説明

スイッチ装置

【課題】圧縮変形するステムによりドーム状の反転バネを反転動作させてスイッチングするものにおいて、反転バネの反転動作時の静音化を図ることができるスイッチ装置を提供すること。
【解決手段】押圧により反転動作可能な反転バネと、押圧操作を受けて圧縮変形しながら、反転バネを押圧する操作部とを備え、反転バネの反転動作時に消費されたエネルギー量Emよりも、当該反転バネの反転動作時に操作部の圧縮変形からの復帰動作により消費されたエネルギー量Erが小さくなるように、反転バネと操作部とを構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチ装置に関し、特に、小型の電子機器等に組み込まれるスイッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小型の電子機器に組み込まれるスイッチ装置として、ラバーステムによりドーム状の反転バネを反転動作させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このスイッチ装置のラバーステムは、上面を開放したハウジングの上面を覆うように配置され、円柱形状の操作部と、操作部の外周面から径方向外側に延在する鍔状部とを有している。操作部は、ハウジングに固定された鍔状部により上下方向に昇降可能に支持されており、ハウジング内に配置された反転バネの上部に当接されている。そして、操作部が押圧操作されることで、反転バネが反転動作されてハウジング内の固定接点を導通させている。このとき、操作部がラバー等の軟質弾性材で形成されるため、反転バネの反転動作に加えて操作部自体の押圧操作方向における圧縮変形により操作のストローク長が大きくとられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2918070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のスイッチ装置においては、操作部の押圧操作時に、反転バネの反転動作および操作部の圧縮変形からの復帰動作により、大きな操作音が生じるという問題があった。
【0005】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、圧縮変形するステムによりドーム状の反転バネを反転動作させてスイッチングするものにおいて、反転バネの反転動作時の静音化を図ることができるスイッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスイッチ装置は、押圧により反転動作可能な反転バネと、押圧操作を受けて圧縮変形しながら、前記反転バネを押圧する操作部とを備え、前記反転バネの反転動作時に消費されたエネルギー量よりも、当該反転バネの反転動作時に前記操作部の圧縮変形からの復帰動作により消費されたエネルギー量が小さいことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、反転バネの反転動作時に消費されるエネルギー量よりも、操作部の圧縮変形からの復帰動作により消費されるエネルギー量の方が小さいため、操作部の復帰動作によって反転バネの反転動作に大きな影響を与えることがない。すなわち、操作部の復帰力によって反転バネが余分に押し込まれることがなく、反転バネの反転動作時の静音化を図ることができる。
【0008】
また上記スイッチ装置において、前記反転バネの反転動作時に消費されたエネルギー量を、前記反転バネに作用する荷重をピーク荷重の変位位置からボトム荷重の変位位置まで積分して求め、前記操作部の圧縮変形からの復帰動作により消費されたエネルギー量を、前記操作部に作用する荷重を前記反転バネの前記ピーク荷重と同一荷重の変位位置から前記ボトム荷重と同一荷重の変位位置まで積分して求めることができる。
【0009】
また上記スイッチ装置において、前記操作部は、押圧荷重と圧縮変形による変位量との関係が、操作開始から前記反転バネの前記ピーク荷重と略同一荷重の変位位置まで緩勾配となり、当該変位位置よりも変位量が大きくなると急勾配となる特性を有することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、操作部の圧縮変形からの復帰動作時に消費されるエネルギー量を小さくすることができる。
【0011】
