説明

スイッチング装置のサージ電圧抑制回路

【課題】
本願発明の目的は、電圧変動する蓄電池の上流側とIGBTのコレクタが接続されるスイッチング装置において、サージ電圧を効果的に抑制するサージ電圧抑制回路を提供することである。
【解決手段】
IGBTのスイッチング回路に設けられた各IGBTのコレクタとベース間に、ツェナーダイオードとスイッチング素子が配され、ツェナーダイオードのカソード側がIGBTのコレクタに接続され、ツェナーダイオードのアノード側はスイッチング素子のコレクタに接続され、スイッチング素子のエミッタはIGBTのベースに接続され、かつ、スイッチング素子のベースは蓄電池の上流側に接続されてなり、IGBTの動作時に、IGBTのコレクタ電圧が、蓄電池の電圧とツェナーダイオードのツェナー電圧の合計より大きくなると、スイッチング素子がオンされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の動作時に発生するサージ電圧を抑制する回路に関し、特に電圧変動する蓄電池に接続された電力用IGBTの高速スイッチング動作時に発生するサージ電圧を抑制する回路に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド建設機械は、短時間内での繰り返し作業が多く、モータ等の電動装置に対する負荷が大幅に、急激に、しかも頻繁に変動する。
【0003】
モータ等の電動装置を駆動するために、IGBTを用いたスイッチング素子を使用している。このIGBTにおいては高速スイッチングを行った場合、素子がターンオフするとき高いdV/dtから大きなサージ過電圧が発生する。ハイブリッド建設機械では負荷変動の激しいモータ等の電動装置を高電圧で駆動するためにサージ過電圧の現象が顕著となる。
【0004】
なお以下において、本願発明ではハイブリッド電源システムから電力が供給される電動装置は本質的でないのでその説明を省略する。
【0005】
図9は、建設機械用ハイブリッド電源システムの構成例である。
【0006】
図9において、ハイブリッド電源システム1は主電源10と副電源50とからなる。主電源10(発電電動機により発生した電力をドライバーを介して供給されるのであるが、等価的に電池11として表現している。)は電池11(電圧V0)を有しており、正極ライン12および負極ライン13を介して副電源50と接続される。副電源50は、ACリンク双方向DC−DCコンバータ50Aとエネルギー蓄積装置である蓄電池30(電圧V1)とで構成される。ACリンク双方向DC−DCコンバータ50Aは、低圧側インバータ50Bと高圧側インバータ50Cと変圧器50Dとで構成される。
【0007】
低圧側インバータ50Bと、高圧側インバータ50Cは、低圧側インバータ50Bの正極と高圧側インバータ50Cの負極とが加極性となるように電気的に直列接続されている。
【0008】
低圧側インバータ50Bは、変圧器50Dのコイル50dにブリッジ接続された4つのIGBT51、52、53、54と、IGBT51、52、53、54それぞれに並列に極性が逆向きに接続されたダイオード151、152、153、154を含んで構成されている。IGBTとは絶縁ゲートバイポーラトランジスタのことで、高速スイッチング用半導体素子として使用される。IGBT51、52、53、54は、ゲートにスイッチング信号が印加されることによりオンされ、コレクタからエミッタに電流が流れる。
【0009】
蓄電池30の正極端子30aは、正極ライン31を介してIGBT51のコレクタに電気的に接続されている。IGBT51のエミッタはIGBT52のコレクタに電気的に接続されている。IGBT52のエミッタは、負極ライン32を介して蓄電池30の負極端子30bに電気的に接続されている。
【0010】
同様に、蓄電池30の正極端子30aは、正極ライン31を介してIGBT53のコレクタに電気的に接続されている。IGBT53のエミッタはIGBT54のコレクタに電気的に接続されている。IGBT54のエミッタは、負極ライン32を介して蓄電池30の負極端子30bに電気的に接続されている。
【0011】
IGBT51のエミッタ(ダイオード151のアノード)およびIGBT52のコレクタ(ダイオード152のカソード)は、変圧器50Dのコイル50dの一方の端子に接続されているとともに、IGBT53のエミッタ(ダイオード153のアノード)およびIGBT54のコレクタ(ダイオード154のカソード)は、変圧器50Dのコイル50dの他方の端子に接続されている。
【0012】
IGBT51、54の組とIGBT52、53の組は交互にオン、オフされる。
【0013】
高圧側インバータ50Cは、変圧器50Dのコイル50eにブリッジ接続された4つのIGBT55、56、57、58と、IGBT55、56、57、58それぞれに並列に極性が逆向きに接続されたダイオード155、156、157、158を含んで構成されている。IGBT55、56、57、58は、ゲートにスイッチング信号が印加されることによりオンされ、コレクタからエミッタに電流が流れる。
【0014】
IGBT55、57のコレクタは、正極ライン12を介して主電源10の電池11に電気的に接続されている。IGBT55のエミッタはIGBT56のコレクタに電気的に接続されている。IGBT57のエミッタはIGBT58のコレクタに電気的に接続されている。IGBT56、58のエミッタは、正極ライン31、つまり低圧側インバータ50BのIGBT51、53のコレクタに電気的に接続されている。
【0015】
IGBT55のエミッタ(ダイオード155のアノード)およびIGBT56のコレクタ(ダイオード156のカソード)は、変圧器50Dのコイル50eの一方の端子に電気的に接続されているとともに、IGBT57のエミッタ(ダイオード157のアノード)およびIGBT58のコレクタ(ダイオード158のカソード)は、変圧器50Dのコイル50eの他方の端子に電気的に接続されている。
【0016】
IGBT55、58の組とIGBT56、57の組は交互にオン、オフされる。
【0017】
IGBT55、57のコレクタが接続される正極ライン12とIGBT56、58のエミッタが接続される正極ライン31の間にはキャパシタ33が電気的に接続されている。キャパシタ33はサージ吸収用であり小容量キャパシタでよい。
