行になるまでの間は、ジャッキ60による押上力が接合部110Aを傾斜部102Bに押す力として作用する。これらの作用により、車両12のジャッキアップ時にジャッキアップブラケット110がロアバックパネル102から剥離するのを抑制することができる。
【0115】
なお、ジャッキアップ部構造100では、ジャッキアップポイントPJ(あるいは押し上げ位置PK(図8参照))を交点PMに設定した場合は、ジャッキアップ時に、鉛直面上に交点PMと接合位置P5、P6が配置される。これにより、接合位置P5、P6にせん断力のみが入力されるので、ジャッキアップブラケット110がロアバックパネル102から剥離するのをさらに抑制することができる。
【0116】
また、ジャッキアップ部構造100では、ロアバックパネル102の傾斜部102Bよりも下側の部位が直立したフランジ部102Aとなっている。このため、傾斜部102Bよりも下側の部位を傾斜部102Bよりも大きい傾斜角度で前方へ傾斜させた構成に比べて、ロアバックパネル102にスペアタイヤSが引っ掛かりにくくなり、リヤフロアパネル18上に搭載するスペアタイヤSの搭載高さ(リヤフロアパネル18の上面からスペアタイヤSの上面までの高さ)を低くすることができる。
【0117】
また、ジャッキアップ部構造100では、傾斜部102Bと接合部110Aとの接合部位(接合位置P5、P6)に大きなせん断力が作用する重量が大きい車両12をジャッキアップするとき、補強ブラケット90がせん断力の一部を負担する。これにより、傾斜部102Bと接合部110Aとの接合部位に作用するせん断力が低減され、重量が大きい車体をジャッキアップすることができる。
【0118】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されない。
【0119】
既述のように、車両12が小型車で軽量の場合、あるいは補強ブラケットの上下方向の長さを短く設定できる場合は、補強ブラケットを含まずに、ロアバックパネル及びジャッキアップブラケットでジャッキアップ部構造を構成してもよい。
【0120】
また、ジャッキアップ部構造100において、傾斜部102Bの下側に鉛直面に対する傾斜角度が傾斜部102Bよりも小さい角度で傾斜する被接合部を形成してもよい。
【0121】
さらに、ジャッキアップブラケット30、80、110は、車両前後方向及び車両幅方向に側壁が設けられて箱状に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0122】
10 ジャッキアップ部構造
12 車両
16 リヤフロアパネル(車体の一例)
18 リヤフロアパネル(車体の一例)
20 ロアバックパネル
20C 傾斜部
30 ジャッキアップブラケット
30A 接合部
50 補強ブラケット
60 ジャッキ
70 ジャッキアップ部構造
72 ロアバックパネル
72C 傾斜部
80 ジャッキアップブラケット
80A 接合部
90 補強ブラケット
100 ジャッキアップ部構造
102 ロアバックパネル
102A フランジ部(被接合部の一例)
102B 傾斜部
110 ジャッキアップブラケット
110A 接合部
P1 接合位置
P2 接合位置
P3 接合位置
P5 接合位置
P6 接合位置
PJ ジャッキアップポイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の後端側に配置されると共に車両幅方向及び車両上下方向に沿って延在されたロアバックパネルの下部に設けられ、車両前方下側へ傾斜する傾斜部と、
前記傾斜部に少なくとも1つの接合位置で接合される接合部を備え、ジャッキで持ち上げられるジャッキアップポイントが、少なくとも1つの前記接合位置よりも前記車両前方に設定されているジャッキアップブラケットと、
を有するジャッキアップ部構造。
【請求項2】
前記車両上下方向で前記傾斜部よりも下方には、前記ロアバックパネル又は前記車体に一端が接合され、前記ジャッキアップブラケットに他端が接合された補強ブラケットが設けられている請求項1に記載のジャッキアップ部構造。
【請求項3】
前記ロアバックパネルにおける前記傾斜部よりも下側には、前記車両上下方向に対する前記傾斜部の傾斜角度よりも小さい角度で傾斜又は前記車両上下方向に直立した被接合部が形成され、前記被接合部に前記車体が接合されている請求項1又は請求項2に記載のジャッキアップ部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−112290(P2013−112290A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262632(P2011−262632)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】