また上記スイッチ装置において、前記操作部は、球形状または頂点部分を前記反転バネ側に向けた円錐形状に形成されたことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、操作部は、操作開始から圧縮変形し易い所定荷重までは反転バネとの接触面積を大きくしながら圧縮変形する。また、操作部は、所定荷重を超えると反転バネとの接触面積を抑えて圧縮変形し難くなる。このため、操作部は、押圧荷重と変位量との関係を、操作開始時から所定荷重までは緩勾配に変化させ、所定荷重から急勾配に変化させることができる。よって、緩勾配から急勾配に変化する変化点を調整することにより、操作部の圧縮変形からの復帰動作時に消費されるエネルギー量を小さくすることができる。なお、変化点は、球形状や円錐形状の径や形成材料の硬度等のパラメータにより簡易に調整することが可能である。
【0013】
また上記スイッチ装置において、前記反転バネは、反転動作可能なドーム部と、前記ドーム部を載置面から浮かせるようにして、前記ドーム部の外周縁部の数か所から外側に突出する複数の脚部とを有することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、複数の脚部によりピーク荷重からボトム荷重までの変位量を大きくして、反転バネの反転動作時に消費されるエネルギー量を大きくすることができる。また、クリック率が小さくならないため、操作フィーリングが悪化することがない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧縮変形するステムによりドーム状の反転バネを反転動作させてスイッチングするものにおいて、反転バネの反転動作時の静音化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るスイッチ装置の実施の形態を示す図であり、スイッチ装置の全体斜視図である。
【図2】本発明に係るスイッチ装置の実施の形態を示す図であり、スイッチ装置の分解斜視図である。
【図3】本発明に係るスイッチ装置の実施の形態を示す図であり、操作部の形状の違いによるステムの荷重−変位特性の説明図である。
【図4】本発明に係るスイッチ装置の実施の形態を示す図であり、反転バネの反転動作時の消費エネルギーの説明図である。
【図5】本発明に係るスイッチ装置の実施の形態を示す図であり、スイッチ装置の押圧操作の説明図である。
【図6】本発明に係るスイッチ装置の実施の形態を示す図であり、ラバー製のステムおよび樹脂製のステムの押圧操作時の挙動の説明図である。
【図7】本発明に係るスイッチ装置の実施の形態を示す図であり、反転バネおよびステムのそれぞれの荷重−変位特性の説明図である。
【図8】本発明に係るステムの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
スイッチ装置においては、比較的弱い力で弾性変形可能な円柱形状の操作部を有するラバー製のステムにより、反転バネを反転動作させてスイッチングするものがある。このスイッチ装置では、反転バネの変位量に加えて操作部の変位量により操作のストローク長が大きくとられている。図6(a)に示すように、ラバー製のステムからなるスイッチ装置では、円柱形状の操作部41が押圧操作されると、押圧操作方向に沿って操作部41が圧縮変形されつつ反転バネ42を撓ませる。そして、操作部41に所定以上の荷重が加えられると、反転バネ42が反転動作すると共に、操作部41が圧縮変形から復帰動作する。この際、甲高い操作音が発生してしまっていた。
【0018】
一方、図6(b)に示すように、弾性が極めて小さい、操作部を有する樹脂製のステムからなるスイッチ装置では、円柱形状の操作部43が押圧操作されると、操作部43が圧縮変形することなく反転バネ42を撓ませる。そして、操作部43に所定以上の荷重が加えられると、反転バネ42が反転動作される。この際、操作部43が反転バネ42に影響を与えることがなく、甲高い操作音が発生することがない。しかしながら、操作部43が押圧操作方向に圧縮変形しない分だけ、操作のストローク長が小さくなる。
【0019】
このようなスイッチ装置では、反転バネおよびステムのそれぞれの荷重−変位特性(荷重−変位曲線)をバネ特性と同様に扱うことが可能である。図7に、反転バネおよびステムのそれぞれの荷重−変位特性を示す。図7(b)においては、C2がラバー製のステムの荷重−変位特性、C3が樹脂製のステムの荷重−変位特性をそれぞれ示す。
【0020】
図7(a)のC1に示すように、反転バネ42は、押し下げにより荷重が徐々に増加し、変位S1でピーク荷重Fpが得られる。その後、反転バネ42は、反転動作により荷重が低下し、変位S2でボトム荷重となる。このとき、反転バネ42の反転動作時に消費されたエネルギーEmは、反転バネ42に作用する荷重を変位S1からS2まで積分して求められる。
【0021】