【0018】
変圧器50Dは、一定値Lの漏れインダクタンス(図9ではコイル50d側にL/2、コイル50e側にL/2となるように分割している)を有している。
【0019】
上記構成のハイブリッド電源システム1によれば、電動装置の負荷が大幅、急激、かつ頻繁に変動したとしても、副電源50から主電源10の電力容量を補う電力供給を行うことができる。一方、副電源50の蓄電池30は大きな電圧変動を伴う。
【0020】
具体的には、ハイブリッド建設機械では、主電源の電圧V0は600V程度の高電圧に維持される。一方、副電源の蓄電池30の電圧V1は300V程度以下の低電圧であり、たとえば150V〜270Vの大きな電圧変動範囲で使用される。
【0021】
ところでハイブリッド電源システム1の場合、IGBTをオン状態からオフ状態にスイッチすると(以下ターンオフという)、オン状態で流れていた大電流が急に遮断されるため、たとえば蓄電池30とIGBT51を接続する配線等に起因する浮遊インダクタンス(以下リードインダクタンスという)により、IGBTのコレクタとエミッタ間の電圧が蓄電池30の電圧に重畳してはね上がる。このはね上がった電圧はターンオフサージ電圧(以下単にサージ電圧Vsという)といわれる。
【0022】
次にターンオフで発生するサージ電圧について説明する。
【0023】
図10は図9のIGBT51近傍の部分回路である。
【0024】
図10において、蓄電池30の正極端子30aとIGBT51のコレクタ51Cは正極ライン31を介して接続されている。図10はリードインダクタンスをL0として示している。
【0025】
図11は図10の部分回路に発生したサージ電圧波形の模式図である。
【0026】
図11の横軸はIGBT51をオン、オフする時間軸である。縦軸はIGBT51のコレクタとエミッタ間の電圧Vc-eである。
【0027】
IGBT51がオンのときはコレクタ51Cとエミッタ51E間が導通するのでVc-eはゼロであるが、たとえば時間t1でIGBT51をターンオフすると、蓄電池30の電圧V1とリードインダクタンスL0に起因するL0(di/dt)の大きさのサージ電圧Vsを合計した電圧(=V1+Vs)がコレクタ51Cに印加される。iはリードインダクタンスL0を流れる電流値である。サージ電圧は電流iの時間的変化率に比例するため、IGBT51のスイッチング速度が大きくなるほどサージ電圧Vsも大きくなる。
【0028】
時間t1にIGBT51をターンオフすると、サージ電圧Vsは最大電圧Vsmaxに到達し、その後蓄電池30の電圧V1に重畳して高速減衰振動する。高速減衰振動による高周波ノイズ(以下放射ノイズという)は有害電波として周囲に放射される。時間t2におけるIGBT51のターンオフでも同じことが行われる。上記したことはターンオフで大きなサージ電圧を発生する他のIGBTにも同様にあてはまる。
【0029】
そこで従来、ターンオフで発生するIGBTのサージ電圧を抑制する方法として、各IGBTにスナバ回路を付けてサージ電圧を吸収する方法がある。スナバ回路の場合、RC回路を用いるためスイッチング速度が高くなるとスナバ回路の損失が顕著になる。
【0030】
スナバ回路の欠点を克服する回路が下記特許文献1に開示されている。
【0031】
図12は特許文献1におけるサージ電圧抑制回路の原理を説明する図である。
【0032】
なお特許文献1では、複数のツェナーダイオードを並列して設けた回路としている。ここでは特許文献1における基本原理が分かればよいので、以下では説明を簡単にするためにツェナーダイオードの数を1個とした。
【0033】
図12が図10と異なるところは、ツェナーダイオード70Tのアノード側がIGBT51のゲート51Gと接続され、ツェナーダイオード70Tのカソード側が抵抗90Rを介してIGBT51のコレクタ51Cと接続されることである。
【0034】
上記サージ電圧抑制回路により以下の動作が行われる。
【0035】
(1)IGBT51のコレクタ51Cとゲート51G間の電圧Vc-gがツェナーダイオード70Tのツェナー電圧Vtより大きくなると、IGBT51のゲート51Gにツェナーダイオード70Tを介して電流が流れIGBT51のゲート51Gがオンされる。
【0036】
(2)すると、IGBT51のコレクタ51Cとエミッタ51E間が導通してコレクタ電圧Vcが急激に低下する。
【0037】
(3)コレクタ電圧Vcが急激に低下し、コレクタ51Cとゲート51G間の電圧Vc-gがツェナー電圧Vt以下になると、コレクタ51Cとゲート51G間は遮断されゲート51Gはオフになる。
【0038】
上記(1)〜(3)の動作により、大きなサージ電圧Vsが発生しても、コレクタ51Cとゲート51G間の電圧Vc-gが、コレクタ51Cとゲート51G間に設けたツェナーダイオード70Tのツェナー電圧Vt以上になることが抑制される。
【0039】
図13はツェナーダイオード70Tでサージ電圧が抑制された場合の電圧波形を説明するための図である。ここでは蓄電池30の電圧を270Vとし、ツェナー電圧を280Vとした場合を想定している。
【0040】
なお、コレクタ51Cとエミッタ51E間の電圧Vc-eとコレクタ51Cとゲート51G間の電圧Vc-gは厳密には異なるが、両者の電圧差は小さく、本願発明ではその違いは本質的ではないので、以下ではVc-eとVc-gを近似的に同じものとして説明する。
【0041】
図13の場合、時間t1にIGBT51をターンオフすると、蓄電池30の電圧(V1=270V)にリードインダクタンスを起因として発生したサージ電圧Vsが重畳される。
【0042】
図13の時間軸のt1〜t11間(領域R1)は、サージ電圧Vsが280Vで抑制される。その後280Vで抑制されたサージ電圧Vsは急激に減衰して(時間軸のt11〜t12間:領域R2)、高速振動することなく蓄電池30の270Vの電圧波形に重畳される。すなわち、サージ電圧は最大10Vの大きさで抑制される。これにより、サージ電圧による放射ノイズの発生が抑制される。上記動作は時間t2におけるターンオフにおいても同様である。
【特許文献1】特開平11−178318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0043】