また、図7(b)のC2に示すように、ラバー製のステムの操作部41は、反転バネ42にてピーク荷重Fpが得られる反転動作直前の変位S3まで押圧操作方向に沿って圧縮変形する。その後、操作部41は、反転バネ42の反転動作と同時に、反転バネ42にてボトム荷重Fbが得られる反転動作直後の変位S4まで復帰動作される。このとき、操作部41の復帰動作時に消費されたエネルギーEr1は、操作部41に作用する荷重を変位S3から変位S4まで積分して求められる。
【0022】
このように、ラバー製のステムからなるスイッチ装置では、反転バネ42の反転動作時に消費されたエネルギーEmよりも操作部41の復帰動作時に消費されたエネルギーEr1が大きくなっている。これは、操作部41の復帰動作時の変位量が反転バネ42の反転動作時の変位量よりも大きくなろうとして、操作部41により反転バネ42が押し込まれることを示す。この場合、反転バネ42は、操作部41からの影響を受けて正常な反転動作とならず甲高い音が発生する。
【0023】
一方、図7(b)のC3に示すように、樹脂製のステムの操作部43は、ラバー製のステムの操作部41と比較して急勾配の特性を有している。したがって、樹脂製のステムからなるスイッチ装置では、反転バネ42の反転動作時に消費されたエネルギーEmよりも、操作部43の復帰動作で(変位S5−変位S6間の変位)消費されたエネルギーEr2が小さくなっている。これは、操作部43が変形していないことから反転動作時に復帰することがなく、操作部43により反転バネ42が押し込まれることがないことを示す。この場合、反転バネ42は、操作部43からの影響を受けることがないため、甲高い音が抑制され操作音が小さくなる。
【0024】
このように、本件出願人は、反転バネの反転動作時に消費されたエネルギーEmと操作部の復帰動作時に消費されたエネルギーErとの大小関係により、操作音の大きさが変化することを発見した。すなわち、本発明の骨子は、エネルギーEm≧エネルギーErの関係を満たして静音化を図ると共に、操作部の操作のストローク長を大きくとることができるスイッチ装置を提供することである。
【0025】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るスイッチ装置の全体斜視図である。図2は、本発明の実施の形態に係るスイッチ装置の分解斜視図である。
【0026】
図1および図2に示すように、スイッチ装置1は、各種電気機器の操作スイッチとして使用されるものであり、中央固定接点部11および周辺固定接点部12が設けられたハウジング2に反転バネ3、4を収容し、ハウジング2との間にステム5を挟み込むようにフレーム6をハウジング2に装着して組み立てられる。このようにして組み立てられたスイッチ装置1は、押圧操作時に反転バネ3、4の反転動作により操作フィーリングが発生されている。
【0027】
ハウジング2は、上面が開放された箱型に形成され、内部に反転バネ3、4が収容される略円筒状の収容部9を有している。収容部9は、ハウジング2の四隅に対応して内壁面に窪みが設けられ、収容された反転バネ3、4を位置決め可能としている。ハウジング2の対向する一対の側壁部13、14には、フレーム6を係止する係止部17が外側面から外方に突出して形成されている。
【0028】
中央固定接点部11および周辺固定接点部12は、導電性の金属板により形成され、インサート成形等によりハウジング2の底壁部18に一体的に配設されている。中央固定接点部11は、ハウジング2の底壁部18の中央に配設され、周辺固定接点部12は、内壁面の窪みに対応した底壁部18の四隅に配設されている。また、中央固定接点部11および周辺固定接点部12には、それぞれ外部端子部21、22が接続されており、各外部端子部21、22は、ハウジング2の側壁部15から外部に延出されている。
【0029】
反転バネ3は、導電性のある金属板、例えば、ステンレス鋼(SUS)等により形成され、反転動作可能なドーム部25と、ドーム部25の外周縁部の四方から外側に突出した4つの脚部26とを有している。4つの脚部26は、底壁部18からドーム部25を浮かせるように傾斜しており、後述するように操作のストローク長を高めている。反転バネ3は、4つの脚部26を周辺固定接点部12上に載置して、ドーム部25の中央部分を中央固定接点部11の上方に離間するように配置される。反転バネ3は、押圧操作による反転動作時に中央固定接点部11と接触され、中央固定接点部11と周辺固定接点部12とを導通する。
【0030】
また、反転バネ3のドーム部25には、中央固定接点部11に向って突出する複数の突起27が形成されており、反転バネ3の押圧操作による反転動作時に、中央固定接点部11と複数の突起27とが接触するようになっている。このように複数の突起27を形成することで、中央固定接点部11と反転バネ3との間に極めて小さい異物があっても複数の突起27の何れかが接触することになり、接触信頼性を向上させるものとなっている。複数の突起27は、本発明の実施の形態では個数を3個としているが、必要に応じて適宜個数を調整してもよいものである。
【0031】
反転バネ4は、反転バネ3と略同一に形成されており、反転バネ3に重ねられた状態で収容部9内に配置される。本実施の形態に係るスイッチ装置1では、反転バネ3、4を重ねて使用することにより、操作時の操作荷重を大きくすることで操作フィーリングが向上されている。なお、本実施の形態においては、複数の反転バネを使用する構成としたが、反転バネは1枚であっても本発明の効果を得ることが可能である。
【0032】
ステム5は、エラストマーやシリコンラバー等の軟質弾性材で形成され、収容部9を覆うようにハウジング2の上面に配置される。ステム5は、反転バネ4の中央部分に当接する球形状の操作部31と、薄肉の連結部32を介して操作部31を昇降可能に支持する厚肉の支持部33とを有している。操作部31は、軟質弾性材で球形状に形成されているため、押圧操作時に反転バネ3、4からの反力により押圧操作方向に沿って圧縮変形しつつ、反転バネ3、4を押し下げるように構成されている。
【0033】
フレーム6は、金属等の弾性板材を折り曲げて形成され、中央部分が円形に開口された上板部35と、上板部35の対向する二辺から下向きに折り曲げられた一対の係合片36とを有している。上板部35は、中央の開口37から操作部31を突出させた状態でステム5を上方から押えている。一対の係合片36は、側壁部13、14から突出した係止部17に係止されて、フレーム6をハウジング2に固定する。
【0034】
このように構成されたスイッチ装置1においては、操作部31が押圧操作されると、反転バネ3、4が反転動作して、周辺固定接点部12と中央固定接点部11とが反転バネ3、4を介して導通される。このとき、反転バネ3、4の反転動作時に消費されたエネルギーEmよりも、操作部31の復帰動作時に消費されたエネルギーErが小さくなり静音化が図られている。以下、図3および図4を参照して、スイッチ装置の静音化構造について説明する。
【0035】
まず、ステムのエネルギーErを減少させる構成について説明する。図3は、本発明の実施の形態に係る操作部の形状の違いによるステムの荷重−変位特性の説明図である。なお、図3においては、図示左側が反転バネの荷重−変位特性、図示中央が円柱形状の操作部を有するステムの荷重−変位特性、図示右側が球形状の操作部を有するステムの荷重−変位特性をそれぞれ示している。なお、反転バネは、本実施の形態に係るハウジングに収容した状態で計測したものである。また、計測器としては、例えば、反転バネやステムを押し込み動作させるための測定プローブと、測定プローブと連動して反転バネやステムの操作時の荷重を測定するためのロードセル等の荷重計と、測定プローブと連動して反転バネやステムの操作時の変位量を測定するためのダイヤルゲージ等の変位計とが適宜組み合わされた装置を使用した。この場合、荷重計と変位計の各出力を合わせることで荷重−変位特性が得られる。今回測定される荷重及び変位の測定範囲に対応できるものであれば、荷重計や変位計はどのような方式であってもよい。また、今回の測定では、測定プローブの反転バネと接触する部位の形状は曲面形状とし、ステムと接触する部位の形状は平面形状として測定している。
【0036】
図3の図示中央に示すように、操作部が円柱形状の場合には、荷重−変位特性が線形的に変化している。操作部は、反転バネにてピーク荷重Fpが得られる反転動作直前まで圧縮変形し、反転バネの反転動作と同時に反転バネにてボトム荷重Fbが得られる変位まで復帰動作される。この場合、操作部の押圧操作方向における圧縮変形により操作のストローク長を長くとることができるものの、反転バネの反転動作時に操作部の復帰動作により消費されたエネルギーErが大きくなる。したがって、円柱形状の操作部を有するステムでは、静音化を図ることができない。
【0037】
一方、図3の図示右側に示すように、操作部が球形状の場合には、荷重−変位特性が二次曲線的に変化している。操作部は、反転バネにてピーク荷重Fpが得られる反転動作直前の変位S7まで徐々に押圧操作方向に圧縮変形する。このとき、操作部は、押圧荷重により徐々に接点バネとの接触面積を広げるように圧縮変形する。操作部は、変形開始から所定の接触面積までは軽荷重で変位し、所定の接触面積以上では剛体に近づいて変位量が減少する。すなわち、荷重−変位特性は、所定荷重までは緩勾配で変化し、所定荷重以上では急勾配に変化する。本実施の形態に係る操作部は、この緩勾配から急勾配に変化する変化点を反転バネのボトム荷重Fbに対応させるように設計されている。
【0038】