ところで、建設機械用ハイブリッド電源システムでは副電源の蓄電池の電圧変動が大きい。そのため、特許文献1に開示されたサージ電圧抑制回路をハイブリッド電源システム1に適用すると以下の問題が生じる。
【0044】
すでに説明したように、図12において、ツェナーダイオード70Tのツェナー電圧を280Vに設定した場合、蓄電池30の電圧が270V程度であれば蓄電池30の電圧より約10V高い280Vを上限値としてサージ電圧抑制回路が効果的に作動する。すなわちサージ電圧は最大でも10Vの大きさで抑制され、結果として放射ノイズの発生が抑制される。
【0045】
一方、図12において、ツェナー電圧を280Vに設定しておき、蓄電池30が電圧変動して150Vになった場合を想定する。
【0046】
この場合はツェナーダイオード70Tのツェナー電圧が280Vであるので、蓄電池30の電圧150Vから280Vに存在するサージ電圧Vsは特に抑制されることがない。
【0047】
図14はツェナーダイオード70Tでサージ電圧Vsが抑制されないときの電圧波形を説明するための図である。
【0048】
時間t1にターンオフされると、コレクタ51Cとエミッタ51E間の電圧Vc-eは蓄電池30の電圧V1(=150V)+サージ電圧Vsとなる。
【0049】
ところが図14に示すように、ツェナーダイオード70Tのツェナー電圧Vtを280Vに設定しているため、150V〜280V間に存在するサージ電圧Vsは全く抑制できない。言い換えると、130Vの最大電圧Vsmaxをもつサージ電圧による放射ノイズが発生する。この放射ノイズはたとえば周囲にあるラジオに対して有害電波となる。
【0050】
以上のように、蓄電池に大きな電圧変動がある場合、特許文献1に開示されたサージ電圧抑制回路ではターンオフにより発生するサージ電圧を効果的に抑制できない。
【0051】
上記問題に鑑み、本願発明の目的は、電圧変動する蓄電池の上流側とIGBTのコレクタが接続されるスイッチング装置において、IGBTの動作時に発生するリードインダクタンスを起因とするサージ電圧を効果的に抑制するサージ電圧抑制回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0052】
以上のような目的を達成するために、第1発明は、
電圧変動する蓄電池と接続された複数のIGBTを有するサージ電圧抑制回路であって、
前記IGBTのスイッチング回路は、少なくとも2つのIGBTが直列に接続された第1の回路と、前記第1の回路と同様な構成の第2の回路が並列に接続され、
前記第1の回路、第2の回路に設けられたそれぞれのIGBTのコレクタとベース間に、ツェナーダイオードとスイッチング素子が配され、
前記ツェナーダイオードのカソード側が前記IGBTのコレクタに接続され、
前記ツェナーダイオードのアノード側は前記スイッチング素子のコレクタに接続され、
前記スイッチング素子のエミッタは第1の抵抗と第1のダイオードを介して前記IGBTのベースに接続され、かつ、前記スイッチング素子のベースは第2の抵抗と第2のダイオードを介して前記蓄電池の上流側に接続されてなり、
前記IGBTの動作時に、前記IGBTのコレクタ電圧が、前記蓄電池の電圧と前記ツェナーダイオードのツェナー電圧の合計より大きくなると、前記スイッチング素子がオンされることを特徴とする。
【0053】
第2発明は、
電圧変動する蓄電池と接続された複数のIGBTを有するサージ電圧抑制回路であって、
前記IGBTのスイッチング回路は、少なくとも2つのIGBTが直列に接続された第1の回路と、前記第1の回路と同様な構成の第2の回路が並列に接続され、
前記第1の回路、第2の回路に設けられたそれぞれのIGBTのベースと前記蓄電池の上流側端子間にツェナーダイオードが配され、
前記IGBTのコレクタとベース間にスイッチング素子が配され、
前記スイッチング素子のコレクタは前記IGBTのコレクタと接続され、
前記ツェナーダイオードのカソード側が第1の抵抗を介して前記スイッチング素子のベースに接続され、
前記スイッチング素子のエミッタは第1の抵抗と第1のダイオードを介して前記IGBTのベースに接続され、かつ、前記ツェナーダイオードのアノード側は第1のダイオードを介して前記蓄電池の上流側に接続されてなり、
前記IGBTの動作時に、前記IGBTのコレクタ電圧が、前記蓄電池の電圧と前記ツェナーダイオードのツェナー電圧の合計より大きくなると、前記スイッチング素子がオンされることを特徴とする。
【0054】
上記請求項1、2に係わる発明は基本的なサージ電圧抑制の動作は同じであるので、ここでは第1発明における場合を図2を用いて説明する。
【0055】
図2のサージ電圧抑制回路60では、IGBT51の動作に伴い以下の動作が行われる。
【0056】
(1)IGBT51がターンオフする。
【0057】
(2)ターンオフ後、リードインダクタンスL0を起因とするサージ電圧Vsが発生する。
【0058】
(3)サージ電圧の発生によりIGBT51のコレクタ電圧Vcが上昇する。
【0059】
(4)コレクタ電圧Vcが蓄電池30の電圧V1とツェナーダイオード70Tのツェナー電圧Vtの合計電圧値より大きくなると、すなわち、Vc>V1+Vtになると、ツェナーダイオード70Tに逆電流70Tiが流れる。
【0060】
(5)すると、スイッチング80のオン電流がIGBT51のゲート51G側に流れ込み、ゲート51Gはオン状態になる。
【0061】
(6)IGBT51がオン状態になると、コレクタ51Cの電圧Vcは急激に低下する。
【0062】
(7)コレクタ51Cの電圧Vcは蓄電池30の電圧V1とツェナー電圧Vtとの合計以上になることが抑制される。
【0063】
同様に図1のほかのIGBTのサージ電圧抑制回路60、60Aについても同じことがいえる。
【0064】
第3発明は、
電圧変動する蓄電池と接続された複数のIGBTを有するサージ電圧抑制回路であって、
前記IGBTのスイッチング回路は、少なくとも2つのIGBTが直列に接続された第1の回路と、前記第1の回路と同様な構成の第2の回路が並列に接続され、
前記第1の回路、第2の回路に設けられたそれぞれのIGBTのコレクタとベース間に、ツェナーダイオードとスイッチング素子が配され、
前記ツェナーダイオードのカソード側が前記IGBTのコレクタに接続され、
前記ツェナーダイオードのアノード側は前記スイッチング素子のコレクタに接続され、
前記IGBTのコレクタが第1の抵抗とコンデンサを介して前記蓄電池の下流側に接続され、
前記スイッチング素子のエミッタは第2の抵抗と第1のダイオードを介して前記IGBTのベースに接続され、かつ、前記スイッチング素子のベースは第3の抵抗と第2のダイオードを介して前記第1の抵抗の端子と前記コンデンサの端子の間の導体経路に接続されてなり、
前記IGBTの動作時に、前記IGBTのコレクタ電圧が、前記蓄電池の電圧と前記ツェナーダイオードのツェナー電圧の合計より大きくなると、前記スイッチング素子がオンされることを特徴とする。
【0065】
第3発明を図7を用いて説明する。
【0066】
図7のサージ電圧抑制回路60Bでは、IGBT51の動作に伴い以下の動作が行われる。
【0067】
(1)IGBT51がターンオフする。
【0068】
(2)ターンオフ後、リードインダクタンスL0を起因とするサージ電圧Vsが発生する。
【0069】
(3)サージ電圧の発生によりIGBT51のコレクタ電圧Vcが上昇する。
【0070】
(4)コレクタ電圧Vcを平滑回路110で平滑する。平滑点110Aの平滑電圧をVhとする。平滑電圧Vhは近似的にコレクタ51Cに印加された蓄電池30の電圧V1で表される。言い換えれば平滑回路110における蓄電池30の正極とコンデンサ110Cの正極は同電位である。
【0071】
(5)コレクタ電圧Vcが蓄電池30の電圧V1とツェナーダイオード70Tのツェナー電圧Vtの合計電圧値より大きくなると、すなわち、Vc>V1+Vtになると、ツェナーダイオード70Tに逆電流70Tiが流れる。
【0072】
(6)すると、スイッチング80のオン電流がIGBT51のゲート51G側に流れ込み、ゲート51Gはオン状態になる。
【0073】
(7)IGBT51がオン状態になると、コレクタ51Cの電圧Vcは急激に低下する。
【0074】
(8)コレクタ51Cの電圧Vcは蓄電池30の電圧V1とツェナー電圧Vtとの合計以上になることが抑制される。
【0075】
同様に図6のほかのIGBTのサージ電圧抑制回路60Bについても同じことがいえる。
【発明の効果】
【0076】
第1発明乃至第3発明によれば、蓄電池の電圧が大きく変動しても、IGBTの動作時に発生するリードインダクタンスを起因とするサージ電圧を効果的に抑制することができ、有害な放射ノイズを周囲に放射させることがない。
【0077】
また、定格の小さいツェナーダイオードを用いてサージ電圧を抑制できるので、サージ電圧抑制回路の構成を小型にでき、サージ電圧抑制回路の製造コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0078】
以下、本願発明のスイッチング装置のサージ電圧抑制回路の実施例について図を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0079】
図1は、実施例1において本願発明を適用した建設機械用ハイブリッド電源システムの図である。
【0080】
図1において、ハイブリッド電源システム1は、主電源10と副電源50とからなる。主電源10(発電電動機により発生した電力をドライバーを介して供給されるのであるが、等価的に電池11として表現している。)は電池11(電圧V0)を有しており、正極ライン12および負極ライン13を介して副電源50と接続される。副電源50は、ACリンク双方向DC−DCコンバータ50Aとエネルギー蓄積装置である蓄電池30(電圧V1)とで構成される。ACリンク双方向DC−DCコンバータ50Aは、低圧側インバータ50B1と高圧側インバータ50C1と変圧器50Dとで構成される。
【0081】
低圧側インバータ50B1と、高圧側インバータ50C1は、低圧側インバータ50B1の正極と高圧側インバータ50C1の負極とが加極性となるように電気的に直列接続されている。
【0082】
低圧側インバータ50B1は、変圧器50Dのコイル50dにブリッジ接続された4つのIGBT51、52、53、54と、IGBT51、52、53、54それぞれに並列に極性が逆向きに接続されたダイオード151、152、153、154を含んで構成されている。IGBTとは絶縁ゲートバイポーラトランジスタのことで、高速スイッチング用半導体素子として使用される。IGBT51、52、53、54は、ゲートにスイッチング信号が印加されることによりオンされ、コレクタからエミッタに電流が流れる。
【0083】
蓄電池30の正極端子30aは、正極ライン31を介してIGBT51のコレクタに電気的に接続されている。IGBT51のエミッタはIGBT52のコレクタに電気的に接続されている。IGBT52のエミッタは、負極ライン32を介して蓄電池30の負極端子30bに電気的に接続されている。
【0084】
同様に、蓄電池30の正極端子30aは、正極ライン31を介してIGBT53のコレクタに電気的に接続されている。IGBT53のエミッタはIGBT54のコレクタに電気的に接続されている。IGBT54のエミッタは、負極ライン32を介して蓄電池30の負極端子30bに電気的に接続されている。
【0085】
IGBT51のエミッタ(ダイオード151のアノード)およびIGBT52のコレクタ(ダイオード152のカソード)は、変圧器50Dのコイル50dの一方の端子に接続されているとともに、IGBT53のエミッタ(ダイオード153のアノード)およびIGBT54のコレクタ(ダイオード154のカソード)は、変圧器50Dのコイル50dの他方の端子に接続されている。
【0086】
IGBT51、54の組とIGBT52、53の組は交互にオン、オフされる。
【0087】
高圧側インバータ50C1は、変圧器50Dのコイル50eにブリッジ接続された4つのIGBT55、56、57、58と、IGBT55、56、57、58それぞれに並列に極性が逆向きに接続されたダイオード155、156、157、158を含んで構成されている。IGBT51、52、53、54は、ゲートにスイッチング信号が印加されることによりオンされ、コレクタからエミッタに電流が流れる。
【0088】