操作部は、反転バネの反転動作と同時に、反転バネにてボトム荷重Fbが得られる反転動作直後の変位S8まで復帰動作される。このとき、エネルギーErは、操作部に作用する荷重を変位S7から変位S8まで積分して求められるが、この範囲の荷重−変位特性が急勾配なのでエネルギーErが小さくなる。よって、反転バネの反転動作時に消費されるエネルギーEmよりも、操作部の復帰動作時に消費されるエネルギーErが小さくなる。したがって、本実施の形態に係る操作部31は、球形状に形成されることにより、ステム5のエネルギーErを減少させて静音化が図られている。
【0039】
なお、エネルギーEm≧エネルギーErの関係は、反転バネの反転動作時における荷重−変位特性の勾配よりも、操作部の復帰動作時における荷重−変位特性の勾配が大きくなることで成立する。また、球形状の操作部は、荷重−変位特性を球径とラバー硬度のパラメータにより調整可能なため設計が容易となる。本実施の形態では、荷重−変位特性の緩勾配から急勾配に変化する変化点を反転バネのボトム荷重に対応させたが、エネルギーEm≧エネルギーErが成立する範囲であればボトム荷重と対応していなくともよい。
【0040】
次に、反転バネのエネルギーEmを増加させる構成について説明する。図4は、本実施の形態に係る反転バネの反転動作時の消費エネルギーの説明図である。
【0041】
図4(a)に示すように、エネルギーEmの増加は、ピーク荷重Fpとボトム荷重Fbとの間の変位量を大きく、クリック率を小さく設定することで実現される。しかしながら、クリック率の調整は、操作フィーリングに影響を及ぼすため、ピーク荷重Fpとボトム荷重Fbとの間の変位量の調整によりエネルギーEmが増加される。
【0042】
図4(b)に示すように、本実施の形態においては、反転バネ3に脚部26を設けることにより、ピーク荷重Fpとボトム荷重Fbとの間の変位量を含む総変位量を増加するようにしている。この構成により、破線に示すように、中心を挟んで対向する脚部26の周辺固定接点部12との接触部間の長さを直径とする破線に示す仮想の反転バネ45と同等な変位量を得ることが可能となる。また、反転バネ3のサイズを大きくすることなく、総変位量を増加させることができるため、スイッチ装置1の外形サイズを小型化することができる。したがって、本実施の形態に係る反転バネ3は、脚部26が設けられることにより、エネルギーEmを増加させて静音化が図られている。
【0043】
図5を参照して、本実施の形態に係るスイッチ装置の押圧操作について説明する。図5は、本発明の実施の形態に係るスイッチ装置の押圧操作の説明図である。図5においては、(a)がスイッチ装置の初期状態、(b)がスイッチ装置の押圧状態をそれぞれ示している。
【0044】
図5(a)に示すように、操作部31が押圧されていない初期状態においては、反転バネ3、4の弾性力により操作部31が上方に押し上げられている。この場合、反転バネ3は、脚部26が周辺固定接点部12に接触し、ドーム部25の中央部分が中央固定接点部11から離間している。初期状態から操作部31が押圧されると、操作部31が反転バネ3、4の反力によって押圧操作方向に沿って圧縮変形しつつ反転バネ3、4が徐々に撓み始める。このとき、操作部31は、操作者の指等に接する上端部および反転バネ4に接する下端部の接触面積を広げるように変形する。
【0045】
さらに、反転バネ3、4に加わる荷重がピーク荷重Fp以上になると、反転バネ3、4が反転動作し始める。そして、図5(b)に示すように、反転バネ3、4の反転動作が完了すると、ドーム部25の複数の突起27が設けられている中央部分が中央固定接点部11に接触され、中央固定接点部11と周辺固定接点部12とが反転バネ3、4を介して導通する。このとき、反転バネ3、4に脚部26、29を設けて反転動作時の消費エネルギーEmが増加され、操作部31が球形状に形成されて復帰時の消費エネルギーErが減少されているため、操作音の静音化が図られている。
【0046】
また、ステム5が軟質弾性材で形成されると共に、反転バネ3、4に脚部26、29が設けられるため、操作のストローク長が大きくとられる。このため、スイッチ装置1の操作感触が高められている。そして、操作部31の押圧状態から押圧力を除去すると、反転バネ3、4の復元力により操作部31が押し上げられ、ドーム部25の中央部分と中央固定接点部11とが離間される。
【0047】
以上のように、本実施の形態に係るスイッチ装置1によれば、反転バネ3、4の反転動作時に消費されるエネルギーEmよりも、操作部31の圧縮変形からの復帰動作時に消費されるエネルギーErが小さいため、操作部31の復帰力によって反転バネ3、4が余分に押し込まれることがなく、反転バネ3、4の反転動作時に静音化を図ることができる。また、クリック率を調整することなく、エネルギーEmを増加させることができるため、操作フィーリングが悪化することがない。