IGBT55、57のコレクタは、正極ライン12を介して主電源10の電池11に電気的に接続されている。IGBT55のエミッタはIGBT56のコレクタに電気的に接続されている。IGBT57のエミッタはIGBT58のコレクタに電気的に接続されている。IGBT56、58のエミッタは、正極ライン31、つまり低圧側インバータ50BのIGBT51、53のコレクタに電気的に接続されている。
【0089】
IGBT55のエミッタ(ダイオード155のアノード)およびIGBT56のコレクタ(ダイオード156のカソード)は、変圧器50Dのコイル50eの一方の端子に電気的に接続されているとともに、IGBT57のエミッタ(ダイオード157のアノード)およびIGBT58のコレクタ(ダイオード158のカソード)は、変圧器50Dのコイル50eの他方の端子に電気的に接続されている。
【0090】
IGBT55、58の組とIGBT56、57の組は交互にオン、オフされる。
【0091】
IGBT55、57のコレクタが接続される正極ライン12とIGBT56、58のエミッタが接続される正極ライン31の間にはキャパシタ33が電気的に接続されている。キャパシタ33はサージ吸収用であり小容量キャパシタでよい。
【0092】
変圧器50Dは一定値Lの漏れインダクタンス(図1ではコイル50d側にL/2、コイル50e側にL/2となるように分割している)を有している。インバータの高速スイッチング制御を用いて、漏れインダクタンスに一時的に蓄積させた電力を副電源50あるいは主電源10へ伝送する。
【0093】
詳しくは、力行モード(蓄電池30から主電源10への電力伝送時)の場合、低圧側インバータ50B1の位相を高圧側インバータ50C1に対し進み位相とする。その際、変圧器50Dを介して、低圧側インバータ50B1は蓄電池30の電圧V1の約2倍の高電圧の電力を主電源10側に伝送する。
【0094】
回生モード(主電源10から蓄電池30への電力伝送時)の場合、低圧側インバータ50Bの位相を高圧側インバータ50C1に対し遅れ位相とする。その際、変圧器50Dを介して、主電源10は電池11の電圧V0の略半分の低電圧の電力を蓄電池30側に伝送する。
【0095】
また、図1の低圧側インバータ50B1および高圧側インバータ50C1には、それぞれのIGBTの近傍にサージ電圧抑制回路60が設けられる。
【0096】
以上のように、ハイブリッド電源システム1によれば、電動装置の負荷が大幅、急激、かつ頻繁に変動したとしても、副電源50から主電源10の電力容量を補う電力供給を行うことができる。これにより、電動装置を一定の高電圧範囲内で効率よく駆動することができる。一方、副電源50の蓄電池30は大きな電圧変動を伴う。
【0097】
具体的には、ハイブリッド建設機械では、主電源10の電圧V0は600V程度の高電圧に維持される。一方、副電源50の蓄電池30の電圧V1は300V程度以下の低電圧であり、たとえば150V〜270Vの大きな電圧変動範囲で使用される。
【0098】
これから実施例1のサージ電圧抑制回路60の構成およびその作用について詳しく説明する。なお、図1の8個のサージ電圧抑制回路60は構成およびその動作が基本的に同じであるため、以下では低圧側インバータ50B1のIGBT51側のサージ電圧抑制回路を代表させて説明する。
【0099】
(サージ電圧抑制回路60の構成)
図2はIGBT51側のサージ電圧抑制回路60の部分図である。
【0100】
すなわち、スイッチング素子80のエミッタ80Eとツェナーダイオード70Tのアノードが接続される。スイッチング素子80のベース80Bが抵抗90R1およびダイオード100D1を介して蓄電池30の正極端子30aに接続される。スイッチング素子80のコレクタ80Cが抵抗90R2およびダイオード100D2を介してIGBT51のゲート51Gに接続される。ツェナーダイオード70TのカソードがIGBT51のコレクタ51Cに接続される。ツェナーダイオード70TのアノードとIGBT51のゲート51Gが抵抗90R3で接続される。抵抗90R1は電流制限用抵抗であり、正極端子30aとスイッチング素子80の間にあればどこでもよい。また、蓄電池30の正極端子30aとIGBT51のコレクタ51C間にはリードインダクタンスL0が示されている。
【0101】
(サージ電圧抑制回路60の動作)
次ぎにサージ電圧抑制回路60の動作について説明する。
【0102】
図2のサージ電圧抑制回路60では、IGBT51の動作に伴い以下の動作が行われる。
【0103】
(1)IGBT51がターンオフする。
【0104】
(2)ターンオフ後、リードインダクタンスL0を起因とするサージ電圧Vsが発生する。
【0105】
(3)サージ電圧の発生によりIGBT51のコレクタ電圧Vcが上昇する。
【0106】
(4)コレクタ電圧Vcが蓄電池30の電圧V1とツェナーダイオード70Tのツェナー電圧Vtの合計電圧値より大きくなると、すなわち、Vc>V1+Vtになると、ツェナーダイオード70Tに逆電流70Tiが流れる。
【0107】
(5)すると、スイッチング80のオン電流がIGBT51のゲート51G側に流れ込み、ゲート51Gはオン状態になる。
【0108】
(6)IGBT51がオン状態になると、コレクタ51Cの電圧Vcは急激に低下する。
【0109】
(7)コレクタ51Cの電圧Vcは蓄電池30の電圧V1とツェナー電圧Vtとの合計以上になることが抑制される。
【0110】
図3は蓄電池の電圧が150V、ツェナー電圧が10Vの場合のサージ電圧抑制を説明する図である。横軸はIGBTのオン、オフする時間である。縦軸はIGBTのコレクタ51Cとエミッタ51E間の電圧Vc-eである。
【0111】
図3において、蓄電池30の電圧V1は150Vであり、IGBT51が時間t1にターンオフされると、リードインダクタンスL0を起因としたサージ電圧Vsが発生し、コレクタ51Cの電圧VcはV1(=150V)+Vsまで上がろうとする。
【0112】
次ぎにコレクタ51Cの電圧Vcが160V以上になると、ツェナーダイオード70Tに逆電流70Tiが流れるため、IGBT51がオン状態になる。IGBT51がオンするとコレクタ51Cとエミッタ51Eは導通する。そのため電圧Vc-eは急激に低下する。これにより電圧Vc-eは160V以上になることがない。すなわち、サージ電圧Vsは時間t11まで最大10Vの大きさで抑制され、それ以後急激に減衰し時間t12にサージ電圧はゼロとなる。結果としてIGBT51が放射ノイズを放射することがない。時間t2におけるターンオフでも同様である。
【0113】
同様に図1の低圧側インバータ50B1の他の3つのIGBT側のサージ電圧抑制回路60についても同じことがいえる。
【0114】
また図1の高圧側インバータ50C1のサージ電圧抑制回路60の場合は、スイッチング素子80のベース80Bが抵抗90R1およびダイオード100D1を介してキャパシタ33の正極端子33a(=電池11の電圧V0)に接続される。すなわち、サージ電圧抑制回路60の上記(1)〜(7)の動作説明において、蓄電池30の電圧V1をキャパシタ33の電圧、すなわち電池11の電圧V0に置き換えればよい。したがって、高圧側インバータ50C1のサージ電圧抑制回路60の動作は、低圧側インバータ50B1のサージ電圧抑制回路60の動作と基本的に同じであるのでその説明を省略する。
【0115】
このように、実施例1では、それぞれのIGBTのコレクタの電圧Vcと蓄電池30の電圧V1または電池11の電圧V0の相対的な電圧差に基づきサージ電圧を抑制している。
【0116】
以上説明したように、実施例1によれば、電圧変動する蓄電池の正極側電極とIGBTのコレクタ側が接続された高速スイッチング装置において、IGBTの動作時に発生するリードインダクタンスを起因とするサージ電圧を効果的に抑制することができる。
【0117】
また、実施例1のサージ電圧抑制回路は相対的な電圧に基づく抑制回路であるため、回路に使用するツェナーダイオードの定格を小さくすることができる。これにより、サージ電圧抑制回路の小型化および製造コスト低減が可能となる。
【実施例2】
【0118】
次ぎに本願発明の実施例2について説明する。
【0119】
実施例2の場合も、図1のハイブリッド電源システム1に適用した場合について説明する。
【0120】
図1の低圧側インバータ50B1および高圧側インバータ50C1には、それぞれのIGBTの近傍に本願発明のサージ電圧抑制回路60が設けられている。以下では実施例2のサージ電圧抑制回路60をサージ電圧抑制回路60Aと呼ぶ。なお、図1の8個のサージ電圧抑制回路60Aは構成およびその動作が基本的に同じであるため、以下では低圧側インバータ50B1のIGBT51側のサージ電圧抑制回路を代表させて説明する。
【0121】
(サージ電圧抑制回路60Aの構成)
図4はIGBT51側のサージ電圧抑制回路60Aの部分図である。
【0122】
図4において、スイッチング素子80のベース80Bが抵抗90R1およびダイオード100D1を介してツェナーダイオード70Tのカソードに接続される。抵抗90R1は電流制限用抵抗であり、正極端子30aとスイッチング素子80の間にあればどこでもよい。スイッチング素子80のエミッタ80EがIGBT51のコレクタ51Cに接続される。スイッチング素子80のコレクタ80Cが抵抗90R2およびダイオード70D2を介してIGBT51のゲート51Gに接続される。ツェナーダイオード70Tのアノードが蓄電池30の正極端子30aに接続される。また、蓄電池30の正極端子30aとIGBT51のコレクタ51C間にはリードインダクタンスL0が示されている。
【0123】
(サージ電圧抑制回路60Aの動作)
次ぎにサージ電圧抑制回路60Aの動作について説明する。
【0124】
図4のサージ電圧抑制回路60Aでは、IGBT51の動作に伴い以下の動作が行われる。
【0125】
(1)IGBT51がターンオフする。
【0126】
(2)ターンオフ後、リードインダクタンスL0を起因とするサージ電圧Vsが発生する。
【0127】
(3)サージ電圧の発生によりIGBT51のコレクタ電圧Vcが上昇する。
【0128】
(4)コレクタ電圧Vcが蓄電池30の電圧V1とツェナーダイオード70Tのツェナー電圧Vtの合計電圧値より大きくなると、すなわち、Vc>V1+Vtになると、ツェナーダイオード70Tに逆電流70Tiが流れる。
【0129】
(5)すると、スイッチング80のオン電流がIGBT51のゲート51G側に流れ込み、ゲート51Gはオン状態になる。
【0130】
(6)IGBT51がオン状態になると、コレクタ51Cの電圧Vcは急激に低下する。
【0131】
(7)コレクタ51Cの電圧Vcは蓄電池30の電圧V1とツェナー電圧Vtとの合計以上になることが抑制される。
【0132】
図5は蓄電池の電圧150V、ツェナー電圧10Vの場合のサージ電圧抑制を説明する図である。横軸はIGBTのオン、オフする時間である。縦軸はIGBTのコレクタ51Cとエミッタ51E間の電圧Vc-eである。
【0133】
図5において、蓄電池30の電圧V1は150Vであり、時間t1にIGBT51がターンオフされるとサージ電圧Vsが発生し、コレクタ51Cの電圧は150+Vsになろうとする。次ぎにコレクタ電圧Vcが160V以上になると、ツェナーダイオード70Dに逆電流70Tiが流れるため、IGBT51がオン状態になる。IGBT51がオンするとコレクタ51Cとエミッタ51Eは導通する。そのためコレクタ電圧Vcは急激に低下する。これにより電圧Vc-eは160V以上になることがない。すなわち、サージ電圧Vsは時間t11まで最大10Vの大きさで抑制され、それ以後急激に減衰し時間t12にサージ電圧はゼロとなる。結果として結果としてIGBT51が放射ノイズを放射することがない。時間t2におけるターンオフでも同様である。
【0134】
同様に図1の低圧側インバータ50B1の他の3つのIGBT側のサージ電圧抑制回路60Aについても同じことがいえる。
【0135】
また図1の高圧側インバータ50C1のサージ電圧抑制回路60Aの場合は、ツェナーダイオード70Tのアノードがキャパシタ33の正極端子33a(=電池11の電圧V0)に接続される。すなわち、サージ電圧抑制回路60Aの上記(1)〜(7)の動作説明において、蓄電池30の電圧V1をキャパシタ33の電圧、すなわち電池11の電圧V0に置き換えればよい。したがって、高圧側インバータ50C1のサージ電圧抑制回路60Aの動作は、低圧側インバータ50B1のサージ電圧抑制回路60Aの動作と基本的に同じであるのでその説明を省略する。
【0136】