【0048】
なお、上記した実施の形態においては、操作部が球形状に形成された構成としたが、この構成に限定されるものではない。操作部は、押圧荷重により圧縮変形して、反転バネに接触した接触面積が変化するものであればよく、例えば、図8に示すように、楕円形状や円錐形状に形成されていてもよい。また、操作部は、反転バネの反転動作時に消費されるエネルギー量よりも、圧縮変形からの復帰動作により消費されるエネルギー量が小さいものであれば、どのような形状をしていてもよい。
【0049】
また、上記した実施の形態においては、反転バネをドーム状に形成する構成としたが、この構成に限定されるものではない。反転バネは、押圧により反転動作可能な構成であれば、どのような形状であってもよい。
【0050】
また、上記した実施の形態においては、反転バネが脚部を有する構成としたが、この構成に限定されるものではない。反転バネは、反転動作時に消費されるエネルギー量が、操作部の圧縮変形からの復帰動作により消費されるエネルギー量よりも大きければ、脚部を有さない構成としてもよい。
【0051】
また、上記した実施の形態においては、操作部が軟質弾性材で形成される構成としたが、この構成に限定されるものではない。操作部は、押圧操作を受けて圧縮変形するものであれば、どのような材料で形成されてもよい。
【0052】
また、上記した実施の形態においては、操作部の荷重−変位特性が2次曲線的に変化する構成について説明したが、この構成に限定されるものではない。操作部は、上記したように反転バネの反転動作時に消費されるエネルギー量よりも、圧縮変形からの復帰動作により消費されるエネルギー量が小さくなるように変化する荷重−変位特性を描くものであればよい。
【0053】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、本発明は、圧縮変形するステムによりドーム状の反転バネを反転動作させてスイッチングするものにおいて、反転バネの反転動作時の静音化を図ることができるという効果を有し、特に、小型の電子機器等に組み込まれるスイッチ装置に有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 スイッチ装置
2 ハウジング
3、4 反転バネ
5 ステム
6 フレーム
9 収容部
11 中央固定接点部
12 周辺固定接点部
21、22 外部端子部
25、28 ドーム部
26、29 脚部
31 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押圧により反転動作可能な反転バネと、
押圧操作を受けて圧縮変形しながら、前記反転バネを押圧する操作部とを備え、
前記反転バネの反転動作時に消費されたエネルギー量よりも、当該反転バネの反転動作時に前記操作部の圧縮変形からの復帰動作により消費されたエネルギー量が小さいことを特徴とするスイッチ装置。
【請求項2】
前記反転バネの反転動作時に消費されたエネルギー量は、前記反転バネに作用する荷重を、ピーク荷重の変位位置からボトム荷重の変位位置まで積分したものであり、
前記操作部の圧縮変形からの復帰動作により消費されたエネルギー量は、前記操作部に作用する荷重を、前記反転バネの前記ピーク荷重と同一荷重の変位位置から前記ボトム荷重と同一荷重の変位位置まで積分したものであることを特徴とする請求項1に記載のスイッチ装置。
【請求項3】
前記操作部は、押圧荷重と圧縮変形による変位量との関係が、操作開始から前記反転バネの前記ピーク荷重と略同一荷重の変位位置まで緩勾配となり、当該変位位置よりも変位量が大きくなると急勾配となる特性を有することを特徴とする請求項2に記載のスイッチ装置。
【請求項4】
前記操作部は、球形状または頂点部分を前記反転バネ側に向けた円錐形状に形成されたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のスイッチ装置。
【請求項5】
前記反転バネは、反転動作可能なドーム部と、前記ドーム部を載置面から浮かせるようにして、前記ドーム部の外周縁部の数か所から外側に突出する複数の脚部とを有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のスイッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−258379(P2011−258379A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131116(P2010−131116)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】