以上説明したように、実施例2によれば、電圧変動する蓄電池の正極電極側とIGBTのコレクタ側が接続される高速スイッチング装置において、IGBTの動作中に生じるサージ電圧を効果的に抑制することができる。
【0137】
また、実施例2のサージ電圧抑制回路は相対的な電圧に基づく抑制回路であるため、回路に使用するツェナーダイオードの定格を小さくすることができる。これにより、サージ電圧抑制回路の小型化および製造コスト低減が可能となる。
【実施例3】
【0138】
実施例1と実施例2は、IGBTのコレクタ電圧Vcと蓄電池30の電圧V1の電圧差を利用する回路構成であった。
【0139】
それに対して実施例3は、IGBTのコレクタ電圧Vcとコレクタ電圧Vcを平滑した電圧Vhの電圧差を利用する回路構成である。
【0140】
実施例3の場合も、ハイブリッド電源システムに適用した場合について説明する。
【0141】
図6は、実施例3において本願発明を適用した建設機械用ハイブリッド電源システムの図である。
【0142】
図1と異なるところは、低圧側インバータ50B1が低圧側インバータ50B2となっており、高圧側インバータ50C1が高圧側インバータ50C2なっていることである。低圧側インバータ50B2および高圧側インバータ50C2のそれぞれのIGBTの近傍には実施例3のサージ電圧抑制回路60Bが設けられている。8個のサージ電圧抑制回路60Bは同じ構造であり、その動作も基本的に同じである。なお、図1の8個のサージ電圧抑制回路60Bは構成およびその動作が基本的に同じであるため、以下では低圧側インバータ50B2のIGBT51側のサージ電圧抑制回路を代表させて説明する。
【0143】
(サージ電圧抑制回路60Bの構成)
図7はIGBT51側のサージ電圧抑制回路60Bの部分図である。
【0144】
すなわち、スイッチング素子80のエミッタ80Eがツェナーダイオード70Tのアノードに接続される。スイッチング素子80のベース80Bが抵抗90R1およびダイオード100D1を介して、平滑回路110の平滑点110Aに接続される。スイッチング素子80のコレクタ80Cが抵抗90R2およびダイオード100D2を介してIGBT51のゲート51Gに接続される。ツェナーダイオード70TのカソードがIGBT51のコレクタ51Cに接続される。抵抗110Rの一端がIGBT51のコレクタ51Cに接続され、他端がコンデンサ110Cの一端に接続される。コンデンサ110Cの他端が蓄電池30の負極側と接続される。抵抗90R1は電流制限用抵抗である。抵抗90R1の配置は、平滑点110Aとスイッチング素子80の間にあればどこでもよい。また、蓄電池30とIGBT51のコレクタ51C間にはリードインダクタンスL0が示されている。
【0145】
(サージ電圧抑制回路60Bの動作)
次ぎに上記サージ電圧抑制回路60Bの動作について説明する。
【0146】
図7のサージ電圧抑制回路60Bでは、IGBT51の動作に伴い以下の動作が行われる。
【0147】
(1)IGBT51がターンオフする。
【0148】
(2)ターンオフ後、リードインダクタンスL0を起因とするサージ電圧Vsが発生する。
【0149】
(3)サージ電圧の発生によりIGBT51のコレクタ電圧Vcが上昇する。
【0150】
(4)コレクタ電圧Vcを平滑回路110で平滑する。平滑点110Aの平滑電圧をVhとする。平滑電圧Vhは近似的にコレクタ51Cに印加された蓄電池30の電圧V1で表される。言い換えれば平滑回路110における蓄電池30の正極とコンデンサ110Cの正極は同電位である。
【0151】
(5)コレクタ電圧Vcが蓄電池30の電圧V1とツェナーダイオード70Tのツェナー電圧Vtの合計電圧値より大きくなると、すなわち、Vc>V1+Vtになると、ツェナーダイオード70Tに逆電流70Tiが流れる。
【0152】
(6)すると、スイッチング80のオン電流がIGBT51のゲート51G側に流れ込み、ゲート51Gはオン状態になる。
【0153】
(7)IGBT51がオン状態になると、コレクタ51Cの電圧Vcは急激に低下する。
【0154】
(8)コレクタ51Cの電圧Vcは蓄電池30の電圧V1とツェナー電圧Vtとの合計以上になることが抑制される。
【0155】
実施例3におけるサージ電圧抑制の態様は、実施例1の図3および実施例2の図5に説明した内容と基本的に同じである。また実施例3で得られる効果も実施例1および実施例2の場合と全く同じである。したがって、これらの説明については省略する。
【0156】
同様に図6の低圧側インバータ50B2の他の3つのIGBT側のサージ電圧抑制回路60Bについても同じことがいえる。
【0157】
また図6の高圧側インバータ50C2のサージ電圧抑制回路60Bの動作は、低圧側インバータ50B2のサージ電圧抑制回路60Bの動作と基本的に同じであるのでその説明を省略する。
【0158】
以上説明したように、本願発明によれば、電圧変動する蓄電池の正極電極側とIGBTのコレクタ側が接続される高速スイッチング装置において、IGBTの動作中に生じるサージ電圧を効果的に抑制することができる。
【0159】
また、本願発明のサージ電圧抑制回路は相対的な電圧に基づく抑制回路であるため、回路に使用するツェナーダイオードの定格を小さくすることができる。これにより、サージ電圧抑制回路の小型化および製造コスト低減が可能となる。
【0160】
なお、上記実施例ではハイブリッド電源システム用高速スイッチング素子としてIGBTを想定したが、パワーMOSFET等の電力用スイッチング素子であってもよい。
【0161】
上記実施例では本願発明を建設機械用ハイブリッド電源システムに適用して説明したが、本願発明は電圧変動の大きい蓄電池に接続されたスイッチング素子のサージ電圧抑制回路として一般的に適用できる。
【0162】
また上記実施例では、IGBTを使用した昇圧器の回路を用いて説明したが、昇圧器以外であってもたとえばモータドライバーであっても同様な作用効果をもたらすことができる。
【0163】
図8は、3相のモータを駆動するドライバー回路にサージ電圧抑制回路を適用した例である。ドライバー回路200は、2つのIGBTが直列に接続された第1の回路201と、第1の回路と同様な第2の回路202および第3の回路203が並列に接続され、前記直列に接続されたIGBTのエミッタとコレクタ間の導体経路にモータの信号線204,205,206が接続されているものである。図中のコイルAAはモータのコイルを表している。
【0164】
図8に示すドライバー回路200の場合であっても、図に示すように本願実施例のサージ電圧抑制回路60を接続すればサージ電圧を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】図1は、実施例1において本願発明を適用した建設機械用ハイブリッド電源システムの図である。
【図2】図2はIGBT51側のサージ電圧抑制回路60の部分図である。
【図3】図3は蓄電池の電圧150V、ツェナー電圧10Vの場合のサージ電圧抑制を説明する図である。
【図4】図4はIGBT51側のサージ電圧抑制回路60Aの部分図である。
【図5】図5は蓄電池の電圧150V、ツェナー電圧10Vの場合のサージ電圧抑制を説明する図である。
【図6】図6は、実施例3において本願発明を適用した建設機械用ハイブリッド電源システムの図である。
【図7】図7はIGBT51側のサージ電圧抑制回路60Bの部分図である。
【図8】図8は3相のモータを駆動するドライバー回路にサージ電圧抑制回路を適用した例である。
【図9】図9は建設機械用ハイブリッド電源システムの構成例である。
【図10】図10は図9のスイッチング素子51近傍の部分回路である。
【図11】図11は図10の部分回路に発生したサージ電圧波形の模式図である。
【図12】図12は特許文献1におけるサージ電圧抑制回路の原理を説明する図である。
【図13】図13はツェナーダイオード70Tでサージ電圧が抑制された場合の電圧波形を説明するための図である。
【図14】図14はツェナーダイオード70Tでサージ電圧が抑制されない場合の電圧波形を説明するための図である。
【符号の説明】
【0166】
V1 蓄電池の電圧
L 変圧器の漏れインダクタンス
L0 リードインダクタンス
10 主電源
30 蓄電池
50 副電源
50A ACリンク双方向DC−DCコンバータ
50B、50B1、50B2 低圧側インバータ
50C、50C1、50C2 高圧側インバータ
60 サージ電圧抑制回路
70T ツェナーダイオード
80 スイッチング素子
110 平滑回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧変動する蓄電池と接続された複数のIGBTを有するサージ電圧抑制回路であって、
前記IGBTのスイッチング回路は、少なくとも2つのIGBTが直列に接続された第1の回路と、前記第1の回路と同様な構成の第2の回路が並列に接続され、
前記第1の回路、第2の回路に設けられたそれぞれのIGBTのコレクタとベース間に、ツェナーダイオードとスイッチング素子が配され、
前記ツェナーダイオードのカソード側が前記IGBTのコレクタに接続され、
前記ツェナーダイオードのアノード側は前記スイッチング素子のコレクタに接続され、
前記スイッチング素子のエミッタは第1の抵抗と第1のダイオードを介して前記IGBTのベースに接続され、かつ、前記スイッチング素子のベースは第2の抵抗と第2のダイオードを介して前記蓄電池の上流側に接続されてなり、
前記IGBTの動作時に、前記IGBTのコレクタ電圧が、前記蓄電池の電圧と前記ツェナーダイオードのツェナー電圧の合計より大きくなると、前記スイッチング素子がオンされることを特徴とするスイッチング装置のサージ電圧抑制回路。
【請求項2】
電圧変動する蓄電池と接続された複数のIGBTを有するサージ電圧抑制回路であって、
前記IGBTのスイッチング回路は、少なくとも2つのIGBTが直列に接続された第1の回路と、前記第1の回路と同様な構成の第2の回路が並列に接続され、
前記第1の回路、第2の回路に設けられたそれぞれのIGBTのベースと前記蓄電池の上流側端子間にツェナーダイオードが配され、
前記IGBTのコレクタとベース間にスイッチング素子が配され、
前記スイッチング素子のコレクタは前記IGBTのコレクタと接続され、
前記ツェナーダイオードのカソード側が第1の抵抗を介して前記スイッチング素子のベースに接続され、
前記スイッチング素子のエミッタは第1の抵抗と第1のダイオードを介して前記IGBTのベースに接続され、かつ、前記ツェナーダイオードのアノード側は第1のダイオードを介して前記蓄電池の上流側に接続されてなり、
前記IGBTの動作時に、前記IGBTのコレクタ電圧が、前記蓄電池の電圧と前記ツェナーダイオードのツェナー電圧の合計より大きくなると、前記スイッチング素子がオンされることを特徴とするスイッチング装置のサージ電圧抑制回路。
【請求項3】
電圧変動する蓄電池と接続された複数のIGBTを有するサージ電圧抑制回路であって、
前記IGBTのスイッチング回路は、少なくとも2つのIGBTが直列に接続された第1の回路と、前記第1の回路と同様な構成の第2の回路が並列に接続され、
前記第1の回路、第2の回路に設けられたそれぞれのIGBTのコレクタとベース間に、ツェナーダイオードとスイッチング素子が配され、
前記ツェナーダイオードのカソード側が前記IGBTのコレクタに接続され、
前記ツェナーダイオードのアノード側は前記スイッチング素子のコレクタに接続され、
前記IGBTのコレクタが第1の抵抗とコンデンサを介して前記蓄電池の下流側に接続され、
前記スイッチング素子のエミッタは第2の抵抗と第1のダイオードを介して前記IGBTのベースに接続され、かつ、前記スイッチング素子のベースは第3の抵抗と第2のダイオードを介して前記第1の抵抗の端子と前記コンデンサの端子の間の導体経路に接続されてなり、
前記IGBTの動作時に、前記IGBTのコレクタ電圧が、前記蓄電池の電圧と前記ツェナーダイオードのツェナー電圧の合計より大きくなると、前記スイッチング素子がオンされることを特徴とするスイッチング装置のサージ電圧抑制回路。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−268305(P2009−268305A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117103(P2008−117103)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】